説明

固定砥粒ワイヤソー用水溶性加工油剤組成物

【課題】固定砥粒ワイヤソーを用いた、ガラス、サファイア、セラミックス、シリコン、ネオジウム等の脆性材料の切断加工において、防錆性に優れ、従来の市販水溶性加工油剤より切断性に優れ、切断加工能率を向上させることができ、また低起泡性である固定砥粒ワイヤソー用水溶性加工油剤を提供すること。
【解決手段】(A)グリコール類、例えばジエチレングリコール、(B)炭素数2〜6のカルボン酸、例えばクエン酸、(C)アルカリ金属化合物、例えば水酸化カリウム、及び(D)水を含有し、pHが8.0〜8.6である固定砥粒ワイヤソー用水溶性加工油剤組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固定砥粒ワイヤソーを用いた、脆性材料の切断加工に用いる水溶性加工油剤組成物に関する。詳しくは、固定砥粒ワイヤソーを用いた、サファイア、ガラス、セラミックス、シリコン、ネオジウム等の脆性材料の切断加工において、従来市販品より優れた切断性能及び加工表面品位を示し、さらに低起泡性である、優れた水溶性加工油剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、サファイア、ガラス、セラミックス、シリコン、ネオジウム等の脆性材料の切断加工には内周刃砥石若しくは遊離砥粒を用いたバンドソー、遊離砥粒ワイヤソー等が使用されてきた。内周刃砥石を利用した切断加工は被削材の大きさに依存するため、切断加工装置の大型化への対応が難しく、作業効率の面からも満足のいくものではなかった。また、遊離砥粒を用いた切断加工においては、スラリーが被削材および工作機械に付着する為、被削材の洗浄性や作業性の低下が問題となっている。また近年において、被削材の切屑をリサイクルする事が望まれている。しかし、遊離砥粒による切断加工では砥粒と切屑の分離が困難であるという問題がある。これらの問題を解決する目的で、金属線に砥粒を電着もしくはレジン等で固定した固定砥粒ワイヤソーが開発された(特許文献1参照)。固定砥粒ワイヤソーを用いる事で被削材の洗浄性や作業性が改善されている。しかしながら、固定砥粒ワイヤソーを用いて脆性材料の切断加工を行う際に、従来の市販水溶性加工油剤を用いた場合、被削材が硬質であることや油剤の性能不良などから、目標とする切断性能が得られない、加工表面品位が不十分、泡立ちがある、切断加工能率が悪いなどの欠点が指摘されている。
【0003】
このような加工においては、(A)グリコール類(プロピレングリコール、ポリエチレングリコール等)を含有し、また(B)カルボン酸と(C)塩基性化合物から形成される塩を含有する油剤が提案されている。さらに、硫黄系化合物を含有しても良いとする固定砥粒ワイヤソー用水溶性加工油剤が提案されている(例えば、特許文献2及び3参照)。しかし、これらの水溶性加工油剤をサファイア、ガラス、セラミックス、シリコン、ネオジウム等の脆性材料の切断加工油剤として用いた場合、目標とする切断性能が得られない、加工表面品位が不十分、泡立ちがある、切断加工能率が悪い等の欠点があり、未だユーザーの満足するものは得られていないのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−54850号公報
【特許文献2】特開2003−82334号公報
【特許文献3】特開2003−82335号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、固定砥粒ワイヤソーを用いた、サファイア、ガラス、セラミックス、シリコン、ネオジウム等の脆性材料の切断加工において、防錆性に優れ、従来の市販水溶性加工油剤より優れた切断性能及び加工表面品位を示し、さらに低起泡性である、優れた固定砥粒ワイヤソー用水溶性加工油剤を提供することである。
本発明の他の目的は、脆性加工材料の製造方法及びその製造方法により得られる脆性材料加工品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は以下に示す固定砥粒ワイヤソー用水溶性加工油剤組成物、この固定砥粒ワイヤソー用水溶性加工油剤組成物を用いた脆性材料加工品の製造方法及び製造方法により得られる脆性材料加工品を提供するものである。
(1) (A)グリコール類、(B)炭素数2〜6のカルボン酸、(C)アルカリ金属化合物、及び(D)水を含有し、pHが8.0〜8.6であることを特徴とする固定砥粒ワイヤソー用水溶性加工油剤組成物。
(2) 前記(B)炭素数2〜6のカルボン酸が、脂肪族ジカルボン酸及び/又は脂肪族トリカルボン酸である前記(1)記載の固定砥粒ワイヤソー用水溶性加工油剤組成物。
(3) 前記(B)カルボン酸が、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸及びクエン酸からなる群から選ばれる少なくとも1種である前記(1)又は(2)記載の固定砥粒ワイヤソー用水溶性加工油剤組成物。
(4) 前記(B)カルボン酸が、シュウ酸及びマロン酸からなる群から選ばれる少なくとも1種である前記(3)記載の固定砥粒ワイヤソー用水溶性加工油剤組成物。
