説明

圧着端子および圧着構造

【課題】導体加締片の根元部分の剛性アップを図ることにより、サーマルショック試験後の圧着部形状の戻りの悪さを低減し、導体圧着部の両サイドの接圧を効果的に高める。
【解決手段】電気接続部11の後部に第1の繋ぎ部14を介して導体圧着部12が設けられ、その後部に第2の繋ぎ部15を介して被覆加締部13が設けられ、導体圧着部が、底板31とその左右両側縁から上方に延設された一対の導体加締片32,32とで断面略U字状に形成され、第1の繋ぎ部と第2の繋ぎ部が共に、底板21、51と低背の側板22、52とで断面U字状に形成された圧着端子10において、左右の導体加締片の上半部の前端縁と第1の繋ぎ部の左右の低背の側板の上端縁との間に前側補強壁41L、41Rをそれぞれ設けると共に、左右の導体加締片の上半部の後端縁と第2の繋ぎ部の左右の低背の側板の上端縁との間に後側補強壁42L、42Rをそれぞれ設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、自動車の電装系に使用される断面U字状の導体圧着部を有したオープンバレルタイプの圧着端子、および、その圧着端子を用いた圧着構造に関する。
【背景技術】
【0002】
図8は、例えば、特許文献1に記載されたものと類似の従来の圧着端子の構成を示す斜視図である。
【0003】
この圧着端子210は、端子の長手方向(接続する電線の導体の長手方向でもある)の前部に、相手コネクタ側の端子に接続される電気接続部211を備え、その後部に、電線(図示略)の端末の露出した導体に加締められる導体圧着部212を備え、さらにその後部に、電線の絶縁被覆の付いた部分に加締められる被覆加締部213を備えている。また、電気接続部211と導体圧着部212の間に、それらの間を繋ぐ第1の繋ぎ部214を備え、導体圧着部212と被覆加締部213の間に、それらの間を繋ぐ第2の繋ぎ部215を備えている。
【0004】
導体圧着部212は、底板231と、該底板231の左右両側縁から上方に延設されて該底板231の内面上に配された電線の導体を包むように加締められる一対の導体加締片232,232と、で断面略U字状に形成されている。また、被覆加締部213は、底板261と、該底板261の左右両側縁から上方に延設されて該底板261の内面上に配された電線(絶縁被覆の付いた部分)を包むように加締められる一対の被覆加締片262,262と、で断面略U字状に形成されている。
【0005】
また、導体圧着部212の前後の第1の繋ぎ部214および第2の繋ぎ部215は、共に、底板221、251と、該底板221、251の左右両側縁から上方に起立した低背の側板222、252と、で断面U字状に形成されている。
【0006】
そして、前部の電気接続部211の底板(図示略)から最後部の被覆加締部213までの範囲の底板221、231、251、261が、1枚の帯板状に連続して形成されている。また、第1の繋ぎ部214の低背の側板222の前後端は、電線接続部211の側板(符号省略)の後端および導体圧着部212の導体加締片232の前端の各下半部にそれぞれ連続し、第2の繋ぎ部215の低背の側板252の前後端は、導体圧着部212の導体加締片232の後端および被覆加締部213の被覆加締片262の前端の各下半部にそれぞれ連続している。この場合、導体加締片232の前後端縁と第1、第2の繋ぎ部214、215の上端縁は略垂直に交わっている(交点をScで示す)。
【0007】
また、導体圧着部212の内面には、電線の導体の長手方向(端子長手方向)と直交する方向に延びる複数本の凹溝状のセレーション235が設けられている。
【0008】
この圧着端子210の導体圧着部212を電線の端末の導体に圧着するには、図示しない下型(アンビル)の載置面(上面)上に圧着端子210を載せると共に、電線の端末の導体を導体圧着部212の導体加締片232間に挿入し、底板231の上面に載せる。そして、上型(クリンパー)を下型に対して相対的に下降させることにより、上型の案内斜面で導体加締片232の先端側を徐々に内側に倒して行く。この際、左右の導体加締片232は、底板231の左右両端部231a付近を基準にして曲げ変形して行く。
【0009】
