説明

固化処理土ブロック、その生産方法、固化処理土ブロックを用いた構造物及びその施工方法

【課題】 ブロックに付着し生息する生物を多様化できるとともに、施工場所で採取された土を利用可能な固化処理土ブロック、その生産方法、固化処理土ブロックを用いた構造物及びその施工方法を提供する。
【解決手段】 この固化処理土ブロック10は、中空部12を有するコンクリート構造体11の内部に固化処理土を充填し、また充填された固化処理土の脱落を防止するための脱落防止手段を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固化処理土を用いた固化処理土ブロック、その生産方法、その固化処理土ブロックを用いた海域・水域における離岸堤・潜堤・人工リーフ・浅場・魚礁等の構造物及びその施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
海域や水域に設置される離岸堤・潜堤・人工リーフ・浅場・魚礁等は、その設置場所に石材やコンクリートブロックをマウンド状に積み上げて造成することが一般的である。上述のコンクリートブロックは、土木構造物としての性能は有しているものの、生物との共生等、環境面では特に配慮されていない。もちろん、石材、あるいはコンクリートブロックにも生物は生息(付着)するものの、コンクリートの圧縮強度は18,000〜27,000kN/m程度と硬いため、ブロックに付着する生物に着目すると、海草類あるいは固着性生物に限られてしまい、ブロック表面を穿孔し、内部に生息するような穿孔生物や移動性甲殻類の繁殖は難しい。コンクリートの強度を低く抑えることも可能であるが、それでも16,000kN/m程度が限界であり、上記の生物が生息するには硬い。
【0003】
下記特許文献1は、従来のコンクリートブロックの人工魚礁に比べて、より安価に製造でき、付着性動植物の増殖が速く、自然環境を汚すことがなく、かつ、貝殻という産業廃棄物を利用することが可能な人工魚礁ブロックの実現のために、外周を形成する普通コンクリート体と普通コンクリート体の外周部内に設けられた貝殻ポーラスコンクリート成形体とで構成し海底に沈めて魚礁を構成する人工魚礁ブロックを開示する(要約)。この人工魚礁ブロックによれば、貝殻ポーラスコンクリート体で小動物やプランクトンの成育に適した環境を生み出しやすく、海藻類の胞子などが付着しやすく藻場の安定を得ることができる。しかし、上述のような穿孔生物や移動性甲殻類の繁殖は難しく、付着し生息できる生物に限界があり、また、産業廃棄物の利用は貝殻に限られてしまい、例えば、海域の施工現場やその近傍で生じた浚渫土等の処理については考慮されないことになる。
【特許文献1】特開2004−166655号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上述のような従来技術の問題に鑑み、ブロックに付着し生息する生物を多様化できるとともに、施工場所で採取された土を利用可能な固化処理土ブロック、その生産方法、固化処理土ブロックを用いた構造物及びその施工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、本発明者は鋭意検討・研究の結果、穿孔生物や移動性甲殻類などの生息にも適した材料として固化処理土に着目し、固化処理土が適切であることの知見を得、かかる知見に基づいて本発明に至ったものである。即ち、固化処理土を用い、例えば、固化処理土の圧縮強度を固化材添加量の調整により100〜2,000kN/m程度に設定することで、この強度範囲において固化処理土は、穿孔生物や孔に棲む移動性甲殻類等が穿孔可能になるとともに、“土”としての性質も有するため、生物にとっても生息しやすい環境となるのである。特に、現地海域や水域から採取した土を固化処理土の原料として利用することで、既存の生態系に与える影響も少なくでき、また、周辺海域・水域で発生した浚渫土がある場合は、それらをリサイクルすることも可能である。
【0006】
しかし、固化処理土は脆く、固化処理土のみでマッシブなブロック形状を製作した場合、施工時の衝撃や波浪、潮汐による影響で、ひび割れや割裂、崩壊を起こすおそれがある一方、直接、設置位置に水中打設した場合、固化するまでは流動性を有しており、所定の法勾配になるように施工することは難しく、また、波浪や潮汐により材料分離を起すため、周辺海域の汚濁防止措置も必要となる。
