説明

固形分離装置付き膜ろ過装置およびそれを用いた水処理方法

【課題】
膜ろ過装置で発生した懸濁液の固形分を容易に脱水処理し、固形化する技術を提供すること。また、プレコート液を再利用し、効率よく原水を処理する技術を提供すること。
【解決手段】
膜モジュールを備える水ろ過手段、逆流洗浄手段、およびプレコート層形成手段を少なくとも備える膜ろ過装置において、前記膜モジュールの近くの逆流洗浄水の排出配管に、固形物の分離、回収手段を有する篩状物を備えた固液分離装置を配置し、逆流洗浄工程排水を主成分とするプレコート液を固液分離することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、とくに水道原水に用いられる河川水、湖沼水、地下水などの自然水中に含まれる汚濁物質を分離除去して清澄水を得るために行う、膜を用いた固形分の分離処理機能を有する固液分離装置付き膜ろ過装置、およびその装置を使用する固形分の分離処理を含む水処理方法に関する。とくに、逆流洗浄(以下、逆洗ということがある)排水を主成分とするプレコート液を使用してろ過膜表面にプレコート層を設ける際、逆洗排水から固形分を分離・除去し、プレコート液の濃度を制御すると共に、除去した固形分の処理を容易とし、効率的に原水を処理する固液分離装置付き膜ろ過装置、およびその装置を使用する水処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
膜を用いて造水する水処理装置では、長時間の運転によってファウリングが起こり、ろ過性能が低下する。そのため運転サイクルにおいて、所定時間のろ過工程後に、物理洗浄を実施し、ファウリングを低減するようにしている。
しかしながら、これら物理洗浄を実施していても次第にファウリングは進行するため、物理洗浄では除去しきれない物質を薬品によって分解または溶解させて除去する薬品洗浄が必要とされる。
ところが、薬品洗浄は、その間造水ができなくなること、薬品のコストがかかること、およびその洗浄廃液処理の観点から、できるだけ回数を少なくすることが望ましい。また、界面活性剤などの特殊な薬品を使用する場合は、プロセスラインへの薬品混入を避けるため、水処理装置から膜モジュールを外し、オフラインでの洗浄をしなければならないことからも薬品洗浄回数を少なくする必要がある。
【0003】
これらの対策の一つとして、鉱物粒子などの微粒子添加剤を原水に添加して膜モジュールの透過流束を回復させる方法(特許文献1)や、凝集剤を原水に加えて凝集フロックをプレコートし、膜モジュールの目詰まりを防ぐ方法(特許文献2)が報告されている。なお、これら技術には、膜ろ過で発生した固形分の処理方法については特に考慮していない。
【0004】
【特許文献1】特開平6−238135号公報
【特許文献2】特開2002−119808号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前記方法には、以下に示すような問題点があった。
プレコート液を循環再利用する場合、すなわち逆洗排水を主とする懸濁液を再利用する場合、プレコート液の固形分濃度が徐々に上昇する。そこで、固形分濃度が上昇した懸濁液の一部を分離・除去し、ついで残りの懸濁液を精製水で希釈することになる。除去した懸濁液は、通常、固形分濃度が約1〜5g/L程度であり、この懸濁液を別途処理する必要が新たに発生する。この処理により生じる汚泥は、例えば、汚泥に凝集剤を添加し、砂ろ過され排汚泥池に貯蔵された汚泥として処理され、さらに、凍結処理後、脱水プレスにより脱水され固形化され、処理される。
これら処理に要する経費、時間的な負担は増大する一方であるので、これらを軽減できる技術の開発が望まれていた。
【0006】
本発明の課題は、膜ろ過装置で発生した懸濁液の固形分を容易に脱水処理し、固形化する技術を提供することにある。また、プレコート液を循環再利用し、効率よく原水を処理する技術を提供することにある。さらには、プレコート液として再使用する逆洗排水の固形分濃度が上昇しても、逆洗排水の一部を除去することなく循環再利用することができる技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は上記課題を解決すべく調査研究する最中、固液分離装置に着目し、いろいろと工夫を重ねた結果、篩等を用いて通常の逆洗浄時に排出される逆洗水の固形分を分離処理すると、意外にも上記課題が解決されるという知見を得た。その知見に基づきさらに研究を重ね、45μm以上5600μm範囲の目開きの篩等を用いて逆洗排水中の固形分を分離すると、好ましい結果が得られるという知見を得、さらに研究を重ね、遂に本発明を完成させた。
