説明

固体電解質およびその製造方法、電極膜接合体、ならびに、燃料電池

【課題】高いイオン伝導性能、低いメタノール拡散性、充分な強度、耐久性を有する固体電解質を提供する。
【解決手段】 主鎖がフッ化炭素であり、イオン伝導度が0.01S/cm以上であり、メタノール拡散係数が4x10-7cm2/s以下である、固体電解質。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体電解質、特にプロトン伝導能を持つ固体電解質、およびその製造方法、ならびに、固体電解質を用いた、電極膜接合体(特に、アルコール類を燃料とする燃料電池用電極膜接合体)および燃料電池(特に、メタノール型燃料電池)に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯機器等の電源として利用できるリチウムイオン電池、燃料電池等が活発に研究されており、その部材であるリチウムイオン伝導材料、プロトン伝導材料といった固体電解質(特に、膜状の固体電解質である固体電解質)についても活発な研究が行われている。
【0003】
携帯機器電源は同一出力であれば小型であることが極めて好ましい。中でもダイレクトメタノール型燃料電池は、改質型燃料電池における改質機、水素燃料の燃料電池における高圧水素タンク等の補機が不要なため、小型化が容易であり、さらに、リチウムイオン電池を上回る小型化の可能性があることから、活発に検討されている。
従来から、プロトン伝導材料として、ナフィオン(登録商標)に代表されるスルホン酸基含有パーフルオロカーボン重合体が用いられている。ナフィオンは、イオン伝導度は高いものの、メタノールのような高極性有機溶媒も透過させるため、ダイレクトメタノール型燃料電池では低出力となってしまう。また、メタノールの透過を抑制するため、燃料として数%程度の低い濃度のメタノール水溶液しか使用することができず、単位重量あるいは単位体積当たりのエネルギー密度が低くなってしまい、小型携帯機器用途に適用できないなどの課題があった。また、電極膜接合体を作製する過程に適した強度、燃料電池として使用した場合の充分な耐久性も希求されている。特に燃料電池では発電時に過酸化水素が発生するために、過酸化水素に対する耐性は重要である。
【0004】
かかる観点から、ナフィオン(登録商標)に代わるプロトン伝導材料を開発する機運が高まり、幾つかの有望な固体電解質が提案されている。例えば、スルホン酸型液晶モノマーを用いることで、分子配列を利用したプロトン輸送方法を提案している(特許文献1)。しかし、一般に主鎖が炭化水素系の高分子では、過酸化水素ラジカルによる耐酸化性が乏しく分解し、膜の性能が劣化してしまう。また、フッ素系イオン交換膜として、α、β、β−トリフルオロスチレンからなる重合体が提案されている(特許文献2)。このようなポリマーでは、主鎖のみの構成であるため水溶液に浸すことで膜が膨潤し、メタノールの透過を抑制できない。また、芳香族環にスルホン基が直結しているため、130℃以上の高温では脱スルホン化が起こる。さらに、DMFC用途として重要な特性であるメタノール拡散性や、電解質膜の強度に関しては、十分な記載がない。
【0005】
【特許文献1】特開2003−55337号公報
【特許文献2】特開2000−138068号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記課題を解決することを目的としたものであって、高いイオン伝導性能、低いメタノール拡散性、充分な強度、耐久性を有する固体電解質を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意検討を行った結果、驚くべきことに、下記手段により上記課題を解決できることを見出し、本発明に至った。
(1)主鎖がフッ化炭素であり、イオン伝導度が0.01S/cm以上であり、メタノール拡散係数が4x10-7cm2/s以下である、固体電解質。
(2)下記一般式(1−1)で表される繰り返し単位、一般式(1−2)で表される繰り返し単位および一般式(1−3)で表される繰り返し単位を含む、(1)に記載の固体電解質。
一般式(1−1)
【化1】

(一般式(1−1)中、R11、R12およびR13は、それぞれ、水素原子、アルキル基またはフッ素原子を表し、L11は、2価の連結基を表し、A1は酸残基を表す。)
一般式(1−2)
【化2】

(一般式(1−2)中、R21、R22およびR23は、それぞれ、水素原子、アルキル基またはフッ素原子を表し、R24は、置換基を表す。)
一般式(1−3)
【化3】

(一般式(1−3)中、R31、R32、R33およびR34は、それぞれ、水素原子、アルキル基またはフッ素原子を表し、L31は、2価の連結基を表す。)
(3)膜状である、(1)または(2)に記載の固体電解質。
(4)下記一般式(2)で表される化合物、下記一般式(3)で表される化合物および下記一般式(4)で表される化合物を重合する工程を含む、(1)〜(3)のいずれかに記載の固体電解質の製造方法。
一般式(2)
【化4】

(一般式(2)中、R21、R22およびR23は、それぞれ、水素原子、アルキル基またはフッ素原子を表し、R24は、置換基を表す。)
一般式(3)
【化5】

(一般式(3)中、R11、R12およびR13は、それぞれ、水素原子、アルキル基またはフッ素原子を表し、L11は、2価の連結基を表し、A3は酸残基に誘導できる基を表す。)
一般式(4)
【化6】

(一般式(4)中、R31、R32、R33およびR34は、それぞれ、水素原子、アルキル基またはフッ素原子を表し、L31は、2価の連結基を表す。)
(5)一般式(5−1)で表される繰り返し単位と、一般式(5−2)で表される繰り返し単位と、一般式(5−3)で表される繰り返し単位とを含み、重量平均分子量が3000以上である重合体を用いることを特徴とする、(1)〜(3)のいずれかに記載の固体電解質の製造方法。
一般式(5−1)
【化7】

(一般式(5−1)中、R11、R12およびR13は、それぞれ、水素原子、アルキル基またはフッ素原子を表し、L11は、2価の連結基を表し、A5は酸残基に誘導できる基を表す。)
一般式(5−2)
【化8】

