説明

固定部材、防水シート固定具と固定部材との組合せ及び防水下地構造

【課題】ネジ込みタイプスクリュービス等の固定部材が示す、回転や反転を抑制することが可能な、新しい種類の固定部材を得、優れた耐久性の防水下地構造を提供する。
【解決手段】固定部材1を提供する。固定部材1は、防水シート固定具2を防水下地3に固定するためのものである。固定部材1は、防水シート固定具2と接し防水シート固定具2を防水下地3に対して固定させる押え部4を有し、押え部4の防水シート固定具2の側の面に被覆層5が設けられている。かかる固定部材1は、防水シート固定具2と固定部材1との組合せとして有用であり、固定部材1の抜けや弛みを防止でき、優れた耐久性の防水下地構造11を提供できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築構造物に使用されるシート防水工法、特に、防水シートの機械固定工法において用いられる防水シート固定具(以下、単に「固定具」と称することがある。)を、防水すべき下地に固定するための固定部材、防水シート固定具と固定部材との組合せ及び防水下地構造に関し、更に、詳しくは、本発明は、スクリュービス等の固定部材の振動等による抜けを防止する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
シート防水の機械固定工法に使用されるアンカーとしては、打ち込みタイプのものと、ネジ込みタイプのスクリュービスのようなものの2種類に大別される。いずれのタイプも金属製である。
【0003】
打ち込みタイプのアンカーは、コンクリート下地等に使用されるのが主体である。一方、ネジ込みタイプのスクリュービスは、コンクリート下地等及び金属下地に適用可能なように設計され、使用されている(例えば、特許文献1及び2参照)。
【特許文献1】特開平10−77722号公報
【特許文献2】特開2005−42394号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
シート防水の機械固定工法に使用されるアンカーは、防水下地に直接、機械固定される場合が多く、一方、スクリュービスは、防水下地に直接、機械固定される場合だけではなく、断熱材を介して、建築構造物の一部の金属屋根、梁等に使用されるリップ溝形鋼等に固定される場合もある。
【0005】
一般的なアンカー、特に、打ち込みタイプアンカーは、固定物の振動等による抜けに対しては強いとされている。しかしながら、本発明者は、ネジ込みタイプのスクリュービスのようなアンカーが、固定物の振動等による抜けに対して、著しく弱いことを見出した。
【0006】
本発明の課題は、ネジ込みタイプスクリュービス等の固定部材が示す、回転や反転を抑制することが可能な、新しい種類の固定部材を得、優れた耐久性の防水下地構造を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、防水シート固定具を防水下地に固定するための固定部材であって、防水シート固定具と接し前記防水シート固定具を防水下地に対して固定させる押え部を有し、前記押え部の前記防水シート固定具側の面に被覆層が設けられている、固定部材に係るものである。また、本発明は、かかる固定部材を用いた防水シート固定具と固定部材との組合せ及び防水下地構造に係るものである。
【0008】
本発明は、アンカー等の固定部材の固定具押え部を防水シート固定具と接着可能にすることにより、防水下地等の固定物の振動等による固定部材の抜けに対して著しい抵抗性が得られるという知見に基づく。
【0009】
本発明者は、ネジ込みタイプのスクリュービスが、固定物の振動等による抜けに対して、著しく弱いことを見出した。かかる知見の下、本発明者が、更に研究したところ、この原因は、固定物の振動等によるもので、スクリュービスが振動し、締め込む回転方向とは逆方向に反転することによって、抜けてしまうという現象であった。
【0010】
シート防水の機械固定工法に使用されるアンカー、ビスに対して、これらを引き抜こうとして働く力は、風及び構造物自体の振動等が挙げられる。これらの力により、特に、ネジ込みタイプのスクリュービスに対しては、ビスを反転させる力が作用する。
【0011】
本発明においては、スクリュービス等の固定部材は、固定される防水シート固定具と接する部分に押え部を有し、押え部の防水シート固定具側の面には、被覆層が設けられる。本発明では、かかる被覆層を、防水シート固定具の表面と、とりわけ、その表面を被覆している樹脂又はゴムからなるシート接着層と接着可能にする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、振動等による回転や反転によって緩んだり、抜けたりしてしまうのを防止できる固定部材が得られ、かかる固定部材は、防水下地等に固定される防水シート固定具と共に用いることにより、優れた耐久性の防水下地構造を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
