説明

圧力式炊飯方法及び圧力式炊飯器

【課題】ご飯の焦げの量を少なくしながらもおこげに近い香りを多量に発生させることができ、しかもご飯の硬さが米粒の中心まで同じになるようにすると共に、食味及びご飯のはりを向上させることができる圧力式炊飯方法及び圧力式炊飯器を提供すること。
【解決手段】本発明の圧力式炊飯方法は、吸水工程I、立上加熱工程II、沸騰維持工程III及び蒸らし工程IVを経て炊飯する炊飯工程を有し、前記立上加熱工程II及び前記沸騰維持工程IIIで鍋から吹きこぼれるおねばを一時貯留し、この貯留されたおねばを蒸らし工程IVで鍋内に戻し、このおねばを戻した後に鍋内を加圧した後に一気に減圧して鍋内を突沸させておねばを拡散し、この拡散後に所定時間蒸らし工程を継続する圧力式炊飯方法において、蒸らし工程IVにおける鍋内を加圧した後に一気に減圧して鍋内を突沸させる工程を複数回行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炊飯工程のうち蒸らし工程において鍋内が加圧される圧力式炊飯方法及び圧力式炊飯器に関し、特にご飯に香ばしい香りをつけることができる圧力式炊飯方法及び圧力式炊飯器に関する。
【背景技術】
【0002】
炊飯器は、鍋内に米と水とからなる被炊飯物を投入し、この鍋内の被炊飯物を加熱して炊飯するものである。この炊飯器における炊飯工程では、ご飯の余分な水分を飛ばして適度な硬さに仕上げるため、炊飯終了前の蒸らし工程において鍋内温度を一時的に上げること(追い炊き)が行われている。
【0003】
また、圧力式炊飯器においては、この鍋内の被炊飯物を加熱すると共に鍋内を昇圧して炊飯するため、炊飯時は、鍋内が高温となっていると共に、内圧が高くなっている。さらに、従来の炊飯器には、炊飯の立上加熱工程時に生じる蒸気を外部へ逃がすための蒸気口が設けられている。また、炊飯時には、鍋内の被炊飯物が沸騰するので、吹きこぼれが生じる。この吹きこぼれは、粘り気のある糊状の汁であって、この糊状の汁は旨み成分を含んでおり、通常、「おねば」と呼ばれている(以下、この吹きこぼれを「おねば」ともいう)。
【0004】
この吹きこぼれが、そのまま鍋外へ放出されてしまうと、旨み成分も排出されてしまうので、ご飯が美味しく炊きあがらない。そこで、炊飯器内にこのおねばを貯留する貯留タンクを設けて、この貯留タンクにおねばを一時貯留して置き、立上加熱工程終了後に鍋内が負圧になったときにおねばを鍋内に戻して美味しく炊きあげる炊飯器が開発されている。さらに、鍋内に戻されたおねばが鍋内に均一に広がるように、蒸らし工程で貯留部に貯留されたおねばを鍋内に戻し、鍋内の加圧後に一気に減圧して鍋内の被炊飯物を突沸させておねばを拡散させることが知られている。
【0005】
例えば、下記特許文献1に開示された圧力式炊飯器は、被炊飯物を投入する鍋と、該鍋を収容する開口部及び鍋内の被炊飯物を加熱する加熱手段を有する炊飯器本体と、該炊飯器本体の開口部を塞ぐ蓋体と、制御手段を備えている。この制御手段は、図9に示すように、前記加熱手段を制御して被炊飯物に水分を吸水させる吸水工程I、吸水された被炊飯物を沸騰するまで昇温加熱する立上加熱工程II、被炊飯物を沸騰状態に維持する沸騰維持工程III、維持工程後に被炊飯物を蒸らす蒸らし工程IVなどの炊飯工程を順次実行するようにさせている。
【0006】
そして、下記特許文献1に開示された圧力式炊飯器には、炊飯器本体又は蓋体におねばを貯留する貯留部が設けられ、制御手段は、炊飯工程で鍋から吹きこぼれるおねばを貯留部に一時貯留し、蒸らし工程で貯留部に貯留されたおねばを鍋内に戻し、おねばを戻した後の鍋内の加圧後に一気に減圧し鍋内を突沸させておねばを拡散させ、拡散後に所定の時間蒸らし工程を継続するようにしている。
【0007】