(一般式(5−2)中、R21、R22およびR23は、それぞれ、水素原子、アルキル基またはフッ素原子を表し、R24は、置換基を表す。)
一般式(5−3)
【化9】

(一般式(5−3)中、R31、R32、R33およびR34は、それぞれ、水素原子、アルキル基またはフッ素原子を表し、L31は、2価の連結基を表す。)
(7)一対の電極と該電極の間に狭持された(1)〜(3)のいずれかに記載の固体電解質を有する、電極膜接合体。
(8)(7)に記載の電極膜接合体を有する燃料電池。
【発明の効果】
【0008】
本発明では、固体電解質を採用することにより、高いイオン伝導性能、低いメタノール拡散性を満たすことができ、これにより膜電極接合体が容易に作製でき、高い耐久性をもつ燃料電池の作製が可能になった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下において、本発明の内容について詳細に説明する。尚、本願明細書において「〜」とはその前後に記載される数値を下限値および上限値として含む意味で使用される。本発明でいう重合には、単一のモノマーを重合する場合のほか、2以上のモノマーを重合する共重合も含む趣旨である。
【0010】
本発明の固体電解質は、イオン伝導度が、0.01S/cm以上、好ましくは0.012S/cm以上、より好ましくは0.015S/cm以上である。
また、本発明の固体電解質は、メタノール拡散係数が、4x10-7cm2/s以下、好ましくは3.5x10-7cm2/s以下、より好ましくは3x10-7cm2/s以下である。
さらに、上記他、本発明の固体電解質は、下記の要件を満たすものが好ましい。
強度は、40Pa以上が好ましく、42Pa以上がより好ましく、45Pa以上がさらに好ましい。
耐久性は、後述する実施例の耐久性試験において定義される過酸化水素耐久性による重量減少、30%以下が好ましく、25%以下がより好ましく、20%以下がさらに好ましい。
尚、本発明の固体電解質の重量平均分子量は、3000〜100,000が好ましい。
【0011】
本発明の固体電解質は安定した吸水率および含水率を持つものが好ましい。また、アルコール類、水およびこれらの混合溶媒に対し、溶解度は実質的に無視できる程度である物が好ましい。また上記溶媒に浸漬した時の重量減少、形態変化も実質的に無視できる程度である物が好ましい。
本発明の固体電解質は、イオン伝導方向は表面から裏面の方向が、それ以外の方向に対し高い方が好ましいが、本質的にはメタノール拡散性との比で決まるため、ランダムであっても良い。
本発明の固体電解質の厚みは10〜300μmが好ましい。イオン抵抗が厚みに比例し、メタノール拡散量が厚みに反比例するため、イオン伝導度が高く、メタノール拡散係数が高い材料では50〜200μmの範囲が特に好ましく、イオン伝導度が低く、メタノール拡散係数が低い材料では20〜100μmの範囲が特に好ましい。イオン伝導度のメタノール拡散係数に対する比を性能指数として表現することができ、この値は大きいほど高い性能を持つことになる。性能指数が同じ材料は厚みの調整によって同一のイオン抵抗とメタノール拡散性をもつ材料とすることができる。
本発明の固体電解質の耐熱温度は、200℃以上であることが好ましく、250℃以上がさらに好ましく、300℃以上が特に好ましい。耐熱温度は例えば1℃/分の測度で加熱したときの重量減少が5%に達した時間として定義できる。この重量減少は、水分等の蒸発分を除いて計算される。
【0012】
本発明の固体電解質は、主鎖がフッ化炭素である。さらに、本発明の固体電解質は、膜面に対し棒状分子群が配向しており、かつ、3次元架橋構造を有することが極めて好ましい。
【0013】
本発明の固体電解質は、下記一般式(1−1)〜(1−3)で表される繰り返し単位を含むことが好ましい。ここで、一般式(1−1)〜(1−3)で表される繰り返し単位の比(モル%)は、一般式(1−1)で表される繰り返し単位1に対し、一般式(1−2)で表される繰り返し単位0.01〜3が好ましく、0.04〜1がより好ましく、一般式(1−3)で表される繰り返し単位0.01〜50が好ましく、0.1〜30がより好ましい。
【0014】
一般式(1−1)
11、R12およびR13は、それぞれ、水素原子、アルキル基またはフッ素原子を表し、フッ素原子が好ましく、R11、R12およびR13のいずれもがフッ素原子であることが好ましい。R11、R12およびR13がアルキル基の場合、炭素原子数1〜3のアルキル基が好ましく、該アルキル基の水素原子がフッ素原子で置換されているものが好ましい。
11は、2価の連結基を表し、脂肪族基および/または芳香族基を含む有機原子団であることが好ましい。より好ましくは、アルキレン基を含む基が好ましく、アルキレン基(より好ましくは炭素数1〜12のアルキレン基、さらに好ましくは炭素数1〜6のアルキレン基)および/または芳香族基(より好ましくは、フェニレン基)からなるもの、ならびに、これらと、−O−、−CO−、−S−、−SO−の1つ以上との組み合わせからなるものである。さらに好ましくは、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ヘキシレン基、オクチレン基、デシレン基、フェニレン(−Ph−)基、−O−(CH2n−(nは、整数であり、好ましくは、1〜6の整数である)、−CH2−Ph−、−CH2CH2OCH2CH2−、−(CH2CH2O)2CH2CH2−、ならびに、これらと−O−、−CO−、−S−、−SO−の1つ以上との組み合わせが挙げられる。これらは、さらに、置換基を有していてもよい。置換基としては、後述する置換基群Tが好ましい。
さらに、L11は、メソゲン基を含んでいてもよい。メソゲン基の好ましい例としては、Dietrich Demus および Horst Zaschkeによる 「Flussige Kristalle in Tabellen II」, 1984年, p.7−18に記載されているものが挙げられる。中でも、下記一般式(6)で表されるものが好ましい。
【0015】
【化10】

【0016】
一般式(6)中、D1およびD2は、それぞれ、2価の連結基または単結合を表す。2価の連結基としては、−CH=CH−、−CH=N−、−N=N−、−N(O)=N−、−COO−、−COS−、−CONH−、−COCH2−、−CH2CH2−、−OCH2−、−CH2NH−、−CH2−、−CO−、−O−、−S−、−NH−、−(CH213−、−CH=CH−COO−、−CH=CH−CO−、−(C≡C)13−、ならびに、これらの組合せ等が好ましく、−CH2−、−CO−、−O−、−CH=CH−、−CH=N−、−N=N−、ならびに、これらの組合せ等がより好ましい。これらの2価の連結基は水素原子が他の置換基で置換された基であってもよい。この場合の置換基としては、後述する置換基群Tが挙げられる。
Eは、下記で表されるものが好ましい。
n6は、1〜3の整数を表す。
【0017】
【化11】

【0018】
1は酸残基を表し、酸残基としてはpKaが5以下の酸残基が好ましく、pkaが2以下であるものがさらに好ましい。具体的には、スルホン酸残基、ホスホン酸残基、カルボン酸残基が好ましく、スルホン酸残基がさらに好ましい。
【0019】
一般式(1−2)
21、R22およびR23は、それぞれ、水素原子、アルキル基またはフッ素原子を表し、一般式(1−1)におけるR11と同義であり、好ましい範囲も同義である。
24は、置換基を表し、脂肪族基および/または芳香族基を含む有機原子団であることが好ましい。より好ましくは、フェニレン基、ナフタレン基、アルキレン基を含む基が好ましく、アルキレン基(より好ましくは炭素数1〜12のアルキレン基、さらに好ましくは炭素数1〜6のアルキレン基)および/または芳香族基(より好ましくは、フェニレン基)からなるもの、ならびに、これらと、−O−、−CO−、−S−、−SO−の1つ以上との組み合わせからなるものである。さらに好ましくは、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ヘキシレン基、オクチレン基、デシレン基、フェニレン(−Ph−)基、−O−(CH2n−(nは、整数であり、好ましくは、1〜6の整数である)、−CH2−Ph−、−CH2CH2OCH2CH2−、−(CH2CH2O)2CH2CH2−、ならびに、これらと−O−、−CO−、−S−、−SO−の1つ以上との組み合わせが挙げられる。これらは、さらに、置換基を有していてもよい。置換基としては、後述する置換基群Tが好ましい。さらに、メソゲンを含んでいてもよく、この場合のメソゲンとしては、一般式(1−1)のL11で述べたものが好ましい。
【0020】
一般式(1−3)
31、R32、R33およびR34は、それぞれ、水素原子、アルキル基またはフッ素原子を表し、一般式(1−1)におけるR11と同義であり、好ましい範囲も同義である。
31は、2価の連結基を表し、脂肪族基および/または芳香族基を含む有機原子団であることが好ましい。より好ましくは、アルキレン基を含む基が好ましく、アルキレン基(より好ましくは炭素数1〜12のアルキレン基、さらに好ましくは炭素数1〜6のアルキレン基)および/または芳香族基(より好ましくは、フェニレン基)からなるもの、ならびに、これらと、−O−、−CO−、−S−、−SO−の1つ以上との組み合わせからなるものである。さらに好ましくは、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ヘキシレン基、オクチレン基、デシレン基、フェニレン(−Ph−)基、−O−(CH2n−(nは、整数であり、好ましくは、1〜6の整数である)、−CH2−Ph−、−CH2CH2OCH2CH2−、−(CH2CH2O)2CH2CH2−、ならびに、これらと−O−、−CO−、−S−、−SO−の1つ以上との組み合わせが挙げられる。これらは、さらに、置換基を有していてもよい。置換基としては、後述する置換基群Tが好ましい。
31はメソゲン基を含んでいてよく、この場合のメソゲン基は、一般式(1−1)におけるL11におけるものと同義であり、好ましい範囲も同義である。
【0021】
本発明の固体電解質は、主鎖がパーフルオロ炭化鎖であることが好ましい。
上記固体電解質は、例えば、下記一般式(2)〜(4)で表される化合物を重合することによって得られる。以下、これらの化合物について説明する。
【0022】
一般式(2)
21、R22およびR23は、それぞれ、水素原子またはフッ素原子を表し、一般式(1−2)におけるR21、R22およびR23と同義であり、好ましい範囲も同義である。
24は、置換基を表し、一般式(1−2)におけるR24と同義であり、好ましい範囲も同義である。
一般式(2)で表される化合物の総炭素数は、5〜100が好ましく、8〜80がより好ましく、10〜50がさらに好ましい。
以下に、一般式(2)で表される化合物の好ましい例を挙げるが、本発明はこれらに限定されるものではことは言うまでもない。
【0023】
【化12】