【0007】
そこで、本発明による固化処理土ブロックは、中空部を有するコンクリート構造体の内部に固化処理土を充填したことを特徴とする。
【0008】
この固化処理土ブロックによれば、コンクリート構造体によりブロック全体の強度を確保できるとともに、固化処理土ブロックで海域や水域で構造物を構築した場合、中空部に充填した固化処理土により例えば穿孔生物や孔に棲む移動性甲殻類等の生息環境を提供でき、ブロックに付着し生息できる生物を多様化できるとともに、固化処理土ブロックの施工場所で採取された土が利用可能となる。
【0009】
なお、上記コンクリート構造体は、任意の形状に型枠を組んで製造することが可能であるが、中空構造の消波ブロックあるいはボックスカルバート等の既存のコンクリート構造物を流用することも可能である。
【0010】
また、上記固化処理土は、粘土・砂・礫・スラグ・石炭灰等を混合したものにセメント系固化材・石灰系固化材・石膏等の固化材を添加し固化したものであることが好ましい。
【0011】
上記固化処理土ブロックにおいて前記充填された固化処理土の脱落を防止するための脱落防止手段を備えることで、固化処理土ブロックを設置場所に施工する前・中・後において固化処理土ブロックから固化処理土が不測に脱落してしまうことを防止できる。なお、脱落防止手段としては、中空部の壁面を開口部側が狭くなるようなテーパ面にすることやコンクリート構造体の製造のときの型枠に取り付けるセパレータを中空部側に突き出すようにすること等がある。
【0012】
また、前記コンクリート構造体の側壁はその中間部が膨らむようにテーパ形状を有することが好ましい。これにより、コンクリート構造体や固化処理土ブロックをフォークリフトなどで運搬するとき、膨らんだ中間部の下側に爪部を係合させることで運搬を容易に行うことができ、また、海域・水域でブロックを積み上げることで構造物を構築したとき、側壁の膨らんだ中間部により、隣り合うブロック間に空隙ができ、この空隙を海水・水が通過できる。
【0013】
また、前記コンクリート構造体の中空部は片面開口または両面開口に構成されてよい。
【0014】
また、前記充填された固化処理土の圧縮強度が100乃至2,000kN/mの範囲内であることで、海域等に設置された固化処理土ブロックにおいて例えば穿孔生物や移動性甲殻類等が固化処理土を穿孔できるようになる。
【0015】
本発明による固化処理土ブロックの生産方法は、中空部を有するコンクリート構造体のための型枠を組み立てる工程と、前記型枠にコンクリートまたはモルタルを打設する工程と、原料土に少なくとも固化材を混合し固化処理土を製造する工程と、前記型枠の脱型後に前記コンクリート構造体の中空部に前記固化処理土を打設し充填する工程と、を含むことを特徴とする。
【0016】
この固化処理土ブロックの生産方法によれば、中空部を有するコンクリート構造体をつくることでブロック全体の強度を確保できるとともに、この固化処理土ブロックで海域や水域で構造物を構築した場合、中空部に打設して充填した固化処理土により例えば穿孔生物や孔に棲む移動性甲殻類等の生息環境を提供でき、ブロックに付着し生息できる生物を多様化できるとともに、固化処理土ブロックの施工場所で採取された土が利用可能となる。また、固化処理土は、固化材により固化処理されることで中空部からより脱落し難くなる。
【0017】
上記固化処理土ブロックの生産方法において前記コンクリート構造体の中空部の壁面が表面開口側に狭くなるようなテーパ形状を有することが好ましい。また、前記型枠にセパレータを前記中空部に相当する側の突き出るように長く設定し、前記脱型後にも前記セパレータを残すことが好ましい。
【0018】
上述のように、コンクリート構造体の中空部内面をテーパ形状にすることまたはセパレータを中空部側に突き出すことで、固化処理土ブロックを設置場所に施工する前・中・後において固化処理土ブロックから固化処理土が不測に脱落してしまうことを防止できる。
【0019】
また、前記原料土の採取場所またはその近傍で前記固化処理土の製造を行うとともに前記固化処理土の打設を行うことで、原料土の運搬や固化処理土の運搬を省略でき、工数及びコスト減を実現できる。
【0020】