また、おこげ炊飯を行う炊飯器においては、蒸らし工程にて内部の水蒸気が吹き出さないような圧力まで低下する自然減圧終了後、前記圧力維持手段による圧力維持動作を解除し、その後再加熱によりお焦げ処理を行うことが知られている(下記特許文献2参照)。このようなおこげ炊飯によるおこげは、旨み成分を含むおねばとご飯とが適度に焦げることにより、色の変化が生じ、食感が良好となり、さらに香ばしい香りが発生するようになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2009−000187号公報
【特許文献2】特許第3349665号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記特許文献2に開示された炊飯器においては、おこげ炊飯によって得られるおこげの香ばしい香りは、蒸らし工程においておねば及びご飯を焦げる直前まで加熱することによって発生する。しかしながら、上記特許文献2に開示されている炊飯器によれば、おねばが吹きこぼれないようにされていないため、炊きあがったご飯中に残留しているおねばの量が少なく、しかも、蒸らし工程においては鍋底に接触しているおねば及びご飯はほとんど流動しないため、おこげ炊飯時に鍋底に接している部分のおねば及びご飯が焦げてしまい、しかも、おこげの生成量及び香りの発生量とも大きくすることができない。
【0010】
一方、上記特許文献1に開示されている圧力式炊飯器では、蒸らし工程においては水分が少ないために追い炊きが1回しかできず、しかも、その1回の中で炊飯量に応じて追い炊きの時間を変えている。このような上記特許文献1に開示されている圧力式炊飯器において、おねばを加熱することによりおこげに近い香りを発生させようとした場合、おねばを鍋内に戻しているので、ごはんの表面にコーティングされているおねばの量は多いが、鍋内の加圧後の減圧を1回しか行わないため、鍋底に接触しているおねば及びご飯の流動が少なく、加熱時間が長くなると鍋底に接しているご飯及びおねばが焦げてしまい、おこげを生成することなくおこげに近い香りを発生させることはできなかった。
【0011】
本発明は、上記のような従来技術の問題点を解決すべくなされたものであって、その目的は、ご飯を焦がすことなくおこげに近い香りを多量に発生させることができ、しかもご飯の硬さが米粒の中心まで同じになるようにすると共に、食味及びご飯のはりを向上させることができる圧力式炊飯方法及び圧力式炊飯器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明は、鍋内の被炊飯物を、吸水させる吸水工程、沸騰するまで昇温加熱する立上加熱工程、沸騰状態に維持する沸騰維持工程及び蒸らし工程を経て炊飯する炊飯工程を有し、前記立上加熱工程及び前記沸騰維持工程で前記鍋から吹きこぼれるおねばを一時貯留し、この貯留されたおねばを前記蒸らし工程で前記鍋内に戻し、このおねばを戻した後に前記鍋内を加圧した後に一気に減圧して鍋内を突沸させておねばを拡散し、この拡散後に所定時間蒸らし工程を継続する圧力式炊飯方法において、前記蒸らし工程における前記鍋内を加熱して加圧した後に加熱を停止して一気に大気圧まで減圧して鍋内を突沸させる工程を複数回行うことを特徴とする。
【0013】
また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の圧力式炊飯方法において、前記立上加熱工程時に被炊飯物の量を検出し、前記蒸らし工程における前記鍋内を突沸させる回数を前記炊飯量に比例して増加させることを特徴とする。
【0014】
また、請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の圧力式炊飯方法において、前記蒸らし工程における前記加熱して加圧している時間の長さを前記減圧している時間の長さよりも短くしたことを特徴とする。
【0015】