【0008】
すなわち、本発明の請求項1の発明は、膜モジュールを備える水ろ過手段、逆流洗浄手段、およびプレコート層形成手段を少なくとも備える膜ろ過装置において、前記膜モジュールからの逆流洗浄水の排出配管に、固形物の分離、回収手段を有する篩状物を備えた固液分離装置を配置することを特徴とする。さらに、その装置を用いて逆洗排水を主成分とするプレコート液を固液分離することを特徴とし、その処理された逆洗排水を循環再利用する。
請求項2の発明は、請求項1の発明において、固液分離装置に備える篩状物の目開きの大きさを変更する手段をさらに備え、前記篩状物の篩の目開きによりプレコート液中の固形分濃度を調整すること特徴とする。
請求項3の発明は、請求項1または2記載の膜ろ過装置において、ろ過する水への凝集剤の添加攪拌手段をさらに備えることを特徴とする。なお、プレコート液貯蔵槽からプレコート液をろ過膜に適用して、ろ過膜の一次側表面にプレコート層を形成させる手段をさらに備えてもよい。
請求項4の発明は、請求項1〜3記載の膜ろ過装置において、固液分離装置を迂回して通る逆流洗浄水排出用バイパス配管、および切り替え弁をさらに備えることを特徴とする。とくに、プレコート液の固形分濃度が設定値よりも低くなったときには、プレコート液の固液分離装置への流量を少なくするよう制御することを特徴とする。
請求項5の発明は、請求項1〜4記載のいずれかの膜ろ過装置において、固液分離装置で分離した固形分を脱水処理する固形分脱水処理手段をさらに備えることを特徴とする。
【0009】
請求項6の発明は、膜モジュールを備える水ろ過装置内に通水する水ろ過工程、膜モジュールを逆流洗浄する逆流洗浄工程、および膜面にプレコート層を形成するプレコート層形成工程とを少なくとも有する水処理方法において、前記膜モジュールからの逆流洗浄水排出用配管に配置した、固形物の分離、回収手段を有する篩状物を備えた固液分離装置の篩状物に逆流洗浄水を通過させる工程、および逆流洗浄水中の固形分を分離・回収する工程を少なくとも有することを特徴とする水処理方法である。なお、逆流洗浄工程排水を前記プレコートト剤貯蔵槽に投入し、再使用する工程をさらに含んでもよい。
請求項7の発明は、請求項6記載の水処理方法において、固液分離装置に備える篩状物の目開きの大きさを変更する工程をさらに有し、前記篩状物の篩の目開きによりプレコート液中の固形分濃度を調整することを特徴とする。
請求項8の発明は、請求項7の水処理方法であって、固液分離装置を迂回して通る逆流洗浄水排出用バイパス配管、および切り替え弁を備える請求項4記載の膜ろ過装置を用い、固液分離装置を通過する水の量を制御する工程をさらに有し、前記固液分離装置を通過する水の量を制御することによりプレコート液中の固形分濃度を調整すること特徴とする。なお、プレコート液貯蔵槽からプレコート液をろ過膜に適用して、ろ過膜の一次側表面にプレコート層を形成させる工程をさらに有してもよい。
請求項9の発明は、請求項8の水処理方法において、プレコート液中の固形分濃度を測定する工程、およびその測定した固形分濃度の信号により流路切り替え弁を制御する工程をさらに有し、前記流路切り替え弁を制御することによりプレコート液中の固形分濃度を制御すること特徴とする。
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明で処理する原水としては、具体的には河川水、湖沼水、地下水などが好ましいが、これらに何ら限定されない。下水、工場廃水等も利用できる。
これら原水が適度に清浄であれば、そのまま使用してもよいが、通常は前処理を施すことが有利である。たとえば、あらかじめ原水を放置して沈降物を除去する処理、あるいは凝集剤を加え、攪拌処理して、汚濁物質をある程度除去する処理などをあげることができるが、これらの処理に限定されることはない。
【0011】
本発明で使用できるろ過膜は中空糸膜からなる膜であれば全て使用できるのであり、たとえば精密ろ過膜(MF膜)、限外ろ過膜(UF膜)などが使用可能である。
上記中空糸膜を含む膜モジュールも特に制限されないのであるが、具体的には平膜型モジュール、中空糸型モジュール、管型モジュールなどが使用可能である。
【0012】
本発明では上記原水あるいは膜供給水を供給し、上記ろ過膜を通過処理させるのであるが、とくに全量ろ過法により膜ろ過することが好ましい。しかし全量ろ過法以外の運転方法により原水を膜ろ過してもよい。しかし全量ろ過法以外の運転方法により処理水を製造してもよい。
