説明

圧力スイング吸着システムにおける浅床の性能安定性

【課題】不純物、特に水を除去するための改善された、小型、携帯型、高速サイクルのPSA(圧力スイング吸着)酸素濃縮器の設計および操作の提供。
【解決手段】(a)水に対して選択的である吸着剤の第1の層と窒素に対して選択的である吸着剤の第2の層とを有する吸着材を準備すること、ここで第1の層の吸着剤上の水負荷≧約0.05mmol毎グラムでの水の吸着熱は≦約14kcal/モルである、(b)続いて、少なくとも酸素、窒素および水を含む供給ガスに第1および第2の層を通過させ、吸着剤の第1の層で水を吸着し、吸着剤の第2の層で窒素を吸着すること、ここで第1の層における水の物質移動係数は約125から約400sec-1の範囲内であり、第1の層における供給ガスの見掛けの接触時間は、約0.08から約0.50秒の間である、そして(C)酸素に富む製品を吸着材から回収すること、を含む酸素製造のためのPSA法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
近年の方法および吸着剤の技術の進歩により、従来の大規模な圧力スイング吸着(PSA)システムを、極めて短い持続時間の高速サイクルで操作する大幅に小型のシステムに小規模化することが可能になってきた。これらの小型な高速サイクルのPSAシステムは、たとえば、周囲の空気から酸素を回収する携帯型の医療用酸素濃縮器に活用できる場合がある。これらの濃縮器に対する市場は成長しているため、ますますより小型、より軽量、およびより携帯性が良いユニットを、酸素療法における患者の利益のために開発する動機が存在する。
【背景技術】
【0002】
供給ガス不純物の吸着剤における影響は、多くのPSAシステムにおいて一般的な問題であり、該影響は、小型の高速サイクルPSAシステムで要求される小型の吸着剤床において特に深刻である。たとえば、空気中の水および二酸化炭素の不純物は、吸着した不純物がPSAサイクルの再生ステップ中に不完全に除去されることによる吸着剤の進行性の非活性化のために、小型PSA空気分離システムの性能が顕著に下降する原因となり得る。この進行性の非活性化に起因して、酸素の回収が時間とともに下降することがあり、吸着剤の交換が定期的に要求される場合がある。または、進行性の吸着剤の非活性化をなくすために吸着剤床をオーバーサイズとしなければならない場合がある。これらの場合の両方とも、酸素濃縮器システムのコストおよび質量を増大させるため望ましくない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
不純物、特に水を除去するための改善された方法に対する技術では、小型、携帯型、高速サイクルのPSA酸素濃縮器の設計および操作における要求がある。この要求は、以下に記載されそして特許請求の範囲に規定される本発明の態様により対処される。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の第1の態様は、酸素を製造するための圧力スイング吸着法を包含し、該圧力スイング吸着法は、
(a)供給端および製品端を有する少なくとも1つの吸着管を準備すること、
管は、供給端に近接する吸着剤材料の第1の層、および前記第1の層と前記製品端との間に配置されている吸着剤材料の第2の層を含み、第1の層における吸着剤は水、酸素および窒素を含む混合物からの水の吸着のために選択的であり、かつ第2の層における吸着剤は酸素および窒素を含む混合物からの窒素の吸着のために選択的であり、そして、前記第1の層の吸着剤材料上の水の吸着熱は、吸着剤グラムあたり、約0.05mmolと等しくまたはそれを超える吸着水の負荷時に約14kcal/モルと等しくまたはそれ未満である、
(b)少なくとも酸素、窒素および水を含む加圧された供給ガスを、吸着管の供給端に導入し、続いてガスに第1および第2の層を通過させ、前記第1の層における吸着剤材料中で水の少なくとも一部を吸着させ、前記第2の層における吸着剤材料中で窒素の少なくとも一部を吸着させること、
吸着剤材料の第1の層における水の物質移動係数は、約125から約400sec-1の範囲内であり、かつ第1の層における加圧された供給ガスの見掛けの接触時間が、約0.08から約0.50秒の間である、
そして、
(c)酸素に富む製品ガスを、吸着管の製品端から回収すること、
を含む。
【0005】
第1の層の吸着剤材料は、活性アルミナを含むことができ、該活性アルミナは、約0.3mmから約0.7mmの間の平均粒径を有することができる。第2の層の吸着剤材料は、アルゴンおよび酸素を含む混合物からのアルゴンの吸着のために選択的であることができる。吸着管の製品端から回収された製品ガス中の酸素濃度は、少なくとも85体積%とすることができる。加圧された供給ガスは空気であることができる。
【0006】
