説明

固定型内歯歯車を有する遊星歯車減速機構、像担持体駆動装置及び画像形成装置

【課題】減速機構モジュールに外力が加わった場合でも、樹脂製内歯歯車に変形が起こって回転伝達変動することを生じさせない。
【解決手段】固定型内歯歯車を有する遊星歯車減速機構であって、固定型内歯歯車の歯車相当部を樹脂で形成し、固定型内歯歯車の外周部を、樹脂製歯車相当部よりも高い剛性を有した材料で成るリング部とし、入力軸側と出力軸側のエンドキャップに挟んでリング部を固定する際に、歯車相当部と各エンドキャップの間に隙間が形成される。前記歯車相当部と前記リング部の間に歯車相当部よりも熱伝導率が低い材料で成る中間層を介在させれば、一層効果的である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転駆動装置、特に、複写機、ファクシミリ、プリンタあるいはこれら機能を兼ね備えた複合機等、画像形成装置の感光体ドラムや転写ベルト駆動ローラ、現像ローラ、紙搬送ローラ等を駆動するための回転駆動装置に関するものである。適用対象は、画像形成装置に限定されず、所謂事務機、家電等であって、小型、低コスト、高精度を要求される量産製品搭載分野に広がる。
【背景技術】
【0002】
画像形成装置では、回転体駆動速度を安定化する要求がある。即ち、画像形成装置内の回転体、例えば、ドラム形状の感光体、転写ベルトを駆動搬送するローラ、現像を行う現像ローラ、記録媒体たる転写紙を搬送するローラ等は、高い回転精度(回転角速度の安定性)が要求される。なぜならば、これらの回転角速度の変動が感光体、中間転写体、転写紙上の画像形成位置の誤差を発生させ、出力画像の劣化要因となるためである。
【0003】
したがって、駆動源であるモータと共に駆動伝達系である減速機構には、一般的な用途仕様と異なる高い精度が要求される。
従来、この減速機構には、ギヤ減速機構やトラクション減速機構、ベルト減速機構等が使用されているが、小型にして高減速比が獲得でき、かつ伝達効率の高い方式として遊星歯車減速機構が知られている。特に、高減速比と高回転精度を獲得できる方式として、2K-Hと呼ばれる内歯歯車を二段で用いた遊星歯車減速機構がある。この構成部品中の内歯歯車は固定歯型であり、歯形には極めて高い精度が要求される。更に精度だけでなく、潤滑剤を用いない状況による耐久性向上(メンテナンスフリー)や騒音低減が要求される。
【0004】
外歯歯車との噛み合いにおける騒音低減と、外歯歯車との同時噛み合いのための弾性変形の、両方の要請を満たしつつ、成形精度を高め、併せて量産性を確保するために、内歯歯車を樹脂で構成することが実行されている。しかしながら、樹脂製歯車は、取り付け時の応力等、外力や環境による変形が極めて起こり易い軟構造であるので、それら変形が起こらない様にする必要がある。
【0005】
例えば、特許文献1には、外周枠を鋳鉄、軟鉄等の高剛性材料、内周の歯相当部をプラスチック等の弾性変形可能な材料とする二重構造の内歯歯車を有する遊星機構が開示されている。しかし、内周の歯相当部構成は、剛性の小さな内周枠に、外歯歯車と噛合する内歯そのものである外ピンを保持させるものであり、これら外ピンが、ギヤケースによってそのスラスト方向から狭持され、そのラジアル方向もギヤケースに支持される構成が示されている。プラスチック等の内周枠は、精度の劣る外歯歯車であっても、その弾性変形により機械的問題を解消するためのものである。ギヤケースはネジによって締め付けられる構成であるため、取り付け時に内歯に相当する外ピンにネジの締め付けによる力が作用し、変形が生じ易い。仮にギヤケースにモータが取り付けられた場合、ギヤケースの熱によって高剛性材料部分とプラスチック等からなる部分とが共に熱膨張し、内歯歯車の歯部に相当する外ピンは両側から狭持されているのに熱膨張してしまうため、自身がギヤケースを押圧する押圧力の反力を受け、歯部に歪が生じ、このまま駆動を行うと歯部を破損してしまうことも考えられる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、減速機構モジュールに外力が加わった場合でも、樹脂製内歯歯車に変形が起こって回転伝達変動することを生じさせないことにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題は、固定型内歯歯車を有する遊星歯車減速機構であって、固定型内歯歯車の歯車相当部を樹脂で形成し、固定型内歯歯車の外周部を、樹脂製歯車相当部よりも高い剛性を有した材料で成るリング部とし、入力軸側と出力軸側のエンドキャップに挟んでリング部を固定する際に、歯車相当部と各エンドキャップの間に隙間が形成されることによって解決される。