膜ろ過される原水の固形分濃度は、通常、約0.001〜1000mg/Lの範囲である。
本発明では、ろ過する水への凝集剤の添加攪拌手段を備えることが好ましい。前記添加手段は公知の凝集剤の添加手段を適宜採用すればよい。用いる凝集剤は水処理の分野で使用する一般的な凝集剤を使用すればよい。凝集剤の添加量は原水の濁度、フミン酸等の有機物の量により異なり、一概に規定できないが、1から200mg/L程度の範囲におさまる場合が多い。通常の河川の表流水では、10〜20mg/Lの範囲である。
【0013】
本発明では、逆洗排水を主成分とするプレコート液をろ過膜に適用し、ろ過膜の一次側表面にプレコート層を形成させ、その処理したろ過膜を使用して原水の水ろ過処理を行う。
前記処理したろ過膜は一定時間経過後再度逆洗処理し、繰り返し使用できるが、逆洗処理により生じる逆洗排水は再度プレコート液として再使用する。通常、逆洗排水はプレコート液貯蔵槽に一時的に蓄えられる。なお、プレコート層を形成するプレコート液としては、1〜50μm程度の固形分粒子が存在することが有利であり、とくに原水処理で凝集剤を添加しておくと好ましい結果をもたらす。
凝集剤を添加するタイミングとしては、原水の供給弁に連動して、原水タンクへ凝集剤を添加する方法と、原水供給ポンプより下流側で、原水供給配管内に直接注入し、ラインミキサー等で均一化する方法がある。
前記再使用する逆洗排水は、通常次第に固形分が増えていき、大きな粒径を持つ固形分から小さな粒径を持つ固形分まで多種類の固形分が存在することとなる。
【0014】
本発明では、プレコート液を構成する逆洗排水の処理に一つの特徴がある。
すなわち、固形物の分離、回収手段を有する篩状物を備えた固液分離装置を膜モジュールからの逆流洗浄水の排出配管に配置し、この篩状物に逆洗排水を通過させ、逆洗排水に含まれる固形分を分離し、回収する。この篩状物を通過し、固形分を除去した逆洗排水は逆洗排水投入手段によりプレコート液貯蔵槽に投入され、一時的に保存されることになる。
前記篩状物を備えた固液分離装置としては、逆洗排水中の固形分を分離する篩状物を備え、しかも固形物の分離、回収手段を有する固液分離装置であれば、とくに制限されない。前記固形物の分離、回収手段は、原水の膜ろ過処理技術で採用される一般的なものであれば、特に制限されない。
膜モジュールの逆流洗浄水の排出配管も原水の膜ろ過処理技術で採用される一般的なものであれば、特に制限されない。その排出配管の所定位置に前記固液分離装置を配置する。固液分離装置を配置する方法もとくに制限されない。
【0015】
前記用いられる篩状物の目開きは、とくに制限されないが、篩状物に逆洗排水を通過させると、逆洗排水中の固形分の性状や通過するときの圧力等により、逆洗排水中の固形分の粒径や濃度は変動するうえ、粒径の増加傾向にも差がでるので、逆洗排水中の固形分濃度が顕著に変化しないレベルで実験的にどの程度の目開きの篩状物を使用するか決めることが好ましい。例えば、逆洗排水中の固形分濃度が±20重量%程度の変化におさまるレベルとし、好ましくは±10重量%程度の変化におさまるレベルとする。プレコート量が多いと、初期の膜差圧の上昇が大きくなり、プレコート量が少ないと、ろ過時の膜差圧の上昇が大きくなる。
そのような固形分濃度におさまるように用いられる篩状物の目開きは、一概に規定することができないが、例えば45μm以上5600μm程度とすることが好ましい。
本発明では、一種類の目開きの篩状物を使用することが好ましいが、数種類の目開きの篩状物を組み合わせて使用することもできる。また、篩状物の材質はとくに制限されないが、例えば金網など金属製の篩状物が好ましい。
本発明では、原水の性状、逆洗排水の性状などに応じて適切な目開きの篩状物を使用することができるよう、目開きの大きさが異なる篩状物を変更する手段を備える膜ろ過装置を使用することが有利である。前記篩状物を変更する手段は所期の目的を達成できる限りとくに制限されない。
【0016】
前記篩状物に逆洗排水を通過させ、逆洗排水中に含まれる固形分を分離して、固形分濃度およびその大きさを制御できる。分離した固形分は回収し、必要に応じて処理を加え、排出する。
ここで、篩状物に逆洗浄工程排水を通過させる手段は、とくに限定されないのであり、原水の膜ろ過処理技術で採用される一般的な方法を採用すればよい。
【0017】