【0024】
【化13】

【0025】
【化14】

【0026】
【化15】

【0027】
一般式(3)
11、R12およびR13は、それぞれ、水素原子、アルキル基またはフッ素原子を表し、一般式(1−1)にけるR11、R12およびR13と同義であり好ましい範囲も同義である。
11は、2価の連結基を表し、一般式(1−1)にけるL11と同義であり好ましい範囲も同義である。
3は酸残基に誘導できる基を表す。酸残基に誘導できる基は、酸化、加水分解、還元、置換、付加、脱離等の反応によって酸残基に誘導できるものが好ましく、反応による副生成物の除去が容易なものが実用的に好ましく、酸化、加水分解反応が好ましい。具体的には、スルホン酸残基に誘導できる基、ホスホン酸残基に誘導できる基、カルボキシル酸残基に誘導できる基が好ましく、スルホン酸残基に誘導できる基がより好ましい。
【0028】
スルホン酸残基に誘導できる基としては、メルカプト基、アシルメルカプト基、スルホンメルカプト基、ジスルフィド基、スルホン酸塩、アルコシキスルホニル基、アリールオキシスルホニル基、アミノスルホニル基、ハロゲノスルホニル基が好ましく、メルカプト基、アシルメルカプト基、アルコシキスルホニル基、クロロスルホニル基がより好ましい。
【0029】
ホスホン酸残基に誘導できる基としては、アルキルホスホノ基、アリールホスホノ基、ジハロゲノホスホノ基が好ましく、アルキルホスホノ基、ジクロロホスホノ基がより好ましい。
【0030】
カルボキシル酸基に誘導できる基としては、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、ハロゲノカルボニル基、カルバモイル基が好ましく、アルキルカルボニル基、クロロカルボニル基がより好ましい。
一般式(3)で表される化合物の総炭素数は、5〜100が好ましく、8〜80がより好ましく、10〜50がさらに好ましい。
以下に、一般式(3)で表される化合物の好ましい例を挙げるが、本発明はこれらに限定されるものではことは言うまでもない。
【0031】
【化16】

【0032】
一般式(4)
31、R32、R33およびR34は、それぞれ、水素原子、アルキル基またはフッ素原子を表し、一般式(1−3)におけるR31、R32、R33およびR34と同義であり、好ましい範囲も同義である。
31は、2価の連結基を表し、一般式(1−3)におけるL31と同義であり好ましい範囲も同義である。
一般式(4)で表される化合物の総炭素数は、5〜100が好ましく、15〜90がより好ましく、25〜75がさらに好ましい。
以下に、一般式(4)で表される化合物の好ましい例としては、1,4−ビス−(α,β,β)−トリフルオロベンゼン、1,6−ビス−(α,β,β)−トリフルオロビニルナフタレン、4、4‘−ビス−(α,β,β)−トリフルオロビニルビフェニルである。そのほか、下記に挙げる化合物を採用できる。
【0033】
【化17】