第1の層の深さは、第1および第2の層の全深さの約10%から約40%の間とすることができ、そして、第1の層の深さは、約0.7から約13cmの間とすることができる。吸着管は円筒型であることができ、そして、第1および第2の層の全深さの、吸着管の内径に対する比が、約1.8から約6.0の間であることができる。
【0007】
圧力スイング吸着法は、加圧された供給ガスを吸着管の供給端に導入し、そして酸素に富む製品ガスを吸着管の製品端から回収する供給ステップと、ガスを吸着管の供給端から回収して、第1および第2の層における吸着剤材料を再生させる減圧ステップと、1種以上の再加圧ガスを吸着管内に導入することにより吸着管を加圧する再加圧ステップとを少なくとも含む繰り返しサイクルで操作されることができ、そして供給ステップの持続時間が約0.75から約45秒の間であることができる。サイクルの全持続時間は約6から約100秒の間であることができる。酸素に富む製品ガスの流速は、約0.1から約3.0標準リットル毎分の間であることができる。
【0008】
第1の層における吸着剤材料のグラム単位の質量の、製品ガス中の酸素純度93%での製品ガスの標準リットル毎分単位の流速に対する比は、約50g/slpm未満であることができる。製品ガス中の酸素純度93%での、製品ガス中に回収された酸素の量は、加圧された供給ガス中の酸素の量の約35%を超えることができる。
【0009】
第2の層における吸着剤材料は、X型ゼオライト、A型ゼオライト、Y型ゼオライト、菱沸石、モルデナイト、およびクリノプチロライトからなる群から選択される1種以上の吸着剤を含むことができる。この吸着剤材料は、活性部位カチオンの少なくとも約85%がリチウムのリチウム交換低シリカX型ゼオライトであることができる。
【0010】
本発明の他の態様は、酸素を製造するための圧力スイング吸着法に関し、該圧力スイング吸着法は、
(a)供給端および製品端を有する少なくとも1つの吸着管を準備すること、
管は、供給端に近接する吸着剤材料の第1の層、および第1の層と製品端との間に配置されている吸着剤材料の第2の層を含み、第1の層における吸着剤は水、酸素および窒素を含む混合物からの水の吸着のために選択的であり、かつ第2の層における吸着剤は酸素および窒素を含む混合物からの窒素の吸着のために選択的であり、そして、第1の層の吸着剤材料上の水の吸着熱は、吸着剤グラムあたり、約0.05mmolと等しくまたはそれを超える吸着水の負荷時に約14kcal/モルと等しくまたはそれ未満である、
(b)少なくとも酸素、窒素および水を含む加圧された供給ガスを、吸着管の供給端に導入し、続いてガスに第1および第2の層を通過させ、第1の層における吸着剤材料中で水の少なくとも一部を吸着させ、第2の層における吸着剤材料中で窒素の少なくとも一部を吸着させること、
吸着剤材料の第1の層における水の物質移動係数は、約125から約400sec-1の範囲内である、
そして、
(c)酸素に富む製品ガスを、吸着管の製品端から回収すること、
第1の層における吸着剤材料のグラム単位の質量の、製品ガス中の酸素純度93%での製品ガスの標準リットル毎分単位の流速に対する比が、約50g/slpm未満である、
を含む。
【0011】
第1の層における吸着剤材料は活性アルミナを含むことができ、活性アルミナの平均粒径は約0.3mmから約0.7mmの間であることができる。第2の層における吸着剤材料は、アルゴンおよび酸素を含む混合物からのアルゴンの吸着のために選択的であることができる。吸着管の製品端から回収された製品ガス中の酸素の濃度は少なくとも93体積%であることができる。加圧された供給ガスは空気であることができる。
【0012】
第1の層の深さは、第1および第2の層の全深さの約10%から約40%の間であることができ、第1の層の深さは、約0.7から約13cmの間であることができる。吸着管は円筒型であることができ、かつ、第1および第2の層の全深さの、吸着管の内径に対する比は、約1.8から約6.0の間であることができる。
【0013】
圧力スイング吸着法は、加圧された供給ガスを吸着管の供給端に導入し、そして酸素に富む製品ガスを吸着管の製品端から回収する供給ステップと、ガスを吸着管の供給端から回収して、第1および第2の層における吸着剤材料を再生させる減圧ステップと、1種以上の再加圧ガスを吸着管内に導入することにより吸着管を加圧する再加圧ステップとを少なくとも含む繰り返しサイクルで操作されることができ、そして供給ステップの持続時間が約0.75から約45秒の間であることができる。
【0014】
