圧延設備用溶接機、圧延設備および圧延方法
【課題】 板圧延に使用する最適な溶接機等を提供するとともに、リーダー片の溶接とその後の分離等に関連して板圧延に最も有利な手順を含む圧延方法を提供する。
【解決手段】 圧延設備用溶接機10は、パスラインの下に設けたバックバーとパスラインの上に設けた溶接ガンとによってシリーズ溶接を行い、複数点を同時に溶接するものである。発明の方法では、出側巻取機4に保持させたリーダー片Lと圧延板Aの先端部とを点溶接機10によってつなぎ、圧延板Aの圧延を、入側巻取機3に向かう偶数パスで仕上げる。
【解決手段】 圧延設備用溶接機10は、パスラインの下に設けたバックバーとパスラインの上に設けた溶接ガンとによってシリーズ溶接を行い、複数点を同時に溶接するものである。発明の方法では、出側巻取機4に保持させたリーダー片Lと圧延板Aの先端部とを点溶接機10によってつなぎ、圧延板Aの圧延を、入側巻取機3に向かう偶数パスで仕上げる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
請求項に係る発明は、圧延機(可逆圧延機)に対して圧延板(ストリップ等)を往復にパスさせることにより行う圧延に関するもので、圧延設備用溶接機とそれを備える圧延設備、および圧延方法を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
可逆圧延機を用いたストリップ(圧延板)の圧延(可逆圧延)は、圧延機(ミル本体)と、その入側に設けられた巻出し機(ペイオフリール)、および入側・出側にそれぞれ配置された巻取機等を使用して行われる。ストリップに張力を与えながら圧延を行うことから、第1のパスの開始時にストリップの先端部が出側巻取機に2〜3巻きされることにより保持され、また第2のパスの開始時にストリップの尾端部が入側巻取機に2〜3巻きされて保持される。そうして先端部・尾端部が各巻取機に巻き付けられた状態のまま、往復に複数パスの圧延が行われる。所定回数のパスを経てストリップが所定の厚さになると、そのストリップがいずれかの巻取機からコイルとして取り出される。ストリップの先端部および尾端部には、圧延されないために製品とはならない部分(オフゲージ部分)が含まれるので、巻き取りの直前またはその後の工程で当該部分が切断分離され処分される。
【0003】
ストリップの長手方向両側の端部に生じるオフゲージ部分は、上記のとおりストリップの損失となるので、それをできるだけ短くするのが歩留まりの点で有利である。下記の特許文献1には、そのような損失を少なくして歩留まりを高くするように工夫を施した圧延方法等が記載されている。
【0004】
特許文献1に記載の方法は、出側または入側の巻取機にリーダー片を保持させ、それを圧延板の先端部または尾端部に溶接し、その圧延板を、上記端部付近でもリーダー片を介し巻取機から張力付与をしながら上記圧延機によって圧延するものである。具体的には、図12(a)〜(f)のように、巻出し機2上に取り付けたコイル(ホットコイル)CR1から圧延板(ストリップ)Aを巻き出し、圧延機1と巻取機3・4の間で圧延板Aをレバース(可逆)圧延するもので、つぎの手順にしたがう。
a) まず、巻出し機2から圧延板Aの先端部(出側端部)を巻き出し、その先端部が溶接機12’の位置に達すると、出側巻取機4から巻き出しておいたリーダー片Yの端部に重ねたうえ、両者を溶接機12’にて点溶接する(図12(a))。
b) その後、上記の点溶接による溶接部分Ycを圧延機1の近傍まで戻し、そこで圧延機1のロールを閉じて第1パスの圧延を開始する(図12(b))。
c) 圧延は、巻取機4等にて圧延板Aに張力を作用させながら行い、圧延板の尾端が巻出し機2から外れる際には、ストリッププレス15’を使用することにより圧延板Aに張力を発生させる(図12(c))。
d) 圧延板Aの尾端部(入側端部)が溶接機11’の位置まで送られると、入側巻取機3からリーダー片Xを送り出すことにより、溶接機11’上で両者を重ね、溶接機11’によって圧延板Aの尾端部にリーダー片Xを溶接する(図12(d))。
e) その後、入側巻取機3にて張力を作用させながら上記による溶接部分Xcが圧延機1の近傍に達するまで圧延を進めると第1パスの圧延が終了するので、第2パス(およびその後の偶数回目のパス)は、出側巻取機4にて張力を作用させながら圧延板Aとリーダー片Yとの溶接部分Ycが圧延機1の近傍に達するまで行う(図12(e))。
f) 第3パス(およびその後の奇数回目のパス)は、上記と同様、圧延板Aに張力をかけながら溶接部分Xcが再び圧延機1の近傍に達するまで圧延を行う(図12(f))。 以上のように奇数回目および偶数回目のパスを繰り返すことにより、圧延板Aが所定の厚みになるまで往復(レバース)の圧延を行う。圧延が終了すると、入側または出側の巻取機から圧延板のコイルを払い出す。なお、図中の符号13’・14’は切断機である。
【0005】
このようにして圧延を行う場合には、圧延板のうち長手方向の端部(すなわち張力を付与して圧延することが難しい部分)にリーダー片を溶接することから、圧延板のうち多くの部分を圧延することができ、損失を少なくすることができる。また、リーダー片を使用して巻取機から張力を付与しながら圧延するので、蛇行しないなど圧延板の送りが安定するほか、製品の形状や厚み精度にすぐれるといった利点がもたらされる。
【特許文献1】特開2006−334647号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の特許文献1は、可逆圧延機を用いた板圧延におけるオフゲージ部分の損失を少なくして歩留まりを向上させる手段を提示するものではあるが、生産性をも考慮した最も有利な方策を明示するものではなかった。先端部と尾端部との両方にリーダー片を取り付けると、歩留まりは格段に向上するが、反面、コイルの内周側に残るリーダー片の処理に時間がかかり、生産性が阻害される。つまり従来は、リーダー片の溶接とその後の分離等に関連して、生産性等を最大限に高める最適な手順を見出すまでには至っていなかった。また、たとえば、圧延板にリーダー片を溶接する溶接機等として、具体化を進めた最適なものを提示することもできなかった。
【0007】
請求項に係る発明は、そのような点から、板圧延に使用する最適な溶接機等を提供するとともに、リーダー片の溶接とその後の分離等に関連して板圧延に最も有利な手順を含む圧延方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項に係る発明の圧延設備用溶接機は、圧延設備に配置されて圧延板に点溶接を行うものであって、パスライン(圧延板の通過経路)の下に設けたバックバーと、パスラインの上に設けた溶接ガン(電極とそれへの通電部材等を含む溶接機構)とによってシリーズ溶接を行い、複数点を同時に溶接することを特徴とする。シリーズ溶接とは、一つの溶接電流回路内に直列に2以上の溶接点(ナゲット)を含む点溶接で、たとえば、溶接対象とする一組の板の一方の面に二つの電極を当てるとともに、導電率の高い金属でできたバックバーを他の側の面に当てて行うものである。
上記した圧延設備用溶接機は、これを板圧延に使用して圧延板の溶接を行うとき、つぎのような好ましい作用効果をもたらす。すなわち、
・ 点溶接機であることから設備費用が少なくてすみ、また、溶接所要時間が短いため圧延過程全体の生産能率が高くなる。
・ 溶接ガンをパスラインの上に設けてシリーズ溶接を行うので、圧延ロール等に使用する冷却液(ロールクーラント)が溶接ガンの機械部分や通電部分に流入しにくい。そのため、溶接ガンについて防水等のための手段を簡単化しながらも、冷却液による漏電等のトラブルを確実に回避することができる。パスラインの下にはバックバーを設けるが、バックバーに冷却液が付着または流入しても不都合はない。
・ 上記のようにバックバーを用いてシリーズ溶接を行うと、少なくとも2点の点溶接を同時に行うことができる。そのため、多数箇所の溶接を迅速に行ううえで都合がよい。圧延板を他の板と接続する際には、その寸法や機械的負荷(張力や曲げが溶接部に作用する)の関係から複数の溶接点を設けて必要な溶接強度をもたせる必要があるが、それを満足する溶接を能率的に実施できるわけである。
【0009】
発明の溶接機については、とくに、パスラインの下にバックバーを固定配置するとともに、パスラインの上に、上記の溶接ガンと変圧器、および溶接ガンの昇降機を配置し、上記の溶接ガンは、圧延板の長さ方向に沿った位置が2以上に分布する複数点を溶接するよう構成する(そのような複数点を同時に溶接できる数を配置し、または溶接ガンを移動可能に設ける)のがよい。
そのようにすると下記の点でさらに有利である。すなわち、
・ 上記した溶接ガンだけでなくその昇降機や変圧器についてもパスラインの上に配置し、パスラインの下にはバックバーのみを固定配置すればよいことから、溶接のためのあらゆる機械部分や通電部分に対しても前記の冷却液が流入しにくい。したがって、防水構造等を簡単化して溶接機のコストを削減することが容易になる。
・ 上記のように配置した溶接ガンにより、圧延板の長さ方向に沿う2位置以上を同時にシリーズ溶接するので、溶接した板同士の、圧延設備における溶接強度の点で有利である。圧延設備においては、種々のロールに接触する際にも巻き取りの際にも、圧延板には板の長さ方向に沿って曲げが作用する。板幅方向に多数点を溶接した場合であっても、長さ方向に溶接点が1点のみ(1列配置)である場合には、上記のように板の長さ方向に作用する曲げには抗しにくいため溶接が剥がれやすくなりがちである。その点、圧延板の長さ方向に沿って2点(2列)以上の溶接を行った場合には、圧延設備において生じやすい上記の曲げに抗しやすく、強度上有利なのである。
【0010】
溶接ガンは、溶接を行わないときパスラインから離れた(上方または側方の)位置へ待避可能なものとし、それに、圧延板の厚さを計測するつぎのような厚み計を併設すると好ましい。すなわち、パスラインの近傍で圧延板の厚さを計測するとともに、計測を行わないときパスラインから離れた側方等の位置へ待避し得る厚み計であって、それを、計測中の位置が溶接ガンの溶接時の位置と重なる(厚み計の計測中の位置と溶接ガンの溶接時の位置とが少なくとも一部で重なる)ように併設するのがよい。
上記のような厚み計と溶接機とをそのように重なる位置関係に配置すれば、両者の設置スペースを節約でき、圧延長手方向への広がりを抑えたコンパクトな圧延設備を構成できる。圧延設備について圧延方向への広がりが抑制できると、リーダー片を使用しない場合に未圧延のオフゲージ部分が短くなり、製品の歩留まりの点でも有利になる。また、こうして溶接機の設置スペースが節約できると、既設の圧延設備に対しても、巻取機等の位置を変更することなく発明の溶接機を設置することが可能になる。
厚み計の計測中の位置と溶接ガンの溶接時の位置とが重なることとなっても、両者の機能には全く差し支えがない。なぜなら、厚み計が圧延板の厚さを計測するのは圧延板が送られてその圧延が行われているときであり、溶接機が圧延板の溶接を行うのは圧延板の送りが停止されているときであって、両者は必ず異なる時期に上記の位置で計測または溶接を行うからである。そしてそれぞれは、計測または溶接を行わない時期にはパスライン(圧延板)から離れた位置へ待避するため、互いの機能を妨げないのである。