逆洗浄工程排水中の比較的大きい固形分を選択的に除去した処理液をプレコート液貯蔵槽に一時的に蓄えておき、必要に応じて逆洗浄工程排水をプレコート液貯蔵槽から取り出し、ろ過膜に適用すると、優れた効果をもたらすプレコート層がろ過膜表面の一次側に形成される。ここでのプレコート液貯蔵槽はとくに制限されないのであり、一般的に使用されるプレコート液貯蔵槽でよい。
【0018】
前記篩状物の表面の分離された固形分は、簡単に剥離・除去されるので、その点でも有利である。すなわち、公知の方法を適用して、該固形分を簡単に剥離・除去できる。例えば、篩の外側(二次側)から、内側(一次側)に向けて、ろ過膜通過水などの精製水を通水する逆圧洗浄により、筒状あるいはマカロニ状の固形分が容易に排出される。また、篩に振動を与えたり、ノズルより膜ろ過処理された水を噴出し、篩状物の固形分を洗い落とすことにより、篩状物の表面の固形分を容易に分離することができる。
本発明は、それら剥離・除去された固形分を脱水処理する固形分脱水処理手段をさらに備えることが特徴の一つである。固形分脱水処理手段としては、固形分あるいは固形分を含む懸濁液を脱水処理する公知の手段を採用すればよい。とくに、それら剥離・除去された固形分を含む水懸濁液を、減圧ろ過法など公知の脱水処理法を適用した後、脱水プレスなど公知の固形化処理技術を利用して、容易に固形化処理することが可能となる。
なお、プレコート層が形成されたろ過膜を用いて水処理すると、該プレコート層内に存在する固形分、とくに部分的にでも粒径が大きくなった固形分、あるいは硬さが増した固形分等は水分を吸収すると脆くなる傾向があり、取り扱いにくくなるので、できるだけ短い時間で固形分処理することが望ましい。
例えば、前記固形分が水分を余り吸収せず、取り扱いにくくならない程度に膜モジュールの近くに固液分離装置を設置することが望ましい。また、前記固形分が配管内へできるだけ沈着しないよう、また固形分の水分吸収量を少なくするよう、固液分離装置と膜モジュールとを接続する配管をできるだけ短く、しかも、曲がり部、弁等をできるだけ少なくなるように膜モジュールの近くに固液分離装置を設置することが好ましい。
篩表面の固形分を分離した後は、できるだけ短い時間に固形化処理することが望ましく、最大でも1日以内とする。
【0019】
本発明での膜ろ過装置には、固液分離装置を迂回して通る逆流洗浄水排出用バイパス配管、および切り替え弁をさらに備えることを特徴とし、これによりプレコート液中の固形分濃度を調整する。
プレコート液中の固形分濃度は上記、篩の目開きを変更して調整することができるが、それだけではプレコート液の固形分濃度を安定させることができないときがある。例えば、プレコート貯蔵槽に収まるプレコート液の濃度を測定し、その測定値が設定値よりも低くなったときには、測定値のデータが信号化され、その信号に応じて前記切り替え弁を制御して、逆洗排水の一部をバイパス配管から流し、固液分離装置で処理される逆洗排水の量を少なくし、プレコート液の濃度を調整する。
【0020】
プレコート液の濃度測定手段、バイパス配管と、流路切り替え弁、流路切り替え制御手段などは一般的な方法で採用されるものであればよいのであり、とくに制限されない。
【0021】
(作用)
本発明によれば、膜ろ過装置でプレコート液から形成されたプレコート層を設けたろ過膜を利用して固形分を含む原水をろ過することにより、プレコート液中の固形分と原水中の固形分がろ過圧力と通水により圧縮され、部分的に固形分の粒径は大きくなる。逆洗工程直後では、大きくなった粒径の固形分は、通常のプロペラ攪拌では容易に分散しないレベルに硬く凝集しており、マカロニ状に排出される場合が多い。このように硬く、大きな粒径の固形分は、容易に脱水し、固形化処理され易い。
しかし、逆洗時から時間が経過するにしたがって、硬く凝集した固形分中に水分が拡散し、時間の経過とともに、硬く凝集した固形分は脆く、また分散し易くなり、固形化処理されにくくなる。
このため中空糸膜モジュールの近くに固液分離装置を設置し、固形分を分離した後、できるだけ短時間で固形化処理することが好ましい。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、逆洗工程排水中の固形分を容易に脱水処理し、固形化することが可能になり、ろ過膜表面にプレコート層を円滑にしかも効率的に形成させることができる。また、プレコート液として再使用する逆洗工程排水の一部を除去する工程が不要であるから、除去した逆洗工程排水の汚泥処理が不要であり、それら処理に要する経費や時間的な負担を回避することができる。そのうえ、逆洗工程排水プレコート液の濃度を一定に制御することにより、逆洗排水プレコート本来の機能を常に発揮し、回収率を向上しつつ、膜ファウリングを抑制することにより安定運転可能な膜ろ過システム、もしくは膜ろ過流束を向上した膜ろ過システムを構築することができる。