(1)(防水下地)
防水されるべき下地である。構造体において、防水が求められる所望の部分である。例えば、建築物等の構造物では、屋内の場合もあるが、屋上等の風雨に曝される構造躯体の表面が代表的である。水平部や垂直部も含まれる。防水シート固定具が固定され、その固定具上に防水シートが接着され、防水シートで覆われる。コンクリート下地、金属下地、金属屋根、梁、リップ溝形鋼等が含まれる。防水下地には、コンクリート下地等の下地上に設けられる断熱材等の下地材も含まれる。
【0014】
(2)(防水シート)
防水下地の表面に施工される。防水下地は、防水機能を有しておらず、防水下地自体の劣化は防ぐことができず、また、構造物屋内への漏水を防止することができない。かかる場合に、防水シートは、防水下地が、水、土砂等に直接接触しないようにしたり、防水下地が風雨や紫外線等に直接曝されないようにしたりして、下地が劣化するのを防止することができる。
【0015】
防水シートは種々の材質からなることができる。防水シートの材質として用いられるものは、ゴム、アスファルト、熱可塑性樹脂が代表的である。
【0016】
防水シートとして重要視されることは、耐久性と施工現場での作業性、施工性の良さである。かかる観点から、好ましくは、前述の材質の中から、熱可塑性樹脂が使用される。熱可塑性樹脂製防水シートでは、防水下地に全面接着させることなく部分的に機械固定する絶縁工法を行うことにより、防水下地の撤去、調整等を省くことが可能となり、防水工事工期の短縮を図ることができる。
【0017】
防水シートは、熱可塑性樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種の材料から形成されたものを用いることができる。特に好ましくは、防水シートは、ポリ塩化ビニル樹脂等の熱可塑性樹脂からなる。
【0018】
(3)(防水シート固定具)
防水シートを防水下地に機械的に固定するためのものである。種々のものを用いることができ、防水シートが溶剤溶着又は熱溶着可能なものを用いることができる。また、後者の場合、金属金具を用いることもできる。
【0019】
(3−1)(シート接着層)
防水シート固定具は、表面に防水シートと接着可能なシート接着層を備えることができる。シート接着層は、後述する取付孔の部分で、固定部材の押え部に設ける被覆層と接着可能にすることができる。シート接着層は、樹脂及びゴムからなる群より選ばれる少なくとも1種の材料からなることができる。シート接着層は防水シートと同じ材質からなることもできる。
【0020】
好ましくは、シート接着層は、防水シート固定具及び防水シートの双方に十分に接着可能な層からなる。また、シート接着層は、固定具の側の固定具側層及び固定具側層及び防水シートの側のシート側層の2層構造を有することができる。固定具側層は、防水シート固定具に強固に接着可能な層とすることができ、シート側層は、防水シート及び固定具側層に強固に接着可能な層とすることができる。
【0021】
(3−2)取付孔
防水シート固定具は、防水シートと溶剤溶着又は熱溶着させるための主たる平坦部を有する他、防水下地上に固定するための取付孔を有することができる。かかる取付孔を介して、ねじ込みタイプのスクリュービス等の固定部材を、防水下地の表面に挿入して、防水シート固定具を防水下地に固定することができる。
【0022】
取付孔は、スクリュービス等の固定部材を打ち込むための貫通孔でよく、防水シート固定具の中心部に設けることができる。取付孔及び固定部材は、固定部材の頭部が防水シート固定具の表面より突出しないように、傾斜や勾配等を設けた形状及び構造とすることができる。
【0023】
(4)(固定部材)
防水シート固定具を防水下地に固定するためのものである。種々の形状及び材質等のものを用いることができ、ねじ込みタイプのアンカー、スクリュービス等の他、打ち込みタイプのものも用いることができる。打ち込みタイプのものも、被覆層と防水シートとの接着が得られ、過度な振動等による抜け抑制を得ることができる。
【0024】
(4−1)(押え部)
防水シート固定具と接し防水シート固定具を防水下地に対して固定させる部分である。押え部の固定具側の面には、被覆層が設けられる。被覆層は、押え部と、更に防水シート固定具と十分に接着可能とすることができる。