【0011】
通常、上記の厚み計は、パスラインから離れた側方等の位置へ待避した状態でその較正(ゼロ点調整等のキャリブレーション)が行われる。それは、パスラインにある圧延材がない状態で、予め備えてあるサンプル材によって較正するためである。厚み計の較正は、製品厚みの要求精度にもよるが、1コイルにつき1回行うのが望ましい。較正作業はコイル替えに要する時間に行われるので、圧延の停止時間は、較正を行わない場合と同等であり、著しく長くなることはない。
発明に基づく実際の操業では、特定の圧延板についての圧延の開始前などに上記溶接機によって圧延板にリーダー片等を溶接し、その溶接の間に、パスラインから離れた位置へ待避させた厚み計についてその較正を行うことができる。つまり、溶接機による溶接と厚み計の較正とを同時に行えるため、圧延の停止する時間は、溶接・較正を行わない場合と同等で、著しく長くなることはない。さらに、この場合、コイル替えに要する時間を大きく短縮できるというメリットが生じる。これについては後述する。
【0012】
請求項に係る圧延設備は、圧延機の入側および出側に巻取機を備えるもの(可逆圧延設備)において、出側巻取機に保持させるリーダー片を圧延板の端部に溶接して後に圧延板から分離すべく、入側または出側の巻取機と圧延機との間に、上記いずれかの溶接機と、上記分離のための切断機とを配置したことを特徴とする。
なお、請求項にいう「圧延機」は、1スタンドまたは複数スタンドのもの、少なくとも1基からなる圧延機群をさし、形式やロール数などは問わない。また、「入側」とは、最初にコイルを取り付けて圧延板を巻き出す側をさし、「出側」とは、圧延機をはさんで入側と反対の側をさす。
こうした圧延設備では、上記した発明の溶接機を使用してリーダー片と圧延板とを適切に溶接することができる。リーダー片は出側巻取機に保持させることとするので、入側に向かう偶数回目のパスを最終パスとするよう圧延を行ったのち、圧延板を入側巻取機からコイルとして払い出すこととすれば、圧延板の出側端部付近に生じる損失が少なくなるうえ、能率的な操業ができる。能率的であるのは、出側端部に溶接したリーダー片は、出側巻取機につねに保持させておけばよく、その巻取機上にある状態のまま、次の圧延板の出側端部に溶接して使用することができるからである。つまり、そのリーダー片を出側巻取機から取り外したり、再びその巻取機(の巻取軸)に保持させたりする必要がないため、操業能率の点できわめて有利である。
【0013】
請求項に係る発明の圧延方法は、圧延機とその入側および出側に配置された巻取機とを使用し、往復のパスをさせることにより圧延板を圧延する方法であって、
・ 出側巻取機に保持させたリーダー片を圧延板の端部に溶接し、その圧延板を、上記端部付近でもリーダー片を介し巻取機から張力付与しながら、リーダー片およびリーダー片との溶接部分を圧延することなく上記圧延機によって可逆圧延し、
・ 入側巻取機へ向かう偶数回目のパスの終了時に、上記溶接部分を外れた位置でリーダー片を切断(分断)し、端部に上記溶接部分が付いた圧延板を、その溶接部分を切り離さない状態のまま入側巻取機に巻き取り、コイルとして払い出す
ことを特徴とする。
この圧延方法によると、図12に示す従来の圧延方法と同様、圧延板の長手方向端部にリーダー片を溶接して使用することから、圧延板のうち多くの部分を圧延することができて圧延板の損失を少なくすることができる。リーダー片を介し巻取機から張力を付与しながら圧延するので、圧延板の送りが安定するほか、製品の形状や厚み精度等の点でも有利である。
この方法ではとくに、入側巻取機へ向かう偶数回目のパスを最終パスとし、当該パスの終了時に上記のリーダー片を切断し分離するので、圧延板の出側端部付近に生じる損失が少なくなるだけでなく能率的な操業ができる。上のようにすると、出側巻取機へ向かう奇数回目のパスを最終パスとする場合とは違って、出側端部に溶接したリーダー片を出側巻取機につねに保持させておけばよく、その巻取機上にある状態のまま、次の圧延板の出側端部に溶接して使用できるからである。つまり、そのリーダー片を出側巻取機から取り外したり、再びその巻取機(の巻取軸)に保持させたりする必要はなく、操業能率の点できわめて有利である。
しかもこの方法は、リーダー片の切断を、圧延板との溶接部分を外れたリーダー片上で行い、端部に上記溶接部分が付いた圧延板を、その溶接部分を切り離さない状態のまま入側巻取機に巻き取って払い出すことから、とくに下記のような効果をももたらす。すなわち、a)圧延ライン上に溶接部分の処理設備を配置する必要がなく、圧延設備を短くて簡単なものに構成できるうえ、b)溶接部分の処理を圧延ライン上ではなくオフラインで行うため、当該処理中にも次の圧延板を圧延ライン上に通して圧延(またはその準備)を行うことができ、生産性の向上がはかれる。たとえば、溶接部分が付いた圧延板のコイルを入側巻取機から払い出したのち、コイルカー等に載せた状態で溶接部分の分離等をし、そうした作業を行っている間に次の圧延板をペイオフリールから圧延ラインに供給するようにすれば、溶接部分の分離作業のために圧延が滞ることがなく、明らかに好ましい。
【0014】
圧延板の端部へのリーダー片の上記溶接とその後に行うリーダー片の上記切断とは、上記圧延機と出側巻取機との間、または上記圧延機と入側巻取機との間に設置した溶接機および切断機によって行うとよい。
上記の溶接と切断とを圧延機と出側巻取機との間で行う場合には、圧延板の端部(先端部)にリーダー片を溶接したのち、溶接後の圧延板をほとんど送ることなく短時間で圧延を開始することができ、また、切断したリーダー片をほとんど送ることなく次の圧延板の端部に溶接することができる(後述する図1の例を参照)。一方、溶接と切断とを圧延機と入側巻取機との間で行う場合には、圧延ずみの圧延板をリーダー片の切断後に入側巻取機に巻き取る作業を短時間で行うことができ、また、切断後のそのリーダー片に溶接するための次の圧延板の送りの距離が短くてすむ。そのような理由により、いずれの場合にも圧延能率を高めることが可能である。
【0015】
上記のとおりリーダー片を切断して圧延板を入側巻取機に巻き取ったのちは、その圧延板のコイルから溶接部分を切り離すよりも前に、入側のペイオフリールより別の圧延板を出側に向けて(圧延機とその先の出側巻取機に向けて)送り出すのがよい。
発明の圧延方法によれば、前述のとおり、端部に溶接部分が付いたままの圧延板を入側巻取機に巻き取って払い出すことから、溶接部分の処理を圧延ライン上ではなくオフラインで行い、設備面および能率面でメリットがある。しかし、能率面の効果は、ここに記載したように、入側巻取機に巻き取ったコイルから溶接部分を切り離すよりも前に、入側のペイオフリールより圧延ライン上に別の圧延板を送り出すことによって顕著になる。そのようにすれば、溶接部分の処理とは無関係に、前の圧延板の圧延が終了してリーダー片を切断したのち、極めて短時間のうちに次の圧延板の圧延を開始できるからである。圧延板の先端を、図3に示す渡しテーブルの先端付近(前の圧延板の圧延に支障を及ぼさない出側寄りの位置)まで送っておくなど予め準備しておくと、次の圧延板の圧延を迅速に開始できる点でさらに有利である。
【0016】
発明の圧延方法については、
・ 複数の圧延板のそれぞれに対して順次に、同一のリーダー片を用いて上記の可逆圧延と払い出しとを行い、(リーダー片を使い切ったときまたはロール交換のとき等のタイミングで)出側巻取機から一旦そのリーダー片を払い出したのち、
・ リーダー片を使用せずに一の圧延板の端部を直接出側巻取機に保持させたうえ、巻取機(出側および入側)から張力付与しながら上記圧延機によってその一の圧延板を可逆圧延し、
・ 入側巻取機へ向かう偶数回目のパスの終了時に、その一の圧延板を、出側巻取機に保持させた状態で切断し、後に圧延する別の複数の圧延板に対するリーダー片とする
のがとくに有利である。リーダー片を使用せずに圧延する上記一の圧延板としては、広幅(使用する圧延機において圧延可能な最大幅またはそれに近い幅)の板とするのが、圧延ロールおよび圧延板の平滑性維持の点で好ましい。また、その一の圧延板は、後に圧延する多くの圧延板に対しリーダー片として使用できるよう、上記の溶接と切断とを数十回程度繰り返すことのできる長さ(たとえば十数メートル)を出側巻取機に保持させた状態で切断するのがよい。
上のように一の圧延板を圧延し切断してリーダー片とするなら、発明の圧延方法において使用するリーダー片とその取扱いに要するコストが削減される。すなわち、リーダー片とする板をわざわざ手配する必要がないうえ、その板を出側巻取機に保持させて最初の圧延板の先端部に溶接するという作業が不要になる。またその後も、複数の圧延板に対しリーダー片として繰り返し使用するので、損失を減らして生産性を高めるというメリットを繰り返し発揮することになる。
広幅の圧延は、最初2.5mm厚を1.0mm厚×1219mm幅に4パス仕上げするなど厚物の圧延が行われる。その場合、最終パス前(3パス目)は1.2〜1.6mm厚に圧延されており、リーダー片としてはこの厚みのものが使用される。リーダー片と圧延板との溶接の強度に関して示す後述の表1より、リーダー片の板厚が1.2〜1.6mmであると溶接強度が高いので、溶接箇所の数を板厚ごとに変更しない場合には安全率が高くなり、有利である。1.2〜1.6mm厚のリーダー片を使うことは、2.5mm厚のもの等を使う場合に比べて歩留まりの点でも有利である。
【0017】
発明の圧延方法において行う上記の溶接は、パスラインの下にバックバーを有するとともにパスラインの上に溶接ガンを有していて複数点を同時にシリーズ溶接する点溶接機によって行うのが好ましい。
そのようにすると、前記した圧延設備用溶接機が有する利点を生かして、リーダー片と圧延板の端部との間に圧延に適した好ましい溶接を施すことができる。
【発明の効果】
【0018】
請求項に係る発明の圧延設備用溶接機によれば、a)点溶接機であるために設備費用が少なくてすむうえ、上記溶接を短時間で能率的に行える、b)溶接ガンをパスラインの上に設けてシリーズ溶接を行うので、圧延用の冷却液による漏電等のトラブルが避けられる、c)バックバーを用いるシリーズ溶接を行うため少なくとも2点の点溶接を同時に行うことができ、必要な溶接強度を能率的に付与することができる――といった効果がある。
溶接ガンと変圧器、溶接ガンの昇降機をパスラインの上に配置し、上記の溶接ガンを、圧延板の長さ方向に沿った位置が2以上に分布する複数点を溶接するよう構成するなら、さらに、溶接のためのあらゆる機械部分や通電部分について防水構造等を簡単化して溶接機のコストを削減することができるうえ、溶接した板同士の、圧延設備における溶接強度の点で有利である。
【0019】
溶接ガンを、溶接を行わないときパスラインから離れた位置へ待避可能なものにするとともに、圧延板のための厚み計であって同様に待避可能なものを、計測中の位置が溶接ガンの溶接時の位置と重なるように併設すると、両者の設置スペースを節約でき、圧延方向への広がりを抑えたコンパクトな圧延設備を構成できる。