さらに、本発明によれば、予め膜ろ過中にろ過圧力により形成された固形分ケーキ層の一部が、逆洗排水の水圧で破壊されずに、逆洗排水中に混在している。前記の固形分ケーキ層の一部をフルイで分離しているため、分離用のフルイから、容易に剥離する。これは、剥離されたケーキ層を短時間で処理した効果である。
また、凝集剤を多く含む排水汚泥は、通常減圧濾過法のみでは、十分な脱水ができない場合多い。しかし、本発明の固液分離装置で分離された固形分は、水圧により成形されたケーキ層であるため、減圧ろ過のみで固形分の脱水が可能になる。
【発明の実施の形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態について説明する。なお、本発明はこの実施の形態によって制限されるものではない。
(実施の形態)
図1は本発明における膜ろ過装置の構成図の一例を示す。
図1に基づいて説明すると、1は原水パイプ、2は原水槽、3は原水供給ポンプ、4は膜入口バルブ、5は中空糸膜モジュール、6は膜出口バルブ、7逆洗水槽入口バルブ、8は逆洗水槽、9は処理水パイプ、10は逆洗水供給ポンプ、11は逆洗水バルブ、12は逆洗排水バルブ、13は逆洗排水パイプ、14はプレコート液貯蔵槽(I)、15はプレコート液供給バルブ、16はプレコート液貯留槽(II)、17はプレコート液供給ポンプ、18はプレコート液供給バルブ、19は凝集剤注入装置、20は希釈液供給装置、21は固形分濃度計、22は金網の篩(図示されていない)を有する固液分離装置、25は固液分離装置の逆洗浄水の排水ラインである。
プレコート液貯留槽(I)14は、(イ)固形分の分散性を向上させるための滞留時間を得る目的、および(ロ)所定時間滞留後、上澄み液として余剰の水分を分離する目的で設置され、また必要に応じて、プレコート液貯蔵槽(I)14およびプレコート液貯留槽(II)16には、pH測定装置、分散装置、濁度計、導電率計等が設置される(図示していない)。
【0024】
本水処理装置は、少なくとも原水への凝集剤の添加手段、プレコート手段、ろ過手段、逆洗手段、固液分離手段および必要に応じて逆洗時の薬品添加手段等から成り立っており、それぞれの運転条件は原水処理量、原水の性状などの原水条件や希望する処理水の性状などに応じて決められる。
以下、本発明の実施の形態をプレコート工程、原水ろ過工程、逆洗工程の順に説明する。
【0025】
プレコート工程はプレコート液供給バルブ18、膜入口バルブ4、膜出口バルブ6および逆洗水槽入口バルブ7を開とし、プレコート液貯留槽(II)16に貯留しているプレコート液をプレコート液供給ポンプ17にて膜モジュール5に送水し、ろ過によりプレコート液中の固形分をろ過膜の表面に付着させプレコートを行う。
装置立ち上げ時には、固形分濃度、pH、分散状態が調整された凝集剤含有懸濁物質の必要量をプレコート液貯留槽(I)14、プレコート液貯留槽(II)16に貯留する。
プレコート液貯留槽(II)16は攪拌装置(図示されていない)を備え、均一になるように常時攪拌される(図中のA)。
【0026】
原水ろ過工程は、膜入口バルブ4、膜出口バルブ6および逆洗水槽入口バルブ7を開として、原水槽2に流入した原水パイプ1からの原水を原水供給ポンプ3にて膜モジュール5へ送水し、ろ過を行うもので、ろ過された水は逆洗水槽8を経て処理水供給パイプ9に接続される。
【0027】
逆洗工程は、逆洗水バルブ11、膜出口バルブ6および逆洗排水バルブ12を開として、逆洗水槽8の水を逆洗水供給ポンプ10にて膜の二次側から膜へと送水し膜を洗浄するもので、逆洗排水パイプ13内の逆洗排水は逆洗排水バルブ12を経て、固液分離装置22で固形分の一部を分離後、プレコート液貯留槽(I)14へ供給される。また逆洗浄工程の都度、逆洗排水は、プレコート液貯留槽(I)14へ供給され、所定量貯められた後、固形分濃度、pH、分散状態等を調整した後、プレコート液貯留槽(II)16に貯められ、プレコート液として再利用される。この際、特にあらたに懸濁物質を添加する必要が無い。なお、逆洗浄工程の頻度は原水の水質などに合わせて適宜対応することが望ましい。
プレコート液の膜への最適付着量は、固形分のかさ密度やろ過膜の中空糸径により異なり、一概に規定できないが、例えば1.5φの中空糸を用いた場合は、プレコート液の膜への最適付着量は約3〜15g/m2である。