【0034】
本発明の固体電解質は、さらに、一般式(5−1)〜(5−3)で表される繰り返し単位を含み、重量平均分子量が3000以上(より好ましくは、5000以上)である重合体を用いて製造することが好ましい。
【0035】
一般式(5−1)
11、R12およびR13は、それぞれ、水素原子、アルキル基またはフッ素原子を表し、一般式(1−1)にけるR11、R12およびR13と同義であり好ましい範囲も同義である。
11は、2価の連結基を表し、一般式(1−1)におけるL11と同義であり好ましい範囲も同義である。
5は酸残基に誘導できる基を表し、一般式A3と同義であり、好ましい範囲も同義である。、
【0036】
一般式(5−2)
21、R22およびR23は、それぞれ、水素原子またはフッ素原子を表し、R24は、置換基を表す。これらは、一般式(1−2)におけるR21、R22、R23およびR24と同義であり、好ましい範囲も同義である。
【0037】
一般式(5−3)
31、R32、R33およびR34は、それぞれ、水素原子、アルキル基またはフッ素原子を表し、L31は、2価の連結基を表す。これらは、一般式(1−3)におけるR31、R32、R33およびR34と同義であり、好ましい範囲も同義である。
【0038】
上記で引用した置換基群Tは、下記のとおりである。
(置換基群T)
1.アルキル基
アルキル基は置換基を有していてもよく、より好ましくは炭素数1〜24、さらに好ましくは炭素数1〜10のアルキル基であり、直鎖状であっても分岐鎖状であってもよい。例えばメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、i−プロピル基、i−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、2−エチルヘキシル基、tert−オクチル基、デシル基、ドデシル基、テトラデシル基、2−ヘキシルデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基、シクロヘキシルメチル基、オクチルシクロヘキシル基等である。
【0039】
2.アリール基
アリール基は置換基を有していても縮環していてもよく、より好ましくは炭素数6〜24のアリール基であり、例えばフェニル基、4−メチルフェニル基、3−シアノフェニル基、2−クロロフェニル基、2−ナフチル基等である。
【0040】
3.複素環基
複素環基は置換基を有していても縮環していてもよく、含窒素複素環基のときは環中の窒素が4級化していてもよい。より好ましくは炭素数2〜24の複素環基であり、例えば4−ピリジル基、2−ピリジル基、1−オクチルピリジニウム−4−イル基、2−ピリミジル基、2−イミダゾリル基、2−チアゾリル基等である。
【0041】
4.アルコキシ基
より好ましくは炭素数1〜24のアルコキシ基であり、例えばメトキシ基、エトキシ基、ブトキシ基、オクチルオキシ基、メトキシエトキシ基、メトキシペンタ(エチルオキシ)基、アクリロイルオキシエトキシ基、ペンタフルオロプロポキシ基等である。
【0042】
5.アシルオキシ基
より好ましくは炭素数1〜24のアシルオキシ基であり、例えばアセチルオキシ基、ベンゾイルオキシ基等である。
【0043】
6.アルコキシカルボニル基
より好ましくは炭素数2〜24のアルコキシカルボニル基であり、例えばメトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基等である。
【0044】
7.シアノ基
8.フルオロ基
9.アルコキシカルボニル基
【0045】
固体電解質の他の成分
本発明の固体電解質には、例えば、膜としたときの膜特性を向上させるため、必要に応じて、酸化防止剤、繊維、微粒子、吸水剤、可塑剤、相溶剤等を添加してもよい。これら添加剤の含有量は固体電解質の全体量に対し1〜30質量%の範囲が好ましい。
【0046】
酸化防止剤としては、(ヒンダード)フェノール系、一価ないし二価のイオウ系、三価のリン系、ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、ヒンダードアミン系、シアノアクリレート系、サリチレート系、オキザリックアシッドアニリド系の各化合物が好ましい例として挙げられる。具体的には特開平8−53614号公報、特開平10−101873号公報、特開平11−114430号公報、特開2003−151346号公報に記載の化合物が挙げられる。
【0047】
繊維としては、パーフルオロカーボン繊維、セルロース繊維、ガラス繊維、ポリエチレン繊維等が好ましい例として挙げられ、具体的には特開平10−312815号公報、特開2000−231928号公報、特開2001−307545号公報、特開2003−317748号公報、特開2004−63430号公報、特開2004−107461号公報に記載の繊維が挙げられる。
【0048】
微粒子としては、シリカ、アルミナ、酸化チタン、酸化ジルコニウム等からなる微粒子が好ましい例として挙げられ、具体的には特開平6−111834号公報、特開2003−178777号公報、特開2004−217921号公報に記載の微粒子が挙げられる。
【0049】
吸水剤(親水性物質)としては、架橋ポリアクリル酸塩、デンプン−アクリル酸塩、ポバール、ポリアクリロニトリル、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ポリグリコールジアルキルエーテル、ポリグリコールジアルキルエステル、シリカゲル、合成ゼオライト、アルミナゲル、チタニアゲル、ジルコニアゲル、イットリアゲルが好ましい例として挙げられ、具体的には特開平7−135003号公報、特開平8−20716号公報、特開平9−251857号公報に記載の吸水剤が挙げられる。
【0050】
可塑剤としては、リン酸エステル系化合物、フタル酸エステル系化合物、脂肪族一塩基酸エステル系化合物、脂肪族二塩基酸エステル系化合物、二価アルコールエステル系化合物、オキシ酸エステル系化合物、塩素化パラフィン、アルキルナフタレン系化合物、スルホンアルキルアミド系化合物、オリゴエーテル類、カーボネート類、芳香族ニトリル類が好ましい例として挙げられ、具体的には特開2003−197030号公報、特開2003−288916号公報、特開2003−317539号公報に記載の可塑剤が挙げられる。
【0051】
さらに本発明の固体電解質には、(1)膜の機械的強度を高める目的、および(2)膜中の酸濃度を高める目的で種々の高分子化合物を含有させてもよい。
(1)機械的強度を高める目的には、分子量10,000〜1,000,000程度で本発明の固体電解質と相溶性のよい高分子化合物が適する。例えば、パーフッ素化ポリマー、ポリスチレン、ポリエチレングリコール、ポリオキセタン、ポリ(メタ)アクリレート、ポリエーテルケトン、ポリエーテルスルホン、ポリ、およびこれらの2以上の重合体が好ましく、含有量としては全体に対し1〜30質量%の範囲が好ましい。
相溶剤としては、沸点または昇華点が250℃以上のものが好ましく、300℃以上のものがさらに好ましい。具体的には、後述する固体電解質の製造方法の第一の反応工程の溶媒で説明するものを好ましく用いることができる。
(2)酸濃度を高める目的には、ナフィオンに代表されるパーフルオロカーボンスルホン酸ポリマー、側鎖にリン酸基を有するポリ(メタ)アクリレート、スルホン化ポリエーテルエーテルケトン、スルホン化ポリエーテルスルホン、スルホン化ポリスルホン、スルホン化ポリベンズイミダゾールなどの耐熱芳香族高分子のスルホン化物などのプトロン酸部位を有する高分子化合物などが好ましく、含有量としては全体に対し1〜30質量%の範囲が好ましい。
【0052】
さらに、本発明の固体電解質を燃料電池に用いる場合、アノード燃料とカソード燃料の酸化還元反応を促進させる活性金属触媒を添加してもよい。これにより、固体電解質中に浸透した燃料が他方極に到達すること無く固体電解質中で消費され、クロスオーバーを防ぐことができる。用いられる活性金属種は、電極触媒として機能するものであれば制限は無いが、白金または白金を基にした合金が適している。
【0053】
固体電解質の製造方法
以下に本発明の固体電解質の好ましい製造方法を述べる。なお、本発明の固体電解質の製造方法が以下に限定されるものでないことはいうまでもない。
本発明の固体電解質は、例えば、第一の反応工程、第二の反応工程、製膜工程、架橋工程の四段階を経て作製することができる。これらの工程は順序を変更しても良い。以下、これらについて詳細に説明する。
【0054】
第一の反応工程では、例えば、一般式(2)〜(4)で表される重合性化合物を重合反応によって高分子化する。
第一の反応工程での反応方式は、重合するモノマーの反応性によって適宜定めることができる。製膜工程では、これ以前の工程で得られた高分子の溶液あるいは分散液を流延、あるいは塗布し、溶媒を除去、乾燥する操作を含む。架橋工程では製膜工程で得られた膜を必要に応じて調湿した環境での加熱処理、放射線(可視光、紫外線、γ線、電子線等)照射処理を行い、架橋反応を進行させる。 重合反応工程では一般式(2)〜(4)で表される重合性化合物の反応性によってラジカル重合、カチオン重合、アニオン重合、配位重合等いずれの反応様式を採用してもよい。各々の重合法の詳細は一般的な方法(「新実験科学講座」19−1巻、p.27−115、(1978)丸善株式会社)を適用することができる。
【0055】