(5) 更に、コハク酸、グルタル酸及びクエン酸からなる群から選ばれる少なくとも1種のカルボン酸を含有する前記(4)記載の固定砥粒ワイヤソー用水溶性加工油剤組成物。
(6) pHが8.3〜8.6である前記(1)〜(5)のいずれか1項記載の固定砥粒ワイヤソー用水溶性加工油剤組成物。
(7) 前記各成分の配合量が、(A)が1〜95質量部、(B)及び(C)の合計が0.001〜10質量部、(D)が4〜89質量部である前記(1)〜(6)のいずれか1項記載の固定砥粒ワイヤソー用水溶性加工油剤組成物。
(8) 前記(A)グリコール類の分子量が60〜5000である前記(1)〜(7)のいずれか1項記載の固定砥粒ワイヤソー用水溶性加工油剤組成物。
(9) 前記(C)アルカリ金属化合物が、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、及び炭酸カリウムからなる群から選ばれる少なくとも1種である前記(1)〜(8)のいずれか1項記載の固定砥粒ワイヤソー用水溶性加工油剤組成物。
(10) 前記(1)〜(9)のいずれか1項記載の固定砥粒ワイヤソー用水溶性加工油剤組成物を用いて、固定砥粒ワイヤソーにより脆性材料を加工する工程を含む、脆性材料加工品の製造方法。
(11) 前記(10)記載の製造方法により得られた脆性材料加工品。
【発明の効果】
【0007】
本発明の固定砥粒ワイヤソー用水溶性加工油剤組成物は、ガラス、サファイア、セラミックス、シリコン、ネオジウム等の脆性材料の切断加工において、従来品と比較して潤滑性(切断性)が優れているため、加工精度が向上し、それに伴い優れた加工表面品位を示す。また低起泡性であるため切断加工能率が向上する。本発明の組成物は、防錆性にも優れる。本発明の組成物は更に、シリコンを切断した場合に発生する切屑が混入しても粘度変化が小さいことから、加工性にも優れる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下本発明について詳細に説明する。
(A)グリコール類
本発明の組成物に使用するグリコール類の具体例としては、モノエチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、テトラプロピレングルコール、ポリプロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、ヘキサメチレングリコール、ヘキシレングリコール、ネオペンチルグリコール、ポリエチレングリコールとポリプロピレングリコールの共重合物、アルキルエーテルとポリエチレングリコールの共重合物、アルキルエーテルとポリプロピレングリコールの共重合物等が挙げられる。これらは2種以上を任意の割合で混合して使用しても良い。このうち、モノエチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコールが好ましい。
ジエチレングリコールが特に好ましい。
上記グリコール類の分子量は、好ましくは60〜5000であり、更に好ましくは60〜1000である。なお、グリコール類が高分子の場合、「分子量」は「重量平均分子量」を意味する。
グリコール類の使用量は、好ましくは1〜95質量部であり、更に好ましくは50〜95質量部である。
【0009】
(B)炭素数2〜6のカルボン酸
本発明の組成物に使用するカルボン酸は、炭素数が2〜6のカルボン酸である。炭素鎖が短いため、(C)アルカリ金属化合物と一緒になって形成される塩は界面活性剤としての効果を殆ど有していないが、pH調節能、緩衝能を有する。
本発明に使用するカルボン酸としては、直鎖または分岐鎖脂肪族のモノ−、ジ−又はトリカルボン酸、及び脂環式のモノ−、ジ−又はトリカルボン酸があげられる。本発明のカルボン酸にはヒドロキシカルボン酸が含まれる。
【0010】
本発明に使用するカルボン酸の具体例としては、酢酸、過酢酸、グリコール酸、ジグリコール酸、グリオキシル酸、シュウ酸、プロピオン酸、プロピオル酸、アクリル酸、ヒドロアクリル酸、乳酸、グリセリン酸、ピルビン酸、タルトロン酸、マロン酸、メソシュウ酸、酪酸、イソ酪酸、クロトン酸、イソクロトン酸、メタクリル酸、テトロル酸、コハク酸、イソコハク酸、マレイン酸、フマル酸、リンゴ酸、酒石酸、アセト酢酸、オキサロ酢酸、ムコブロム酸 、ムコクロル酸、メチルマロン酸、吉草酸、イソ吉草酸、ビバル酸、ヒドロアンゲリカ酸、アンゲリカ酸、チグリン酸、セネシオ酸、グルタル酸、グルタコン酸、シトラコン酸、メサコン酸、イタコン酸、イタマル酸、イタ酒石酸、シトラマル酸、レブリン酸、ジメチルマロン酸、エチルマロン酸、カプロン酸、イソカプロン酸、ソルビン酸、アジピン酸、ムコン酸、プロピルマロン酸、イソプロピルマロン酸、トリカルバリル酸、アコニット酸、クエン酸、イソクエン酸、ロイシン酸、メバロン酸、メバルド酸、パントイン酸、ホモレブリン酸、ペニシル酸等が挙げられる。これらは2種以上を任意の割合で混合して使用しても良い。炭素鎖の長い脂肪酸では発泡し易くなるため、炭素鎖が短い事が好ましい。好ましくは炭素数2〜6の脂肪族ジカルボン酸及び/又は脂肪族トリカルボン酸である。より好ましくはシュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸及びクエン酸からなる群から選ばれる少なくとも1種である。更に好ましくはシュウ酸及びマロン酸からなる群から選ばれる少なくとも1種である。特に好ましくはマロン酸である。カルボン酸がシュウ酸及び/又はマロン酸である場合、更に、コハク酸、グルタル酸及びクエン酸からなる群から選ばれる少なくとも1種のカルボン酸を含有してもよい。