サイクルの全持続時間は、約6から約100秒の間であることができる。酸素に富む製品ガスの流速は、約0.1から約3.0標準リットル毎分の間であることができる。製品中の酸素純度93%での、製品ガス中に回収された酸素の量は、加圧された供給ガス中の酸素の量の約35%を超えることができる。第2の層における吸着剤材料は、X型ゼオライト、A型ゼオライト、Y型ゼオライト、菱沸石、モルデナイト、およびクリノプチロライトからなる群から選択される1種以上の吸着剤を含むことができる。この吸着剤材料は、活性部位カチオンの少なくとも約85%がリチウムのリチウム交換低シリカX型ゼオライトであることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
近年の方法および吸着剤の技術の進歩により、従来の大規模な圧力スイング吸着(PSA)法の設計を大幅に小型のシステムに小規模化することが可能になっている。これらのより小型なシステムは、たとえば、空気から酸素を回収するための医療用酸素濃縮器等の輸送可能な装置において特に有用である。医療用酸素濃縮器の市場は発展しているため、より小型、より軽量で、かつより輸送性の良い装置が、酸素療法を求める患者の利益のためにますます要求されている。
【0016】
酸素PSAシステムにおいて窒素選択的吸着剤として一般に使用されるゼオライト吸着剤は、周囲の空気中に存在する混入物質、特に水および二酸化炭素に対する感度が高く、水は、最も深刻でかつ支配的な混入物質である。窒素選択的なゼオライト吸着剤は、これらの不純物に対して高い親和性を有し、そしてPSA法の再生ステップの間に不純物が適切に除去されない場合には急速な非活性化が生じる可能性がある。この方法では、これらの不純物を供給ガスから除去するために多数の技術が用いられてきた。単数または複数の床のシステムでは、窒素選択的吸着剤の1または2以上の層に続く供給入口に不純物選択的な吸着剤の前処理層が用いられている管内の層吸着剤が一般的である。不純物選択的な前処理吸着剤の目的は、水および/または二酸化炭素を低減または除去し、進行性の非活性化から下流の吸着剤を保護することにある。
【0017】
窒素選択的吸着剤の性能における不純物の影響は、携帯型の酸素濃縮器に用いられる小型のPSAシステムにおいて、より大型の工業的なPSAシステムと比べて大幅に大きい。小型のPSAシステムにおいて不純物が適切に除去されないと、不純物が窒素吸着剤床を経て進む可能性があり、そして長期間に亘ってPSAシステムの性能が緩慢に下降する原因となる可能性がある。混入物質は、PSA供給ステップの間に前処理層によって除去できるが、パージステップの間にこの層の不適切な再生が生じ、そして窒素吸着剤の緩慢な非活性化に至る可能性がある。この問題の解決は、以下に記載する本発明の態様によってもたらされる。
【0018】
ここに用いる一般的な用語「圧力スイング吸着」(PSA)は、最大と最小との間の圧力で操作する全ての吸着型分離システムに適用する。最大圧力は、典型的には大気圧を超え、最小圧力は、大気圧を越えまたは大気圧よりも下であることができる。最小圧力が大気圧よりも下で、最大圧力が大気圧を超える場合、システムは典型的には圧力真空スイング吸着(PVSA)システムといわれる。最大圧力が大気圧またはこれより低く、最小圧力が大気圧より低い場合、システムは典型的には真空スイング吸着(VSA)システムといわれる。
【0019】
ここに用いる不定冠詞「a」および「an」は、明細書および特許請求の範囲に記載される本発明の態様のいずれの特徴に適用される際にも1以上を意味する。「a」および「an」の使用は、限定する旨の特記がない限り意味を単数の特徴に限定するものではない。単数または複数の名詞または名詞句に先立つ定冠詞「the」は、特に具体的な単数または複数の特徴を意味し、使用される文脈によって単数または複数の意味を有することができる。形容詞「any」は、量にかかわらず1つ、幾つかまたは全てを区別なく意味する。第1の構成要素と第2の構成要素との間に配置される用語「および/または」は、(1)第1の構成要素、(2)第2の構成要素、および(3)第1の構成要素および第2の構成要素、のうち1つを意味する。
【0020】
現代の携帯型酸素濃縮器は、PSAシステムを活用し、電源への接続を必要とすることなく合理的な時間ほぼ独立して外来患者を移動できるようにするためにバッテリー動力である。軽量であることは開発の成功のために重大であり、これらの酸素濃縮器の用途、これを実現するために重要な設計因子としては、改良された吸着剤材料、小規模なコンプレッサ技術、改善されたバッテリーの化学物質、構造物の軽量材料、新たなバルブ技術、小型化電子部品、および改善された保護装置がある。加えて、PSAサイクルおよび吸着剤を適切に選択することにより酸素の回収を顕著に改善することができ、これにより、吸着剤およびシステムの操作に必要なバッテリーの質量を低減させることができる。
【0021】