【0008】
前記歯車相当部と前記リング部の間に歯車相当部よりも熱伝導率が低い材料で成る中間層を介在させることが好適である。歯車相当部よりも熱伝導率が高い材料であってもリング部より熱伝導率が低い材料、例えばガラスで中間層を介在させても一定の効果がある。出力軸が太陽歯車に対して浮動支持されていること、また二つのユニットを有する場合、出力軸が出力側の太陽歯車に対して浮動支持させているとともに、出力側の太陽歯車が入力側の太陽歯車に対して浮動支持されていることも、好都合である。
【発明の効果】
【0009】
組み付け固定において、樹脂のような低い剛性の部材に直接ネジ締結すると変形するので、本発明においては、これを回避するために樹脂よりも高い剛性の外周リング部において組み付け固定して、内歯歯車に作用する組み付け時応力による変形を低減する。そして、剛性の低い樹脂製歯車相当部は外周リング部よりも軸方向に短く、取り付け部材に対して隙間を有するので、駆動時に入力側動力源が発熱しても、入力側エンドキャップから外周リングへ熱が伝わり、外周リングの外側に放熱できるので、樹脂製歯車相当部に温度上昇による変形が起こり難い。噛み合いにより歯車相当部が熱膨張しても、上記隙間の存在のために、歯車相当部がエンドキャップを押圧することの反力で歯車相当部に歪みが生じることも防止できる。つまり、経時的な熱影響による変形に対して、内歯歯車相当部への蓄熱と熱膨張変形を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】2K−H型二段減速機構の構成を示す図である。
【図2】減速機構搭載の電子写真方式カラープリンタの画像形成部の概略構成図である。
【図3】取り付けによる固定内歯歯車の変形を説明する図である。
【図4】高い剛性の外周リング部により内歯歯車の変形を抑制する本発明に係る遊星歯車減速機構の概念図である。
【図5】外周リング部に歯車相当部を同時成型加工により形成する例を示す図であり、aが部分側面、bが部分断面を示す。
【図6】内歯歯車の外周リング部に対する回転方向とスラスト方向の固定を説明する図であり、aが部分側面、bが部分断面を示す。
【図7】内歯歯形と同じ形状の回転止めを加える構成を説明する図であり、aは部分側面、bは分解斜視図、cは変形例の部分側面を示す。
【図8】歯車相当部への伝熱を抑制するために中間層を介在させた例を示す概念図である。
【図9】外周リング部に放熱フィンを、モータにモータファンを取り付ける例を示す図である。
【図10】外周リング部に開口を形成して内歯歯車を冷却する構成例を示す図である。
【図11】成型時の抜きテーパーを最小にするための内歯歯車分割組み付けを説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の基礎を成す2K-H型二段遊星歯車減速機構の構成を、図1において説明する。不図示のモータに連結された入力軸10は一端が太陽歯車11となっており、それに噛み合う一段目遊星歯車12が太陽歯車11の周りをキャリア13に支持されて公転する。遊星歯車は回転バランスとトルク分担のために同心状に複数個(例えば太陽歯車の周りに均等に三個)が配置されており、その外周軌道で内歯歯車14と噛み合って回転する。内歯歯車14は固定されている。遊星歯車12を介した太陽歯車11と内歯歯車14の噛み合いにより、キャリア13は減速回転し、一段目の減速比が獲得される。このキャリア13の回転中心に設けられた二段目太陽歯車15(一段目太陽歯車と反対側)が二段目減速機構の回転となる。