また、前記充填された固化処理土の圧縮強度を前記固化材の添加量の調整により、100乃至2,000kN/mの範囲内に設定することで、海域等に設置された固化処理土ブロックにおいて例えば穿孔生物や移動性甲殻類等が固化処理土を穿孔できるようなものとすることができる。
【0021】
本発明による構造物は、上述の固化処理土ブロックまたは上述の生産方法で生産された固化処理土ブロックを多数用いて所定の海域または水域に構築されたものである。
【0022】
この構造物によれば、コンクリート構造体によりブロック全体の強度を確保することで構造物全体の強度をも確保できるとともに、上述の固化処理土ブロックで海域や水域に構造物を構築するので、中空部に充填した固化処理土により例えば穿孔生物や移動性甲殻類等の生息環境を提供でき、固化処理土ブロックに付着し生息できる生物を多様化できるとともに、固化処理土ブロックの施工場所で採取された土が利用可能となる。
【0023】
なお、上述の構造物としては、海域・水域に設置される離岸堤・潜堤・人工リーフ・浅場・魚礁などがある。
【0024】
本発明による構造物の施工方法は、所定の海域または水域で採取された土を原料土として前記原料土に少なくとも固化材を添加し固化処理土を製造する工程と、コンクリート構造体の中空部に前記固化処理土を打設し固化処理土ブロックを生産する工程と、前記固化処理ブロックを多数用いて前記海域または前記水域に構造物を構築する工程と、を含むことを特徴とする。
【0025】
この構造物の施工方法によれば、構造物を構築する海域や水域で採取された土を原料土として固化処理土を製造でき、その固化処理土により生産した固化処理ブロックで構造物を構築するので、既存の生態系に与える影響も少なくでき、また、周辺海域・水域で発生した浚渫土等を原料土とすることでリサイクル可能となる。
【発明の効果】
【0026】
本発明の固化処理土ブロック、その生産方法、固化処理土ブロックを用いた構造物及びその施工方法によれば、ブロックに付着し生息する生物を多様化できるとともに、施工場所で採取された土を利用可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明を実施するための最良の形態について図面を用いて説明する。図1は本実施の形態による固化処理土ブロックを示す斜視図である。図2は本実施の形態による別の固化処理土ブロックを示す斜視図である。
【0028】
図1の固化処理土ブロック10は、コンクリート構造体11の中空部12に固化処理土を充填したものである。コンクリート構造体11は、略正立方体を変形させて各側壁の中間部15を膨らませるように構成され、その外形は中間部15を境に上下がそれぞれ略四角錐台形の形状になっている。
【0029】
即ち、図1のように、コンクリート構造体11の各側壁13,14はテーパ状の上側側壁13a,14a及びテーパ状の下側側壁13b,14bを備え、テーパ状の上側側壁13a,14aは上方から中間部15に向けて突き出るように傾斜し、テーパ状の下側側壁13b,14bは下方から中間部15に向けて突き出るように傾斜し、各側壁13,14は中間部15で水平方向に最も突出してる。
【0030】
また、中空部12は、コンクリート構造体11のほぼ中央部分に図の縦方向に貫通して形成され、中間部16を境に上下がそれぞれ略四角錐台形の形状になっている。図1のように、コンクリート構造体11の上下面には、中空部12の上側及び下側に上側開口12a及び下側開口12bがそれぞれ四角形状に形成されている。これらの開口12aまたは開口12bから中空部12内に固化処理土を充填することができる。
【0031】
中空部12の各内壁は中間部16が最も大きくなるようにテーパ状に形成され、図1のように、上側内壁12cが上側開口12aから中間部16に向けて広がるように傾斜し、下側内壁12dが下側開口12bから中間部16に向けて広がるように傾斜している。中空部12内の中間部16は、側壁の中間部15の高さ位置とほぼ同じ位置である。
【0032】
また、図2の固化処理土ブロック10’は、コンクリート構造体11の外形形状が図1と同一であるが、中空部17は、中間部18が最も大径となって、中間部18を境に上下がそれぞれ略円錐台形の形状になっており、コンクリート構造体11の上下面の上側開口17a及び下側開口17bが円形である。開口17aまたは開口17bから中空部17内に固化処理土を充填することができる。中空部17内の中間部18は、側壁の中間部15の高さ位置とほぼ同じ位置である。