重合反応工程における重合開始剤は重合様式によって適宜選択できる。ラジカル重合であれば、熱重合開始剤の好ましい例として2,2'−アゾビス(イソブチロニトリル)、2,2'−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、ジメチル2,2'−アゾビス(2−メチルプロピオネート)等のアゾ系開始剤、ベンゾイルパーオキシド等の過酸化物系開始剤等が挙げられ、光重合開始剤の好ましい例としては、α−カルボニル化合物、アシロインエーテル、α−炭化水素置換芳香族アシロイン化合物、多核キノン化合物、トリアリールイミダゾールダイマーとp−アミノフェニルケトンとの組み合わせ、アクリジンおよびフェナジン化合物およびオキサジアゾール化合物が挙げられる。カチオン重合であれば、プロトン酸(好ましくは過塩素酸、フロオロ硫酸、トリフルオロメタンスルホン酸、リンモリブデン酸、タングストリン酸等)、超強酸エステル(トリフルオロメタンスルホン酸メチルエステル、フルオロ硫酸メチルエステル等)、超強酸無水物(トリフルオロメタンスルホン酸無水物、フルオロ硫酸無水物等)、ルイス酸(三フッ化ホウ素(エーテル錯体を含む)、五フッ化アンチモン、5フッ化リン、塩化亜鉛、塩化アルミニウム等)、オキソニウム塩(トリエチルオキソニウムテトラフルオロボレート等)、ヨードニウム塩(フェニルヨードニウムヘキサフルオロフォスフェート等)、スルホニウム塩(ジフェニルメチルスルホニウムテトラフルオロボレート、トリフェニルスルホニウムヘキサフルオロホスフェート等)を用いることができる。アニオン重合では、アルキルリチウム、ナトリウムナフタレン、グリニャール試薬、アルカリ金属アルコキシド等の有機金属化合物が好ましい。
【0056】
重合反応工程における溶媒としては重合を禁止するものでなければ特に制限はないが、好ましくはカーボネート化合物(エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等)、複素環化合物(3−メチル−2−オキサゾリジノン、N−メチルピロリドン等)、環状エーテル類(ジオキサン、テトラヒドロフラン等)、鎖状エーテル類(ジエチルエーテル、エチレングリコールジアルキルエーテル、プロピレングリコールジアルキルエーテル、ポリエチレングリコールジアルキルエーテル、ポリプロピレングリコールジアルキルエーテル等)、アルコール類(メタノール、エタノール、イソプロパノール、エチレングリコールモノアルキルエーテル、プロピレングリコールモノアルキルエーテル、ポリエチレングリコールモノアルキルエーテル、ポリプロピレングリコールモノアルキルエーテル等)、多価アルコール類(エチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、グリセリン等)、ニトリル化合物(アセトニトリル、グルタロジニトリル、メトキシアセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリル等)、エステル類(カルボン酸エステル、リン酸エステル、ホスホン酸エステル等)、非プロトン極性物質(ジメチルスルホキシド、スルホラン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等)、非極性溶媒(トルエン、キシレン等)、塩素系溶媒(メチレンクロリド、エチレンクロリド等)、水等を用いることができる。中でも、エタノール、イソプピルアルコール、フッ素置換アルコール等のアルコール類、アセトニトリル、グルタロジニトリル、メトキシアセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル化合物、ジオキサン、テトラヒドロフラン等の環状エーテル類等が特に好ましい。これらは単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0057】
重合反応工程の反応温度は重合反応に応じて適切な温度を選択することが好ましい。ラジカル重合であれば、好ましくは20℃〜200℃であり、より好ましくは40℃〜150℃であり、さらに好ましくは50℃〜100℃である。カチオン重合およびアニオン重合であれば、好ましくは−200℃〜150℃であり、より好ましくは−150℃〜100℃であり、さらに好ましくは−100℃〜50℃である。配位重合であれば、好ましくは−50℃〜200℃であり、より好ましくは0℃〜120℃であり、さらに好ましくは20℃〜80℃である。
【0058】
重合反応工程では停止操作を行なうことが好ましく、これは冷却、希釈、重合禁止剤(フェノール類、アルコール類、水、酸素、アミン類、塩基性化合物、酸性化合物)の添加によって行なうことができる。重合反応工程の後に生成した高分子を取り出してもよく、さらに精製工程を追加してもよい。
第一の反応工程では停止操作を行なうことが好ましく、これは冷却、希釈、重合禁止剤(フェノール類、アルコール類、水、酸素、アミン類、塩基性化合物、酸性化合物)の添加によって行なうことができる。第一の反応工程の後に生成した高分子を取り出してもよく、さらに精製工程を追加してもよい。
【0059】
本発明では、第一の反応工程で、高分子主鎖を架橋する添加剤を加えることで、3次元高密度架橋する。この場合の添加剤は、例えば、一般式(4)で表される化合物であり、好ましくは、ラジカル重合する、ビニル基またはスチレン基を芳香族環上に2つ以上有しているものである。
【0060】
(第二の反応工程)
第二の反応工程では、例えば、一般式(3)で表される化合物の酸残基に誘導できる基(A3)を酸残基に誘導する。この反応はA3の構造に応じて適宜選択することができ、酸化反応であっても、置換反応であっても、加水分解反応であってもよい。
酸残基に誘導できる基A3は、酸性水溶液による反応によって酸残基に誘導できるものが好ましい。
【0061】
酸残基の塩としては、アルカリ金属塩、アルキルアンモニウム塩が好ましい例として挙げられ、Li、Na、K、Cs、NMe4またはMBu4の塩が好ましく、Li、NMe4の塩がより好ましい。
【0062】
(製膜工程)
製膜工程の溶媒は第1の反応工程で生じた高分子が溶解するものが好ましく、第1の反応工程に用いる溶媒として例示したものから選択することができるが、第2の反応工程の結果生じた高分子を溶解するものが好ましいため、アルコール類(メタノール、エタノール、イソプロパノール、エチレングリコールモノアルキルエーテル、プロピレングリコールモノアルキルエーテル、ポリエチレングリコールモノアルキルエーテル、ポリプロピレングリコールモノアルキルエーテル等)、多価アルコール類(エチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、グリセリン等)がより好ましい。
【0063】
製膜工程の反応温度は反応速度に関連し、酸前駆体の反応性と選択した酸の種類および量に応じて選択することができる。好ましくは−20℃〜150℃であり、より好ましくは20℃〜120℃であり、さらに好ましくは50℃〜100℃である。
【0064】
塩交換反応を適用する場合、ブレンステッド酸を用いることが好ましく、さらに有機または無機のプロトン型の強酸を用いることが好ましい。プロトン型の強酸としては塩酸、硫酸、ヘキサフルオロリン酸、過塩素酸、テトラフルオロ硼酸、ヘキサフルオロ砒素酸、臭化水素酸、スルホン酸類(例えば炭素数1〜15のスルホン酸類であり、ベンゼンスルホン酸、トルエンスルホン酸、ヘキサフルオロベンゼンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、ドデシルスルホン酸等)、フッ化カルボン酸(トリフルオロ酢酸等)、またはナフィオン(登録商標)に代表されるパーフルオロカーボンスルホン酸ポリマー、ポリスチレンスルホン酸等のプロトン酸部位を有する高分子化合物が挙げられる。これらを2種以上併用することも可能である。
【0065】
ブレンステッド酸を用いる場合、液体、気体、溶液の形態で用いることもできるが、樹脂状の酸を用いて塩交換を行なうこともできる。この場合は樹脂上の酸を円筒状の容器(カラム等)に充填して用いることが好ましい。
【0066】
上記製膜工程においては、原料となる高分子化合物を融点より高い温度に保持した液体、あるいは溶媒を用いて溶解した液体を用いて、押し出し成型によって製膜しても良いし、これらの液体をキャスト、あるいは塗布して製膜しても良い。これらの操作はカレンダーロール、キャストロール等のロール或いはTダイを用いたフィルム成形機で行なうことができ、プレス機器を用いたプレス成形とすることもできる。さらに延伸工程を追加し、膜厚制御、膜特性改良を行ってもよい。
【0067】
(洗浄工程および乾燥工程)
製膜工程または第二の反応工程後に、不要な成分を除去することを目的に、水、有機溶媒等による洗浄工程および乾燥工程を追加しても良い。
【0068】
第1の反応工程、製膜工程および第2の反応工程の順序は、変更してもよい。
反応液を塗布する際の支持体は特に限定されないが、好ましい例としてはガラス基板、金属基板、高分子フィルム、反射板等を挙げることができる。高分子フィルムとしては、トリアセチルセルロース(TAC)等のセルロース系高分子フィルム、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)等のエステル系高分子フィルム、ポリトリフルオロエチレン(PTFE)等のフッ素系高分子フィルム、ポリイミドフィルム等が挙げられる。
塗布方式は公知の方法でよく、例えばカーテンコーティング法、押し出しコーティング法、ロールコーティング法、スピンコーティング法、ディップコーティング法、バーコーティング法、スプレーコーティング法、スライドコーティング法、印刷コーティング法等を用いることができる。
【0069】
塗布工程の乾燥温度は乾燥速度に関連し、材料の性質等に応じて選択することができる。好ましくは−20℃〜150℃であり、より好ましくは20℃〜120℃であり、さらに好ましくは50℃〜100℃である。乾燥時間は短時間であるほうが生産性の観点から好ましいが、ある程度の時間を確保することにより気泡や表面の凹凸等の欠陥の発生をより効果的に防ぐことができる。従って、乾燥時間は1分〜48時間が好ましく、5分〜10時間がさらに好ましい。この工程は湿度を調整して行なってもよい。
【0070】