二段目太陽歯車15は、若干のクリアランスを有する二箇所の回転支持部に支持されて(浮動支持;ラジアル方向ガタ量を嵌合公差よりも大きくとる支持構成)、回転を行う。二段目キャリア16に設けられた二段目遊星歯車17は、二段目太陽歯車15の外周軌道で、一段目と共通の固定された内歯歯車14との噛み合い回転により更に減速回転して二段目キャリア16の回転、即ち、出力軸26の回転となる。出力軸26は、二段目太陽歯車15に対して浮動支持されている。遊星歯車の二段目キャリア16と一体の出力軸26は、軸受等でラジアル方向の移動を規制されていないため、二段目遊星歯車17と、内歯歯車14及び二段目太陽歯車15との噛み合いによる反力により回転中心が調心され、入力軸10との同心度が高まる。
【0012】
遊星歯車機構の一つのユニットは、太陽歯車、遊星歯車、遊星歯車の公転運動を拾う遊星キャリア、内歯歯車の4点の部品から構成される。太陽歯車の回転、遊星歯車の公転(キャリアの回転)、外輪歯車の回転、の三つの要素のうち、一つを固定し、一つを入力、一つを出力に接続する。それぞれどれを入出力、固定に割り当てるかによって、一つのユニットで複数の減速比や回転方向の切り替えが可能である。2K-H型の二段構造は、複合遊星歯車機構(二個以上の2K-H型)に分類され、二個以上の2K-H型のそれぞれの三本の基本軸のうち二本の基本軸同士を結合し、残りの基本軸一本を固定し、他の一軸を駆動軸または従動軸とする機構となる。2K-H型遊星歯車機構において、太陽歯車の歯数をZa、遊星歯車の歯数をZb、内歯車の歯数をZcとした場合、その速比(出力/入力)は次のようになる(添え字1、2は一段目、二段目の意味)。
速比=(Za1/Za1+Zc1)×(Za2/Za2+Zc2)
【0013】
このような減速機構を電子写真方式の画像形成装置に搭載する場合、感光体ドラムの駆動や二次転写ベルトの駆動に、駆動源となるモータとともに用いられることになる。感光体ドラム駆動にこの減速機構を用いた場合、発生する画像のバンディングから許容される速度許容は0〜200Hz帯域において、おおむね±0.3%P-P以下の高精度運転が要求され、一般的な位置決め用途の遊星歯車減速機構に比べて一桁高い値となる。
【0014】
本発明の実施対象となる画像形成装置である減速機構搭載電子写真方式カラープリンタについて説明する。なお、本例のプリンタは、所謂タンデム式の画像形成装置であって、乾式二成分現像剤を用いた乾式二成分現像方式を採用したものであるが、本発明はこれに限定されない。
【0015】
図2は、本プリンタにおける画像形成部全体の概略構成図である。このプリンタは、不図示の画像読取部から画像情報である画像データを受け取って画像形成処理を行う。図に示すように、イエロー(以下、「Y」と略す)、マゼンタ(以下、「M」と略す)、シアン(以下、「C」と略す)、ブラック(以下、「Bk」と略す)の各色用の4個の潜像担持体である感光体ドラム1Y、1M、1C、1Bkが、駆動ローラを含む回転可能な複数のローラに張架された無端ベルト状の中間転写ベルト5に接触するように、そのベルト移動方向に沿って並んで配置されている。また、感光体ドラム1Y、1M、1C、1Bkの周りには、それぞれ、帯電器2Y、2M、2C、2Bk、各色対応の現像装置9Y、9M、9C、9Bk、クリーニング装置4Y、4M、4C、4Bk、除電ランプ3Y、3M、3C、3Bk等の電子写真プロセス用部材がプロセス順に配設されている。
【0016】
本例のプリンタでフルカラー画像を形成する場合、感光体ドラム1Yを回転駆動しながら帯電器2Yで一様帯電した後、不図示の光書込装置からの光ビームLYを照射して感光体ドラム1Y上にY静電潜像を形成する。このY静電潜像は、現像装置9Yにより、現像剤中のYトナーにより現像される。現像時には、現像ローラと感光体ドラム1Yとの間に所定の現像バイアスが印加され、現像ローラ上のYトナーは、感光体ドラム1Y上のY静電潜像部分に静電吸着する。このように現像されて形成されたYトナー像は、感光体ドラム1Yの回転に伴い、感光体ドラム1Yと中間転写ベルト5とが接触する一次転写位置に搬送される。この一次転写位置において、中間転写ベルト5の裏面には、一次転写ローラ6Yにより所定のバイアス電圧が印加される。そして、このバイアス印加によって発生した一次転写電界により、感光体ドラム1Y上のYトナー像を中間転写ベルト5側に引き寄せ、中間転写ベルト5上に一次転写する。以下、同様にして、Mトナー像、Cトナー像、Bkトナー像も、中間転写ベルト5上のYトナー像に順次重ね合うように一次転写される。
