説明

圧力波送油式シリンダ注油装置

【課題】低コストである機械式の利点を生かしつつピストンの通過に伴うシリンダ内の圧力上昇下であっても注油を十分に行い得るシリンダ注油装置を提供する。
【解決手段】ディーゼルエンジンのシリンダ側壁部1に設けられた注油ノズル2に潤滑油Uを導きシリンダ室3内に噴射させるシリンダ注油装置であって、エンジンの回転に同期して所定量の潤滑油を送り出す油送出器11と、この油送出器から送り出された潤滑油を注油ノズルに供給する潤滑油供給管12と、逆止弁機能を有し且つ上記油送出器から送り出された潤滑油を加圧し圧力波を発生させて潤滑油供給管に送り出す油加圧器13と、注油ノズルの手前に配置され且つ逆止弁機能を有するとともに潤滑油供給管を介して導かれた潤滑油の圧力反射波を閉じ込め得る閉込用空間部である整流用穴部を有して圧力波の脈動を整流する油整流器14とを具備したものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばディーゼルエンジンにおける潤滑油の注油装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、舶用等の大型ディーゼルエンジンにおいては、エンジンのシリンダ側壁部に形成された注油口からピストンのピストンリング部に潤滑油(シリンダ油ともいう)が供給されており、この種の注油装置として機械式のものがある。
【0003】
この機械式の注油装置は、図11に示すように、潤滑油タンクから潤滑油をシリンダ側壁部に設けられた注油ノズルに導く潤滑油供給路51途中に、プランジャ室53に出退自在に設けられたプランジャ54を有するプランジャ式ポンプ52が設けられるとともに、上記プランジャ54をロッカーアーム55を介して、エンジンに連動して回転されるカム56により駆動するようにしたもので、また上記潤滑油供給路51には一対の逆止弁57,58が設けられるとともに、これら両逆止弁57,58の間の潤滑油供給路51に上記ポンプ52が接続されている(例えば、特許文献1および非特許文献1参照)。なお、ロッカーアーム55の一方の端部には、ストロークを調節する調節ねじ59が設けられている。
【0004】
ところで、プランジャ54を作動させるのに、上述したようなカムを用いた機械式ではなく、電気油圧式のものがある。
この電気油圧式のものは、カムによりプランジャを出退させる代わりに、シリンダ室への油圧の供給および排出により、プランジャを高速にて出退させるようにしたものである(例えば、非特許文献1参照)。したがって、この電気油圧式のものは高圧でもって潤滑油を供給することができる。
【特許文献1】特開昭59−185812号公報
【非特許文献1】日本マリンエンジニアリング学会誌 第37巻 第2号(2002−2);新しいシリンダ注油方法
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
注油装置においては、エンジンのピストンリングが通過中または通過前のタイミングで潤滑油を注油することが好ましいが、機械式の場合、エンジンのシリンダ側壁部に設けられた注油ノズルから噴出される潤滑油量は、ピストンの通過に伴うシリンダ内の圧力上昇により低下し、所定位置での注油を十分にできないという問題があった。
【0006】
一方、電気油圧式の場合には、ピストンの通過に伴うシリンダ内の圧力上昇下においても、潤滑油量を低下させることなく注油することができる反面、油圧発生装置や電子制御回路などの新たな装置の追加や電気的なトラブルへの対策が必要となり、注油装置のコストが高くなるという問題があった。
【0007】
さらに、電気油圧式の場合、1回あたりの潤滑油の注油量は、機械式に比べて多くなるため、注油量を時間的に制御(制限)する必要があり、例えば注油回数を間引くこと等で対応せざるを得なくなり、したがって注油が行われないサイクルが発生し、シリンダ内壁面での潤滑油膜を十分に形成できないという問題があった。