また、請求項4に記載の発明は、請求項1〜3のいずれかに記載の圧力式炊飯方法において、前記蒸らし工程における前記鍋内を加熱して加圧する時間の長さを、前記蒸らし工程における前記鍋内を突沸させる工程を経るに従って減少させることを特徴とする。
【0016】
さらに、前記目的を達成するため、請求項5に記載の発明は、被炊飯物が投入される鍋と、前記鍋が収容される開口部及び前記鍋内の被炊飯物を加熱する加熱手段を有する炊飯器本体と、この炊飯器本体の開口部を塞ぐ開閉自在な蓋体と、前記炊飯器本体又は蓋体に形成されたおねばを貯留する貯留部と、前記鍋内の被炊飯物を、吸水させる吸水工程、沸騰するまで昇温加熱する立上加熱工程、沸騰状態に維持する沸騰維持工程及び蒸らし工程などの炊飯工程を順次実行する制御手段と、を備え、前記制御手段は、前記炊飯工程で前記鍋から吹きこぼれるおねばを前記貯留部に一時貯留し、前記蒸らし工程で前記貯留部に貯留されたおねばを前記鍋内に戻し、このおねばを戻した後に前記鍋内を加圧した後に一気に減圧して鍋内を突沸させておねばを拡散させ、この拡散後に所定の時間蒸らし工程を継続する圧力式炊飯器において、前記制御手段は、前記蒸らし工程における前記鍋内を加熱して加圧した後に加熱を停止して一気に大気圧まで減圧して鍋内を突沸させる工程を複数回行うようになされていることを特徴とする。
【0017】
また、請求項6に記載の発明は、請求項5に記載の圧力式炊飯器において、前記制御手段は、前記立上加熱工程時に被炊飯物の量を検出し、前記蒸らし工程における前記鍋内を突沸させる回数を前記炊飯量に比例して増加させることを特徴とする。
【0018】
また、請求項7に記載の発明は、請求項5又は6に記載の圧力式炊飯器において、前記制御手段は、前記蒸らし工程における前記加熱して加圧している時間の長さを前記減圧している時間の長さよりも短くすることを特徴とする。
【0019】
また、請求項8に記載の発明は、請求項5〜7のいずれかに記載の圧力式炊飯器において、前記制御手段は、前記蒸らし工程における前記鍋内を加熱して加圧する時間の長さを、前記蒸らし工程における前記鍋内を突沸させる工程を経るに従って減少させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明は、上記のような構成を備えることにより、以下に述べるような優れた効果を奏する。すなわち、請求項1に記載の圧力式炊飯方法によれば、蒸らし工程において鍋内を加熱するとともに加圧後に減圧する工程を複数回繰り返すようにしたので、鍋内でおねば及びご飯を撹拌することによっておねばでコーティングされているご飯の多くが鍋底に接触できるようになり、ご飯の焦げを抑制しながらもおねばを焦げる直前まで十分に加熱することができるようになり、香ばしい香りを多量に発生させることができるようになる。
【0021】
また、請求項2に記載の圧力式炊飯方法においては、立上加熱工程時に被炊飯物の量を検出し、蒸らし工程における鍋内を突沸させる回数を前記炊飯量に比例して増加させるようにしたので、炊飯量に比例して多くのおねばでコーティングされているご飯を撹拌させることができるようになる。そのため、請求項2に記載の圧力式炊飯方法によれば、より多くのおねばでコーティングされているご飯を鍋底に接触させることができるようになるので、より多くのおねばを焦げる直前まで十分に加熱することができるようになり、しかも香ばしい香りをより多量に発生させることができるようになる。
【0022】
また、請求項3に記載の発明によれば、蒸らし工程における減圧している時間の長さを加圧している時間の長さよりも長くしたため、減圧している間に十分のおねばでコーティングされているご飯を鍋底に接触させることができるようになるので、より効率よく香ばしい香りを多量に発生させることができるようになる。
【0023】
また、蒸らし工程では時間の経過と共に水分の蒸発によって鍋内の圧力が上がり難くなるとともに焦げやすくなるが、請求項4に記載の発明によれば、前記蒸らし工程における前記鍋内を加圧する時間の長さを、前記蒸らし工程における前記鍋内を突沸させる工程を経るに従って減少させているので、ご飯もおねばも焦げないように加熱することができるようになる。