【0017】
そして、中間転写ベルト5上に4色重なり合ったトナー像は、中間転写ベルト5の回転に伴い、二次転写ローラ7と対向する二次転写位置に搬送される。他方、この二次転写位置には、不図示のレジストローラにより所定のタイミングで転写紙が搬送される。そして、この二次転写位置において、二次転写ローラ7により転写紙の裏面に印加された所定のバイアス電圧により発生した二次転写電界と二次転写位置での当接圧により、中間転写ベルト5上のトナー像が転写紙上に一括して二次転写される。その後、トナー像が二次転写された転写紙は、定着ローラ対8により定着処理がなされた後に装置外に排出される。
【0018】
次に、遊星差動歯車減速装置を備える駆動手段として、感光体駆動装置について説明する。なお、各感光体ドラム1Y、1M、1C、1Bkは、同一構成の感光体駆動装置により回転駆動されるので、以下、感光体ドラム1Yの感光体駆動装置について説明する。解説しないが、二次転写ベルトの駆動ローラ等にも適用可能である。
【0019】
図3は、減速機構の感光体駆動装置本体への一般的な取り付けを示す例で、取り付け時応力が固定内歯歯車に作用して、歯車の変形が起こり、噛み合い変動や一回転中の回転変動、又はそれの二次変動等が発生する状況を示している。遊星歯車減速機構20は、固定ホルダ21を介して、減速機構締結ネジ22、本体機構固定ネジ23を用いて、装置本体の副側板24に取り付けられる。遊星歯車減速機構20の入力側はモータ25に連結され、出力軸26はジョイント27を介して、本体側板28に支承された感光体ドラム1Yにつながれている。
【0020】
遊星歯車減速機構20を、減速機構締結ネジ22で固定ホルダ21に固定する際、減速機構内部の固定内歯歯車14は微小ながら変形を生じようとする。本発明では、内歯歯車相当部を樹脂成型品とし、その外周に、内歯歯車の剛性(ヤング率)よりも高い剛性を有し、内歯歯車相当部を保持・固定する機能を有する外周リング(高剛性リング)を設けている。
【0021】
内歯歯車相当部に要求される精度は、歯車精度等級で、新JIS4級以上であり、精度確保と共に噛み合い振動を低減する狙いから、ヤング率が金属やエンプラ(エンジニアリングプラスチック)より低い適正値であり、且つ粘性のある樹脂材料を選択して、このような材料の成型品によって内歯歯車相当部14aを形成する。高精度な樹脂成型の条件を満たすためには、成型時の流動性を良くするために小型で、極力異形でない形状とすること、部分的な収縮変形を起こさせないために偏肉部を設けないことが重要である。一方、この様に高精度に成型加工された内歯歯車相当部14aは肉厚も薄くなり、組み付け時や運転時には、外力に対して応力変形を受け易い構造となり、その変形により運転時回転精度の劣化につながる可能性がある。仮に、回転精度の劣化の一つとして、それに起因する変動が1秒間にN回発生するものとすると、プリント速度V(mm/s)で出力される画像では、V/N(mm)の周期で発生し、これが濃淡として認識され(バンディング現象)、知覚的に非常に見苦しい。
【0022】
したがって、そのような肉厚の薄い内歯歯車をネジ締結やカシメ等によって機械的応力を直接作用させることはできない。そこで、図4に示すように、高精度な内歯歯車相当部14aを高い同心精度と高剛性を保って保持・固定する外周リング部14bを設ける。内径を正確に加工された外周リング部14bを用いて、その内径部分を内歯歯車相当部14aの外径にガタ無く当接させる。遊星歯車減速機構のユニットにおいて、外周リング部の一端にはモータホルダ30が、その反対側には出力軸を支承するエンドキャップ32が配置されているので、外周リング部14bをモータホルダ30とエンドキャップ32の間に挟んで押圧することで、駆動用モータ25の取り付け、本体への取り付けを果たす。モータホルダ30の側に入力軸を支承するエンドキャップが存在する場合には、もちろんモータホルダでなく、入力側エンドキャップを用いて外周リング部14bを出・入力エンドキャップの間に挟んで押圧取り付けする。一方、内歯歯車相当部14aは外周リング部14bに比べてスラスト方向(軸方向)に短く形成されていて、内歯歯車相当部14aとモータホルダ30、エンドキャップの間には隙間が存在する。その結果、駆動用モータ25や本体から内歯歯車相当部14aへの外力作用がなくなり、変形を抑えることができる。