いずれのPSA法に対しても、回収の改善は、有利な吸着最大容積および力学的特性を有する吸着剤材料を備える高速サイクルを活用することにより実現できる。高速サイクル法において、吸着動態は、吸着剤床のサイズの低減において重要な因子である。上記のように、吸着剤床は、種々の濃度の供給混入物質を除去する前処理領域と、主な分離を行う主吸着剤領域とを含むことができる。PSA酸素濃縮器において、混入物質としては、典型的には水、CO2、アミン、硫黄酸化物、窒素酸化物、および微量炭化水素が挙げられる。主な分離は、窒素を窒素選択的な吸着剤上に吸着させることにより達成される。
【0022】
窒素選択的な吸着剤はこれらの混入物質に対して高い吸着親和性を有するため、混入物質が一旦吸着されると、吸着された混入物質を除去することは困難である。このことは、パージによって再生される前処理吸着剤によって混入物質を除去する酸素PSAシステムにおける窒素/酸素の分離の効率に不利に影響する。本発明の態様は、種々の周囲の操作条件下での窒素選択的な吸着剤の性能を維持しつつ、前処理層における吸着剤の量を低減することを目的とする。適切な供給ガス前処理の重要性は、LiXゼオライト上の、乾燥窒素の吸着最大容積 対 吸着された相の質量%(水およびCO2)のプロットである図1に示される。吸着された水およびCO2の低いレベルでは、窒素選択的な平衡吸着最大容積の顕著な低下が生じることが分かる。
【0023】
水蒸気は、周囲の空気から酸素を回収するためのPSAシステムにおいて重大な供給混入物質である。X型ゼオライト、およびリチウムを含有する低シリカゼオライト等の窒素選択的な吸着剤は、水を強く吸着し、吸着された水を再生において除去するために高い活性化エネルギーを必要とする。PSA空気分離で使用されるゼオライト上の水の混入は、図1に示すように窒素最大容積の顕著な低下の原因となる。温度、高度、および湿度レベルの幅広い範囲の環境条件で濃縮器を操作するため、携帯型酸素濃縮器への供給空気には幅広い範囲の水の濃度が存在する可能性がある。したがって、いずれの携帯型濃縮器システムも、供給ガスの幅広い範囲の混入物質レベルに対して設計しなければならない。
【0024】
PSAシステムの操作を説明してきた鍵となるパラメータは、吸着剤床におけるガスの見掛けの接触時間である。このパラメータは、
【0025】
【数1】

【0026】
(式中、Lは床長さであり、v0は、空の床体積に基づいた床を通過する供給ガスの見掛けの速度である)として規定される。見掛けの接触時間は、前処理層を含む床中の全ての吸着剤に対して規定してもよく、またはこれに代えて、前処理層に対してのみ規定してもよい。見掛けの接触時間を最小にすることは、混入物質除去のための吸着剤を選択するために必要である。
【0027】
典型的な大気条件下(たとえば、供給環境空気中の相対湿度10〜20%)では、酸素PSAシステムにおいて前処理吸着剤なしのゼオライト床を操作することにより、システム性能の短期間での顕著な下降という結果がもたらされる可能性がある。このことは、単床の酸素PVSAシステムで、窒素選択的LiX吸着剤の全ての床を前処理層なしで用いて実施された実験によって説明された。UOP Oxysiv−MDX吸着剤の単床は、4ステップ法(供給再加圧、供給/製品製造、排気、パージ)で循環させた。床の内径は0.88インチであり、床高さは2.47インチであり、全サイクル時間は19秒であり、床供給見掛け速度が約0.38ft sec-1で製品速度は43〜48sccmであった。この実験の結果を、酸素製品純度 対 80,000サイクルにわたる時間、のプロットである図2に示す。前処理層がないことによる経時的な製品純度の下降は、ほぼ直後に生じ、そして実験時間にわたって単調に近く継続する。
【0028】
典型的な携帯型酸素濃縮器の設計のための処理条件は、PVSAにおいて約0.4atmaから約1.7atmaの間、PSA法において約1atmaから約6atmaの間のサイクル差圧を含んでもよい。65%(すなわち、供給ガスにおける製品として回収される酸素の百分率)の酸素回収を実現するためには、純度93%の酸素の0.25から5.0slpmの製造のために、供給流速を約2slpmから約40slpmの範囲内とすることが必要である。酸素濃縮器の操作温度は、典型的には〜70°Fであるが、濃縮器の配置場所に応じて、0°Fから100°Fの範囲内とすることができる。標高は、海水位から海抜6000ftの範囲内とすることができる。標準的な条件は、21.1℃および1atmとして規定される。
【0029】
吸着床中での効率的な混入物質処理のためには、好都合な平衡特性および物質移動特性を有する前処理吸着剤が求められる。供給混入物質を低減または除去するという課題を果たすために、種々の吸着剤が入手可能である。図3は、水の吸着熱 対 典型的な前処理吸着剤に対する水負荷、のプロットである。
【0030】
前処理吸着剤および窒素選択的ゼオライトの吸着動態は、物質移動係数、ki、ここでkは、適切な物質移動モデルを用いた、ソルベートiに対する速度定数である、により定量できる。このパラメータは、実験的な解明またはサイクルデータを適合させることにより決定できる。実際の処理、および処理動態のより実際的なモデルに存在する物質移動抵抗の全てのメカニズムの完全な組み合わせからなるサイクルデータの適合は、サイクルデータから得られる物質移動パラメータより決定される。