【0024】
さらに、請求項5〜8に記載の圧力式炊飯器によれば、それぞれ上記請求項1〜4に記載の圧力式炊飯方法の効果を奏することができる圧力式炊飯器を提供することができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の実施形態に係る炊飯器の正面図である。
【図2】図1の炊飯器の部分断面図である。
【図3】図2の圧力弁開放機構を拡大した拡大断面図である。
【図4】炊飯工程における鍋内の温度及び圧力の変化を示した特性図である。
【図5】蒸らし工程における鍋内の温度及び圧力の変化を示した特性図である。
【図6】炊飯量と蒸らし工程における加熱及び加圧回数及び蒸らし時間との関係を示す表である。
【図7】炊飯工程のフローチャート図である。
【図8】図7に引き続く炊飯工程のフローチャート図である。
【図9】従来技術の炊飯器の炊飯工程における鍋内の温度及び圧力の変化を示した特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態を説明する。ただし、以下に示す実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するための圧力式炊飯器を例示するものであって、本発明をこの圧力式炊飯器に特定することを意図するものではなく、特許請求の範囲に含まれるその他の実施形態のものにも等しく適用し得るものである。
【実施例1】
【0027】
本発明の実施形態に係る圧力式炊飯器の構造について、図1〜図3を用いて説明する。なお、図1は本発明の一実施例に係る炊飯器の正面図である。図2は図1の炊飯器の部分断面図である。また、図3は図2の圧力弁開放機構を拡大した拡大断面図である。
【0028】
圧力式炊飯器1は、炊飯器本体(以下「本体」という)2と本体2を覆う開閉自在の蓋体3とで構成される。本体2には、被炊飯物である米及び水が投入される深底の容器からなる鍋4と、上方にこの鍋4が収容される開口部及び内部にこの鍋4を加熱して被炊飯物を加熱する加熱手段5を有しており、さらに炊飯を制御する制御部(図示省略)と、炊飯メニューを操作する操作部6と、操作された炊飯メニューを表示する表示部7とが、正面側に設けられている。
【0029】
操作部6は、炊飯メニュー選択ボタン8、炊飯スタート/保温ボタン9、予約ボタン10、取り消しボタン11、十字キー12よりなり、これらの操作ボタンを適宜操作して、使用者の好みのメニューで炊飯を行うように設定することができるようになっている。
【0030】
本体2は、有底箱状の外部ケース13と、この外部ケース13に収容される収納ケース14(図2参照)とからなり、外部ケース13と収納ケース14との間に隙間が形成され、この隙間に制御部(制御手段)を構成する制御装置(図示省略)が配設されている。収納ケース14には鍋4が収容される。この鍋4は、例えばアルミニウムとステンレスとのクラッド材で形成されている。
【0031】
蓋体3は、一端をヒンジHGにより本体2に枢着した着脱自在の内蓋15と、外方を覆う外蓋16とで構成されており、内蓋15には、圧力弁17及び圧力弁開放機構22が形成されている。また、内蓋15には鍋4内が異常に加圧された時、例えば炊飯中に圧力弁17が故障して開かないときなどに開放して鍋内の圧力を逃がす安全弁23を備えている。
【0032】
圧力弁17は、図3に示すように、圧力孔18を有する弁座19と、この弁座19の上に自重により圧力孔18を塞ぐ金属性のボール20と、このボール20を覆うカバー21とからなる。この圧力弁17は、鍋4内の圧力とボール20の自重とのバランスによって、ボール20が圧力孔18上に移動されたり離れたりすることにより、さらには圧力弁開放機構22の制御によって強制的にボール20を移動させることにより、圧力孔18の開閉が行われる。