【0028】
逆洗工程排水中の所定粒径以上の固形分を分離する手段としては、金属製の網を用いる方法が一般的である。
本発明の所定粒径以上の固形分を分離する装置の一例を図2に示す。
図2の所定粒径以上の固形分を分離する装置は、本発明の金網23、逆洗排水供給ライン13、分離した所定粒径以上の固形分を金網から分離するための洗浄水供給ライン24、分離した固形分を脱水装置に供給するライン25から構成されている。
所定粒径以上の固形分を分離する装置への逆洗水の供給は、15分から60分に1回実施され、1回の逆洗水の供給時間は、30秒〜150秒である。
【0029】
固液分離装置で分離された固形分を金網から剥離・除去する時間は短く、洗浄する時間は、短時間の方が好ましいが、剥離・除去した固形分を脱水機(図示していない)まで移動させ、ついで投入する必要があるから、その除去した固形分の性状、処理すべき量、固液分離装置から脱水機までの距離などにより、剥離・除去する時間や洗浄時間が決められる。
固液分離装置の洗浄水としては、ろ過前の原水が用いられる。
プレコート貯留槽(I)14からの余剰の水は、上澄み液として分離され、
UV殺菌処理等を実施後、廃棄するか、または原水槽に還流される。
薬品添加洗浄は必要により実施してよい。
【0030】
以下、本発明を実施例に基づいて詳細に説明する。なお、本発明はこの実施例によって制限されるものではない。
(実施例1)
図1に示すフロー図の装置で、膜面積0.04m2、分画分子量150,000〜200,000Da、内径1.5mmのポリエーテルスルホン/ポリビニルピロリドン混合製の内圧式中空糸膜を用いて運転を行った。
なお、運転管理の目的で膜モジュールの入口と出口に圧力計を取り付け、膜差圧を測定した。
(プレコート液の調整およびプレコート層の形成)
プレコート液として運転開始直後には、ポリ塩化アルミを含有した懸濁物質を汲み上げ、固形分濃度1g/L(濁度として900度)に調整し、プレコート液貯留槽(I)14で高速プロペラ攪拌により分散処理を行った。
このプレコート液をポンプ17により搬送し中空糸内部に付着させ、プレコート層を形成した。
(ろ過工程)
用いる原水は、河川表流水を模擬した人工原水を用い、濁度が1.5度、固形分濃度2mg/Lに調整した。膜ろ過流束は3m3/(m2・日)(以下m/dと表記する)とし、ろ過1回当たりの時間は20分である。
【0031】
(逆洗浄工程)
ろ過20分毎に膜処理水を用いて逆洗浄を実施した。
固液分離装置の金網の目開きは、1.0mm(16メッシュ)を用いた。金網の大きさは、直径50mmとした。
前記の逆洗工程で発生する逆洗排水は、固液分離装置に入る前の固形分濃度は1.3g/Lであった。また所定粒径以上の固形分を分離する装置を通過後の前記逆洗浄液の固形分濃度は、1.00g/Lであった。
固液分離装置で所定量の固形分を分離逆洗排水は、プレコート液貯留槽(I)14に導入される。所定時間経過後、プレコート液貯留槽(II)16に導入した。
【0032】
固液分離装置に入る前の逆洗排水のフルイ残留率は、別途、実験的に調べ、その結果を表1にまとめた。なお、表1での乾燥後累積残留率は、所定の目開きを持つ一つのフルイをそれぞれ調査した。
(表1) 逆洗排水の乾燥後累積残留率


【0033】
目開き1mm以上の大きな目開きのフルイの残留物はフルイから容易に剥離する。ところが、目開き0.3mm以下では、フルイから固形物の剥離が悪く、フルイを洗浄する必要があった。
乾燥後累積残留率(A)は、下記式から算出した。
A = (B/C) × 100
式中、Bは100mLの逆洗排水を所定目開きのフルイ有する固液分離装置に残留した固形分の105℃2時間乾燥後の重量をいい、Cは100mLの逆洗排水中の全固形分重量をいう。
通過液の固形分率(D)は、下記式から算出した。
D = (E/C) × 100
式中、Eは100mLの逆洗排水を所定目開きのフルイ有する固液分離装置を通過して得た逆洗排水中に存在する固形分の105℃2時間乾燥後の重量をいい、Cは上記と同じである。
なお、目開き0.75mmの篩の通過液の固形分率は42%であった。
【0034】
(固液分離装置からの固形分の分離)
固液分離装置からの固形分の分離は、洗浄水供給ライン24から、ろ過前の原水を0.1L/minの流速で供給し、金網23に付着した固形分を洗浄し除去した。固形分と洗浄水が固形分輸送ライン25から排出された。