【0011】
(C)アルカリ金属化合物
本発明に使用するアルカリ金属化合物の具体例としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、リン酸水素ナトリウム、リン酸水素カリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム等が挙げられる。これらは2種以上を任意の割合で混合して使用しても良い。好ましくは水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウムであり、更に好ましくは水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウムである。最も好ましくは水酸化カリウムである。
本発明の組成物中、(B)炭素数が2〜6のカルボン酸および(C)アルカリ金属化合物の使用量の総量は、好ましくは0.001〜10質量部であり、更に好ましくは0.003〜5質量部である。
【0012】
(D)水
本発明の油剤組成物は、更に水を含有してもよい。水は、(A)〜(C)成分の残部として使用するが、その配合割合は、通常は油剤組成物中、好ましくは4〜89質量部、より好ましくは4〜47質量部である。
【0013】
本発明の油剤組成物中における各成分の好ましい配合割合は、グリコール類1〜95質量部、炭素数が2〜6のカルボン酸およびアルカリ金属化合物の総量0.001〜10質量部、及び水4〜89質量部である。より好ましくは、グリコール類50〜95質量部、炭素数が2〜6のカルボン酸およびアルカリ金属化合物の総量0.003〜3質量部、及び水4〜47質量部である。
【0014】
本発明の固定砥粒ワイヤソー用水溶性加工油剤組成物は、要求性能に応じて、pH調節剤、酸化防止剤、防腐剤などを配合することができるが、(A)〜(D)のみからなるのが好ましい。これら任意成分の使用量は、通常0.01〜10質量部程度である。
【0015】
被削材がシリコンの場合、本発明の固定砥粒ワイヤソー用水溶性加工油剤組成物のpH(25℃)は、8.0〜8.6、好ましくは8.3〜8.6、更に好ましくは8.4〜8.6である。pHが8.0未満では、機械を発錆させ、かつ材料の切断時に発生する切屑が混入した場合に起泡してしまい、切断加工能率が低下する場合があり、pHが8.6を超えると、切屑と油剤が反応して水素を発生させる場合があり、好ましくない。
本発明の特に好ましい態様は、(B)がマロン酸であり、pHが8.4〜8.6である。更に特に好ましい態様は、(B)がマロン酸であり、(B)を0.1〜0.2質量部含み、pHが8.4〜8.6である。
【0016】
本発明の油剤組成物を使用して研削する脆性材料としては、ガラス、サファイア、セラミックス、シリコン、ネオジウム等が挙げられる。シリコンが好ましい。
本発明により脆性材料を加工するときの切断速度等の加工条件は、当業者であれば、脆性材料の種類等に応じて適宜設定することができる。例えば、脆性材料としてシリコンを用いる場合、その切断速度は通常0.3 mm/min以上、好ましくは0.6 mm/min以上である。
【0017】
以下、実施例によって本発明をさらに詳述するが、下記の実施例は本発明を制限するものでなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で変更実施することは全て本発明の技術範囲に包含される。
【実施例】
【0018】
表1〜表3に示す成分(重量部)を配合し、固定砥粒ワイヤソー用水溶性加工油剤組成物を調製した。調製した固定砥粒ワイヤソー用水溶性加工油剤組成物の試験試料を用いた潤滑性試験(切断性)、泡立ち試験、pHについて、以下に示す試験方法、判定基準により評価した。
潤滑性試験(切断性)
試験条件
試験装置:付着滑り試験機(神鋼造機社製)
試験温度:25℃
試験試料液:1〜2mL
試験片:シリコンウェーハ(φ3inch×厚さ0.8mm)
鋼球(材質:SUJ−2直径3/16inch)
荷重(W):0.2kgf
滑り速度:0.5mm/sec
摺動長さ:10mm
往復摺動回数:15回
評価方法
試験装置に対し、水平に配置した3インチシリコンウェーハ(以下ウェーハ)上に試験試料液を1〜2mL滴下した。試験試料液を滴下したウェーハに対して鋼球を接触させ、鋼球に荷重(W)0.2kgfを付与した状態でウェーハを水平方向に摺動(滑り速度:0.5mm/sec)させた時、鋼球にかかる摩擦力(F)を測定し、下式より摩擦係数(μ)を求めた。