そして、さらに上型(クリンパー)を下型に対して相対的に下降させることにより、最終的に、上型の案内斜面から中央の山形部に連なる湾曲面で、導体加締片232の先端を導体側に折り返すように丸めて、図9(a)に示すように、導体加締片232の先端同士を擦り合わせながら導体Waに食い込ませることにより、導体Waを包むように導体加締片232を加締める。
【0010】
以上の操作により、圧着端子210の導体圧着部212を電線の導体Waに圧着によって接続することができる。なお、被覆加締部213についても、同様に、下型と上型を用いて被覆加締片262を内側に徐々に曲げて行き、被覆加締片262を電線の絶縁被覆の付いた部分に加締める。こうすることにより、圧着端子210を電線に電気的および機械的に接続することができる。
【0011】
ところで、このように圧着端子210を電線に接続した場合、その圧着部分の信頼性を評価しておく必要があり、そのためにサーマルショック試験(冷熱衝撃試験)が行われることがある。
【0012】
サーマルショック試験とは、現実の使用条件を全てカバーし得るような厳しい条件で耐久性能を検査するものであり、例えば、自動車用の端子の圧着部については、低温条件と高温条件とを短時間で繰り返し課す。
【0013】
このようなサーマルショック試験を行った場合、圧着端子210の導体圧着部212および電線の導体Waが伸び縮み(膨張収縮)する。例えば、図9(a)中の実線で示す形状が常温時の状態であるとすると、高温時には点線のような形状に膨張する。
【0014】
導体圧着部212の剛性が充分に高い場合には、温度変化に応じて導体圧着部212や導体Waが伸び縮みしたとしても、常温時に原形状に復元するのであるが、小型化や薄型化が図られた端子の場合は、端子の剛性が低くなりがちであるため、サーマルショック試験を経た後に原形状への戻りが悪くなり、図9(b)に示すように元の形状に戻り切らないことがある。つまり、左右の導体加締片232の先端の擦り合わせ部分が、開き気味になったまま戻らなくなってしまうことがある。
【0015】
例えば、図9(a)中の実線で示すように、圧着時において、導体圧着部212の導体加締片232の先端は導体Waに食い込んた状態になっているが、その食い込み量e1があまり大きくないような場合(食い込みが浅い場合)には、サーマルショック試験後に、導体加締片232がより原形状に戻り切らない現象が起こりやすく、その結果、図9(b)の寸法e2に示すように、食い込みが一層浅くなった状態になってしまうことがある。
【0016】
このように導体加締片232の原形状への戻りが悪くなり、導体加締片232の先端の擦り合わせ部分が開き気味になったり、導体加締片232の導体Waへの食い込みが浅くなったりすると、圧着端子210による導体Waへの締め付けが弱くなって、導体加締片232による導体Waへの接圧(接触荷重)Fが減少することになり、接圧Fが減少すると、圧着端子210と電線の接続部の固着力(機械的接続力)や導電性(電気的接続性能)が低下することになる。
【0017】
一方、最近では、ワイヤーハーネスの軽量化のために、銅電線からアルミ電線への転換が検討されるようになってきており、アルミ電線に銅端子を接続する場面も多くなってきた。そのような場合は、圧着端子と電線の導体の間に熱膨張差があることにより、サーマルショック試験後に、圧着端子と導体の接圧が一層減少しやすいことが分かってきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】特開2004−303526号公報(図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
以上のように、小型化や薄型化が図られた圧着端子210の場合、導体圧着部212の剛性の不足により、導体への圧着部分の電気接続性や機械接続性が低下してしまうことがあった。
【0020】
その点について発明者らが詳しく調べてみると、導体加締片232の原形状への戻りが悪くなった場合は、導体Waに対する左右側方からの締め付けが弱くなり、圧着部分の両サイドの接圧が減少することが最も大きな原因の一つであることが分かってきた。また、その両サイドの接圧の減少には、特に図9(b)中のX円で示す導体加締片232の根元部分の剛性の影響が大きいことが分かってきた。
【0021】