【0025】
(4−2)(被覆層)
好ましくは、被覆層は、押え部に固着され、防水シート固定具と溶剤溶着又は熱溶着可能である。被覆層は、固定具の側の固定具側層及び押え部の側の押え部側層からなる2層構造を有することができる。固定具側層は、防水シート固定具に強固に接着可能な層とすることができ、及び押え部側層は、押え部及び固定具側層に強固に接着可能な層とすることができる。
【0026】
被覆層は樹脂及びゴムからなる群より選ばれる少なくとも1種の材料からなることができる。前述のように、樹脂及びゴムは、種々のものがあり、金属との接着強度の強いものや、防水シートと強固に接着するものや、樹脂やゴム同士の間で強い接着強度を示すもの等がある。これらの樹脂等は種々選定することができ、互いに層状にして積層し、これらを押え部の所望の面に接着させることができる。被覆層及びシート接着層は同じ材質のものでも異なる材質のものでもよく、防水シートの材質と同じ物質でもよい。また、被覆層は、固定部材の押え部に、接着剤等によって強固に固着することもできる。
【0027】
固定部材は種々の形状、材質等からなることができる。通常のネジ込みタイプのスクリュービス等に用いられる材質でよく、特に制限はない。ステンレス鋼材、一般鋼材を使用することが可能である。また、これらを芯材として具える固定部材でよく、必要に応じて、芯材を保護するための防錆処理等を行なうことができる。これら処理についても、特に制限はない。
【0028】
(4−3)(シーリング材)
防水シート固定具の取付孔と、固定部材の押え部との接触部分に適用することができる。シーリング材は、種々の形状、材質等からなるものでよい。好ましくは、シーリング材は防水シートを溶剤で溶解させた液状物である。液状シーリング材は、防水シート固定具と固定部材とを水密に接着させることができる。
【0029】
(5)(防水シート固定具及び固定部材の組合せ)
かかる固定部材を用い、防水シート固定具と固定部材との組合せを得ることができる。かかる組合せは、防水シート固定具が、表面に防水シートと接着可能なシート接着層を備えており、固定部材が、防水シート固定具に接し防水シート固定具を防水下地に対して固定させる押え部を有しており、押え部が防水シート固定具側の面に被覆層を備えており、シート接着層と被覆層とが接着可能である。
【0030】
(6)(防水下地構造)
また、上述の防水シート固定具及び固定部材の組合せを用いれば、優れた耐久性を示す防水下地構造を得ることができる。かかる防水下地構造は、防水シート固定具が、表面に防水シートと接着可能なシート接着層を備えており、固定部材が、防水シート固定具に接し防水シート固定具を防水下地に対して固定させる押え部を有しており、押え部が防水シート固定具側の面に被覆層を備えており、シート接着層と被覆層とが接着している。
【0031】
(7)(防水シート固定具の施工方法)
防水シート固定具の施工方法には、種々の方法が用いられる。特に、固定具を防水すべき下地の所定位置にアンカー等の固定部材により固定後、固定具に防水シートを接着させ、防水下地を防水シートによって覆う。
【0032】
防水シート固定具を防水下地上に施工するにあたっては、まず、防水シート固定具及び固定部材を準備する。防水シート固定具には、前述のようなものを用いることができる。次いで、防水下地上で、防水シート固定具を固定部材を用いて固定し、固定具上に防水シートを配置し、熱溶融接着層等を溶融し、防水シートを防水シート固定具上に接着する。
【0033】
電磁誘導加熱を用いる場合、固定具が固定された防水下地を防水シートで覆い、防水シートの上から電磁誘導により固定具の導体部分を加熱し、発生する熱によって固定具上面の熱溶融接着層を溶融させ、防水シートとの接着機能を発揮させる。
【0034】
防水シート上面からの誘導加熱等によって、防水シートと固定具及び防水シートと熱溶融接着層と固定具の少なくとも1方を溶融接着させることが可能になる。特に、熱溶融接着層が導体側層とシート側層の2層構造であれば、防水シートと固定具とが強固に接着して、防水下地上に安定した防水層が効率的に形成される。
【0035】
図面を参照して、本発明をより一層詳細に説明する。
図1は本発明の1例の固定部材を示す側面図である。図2は図1の固定部材を用いて得られる本発明の1例の防水下地構造を示す断面図である。
【0036】
図1及び2に示すように、固定部材1は、防水シート固定金具2を防水下地3に固定し、防水下地構造11を形成するものである。固定部材1は、防水シート固定金具2と接し防水シート固定金具2を防水下地3に対して固定させる押え部4を有する。押え部4の防水シート固定金具2の側の面には、被覆層5が設けられる。