【0020】
請求項に係る発明の圧延設備では、上記発明の溶接機を使用してリーダー片と圧延板とを適切に溶接できるので、圧延板の出側端部付近に生じる損失が少なくなるとともに能率的な操業が行える。
【0021】
請求項に係る発明の圧延方法によると、圧延板のオフゲージによる損失の減少や、圧延板の形状・厚み精度の維持といった点で好ましいほか、圧延設備を簡素化できる点、次の圧延板の圧延を短時間で開始できて生産性を向上させられる点で有利である。
圧延板の端部へのリーダー片の溶接とその後に行うリーダー片の切断とを、圧延機と出側巻取機との間、または圧延機と入側巻取機との間に設置した溶接機および切断機によって行うと、一つの圧延板の圧延の終了から次の圧延板の圧延開始までの所要時間をとくに短縮でき、生産性に関して極めて好ましい。
リーダー片を切断して圧延板を入側巻取機に巻き取ったとき、その圧延板のコイルから溶接部分を切り離すよりも前に、入側のペイオフリールより別の圧延板を出側に向けて送り出すようにすると、次の圧延の開始をさらに迅速化して生産性を高められる。
【0022】
ある一の圧延板を、リーダー片を使用しない従来方式の可逆圧延を行ったうえ切断して出側巻取機に保持させたままとし、それを後の圧延用のリーダー片とするなら、リーダー片を別途手配して巻取機に保持させる等の必要がなく、コスト削減および能率向上の点で有利である。
リーダー片と圧延板の端部との間の溶接を、パスラインの下にバックバーを有するとともにパスラインの上に溶接ガンを有していて複数点を同時にシリーズ溶接する点溶接機によって行うと、適切な強度を有する圧延に適した溶接を迅速に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
発明の実施のための一形態として、普通鋼の冷間可逆圧延に関する圧延方法および圧延設備につき図1〜図11を示す。図1は、発明の実施例について圧延方法と圧延設備とを概念的に示す図であり、図2はその圧延方法のうち重要部分の基本コンセプトを示す図、図3は圧延設備の全容を例示する図である。図4〜図7は、圧延設備のうち溶接機10またはその周辺の構造を示す詳細図、図8は、当該溶接機10等を圧延機1とともに示す斜視図である。また図9〜図11は、図示の圧延方法・圧延設備による効果を説明する図である。
【0024】
例示の設備には、図1に示すように、圧延機(ミル本体)1やペイオフリール(巻戻機)2、入側巻取機(テンションリール)3、出側巻取機(テンションリール)4を含む圧延ラインに、矯正機5、切断機(自動せん断機、シャー)6、ストリッププレス7とともに、溶接機10と厚み計20とを配置している。切断機6と溶接機10および厚み計20の配置位置は、図1および図4等に示すように圧延機1と出側巻取機4との間(図3の例では、圧延機1と入側巻取機3との間)としている。溶接機10は、圧延長手方向に沿った2箇所を同時にシリーズ溶接する点溶接機(図1にイメージを表示し、図4〜図8に詳細を示す)である。
【0025】
この設備では、出側巻取機4にリーダー片(リーダーストリップ)Lを保持させ、これを溶接機によって圧延板(ストリップ)Aの先端部に接合し、偶数回のパスで仕上げる圧延方法を実施する。それにより、未圧延部(オフゲージ部分)を減らして歩留まりを向上させるとともに生産性を高めるのがねらいである。
【0026】
実施する圧延方法は、図1(a)〜(g)に示すものである。すなわち、
1) あらかじめ出側巻取機4に保持させたリーダー片L(の自由端)と、ペイオフリール2から供給される圧延板Aの先端部とを、溶接機10によって溶接接合する(図1(a))。その溶接部分Lcについては、圧延板Aの幅にもよるが、上記したシリーズ溶接を板幅方向の12箇所に行うことにより合計24点の点溶接を行うものとする。
2) 溶接部分Lcは、一たん圧延機1のミルバイト近傍まで戻し、そこで所定位置(溶接部分Lcに近い圧延板A上の位置。図2における位置1P)に圧下を行う(図1(b))。圧延機1から各リール2・4間の張力が確立してから1パス目の圧延が始まることになる。圧延中は、厚み計20を用いて圧延板Aの厚さを継続的に計測・監視する。
3) 1パス目の尾端は、従来の通常の圧延と同様にストリッププレス7を用いてオフゲージを低減させ、2パス目以降の圧延は、やはり従来の通常の圧延と同様、圧延板Aの尾端部を入側巻取機3に取り付けて実施する(図1(c)〜(e))。
4) 圧延板Aの送りの向きを順次変更して複数パスの圧延を行ったのち、圧延板Aは、偶数回目のパスを最終パスとして、溶接部分Lcを含まないリーダー片L上の位置(図2に示す「自動カット」位置)で切断機6により切断し、入側巻取機3に巻き取る(図1(f))。
5) 圧延板Aを入側巻取機3で巻き取ったのちは、板先端が渡しテーブル5Bの先端に位置する(図3参照)よう既に準備ずみの次の圧延板Aを、すぐにペイオフリール2から供給し、出側で待機しているリーダー片Lとの溶接を始める(図1(g))。次の圧延板Aについて圧延ライン上でそのような準備作業とそれに続く本来の圧延とを行う間に、上記で巻き取った先の圧延板Aについてオフラインで、搬出作業や上記溶接部分Lcの分離作業等を行う。その後、圧延ライン上で上記の手順(図1(a)〜(g))を繰り返し、複数の圧延板Aを続けて生産する。
【0027】
なお、多数の圧延板Aについて圧延を繰り返すことによりリーダー片Lが短くなると、出側巻取機からリーダー片を払い出したのち、広幅の圧延板Aを、リーダー片Lを使用しない通常の方式で圧延し、偶数パスで仕上げたうえ、最終パスの終了時に10m余り(10〜20m)を出側巻取機4に残して切断するとよい。そうすると、別途リーダー片Lを手配して出側巻取機4に保持させる等の手間をかけなくとも、その10m余りの圧延板Aを以後はリーダー片Lとして使用し、その後に数十の圧延板Aを上記1)〜5)の手順で圧延することが可能になる。
【0028】
この圧延方法における重要なコンセプトは、a)出側巻取機4に保持させたリーダー片Lと圧延板Aの先端部とを点溶接機10によってつなぎ、圧延板Aの圧延を入側巻取機3に向かう偶数パスで仕上げること、および、b)点溶接された溶接部分Lcは、偶数パスの圧延終了後に切断機6にてリーダー片L上の位置で切り離し、圧延板Aのコイルに付けたまま入側巻取機3から搬出し、オフラインで処理することである。図2はこのようなコンセプトを示す概念図である。図中の符号1P、3P、4Pは、第1、第3、第4の各パスの開始点または終了点を示し、「2t」「1.4t」等の数値は圧延後の各部の板厚を例示している。図2の例では、溶接部分Lcを含む長さ約800mmが、一つの圧延板Aにおけるオフゲージ部分となる。同部分は長さが短いために重量も軽く、したがって切り離された後のハンドリングも容易である。
【0029】
図1の各図に模式的に示した圧延設備を構造的に示すと図3のようになる。図1における各構成部分と同じ部分には同一の符号を付けている。ただし、溶接機10は圧延機1の入側にあっても生産性の改善を図れるため、図3の例では、他の図のものと異なり、圧延機1と入側巻取機3との間にそれらを設置している。また、切断機6はこの例では圧延機1の入側に配置している。入側・出側の各巻取機3・4の下には、圧延板Aのコイルを載せて搬出できるコイルカー8を配置している。コイルカー8のうち上部昇降台の上端にはクレードルロール8aが取り付けられているので、載せたコイルを適宜に回転させ、端部の溶接部分Lcをハンドカッターで切断しやすい箇所まで送り出すことも容易である。
【0030】
図4および図5には、圧延機1とその隣接位置(出側)に設けた溶接機10、厚み計20および切断機6等の詳細を示す。図4(a)は、溶接機10の溶接ガン11等が圧延板Aから離れた上方へ待避し厚み計20が圧延板Aに接近してその厚み計測を行っている状態を示し、同(b)は、厚み計20が圧延板Aの測方へ待避して溶接ガン11等が圧延板Aに接近した状態を示している。図5(a)は図4(a)におけるVa−Va矢視図、図5(b)は図4(b)におけるVb−Vb矢視図である。
【0031】
溶接機10は、前述のとおりシリーズ溶接を行う点溶接機である。図4のとおり圧延板Aのパスラインの上方には、電極とその押付け手段や通電部材等を含む溶接ガン11のほか、トランス(変圧器)12、溶接ガン11用の昇降機(リトラクトシリンダ)13などを配置している。エアシリンダ駆動にて電極の押付けをする溶接ガン11は、シリーズ溶接によって圧延方向に2列を含む溶接を行うよう、圧延方向2列×幅方向6列に12基を配置し、6台のトランス12に接続している。溶接ガン11(の駆動用電磁弁)およびトランス12は、機械部品と電機部品とを内蔵した各ケーシングの内部に配置しエアパージをすることとして、ロールクーラントの水滴や蒸気から部品を保護している。
溶接ガン11とトランス12とは、昇降機13により、図4(a)のように圧延板Aのラインから上方へ離れた待避位置と、図4(b)のような機能位置との間で上昇・下降させることができる。また溶接ガン11や昇降機13を含む全体を、図5に示すシフトシリンダ16と案内部材17とを含む移動機構により、測方(圧延ラインの駆動側)へシフトできるようにもしている。
そしてその一方、図6のようにパスラインのすぐ下には、シリーズ溶接に不可欠な高導電性のクロム銅にてなるバックバー16を固定配置している。パスラインより下にはロールクーラント等の液体が流れ落ちるため、溶接機10の構成部分のうちこのバックバー16のみをパスラインの下に配置し、他の構成部分はパスラインより上に設けている。
【0032】
リーダー片Lと圧延板Aとを溶接する際には、上記6列に配置した溶接ガン11によって同時に6箇所(12点)の点溶接(シリーズ溶接)をし、さらにシフトシリンダで数十ミリだけ溶接ガン11を測方(幅方向)へ移動させて他の6箇所(12点)を溶接する。それにより、圧延長手方向に2列を有する12箇所(24点)によって、リーダー片Lに圧延板Aの端部を溶接する。
【0033】
厚み計20はX線厚み計であって(γ線またはβ線式の厚み計とすることもできる)、図5(a)に示すように発信部20aと受信部20bとをコの字形フレームの上下各部分に設けたものである。これら発信部20aと受信部20bとで圧延板Aをはさみ、X線を用いてその圧延板Aの厚さを測定する。厚み計20は、そのフレームに取り付けた車輪21と、測方(圧延ラインの駆動側)に延ばして設けたレール22等により、圧延板Aをはさんでその厚さ計測をする機能位置(図5(a))から、その測方の待避位置(図5(b))までシフトすることができる。
【0034】
溶接機10と厚み計20とをコンパクトに配置するために、厚み計20が厚さ計測をする上記機能位置は、溶接ガン11が下降して圧延板Aに溶接を行う機能位置と重なっている(圧延方向における各中心線の位置が同芯である)。ただし、厚み計20が圧延板Aの厚さを計測するのは、圧延板Aが送られてその圧延が行われている間であり、溶接ガン11が圧延板Aの溶接を行うのは、圧延板Aの送りが停止されているときであるため、両者は必ず異なる時期に上記機能位置で計測または溶接を行う。そしてそれぞれは、計測または溶接を行わない時期には圧延板Aから離れた上記の各待避位置へ移動する。溶接ガン11が待避位置に上昇しまたはその測方にシフトした状態では、電極交換等のメンテナンスを行うことができ、厚み計20が測方に待避した状態では、その較正(ゼロ点調整等)を行うことができる。