【0033】
また、圧力弁開放機構22は、電磁コイルが巻回されたシリンダー22aと、このシリンダー内を電磁コイルの励磁により入出し、ボール20を移動させるプランジャー22bと、プランジャー22bの先端に装着された作動棹24と、シリンダーの一端部と作動棹24との間に設けられたバネSPとで構成されている。
【0034】
圧力弁開放機構22は、制御手段25(図2参照)により制御される。すなわち、圧力弁開放機構22は、制御手段25からの出力を受けていないときは、プランジャー22bがシリンダー22aから突出して圧力孔18上のボール20を圧力孔18の横方向に押し、圧力孔18を強制的に開放する。また、制御手段25の出力を受けた時には、プランジャー22bがシリンダー22a内に引き込まれる。このときボール20は、自重により圧力孔18上に戻り、圧力孔18を閉塞する。このように圧力弁開放機構22が動作すると、このプランジャー22bによる圧力弁17の開放動作により、炊飯工程中に加圧された鍋4内の圧力を強制的に低下させることができる。
【0035】
外蓋16には、吹きこぼれるおねばを一時貯留する貯留タンク26が着脱自在に装着されている。貯留タンク26の内部は蒸気とおねばとを分離させるために上下から分離構造を設けた多室構造となっており、蒸気穴26aを蒸気のみが通過できるようになっている。おねばは、立上加熱工程、沸騰維持工程で貯留タンク26に溜まり、蒸らし工程で、鍋4内の圧力が低下すると、負圧弁(図示省略)より、鍋4内に還元されるようになっている。
【0036】
本体2は、図1に示すように、炊飯メニュー選択ボタン8により各種の炊飯コースを選択するための選択手段27を備えている。制御手段25は、周知のようにCPU、ROM、RAMなどで構成されたハードウエアと、後述するフローチャートの内容を実行するためのソフトウエアとにより構成される。
【0037】
鍋4の底部には、図2に示すように、炊飯量検出手段としても機能する鍋底温度を検出するための温度センサー28bが取り付けられており、また、蓋体3には適切な位置に蒸気温度を検出するための沸騰検出手段となる蒸気センサー28aが取付けられており、各センサー28a、28bの出力は制御手段25に送られるようになっている。なお、温度センサー28bの出力により鍋内の炊飯量を検出することは、既に公知であるので詳細な説明を省略する。
【0038】
前記圧力弁17の下部には、図2、図3に示すように、弁座19に着脱自在に装着され複数個の小孔を穿設したフィルター29が装着されている。このフィルター29を装着することにより、圧力弁17の開放時に鍋内を一気に流動する米粒がこのフィルター29によって阻止されて外気中に放出されるのを防止できる。
【0039】
次に、本発明の実施形態に係る圧力式炊飯器1における制御手段25による各種制御工程を図4〜図8を用いて説明する。なお、図4は、炊飯工程における鍋底温度センサーにより検出された鍋底温度曲線(太線)及び鍋内圧力曲線(破線)と、各加熱手段及び圧力弁の作動状況を相関的に示す特性図である。図5は蒸らし工程における鍋内の温度及び圧力の変化を示した特性図である。図6は炊飯量と蒸らし工程における加熱及び加圧回数及び蒸らし時間との関係を示す表である。図7は炊飯工程のフローチャート図である。図8は図7に引き続く追い炊き工程のフローチャート図である。
【0040】
炊飯工程は、図4〜図5に示すように、鍋4内の被炊飯物に水を吸わせる吸水工程Iと、この吸水した被炊飯物を急激に加熱する立上加熱工程IIと、この被炊飯物を沸騰状態に維持する沸騰維持工程IIIと、この沸騰維持工程III後に被炊飯物を所定時間蒸らす蒸らし工程IVとに分けられる。
【0041】
吸水工程I(S301)では、吸水温度は所定の温度、例えば60℃前後の温度に一定時間、例えば15分間維持し、米が水を吸いやすい温度に制御されている。