【0037】
図1及び2には、ネジ込みタイプスクリュービス、防水シート固定金具及び金属板下地の概略図を示すが、種々の形状、材質等の固定部材、防水シート固定具及び防水下地を用いることができる。
【0038】
固定部材1は、ビス本体1Aからなり、ビス頭部1Bを具える。ビス頭部1Bは、押え部4を構成し、押え部4には被覆層5が備わる。
【0039】
防水下地3は、下地本体の金属板3Aと、金属板3A上に敷き込まれる断熱材3Bとを備える。断熱材3Bの上には、図示してはいないが、固定金具2が所定間隔で配置される。固定金具2は、取付孔2Aに、固定部材1がねじ込まれ、固定金具2が金属板3Aに機械固定される。
【0040】
図2に示すように、固定部材1のビス頭部1Bの周辺に、防水シートを溶剤で溶解させたシーリング材6を塗布することにより、より一層強固に、固定金具2と固定部材1とを固着させることができる。
【0041】
固定部材1の押え部4の被覆層5は、防水シートと同様に、十分な柔軟性を有することができ、また、図2に示すように、ビス頭部1Bが固定金具2の表面より突出することがないようにすることができる。
【0042】
固定金具2は、その表層にシート接着層2Aを有し、シート接着層2Aは、防水シートと同じ材質であることができ、シーリング材6を塗布することにより、固定金具2と固定部材1とが強固に接着することが可能となる。
【0043】
また、防水シートが塩化ビニル樹脂製である場合は、シーリング材6を塗布しない場合であっても、固定金具2と防水シート本体とを溶剤溶着する際に、この溶剤によって、固定金具2と固定部材1の押え部4の被覆層5とが固着するため、固定部材1が反転したりして弛むことを防止するのが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明では、防水シート固定具とこれに接着可能な固定部材とを用いて、金属下地等の防水下地にシート防水を行えば、打ち込み固定されたスクリュービスが台風等の強風によって抜けるのを防ぐことができ、信頼性のあるシート防水を行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明の1例の固定部材を示す側面図である。
【図2】図1の固定部材を用いて得られる本発明の1例の防水下地構造を示す断面図である。
【符号の説明】
【0046】
1 固定部材
2 固定具
3 防水下地
4 押え部
5 被覆層
11 防水下地構造

【特許請求の範囲】
【請求項1】
防水シート固定具を防水下地に固定するための固定部材であって、防水シート固定具と接し前記防水シート固定具を防水下地に対して固定させる押え部を有し、前記押え部の前記防水シート固定具側の面に被覆層が設けられている、固定部材。
【請求項2】
被覆層が樹脂及びゴムからなる群より選ばれる少なくとも1種の材料からなる、請求項1記載の固定部材。
【請求項3】
被覆層が、押え部の側の押え部側層と防水シート固定具の側の固定具側層とからなる、請求項1又は2記載の固定部材。
【請求項4】
防水シート固定具が、表面に防水シートと接着可能なシート接着層を備えており、前記被覆層が前記シート接着層と接着可能である、請求項1〜3のいずれか一項記載の固定部材。
【請求項5】
防水シート固定具と固定部材との組合せであって、防水シート固定具が、表面に防水シートと接着可能なシート接着層を備えており、固定部材が、防水シート固定具に接し前記防水シート固定具を防水下地に対して固定させる押え部を有しており、前記押え部が前記防水シート固定具側の面に被覆層を備えており、前記シート接着層と前記被覆層とが接着可能である、防水シート固定具と固定部材との組合せ。
【請求項6】
防水下地と防水シート固定具と固定部材とを具える防水下地構造であって、防水シート固定具が、表面に防水シートと接着可能なシート接着層を備えており、固定部材が、前記防水シート固定具に接し前記防水シート固定具を防水下地に対して固定させる押え部を有しており、前記押え部が前記防水シート固定具側の面に被覆層を備えており、前記シート接着層と前記被覆層とが接着している、防水下地構造。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−291567(P2006−291567A)
【公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−113598(P2005−113598)
【出願日】平成17年4月11日(2005.4.11)
【出願人】(591000506)早川ゴム株式会社 (110)
【Fターム(参考)】