【0035】
図6に示すように、バックバー16の上面に接するパスラインのすぐ上には、溶接時に圧延板Aを押さえるための板押さえ30を設けている。板押さえ30は、前後の端部をややに上に向けた平板で、昇降シリンダ31の作用で上方へ持ち上げることができる。厚み計20が圧延板Aの厚さを計測する際は、当該上方の位置で厚み計20を保護する機能をはたす。なお、板押さえ30には、図7に示すように、厚み計20のX線を通すための孔30aと、溶接ガン11の各電極を通すことができる孔30bとを形成している。そのほか、パスラインの下に固定した、やはり平板状のバックバー16の中央部分にも、厚み計20のX線を通すための孔を設けている。
【0036】
板押さえ30の前後には、図6のように別の昇降用シリンダ35・36をも配置している。これらは、圧延板Aの端部とリーダー片Lの端部とを溶接前に重ね合わせる際、いずれかを持ち上げて各端部同士が突き当たらないようにするためのものである。
なお、図6中に表示される符号6a・6bは、切断機6のそれぞれ上刃および下刃である。また、図4に示される符号9は、圧延板A用の押さえロールである。
【0037】
図8は、以上に述べた溶接機10と厚み計20等の構造と位置関係を、圧延ラインの駆動側であって圧延機1の出側から見て示す斜視図である。圧延ラインに沿った方向への占有スペースが最小限になるよう、溶接機10と厚み計20とをコンパクトに配置していることが確認される。
【0038】
溶接機10によってリーダー片Lを圧延板Aの端部に溶接するに関しては、あらかじめ溶接部分Lcの強度と耐久性につきパイロットライン(図示せず)にて試験を行った。試験では、巻き取り・巻き戻しおよび引張強度を考慮した900mm幅材の必要溶接箇所数を求めた。その結果は表1に示すとおりである。
【表1】
【0039】
ここでは、必要圧延張力を一部のパスでテーパーテンションを採用するものとして60kNとした。表1により、各ケースで12箇所(24点)以上あればよいことが分かる。
また、圧延油が介在するときの溶接強度を確認するため、ギヤ油をハケ塗りしての試験も行ったが、溶接強度の劣化は確認できなかった。これは、溶接時のアークで油分が瞬時にバーンアウトするためと考えられる。
【0040】
発明に基づく未圧延部の低減効果を図9に示す。図中の左端には、リーダー片を使用しない通常圧延(以下、リーダー片を使用しない従来の圧延を「通常圧延」と呼ぶ)でのオフゲージ率を示し、中央にはストリッププレスのみを使用した場合のオフゲージ率(下部)と改善効果(上部)を示している。そして右端には、以上に説明した設備・方法によるオフゲージ率(下部)と改善効果(上部)を示している。この右端のケースは、オフゲージ率が0.7%であり、通常圧延に比較して1.4%改善したこと、およびストリッププレスを使用した通常圧延に比較しても0.9%の改善があることを示している。年産25万トンの圧延設備では、年間2250トン〜3500トンのホットコイルを使わなくてもよいことになり、大きなメリットとなる。また、先端から張力を付加して圧延できるため、上記の方法では、他のオフゲージ低減方法と比較して通板安定性や板厚精度、板形状について優れるといえる。
【0041】
圧延板Aの1コイルあたりの処理時間(圧延時間を除く)について、測定結果を表2に示す。
【表2】
【0042】
表2に示すように、上記圧延方法によれば、圧延ずみコイルのオフラインへの払い出しを待つことが不要であり、次の圧延板Aを出側巻取機4に通板のうえ保持させて数周巻くことが不要であるため、リーダー片を使用しない通常圧延に比べると、点溶接に時間を要しても1コイル当たりの処理時間(圧延時間を除く)が短縮できることが分かる。また、未圧延部からなる小コイル(Pup coil)が発生しないので、バンドがけして取り出していた従来の手間も省ける。
【0043】
圧延板Aの圧延を偶数パスで仕上げる場合の生産能力について、図10および図11を示す。図10は、ある製鉄所での各板幅ごとの製品平均ゲージを、通常圧延の4パス、5パスおよび6パスでそれぞれ仕上げた場合の単位時間当たりの生産量(T/H)を示している。同じ仕事量ながら、多パスになるほど、パス切り替えや加減速の時間が増えるなどで生産性が低下する。
そして図11に、4パスと6パス仕上げ時に上記圧延方法を適用した場合と通常圧延の5パス時との比較を示す。上記方法の適用により、4パス時はさらに生産性が向上し、6パスであっても1コイル当たりの処理時間の短縮が貢献して、通常の5パス圧延よりも生産性が向上することが分かる。
【0044】
以上の点から、上記方法の採用により、4パス時で約10%、6パス時で約2%生産性が向上すると予想される。ただし、実際の操業において偶数パスで運用する場合、全てを減パスにすることはできず、約半数を増パスにする必要がある。それを考慮した年産25万トンミルの場合の試算では、上記圧延方法の採用により、通常圧延で年間5402時間の操業時間が5096時間となり、6%生産性が向上した。発明の圧延方法の採用によって、未圧延部の低減(歩留まり向上)のみならず生産性の向上も期待できるといえる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】図1(a)〜(g)は、発明の実施例に関し圧延設備とともに圧延方法を順を追って説明する概念図である。
【図2】図2は、図1の圧延方法のうち重要部分の基本コンセプトを示す概念図である。
【図3】図3は圧延設備の全体について構造を例示する図である。
【図4】圧延機1と溶接機10、厚み計20および切断機6等に関する詳細図であって、図4(a)は溶接機10の溶接ガン11等が上方へ待避した状態、同(b)は、溶接ガン11等が圧延板Aに接近した状態をそれぞれ示している。
【図5】圧延機1と溶接機10、厚み計20等に関する詳細図であって、図5(a)は図4(a)におけるVa−Va矢視図、図5(b)は図4(b)におけるVb−Vb矢視図である。
【図6】図4(a)におけるVI部を示す詳細図である。
【図7】図5(b)におけるVII−VII矢視図である。
【図8】溶接機10等を圧延機1とともに示す斜視図である。
【図9】発明の圧延方法に基づく未圧延部の低減効果を説明する図である。
【図10】通常圧延による偶数パスで仕上げる場合の単位時間当たりの生産量(T/H)を示す図である。
【図11】4パス・6パス仕上げに発明の圧延方法を適用した場合と通常圧延の5パス時とについて、単位時間当たりの生産量(T/H)の比較を示す図である。
【図12】出側または入側の巻取機にリーダー片を保持させて圧延を行う、特許文献1に記載の圧延方法を示す概念図である。
【符号の説明】
【0046】
1 圧延機(ミル本体)
2 巻出し機(ペイオフリール)
3 入側巻取機(テンションリール)
4 出側巻取機(テンションリール)
5 ピンチロール
5B 渡しテーブル
6 切断機(シャー、せん断機)
7 ストリッププレス
10 溶接機
11 溶接ガン
12 トランス
13 昇降機(リトラクトシリンダ)
16 バックバー
20 厚み計
30 板押さえ
A 圧延板(ストリップ)
L リーダー片(リーダーストリップ)
Lc 溶接部分
【技術分野】
【0001】
請求項に係る発明は、圧延機(可逆圧延機)に対して圧延板(ストリップ等)を往復にパスさせることにより行う圧延に関するもので、圧延設備用溶接機とそれを備える圧延設備、および圧延方法を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
可逆圧延機を用いたストリップ(圧延板)の圧延(可逆圧延)は、圧延機(ミル本体)と、その入側に設けられた巻出し機(ペイオフリール)、および入側・出側にそれぞれ配置された巻取機等を使用して行われる。ストリップに張力を与えながら圧延を行うことから、第1のパスの開始時にストリップの先端部が出側巻取機に2〜3巻きされることにより保持され、また第2のパスの開始時にストリップの尾端部が入側巻取機に2〜3巻きされて保持される。そうして先端部・尾端部が各巻取機に巻き付けられた状態のまま、往復に複数パスの圧延が行われる。所定回数のパスを経てストリップが所定の厚さになると、そのストリップがいずれかの巻取機からコイルとして取り出される。ストリップの先端部および尾端部には、圧延されないために製品とはならない部分(オフゲージ部分)が含まれるので、巻き取りの直前またはその後の工程で当該部分が切断分離され処分される。
【0003】
ストリップの長手方向両側の端部に生じるオフゲージ部分は、上記のとおりストリップの損失となるので、それをできるだけ短くするのが歩留まりの点で有利である。下記の特許文献1には、そのような損失を少なくして歩留まりを高くするように工夫を施した圧延方法等が記載されている。
【0004】
特許文献1に記載の方法は、出側または入側の巻取機にリーダー片を保持させ、それを圧延板の先端部または尾端部に溶接し、その圧延板を、上記端部付近でもリーダー片を介し巻取機から張力付与をしながら上記圧延機によって圧延するものである。具体的には、図12(a)〜(f)のように、巻出し機2上に取り付けたコイル(ホットコイル)CR1から圧延板(ストリップ)Aを巻き出し、圧延機1と巻取機3・4の間で圧延板Aをレバース(可逆)圧延するもので、つぎの手順にしたがう。
a) まず、巻出し機2から圧延板Aの先端部(出側端部)を巻き出し、その先端部が溶接機12’の位置に達すると、出側巻取機4から巻き出しておいたリーダー片Yの端部に重ねたうえ、両者を溶接機12’にて点溶接する(図12(a))。
b) その後、上記の点溶接による溶接部分Ycを圧延機1の近傍まで戻し、そこで圧延機1のロールを閉じて第1パスの圧延を開始する(図12(b))。
c) 圧延は、巻取機4等にて圧延板Aに張力を作用させながら行い、圧延板の尾端が巻出し機2から外れる際には、ストリッププレス15’を使用することにより圧延板Aに張力を発生させる(図12(c))。
d) 圧延板Aの尾端部(入側端部)が溶接機11’の位置まで送られると、入側巻取機3からリーダー片Xを送り出すことにより、溶接機11’上で両者を重ね、溶接機11’によって圧延板Aの尾端部にリーダー片Xを溶接する(図12(d))。
e) その後、入側巻取機3にて張力を作用させながら上記による溶接部分Xcが圧延機1の近傍に達するまで圧延を進めると第1パスの圧延が終了するので、第2パス(およびその後の偶数回目のパス)は、出側巻取機4にて張力を作用させながら圧延板Aとリーダー片Yとの溶接部分Ycが圧延機1の近傍に達するまで行う(図12(e))。