なお、この吸水工程Iでは、圧力弁17は開放されている。
【0042】
吸水工程Iが終了すると、立上加熱工程II(S302)に移行する。立上加熱工程IIでは、圧力弁17は閉じられ、加熱手段5によってフルパワーで加熱され、鍋4内の温度は急上昇する。そのとき、鍋4内は、圧力弁17によって密閉されているため、圧力が上昇し、例えば1.2気圧の加圧状態となる。
【0043】
この立上加熱工程IIでは、炊飯量の量判定が行なわれる(S303)。
【0044】
この量判定の具体的方法は、例えば上記特許文献1にも開示されているように、既に周知であるので、その詳細な説明は省略するが、この実施形態では、図6に示すように、量値Qとして、Q=1(小容量(たとえば0.5〜1カップ))、Q=2(やや小容量(例えば1.5〜2カップ))、Q=3(中容量(2.5〜3カップ))、Q=4(やや大容量(3.5〜4カップ))、Q=5(大容量(4.5カップ超))の5段階に分類した。なお、量値Qの境界は、必ずしも厳密なものでなくても良く、実験的に適宜に定めればよい。
【0045】
この量判定結果は、量判定結果メモリに記憶される(S304)。ここで判定された炊飯量に応じて、次の沸騰維持工程III以降の工程で、炊飯量によって制御条件が変えられる。
【0046】
立上加熱工程IIが終了すると、沸騰維持工程III(S305)に移行する。沸騰維持工程IIIでは、加熱手段5への通電及び圧力弁17の開閉が所定時間間隔で行われる。すなわち、圧力弁開放機構22の制御により圧力弁17の開閉が行われ、この圧力弁17の開閉は、この沸騰維持工程IIIの初期段階に1回乃至数回行われる。圧力弁17の開成により、鍋4内の圧力は1.2気圧の加圧状態から略大気圧近傍まで一気に低下する。この圧力変化により、鍋4内が激しく沸騰し、いわゆる突沸現象が発生する。
【0047】
この突沸現象により、鍋4内の米粒などの被炊飯物が撹拌される。特に、沸騰維持工程IIIの初期段階に圧力弁17の開閉が行われると、この段階では鍋4内の水が多いので米粒は効率よく撹拌される。一方、加熱手段5への通電は、圧力弁17の開閉に同期してオン/オフされる。すなわち、圧力弁17が閉成されているときは加熱手段5への通電がオン状態とされ、圧力弁17が開成されているときはオフ状態とされる。なお、加熱手段5への通電は圧力弁17の開閉と非同期的に制御されるようにしてもよい。
【0048】
沸騰維持工程IIIにおいて、鍋4内の水がなくなると鍋4の温度が上昇する。鍋底温度を検出するための温度センサー28bによって130℃に達したことが検出される(S306、S307)と、沸騰中の鍋4内の水がなくなったことを意味するドライアップ状態と判定される(S308)。ドライアップ状態と判定されると、加熱手段5への通電が停止され、蒸らし工程IVへ移行される(S309)。このとき、圧力弁17は閉じられている。
【0049】
蒸らし工程IVでは、立上加熱工程IIで記憶された炊飯量が読み出され、炊飯量によってそれぞれ異なる条件で炊飯制御が行われる。まず、蒸らし工程IVへ移行すると、タイマーカウントが開始され(S310)、最初に一定時間t1(例えば240秒間)の間、加熱手段5への通電が停止されると共に、圧力弁17の閉成状態が維持される(S311)。加熱手段5への通電がオフされると、鍋4内の温度が下がり、温度が下がることにより鍋4内の圧力も下がる。
【0050】
その後、一定時間t2(例えば60秒)の間、圧力弁17が開成される(S312)。圧力弁17が開成されると、鍋4内の圧力がさらに下がり、負圧弁(図示省略)の作用により、貯留タンク26(図2参照)に溜まっていたおねばが鍋4内に環流される。
【0051】