【0008】
そこで、本発明は、低コストである機械式の利点を生かしつつピストンの通過に伴うシリンダ内の圧力上昇下であっても注油を十分に行うことができ、また1回あたりの潤滑油の注油量を少なくして注油回数を間引くことなく注油し得る圧力波送油式シリンダ注油装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明の請求項1に係る圧力波送油式シリンダ注油装置は、ディーゼルエンジンのシリンダ側壁部に設けられた注油ノズルに潤滑油を導きシリンダ室内に噴射させるシリンダ注油装置であって、
エンジンの回転に同期して所定量の潤滑油を送り出す油送出部と、この油送出部から送り出された潤滑油を上記注油ノズルに供給する潤滑油供給路と、逆止弁機能を有し且つ上記油送出部から送り出された潤滑油を加圧し圧力波を発生させて上記潤滑油供給路に送り出す油加圧部と、上記注油ノズルの手前に配置され且つ逆止弁機能を有するとともに上記潤滑油供給路を介して導かれた潤滑油の圧力反射波を閉じ込め得る閉込用空間部を有して圧力波の脈動を整流する油整流部とを具備したものである。
【0010】
また、請求項2に係る圧力波送油式シリンダ注油装置は、請求項1に記載の注油装置における油加圧部を、油送出部からの潤滑油を導く大径の第1油通路およびこの第1油通路に連通する小径の第2油通路が形成された加圧部本体と、上記第2油通路側に配置されて上記第1油通路の開口部を開閉自在な第1弁体および当該第1弁体を第1油通路側に付勢して上記開口部を閉鎖し得る第1付勢部材とから構成し、
油整流部を、潤滑油供給路からの潤滑油を導く小径の第3油通路およびこの第3油通路に連通する大径の第4油通路が形成された整流部本体と、上記第4油通路側に配置されて上記第3油通路の開口部を開閉自在な第2弁体および当該第2弁体を第3油通路側に付勢して上記開口部を閉鎖し得る第2付勢部材とから構成したものである。
【0011】
また、請求項3に係る圧力波送油式シリンダ注油装置は、請求項2に記載の注油装置における第1弁体の大きさを、当該第1弁体の油通路横断面に対する投影面積が、第1弁体が開閉する開口部面積の略5倍となるようにしたものである。
【0012】
また、請求項4に係る圧力波送油式シリンダ注油装置は、請求項2または3に記載の注油装置における第1弁体を磁性材料で構成するとともに、当該第1弁体を第1付勢部材による付勢方向と同一方向に付勢し得る電磁石を加圧部本体に設けたものである。
【0013】
また、請求項5に係る圧力波送油式シリンダ注油装置は、請求項2乃至4のいずれかに記載の注油装置における注油ノズルに設けられる注油用穴部の内径を先端に行くにしたがって順次小さくしたものである。
【0014】
さらに、請求項6に係る圧力波送油式シリンダ注油装置は、請求項2乃至5のいずれかに記載の注油装置における注油ノズルの先端に形成される噴出口を、その噴出方向がシリンダ室の内壁面に且つ円周方向に沿うような方向でもって形成したものである。
【発明の効果】
【0015】
上記圧力波送油式シリンダ注油装置の構成によると、油送出部と潤滑油供給路との間に、潤滑油を潤滑油供給路に送り出す際に、逆止弁機能を有して圧力波を発生させ得る油加圧部を設けたので、高圧にて潤滑油を注油ノズルに供給することができ、したがって所定のタイミングで確実にシリンダ内に潤滑油を噴出、すなわち注油を行うことができる。
【0016】
また、油加圧部は、逆止弁機能を有しており、つまり、電気油圧式ではなく機械式のものであるため、簡単で且つ安価な構成でもって、電気油圧式のものと同等の機能を発揮することができる。
【0017】
また、潤滑油供給路を介して導かれた潤滑油の圧力反射波を閉じ込め得る閉込用空間部を有して圧力波の脈動を整流する油整流部を設けたので、注油ノズル側から逆流する圧力波、すなわち反射圧力波を潤滑油供給路側に伝わるのを阻止することができ、したがって油加圧部と油整流部との間の圧力を安定させることができるので、油加圧部からの圧力波を確実に注油ノズル側に導くことができる。