f) 第3パス(およびその後の奇数回目のパス)は、上記と同様、圧延板Aに張力をかけながら溶接部分Xcが再び圧延機1の近傍に達するまで圧延を行う(図12(f))。 以上のように奇数回目および偶数回目のパスを繰り返すことにより、圧延板Aが所定の厚みになるまで往復(レバース)の圧延を行う。圧延が終了すると、入側または出側の巻取機から圧延板のコイルを払い出す。なお、図中の符号13’・14’は切断機である。
【0005】
このようにして圧延を行う場合には、圧延板のうち長手方向の端部(すなわち張力を付与して圧延することが難しい部分)にリーダー片を溶接することから、圧延板のうち多くの部分を圧延することができ、損失を少なくすることができる。また、リーダー片を使用して巻取機から張力を付与しながら圧延するので、蛇行しないなど圧延板の送りが安定するほか、製品の形状や厚み精度にすぐれるといった利点がもたらされる。
【特許文献1】特開2006−334647号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の特許文献1は、可逆圧延機を用いた板圧延におけるオフゲージ部分の損失を少なくして歩留まりを向上させる手段を提示するものではあるが、生産性をも考慮した最も有利な方策を明示するものではなかった。先端部と尾端部との両方にリーダー片を取り付けると、歩留まりは格段に向上するが、反面、コイルの内周側に残るリーダー片の処理に時間がかかり、生産性が阻害される。つまり従来は、リーダー片の溶接とその後の分離等に関連して、生産性等を最大限に高める最適な手順を見出すまでには至っていなかった。また、たとえば、圧延板にリーダー片を溶接する溶接機等として、具体化を進めた最適なものを提示することもできなかった。
【0007】
請求項に係る発明は、そのような点から、板圧延に使用する最適な溶接機等を提供するとともに、リーダー片の溶接とその後の分離等に関連して板圧延に最も有利な手順を含む圧延方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項に係る発明の圧延設備用溶接機は、圧延設備に配置されて圧延板に点溶接を行うものであって、パスライン(圧延板の通過経路)の下に設けたバックバーと、パスラインの上に設けた溶接ガン(電極とそれへの通電部材等を含む溶接機構)とによってシリーズ溶接を行い、複数点を同時に溶接することを特徴とする。シリーズ溶接とは、一つの溶接電流回路内に直列に2以上の溶接点(ナゲット)を含む点溶接で、たとえば、溶接対象とする一組の板の一方の面に二つの電極を当てるとともに、導電率の高い金属でできたバックバーを他の側の面に当てて行うものである。
上記した圧延設備用溶接機は、これを板圧延に使用して圧延板の溶接を行うとき、つぎのような好ましい作用効果をもたらす。すなわち、
・ 点溶接機であることから設備費用が少なくてすみ、また、溶接所要時間が短いため圧延過程全体の生産能率が高くなる。
・ 溶接ガンをパスラインの上に設けてシリーズ溶接を行うので、圧延ロール等に使用する冷却液(ロールクーラント)が溶接ガンの機械部分や通電部分に流入しにくい。そのため、溶接ガンについて防水等のための手段を簡単化しながらも、冷却液による漏電等のトラブルを確実に回避することができる。パスラインの下にはバックバーを設けるが、バックバーに冷却液が付着または流入しても不都合はない。
・ 上記のようにバックバーを用いてシリーズ溶接を行うと、少なくとも2点の点溶接を同時に行うことができる。そのため、多数箇所の溶接を迅速に行ううえで都合がよい。圧延板を他の板と接続する際には、その寸法や機械的負荷(張力や曲げが溶接部に作用する)の関係から複数の溶接点を設けて必要な溶接強度をもたせる必要があるが、それを満足する溶接を能率的に実施できるわけである。
【0009】
発明の溶接機については、とくに、パスラインの下にバックバーを固定配置するとともに、パスラインの上に、上記の溶接ガンと変圧器、および溶接ガンの昇降機を配置し、上記の溶接ガンは、圧延板の長さ方向に沿った位置が2以上に分布する複数点を溶接するよう構成する(そのような複数点を同時に溶接できる数を配置し、または溶接ガンを移動可能に設ける)のがよい。
そのようにすると下記の点でさらに有利である。すなわち、
・ 上記した溶接ガンだけでなくその昇降機や変圧器についてもパスラインの上に配置し、パスラインの下にはバックバーのみを固定配置すればよいことから、溶接のためのあらゆる機械部分や通電部分に対しても前記の冷却液が流入しにくい。したがって、防水構造等を簡単化して溶接機のコストを削減することが容易になる。
・ 上記のように配置した溶接ガンにより、圧延板の長さ方向に沿う2位置以上を同時にシリーズ溶接するので、溶接した板同士の、圧延設備における溶接強度の点で有利である。圧延設備においては、種々のロールに接触する際にも巻き取りの際にも、圧延板には板の長さ方向に沿って曲げが作用する。板幅方向に多数点を溶接した場合であっても、長さ方向に溶接点が1点のみ(1列配置)である場合には、上記のように板の長さ方向に作用する曲げには抗しにくいため溶接が剥がれやすくなりがちである。その点、圧延板の長さ方向に沿って2点(2列)以上の溶接を行った場合には、圧延設備において生じやすい上記の曲げに抗しやすく、強度上有利なのである。
【0010】
溶接ガンは、溶接を行わないときパスラインから離れた(上方または側方の)位置へ待避可能なものとし、それに、圧延板の厚さを計測するつぎのような厚み計を併設すると好ましい。すなわち、パスラインの近傍で圧延板の厚さを計測するとともに、計測を行わないときパスラインから離れた側方等の位置へ待避し得る厚み計であって、それを、計測中の位置が溶接ガンの溶接時の位置と重なる(厚み計の計測中の位置と溶接ガンの溶接時の位置とが少なくとも一部で重なる)ように併設するのがよい。
上記のような厚み計と溶接機とをそのように重なる位置関係に配置すれば、両者の設置スペースを節約でき、圧延長手方向への広がりを抑えたコンパクトな圧延設備を構成できる。圧延設備について圧延方向への広がりが抑制できると、リーダー片を使用しない場合に未圧延のオフゲージ部分が短くなり、製品の歩留まりの点でも有利になる。また、こうして溶接機の設置スペースが節約できると、既設の圧延設備に対しても、巻取機等の位置を変更することなく発明の溶接機を設置することが可能になる。
厚み計の計測中の位置と溶接ガンの溶接時の位置とが重なることとなっても、両者の機能には全く差し支えがない。なぜなら、厚み計が圧延板の厚さを計測するのは圧延板が送られてその圧延が行われているときであり、溶接機が圧延板の溶接を行うのは圧延板の送りが停止されているときであって、両者は必ず異なる時期に上記の位置で計測または溶接を行うからである。そしてそれぞれは、計測または溶接を行わない時期にはパスライン(圧延板)から離れた位置へ待避するため、互いの機能を妨げないのである。
【0011】
通常、上記の厚み計は、パスラインから離れた側方等の位置へ待避した状態でその較正(ゼロ点調整等のキャリブレーション)が行われる。それは、パスラインにある圧延材がない状態で、予め備えてあるサンプル材によって較正するためである。厚み計の較正は、製品厚みの要求精度にもよるが、1コイルにつき1回行うのが望ましい。較正作業はコイル替えに要する時間に行われるので、圧延の停止時間は、較正を行わない場合と同等であり、著しく長くなることはない。
発明に基づく実際の操業では、特定の圧延板についての圧延の開始前などに上記溶接機によって圧延板にリーダー片等を溶接し、その溶接の間に、パスラインから離れた位置へ待避させた厚み計についてその較正を行うことができる。つまり、溶接機による溶接と厚み計の較正とを同時に行えるため、圧延の停止する時間は、溶接・較正を行わない場合と同等で、著しく長くなることはない。さらに、この場合、コイル替えに要する時間を大きく短縮できるというメリットが生じる。これについては後述する。
【0012】
請求項に係る圧延設備は、圧延機の入側および出側に巻取機を備えるもの(可逆圧延設備)において、出側巻取機に保持させるリーダー片を圧延板の端部に溶接して後に圧延板から分離すべく、入側または出側の巻取機と圧延機との間に、上記いずれかの溶接機と、上記分離のための切断機とを配置したことを特徴とする。
なお、請求項にいう「圧延機」は、1スタンドまたは複数スタンドのもの、少なくとも1基からなる圧延機群をさし、形式やロール数などは問わない。また、「入側」とは、最初にコイルを取り付けて圧延板を巻き出す側をさし、「出側」とは、圧延機をはさんで入側と反対の側をさす。
こうした圧延設備では、上記した発明の溶接機を使用してリーダー片と圧延板とを適切に溶接することができる。リーダー片は出側巻取機に保持させることとするので、入側に向かう偶数回目のパスを最終パスとするよう圧延を行ったのち、圧延板を入側巻取機からコイルとして払い出すこととすれば、圧延板の出側端部付近に生じる損失が少なくなるうえ、能率的な操業ができる。能率的であるのは、出側端部に溶接したリーダー片は、出側巻取機につねに保持させておけばよく、その巻取機上にある状態のまま、次の圧延板の出側端部に溶接して使用することができるからである。つまり、そのリーダー片を出側巻取機から取り外したり、再びその巻取機(の巻取軸)に保持させたりする必要がないため、操業能率の点できわめて有利である。
【0013】
請求項に係る発明の圧延方法は、圧延機とその入側および出側に配置された巻取機とを使用し、往復のパスをさせることにより圧延板を圧延する方法であって、
・ 出側巻取機に保持させたリーダー片を圧延板の端部に溶接し、その圧延板を、上記端部付近でもリーダー片を介し巻取機から張力付与しながら、リーダー片およびリーダー片との溶接部分を圧延することなく上記圧延機によって可逆圧延し、
・ 入側巻取機へ向かう偶数回目のパスの終了時に、上記溶接部分を外れた位置でリーダー片を切断(分断)し、端部に上記溶接部分が付いた圧延板を、その溶接部分を切り離さない状態のまま入側巻取機に巻き取り、コイルとして払い出す
ことを特徴とする。
この圧延方法によると、図12に示す従来の圧延方法と同様、圧延板の長手方向端部にリーダー片を溶接して使用することから、圧延板のうち多くの部分を圧延することができて圧延板の損失を少なくすることができる。リーダー片を介し巻取機から張力を付与しながら圧延するので、圧延板の送りが安定するほか、製品の形状や厚み精度等の点でも有利である。
この方法ではとくに、入側巻取機へ向かう偶数回目のパスを最終パスとし、当該パスの終了時に上記のリーダー片を切断し分離するので、圧延板の出側端部付近に生じる損失が少なくなるだけでなく能率的な操業ができる。上のようにすると、出側巻取機へ向かう奇数回目のパスを最終パスとする場合とは違って、出側端部に溶接したリーダー片を出側巻取機につねに保持させておけばよく、その巻取機上にある状態のまま、次の圧延板の出側端部に溶接して使用できるからである。つまり、そのリーダー片を出側巻取機から取り外したり、再びその巻取機(の巻取軸)に保持させたりする必要はなく、操業能率の点できわめて有利である。