本発明は、上記事情を考慮し、導体加締片の特に根元部分の剛性アップを図ることにより、サーマルショック試験後の圧着部形状の戻りの悪さを低減することができ、それにより導体圧着部の両サイドの接圧を効果的に高めることができ、その結果として、電気的接続性能と機械的接続性能の両方を向上させることのできる圧着端子、および、その圧着端子を使用した圧着構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0022】
上記課題を解決するために、請求項1の発明の圧着端子は、端子長手方向の前部に電気接続部が設けられ、その後部に第1の繋ぎ部を介して、電線の端末の導体に圧着して接続される導体圧着部が設けられ、さらにその後部に第2の繋ぎ部を介して被覆加締部が設けられ、前記導体圧着部が、底板と、該底板の左右両側縁から上方に延設されて該底板の内面上に配された前記導体を包むように加締められる一対の導体加締片と、で断面略U字状に形成され、前記第1の繋ぎ部と第2の繋ぎ部が共に、底板と、該底板の左右両側縁から上方に起立した低背の側板と、で断面U字状に形成され、前記導体圧着部の底板と前記第1および第2の繋ぎ部の底板とが連続して形成され、前記導体圧着部の導体加締片の下半部と前記第1および第2の繋ぎ部の低背の側板とが連続して形成されている圧着端子において、前記左右の導体加締片の上半部の前端縁と前記第1の繋ぎ部の左右の低背の側板の上端縁との間にそれら両者間を繋ぐ前側補強壁をそれぞれ設けると共に、前記左右の導体加締片の上半部の後端縁と前記第2の繋ぎ部の左右の低背の側板の上端縁との間にそれら両者間を繋ぐ後側補強壁をそれぞれ設けたことを特徴としている。
【0023】
請求項2の発明の圧着端子は、端子長手方向の前部に電気接続部が設けられ、その後部に第1の繋ぎ部を介して、電線の端末の導体に圧着して接続される導体圧着部が設けられ、さらにその後部に第2の繋ぎ部を介して被覆加締部が設けられ、前記導体圧着部が、底板と、該底板の左右両側縁から上方に延設されて該底板の内面上に配された前記導体を包むように加締められる一対の導体加締片と、で断面略U字状に形成され、前記第1の繋ぎ部と第2の繋ぎ部が共に、前記導体圧着部の底板と連続して形成された底板を有している圧着端子において、前記左右の導体加締片の前端縁と前記第1の繋ぎ部の底板の左右両側縁との間にそれら両者間を繋ぐ前側補強壁をそれぞれ設けると共に、前記左右の導体加締片の後端縁と前記第2の繋ぎ部の底板の左右両側縁との間にそれら両者間を繋ぐ後側補強壁をそれぞれ設けたことを特徴としている。
【0024】
請求項3の発明は、請求項1または2に記載の圧着端子であって、前記前側補強壁および後側補強壁の各上端縁の高さを、前記導体圧着部から前記第1および第2の繋ぎ部に向かうに従い徐々に低くなるように設定したことを特徴としている。
【0025】
請求項4の発明は、請求項1〜3のいずれかに記載の圧着端子であって、前記前側補強壁および後側補強壁の大きさをそれぞれ左右で互いに異ならせ、且つ、前側補強壁と後側補強壁とで左右の大小の区別を逆に設定したことを特徴としている。
【0026】
請求項5の発明の圧着構造は、請求項4に記載の圧着端子を用いた圧着構造であって、前記導体加締片の加締めと共に前記前側補強壁および後側補強壁を加締める際に、左右の補強壁のうち大きい方の補強壁が小さい方の補強壁の外側に被さるように加締めたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0027】
請求項1の発明によれば、左右の導体加締片の前端縁と後端縁に、それぞれ前後の繋ぎ部の側板の上端縁に繋がる補強壁を設けたので、導体加締片の曲げ剛性、特に導体加締片の根元部分の曲げ剛性を強化することができる。そのため、左右の導体加締片を電線の導体に加締めた状態での、サーマルショック試験による導体加締片の緩みを防止することができる。
【0028】
即ち、電線の導体に端子の導体加締片を加締めた部分に対してサーマルショック試験を行った場合、導体圧着部の剛性が不足気味であると、熱膨張と熱収縮の繰り返しにより、常温状態にしたときに導体加締片の先端が原形状に戻り切らずに、導体加締片の先端が開き気味になったり、導体に対する導体加締片の先端の食い込みが浅くなってしまったりすることがある。特に端子材料と導体材料が異なり両者間に熱膨張差があると、その現象が顕著に起こりやすくなる。そうなると、電線に対する端子による締め付け力が低下し、電気接続抵抗が大きくなったり、機械的結合力が弱くなったりする。