【0031】
既知の吸着剤上での水吸着の物質移動パラメータを評価するために、実験的な単床PSA装置を構成した。装置は、床圧力および供給流速が可変である実験的な処理操作を行う能力を有するものである。代表的な物質移動係数kを測定するために、選択された圧力および供給速度で該装置を操作して実際のまたは計画された実物大の方法のそれと一致させた。
【0032】
図4は、単床実験システムの概略フロー図である。試験システムは、吸着剤、空の製品タンク111、および、空気供給流量および排気中の減圧をも規定するエアコンプレッサ101を有する吸着管110を含んでいた。該空気供給流量は、バルブ102を経たブリードオフ流量を絞ることによって調整し、流量計103で測定した。供給入口/真空出口にサイレンサー/フィルター104を配置した。組になった空気バルブ(105〜108,112)をプログラマブル論理制御装置119によって順に操作した。PSAサイクルにおける処理ステップの持続時間は、プログラマブル論理制御装置によって管理した。吸着床の製品端における圧力センサ109および製品タンクの入口端における圧力センサ115によって圧力を測定した。チェックバルブ113は、製品タンク111にガスを流すタイミングを制御した。ニードルバルブ118によって製品流量を調整し、パラマグネチック酸素アナライザ116によって酸素純度を測定し、流量計117によって流速を測定した。供給ガスの温度および湿度は、システムの供給入口において測定した。該システムを、環境が制御された実験室に配置した。
【0033】
吸着剤の物質移動特性の評価には標準的な試験手順を用いた。床圧力を約0.3atmから約1.2atmで循環させ、酸素製品純度を93%で維持し、そして供給ガスおよび排気ガスの見掛け速度を約0.39ft sec-1とした。これらの目的を実現するために、サイクルタイムを僅かに変化させ、かつ製品流速を変化させることが必要であった。供給ガスの湿度、圧力、温度および流速は直接測定によって測定した。製品の流速および濃度はサイクル定常状態において測定した。収集したプロセスデータの全てを用い、試験した吸着剤の物質移動係数k、を評価するためにコンピュータシミュレータモデルを構築した。このコンピュータモデル、SIMPACは、1以上の吸着剤床および多成分供給ガスを有するサイクルのエネルギー、質量および運動量収支を解くプロセスシミュレータである。該プロセスシミュレータは、物質移動および均衡モデルの値域を利用できる。SIMPACの使用および検証は、参照によりここに組み入れられる米国特許第5,258,060に記載されている。選択された物質移動モデルにおいて、kは、分圧駆動力、
【0034】
【数2】

【0035】
(ここで、
【0036】
【数3】

は、ペレット中に吸着された平均量、q*は、吸着剤の単位体積当たりの吸着された平衡量、そして、kは、物質移動係数である)
を含むよく知られた線形駆動力モデルより与えられる速度定数である。
【0037】
平衡特性を説明するために単成分の等温線を用い、軸方向分散は無視できる程度であることを確定し、非等温エネルギー収支において自然対流熱伝導モデルを用いた。既知の材料上での水吸着の物質移動挙動の決定においては、2つの吸着剤層を有する床を用いた。第1の層は水および二酸化炭素のみを吸着し、一方第2の層は、供給ガス中の全ての成分に対する親和性を有する。第2の層は、全ての純粋成分の等温線および物質移動係数が既知である十分に特徴付けられた材料である。サイクル実験に加えて、実験が完了し、脱着ガスの熱重量分析(TGA)または好ましくは赤外検出熱重量分析(TGA−IR)によって水の含有量が分析された後、良好に維持された部分の吸着剤カラムから該材料を除去した。この直接測定から吸着された水のプロファイルを得、そしてコンピュータシミュレーションの結果に一致させた。これによりkパラメータを決定した。
【0038】
Alcan AA−300およびAA 400ならびにUOPのアルミナを、種々の粒子サイズに篩い分けし、上記の手順を用いて試験した。床高さは2.4から3.2インチの間であり、床内径は0.88インチであった。前処理床の高さは1cmであり、供給線速度は約0.4ft sec-1であった。上記のように、これらの材料に対して決定された物質移動パラメータを表1に示す。
【0039】
【表1】

【0040】