しかもこの方法は、リーダー片の切断を、圧延板との溶接部分を外れたリーダー片上で行い、端部に上記溶接部分が付いた圧延板を、その溶接部分を切り離さない状態のまま入側巻取機に巻き取って払い出すことから、とくに下記のような効果をももたらす。すなわち、a)圧延ライン上に溶接部分の処理設備を配置する必要がなく、圧延設備を短くて簡単なものに構成できるうえ、b)溶接部分の処理を圧延ライン上ではなくオフラインで行うため、当該処理中にも次の圧延板を圧延ライン上に通して圧延(またはその準備)を行うことができ、生産性の向上がはかれる。たとえば、溶接部分が付いた圧延板のコイルを入側巻取機から払い出したのち、コイルカー等に載せた状態で溶接部分の分離等をし、そうした作業を行っている間に次の圧延板をペイオフリールから圧延ラインに供給するようにすれば、溶接部分の分離作業のために圧延が滞ることがなく、明らかに好ましい。
【0014】
圧延板の端部へのリーダー片の上記溶接とその後に行うリーダー片の上記切断とは、上記圧延機と出側巻取機との間、または上記圧延機と入側巻取機との間に設置した溶接機および切断機によって行うとよい。
上記の溶接と切断とを圧延機と出側巻取機との間で行う場合には、圧延板の端部(先端部)にリーダー片を溶接したのち、溶接後の圧延板をほとんど送ることなく短時間で圧延を開始することができ、また、切断したリーダー片をほとんど送ることなく次の圧延板の端部に溶接することができる(後述する図1の例を参照)。一方、溶接と切断とを圧延機と入側巻取機との間で行う場合には、圧延ずみの圧延板をリーダー片の切断後に入側巻取機に巻き取る作業を短時間で行うことができ、また、切断後のそのリーダー片に溶接するための次の圧延板の送りの距離が短くてすむ。そのような理由により、いずれの場合にも圧延能率を高めることが可能である。
【0015】
上記のとおりリーダー片を切断して圧延板を入側巻取機に巻き取ったのちは、その圧延板のコイルから溶接部分を切り離すよりも前に、入側のペイオフリールより別の圧延板を出側に向けて(圧延機とその先の出側巻取機に向けて)送り出すのがよい。
発明の圧延方法によれば、前述のとおり、端部に溶接部分が付いたままの圧延板を入側巻取機に巻き取って払い出すことから、溶接部分の処理を圧延ライン上ではなくオフラインで行い、設備面および能率面でメリットがある。しかし、能率面の効果は、ここに記載したように、入側巻取機に巻き取ったコイルから溶接部分を切り離すよりも前に、入側のペイオフリールより圧延ライン上に別の圧延板を送り出すことによって顕著になる。そのようにすれば、溶接部分の処理とは無関係に、前の圧延板の圧延が終了してリーダー片を切断したのち、極めて短時間のうちに次の圧延板の圧延を開始できるからである。圧延板の先端を、図3に示す渡しテーブルの先端付近(前の圧延板の圧延に支障を及ぼさない出側寄りの位置)まで送っておくなど予め準備しておくと、次の圧延板の圧延を迅速に開始できる点でさらに有利である。
【0016】
発明の圧延方法については、
・ 複数の圧延板のそれぞれに対して順次に、同一のリーダー片を用いて上記の可逆圧延と払い出しとを行い、(リーダー片を使い切ったときまたはロール交換のとき等のタイミングで)出側巻取機から一旦そのリーダー片を払い出したのち、
・ リーダー片を使用せずに一の圧延板の端部を直接出側巻取機に保持させたうえ、巻取機(出側および入側)から張力付与しながら上記圧延機によってその一の圧延板を可逆圧延し、
・ 入側巻取機へ向かう偶数回目のパスの終了時に、その一の圧延板を、出側巻取機に保持させた状態で切断し、後に圧延する別の複数の圧延板に対するリーダー片とする
のがとくに有利である。リーダー片を使用せずに圧延する上記一の圧延板としては、広幅(使用する圧延機において圧延可能な最大幅またはそれに近い幅)の板とするのが、圧延ロールおよび圧延板の平滑性維持の点で好ましい。また、その一の圧延板は、後に圧延する多くの圧延板に対しリーダー片として使用できるよう、上記の溶接と切断とを数十回程度繰り返すことのできる長さ(たとえば十数メートル)を出側巻取機に保持させた状態で切断するのがよい。
上のように一の圧延板を圧延し切断してリーダー片とするなら、発明の圧延方法において使用するリーダー片とその取扱いに要するコストが削減される。すなわち、リーダー片とする板をわざわざ手配する必要がないうえ、その板を出側巻取機に保持させて最初の圧延板の先端部に溶接するという作業が不要になる。またその後も、複数の圧延板に対しリーダー片として繰り返し使用するので、損失を減らして生産性を高めるというメリットを繰り返し発揮することになる。
広幅の圧延は、最初2.5mm厚を1.0mm厚×1219mm幅に4パス仕上げするなど厚物の圧延が行われる。その場合、最終パス前(3パス目)は1.2〜1.6mm厚に圧延されており、リーダー片としてはこの厚みのものが使用される。リーダー片と圧延板との溶接の強度に関して示す後述の表1より、リーダー片の板厚が1.2〜1.6mmであると溶接強度が高いので、溶接箇所の数を板厚ごとに変更しない場合には安全率が高くなり、有利である。1.2〜1.6mm厚のリーダー片を使うことは、2.5mm厚のもの等を使う場合に比べて歩留まりの点でも有利である。
【0017】
発明の圧延方法において行う上記の溶接は、パスラインの下にバックバーを有するとともにパスラインの上に溶接ガンを有していて複数点を同時にシリーズ溶接する点溶接機によって行うのが好ましい。
そのようにすると、前記した圧延設備用溶接機が有する利点を生かして、リーダー片と圧延板の端部との間に圧延に適した好ましい溶接を施すことができる。
【発明の効果】
【0018】
請求項に係る発明の圧延設備用溶接機によれば、a)点溶接機であるために設備費用が少なくてすむうえ、上記溶接を短時間で能率的に行える、b)溶接ガンをパスラインの上に設けてシリーズ溶接を行うので、圧延用の冷却液による漏電等のトラブルが避けられる、c)バックバーを用いるシリーズ溶接を行うため少なくとも2点の点溶接を同時に行うことができ、必要な溶接強度を能率的に付与することができる――といった効果がある。
溶接ガンと変圧器、溶接ガンの昇降機をパスラインの上に配置し、上記の溶接ガンを、圧延板の長さ方向に沿った位置が2以上に分布する複数点を溶接するよう構成するなら、さらに、溶接のためのあらゆる機械部分や通電部分について防水構造等を簡単化して溶接機のコストを削減することができるうえ、溶接した板同士の、圧延設備における溶接強度の点で有利である。
【0019】
溶接ガンを、溶接を行わないときパスラインから離れた位置へ待避可能なものにするとともに、圧延板のための厚み計であって同様に待避可能なものを、計測中の位置が溶接ガンの溶接時の位置と重なるように併設すると、両者の設置スペースを節約でき、圧延方向への広がりを抑えたコンパクトな圧延設備を構成できる。
【0020】
請求項に係る発明の圧延設備では、上記発明の溶接機を使用してリーダー片と圧延板とを適切に溶接できるので、圧延板の出側端部付近に生じる損失が少なくなるとともに能率的な操業が行える。
【0021】
請求項に係る発明の圧延方法によると、圧延板のオフゲージによる損失の減少や、圧延板の形状・厚み精度の維持といった点で好ましいほか、圧延設備を簡素化できる点、次の圧延板の圧延を短時間で開始できて生産性を向上させられる点で有利である。
圧延板の端部へのリーダー片の溶接とその後に行うリーダー片の切断とを、圧延機と出側巻取機との間、または圧延機と入側巻取機との間に設置した溶接機および切断機によって行うと、一つの圧延板の圧延の終了から次の圧延板の圧延開始までの所要時間をとくに短縮でき、生産性に関して極めて好ましい。
リーダー片を切断して圧延板を入側巻取機に巻き取ったとき、その圧延板のコイルから溶接部分を切り離すよりも前に、入側のペイオフリールより別の圧延板を出側に向けて送り出すようにすると、次の圧延の開始をさらに迅速化して生産性を高められる。
【0022】
ある一の圧延板を、リーダー片を使用しない従来方式の可逆圧延を行ったうえ切断して出側巻取機に保持させたままとし、それを後の圧延用のリーダー片とするなら、リーダー片を別途手配して巻取機に保持させる等の必要がなく、コスト削減および能率向上の点で有利である。
リーダー片と圧延板の端部との間の溶接を、パスラインの下にバックバーを有するとともにパスラインの上に溶接ガンを有していて複数点を同時にシリーズ溶接する点溶接機によって行うと、適切な強度を有する圧延に適した溶接を迅速に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
発明の実施のための一形態として、普通鋼の冷間可逆圧延に関する圧延方法および圧延設備につき図1〜図11を示す。図1は、発明の実施例について圧延方法と圧延設備とを概念的に示す図であり、図2はその圧延方法のうち重要部分の基本コンセプトを示す図、図3は圧延設備の全容を例示する図である。図4〜図7は、圧延設備のうち溶接機10またはその周辺の構造を示す詳細図、図8は、当該溶接機10等を圧延機1とともに示す斜視図である。また図9〜図11は、図示の圧延方法・圧延設備による効果を説明する図である。
【0024】
例示の設備には、図1に示すように、圧延機(ミル本体)1やペイオフリール(巻戻機)2、入側巻取機(テンションリール)3、出側巻取機(テンションリール)4を含む圧延ラインに、矯正機5、切断機(自動せん断機、シャー)6、ストリッププレス7とともに、溶接機10と厚み計20とを配置している。切断機6と溶接機10および厚み計20の配置位置は、図1および図4等に示すように圧延機1と出側巻取機4との間(図3の例では、圧延機1と入側巻取機3との間)としている。溶接機10は、圧延長手方向に沿った2箇所を同時にシリーズ溶接する点溶接機(図1にイメージを表示し、図4〜図8に詳細を示す)である。
【0025】
この設備では、出側巻取機4にリーダー片(リーダーストリップ)Lを保持させ、これを溶接機によって圧延板(ストリップ)Aの先端部に接合し、偶数回のパスで仕上げる圧延方法を実施する。それにより、未圧延部(オフゲージ部分)を減らして歩留まりを向上させるとともに生産性を高めるのがねらいである。
【0026】
実施する圧延方法は、図1(a)〜(g)に示すものである。すなわち、
1) あらかじめ出側巻取機4に保持させたリーダー片L(の自由端)と、ペイオフリール2から供給される圧延板Aの先端部とを、溶接機10によって溶接接合する(図1(a))。その溶接部分Lcについては、圧延板Aの幅にもよるが、上記したシリーズ溶接を板幅方向の12箇所に行うことにより合計24点の点溶接を行うものとする。
2) 溶接部分Lcは、一たん圧延機1のミルバイト近傍まで戻し、そこで所定位置(溶接部分Lcに近い圧延板A上の位置。図2における位置1P)に圧下を行う(図1(b))。圧延機1から各リール2・4間の張力が確立してから1パス目の圧延が始まることになる。圧延中は、厚み計20を用いて圧延板Aの厚さを継続的に計測・監視する。
3) 1パス目の尾端は、従来の通常の圧延と同様にストリッププレス7を用いてオフゲージを低減させ、2パス目以降の圧延は、やはり従来の通常の圧延と同様、圧延板Aの尾端部を入側巻取機3に取り付けて実施する(図1(c)〜(e))。