μ=F/W

判定基準:往復摺動回数が15回の時の摩擦係数
○:0.38未満
×:0.38以上
【0019】
泡立ち試験
(シリコン切屑なし)
試験条件
攪拌装置:市販ミキサー(テスコム社製)
攪拌時間:1分、攪拌の回転数:12,000rpm(空運転時18,000rpm) 試験温度:25℃
試験試料液:400mL
試験方法
試験試料液400mLをミキサー容器に入れ、攪拌回転数12,000rpm(空運転時、18,000rpm)で1分間攪拌した。攪拌終了後、ミキサーに取り付けた物差しで泡の高さを測定し、泡の消える時間を計測した。
判定基準(泡高さ)
○:0mm
□:0超え10mm未満
△:10以上20mm未満
×:20mm以上
判定基準(消泡時間)
○:0秒
□:0超え10秒未満
△:10以上30秒未満
×:30秒以上
○及び□を合格、△及び×を不合格とした。
【0020】
(シリコン切屑あり)
試験条件
攪拌装置:市販ミキサー(テスコム社製)
攪拌時間:1分、攪拌の回転数:12,000rpm(空運転時18,000rpm)
試験温度:25℃
試験試料:400mL
切屑添加量:シリコン切屑 16g
試験方法
試験試料400mLとシリコン切屑16gをミキサー容器に入れ、攪拌回転数12,000rpm(空運転時、18,000rpm)で1分間攪拌した。攪拌終了後ミキサーに取り付けた物差しで泡の高さを測定し、泡の消える時間を計測した。
切屑あり
泡高さ[mm]
○:0mm
□:0mm超え10mm未満
△:10mm以上20mm未満
×:20mm以上
消泡時間[sec]
○:180秒未満
□:180秒以上240秒未満
×:240秒以上
○及び□を合格、△及び×を不合格とした。
【0021】
防錆性試験
ドライ切削したFC200鋳物切屑20gを直径60mm×高さ15mmのガラスシャーレに採り、これに試料を完全に浸漬するまで加え10分間静置した。その後、試料をデカントし、シャーレを振動させて切屑表面が平らになるようにした。蓋をして室温で24時間放置し、発錆状態を肉眼で観察し、切屑表面に発生した錆の面積により防錆性を判定した。
判定基準
○:0%(発錆なし)
□:0%超え20%未満
△:20%超え50%未満
×:50%以上
【0022】
固定砥粒ワイヤソー用水溶性加工油剤組成物のpHは、JIS Z 8802に基づいて、ガラス電極を用いて25℃におけるpHを測定した。