【0018】
また、第1弁体を吸引し得る電磁石を設けることにより、高速回転時などの弁体の開閉応答性が要求される場合には、ばね体の付勢力と電磁石による電磁力とを組み合わせることで、注油タイミングを精度良く制御することが可能となる。
【0019】
さらに、油整流部より下流側の潤滑油供給路を徐々に絞ることにより、潤滑油の圧力を、一層、増大させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態に係る圧力波送油式注油装置を、図1〜図8に基づき説明する。
この圧力波送油式注油装置は、図1に示すように、ディーゼルエンジンのシリンダ側壁部1に設けられた注油ノズル2に潤滑油Uを導き、その先端に設けられた小さい噴出口(後述する)からシリンダ室3内に噴射させるものである。
【0021】
すなわち、この圧力波送油式注油装置には、大きく分けて、エンジンの回転に同期して所定量の潤滑油を送り出す油送出器(油送出部)11と、この油送出器11にて送り出された潤滑油を上記注油ノズル2に供給する潤滑油供給管(潤滑油供給路)12と、上記油送出器11にて送り出された潤滑油を所定圧力に加圧し圧力波を発生させて潤滑油供給管12に送り出す油加圧器(油加圧部)13と、この油加圧器13にて発生された潤滑油の圧力波が上記注油ノズル2に到りその注油用穴部(後述する)の内壁面で反射した反射圧力波を上記油加圧器13側に伝わるのを阻止し得る油整流器(油整流部)14とが具備されている。
【0022】
上記油送出器11は、図2に示すように、潤滑油Uを貯溜する貯溜タンク21の側壁部21aに設けられるとともに一端部が側壁部21aに形成された穴部21bを介して貯溜タンク21内に連通されるとともに他端部が外部に開口された潤滑油通路すなわち油送出用穴部22aが形成されたブロック体22と、このブロック体22の油送出用穴部22aの途中にそれぞれ一対ずつ設けられた吸込側逆止弁23(23A,23B)および吐出側逆止弁24(24A,24B)と、これら両逆止弁23,24間の油送出用穴部22aに連通・接続された油供給器25とから構成されている。
【0023】
この油供給器25は、中心にプランジャ室(穴部でもある)26aを有するとともに先端側が側壁部21aに挿通するように接続された筒状部材26と、この筒状部材26のプランジャ室26aに挿入されたプランジャ(ピストン部材でもある)27と、このプランジャ27の頭部27aと筒状部材26の外周との間に亘って設けられて当該プランジャ27をプランジャ室26aから突出する方向に付勢するプランジャ用コイルばね28とから構成されている。
【0024】
そして、上記貯溜タンク21内には、支持軸31を介してロッカーアーム(アーム部材)32が当該支持軸31回りに揺動自在に且つその一端部がプランジャ27の頭部27aに当接し得るように設けられるとともに、エンジンのクランク軸に連動連結されて上記プランジャ27の頭部27aをプランジャ用コイルばね28の付勢力に抗して押し込むカム33が設けられている。なお、ロッカーアーム32の他端側に対応する位置で貯溜タンク21側には、ロッカーアーム32の揺動量すなわち注油量を調節するねじ部材34が設けられている。
【0025】
上記油加圧器13は、図2に示すように、一端部が油送出器11の油送出用穴部22aに連通された大径の第1油用穴部(第1油通路)41aが形成されるとともに他端側にこの第1油用穴部41aに細い径の連通穴部41bを介して連通された小径の第2油用穴部(第2油通路)41cが形成された加圧器本体(加圧部本体の一例)41と、上記第2油用穴部41c内に配置されるとともに上記連通穴部41bを開閉し得る球状の第1弁体42と、この第1弁体42に保持材43を介して当該第1弁体42を連通穴部41bを閉鎖する方向に付勢する第1コイルばね(第1付勢部材の一例)44とから構成されている。つまり、この第1弁体42および第1コイルばね44により逆止弁機能が発揮され、この意味で逆止弁と呼ぶこともできる。