【0033】
次に、図1のコンクリート構造体11の製造方法について図3を参照して説明する。図3は図1のコンクリート構造体を製造するときの型枠の配置を概略的に示す縦断面図(a)及び横断面図(b)である。図3(b)には図1のコンクリート構造体を製造するときの型枠に設けるセパレータの位置を併せて示している。
【0034】
図3(a)のように、図1のコンクリート構造体11の外周の側壁及び内周の内壁を打設するための型枠21,22を組み立てる。型枠21は、図1の外形の上側側壁13a、14a、下側側壁13b、14bの形状に対応し、型枠22は、中空部12の形状に対応し、その中空構造を維持できるものとする。中空部12は、図1,図3(a)のように、中間が膨らむようなテーパ形状になっており、後に中空部12に充填された固化処理土がブロックから滑り出して脱落することを防止している。
【0035】
また、図3(b)のように、型枠21,22を補強するセパレータ23を中空部12側にあえて長く設定し、脱型後もセパレータ23を残したままとする。かかるセパレータ23により中空部12内の固化処理土を保持することができ、後に中空部12に充填された固化処理土がブロックから滑り出して脱落することを防止している。
【0036】
上述のような型枠21と22の組み立て後、型枠21と22の間の空間20にコンクリート(またはモルタル)を打設する。このコンクリートは設計基準に従い、JIS規格で呼び強度18〜27(18,000〜27,000kN/m)のものを使用することが好ましい。
【0037】
次に、図1、図3(a)、(b)のコンクリート構造体11を用いて図1の固化処理土ブロック10を生産する方法について図4を参照して説明する。図4は原料土として浚渫土を利用して固化処理土を製造し打設することで固化処理土ブロックを生産する手順を概略的に示す図である。
【0038】
図4に示すように、浚渫対象の海域(または水域)の近くの陸地Gに原料土として浚渫土を利用した固化処理土の製造・打設を行う固化処理土ブロック生産プラントPを設置する。このプラントPにおける固化処理土の製造・打設の手順は、次のとおりである。
【0039】
まず、浚渫を行った海域から運搬船31が浚渫土を運搬し接岸すると、海面S上の運搬船31から浚渫土を陸地G側のバックホウ32により解泥・貯泥槽33に移す。解泥・貯泥槽33では海水供給ポンプ34で海水を適度に供給しミキシングバケット付きバックホウ35で攪拌し、浚渫土の砂礫に付着した粘土分を解泥し、スラリー性状を改善して貯蔵する。このようにして貯蔵された浚渫土を原料土とする。
【0040】
次に、バックホウ32、35で解泥・貯泥槽33から原料土を振動篩36を通して分級し調整泥土槽37に移す。調整泥土槽37で原料土を含水比が調整された調整泥土とする。この調整泥土をスクイズポンプ38により調整泥土槽37から送り出し、途中で流量計39及び密度計40により調整泥土の流量と密度を測定し、ミキサ43へと送る。
【0041】
ミキサ43では、固化材添加装置41から連続供給機42で固化材が供給され、調整泥土に添加され混合される。このようにして、調整泥土を固化材の添加された固化処理土として貯蔵槽44に貯蔵する。なお、固化材としては、セメント系固化材・石灰系固化材・石膏等を用いることができる。
【0042】
次に、貯蔵槽44から固化処理土をバックホウ45でコンクリートポンプ車46に移し固化処理土を運搬し、コンクリートポンプ車46が固化処理土を図1のコンクリート構造体11の中空部12内に打設する。
【0043】
以上のようにして、図4の固化処理土ブロック生産プラントPで固化処理土ブロックを生産することができるが、この固化処理土ブロック10によれば、コンクリート構造体11によりブロック全体の強度を確保できるとともに、固化処理土ブロック10を用いる構造物の設置場所で採取された浚渫土等を原料土として利用でき、廃棄物のリサイクルが可能となる。
【0044】
上述のように、原料土の採取場所またはその近傍で固化処理土の製造を行うとともに固化処理土の打設を行うことで、固化処理土ブロックを生産するので、原料土の運搬や固化処理土の運搬をかなり省略でき、生産工数及びコスト減を実現できる。なお、上記原料土は、粘土・砂・礫・スラグ・石炭灰等を混合したものであってもよい。
【0045】