【0023】
外周リング部14bとモータホルダ30、エンドキャップ32の接合を確実なものとするために、それらの接合面、即ち、各部品の環状端部に三角形状の凹凸を形成して、それぞれが噛合するように外周リング部14bをモータホルダ30、エンドキャップ32で挟み込むようにしても良い。それによって、外周リング部14bに対して、回転方向の規制とスラスト方向の位置決めが同時に行われることになる。
【0024】
また前記バンディング現象をなくす意図から、内歯歯車相当部14aは、外周リング部14bに対して、運転時トルクで回転しないようにすること、噛み合い振動やモータ振動が伝播して高次の振動が起こらないように確実に固定されることが必要である。また、平歯車の噛み合い構造に対して、運転時の低振動化のために、ハス歯歯車の使用が有効である。ハス歯にすることで、噛み合い率が増加して分担荷重が減少すると共に、順次滑らかな移動が行われるという利点が得られる。反面、ハス歯歯車の噛み合いの場合はスラスト方向のベクトル力が発生するため、内歯がスラスト方向に移動してしまう。したがってこの規制も行う必要がある。そのために、図5に示すように、外周リング部14bにおいて、内歯歯車相当部を成型する部分のうち歯車精度の確保が不要な領域、即ち、遊星歯車と噛み合わない位置に、数箇所の固定穴14cが円周方向に均等に設け、同時成型加工時に、ここに樹脂材料が流れ込み、内歯歯車相当部分14aと外周リング部14bとの確実な固定を確保して、内歯歯車相当部14aを形成する。遊星歯車と噛み合わない位置とは、噛み合う遊星歯車の歯幅に相当する部分の外で、スラスト方向のガタによる移動量も考慮し、これにかからない領域位置を意味し、実践的には内歯歯車の平均肉厚程度を余裕値として設定する。外周リング部14bには鉄、アルミ、銅等の金属又はそれらの合金、あるいはエンプラを使用し、内歯歯車相当部14aにはPOM(ポリアセタール)、ナイロン等のプラスチック材料(ギヤとし必要な機械特性、成型性を有する代表的材料)を用いる。外周リング部14bを治具に設定後、射出成型法により、内歯歯車相当部14aの成型加工を行う。
【0025】
樹脂材料のヒケ現象により、歯形部の形状変化が起こって精度劣化が起こることを回避できる。またこれで耐トルク強度や微振動に対する制振効果を獲得することができる。外周リングに対する精度の確保、即ち、同軸度を考慮した基準に関しては、図5aがモータ取り付け基準、図5bがエンドプレート取り付け基準となる。内歯歯車は両基準に対して同軸度が確保できるように成型する必要がある。
【0026】
内歯歯車相当部を単品にて射出成型加工で作り、その後に外周リングに固定することも当然可能である。一例として、外周リングに板金形成の様な薄板構造のものを用いる例を説明する。材料として鉄、ステンレス、黄銅、アルミ等の金属を用い、そのような材料の切削加工品、引き抜き加工品又はプレス品を外周リングとする。
【0027】
樹脂製内歯歯車相当部14aの外径と外周リング部14bの内径を適正な嵌合公差で加工し、成型される樹脂製内歯歯車相当部14aのスラスト方向端部には回り止めの凹部14a’を設ける。対向する外周リング部14bの内周には凸部14b’を突き出し加工により形成し、この凹凸部を噛み合わせることで回転方向の固定を可能とする。所定位置まで押し込まれたところで、外周リング部14bに設けられた貫通穴と、内歯歯車相当部14aに設けられたピン穴14a”が、位置を出して形成されていて、図6に示すように、ここにピン14dを差し込んで、スラスト方向の位置決めとする。ピン14dと外周リング14aの貫通穴が若干絞まり勝手で固定されることで、ピン自体の抜け止めとなる。