【0026】
そして、図3に示すように、上記連通穴部41bの断面積S1は第1弁体42の投影面積S2の略1/5程度(S1/S2=1/5または1/5に近い値)にされている。すなわち、第1弁体42の着座面積が非常に大きくされているとともに、その質量も大きくされている。言い換えれば、少し程度の圧力では弁が開かないようにされていることを意味している。ちなみに、通常の逆止弁は、その着座面積ができるだけ小さくされるとともに質量も小さくされているため、少しの圧力で弁が開いてしまう。
【0027】
上述したように、本実施の形態に係る逆止弁機能を有する第1弁体42については、通常の逆止弁とは異なり、敢えて、着座面積を受圧面積(連通穴部41bの開口面積である)よりも非常に大きくするとともに、その質量も大きくすることにより、少しの圧力では弁が開かないようにされている。
【0028】
したがって、油送出器11から送り出された潤滑油は、通常の逆止弁と同様に、入口側圧力つまり受圧面積に作用する力が第1コイルばね44の付勢力を上回る圧力(この圧力を啓開圧と呼ぶ)に達するまで、主に、第1油用穴部41a内に堰き止められて蓄圧状態になっているが(この意味で、第1油用穴部41aを蓄圧部または蓄圧室と呼ぶことができる)、その油圧が啓開圧を超えて潤滑油が第2油用穴部41cに流れ出すと、受圧面積だけでなく着座面積にも油圧が作用して啓開圧が急激に低下(所謂、なだれ現象である)する。このとき、蓄圧されていた潤滑油の一回当たりの噴出量(注油量)は、開いた第1弁体42が再び閉じるまでの間に一気に加速されて高速で送り出され、したがって蓄圧された油圧も瞬時に降下する。この作用は、プランジャを高速で作動させたことと同一であり、言い換えれば、電子注油システムにおいて油圧によりプランジャを作動させるもの、つまり電気油圧式のものと同一である。このように、潤滑油の圧力を高めた状態で、高速でもって第1弁体42を開くようにしたので、圧力波を発生させ得るとともに圧力波でもって潤滑油を潤滑油供給管12内に送り出すことができる。
【0029】
次に、注油ノズル2および油整流器14について説明する。
図1および図4に示すように、油整流器14と注油ノズル2とは一体的に組み合わされてシリンダ側壁部1に取り付けられている。
【0030】
この注油ノズル2のノズル本体部2aは円柱状に形成されるとともに、このノズル本体部2aの先端側には小径穴部(注油用穴部の一例)2bが形成されるとともにその基端側には大径穴部(注油用穴部の一例)2cが形成されており、またノズル本体部2aの尖端部の両側には潤滑油を噴出し得る非常に小さい径の噴出口2dが形成されている。なお、図5に示すように、この噴出口2dの方向は、シリンダ室3の中心ではなく、両側の内壁面に向かって[正確には、シリンダ側壁部1に形成された傾斜溝部(先端が浅くなるような溝部)1aに沿うように]噴出し得るように円周方向にされている。
【0031】
また、油整流器14は、図4に示すように、潤滑油供給管12側である一端側に小径の油導入用穴部51aが形成されるとともに注油ノズル2側である他端側に大径の整流用穴部(閉込用空間部の一例)51bが形成された整流器本体(整流部本体の一例)51と、上記整流用穴部51b内に配置された球状の第2弁体52と、この第2弁体52を油導入用穴部51a側に付勢する第2コイルばね(第2付勢部材の一例)53とから構成されている。したがって、この第2弁体52および第2コイルばね53により、油加圧器13における第1弁体42および第1コイルばね44と同様に、逆止弁機能を発揮し得るものである。
【0032】