次に、上述のコンクリート構造体・固化処理土ブロックの運搬性について図5,図6を参照して説明する。図5は図1の固化処理土ブロック10をフォークリフトで運搬する様子を示す斜視図である。図6は図1の固化処理土ブロック10をフォークリフトに治具を付けて運搬する様子を示す斜視図である。
【0046】
図1の固化処理土ブロック10をフォークリフトで移動させる際には、図5のように、固化処理土ブロック10の各側壁が中間部15で膨らみ中間部15から下側の下側側壁13b、14bでテーパ状に細くなっているので、下側側壁14bにおいてフォークリフト47の一対の爪48を下から上昇させることで側壁に係合させてそのまま持ち上げることができ、また、一対の爪48を上から下降させて引き抜くことで所定位置に置くことができる。
【0047】
上述のように、フォークリフト47の一対の爪48を上下させるだけで、簡単にコンクリート構造体11・固化処理土ブロック10を移動することができ、コンクリート構造体11・固化処理土ブロック10の運搬性が向上している。
【0048】
また、図5の運搬方法では不安定な場合は、図6に示すような平面的にコ字状の治具49を爪48に取り付けることで、コンクリート構造体11・固化処理土ブロック10を安定して運搬することができる。
【0049】
次に、上述の固化処理土ブロック10を多数用いて海域または水域に構築した構造物について図7,図8,図9を参照して三例説明する。
【0050】
図7は図1の固化処理土ブロック10を用いて人工リーフを構築する様子を概略的に示す図(a)及び構築した人工リーフの一部を拡大した図(b)である。図8は図1の固化処理土ブロック10を用いた生物共生護岸を概略的に示す側断面図である。図9は図1の固化処理土ブロック10を用いた人工湧昇流を生じさせるマウンド魚礁を概略的に示す図である。
【0051】
図7の例は、海底(水底)の地盤B上に固化処理土ブロック10を用いて人工リーフ54を構築するものである。即ち、図7(a)のように、人工リーフ54を設置する海域で起重機船50がクレーン51を用いて固化処理土ブロック10を吊り上げて海面Sから海底の地盤Bの基礎捨石53上に並べるようにして多数設置することで、図7(b)のような人工リーフ54を海底の地盤B上に構築できる。このとき、固化処理土ブロック10は、固化処理土が露出する開口12a(または12b)を上向きに設置する。なお、人工リーフとは、波浪の軽減や海浜の安定化のために海底や水底に設置される水中構造物である。
【0052】
図8の例は、海または河川に構築された生物共生護岸である。即ち、図8のように、海または河川において護岸用ブロック55で陸地Gに護岸を構築するとともに、この護岸の水底基盤B上に図1の多数の固化処理土ブロック10を並べて積み上げる。この場合、固化処理土ブロック10は、固化処理土が露出する開口12a(または12b)を横向きに設置する。
【0053】
図9の例は、海底に構築したマウンド魚礁56である。即ち、図9のように、海底に図1の多数の固化処理土ブロック10を並べて段々形状に積み上げるように設置することで、マウンド魚礁56を構築できる。このようなマウンド魚礁56によれば、人工湧昇流を生じさせることができるので、海底層の豊富な栄養塩類を表層まで押し上げることで、良好な漁場を形成できる。
【0054】
上述のような図7〜図9の各構造物によれば、固化処理土ブロック10のコンクリート構造体11によりブロック全体の強度を確保することで構造物全体の強度をも確保できるとともに、固化処理土ブロック10で海域や水域に構造物を構築するので、中空部12に充填した固化処理土により例えば穿孔生物や移動性甲殻類等の生息環境を提供でき、固化処理土ブロック10に付着し生息できる生物を多様化できるとともに、固化処理土ブロック10の施工場所で採取された土を利用するので、既存の生態系に与える影響も少なくでき、また、浚渫土を利用することで、廃棄物をリサイクル利用でき、好ましい。
【0055】
また、図7〜図9の各構造物において、固化処理土ブロック10を積み上げた場合、側壁をテーパ状にして膨らんだ中間部により、隣り合うブロック間に空隙ができ、この空隙を海水・水が通過できるようになる。
【0056】