【0028】
内歯歯車相当部14aに形成される凹部14a’やピン穴14a”は、内歯形成部から距離をおいて歯型精度に影響しない部分に形成される。この様な異形状部が存在すると、樹脂のヒケ現象等で歯型の成型精度を落とすことがあるからである。内歯歯車に作用するトルクの大きさに応じて高剛性で内歯歯車相当部と外周リング部を固定することは、円周方向に数箇所の回転固定構造とスラスト方向の位置決めを設けることによって実現できる。
【0029】
別の例として、使用する外周リングに或る程度の肉厚が確保できる材料を採用する場合の例を説明する。この場合、回り止めは、内歯歯車相当部と外周リング部の双方に対して、挿入長手方向に連続的な凹凸関係を形成させて実現することができる。内歯歯車の成型精度を考えると、肉厚の均一化は歯形精度を獲得する上で重要である。これを考慮した回転止め機能を考慮する形状として、図7aに示すように、内歯歯車相当部14aの外周には内歯歯形と対称形状の回転止め凸形状を形成する(描写の簡略化のため直線状で示す)。外周リング部14bの側には、内歯歯車相当部14aの外周に設けた歯型近似の凸形状に対応する凹形状を形成する。両者を噛み合わせて挿入することで、確実な回転止め固定が実現する(図7b)。なお、内歯歯車一歯分の位相をずらせて外周凸形状を形成させることも、歯形精度確保の成型法としては有効である(図7c)。外周リング部の材料としては、ダイキャストや引き抜き加工が可能なアルミ及びその合金、成型可能なポリカーボネイト、あるいはガラスファイバー入りの高強度エンプラが用いられる。
【0030】
外周リング部から内歯歯車相当部への熱伝達を抑制する構成を図8に示す。内歯歯車相当部14aと外周リング部14bの間にガラス等、熱伝導率が低い材料で構成される中間層14eを介在させる。この中間層14eの存在により、内歯歯車相当部14aへは一層熱が伝達され難くなる。理想的には歯車相当部よりも熱伝導率の低い材料、例えばPOMに対するポリスチレン等で中間層を構成するのが好ましいが、成型等、合理的な実現性を考えると歯車相当部よりも熱伝導率が高くともリング部よりも熱伝導率の低い材料で中間層を構成させることで、歯車相当部の熱膨張を抑制することが可能である。中間層14eは例えば外周リング部14bの内面にコーティング処理により施す。外周リング部14b、内歯歯車相当部14a、中間層14eの熱伝導率、熱(線)膨張率の一例は次の通りである:
熱伝導率:外周リング部(SUS)=16.3(W/m・k)
内歯歯車相当部(POM)=0.25(W/m・k)
中間層(ガラス)=0.5(W/m・k)
熱(線)膨張率:外周リング部(SUS)=18.0×10−6(/℃)
内歯歯車相当部(POM)=10.0×10−5(/℃)
中間層(ガラス)=10.0×10−6(/℃)
【0031】
樹脂製内歯歯車を用いると、歯の噛み合い振動抑制による回転速度変動低減(角速度変動低減)や騒音低減が可能であること、代表的な樹脂材料としてPOMやナイロンを用いることは述べた。しかしながら、数千〜数万時間に及ぶ運転寿命の確保は、一定以上の高トルク伝達下、歯形の摩耗が進行して困難である。潤滑剤の併用やガラスファイバー入りのエンプラの成型材料も考えられるが、これらの材料は構造体としての強度や安定性は有するものの、安定な潤滑作用を続けるメカニズムが複雑であることや、成型による高精度獲得に対してはいまひとつ困難である。
【0032】
そこで、歯形として必要な歯形精度と機械的弾性力を確保しつつ、噛み合いによる摩耗寿命を獲得するために、DLC(Diamond Like Carbon)の利用が考慮される。最低でも歯車の噛み合い歯面に、可能ならば内歯歯車全面にコーティングを行うことにより、摩耗量最少で運転耐久性を大きく向上させることができる。更に、蒸着膜形成による工法のため、処理時の熱変形は起こし難く、コーティング表面は平滑で摩擦係数も少ないため、噛み合い相手の樹脂製遊星歯車とは潤滑剤不要の運転が可能である。加えて、吸湿性材料であるナイロンにより歯車を形成する場合は、このDLCにより透気性を遮断し吸湿を無くすことができるので、寸法変化の無い安定な状態の維持が可能である。また収縮を考慮した噛み合いバックラッシュを設定する必要がなくなり、バックラッシュを大きく取ることによる回転変動の増加を抑えることが可能である。