【0029】
その点、本発明では、補強壁の追加により導体加締片の曲げ剛性が強化されていることにより、サーマルショック試験を行った場合の緩み(つまり、導体加締片が原形状に戻り切らずに、導体加締片の先端が開き気味になったり、導体加締片の先端の導体に対する食い込みが浅くなったりする現象)を防止することができ、それにより、電気的接続性能の向上と機械的接続性能の向上を図ることができる。
【0030】
請求項2の発明によれば、左右の導体加締片の前端縁と後端縁に、それぞれ前後の繋ぎ部の底板の左右両側縁に繋がる補強壁を設けたので、導体加締片の曲げ剛性、特に導体加締片の根元部分の曲げ剛性を強化することができる。そのため、左右の導体加締片を電線の導体に加締めた状態での、サーマルショック試験による導体加締片の緩みを防止することができる。
【0031】
即ち、電線の導体に端子の導体加締片を加締めた部分に対してサーマルショック試験を行った場合、導体圧着部の剛性が不足気味であると、熱膨張と熱収縮の繰り返しにより、常温状態にしたときに導体加締片の先端が原形状に戻り切らずに、導体加締片の先端が開き気味になったり、導体に対する導体加締片の先端の食い込みが浅くなってしまったりすることがある。特に端子材料と導体材料が異なり両者間に熱膨張差があると、その現象が顕著に起こりやすくなる。そうなると、電線に対する端子による締め付け力が低下し、電気接続抵抗が大きくなったり、機械的結合力が弱くなったりする。
【0032】
その点、本発明では、補強壁の追加により導体加締片の曲げ剛性が強化されていることにより、サーマルショック試験を行った場合の緩み(つまり、導体加締片が原形状に戻り切らずに、導体加締片の先端が開き気味になったり、導体加締片の先端の導体に対する食い込みが浅くなったりする現象)を防止することができ、それにより、電気的接続性能の向上と機械的接続性能の向上を図ることができる。
【0033】
請求項3の発明によれば、前側補強壁および後側補強壁の各上端縁の高さを、導体圧着部から第1および第2の繋ぎ部に向かうに従い徐々に低くなるように設定しているので、圧着操作の際に導体加締片と共に補強壁を曲げるときの抵抗を少なくしながら、導体加締片に対する合理的な補強を行うことができる。
【0034】
請求項4の発明によれば、左右の補強壁の大きさを異ならせたので、小さい方の補強壁を内側に先に曲げ、大きい方の補強壁をその小さい方の補強壁の外側に被さるように後から内側に曲げることで、左右の補強壁の重なりによる補強効果を得ることができる。また、左右の大小の区別を前後の補強壁で逆に設定したので、左右各側において圧着時の操作力のバランスをとることができる。また、加締めによる端子の捩れを前後で相殺させることができて、圧着による端子の捩れを防ぐことができる。
【0035】
請求項5の発明によれば、導体圧着部の前後で左右の補強壁の被さり方が逆になるので、バランスがよくなり、端子に捩れが生じにくくなる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の実施形態の圧着端子の構成を示す斜視図である。
【図2】同圧着端子の導体圧着部の展開図である。
【図3】同圧着端子の導体圧着部の圧着時の状態を示す平面図である。
【図4】(a)は図3のA−A矢視断面図、(b)は(a)の部分を加締める上型(クリンパー)の断面図である。
【図5】(a)は図3のB−B矢視断面図、(b)は(a)の部分を加締める上型の断面図である。
【図6】(a)は図3のC−C矢視断面図、(b)は(a)の部分を加締める上型の断面図である。
【図7】前記圧着端子の導体圧着部を加締めるための上型の概略構成を示す斜視図である。
【図8】従来の圧着端子の構成を示す斜視図である。
【図9】従来の圧着端子の導体圧着部を電線の導体に圧着させた部分を示す断面図で、(a)は圧着時の状態を示す図、(b)はサーマルショック試験後に原形状に戻り切らなくなった状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、本発明の実施形態を図面を参照して説明する。
【0038】