この油整流器14において、油加圧器13にて発生された圧力波が油導入用穴部51aおよび第2弁体52を通過し、注油ノズル2側に到り噴出口2dからシリンダ室3内に噴出される。
【0033】
ところで、潤滑油の一部は注油ノズル2の大径穴部2cの内壁面で反射して再び油整流器14側に戻ることになるが、第2弁体52による逆止弁機能により、潤滑油供給管2側に戻るのが阻止される。つまり、圧力波の「密」として到達した慣性エネルギーを持った油を、瞬時に注油ノズル2近傍の空間部すなわち整流用穴部51b内および大径穴部2c内に、特に整流用穴部51b内に閉じ込めることができる。言い換えれば、圧力波として高速で送り出された潤滑油を、その初速を殺さずに慣性力を用いて注油ノズル2から高速でもって噴出させることができる。なお、上記整流用穴部51bについては、潤滑油を閉じ込め得る閉込用空間部と呼ぶことができ、さらに、広い意味で、この整流用穴部51bと注油ノズル2側の穴部2b,2cも一緒にして、閉込用空間部と呼ぶこともできる。
【0034】
上記構成において、エンジンが回転するとカム33が回転し、ロッカーアーム32を介してプランジャ27が所定ストロークでもって出退される。勿論、プランジャ27の戻り動作は、コイルばね28の付勢力により行われる。
【0035】
このように、プランジャ27が所定ストロークでもって出退すると、その容積分の潤滑油Uが、吸込側逆止弁23から吸い込まれた後、吐出側逆止弁24を介して油加圧器13に送り出される。
【0036】
油加圧器13に潤滑油Uが送り出されると、入口側の受圧面積に作用する力がコイルばね28の付勢力を上回るまで、第1油用穴部41aに堰き止められて蓄圧されることになるが、その油圧が啓開圧を超えて潤滑油Uが流れ出すと、受圧面積だけでなく着座面積にも油圧が作用することにより啓開圧が急激に低下する。このとき、蓄圧された油は、一旦開いた第1弁体42が再び閉じるまでの間に一気に加速され高速で流出してしまうため、蓄圧された油圧も瞬時に降下する。この効果は、プランジャを高速に作動させた効果と同じであり、言い換えれば、電子注油システムのように、油圧を用いて、すなわち電磁切換弁を用いてプランジャを高速で作動させることと同じである。したがって、機械式の構成でありながら、電気油圧式と同じように、潤滑油を高速でもって注油ノズル2に供給する(導く)ことができる。この意味で、油加圧器13をパルスコンバータと言うことができる。
【0037】
なお、図6に、油加圧器13で発生した潤滑油圧力Aおよび注油ノズル2に到達した潤滑油圧力Bの波形図を示す。図6から、油加圧器13を設けることでプランジャ27から送り出される油が一旦せきとめられて、油加圧器13側の潤滑油圧力はカム33のリフト特性に比例してAの波形のように頭打ちすることなく、啓開圧まで上昇していることがわかる。
【0038】
そして、潤滑油の圧力がコイルばね28の付勢力つまり設定圧を超えると連通穴部41bが開放され、高圧の圧力波が潤滑油供給管12を介して注油ノズル2へ向かって進む。このときの管内流速は、油加圧器13で増圧されているため、通常の機械式における管内流速より早くなる。つまり、注油ノズル2に達した圧力波は、油の噴出速度を高める方向に寄与するため、圧力が速度に効率よく変換される。
【0039】
上述したように、油加圧器13にて非常に高速な圧力波が発生し、注油ノズル2まで瞬時に伝播するため、機械式で問題となっていた注油量や注油タイミングのバラツキを解消できる。また、圧力波の伝播速度が非常に高速であるため、シリンダの注油箇所に応じて潤滑油供給管12の長さが異なる場合などの悪影響も少なくなる。
【0040】
また、図7に、本実施の形態における注油圧力C、機械式における注油圧力Dおよび電気油圧式における注油機側圧力Eの波形図を示す。図7から、明らかに油加圧器13を設けた方が高い圧力波が発生していることがわかる。従来の機械式では、0.5MPa程度の低い圧力であり、また電気油圧式では、2MPa程度の圧力であるのに対して、本実施の形態によるものでは、3〜7MPaの高圧化が可能である。