【0033】
また内歯歯車に使用される樹脂材料は、歯車としての回転伝達特性は良好であるが、温度特性として熱膨張係数が大きい。例えば熱可塑性材料であるPOMや6ナイロンは5〜11×10−5mm/mm℃で、鉄やアルミ等の金属が1.1〜2.7×10−5mm/mm℃であることに比べて一桁大きい。駆動モータと遊星歯車減速機構を接続して構成する場合、モータで発した熱は外周リング部に伝播した後に、内歯歯車相当部に伝わる。樹脂性歯車にはこの熱が蓄熱すると共に、歯車自身の自己噛み合い運転による熱も発生して同様に蓄熱されて膨張することになる。歯形の変形により、遊星歯車との噛み合いにおいて適正なバックラッシュが確保できなくなり、噛み合い振動の増加による回転速度変動が発生して、画像上のバンディング発生が顕著になる。モータは、連続印刷時にずっと回転するので、かなりの温度上昇がある。
【0034】
そこで、図9に示すように、外周リング部14bの外周全周にわたってフィン34を形成し、放熱面積を多くして外気と接触させることで、内歯歯車の温度上昇を抑えることが考慮される。更に、冷却性能を向上させるために、フィン34の形成のほか、モータ25に簡易ファン36を取り付け、それらによる風流の相乗効果で内歯歯車を冷却させる。したがって、フィン34は、モータファン36による風の流れが、フィン34の凹凸溝に沿って流れる様な方向に形成するのが良い。
【0035】
フィン34の加工は、外周リング部14bをアルミダイキャストの様な成型法により得る場合は一体的に可能であり、また引き抜き加工によっても可能である。ステンレスの様な硬度の高い材料に対しては、別途に作成されるフィン部品を外周リング部14bに装着して構成する。なお、外周リング部の材料にエンプラを用いる場合でも、金属同様にこの手法を用いることは有効である。
【0036】
樹脂製内歯歯車相当部の温度上昇による歯形精度の劣化を抑える他のやり方として、外周リング部の、内歯歯車相当部が設けられる部分に抜き穴を設けて、内歯歯車相当部の背面が直接大気に接触する構造とすることが考えられる。このような冷却用抜き穴38は、図10に示すように、外周リング部14bの外周に、剛性強度を落とさないレベルで丸穴あるいは長穴形状に形成される。内歯歯車相当部14aに蓄熱した熱は、この抜き穴38を通して自然冷却されることになり、その結果、歯車噛み合いの精度を保つことができる。
【0037】
内歯歯車の形成に関しては、適正なプラスチック材料を選択して使用することが回転性能の獲得上重要であるが、量産に向けてはこれを成型によって作ることになる。成型の場合、型から抜き取ることを考慮すると、一体形成ではどうしても抜きテーパーの設定が必要になる。即ち、型の奥側を正しい寸法とすると、手前側はそれよりも抜き取りやすい寸法にしなければならない(歯形で言えば、山の部分と谷の部分とも手前側の方が大きくなる)。2K−H型二段を構成する内歯歯車の場合、二組の遊星歯車が同時に噛み合うので、その長さ(L長)が長くなり、成型考慮の部品形成からテーパー量も大きくなる。その結果、一段目と二段目の噛み合いにおいては、バックラッシュ量が異なることとなり、バックラッシュ量の大きい側の噛み合いでは、回転変動値が劣化する。両歯車の噛み合うほぼ中間位置に型割りの部分を設けて、ここを境に一体的に分割成型する手法もあるが、各種の成型条件設定が、精度の確保とともに困難である。上記の点を考慮した結果、同一の内歯歯車部品(一体で形成されるもの)に噛み合わせるのでなく、図11に示すように、L長の短い二部品に分割して、それらを外周リング部に固定して構成させることが好ましい。これにより、抜きテーパーの影響を最小とする歯車噛み合いが実現できる。
【0038】