プレコート工程、ろ過工程、逆洗浄工程を1日繰り返した結果後でも固形分濃度は1g/L(濁度900度)であり安定していた。
【0035】
(分離した固形分の濃縮)
固形分輸送ライン25から排出された固形分懸濁液の所定量を減圧ろ過法により、ろ過処理した。ろ過に用いたろ布は、通気度35(cc/cm2/sec at 12.7mmAq)のナイロン製、厚み、0.6mmを用いて20kPaの減圧下で容易に脱水でき、含水率70%前後の固形分の分離ができた。
【0036】
(膜差圧の変化)
膜差圧の変化は1日の運転で0.1kPaであった。
【0037】
(実施例2)
図3に示すフロー図の装置を用いてろ過運転を実施した。
図3は、図1の装置の膜モジュールと固液分離装置との間にバイパス流路32を構成し、切り替え弁31により、固液分離装置を通らず逆洗排水を直接プレコート液貯留槽(I)14に導入した。
上記実施例1とは異なる原水、すなわち、河川表流水が降雨により、濁度が上昇したことを想定して、濁度が8度、固形分濃度10mg/Lに調整した人工原水を用い、膜ろ過流束は3m3/(m2・日)とし、それ以外は実施例1と同じ、条件で6時間運転した結果、プレコート液の固形分の濃度が濁度で800度と減少した。
このため、切り替え弁31を作動させ、バイパス流路32より1回の逆洗排水の全量を直接プレコート貯留槽(I)14に導入した。この結果濁度は約1000度まで上昇した。
【0038】
(比較例)
プレコート液貯留槽からプレコート液(固形分1g/L)を3.3L分取し、自然沈降による濃縮後、上記実施例1と同様な、加圧ろ過を実施した。逆洗排水を固液分離装置処理せずに、実施例1と同様に減圧ろ過法により、ろ過処理した。ろ布より、汚泥が流出して濃縮ケーキが得られなかった。
【0039】
実施例1と同様の方法でフルイ上の乾燥後累積残留率を調べた。その結果を(表2)に示す。
(表2)


なお、0.75mmの目開きの篩を通過した液の固形分率は72%であった。
0.75mmの目開きの篩を用いたときには、サンプル液量100mLで目詰まりが発生し、最後の10mLの分離に5分以上を有し、目詰まりが発生したと判断した。
【0040】
本発明は次のように記載することもできる。
(1) 中空糸膜を用い、プレコート工程、ろ過工程、逆洗浄工程を繰り返し、逆洗浄工程排水をプレコート槽に投入し、循環し再使用する配管部を有する膜ろ過装置を用いる水処理方法において、膜モジュールとプレコート液貯蔵槽の間に配置にされた、篩状(金網)を用いた固液分離装置の金網の大きさを変えることにより、逆洗浄工程中に含まれる固形分の内、篩上に残留した固形分を分離し、プレコート液中の固形分の濃度を制御することを特徴とする固液分離装置付膜ろ過装置を用いる水処理方法。
(2) 中空糸膜を用い、プレコート工程、ろ過工程、逆洗浄工程を繰り返し、逆洗浄工程排水をプレコート槽に投入し、循環し再使用する配管部を有する膜ろ過装置を用いる水処理方法において、膜モジュールとプレコート液貯蔵槽の間に配置にされた、篩状(金網)を用いた固液分離装置により、逆洗浄工程中に含まれる固形分の内、残りの逆洗浄液をプレコート槽に投入し、循環し再使用するプレコート液中の固形分濃度を一定保つこと、および前記固液分離装置とは別のバイパス配管と流路切り替え弁を有し、プレコート槽中の濁度を測定し、濁度の信号により流路切り替え弁を制御して、プレコート液中の固形分濃度を制御すること特徴とする固液分離装置付膜ろ過装置を用いる水処理方法。
(3) 中空糸膜を含む膜モジュールと、逆流洗浄工程排水を主成分とするプレコート液を収容するプレコート液貯蔵槽とを少なくとも有する原水の膜ろ過装置の運転方法において、前記膜モジュールと前記プレコート液貯蔵槽の間に配置にされた篩状物に逆流洗浄工程排水を通過させ、逆流洗浄工程排水中に含まれる固形分を分離・除去すし、プレコート液中の固形分の濃度を制御することを特徴とする原水の膜ろ過処理方法。
【0041】
(4) 中空糸膜を含む膜モジュールと、逆流洗浄工程排水を主成分とするプレコート液を収容するプレコート液貯蔵槽と、バイパス配管と、流路切り替え弁とを少なくとも有する原水の膜ろ過装置の運転方法において、前記膜モジュールと前記プレコート液貯蔵槽の間に配置にされた篩状物に逆流洗浄工程排水を通過させ、逆流洗浄工程排水中に含まれる固形分を分離・除去し、逆流洗浄工程排水を主成分とするプレコート液中の固形分の濃度を制御することを特徴とする原水の膜ろ過装置の運転方法。
(5) さらに、固液分離装置で逆流洗浄工程排水の固形分を分離処理した後の残りの逆流洗浄工程排水をプレコート液貯蔵槽に投入する上記(4)の原水の膜ろ過装置の運転方法。