おねばが鍋内に環流されると、蒸らし工程IVの中の追い炊き工程へと移行する。図8に示したように、追い炊き工程(S313)では、立上加熱工程IIで記憶された炊飯量を読み出し(S314)、炊飯量に応じて圧力弁17を閉成すると共に所定時間t3(例えば32秒)の間だけ加熱手段5に通電し、鍋4内の温度を上昇させるとともに鍋4内を加圧状態にする。その後、加熱手段5への通電をオフ状態とし、同時に圧力弁17を開いて一気に鍋4内の圧力を低下させ、この状態を所定時間t4(例えば88秒)の間維持する。
【0052】
このように、鍋4内の温度及び圧力を上昇させた後に鍋4内の圧力を低下させると、ご飯及びおねばが撹拌され、おねばがご飯全体に混ざるようになる。この加熱手段5への通電オン時間及び圧力弁17の閉成時間t3と、加熱手段5への通電オフ時間及び圧力弁17の開成時間t4は、鍋底に接しているおねば及びご飯に十分な熱が加わるようにするため、t4>t3とするほうが好ましい。
【0053】
この加熱手段5への通電オン及び圧力弁17の閉成工程と、加熱手段5への通電オフ及び圧力弁17の開成工程とを1サイクルとし、立上加熱工程IIで記憶された炊飯量に応じて、加熱手段5への通電オン及び圧力弁17の閉成工程と、加熱手段5への通電オフ及び圧力弁17の開成工程とからなるサイクル工程を2回以上繰り返す。本実施形態の場合は、立上加熱工程IIで記憶された炊飯量が、量値Q(図6参照)がQ=1(小容量)、Q=2(やや小容量)、Q=3(中容量)、Q=4(やや大容量)、Q=5(大容量)の5段階の何れであるかを判定(S315a〜S315e)し、Q=1のときには2回(S316a)、Q=2のときには3回(S316b)、Q=3のときには4回(S316c)、Q=4のときには5回(S316d)、Q=5のときには6回(S316e)、それぞれ上記加熱手段5への通電オン及び圧力弁17の閉成工程と、加熱手段5への通電オフ及び圧力弁17の開成工程とからなるサイクル工程を繰り返すものとした。その結果、合計の蒸らし時間は、Q=1のときにはT1(たとえば15分)、Q=2のときにはT2(たとえば16分)、Q=3のときにはT3(たとえば17分)、Q=4のときにはT4(たとえば18分)、Q=5のときにはT5(たとえば20分)となる。
【0054】
このように、炊飯量によって加熱手段5への通電オン及び圧力弁17の閉成工程と、加熱手段5への通電オフ及び圧力弁17の開成工程とからなる回数を変更することにより、炊飯量が多い場合でも充分にご飯及びおねばを鍋底に接触するように撹拌して加熱することができ、また、ご飯もおねばも焦げ付かないように加熱することができる。この加熱手段5への通電オン及び圧力弁17の閉成工程と、加熱手段5への通電オフ及び圧力弁17の開成工程とからなるサイクル工程が終了すると保温工程に移行し(S317)、炊飯工程が終了する。
【0055】
本実施形態の追い炊き工程によれば、炊飯量によって加熱手段5への通電オン及び圧力弁17の閉成工程と、加熱手段5への通電オフ及び圧力弁17の開成工程とからなるサイクル工程の回数を変更しているので、炊飯量に比例したご飯及びおねばが鍋底に接触するように撹拌して加熱されるため、十分に加熱されたおねばから香ばしい香りが発生する。また、鍋4内で被炊飯物が撹拌されるため焦げ過ぎることが抑制される。
【0056】
なお、上記実施形態では、追い炊き工程における加圧工程を全て同じ時間幅で行うようにしたが、追い炊き工程では加圧工程が複数回行われ、また、時間の経過と共に水分の蒸発によって鍋内の圧力が上がり難くなるとともに焦げやすくなるので、加圧工程の回数によって時間を変えてもよい。例えば、1回目の加圧動作の時間は40秒、2回目の加圧動作の時間は30秒、3回目の加圧動作の時間は20秒等と変更してもよい。このように追い炊き工程における加圧工程の時間を変えることで、水分を蒸発させる量を調整できるため、香ばしい香りの発生量を変えることができる。
【符号の説明】
【0057】
1…圧力式炊飯器
2…炊飯器本体
3…蓋体
4…鍋
5…加熱手段
6…操作部
7…表示部
8…炊飯メニュー選択ボタン
9…炊飯スタート/保温ボタン
10…予約ボタン
11…取り消しボタン