単床実験は、処理において鍵となる特性の前処理速度パラメータの全般的な効果を測定するために延長した。表2は、全般的な回収および床サイズ因子(BSF)における前処理速度の影響を示している。吸着剤床の主な部分に使用された吸着剤は、UOP Oxysiv MDX、UOP Oxysiv−7およびパイロットスケールのLiLSXの材料である。高いk値を有する前処理材料を使用する場合には、同一の主床吸着剤を有するシステムにおける性能のこの比較によって、区別可能な差異が示される。たとえば、同一のOxysiv−MDXを用い、そして床の分割が30/70である場合には、ケース1をケース7と比較できる。より大きいk値(200sec-1 対 30sec-1)を有する前処理材料を用いることによって回収が29%から45%に改善され、そしてケース7の床サイズ因子はケース1のそれの73%である。
【0041】
【表2】

【0042】
例1
前処理吸着剤の物質移動特性はまた、ヨーロッパ特許出願第1598103A2で既述の4床法の性能を予測するために使用され、サイクル時間は6.0〜8.0秒であり、個々のステップ時間は0.75から1.0秒であった。この4床法は、以前は理解されていなかった、前処理層中の混入物質の動態および全般的な製品回収と携帯型システムにおける床サイズ因子との間の関係性を示すために、シミュレーションおよび実験の両方で実行された。表3ではこれらの実験結果を要約している。
【0043】
【表3】

【0044】
高速サイクル法では、主床吸着剤の部分が不可逆的に汚染されてくるため、前処理層において除去された水の量が窒素除去の有効性に強く影響する。この主な床の汚染を最小限にすることは、所望の性能の維持において重要である。前に述べたように、最大容積および吸着動態は供給ガスからの水の除去において重要である。前処理吸着剤は、相当に低い活性エネルギー(吸着熱)および高い吸着動態を有していなければならない。いずれの吸着剤上の水の吸着熱も無視できないため、吸着剤床内の温度プロファイルは、混入物質の除去および再生の有効性の要因となる。主吸着剤床における窒素選択的吸着剤と比較して水が低い脱着熱を有するシステムにおいては、等温条件付近でシステムを運転するのがよい。
【0045】
純粋に等温的に実行できる方法はないが、等温条件付近におけるシステムは、周囲大気の吸着法のうち高い熱伝導度が存在するシステムとして特定される。先行技術に示されるように、種々の理由で、床の温度プロファイルが供給入口の温度と比べて極めて低く下落する層状床の界面付近で「低温領域」といわれる温度効果が観察される。熱伝導の改善に伴い、この温度の下落を最小限にすることができる。たとえば、吸着剤床からカラム壁への熱伝導の程度は、単一熱伝導パラメータhw、ここでhwがより高い値であるとより狭い床温度プロファイルがもたらされることが示される、によって表される。床温度が大きく低下することは、「下落」が生じる領域の再生のためにより高いエネルギーを必要とする原因となる。小型の携帯型吸着システムにおいて、真空エネルギーの増大は、コンプレッサの容量が増大し、したがって動力および質量がより高くなるという形でコスト高となる。
【0046】
この問題の解決は、前処理吸着剤の再生のために要求されるエネルギーが最小化され、吸着熱および再生熱が吸着剤床からまたは吸着剤床に容易に伝導される層状吸着剤床を使用することである。この改善の効果は、前述の4床システムの性能を説明する図5および表4に示され、全般的な製品回収因子および床サイズ因子がhwに依存することが示される。
【0047】
圧力降下効果は、前処理吸着剤の選択および最適化において重要である。より小さい粒子は、より良好な物質移動特性およびより高いk値を有する傾向があるため、これらは高速サイクルシステムにおいて好適である。しかし、吸着剤粒子のサイズが低減されているため、充填された床で実行不可能となる所定サイズを粒子に下回らせる圧力降下および取り扱いに関する重要な課題が存在する。
【0048】
例2
例1に記載される4床法を用いてシミュレーションを行った。環境条件は1atm、73°F、および25%相対湿度と仮定した。Alcan AA400Gアルミナ前処理層と高度に交換されたLiLSX主床層との床を25/75比(前処理層/主層)で用いた。全サイクル時間は8秒であり、熱伝導係数として0.87BTUlb-1hr-1°F-1を用いた。前処理吸着剤の粒子サイズおよび水物質移動係数kwの種々の値に対してシミュレーションを行った。kwの値は、
【0049】
【数4】

【0050】
(ここで、有効拡散係数Deffは、全ての粒子サイズに対して一定と仮定した)
の関係に従って変動した。比較のために、各々のケースの固有の断熱動力を評価した。
【0051】
結果は図6に表されており、より小さい粒子サイズが用いられたときの、圧力降下の増大および動力の鋭い増大に伴う、小さいビーズ粒子の使用における製品回収効果を示している。図6の操作データでとらえられない操作上の問題は、粒子をこすることによる微粒子の生成であり、これは、小さい粒子を移動および振動させるために要求されるエネルギーがより大きい粒子に対するよりも低く、したがってより小さい粒子の摩耗の可能性が増大することが原因で生じる。このような微粒子および粉塵は、下流のシステム部品、特にバルブ、の目詰まりおよび故障の原因となる可能性がある。他の問題としては、より小さい粒子上での吸着フィルム効果による物質移動抵抗の増大がある。