(6) プレコート液中の固形分の濃度を制御する手段が、少なくともプレコート中の濁度測定手段と、プレコート液濁度調整液貯蔵槽と、プレコート液濁度制御手段と、バイパス配管と、流路切り替え弁とを備え、プレコート液中の濁度の信号により流路切り替え弁を制御して、プレコート液中の固形分濃度を一定に保つよう制御することを特徴とする上記(4)の原水の膜ろ過装置の運転方法。
(7)固液分離装置を通過した逆洗排水液を含むことを特徴とするプレコート液の調製方法。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の実施の形態1に係る構成図
【図2】本発明の所定粒径以上の固形分を分離する装置に係る構成図
【図3】本発明の実施の形態2に係る構成図
【符号の説明】
【0043】
1、原水パイプ
2、原水槽
3、原水供給ポンプ
4、膜入口バルブ
5、中空糸膜モジュール
6、膜出口バルブ
7、逆洗水槽入口バルブ
8、逆洗水槽
9、処理水パイプ
10、逆洗水供給ポンプ
11、逆洗バルブ
12、逆洗排水バルブ
13、逆洗排水
14、プレコート液貯留槽(I)
15、プレコート液供給バルブ
16、プレコート液貯留槽(II)
17、プレコート液供給ポンプ
18、プレコート液供給バルブ
19、凝集剤注入装置
20、希釈水供給バルブ
21、固形分濃度計
22、固液分離装置
23、金網
24、固液分離装置の逆洗浄水の供給ライン
25、固液分離装置の逆洗浄水の排水ライン
31、切り替え弁
32、バイパス流路




【特許請求の範囲】
【請求項1】
膜モジュールを備える水ろ過手段、逆流洗浄手段、およびプレコート層形成手段を少なくとも備える膜ろ過装置において、前記膜モジュールからの逆流洗浄水の排出配管に、固形物の分離、回収手段を有する篩状物を備えた固液分離装置を配置することを特徴とする膜ろ過装置。
【請求項2】
固液分離装置に備える篩状物の目開きの大きさを変更する手段をさらに備え、前記篩状物の篩の目開きによりプレコート液中の固形分濃度を調整することを特徴とする請求項1記載の膜ろ過装置。
【請求項3】
ろ過する水への凝集剤の添加攪拌手段をさらに備えることを特徴とする請求項1又は2記載の膜ろ過装置。
【請求項4】
固液分離装置を迂回して通る逆流洗浄水排出用バイパス配管、および切り替え弁をさらに備えることを特徴とする請求項1〜3記載のいずれかの膜ろ過装置。
【請求項5】
固液分離装置で分離した固形分を脱水処理する固形分脱水処理手段をさらに備えることを特徴とする請求項1〜4記載のいずれかの膜ろ過装置。
【請求項6】
膜モジュールを備える水ろ過装置内に通水する水ろ過工程、膜モジュールを逆流洗浄する逆流洗浄工程、および膜面にプレコート層を形成するプレコート層形成工程とを少なくとも有する水処理方法において、前記膜モジュールからの逆流洗浄水排出用配管に配置した、固形物の分離、回収手段を有する篩状物を備えた固液分離装置の篩状物に逆流洗浄水を通過させる工程、および逆流洗浄水中の固形分を分離・回収する工程を少なくとも有することを特徴とする水処理方法。
【請求項7】
固液分離装置に備える篩状物の目開きの大きさを変更する工程をさらに有し、前記篩状物の篩の目開きによりプレコート液中の固形分濃度を調整することを特徴とする請求項6記載の水処理方法。
【請求項8】
固液分離装置を迂回して通る逆流洗浄水排出用バイパス配管、および切り替え弁を備える請求項4記載の膜ろ過装置を用い、固液分離装置を通過する水の量を制御する工程をさらに有し、前記固液分離装置を通過する水の量を制御することによりプレコート液中の固形分濃度を調整することを特徴とする請求項7記載の水処理方法。
【請求項9】
プレコート液中の固形分濃度を測定する工程、およびその測定した固形分濃度の信号により流路切り替え弁を制御する工程をさらに有し、前記流路切り替え弁を制御することによりプレコート液中の固形分濃度を制御すること特徴とする請求項8記載の水処理方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−83158(P2007−83158A)
【公開日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−274767(P2005−274767)
【出願日】平成17年9月21日(2005.9.21)
【出願人】(591083244)富士電機システムズ株式会社 (1,717)
【Fターム(参考)】