以上のように、本実施の形態の固化処理土ブロック10によれば、中空構造を持つコンクリートブロックの内部に固化処理土を充填するので、従来のコンクリートブロックと同等の強度性能を有し、施工時のひび割れや崩壊を防ぎ、波浪や潮汐に対して安定して形状を保つことができ、固化処理土をブロック材料として使用することができ、海中・水中に構築する構造物のブロック材として利用することができる。
【0057】
また、固化処理土は、コンクリートと比較して柔らかく、土としての性質を備えるため、生物が穿孔・生息しやすく、穿孔生物や孔に棲む移動性甲殻類等の生息環境を提供できるので、ブロックに付着し生息する生物を多様化できる。
【実施例】
【0058】
次に、本発明を実施例により説明する。本実施例は浚渫土を用いて固化処理土を得たものである。即ち、北陸地方で採取した浚渫粘土を原料土として図4のような手順で固化処理土を得た。表1に北陸地方で採取した浚渫粘土の物性を示す。
【0059】
【表1】

【0060】
表1の浚渫粘土の試料No.14を配合し、固化材添加量C、材令、及び調整泥土の含水比Wを表2のように変えてそれぞれ得た固化処理土の圧縮強度試験の結果を表2に示す。同様に、表1の浚渫粘土の試料No.28を配合し、固化材添加量C、材令、及び調整泥土の含水比Wを表3のように変えてそれぞれ得た固化処理土の圧縮強度試験の結果を表3に示す。
【0061】
【表2】

【0062】
【表3】

【0063】
以上の表2,表3の結果から本実施例による固化処理土は、固化材の添加量及び材令を調整することで、100〜2,000kN/m程度の圧縮強度を得ることができることが分かる。
【0064】
一般的に固化処理土は施工性を確保するために粘土の液性限界WLの1.3〜2.0倍に含水比を調整したものに、1m当たり固化材としてセメントを50〜150kg程度添加することで、100〜2,000kN/m程度の圧縮強度をることができる(参考文献:「セメント系固化材による地盤改良マニュアル」社団法人セメント協会)。なお、東京湾における浚渫粘土(海成粘土)の液性限界WLは50%〜130%が代表値とされている(参考文献:「土質試験の方法と解説」財団法人地盤工学会)。
【0065】
また、圧縮強度が100〜2,000kN/m程度の場所に生息する生物として、泥岩及び水成岩(圧縮強度が300〜1,200kN/m)などに穴をあけて棲むニオガイ、ヤエウメノハナガイ、シオツガイ、オキナマツカゼガイ、モモガイ、クシケガイ、カモメガイ、イシマテガイ等の二枚貝類が挙げられる。その他、海生生物の餌となるナナツバコムシ、ニセスナホリムシ等の移動性甲殻類も挙げることができる。
【0066】
以上のように本発明を実施するための最良の形態及び実施例について説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で各種の変形が可能である。例えば、図4の固化処理土ブロック生産プラントPは、浚渫対象の海域に近い陸地に設置したが、これに限定されずに、同様のプラントPを船上に設置し、浚渫や構造物設置の対象領域にプラントごと移動して、その移動した領域で固化処理土ブロックを生産するようにしてもよい。
【0067】
また、固化処理土ブロックに用いるコンクリート構造体は、図1や図2のような形状以外の正方立方体や長方立方体や円筒体のような任意の形状に型枠を組んで製造することが可能であるが、中空構造の消波ブロックあるいはボックスカルバート等の既存のコンクリート構造物を流用することも可能である。
【0068】
また、コンクリート構造体の中空部は、図1,図2では、両面開口に構成したが、一方を閉塞し底部のある片面開口の形状にしてもよい。
【0069】
また、固化処理土ブロック10における固化処理土の脱落防止手段として図3(a)、(b)では、中空部12の壁面をテーパ面にし、更に型枠に取り付けるセパレータを中空部側に突き出すようにしたが、いずれか一方の手段だけとしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】本実施の形態による固化処理土ブロックを示す斜視図である。
【図2】本実施の形態による別の固化処理土ブロックを示す斜視図である。
【図3】図1のコンクリート構造体を製造するときの型枠の配置を概略的に示す縦断面図(a)及び横断面図(b)である。
【図4】本実施の形態において原料土として浚渫土を利用して固化処理土を製造し打設することで固化処理土ブロックを生産する手順を概略的に示す図である。