【0052】
【表4】

【0053】
例3
単床実験は、上記の方法に類似する4ステップ法を用いて行った。吸着剤カラムには、平均粒径0.8mmのLiLSX、および平均粒径2.0mmのAlcoa AL H152前処理吸着剤を充填した。供給時間を25から45秒の間で変動させるとともに、サイクル時間を85〜105秒で変動させた。供給線速度は、0.2から0.4ft/secの範囲内とした。吸着剤カラム長さは17インチであり、全長さの30%が前処理層であった。酸素製品純度は90%であり、実験が完了するまで約300時間安定に維持された。カラムの熱伝導係数(HTC)は、約0.15BTUlb-1hr-1°F-1であった。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】Li X ゼオライト上の、乾燥窒素の最大容積 対 吸着された相の質量%(水およびCO2)のプロットである。
【図2】水除去のための前処理ありまたは前処理なしでOxysiv−MDX吸着剤床を用いた単床PSAシステムの、酸素製品純度 対 操作時間のプロットである。
【図3】水の吸着熱 対 種々の吸着剤への水負荷のプロットである。
【図4】吸着剤材料の特性を測定するために用いた工程テストユニットの説明図である。
【図5】水除去のための前処理ありの4床PVSA法に対する、酸素回収および床サイズ因子 対 熱伝導係数、のプロットである。
【図6】規格化された断熱動力に対する前処理吸着剤の粒子サイズの効果のプロットである。
【符号の説明】
【0055】
101 エアコンプレッサ
102 バルブ
103,117 流量計
104 サイレンサー/フィルター
105,106,107,108,112 空気バルブ
109,115 圧力センサ
110 吸着管
111 製品タンク
113 チェックバルブ
116 パラマグネチック酸素アナライザ
118 ニードルバルブ
119 プログラマブル論理制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)供給端および製品端を有する少なくとも1つの吸着管を準備すること、
管は、供給端に近接する吸着剤材料の第1の層、および前記第1の層と前記製品端との間に配置されている吸着剤材料の第2の層を含み、第1の層における吸着剤は水、酸素および窒素を含む混合物からの水の吸着のために選択的であり、かつ第2の層における吸着剤は酸素および窒素を含む混合物からの窒素の吸着のために選択的であり、そして、第1の層の吸着剤材料上の水の吸着熱は、吸着剤グラムあたり、0.05mmolと等しくまたはそれを超える吸着水の負荷時に14kcal/モルと等しくまたはそれ未満である、
(b)少なくとも酸素、窒素および水を含む加圧された供給ガスを、吸着管の供給端に導入し、続いてガスに第1および第2の層を通過させ、前記第1の層における吸着剤材料中で水の少なくとも一部を吸着させ、前記第2の層における吸着剤材料中で窒素の少なくとも一部を吸着させること、
吸着剤材料の第1の層における水の物質移動係数は、125から400sec-1の範囲内であり、第1の層における加圧された供給ガスの見掛けの接触時間が、0.08から0.50秒の間である、
そして、
(c)酸素に富む製品ガスを、吸着管の製品端から回収すること、
を含む酸素の製造のための圧力スイング吸着法。
【請求項2】
(a)供給端および製品端を有する少なくとも1つの吸着管を準備すること、
管は、供給端に近接する吸着剤材料の第1の層、および前記第1の層と前記製品端との間に配置されている吸着剤材料の第2の層を含み、第1の層における吸着剤は水、酸素および窒素を含む混合物からの水の吸着のために選択的であり、かつ第2の層における吸着剤は酸素および窒素を含む混合物からの窒素の吸着のために選択的であり、そして、第1の層の吸着剤材料上の水の吸着熱は、吸着剤グラムあたり、0.05mmolと等しくまたはそれを超える吸着水の負荷時に14kcal/モルと等しくまたはそれ未満である、
(b)少なくとも酸素、窒素および水を含む加圧された供給ガスを、吸着管の供給端に導入し、続いてガスに第1および第2の層を通過させ、前記第1の層における吸着剤材料中で水の少なくとも一部を吸着させ、前記第2の層における吸着剤材料中で窒素の少なくとも一部を吸着させること、
吸着剤材料の第1の層における水の物質移動係数は、125から400sec-1の範囲内である、
そして、
(c)酸素に富む製品ガスを、吸着管の製品端から回収すること、
第1の層における吸着剤材料のグラム単位の質量の、製品ガス中の酸素純度93%での製品ガスの標準リットル毎分単位の流速に対する比が、50g/slpm未満である、