このように二部品に分割した内歯歯車相当部分に関して、基本的に成型後の部品形状は互いに同一である。しかし厳密には、型部品の加工精度そのものや、オス・メスの型の合わせ精度により、加工の基準に対する同軸度が異なっている。成型後、その変形は、歯車の噛み合い試験によれば、ほぼ一回転を周期とする正弦波変動である。そこで、成型が行われる部品の同一条件となる位置にマークを付し、そのマークが一致する様に位置を合わせて、外周リング部への組み付けを行う。これにより両方の歯車は、減速機構内において、変形の位相が合致し、ギヤの歯数が整数で設計される時は、噛み合い位相を合わせて回転させることができる。即ち、ギヤ精度による回転変動や振動の発生等、減速機構個体間の特性が、ほぼ揃えられていることになり、ばらつきが少ないものを作り出せることになる。
【0039】
以上のようにモータ発熱の伝播による内歯歯車の変形抑制を可能とすることで、モータを外周リングに直接取り付けて、減速機構を構成することが可能である。更に高い同軸性の確保により回転精度を獲得するために、全ての組み付け基準を外周リングの内径又は外径にとり、噛合させて組み付けを行うことで高い回転同軸性を確保できる。この時も、モータユニット、(位相を合わせて内歯歯車を組み付けた)外周リング、モータユニットに対向するエンドキャップの回転方向位置関係を合わせて組み付けることで、正弦波変動位相を合わせた個体間ばらつきのない機構を作り出すことができる。位相合わせのためのマークをそれぞれに形成付与し、組み立て時にそれらを合致させて行う。
【符号の説明】
【0040】
11 一段目太陽歯車
12 一段目遊星歯車
13 一段目キャリア
14a 歯車相当部
14b 外周リング部
15 二段目太陽歯車
17 二段目遊星歯車
21 固定ホルダ
22 減速機構締結ネジ
25 モータ
26 出力軸
30 モータホルダ
32 出力側エンドキャップ
【先行技術文献】
【特許文献】
【0041】
【特許文献1】特開昭61−24854号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定型内歯歯車を有する遊星歯車減速機構であって、固定型内歯歯車の歯車相当部を樹脂で形成し、固定型内歯歯車の外周部を、樹脂製歯車相当部よりも高い剛性を有した材料で成るリング部とし、入力軸側と出力軸側のエンドキャップに挟んでリング部を固定する際に、歯車相当部と各エンドキャップの間に隙間が形成されることを特徴とする遊星歯車減速機構。
【請求項2】
前記歯車相当部と前記リング部の間に歯車相当部よりも熱伝導率が低い材料で成る中間層を介在させることを特徴とする請求項1に記載の遊星歯車減速機構。
【請求項3】
前記歯車相当部と前記リング部の間にリング部よりも熱伝導率が低い材料で成る中間層を介在させることを特徴とする請求項1に記載の遊星歯車減速機構。
【請求項4】
前記中間層がガラスで構成されることを特徴とする請求項3に記載の遊星歯車減速機構。
【請求項5】
出力軸が太陽歯車に対して浮動支持されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の遊星歯車減速機構。
【請求項6】
二つのユニットを有し、出力軸が出力側の太陽歯車に対して浮動支持されているとともに、出力側の太陽歯車が入力側の太陽歯車に対して浮動支持されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の遊星歯車減速機構。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の遊星歯車減速機構を像担持体の駆動機構として用いる像担持体駆動装置。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の遊星歯車減速機構を有する画像形成装置。
【請求項9】
請求項7に記載の像担持体駆動装置を有する画像形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−179641(P2011−179641A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−46444(P2010−46444)
【出願日】平成22年3月3日(2010.3.3)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】