塗布工程後に得られる架橋処理を行なっていない固体電解質は、板状、膜状が好ましく、厚さは10〜500μmが好ましく、25〜150μmが特に好ましい。成形した時点で板状、膜状であっても良いし、バルク体に成形した後に、切断して板状、膜状に加工することもできる。
【0071】
(メソゲンの配向工程)
本発明では、上記製膜工程の後、架橋工程の前に、メソゲンの配向工程を追加してもよい。
配向を促進させるために、様々な手法を採用することができる。例えば、前述の支持体等に事前に配向処理を施すことができる。配向処理としては種々の一般的な方法を採用できるが、好ましくは各種ポリイミド系配向膜、ポリビニルアルコール系配向膜等の液晶配向層を支持体等の上に設け、ラビング等の配向処理行う方法、支持体上のゾル−ゲル組成物に磁場や電場等を印加する方法、加熱する方法等を用いることができる。
【0072】
本発明の材料の配向状態は、偏光顕微鏡により光学異方性を観察することにより確認することができる。観察方向は任意でよいが、クロスニコル下でサンプルを回転させ、明暗が切り替わる部分があれば異方性があるといえる。配向状態は異方性を示す状態であれば特に制限はない。液晶相と認識できるテクスチャーが観察される場合は相を特定することができ、リオトロピック液晶相でもサーモトロピック液晶相でもよい。配向状態はリオトロピック液晶相の場合はヘキサゴナル相、キュービック相、ラメラ相、スポンジ相、ミセル相が好ましく、特に室温でラメラ相もしくはスポンジ相を示すことが好ましい。サーモトロピック液晶相ではネマチック相、スメクチック相、クリスタル相、カラムナー相およびコレステリック相が好ましく、特に室温でスメクチック相、クリスタル相を示すことが好ましい。また、これらの相における配向が固体状態で保持されている配向状態も好ましい。ここでいう異方性とは分子の方向ベクトルが等方的ではない状態をいう。
【0073】
さらに、本発明の固体電解質を、多孔質基材の細孔に含浸させて膜を形成してもよい。細孔を有する基材上に本発明のゾル−ゲル反応液を塗布含浸させるか、基材をゾル−ゲル反応液に浸漬し、細孔内に固体電解質を満たして膜を形成してもよい。細孔を有する基材の好ましい例としては、多孔性ポリプロピレン、多孔性ポリテトラフルオロエチレン、多孔性架橋型耐熱性ポリエチレン、多孔性ポリイミドなどが挙げられる。また本発明の固体電解質を繊維状に加工し、その空隙を別の高分子等を満たして膜を形成することもできる。
【0074】
(架橋工程)
架橋工程では製膜工程で得られた膜を必要に応じて調湿した環境での加熱処理、放射線(可視光、紫外線、γ線、電子線等)照射処理を行い、架橋反応を進行させる。本発明の方法ではこのように、膜化してから架橋することができる点で極めて有意である。すなわち、膜化してから架橋することにより、メタノール拡散性を低下させることが極めて容易となる。
塗布工程後に得られる架橋処理を行なっていない固体電解質の厚さは10〜500μmが好ましく、25〜200μmが特に好ましい。成形した時点で膜状であっても良いし、バルク体に成形した後に、切断して膜状に加工することもできる。
【0075】
加熱処理による架橋を行なう場合、より高温にすることにより、処理が短時間で終了し生産性の観点からの好ましい一方、一定温度以下にすることにより、材料が分解してしまうのをより効果的に防ぐことができる。従って、加熱温度は、材料の性質に応じて選択されるが、好ましくは40℃〜300℃であり、より好ましくは80℃〜250℃であり、さらに好ましくは100℃〜200℃である。
加熱時間は短時間であるほうが生産性の観点から好ましいが、より十分な架橋構造を得るためには、一定時間以上を確保することが好ましい。このため、加熱時間は1分〜24時間が好ましく、5分〜10時間がさらに好ましい。
【0076】
放射線処理による架橋を行なう場合、照射エネルギー量は大きいほうが、処理が短時間で終了し生産性の観点からの好ましいが、あまり大きいと照射設備のコストが高くなる。従って、照射エネルギー量は好ましくは1000W/cm2〜0.1W/cm2であり、より好ましくは100W/cm2〜0.5W/cm2であり、さらに好ましくは30W/cm2〜1W/cm2である。
処理時間は短時間であるほうが生産性の観点から好ましいが、より十分な架橋構造を得るためには、一定時間以上を確保することが好ましい。このため、処理時間は0.01分〜10時間が好ましく、0.1分〜5時間がさらに好ましく、1分〜2時間が特に好ましい。
【0077】
架橋はラジカル重合、アニオン重合、カチオン重合反応、光二量化反応、熱反応のいずれの反応様式を用いてもよい。重合反応を用いる場合には第1の反応工程で記述した重合開始剤をあらかじめ添加しておくことが好ましい。ラジカル重合反応では、添加剤として、アルキル基、アリール基およびヘテロ環基を介し、2つ以上の重合反応性置換基を有しているものが好ましい。重合性基としては、ビニル基およびスチレン基が好ましい。好ましい架橋剤としては、ジビニルベンゼン、ビストリフルオロベンゼンが好ましい。光二量化反応としてはクマリン誘導体、桂皮酸誘導体、カルコン誘導体、アントラセン誘導体、チミン誘導体等を用いることができ、熱反応としては、水酸基、マレイミド誘導体、ディールス−アルダー反応に用いることができるジエンおよびジエノファイルの組み合わせ等を用いることができる。特に水酸基の縮合を用いる方法は水酸記事新の導入容易性、耐薬品性の観点から特に好ましい。
【0078】
さらに製膜工程または第二の反応工程を経た後に表面処理を行なっても良い。表面処理としては、粗面処理、表面切削、除去、コーティング処理を行なってもよく、これらは電極との密着を改良できることがある。
【0079】
燃料電池
本発明の固体電解質は、電極膜接合体(Membrane and Electrode Assembly)(以下「MEA」という)および、該電極膜接合体を用いた燃料電池に用いることができる。
図1は本発明の電極膜接合体の断面概略図の一例を示したものである。MEA10は、膜状の固体電解質11と、それを挟んで対向するアノード電極12及カソード電極13を備える。
アノード電極12とカソード電極13は、多孔質導電シート(例えばカーボンペーパー)12a、13aと触媒層12b、13bからなる。触媒層12b、13bは、白金粒子等の触媒金属を担持したカーボン粒子(例えばケッチェンブラック、アセチレンブラック、カーボンナノチューブ等)をプロトン伝導材料(例えばナフィオン等)に分散させた分散物からなる。触媒層12b、13bを固体電解質11に密着させるために、多孔質導電シート12a、13aに触媒層12b、13bを塗設したものを、固体電解質11にホットプレス法(好ましくは120〜130℃、2〜100 kg/cm2)で圧着するか、適当な支持体に触媒層12b、13bを塗設したものを、固体電解質11に転写しながら圧着した後、多孔質導電シート12a、13aで挟み込む方法を一般に用いる。
【0080】
図2は燃料電池構造の一例を示す。燃料電池はMEA10と、MEA10を挟持する一対のセパレータ21、22と、セパレータ21、22に取り付けられたステンレスネットからなる集電体17およびパッキン14とを有する。アノード極側のセパレータ21にはアノード極側開口部15が設けられ、カソード極側のセパレータ22にはカソード極側開口16設けられている。アノード極側開口部15からは、水素、アルコール類(メタノール等)等のガス燃料またはアルコール水溶液等の液体燃料が供給され、カソード極側開口部16からは、酸素ガス、空気等の酸化剤ガスが供給される。
【0081】
アノード電極およびカソード電極には、カーボン材料に白金などの活性金属粒子を担持した触媒が用いられる。通常用いられる活性金属の粒子サイズは、2〜10nmの範囲であり、粒子サイズが小さい程単位質量当りの表面積が大きくなるので活性が高まり有利であるが、小さすぎると凝集させずに分散させることが難しくなり、2nm程度が限度といわれている。
【0082】
水素−酸素系燃料電池における活性分極はアノード極(水素極)に比べ、カソード極(空気極)が大きい。これは、アノード極に比べ、カソード極の反応(酸素の還元)が遅いためである。酸素極の活性向上を目的として、Pt−Cr、Pt−Ni、Pt−Co、Pt−Cu、Pt−Feなどのさまざまな白金基二元金属を用いることができる。アノード燃料にメタノール水溶液を用いる直接メタノール燃料電池においては、メタノールの酸化過程で生じるCOによる触媒被毒を抑制することが重要である。この目的のために、Pt−Ru、Pt−Fe、Pt−Ni、Pt−Co、Pt−Moなどの白金基二元金属、Pt−Ru−Mo、Pt−Ru−W、Pt−Ru−Co、Pt−Ru−Fe、Pt−Ru−Ni、Pt−Ru−Cu、Pt−Ru−Sn、Pt−Ru−Auなどの白金基三元金属を用いることができる。
【0083】
活性金属を担持させるカーボン材料としては、アセチレンブラック、Vulcan XC-72、ケチェンブラック、カーボンナノホーン(CNH)、カーボンナノチューブ(CNT)が好ましく用いられる。
【0084】
触媒層の機能は、(1)燃料を活性金属に輸送すること、(2)燃料の酸化(アノード極)、還元(カソード極)反応の場を提供すること、(3)酸化還元により生じた電子を集電体に伝達すること、(4)反応により生じたプロトンを固体電解質に輸送すること、である。(1)のために触媒層は、液体および気体燃料が奥まで透過できる多孔質性であることが必要である。(2)は上記で述べた活性金属触媒が、(3)は同じく上記で述べたカーボン材料が担う。(4)の機能を果たすために、触媒層にプロトン伝導材料を混在させる。
【0085】
触媒層のプロトン伝導材料としては、プロトン供与基を持った固体であれば制限はないが、固体電解質に用いられる酸残基を有する高分子化合物(例えばナフィオンに代表されるパーフルオロカーボンスルホン酸、側鎖リン酸基ポリ(メタ)アクリレート、スルホン化ポリエーテルエーテルケトン、スルホン化ポリベンズイミダゾールなどの耐熱性芳香族高分子のスルホン化物など)が好ましく用いられる。本発明の固体電解質を触媒層に用いると、固体電解質と同種の材料となるため、固体電解質と触媒層との電気化学的密着性が高まりより有利である。