図1は実施形態の圧着端子の構成を示す斜視図、図2はその導体圧着部の展開図、図3は導体圧着部の圧着時の状態を示す平面図、図4(a)は図3のA−A矢視断面図、図4(b)は図4(a)の部分を加締める上型(クリンパー)の断面図、図5(a)は図3のB−B矢視断面図、図5(b)は図5(a)の部分を加締める上型の断面図、図6(a)は図3のC−C矢視断面図、図6(b)は図6(a)の部分を加締める上型の断面図、図7は圧着端子の導体圧着部を加締めるための上型の概略構成を示す斜視図である。
【0039】
図1に示すように、この圧着端子10は、端子の長手方向(接続する電線の導体の長手方向でもある)の前部に、相手コネクタ側の端子に接続される電気接続部11を備え、その後部に、電線(図示略)の端末の露出した導体Wa(図4〜図6参照)に加締められる導体圧着部12を備え、さらにその後部に、電線の絶縁被覆の付いた部分に加締められる被覆加締部13を備えている。また、電気接続部11と導体圧着部12の間に、それらの間を繋ぐ第1の繋ぎ部14を備え、導体圧着部12と被覆加締部13の間に、それらの間を繋ぐ第2の繋ぎ部15を備えている。
【0040】
導体圧着部12は、底板31と、該底板31の左右両側縁から上方に延設されて該底板31の内面上に配された電線の導体を包むように加締められる一対の導体加締片32,32と、で断面略U字状に形成されている。また、被覆加締部13は、底板61と、該底板61の左右両側縁から上方に延設されて該底板61の内面上に配された電線(絶縁被覆の付いた部分)を包むように加締められる一対の被覆加締片62,62と、で断面略U字状に形成されている。
【0041】
また、導体圧着部12の前後の第1の繋ぎ部14および第2の繋ぎ部15は、共に、底板21、51と、該底板21、51の左右両側縁から上方に起立した低背の側板22、52と、で断面U字状に形成されている。
【0042】
ここでは、前部の電線接続部11の底板(図示略)から最後部の被覆加締部13までの範囲の底板21、31、51、61が、1枚の帯板状に連続して形成されている。また、第1の繋ぎ部14の低背の側板22の前後端は、電気接続部11の側板(符号省略)の後端および導体圧着部12の導体加締片32の前端の各下半部にそれぞれ連続し、第2の繋ぎ部15の低背の側板52の前後端は、導体圧着部12の導体加締片32の後端および被覆加締部13の被覆加締片62の前端の各下半部にそれぞれ連続している。
【0043】
そして、この圧着端子10では、左右の導体加締片32の上半部の前端縁と第1の繋ぎ部14の左右の低背の側板22の上端縁との間に、それら両者間を繋ぐ前側補強壁41L、41Rがそれぞれ設けられ、左右の導体加締片32の上半部の後端縁と第2の繋ぎ部15の左右の低背の側板52の上端縁との間に、それら両者間を繋ぐ後側補強壁42L、42Rがそれぞれ設けられている。
【0044】
この場合の補強壁41L、41R、42L、42Rは、図2に示すように、従来の形状S(即ち、二点鎖線で示すように、導体加締片32の前後端縁と繋ぎ部14、15の側板22、52の上端縁の各延長線が略垂直に交わっている形状)を補強するためのものであり、導体加締片32の前後端縁と繋ぎ部14、15の側板22、52の上端縁の各延長線の交点Scからそれぞれ適当な距離だけ隔たった、導体加締片32の前後端縁上の点P1と、繋ぎ部14、15の側板22、52の上端縁上の点P2と、を輪郭線である上端縁で繋いだ形状をなしている。そして、前側補強壁41L、41Rおよび後側補強壁42L、42Rの各上端縁の高さが、導体圧着部12から第1および第2の繋ぎ部14、15に向かうに従い徐々に低くなるように設定されている。
【0045】
また、前側補強壁41L、41Rおよび後側補強壁42L、42Rの大きさは、それぞれ左右で互いに異なっており、且つ、前側補強壁41L、41Rと後側補強壁42L、42Rとで左右の大小の区別が逆に設定されている。
【0046】
また、図1に示すように、この圧着端子10の導体圧着部12の内面には、電線の導体の長手方向(端子長手方向)と直交する方向に延びる複数本の凹溝状のセレーション35が設けられている。
【0047】
この圧着端子10の導体圧着部12を電線の端末の導体Waに圧着する場合は、図4〜図6の各(b)および図7に示すような、断面形状の異なる3つの型100A、100B、100Cを組み合わせた上型(クリンパー)100を使用する。
【0048】