【0041】
また、上述したように、油整流器14と注油ノズル2とを離して配置するとともに、両者の間に適切な容積部分(空間部である)を設けることにより、油加圧器13にて発生した圧力波をこの容積部分に瞬時に閉じ込めることができる。
【0042】
すなわち、容積部分がない場合には、図8(b)に示すように、反射波が発生すると注油ノズル2付近で高周波のノイズ(二点鎖線Fにて示す)が発生するため、注油ノズル2から噴出される油、つまり噴出状態が不安定となるが、本実施の形態のように、油整流器14を設けることで、図8(a)に示すように、高周波のノイズ分が押さえられて(つまり、ノイズFがなくなっている)噴出される油も安定し、不要な反射波が抑制されていることがわかる。なお、図8は周波数スペクトラムを示す。
【0043】
さらに、本実施の形態の構成によると、電気油圧式のように高圧を発生させるための新たな駆動装置が不要となる。
上記圧力波送油式シリンダ注油装置の構成によると、油送出器11と潤滑油供給管12との間に、潤滑油を潤滑油供給管12に送り出す際に、逆止弁機能を有して圧力波を発生させ得る油加圧器13を設けるとともに、潤滑油供給管12を介して導かれた潤滑油の圧力反射波を閉じ込め得る整流用穴部51bを有して圧力波の脈動を整流する油整流器14を設けたので、高圧にて潤滑油を注油ノズル2に供給できるため、所定のタイミングで確実にシリンダ内に潤滑油を噴出させ、すなわち注油することができる。
【0044】
また、油加圧器13は、逆止弁機能を有しており、つまり、電気油圧式ではなく機械式のものであるため、簡単で且つ安価な構成でもって、電気油圧式のものと同等の機能を発揮することができる。
【0045】
さらに、注油ノズル2の手前に整流用穴部51bを有する油整流器14を設けたので、注油ノズル2側から逆流する圧力波、すなわち反射圧力波を潤滑油供給管12側に伝わるのを阻止することができるので、油加圧器13と油整流器14との間における圧力を安定させることができ、したがって油加圧器13からの圧力波を確実に注油ノズル2側に導くことができる。
【0046】
ところで、図9に示すように、上記実施の形態にて説明した油加圧器13において、第1弁体42として鋼製(つまり、強磁性材料よりなる)のものを用いるとともに、加圧器本体41側にこの第1弁体42に磁力線を作用させる電磁石61を配置してもよい。
【0047】
このように電磁石を設けて保持電流をオン・オフさせることにより、つまり電磁力の強弱により、開弁タイミングを精度良く制御することができる。
さらに、図10に示すように、注油ノズル2の大径穴部2cの内径を先端に行くにしたがって順次小さくしてもよい。
【0048】
このように、油整流器14より下流側の潤滑油路を徐々に絞ることにより、潤滑油の圧力を、さらに増大することができる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明の実施の形態に係る注油装置の概略全体構成の配置図である。
【図2】同注油装置における油送出器および油加圧器の構成を示す断面図である。
【図3】同油加圧器の要部構成を示す断面図である。
【図4】同注油装置における油整流器および注油ノズルの構成を示す断面図である。
【図5】同注油装置における注油ノズルの噴出部分を示す要部断面図である。
【図6】同油加圧器で発生する圧力および注油ノズル側で発生する圧力を示す波形図である。
【図7】同油加圧器で発生する圧力と機械式注油装置にて発生する圧力とを比較する波形図である。
【図8】同油整流器で発生する圧力波の波形図である。
【図9】本発明の他の実施の形態に係る油加圧器の要部構成を示す断面図である。
【図10】本発明の他の実施の形態に係る注油ノズルを示す断面図である。