【図5】図1のコンクリート構造体11・固化処理土ブロック10をフォークリフトで運搬する様子を示す斜視図である。
【図6】図1のコンクリート構造体11・固化処理土ブロック10をフォークリフトに治具を付けて運搬する様子を示す斜視図である。
【図7】図1の固化処理土ブロック10を用いて人工リーフを構築する様子を概略的に示す図(a)及び構築した人工リーフの一部を拡大した図(b)である。
【図8】図1の固化処理土ブロック10を用いた生物共生護岸を概略的に示す側断面図である。
【図9】図1の固化処理土ブロック10を用いた人工湧昇流を生じさせるマウンド魚礁を概略的に示す図である。
【符号の説明】
【0071】
10 固化処理土ブロック
11 コンクリート構造体
12 中空部
12a 上側開口
12b 下側開口
12c 上側内壁
12d 下側内壁
13,14 側壁
13a,14a 上側側壁
13b,14b 下側側壁
15 中間部
16 中間部
17 中空部
18 中間部
21,22 型枠
23 セパレータ
54 人工リーフ
56 マウンド魚礁


【特許請求の範囲】
【請求項1】
中空部を有するコンクリート構造体の内部に固化処理土を充填したことを特徴とする固化処理土ブロック。
【請求項2】
前記充填された固化処理土の脱落を防止するための脱落防止手段を備えることを特徴とする請求項1に記載の固化処理土ブロック。
【請求項3】
前記コンクリート構造体の側壁はその中間部が膨らむようにテーパ形状を有することを特徴とする請求項1または2に記載の固化処理土ブロック。
【請求項4】
前記コンクリート構造体の中空部は片面開口または両面開口に構成されていることを特徴とする請求項1,2または3に記載の固化処理土ブロック。
【請求項5】
前記充填された固化処理土の圧縮強度が100乃至2,000kN/mの範囲内であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の固化処理土ブロック。
【請求項6】
中空部を有するコンクリート構造体のための型枠を組み立てる工程と、
前記型枠にコンクリートまたはモルタルを打設する工程と、
原料土に少なくとも固化材を添加し固化処理土を製造する工程と、
前記型枠の脱型後に前記コンクリート構造体の中空部に前記固化処理土を打設し充填する工程と、を含むことを特徴とする固化処理土ブロックの生産方法。
【請求項7】
前記コンクリート構造体の中空部の壁面が表面開口側に狭くなるようなテーパ形状を有することを特徴とする請求項6に記載の固化処理土ブロックの生産方法。
【請求項8】
前記型枠にセパレータを前記中空部に相当する側の突き出るように長く設定し、前記脱型後にも前記セパレータを残すことを特徴とする請求項6または7に記載の固化処理土ブロックの生産方法。
【請求項9】
前記原料土の採取場所またはその近傍で前記固化処理土の製造を行うとともに前記固化処理土の打設を行うことを特徴とする請求項6,7または8に記載の固化処理土ブロックの生産方法。
【請求項10】
前記充填された固化処理土の圧縮強度を前記固化材の添加量の調整により、100乃至2,000kN/mの範囲内に設定することを特徴とする請求項6乃至9のいずれか1項に記載の固化処理土ブロックの生産方法。
【請求項11】
請求項1乃至5のいずれか1項に記載の固化処理土ブロックまたは請求項6乃至10のいずれか1項に記載の生産方法で生産された固化処理土ブロックを多数用いて所定の海域または水域に構築された構造物。
【請求項12】
所定の海域または水域で採取された土を原料土として前記原料土に少なくとも固化材を添加し固化処理土を製造する工程と、
コンクリート構造体の中空部に前記固化処理土を打設し固化処理土ブロックを生産する工程と、
前記固化処理ブロックを多数用いて前記海域または前記水域に構造物を構築する工程と、を含むことを特徴とする構造物の施工方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−169738(P2006−169738A)
【公開日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−359985(P2004−359985)
【出願日】平成16年12月13日(2004.12.13)
【出願人】(000166627)五洋建設株式会社 (364)
【Fターム(参考)】