4) 圧延板Aの送りの向きを順次変更して複数パスの圧延を行ったのち、圧延板Aは、偶数回目のパスを最終パスとして、溶接部分Lcを含まないリーダー片L上の位置(図2に示す「自動カット」位置)で切断機6により切断し、入側巻取機3に巻き取る(図1(f))。
5) 圧延板Aを入側巻取機3で巻き取ったのちは、板先端が渡しテーブル5Bの先端に位置する(図3参照)よう既に準備ずみの次の圧延板Aを、すぐにペイオフリール2から供給し、出側で待機しているリーダー片Lとの溶接を始める(図1(g))。次の圧延板Aについて圧延ライン上でそのような準備作業とそれに続く本来の圧延とを行う間に、上記で巻き取った先の圧延板Aについてオフラインで、搬出作業や上記溶接部分Lcの分離作業等を行う。その後、圧延ライン上で上記の手順(図1(a)〜(g))を繰り返し、複数の圧延板Aを続けて生産する。
【0027】
なお、多数の圧延板Aについて圧延を繰り返すことによりリーダー片Lが短くなると、出側巻取機からリーダー片を払い出したのち、広幅の圧延板Aを、リーダー片Lを使用しない通常の方式で圧延し、偶数パスで仕上げたうえ、最終パスの終了時に10m余り(10〜20m)を出側巻取機4に残して切断するとよい。そうすると、別途リーダー片Lを手配して出側巻取機4に保持させる等の手間をかけなくとも、その10m余りの圧延板Aを以後はリーダー片Lとして使用し、その後に数十の圧延板Aを上記1)〜5)の手順で圧延することが可能になる。
【0028】
この圧延方法における重要なコンセプトは、a)出側巻取機4に保持させたリーダー片Lと圧延板Aの先端部とを点溶接機10によってつなぎ、圧延板Aの圧延を入側巻取機3に向かう偶数パスで仕上げること、および、b)点溶接された溶接部分Lcは、偶数パスの圧延終了後に切断機6にてリーダー片L上の位置で切り離し、圧延板Aのコイルに付けたまま入側巻取機3から搬出し、オフラインで処理することである。図2はこのようなコンセプトを示す概念図である。図中の符号1P、3P、4Pは、第1、第3、第4の各パスの開始点または終了点を示し、「2t」「1.4t」等の数値は圧延後の各部の板厚を例示している。図2の例では、溶接部分Lcを含む長さ約800mmが、一つの圧延板Aにおけるオフゲージ部分となる。同部分は長さが短いために重量も軽く、したがって切り離された後のハンドリングも容易である。
【0029】
図1の各図に模式的に示した圧延設備を構造的に示すと図3のようになる。図1における各構成部分と同じ部分には同一の符号を付けている。ただし、溶接機10は圧延機1の入側にあっても生産性の改善を図れるため、図3の例では、他の図のものと異なり、圧延機1と入側巻取機3との間にそれらを設置している。また、切断機6はこの例では圧延機1の入側に配置している。入側・出側の各巻取機3・4の下には、圧延板Aのコイルを載せて搬出できるコイルカー8を配置している。コイルカー8のうち上部昇降台の上端にはクレードルロール8aが取り付けられているので、載せたコイルを適宜に回転させ、端部の溶接部分Lcをハンドカッターで切断しやすい箇所まで送り出すことも容易である。
【0030】
図4および図5には、圧延機1とその隣接位置(出側)に設けた溶接機10、厚み計20および切断機6等の詳細を示す。図4(a)は、溶接機10の溶接ガン11等が圧延板Aから離れた上方へ待避し厚み計20が圧延板Aに接近してその厚み計測を行っている状態を示し、同(b)は、厚み計20が圧延板Aの測方へ待避して溶接ガン11等が圧延板Aに接近した状態を示している。図5(a)は図4(a)におけるVa−Va矢視図、図5(b)は図4(b)におけるVb−Vb矢視図である。
【0031】
溶接機10は、前述のとおりシリーズ溶接を行う点溶接機である。図4のとおり圧延板Aのパスラインの上方には、電極とその押付け手段や通電部材等を含む溶接ガン11のほか、トランス(変圧器)12、溶接ガン11用の昇降機(リトラクトシリンダ)13などを配置している。エアシリンダ駆動にて電極の押付けをする溶接ガン11は、シリーズ溶接によって圧延方向に2列を含む溶接を行うよう、圧延方向2列×幅方向6列に12基を配置し、6台のトランス12に接続している。溶接ガン11(の駆動用電磁弁)およびトランス12は、機械部品と電機部品とを内蔵した各ケーシングの内部に配置しエアパージをすることとして、ロールクーラントの水滴や蒸気から部品を保護している。
溶接ガン11とトランス12とは、昇降機13により、図4(a)のように圧延板Aのラインから上方へ離れた待避位置と、図4(b)のような機能位置との間で上昇・下降させることができる。また溶接ガン11や昇降機13を含む全体を、図5に示すシフトシリンダ16と案内部材17とを含む移動機構により、測方(圧延ラインの駆動側)へシフトできるようにもしている。
そしてその一方、図6のようにパスラインのすぐ下には、シリーズ溶接に不可欠な高導電性のクロム銅にてなるバックバー16を固定配置している。パスラインより下にはロールクーラント等の液体が流れ落ちるため、溶接機10の構成部分のうちこのバックバー16のみをパスラインの下に配置し、他の構成部分はパスラインより上に設けている。
【0032】
リーダー片Lと圧延板Aとを溶接する際には、上記6列に配置した溶接ガン11によって同時に6箇所(12点)の点溶接(シリーズ溶接)をし、さらにシフトシリンダで数十ミリだけ溶接ガン11を測方(幅方向)へ移動させて他の6箇所(12点)を溶接する。それにより、圧延長手方向に2列を有する12箇所(24点)によって、リーダー片Lに圧延板Aの端部を溶接する。
【0033】
厚み計20はX線厚み計であって(γ線またはβ線式の厚み計とすることもできる)、図5(a)に示すように発信部20aと受信部20bとをコの字形フレームの上下各部分に設けたものである。これら発信部20aと受信部20bとで圧延板Aをはさみ、X線を用いてその圧延板Aの厚さを測定する。厚み計20は、そのフレームに取り付けた車輪21と、測方(圧延ラインの駆動側)に延ばして設けたレール22等により、圧延板Aをはさんでその厚さ計測をする機能位置(図5(a))から、その測方の待避位置(図5(b))までシフトすることができる。
【0034】
溶接機10と厚み計20とをコンパクトに配置するために、厚み計20が厚さ計測をする上記機能位置は、溶接ガン11が下降して圧延板Aに溶接を行う機能位置と重なっている(圧延方向における各中心線の位置が同芯である)。ただし、厚み計20が圧延板Aの厚さを計測するのは、圧延板Aが送られてその圧延が行われている間であり、溶接ガン11が圧延板Aの溶接を行うのは、圧延板Aの送りが停止されているときであるため、両者は必ず異なる時期に上記機能位置で計測または溶接を行う。そしてそれぞれは、計測または溶接を行わない時期には圧延板Aから離れた上記の各待避位置へ移動する。溶接ガン11が待避位置に上昇しまたはその測方にシフトした状態では、電極交換等のメンテナンスを行うことができ、厚み計20が測方に待避した状態では、その較正(ゼロ点調整等)を行うことができる。
【0035】
図6に示すように、バックバー16の上面に接するパスラインのすぐ上には、溶接時に圧延板Aを押さえるための板押さえ30を設けている。板押さえ30は、前後の端部をややに上に向けた平板で、昇降シリンダ31の作用で上方へ持ち上げることができる。厚み計20が圧延板Aの厚さを計測する際は、当該上方の位置で厚み計20を保護する機能をはたす。なお、板押さえ30には、図7に示すように、厚み計20のX線を通すための孔30aと、溶接ガン11の各電極を通すことができる孔30bとを形成している。そのほか、パスラインの下に固定した、やはり平板状のバックバー16の中央部分にも、厚み計20のX線を通すための孔を設けている。
【0036】
板押さえ30の前後には、図6のように別の昇降用シリンダ35・36をも配置している。これらは、圧延板Aの端部とリーダー片Lの端部とを溶接前に重ね合わせる際、いずれかを持ち上げて各端部同士が突き当たらないようにするためのものである。
なお、図6中に表示される符号6a・6bは、切断機6のそれぞれ上刃および下刃である。また、図4に示される符号9は、圧延板A用の押さえロールである。
【0037】
図8は、以上に述べた溶接機10と厚み計20等の構造と位置関係を、圧延ラインの駆動側であって圧延機1の出側から見て示す斜視図である。圧延ラインに沿った方向への占有スペースが最小限になるよう、溶接機10と厚み計20とをコンパクトに配置していることが確認される。
【0038】
溶接機10によってリーダー片Lを圧延板Aの端部に溶接するに関しては、あらかじめ溶接部分Lcの強度と耐久性につきパイロットライン(図示せず)にて試験を行った。試験では、巻き取り・巻き戻しおよび引張強度を考慮した900mm幅材の必要溶接箇所数を求めた。その結果は表1に示すとおりである。
【表1】
【0039】
ここでは、必要圧延張力を一部のパスでテーパーテンションを採用するものとして60kNとした。表1により、各ケースで12箇所(24点)以上あればよいことが分かる。
また、圧延油が介在するときの溶接強度を確認するため、ギヤ油をハケ塗りしての試験も行ったが、溶接強度の劣化は確認できなかった。これは、溶接時のアークで油分が瞬時にバーンアウトするためと考えられる。
【0040】
発明に基づく未圧延部の低減効果を図9に示す。図中の左端には、リーダー片を使用しない通常圧延(以下、リーダー片を使用しない従来の圧延を「通常圧延」と呼ぶ)でのオフゲージ率を示し、中央にはストリッププレスのみを使用した場合のオフゲージ率(下部)と改善効果(上部)を示している。そして右端には、以上に説明した設備・方法によるオフゲージ率(下部)と改善効果(上部)を示している。この右端のケースは、オフゲージ率が0.7%であり、通常圧延に比較して1.4%改善したこと、およびストリッププレスを使用した通常圧延に比較しても0.9%の改善があることを示している。年産25万トンの圧延設備では、年間2250トン〜3500トンのホットコイルを使わなくてもよいことになり、大きなメリットとなる。また、先端から張力を付加して圧延できるため、上記の方法では、他のオフゲージ低減方法と比較して通板安定性や板厚精度、板形状について優れるといえる。
【0041】
圧延板Aの1コイルあたりの処理時間(圧延時間を除く)について、測定結果を表2に示す。
【表2】
【0042】
表2に示すように、上記圧延方法によれば、圧延ずみコイルのオフラインへの払い出しを待つことが不要であり、次の圧延板Aを出側巻取機4に通板のうえ保持させて数周巻くことが不要であるため、リーダー片を使用しない通常圧延に比べると、点溶接に時間を要しても1コイル当たりの処理時間(圧延時間を除く)が短縮できることが分かる。また、未圧延部からなる小コイル(Pup coil)が発生しないので、バンドがけして取り出していた従来の手間も省ける。
【0043】
圧延板Aの圧延を偶数パスで仕上げる場合の生産能力について、図10および図11を示す。図10は、ある製鉄所での各板幅ごとの製品平均ゲージを、通常圧延の4パス、5パスおよび6パスでそれぞれ仕上げた場合の単位時間当たりの生産量(T/H)を示している。同じ仕事量ながら、多パスになるほど、パス切り替えや加減速の時間が増えるなどで生産性が低下する。