【図11】従来例に係る注油装置の概略全体構成の配置図である。
【符号の説明】
【0050】
1 シリンダ側壁部
2 注油ノズル
3 シリンダ室
11 油送出器
12 潤滑油供給管
13 油加圧器
14 油整流器
21 貯溜タンク
21a 側壁部
21b 穴部
22 ブロック体
22a 油送出用穴部
23 吸込側逆止弁
24 吐出側逆止弁
25 油供給器
26 筒状部材
32 ロッカーアーム
33 カム
41 加圧器本体
41a 第1油用穴部
41b 連通穴部
41c 第2油用穴部
42 第1弁体
44 コイルばね
51 整流器本体
51a 油導入用穴部
51b 整流用穴部
52 第2弁体
53 コイルばね

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ディーゼルエンジンのシリンダ側壁部に設けられた注油ノズルに潤滑油を導きシリンダ室内に噴射させるシリンダ注油装置であって、
エンジンの回転に同期して所定量の潤滑油を送り出す油送出部と、この油送出部から送り出された潤滑油を上記注油ノズルに供給する潤滑油供給路と、逆止弁機能を有し且つ上記油送出部から送り出された潤滑油を加圧し圧力波を発生させて上記潤滑油供給路に送り出す油加圧部と、上記注油ノズルの手前に配置され且つ逆止弁機能を有するとともに上記潤滑油供給路を介して導かれた潤滑油の圧力反射波を閉じ込め得る閉込用空間部を有して圧力波の脈動を整流する油整流部とを具備したことを特徴とする圧力波送油式シリンダ注油装置。
【請求項2】
油加圧部を、油送出部からの潤滑油を導く大径の第1油通路およびこの第1油通路に連通する小径の第2油通路が形成された加圧部本体と、上記第2油通路側に配置されて上記第1油通路の開口部を開閉自在な第1弁体および当該第1弁体を第1油通路側に付勢して上記開口部を閉鎖し得る第1付勢部材とから構成し、
油整流部を、潤滑油供給路からの潤滑油を導く小径の第3油通路およびこの第3油通路に連通する大径の第4油通路が形成された整流部本体と、上記第4油通路側に配置されて上記第3油通路の開口部を開閉自在な第2弁体および当該第2弁体を第3油通路側に付勢して上記開口部を閉鎖し得る第2付勢部材とから構成したことを特徴とする請求項1に記載の圧力波送油式シリンダ注油装置。
【請求項3】
第1弁体の大きさを、当該第1弁体の油通路横断面に対する投影面積が、第1弁体が開閉する開口部面積の略5倍となるようにしたことを特徴とする請求項2に記載の圧力波送油式シリンダ注油装置。
【請求項4】
第1弁体を磁性材料で構成するとともに、当該第1弁体を第1付勢部材による付勢方向と同一方向に付勢し得る電磁石を加圧部本体に設けたことを特徴とする請求項2または3に記載の圧力波送油式シリンダ注油装置。
【請求項5】
注油ノズルに設けられる注油用穴部の内径を先端に行くにしたがって順次小さくしたことを特徴とする請求項2乃至4のいずれか一項に記載の圧力波送油式シリンダ注油装置。
【請求項6】
注油ノズルの先端に形成される噴出口を、その噴出方向がシリンダ室の内壁面に且つ円周方向に沿うような方向でもって形成したことを特徴とする請求項2乃至5のいずれか一項に記載の圧力波送油式シリンダ注油装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2010−25068(P2010−25068A)
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−190360(P2008−190360)
【出願日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【出願人】(593196838)日正汽船株式会社 (4)
【出願人】(000006781)ヤンマー株式会社 (3,810)
【出願人】(000005119)日立造船株式会社 (764)
【Fターム(参考)】