【0086】
活性金属の使用量は、0.03〜10mg/cm2の範囲が電池出力と経済性の観点から適している。活性金属を担持するカーボン材料の量は、活性金属の質量に対して、1〜10倍が適している。プロトン伝導材料の量は、活性金属担持カーボンの質量に対して、0.1〜0.7倍が適している。
【0087】
電極基材、透過層、あるいは裏打ち材とも呼ばれ、集電機能および水がたまりガスの透過が悪化するのを防ぐ役割を担う。通常は、カーボンペーパーやカーボン布を使用し、撥水化のためにポリテトラフルオロエチレン(PTFE)処理を施したものを使用することもできる。
【0088】
MEAの作製には、次の4つの方法が好ましい。
(1)プロトン伝導材料塗布法:活性金属担持カーボン、プトロン伝導材料、溶媒を基本要素とする触媒ペースト(インク)を固体電解質の両側に直接塗布し、多孔質導電シートを(熱)圧着して5層構成のMEAを作製する。
(2)多孔質導電シート塗布法:触媒ペーストを多孔質導電シート表面に塗布し、触媒層を形成させた後、固体電解質と圧着し、5層構成のMEAを作製する。
(3)Decal法:触媒ペーストをPTFE上に塗布し、触媒層を形成させた後、固体電解質に触媒層のみを転写させ3層のMEAを形成させ、多孔質導電シートを圧着し、5層構成のMEAを作製する。
(4)触媒後担持法:白金未担持カーボン材料をプロトン伝導材料とともに混合したインクを固体電解質、多孔質導電シートあるいはPTFE上に塗布・製膜した後、白金イオンを当該固体電解質に含浸させ、白金粒子を膜中で還元析出させて触媒層を形成させる。触媒層を形成させた後は、上記(1)〜(3)の方法にてMEAを作製する。
【0089】
本発明の固体電解質を用いる燃料電池の燃料として用いることのできるのは、アノード燃料としては、水素、アルコール類(メタノール、イソプロパノール、エチレングリコールなど)、エーテル類(ジメチルエーテル、ジメトキシメタン、トリメトキシメタンなど)、ギ酸、水素化ホウ素錯体、アスコルビン酸などが挙げられる。カソード燃料としては、酸素(大気中の酸素も含む)、過酸化水素などが挙げられる。
【0090】
直接メタノール型燃料電池では、アノード燃料として、メタノール濃度3〜64質量%のメタノール水溶液が使用される。アノード反応式(CH3OH+H2O→CO2+6H++6e)により、1モルのメタノールに対し、1モルの水が必要であり、この時のメタノール濃度は64質量%に相当する。メタノール濃度が高い程、同エネルギー容量での燃料タンクを含めた電池の質量および体積が小さくできる利点がある。しかしながら、メタノール濃度が高い程、メタノールが固体電解質を透過しカソード側で酸素と反応し電圧を低下させる、いわゆるクロスオーバー現象が顕著となり、出力が低下する傾向にある。そこで、用いる固体電解質のメタノール拡散性により、最適濃度が決められる。直接メタノール型燃料電池のカソード反応式は、(3/2O2+6H++6e→H2O)であり、燃料として酸素(通常は空気中の酸素)が用いられる。
【0091】
上記アノード燃料およびカソード燃料を、それぞれの触媒層に供給する方法には、(1)ポンプ等の補機を用いて強制循環させる方法(アクティブ型)と、(2)補機を用いない方法(例えば、液体の場合には毛管現象や自然落下により、気体の場合には大気に触媒層を晒し供給するパッシブ型)の2通りがあり、これらを組み合わせることも可能である。前者は、カソード側で生成する水を循環させることにより燃料として高濃度のメタノールが使用することができ、空気供給による高出力化ができる等の利点がある反面、燃料供給系を備える事により小型化がし難い欠点がある。後者は、小型化が可能な利点がある反面、燃料供給が律速となり易く高い出力が出にくい欠点がある。
【0092】
燃料電池の単セル電圧は一般的に1V以下であるので、負荷の必要電圧に合わせて、単セルを直列スタッキングして用いる。スタッキングの方法としては、単セルを平面上に並べる「平面スタッキング」および、単セルを、両側に燃料流路の形成されたセパレーターを介して積み重ねる「バイポーラースタッキング」が用いられる。前者は、カソード極(空気極)が表面に出るため、空気を取り入れ易く、薄型にできることから小型燃料電池に適している。この他にも、MEMS技術を応用し、シリコンウェハー上に微細加工を施し、スタッキングする方法も提案されている。
【0093】
燃料電池は、自動車用、家庭用、携帯機器用など様々な利用が考えられているが、特に、直接メタノール型燃料電池は、小型、軽量化が可能であり充電が不要である利点を活かし、様々な携帯機器やポータブル機器用エネルギー源としての利用が期待されている。例えば、好ましく適用できる携帯機器としては、携帯電話、モバイルノートパソコン、電子スチルカメラ、PDA、ビデオカメラ、携帯ゲーム機、モバイルサーバー、ウエラブルパソコン、モバイルディスプレイなどが挙げられる。好ましく適用できるポータブル機器としては、ポータブル発電機、野外照明機器、懐中電灯、電動(アシスト)自転車などが挙げられる。また、産業用や家庭用などのロボットあるいはその他の玩具の電源としても好ましく用いることができる。さらには、これらの機器に搭載された2次電池の充電用電源としても有用である。
【実施例】
【0094】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り、適宜、変更することができる。従って、本発明の範囲は以下に示す具体例に限定されるものではない。
【0095】
1.モノマーの合成
[化合物A−3の合成]
4−フェニルフェノール42.6gをDMF250mlに溶解し、炭酸カリウム34.6gとヨウ化カリウム28.2g加え、80℃に加熱した。反応混合液に1,6−ジブロモヘキサン122g加え、6時間攪拌した。反応終了後、室温まで冷却し水を加え、酢酸エチルで抽出し、硫酸マグネシウムで乾燥、溶媒を減圧留去した。これをシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製することで、6−(4−フェニルフェノキシ)ヘキシルブロミド60gを得た。
一方、9.2gの活性金属亜鉛粉末をDMF200mlで分散し、ブロモトリフルオロエチレン22.8gを加えた。この時、室温で3時間攪拌後、過剰のブロモトリフルオロエチレンを減圧留去することで、トリフルオロビニル亜鉛ブロミドを得た。この亜鉛試薬を別容器に移し、1.0gのテトラキストリフェニルホスフィンパラジウムおよび52.4gの4−ブロモアセトフェノンを加え、70℃、3時間反応させた。反応混合液を室温に冷却し塩化メチレン300mlを加えた後、水で洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥後、溶媒を減圧留去して得た残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製し、4−アセトキシ−α,β,β−トリフルオロスチレン23.3g得た。
水酸化リチウム24gをエタノール100mlに分散させ、0℃に冷却した後、4−アセトキシ−α,β,β−トリフルオロスチレン21.6gを滴下した。室温に昇温し、維持環攪拌した。この反応混合液に、DMF50mlと6−(4−フェニルフェノキシ)ヘキシルブロミド33.3g加え、室温下6時間攪拌した。反応液をろ過して無機塩を除去した後、溶媒を減圧留去した。これをシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製することで、化合物A−3を28.6g得た。
【0096】
[化合物B−1の合成]
水酸化リチウム24gをエタノール100mlに分散させ、0℃に冷却した後、化合物A−13の合成中間体である4−アセトキシ−α,β,β−トリフルオロスチレン21.6gを滴下した。室温に昇温し、1時間攪拌した。この反応混合液に、DMF50mlと1,3−プロパンサルトン12.2gを加え、室温下6時間攪拌した。反応液をろ過して無機塩を除去した後、溶媒を減圧留去し、エタノール再結晶により精製することで、化合物B−1を20.7g得た。
【0097】
2.固体電解質膜の作製
実施例1 固体電解質膜E−1の作製
化合物A−2を3.1g、化合物B−1を2.2g、ビストリフルオロビニルベンゼンを20mg、過硫酸カリウム(10)mgおよびドデシルアミン塩酸塩(100)mgを脱イオン水に混合し、80℃に加熱し24時間攪拌した。反応混合物に水酸化ナトリウム水溶液(水酸化ナトリウム:ドデシルアミン塩酸塩=5:1)に加え沸騰させた。混合液をろ過した後、トルエンで再沈殿した。得られたポリマーを真空乾燥し、2.56g得た。
得られたポリマー200mgに50%イソプロピルアルコール(IPA)水溶液600μlを混合し、該混合物を、テフロンベース上に180μm厚のテプロンテープで作製した3cm×3cmの正方形の枠内に流し込んだ。70℃で約2時間溶媒を蒸発、乾燥させた後、膜状に固化した塗布物を剥離した。得られた膜を、3規定塩酸に浸しイオン交換させた後、脱イオン水にて洗浄、乾燥して、不透明、微褐色で厚さ109μmの固体電解質膜を得た。
固体電解質膜E−1は、このサンプルの薄膜切片を作製し、偏光顕微鏡で観察したところ、光学異方性のある微細なドメインが確認できた。これによりメソゲン部が一定方向に集積した集合体の集まりにより膜が構成されていることがわかった。
【0098】
実施例2 固体電解質膜E−2の作製
モノマーの種類と量を下記表1に記載のとおり変更し、他は実施例1と同様に行い、固体電解質膜E−2を作成した。
【0099】
比較例1 固体電解質膜R−1の作製
モノマーの種類と量を下記表1に記載のとおり変更し(但し、ビストリフルオロビニルベンゼンは用いていない)、他は実施例1と同様に行い、固体電解質膜R−1を作成した。
【表1】