そして図11に、4パスと6パス仕上げ時に上記圧延方法を適用した場合と通常圧延の5パス時との比較を示す。上記方法の適用により、4パス時はさらに生産性が向上し、6パスであっても1コイル当たりの処理時間の短縮が貢献して、通常の5パス圧延よりも生産性が向上することが分かる。
【0044】
以上の点から、上記方法の採用により、4パス時で約10%、6パス時で約2%生産性が向上すると予想される。ただし、実際の操業において偶数パスで運用する場合、全てを減パスにすることはできず、約半数を増パスにする必要がある。それを考慮した年産25万トンミルの場合の試算では、上記圧延方法の採用により、通常圧延で年間5402時間の操業時間が5096時間となり、6%生産性が向上した。発明の圧延方法の採用によって、未圧延部の低減(歩留まり向上)のみならず生産性の向上も期待できるといえる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】図1(a)〜(g)は、発明の実施例に関し圧延設備とともに圧延方法を順を追って説明する概念図である。
【図2】図2は、図1の圧延方法のうち重要部分の基本コンセプトを示す概念図である。
【図3】図3は圧延設備の全体について構造を例示する図である。
【図4】圧延機1と溶接機10、厚み計20および切断機6等に関する詳細図であって、図4(a)は溶接機10の溶接ガン11等が上方へ待避した状態、同(b)は、溶接ガン11等が圧延板Aに接近した状態をそれぞれ示している。
【図5】圧延機1と溶接機10、厚み計20等に関する詳細図であって、図5(a)は図4(a)におけるVa−Va矢視図、図5(b)は図4(b)におけるVb−Vb矢視図である。
【図6】図4(a)におけるVI部を示す詳細図である。
【図7】図5(b)におけるVII−VII矢視図である。
【図8】溶接機10等を圧延機1とともに示す斜視図である。
【図9】発明の圧延方法に基づく未圧延部の低減効果を説明する図である。
【図10】通常圧延による偶数パスで仕上げる場合の単位時間当たりの生産量(T/H)を示す図である。
【図11】4パス・6パス仕上げに発明の圧延方法を適用した場合と通常圧延の5パス時とについて、単位時間当たりの生産量(T/H)の比較を示す図である。
【図12】出側または入側の巻取機にリーダー片を保持させて圧延を行う、特許文献1に記載の圧延方法を示す概念図である。
【符号の説明】
【0046】
1 圧延機(ミル本体)
2 巻出し機(ペイオフリール)
3 入側巻取機(テンションリール)
4 出側巻取機(テンションリール)
5 ピンチロール
5B 渡しテーブル
6 切断機(シャー、せん断機)
7 ストリッププレス
10 溶接機
11 溶接ガン
12 トランス
13 昇降機(リトラクトシリンダ)
16 バックバー
20 厚み計
30 板押さえ
A 圧延板(ストリップ)
L リーダー片(リーダーストリップ)
Lc 溶接部分
【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧延設備に配置されて圧延板に点溶接を行う圧延設備用溶接機であって、
パスラインの下に設けられたバックバーと、パスラインより上に設けられた溶接ガンとによってシリーズ溶接を行い、複数点を同時に溶接することを特徴とする圧延設備用溶接機。
【請求項2】
パスラインの下にバックバーが固定配置されているとともに、パスラインの上に上記の溶接ガンと変圧器、および溶接ガンの昇降機が配置されていて、
溶接ガンは、圧延板の長さ方向に沿った位置が2以上に分布する複数点を溶接するよう構成されている
ことを特徴とする請求項1に記載の圧延設備用溶接機。
【請求項3】
溶接ガンが、溶接を行わないときパスラインから離れた位置へ待避可能であり、
圧延板の厚さを計測する厚み計が、パスラインの近傍で当該計測を行うとともに、計測しないときパスラインから離れた位置へ待避し得るものであり、計測中の位置が溶接ガンの溶接時の位置と少なくとも一部で重なる位置関係にて併設されている
ことを特徴とする請求項1または2に記載の圧延設備用溶接機。
【請求項4】
圧延機の入側および出側に巻取機を備える圧延設備であって、
出側巻取機に保持させるリーダー片を圧延板の端部に溶接して後に圧延板から分離すべく、入側または出側の巻取機と圧延機との間に、請求項1〜3のいずれかに記載の圧延設備用溶接機が、上記分離のための切断機とともに配置されていることを特徴とする圧延設備。
【請求項5】
圧延機とその入側および出側に配置された巻取機とを使用し、往復のパスをさせることにより圧延板を圧延する圧延方法であって、
出側巻取機に保持させたリーダー片を圧延板の端部に溶接し、その圧延板を、上記端部付近でもリーダー片を介し巻取機から張力付与しながら、リーダー片およびリーダー片との溶接部分を圧延することなく上記圧延機によって可逆圧延し、
入側巻取機へ向かう偶数回目のパスの終了時に、上記溶接部分を外れた位置でリーダー片を切断し、端部に上記溶接部分が付いた圧延板を、その溶接部分を切り離さない状態のまま入側巻取機に巻き取り、コイルとして払い出す
ことを特徴とする圧延方法。
【請求項6】
圧延板の端部へのリーダー片の上記溶接とその後に行うリーダー片の上記切断とを、上記圧延機と出側巻取機との間、または上記圧延機と入側巻取機との間に設置した溶接機および切断機によって行うことを特徴とする請求項5に記載の圧延方法。
【請求項7】
上記のとおりリーダー片を切断して圧延板を入側巻取機に巻き取ったのち、その圧延板のコイルから溶接部分を切り離すよりも前に、入側のペイオフリールより別の圧延板を出側に向けて送り出すことを特徴とする請求項5または6に記載の圧延方法。
【請求項8】
複数の圧延板のそれぞれに対して順次に、同一のリーダー片を用いて上記の可逆圧延と払い出しとを行い、出側巻取機から一旦そのリーダー片を払い出したのち、
リーダー片を使用せずに一の圧延板の端部を直接出側巻取機に保持させたうえ、巻取機から張力付与しながら上記圧延機によってその一の圧延板を可逆圧延し、
入側巻取機へ向かう偶数回目のパスの終了時に、その一の圧延板を、出側巻取機に保持させた状態で切断し、後に圧延する別の複数の圧延板に対するリーダー片とする
ことを特徴とする請求項5〜7のいずれかに記載の圧延方法。
【請求項9】
上記の溶接を、パスラインの下にバックバーを有するとともにパスラインの上に溶接ガンを有していて複数点を同時にシリーズ溶接する点溶接機によって行うことを特徴とする請求項5〜8のいずれかに記載の圧延方法。
【請求項1】
圧延設備に配置されて圧延板に点溶接を行う圧延設備用溶接機であって、
パスラインの下に設けられたバックバーと、パスラインより上に設けられた溶接ガンとによってシリーズ溶接を行い、複数点を同時に溶接することを特徴とする圧延設備用溶接機。
【請求項2】
パスラインの下にバックバーが固定配置されているとともに、パスラインの上に上記の溶接ガンと変圧器、および溶接ガンの昇降機が配置されていて、
溶接ガンは、圧延板の長さ方向に沿った位置が2以上に分布する複数点を溶接するよう構成されている
ことを特徴とする請求項1に記載の圧延設備用溶接機。
【請求項3】
溶接ガンが、溶接を行わないときパスラインから離れた位置へ待避可能であり、
圧延板の厚さを計測する厚み計が、パスラインの近傍で当該計測を行うとともに、計測しないときパスラインから離れた位置へ待避し得るものであり、計測中の位置が溶接ガンの溶接時の位置と少なくとも一部で重なる位置関係にて併設されている
ことを特徴とする請求項1または2に記載の圧延設備用溶接機。
【請求項4】
圧延機の入側および出側に巻取機を備える圧延設備であって、
出側巻取機に保持させるリーダー片を圧延板の端部に溶接して後に圧延板から分離すべく、入側または出側の巻取機と圧延機との間に、請求項1〜3のいずれかに記載の圧延設備用溶接機が、上記分離のための切断機とともに配置されていることを特徴とする圧延設備。
【請求項5】
圧延機とその入側および出側に配置された巻取機とを使用し、往復のパスをさせることにより圧延板を圧延する圧延方法であって、
出側巻取機に保持させたリーダー片を圧延板の端部に溶接し、その圧延板を、上記端部付近でもリーダー片を介し巻取機から張力付与しながら、リーダー片およびリーダー片との溶接部分を圧延することなく上記圧延機によって可逆圧延し、
入側巻取機へ向かう偶数回目のパスの終了時に、上記溶接部分を外れた位置でリーダー片を切断し、端部に上記溶接部分が付いた圧延板を、その溶接部分を切り離さない状態のまま入側巻取機に巻き取り、コイルとして払い出す
ことを特徴とする圧延方法。
【請求項6】
圧延板の端部へのリーダー片の上記溶接とその後に行うリーダー片の上記切断とを、上記圧延機と出側巻取機との間、または上記圧延機と入側巻取機との間に設置した溶接機および切断機によって行うことを特徴とする請求項5に記載の圧延方法。
【請求項7】
上記のとおりリーダー片を切断して圧延板を入側巻取機に巻き取ったのち、その圧延板のコイルから溶接部分を切り離すよりも前に、入側のペイオフリールより別の圧延板を出側に向けて送り出すことを特徴とする請求項5または6に記載の圧延方法。
【請求項8】
複数の圧延板のそれぞれに対して順次に、同一のリーダー片を用いて上記の可逆圧延と払い出しとを行い、出側巻取機から一旦そのリーダー片を払い出したのち、
リーダー片を使用せずに一の圧延板の端部を直接出側巻取機に保持させたうえ、巻取機から張力付与しながら上記圧延機によってその一の圧延板を可逆圧延し、
入側巻取機へ向かう偶数回目のパスの終了時に、その一の圧延板を、出側巻取機に保持させた状態で切断し、後に圧延する別の複数の圧延板に対するリーダー片とする
ことを特徴とする請求項5〜7のいずれかに記載の圧延方法。
【請求項9】
上記の溶接を、パスラインの下にバックバーを有するとともにパスラインの上に溶接ガンを有していて複数点を同時にシリーズ溶接する点溶接機によって行うことを特徴とする請求項5〜8のいずれかに記載の圧延方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図12】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図12】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2009−101367(P2009−101367A)
【公開日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−273253(P2007−273253)
【出願日】平成19年10月20日(2007.10.20)
【出願人】(501120122)スチールプランテック株式会社 (49)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年10月20日(2007.10.20)
【出願人】(501120122)スチールプランテック株式会社 (49)
【Fターム(参考)】
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