12…十字キー
13…外部ケース
14…収納ケース
15…内蓋
16…外蓋
17…圧力弁
18…圧力孔
19…弁座
20…ボール
21…カバー
22…圧力弁開放機構
22a…シリンダー
22b…プランジャー
23…安全弁
24…作動棹
25…制御手段
26…貯留タンク
26a…蒸気穴
27…選択手段
28a…蒸気センサー
28b…温度センサー
29…フィルター
HG…ヒンジ
SP…バネ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鍋内の被炊飯物を、吸水させる吸水工程、沸騰するまで昇温加熱する立上加熱工程、沸騰状態に維持する沸騰維持工程及び蒸らし工程を経て炊飯する炊飯工程を有し、前記立上加熱工程及び前記沸騰維持工程で前記鍋から吹きこぼれるおねばを一時貯留し、この貯留されたおねばを前記蒸らし工程で前記鍋内に戻し、このおねばを戻した後に前記鍋内を加圧した後に一気に減圧して鍋内を突沸させておねばを拡散し、この拡散後に所定時間蒸らし工程を継続する加圧炊飯方法において、
前記蒸らし工程における前記鍋内を加熱して加圧した後に加熱を停止して一気に大気圧まで減圧して鍋内を突沸させる工程を複数回行うことを特徴とする圧力式炊飯方法。
【請求項2】
前記立上加熱工程時に被炊飯物の量を検出し、前記蒸らし工程における前記鍋内を突沸させる回数を前記炊飯量に比例して増加させることを特徴とする請求項1に記載の圧力式炊飯方法。
【請求項3】
前記蒸らし工程における前記加熱して加圧している時間の長さを前記減圧している時間の長さよりも短くしたことを特徴とする請求項1又は2に記載の圧力式炊飯方法。
【請求項4】
前記蒸らし工程における前記鍋内を加熱して加圧する時間の長さを、前記蒸らし工程における前記鍋内を突沸させる工程を経るに従って減少させることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の圧力式炊飯方法。
【請求項5】
被炊飯物が投入される鍋と、前記鍋が収容される開口部及び前記鍋内の被炊飯物を加熱する加熱手段を有する炊飯器本体と、この炊飯器本体の開口部を塞ぐ開閉自在な蓋体と、前記炊飯器本体又は蓋体に形成されたおねばを貯留する貯留部と、前記鍋内の被炊飯物を、吸水させる吸水工程、沸騰するまで昇温加熱する立上加熱工程、沸騰状態に維持する沸騰維持工程及び蒸らし工程などの炊飯工程を順次実行する制御手段と、を備え、前記制御手段は、前記炊飯工程で前記鍋から吹きこぼれるおねばを前記貯留部に一時貯留し、前記蒸らし工程で前記貯留部に貯留されたおねばを前記鍋内に戻し、このおねばを戻した後に前記鍋内を加圧した後に一気に減圧して鍋内を突沸させておねばを拡散させ、この拡散後に所定の時間蒸らし工程を継続する圧力式炊飯器において、
前記制御手段は、前記蒸らし工程における前記鍋内を加熱して加圧した後に加熱を停止して一気に大気圧まで減圧して鍋内を突沸させる工程を複数回行うようになされていることを特徴とする圧力式炊飯器。
【請求項6】
前記制御手段は、前記立上加熱工程時に被炊飯物の量を検出し、前記蒸らし工程における前記鍋内を突沸させる回数を前記炊飯量に比例して増加させることを特徴とする請求項5に記載の圧力式炊飯器。
【請求項7】
前記制御手段は、前記蒸らし工程における前記加熱して加圧している時間の長さを前記減圧している時間の長さよりも短くすることを特徴とする請求項5又は6に記載の圧力式炊飯器。
【請求項8】
前記制御手段は、前記蒸らし工程における前記鍋内を加熱して加圧する時間の長さを、前記蒸らし工程における前記鍋内を突沸させる工程を経るに従って減少させることを特徴とする請求項5〜7のいずれかに記載の圧力式炊飯器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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