結果を表1〜表3に示す。なお、比較例1,2は、泡立ち試験の泡高さ及び消泡時間が劣っているため潤滑性の評価を行わなかった。
【0023】
【表1】

【0024】
【表2】

【0025】
【表3】

【0026】
炭素数が2〜6のカルボン酸及びアルカリ金属化合物を含有し、pHが本願所定の範囲内にある実施例の油剤は、これらのいずれか又は両方を含まないか、又はpHが所定範囲を外れる比較例の油剤と比較して、切断性及び泡立ち試験の泡高さ及び消泡時間並びに防錆性がはるかに優れている。
実施例1〜6のうち、防錆性、切断性及び泡立ち試験の泡高さ及び消泡時間が総合的に最も優れているのは実施例4であるが、その実施例4と、pHが異なる以外は同じ組成である比較例4は、防錆性に劣るだけでなく、シリコン切屑が混入した場合の消泡時間が著しく遅かった。この傾向は、カルボン酸としてコハク酸を含有する実施例5と比較例6とからも観察できる。実施例2は、実施例4とpHが同じであるが、マロン酸の量が0.1質量部異なるだけで、シリコン切屑が混入した場合の消泡時間に差が出た。実施例6は、実施例4と同じマロン酸を含有するが、pHが0.3低いだけで、やはりシリコン切屑が混入した場合の消泡時間に差が出た。
実施例1〜3は、pHがより高いことを除いてそれぞれ参考例1,2,4と同様の組成である。実施例1〜3は、参考例1,2,4と比較して、防錆性が高いだけでなく、シリコン切屑が混入した場合の消泡時間が短くなった。
比較例3は、(B)としてクエン酸(C6トリカルボン酸)に代えてアゼライン酸(直鎖C9ジカルボン酸)を使用したこと以外は参考例1と同じであるが、参考例1と比較して泡立ち試験の泡高さ及び消泡時間が劣った。比較例2は、(B)としてクエン酸(C6トリカルボン酸)に代えてカプリル酸(直鎖C7モノカルボン酸)を使用したこと以外は参考例1と同じであるが、参考例1と比較して泡立ち試験の泡高さ及び消泡時間が劣った。比較例4は、(C)として水酸化カリウムに代えてトリエタノールアミンを使用したこと以外は実施例1と同じであるが、参考例1と比較して泡立ち試験の泡高さ及び消泡時間が劣った。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)グリコール類、(B)炭素数2〜6のカルボン酸、(C)アルカリ金属化合物、及び(D)水を含有し、pHが8.0〜8.6であることを特徴とする固定砥粒ワイヤソー用水溶性加工油剤組成物。
【請求項2】
前記(B)炭素数2〜6のカルボン酸が、脂肪族ジカルボン酸及び/又は脂肪族トリカルボン酸である請求項1記載の固定砥粒ワイヤソー用水溶性加工油剤組成物。
【請求項3】
前記(B)カルボン酸が、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸及びクエン酸からなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項1又は2記載の固定砥粒ワイヤソー用水溶性加工油剤組成物。
【請求項4】
前記(B)カルボン酸が、シュウ酸及びマロン酸からなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項3記載の固定砥粒ワイヤソー用水溶性加工油剤組成物。
【請求項5】
更に、コハク酸、グルタル酸及びクエン酸からなる群から選ばれる少なくとも1種のカルボン酸を含有する請求項4記載の固定砥粒ワイヤソー用水溶性加工油剤組成物。
【請求項6】
pHが8.3〜8.6である請求項1〜5のいずれか1項記載の固定砥粒ワイヤソー用水溶性加工油剤組成物。
【請求項7】
前記各成分の配合量が、(A)が1〜95質量部、(B)及び(C)の合計が0.001〜10質量部、(D)が4〜89質量部である請求項1〜6のいずれか1項記載の固定砥粒ワイヤソー用水溶性加工油剤組成物。
【請求項8】
前記(A)グリコール類の分子量が60〜5000である請求項1〜7のいずれか1項記載の固定砥粒ワイヤソー用水溶性加工油剤組成物。
【請求項9】
前記(C)アルカリ金属化合物が、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、及び炭酸カリウムからなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項1〜8のいずれか1項記載の固定砥粒ワイヤソー用水溶性加工油剤組成物。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか1項記載の固定砥粒ワイヤソー用水溶性加工油剤組成物を用いて、固定砥粒ワイヤソーにより脆性材料を加工する工程を含む、脆性材料加工品の製造方法。
【請求項11】
請求項10記載の製造方法により得られた脆性材料加工品。

【公開番号】特開2011−256376(P2011−256376A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−106420(P2011−106420)
【出願日】平成23年5月11日(2011.5.11)
【出願人】(000162423)協同油脂株式会社 (165)
【出願人】(000004293)株式会社ノリタケカンパニーリミテド (449)
【Fターム(参考)】