【化18】

【0100】
実施例3 試験
[イオン伝導度]
固体電解質膜を直径5mmの円形に打ち抜き、25℃95%RHの環境に1時間以上保持した。2枚のステンレス板に挟み、交流インピーダンス法により、25℃、相対湿度95%におけるイオン伝導度を測定した。この値は大きいほど良い。
【0101】
[メタノール拡散係数]
固体電解質膜を1cmx1cmに切り抜き、図3に示すようなセルにセットした。図3中、31は固体電解質膜を、32はテフロンテープ補強剤を、33はメタノール水溶液注入部分を、34はキャリアガス導入口を、35は検出口をそれぞれ示している。36はゴムパッキンをそれぞれ示している。
そして、メタノール水溶液として50容量%メタノール水溶液を注入し、キャリアガス中に含まれるメタノールをガスクロマトグラフィー(島津製作所(株)製GC−14B)にて検出した。得られた検出量からを以下の式を用いて拡散係数DMeOHを計算した。この値は小さいほど良い。
MeOH=(NxT)/(AxCMeOH
拡散係数:DMeOH cm2/s
透過検出量:N mol/s
膜厚: T cm
サンプルがメタノール水溶液に接触している面積:A cm2
メタノール濃度:CMeOH mol/cm3
【0102】
[強度]
固体電解質膜を2.5cmx1cmに切り抜き、JIS K 7127に準じて引っ張りによる強度試験を行なった。固体電解質膜が破断したときの引張力を強度として記録した。この値は大きいほどよい。
【0103】
[耐久性試験]
固体電解質膜を約100mgとなるように切り取り、重量を記録した。固体電解質膜を、硫酸第一鉄30ppmを含む30%過酸化水素10ml中に浸漬し、室温で48時間保持し、純水で洗浄、乾燥後、重量を記録した。浸漬後に減少していた重量の、浸漬前重量に対する相対値を過酸化水素耐久性として計算した。この値は小さいほど良い。E−1、E−2はR−1に比べて劣化が少ないことを確認した。
【0104】
上記固体電解質膜E−1、E−2、R−1およびナフィオン117(デュポン(株))について上記各種試験を行なった。その結果を表2に示す。
【表2】

【0105】
本発明の固体電解質膜では、イオン伝導度、耐久性が高く、とりわけメタノール拡散性が低いことが認められた。特にメソゲンを含むE−1は高いイオン伝導度を示した。このような、固体電解質膜は、例えば、燃料電池のプロトン交換膜として、好ましく利用できる。
【0106】
(燃料電池の作成)
(1)触媒膜の作製
白金担持カーボン(VulcanXC72に白金50質量%が担持)2gとナフィオン溶液(5%アルコール水溶液)15gを混合し、超音波分散器で30分間分散させた。分散物の平均粒子サイズは約500nmであった。得られた分散物をカーボンペーパー(厚さ350μm)上に塗設し、乾燥した後、直径9mmの円形に打ち抜き、触媒膜を作製した。
(2)MEAの作製
実施例1で作製した固体電解質膜E−1およびナフィオン117の両面に上記で得られた触媒膜を塗布面が固体電解質膜に接するように張り合わせ、125℃、3MPa、2分間で熱圧着し、順に、MEA−1、MEA−R2を作製した。
【0107】
(3)燃料電池特性
(2)で得られたMEAを図2に示す燃料電池にセットし、アノード側開口部15に50質量%のメタノール水溶液を注入した。この時カソード側開口部16は大気と接するようにした。アノード電極12とカソード電極13間に、ガルバノスタットで5mA/cm2の定電流を通電し、この時のセル電圧を測定した。結果を表3に示す。
【0108】
【表3】

【0109】
(結果)
ナフィオン膜を用いたMEA−R2により作製した電池の初期電圧は高いものの、経時的に電圧が低下した。この経時的な電圧低下は、アノード電極側に供給された燃料のメタノールが、ナフィオン膜を通過してカソード電極側に漏れる、いわゆるメタノールクロスオーバー現象による。それに対して、本発明の固体電解質膜を用いたMEA−1により作製した電池は電圧が安定しており、より高い電圧を維持できることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0110】
本発明の固体電解質は燃料電池用固体電解質、特に直接メタノール型燃料電池用として有用な他に、燃料電池電極用固体電解質にも用いることができる。さらに、各種電池電解質(レドックスフロー電池、リチウム電池等)、表示素子、電気化学センサー、信号伝達媒体、コンデンサー、電気透析、電気分解用電解質膜、ゲルアクチュエーター、塩電解膜、プロトン交換樹脂としても用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0111】
【図1】本発明の固体電解質を用いた触媒電極接合膜の構成を示す概略断面図である。
【図2】本発明の燃料電池の構造の一例を示す概略断面図である。
【図3】本発明のメタノール拡散性の測定に採用するステンレス製のセルの概略図を示す。
【符号の説明】
【0112】
10・・・燃料電池電極膜複合体(MEA)
11・・・固体電解質
12・・・アノード電極
12a・・・アノード極多孔質導電シート
12b・・・アノード極触媒層
13・・・カソード電極
13a・・・カソード極多孔質導電シート
13b・・・カソード極触媒層
14・・・パッキン
15・・・アノード極側開口部
16・・・カソード極側開口部
17・・・集電体
21,22・・・セパレータ
31 ・ ・ ・ 固体電解質
32 ・ ・ ・ テフロンテープ補強材
33 ・ ・ ・ メタノール水溶液注入部分
34 ・ ・ ・ キャリアガス導入口
35 ・ ・ ・ 検出口(ガスクロマトグラフィーに接続)
36 ・ ・ ・ ゴムパッキン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主鎖がフッ化炭素であり、イオン伝導度が0.01S/cm以上であり、メタノール拡散係数が4x10-7cm2/s以下である、固体電解質。
【請求項2】
下記一般式(1−1)で表される繰り返し単位、一般式(1−2)で表される繰り返し単位および一般式(1−3)で表される繰り返し単位を含む、請求項1に記載の固体電解質。
一般式(1−1)
【化1】

(一般式(1−1)中、R11、R12およびR13は、それぞれ、水素原子、アルキル基またはフッ素原子を表し、L11は、2価の連結基を表し、A1は酸残基を表す。)
一般式(1−2)
【化2】

(一般式(1−2)中、R21、R22およびR23は、それぞれ、水素原子、アルキル基またはフッ素原子を表し、R24は、置換基を表す。)
一般式(1−3)
【化3】

(一般式(1−3)中、R31、R32、R33およびR34は、それぞれ、水素原子、アルキル基またはフッ素原子を表し、L31は、2価の連結基を表す。)
【請求項3】
膜状である、請求項1または2に記載の固体電解質。
【請求項4】
下記一般式(2)で表される化合物、下記一般式(3)で表される化合物および下記一般式(4)で表される化合物を重合する工程を含む、請求項1〜3のいずれかに記載の固体電解質の製造方法。
一般式(2)
【化4】

(一般式(2)中、R21、R22およびR23は、それぞれ、水素原子、アルキル基またはフッ素原子を表し、R24は、置換基を表す。)
一般式(3)
【化5】

(一般式(3)中、R11、R12およびR13は、それぞれ、水素原子、アルキル基またはフッ素原子を表し、L11は、2価の連結基を表し、A3は酸残基に誘導できる基を表す。)
一般式(4)
【化6】

(一般式(4)中、R31、R32、R33およびR34は、それぞれ、水素原子、アルキル基またはフッ素原子を表し、L31は、2価の連結基を表す。)
【請求項5】
一般式(5−1)で表される繰り返し単位と、一般式(5−2)で表される繰り返し単位と、一般式(5−3)で表される繰り返し単位とを含み、重量平均分子量が3000以上である重合体を用いることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の固体電解質の製造方法。
一般式(5−1)
【化7】

(一般式(5−1)中、R11、R12およびR13は、それぞれ、水素原子、アルキル基またはフッ素原子を表し、L11は、2価の連結基を表し、A5は酸残基に誘導できる基を表す。)
一般式(5−2)
【化8】

(一般式(5−2)中、R21、R22およびR23は、それぞれ、水素原子、アルキル基またはフッ素原子を表し、R24は、置換基を表す。)
一般式(5−3)
【化9】

(一般式(5−3)中、R31、R32、R33およびR34は、それぞれ、水素原子、アルキル基またはフッ素原子を表し、L31は、2価の連結基を表す。)
【請求項6】
一対の電極と該電極の間に狭持された請求項1〜3のいずれかに記載の固体電解質を有する、電極膜接合体。
【請求項7】
請求項6に記載の電極膜接合体を有する燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−236837(P2006−236837A)
【公開日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−51221(P2005−51221)
【出願日】平成17年2月25日(2005.2.25)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(000005201)富士写真フイルム株式会社 (7,609)
【Fターム(参考)】