を含む酸素の製造のための圧力スイング吸着法。
【請求項3】
前記第1の層における吸着剤材料が活性アルミナを含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記活性アルミナの平均粒径が0.3mmから0.7mmの間である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記第2の層における吸着剤材料が、アルゴンおよび酸素を含む混合物からのアルゴンの吸着のために選択的である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項6】
吸着管の製品端から回収された製品ガス中の酸素の濃度が少なくとも85体積%である、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
吸着管の製品端から回収された製品ガス中の酸素の濃度が少なくとも93体積%である、請求項2に記載の方法。
【請求項8】
前記第1の層の深さが、第1および第2の層の全深さの10%から40%の間である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項9】
前記第1の層の深さが、0.7から13cmの間である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
吸着管が円筒型であり、かつ、第1および第2の層の全深さの、吸着管の内径に対する比が、1.8から6.0の間である、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
前記圧力スイング吸着法が、加圧された供給ガスを吸着管の供給端に導入し、そして酸素に富む製品ガスを吸着管の製品端から回収する供給ステップと、ガスを吸着管の供給端から回収して第1および第2の層における吸着剤材料を再生させる減圧ステップと、1種以上の再加圧ガスを吸着管内に導入することにより吸着管を加圧する再加圧ステップとを少なくとも含む繰り返しサイクルで操作され、そして前記供給ステップの持続時間が0.75から45秒の間である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項12】
サイクルの全持続時間が6から100秒の間である、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
酸素に富む製品ガスの流速が、0.1から3.0標準リットル毎分の間である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項14】
酸素に富む製品ガスの流速が、0.1から3.0標準リットル毎分の間であり、第1の層における吸着剤材料のグラム単位の質量の、製品ガス中の酸素純度93%での製品ガスの標準リットル毎分単位の流速に対する比が、50g/slpm未満である、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
製品ガス中の酸素純度93%での、製品ガス中に回収された酸素の量が、加圧された供給ガス中の酸素の量の35%を超える、請求項1または2に記載の方法。
【請求項16】
前記第2の層における吸着剤材料が、X型ゼオライト、A型ゼオライト、Y型ゼオライト、菱沸石、モルデナイト、およびクリノプチロライトからなる群から選択される1種以上の吸着剤を含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項17】
前記吸着剤材料が、活性部位カチオンの少なくとも85%がリチウムのリチウム交換低シリカX型ゼオライトである、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
加圧された供給ガスが空気である、請求項1または2に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−100222(P2008−100222A)
【公開日】平成20年5月1日(2008.5.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−259963(P2007−259963)
【出願日】平成19年10月3日(2007.10.3)
【出願人】(591035368)エア プロダクツ アンド ケミカルズ インコーポレイテッド (452)
【氏名又は名称原語表記】AIR PRODUCTS AND CHEMICALS INCORPORATED
【住所又は居所原語表記】7201 Hamilton Boulevard, Allentown, Pennsylvania 18195−1501, USA
【Fターム(参考)】