まず、図示しない下型(アンビル)の載置面(上面)上に圧着端子10を載せると共に、電線の端末の導体Waを導体圧着部12の導体加締片32間に挿入し、底板31の上面に載せる。そして、上型100を下型に対して相対的に下降させることにより、上型100のうちの中央の型100A〔図5(b)〕の左右の案内斜面101L、101Rで導体加締片32の先端側を徐々に内側に倒して行く。
【0049】
そして、さらに上型を下型に対して相対的に下降させることにより、最終的に、上型の左右の案内斜面101L、101Rから中央の山形部102に連なる湾曲面103L、103Rで、導体加締片32の先端を導体側に折り返すように丸めて、図5(a)に示すように、導体加締片32の先端同士を擦り合わせながら電線Wの導体Waに食い込ませることにより、導体Waを包むように導体加締片32を加締める。
【0050】
その際、同時に、図4および図6に示すように、前側補強壁41L、41Rおよび後側補強壁42L、42Rを、上型100のうちの前後の型100B、100Cにより加締める。補強壁41L、41R、42L、42Rの加締めに際しては、左右の補強壁41L、41R、42L、42Rのうち大きい方の補強壁41L、42Rが小さい方の補強壁41R、42Lの外側に被さるように加締める。そのため、前後の型100B、100Cの湾曲面103L、103Rは、小さい方の補強壁41R、42Lを内側に先に曲げ、大きい方の補強壁41L、42Rをその後から内側に曲げることができるように、左右非対称に形成されている。
【0051】
以上の操作により、圧着端子10の導体圧着部12を電線Wの導体Waに接続することができる。なお、被覆加締部13についても、同様に、下型と上型を用いて被覆加締片62を内側に徐々に曲げて行き、被覆加締片62を電線の絶縁被覆の付いた部分に加締める。こうすることにより、圧着端子10を電線に電気的および機械的に接続することができる。
【0052】
このように圧着を行う本実施形態の圧着端子10によれば、左右の導体加締片32の前端縁と後端縁に、それぞれ前後の繋ぎ部14、15の側板22、52の上端縁に繋がる補強壁41L、41R、42L、42Rを設けているので、導体加締片32の曲げ剛性、特に導体加締片32の根元部分の曲げ剛性を強化することができる。そのため、左右の導体加締片32を電線Wの導体Waに加締めた状態での、サーマルショック試験による導体加締片32の緩みを防止することができる。
【0053】
即ち、電線Wの導体Waに圧着端子10の導体加締片32を加締めた部分に対してサーマルショック試験を行った場合、導体圧着部12の剛性が不足気味であると、熱膨張と熱収縮の繰り返しにより、常温状態にしたときに導体加締片32の先端が原形状に戻り切らずに、導体加締片32の先端が開き気味になったり、導体Waに対する導体加締片32の先端の食い込みが浅くなってしまったりすることがある。特に端子材料と導体材料が異なり両者間に熱膨張差があると、その現象が顕著に起こりやすくなる。そうなると、電線Wに対する圧着端子10による締め付け力が低下し、電気接続抵抗が大きくなったり、機械的結合力が弱くなったりする。
【0054】
その点、本実施形態の圧着端子10では、前後の補強壁41L、41R、42L、42Rの追加により導体加締片32の曲げ剛性を強化していることにより、サーマルショック試験を行った場合の緩み(つまり、導体加締片32が原形状に戻り切らずに、導体加締片32の先端が開き気味になったり、導体加締片32の先端の導体Waに対する食い込みが浅くなったりする現象)を防止することができ、それにより、電気的接続性能の向上と機械的接続性能の向上を図ることができる。
【0055】
また、前側補強壁41L、41Rおよび後側補強壁42L、42Rの各上端縁の高さを、導体圧着部12から第1および第2の繋ぎ部14、15に向かうに従い徐々に低くなるように設定しているので、圧着操作の際に導体加締片32と共に補強壁41L、41R、42L、42Rを曲げるときの抵抗を少なくしながら、導体加締片32に対する合理的な補強を行うことができる。
【0056】
また、本実施形態の圧着端子10では、左右の補強壁41L、41R、42L、42Rの大きさを異ならせているので、小さい方の補強壁41R、42Lを内側に先に曲げ、大きい方の補強壁41L、42Rをその小さい方の補強壁41R、42Lの外側に被さるように後から内側に曲げることで、左右の補強壁41L、41R、42L、42Rの重なりによる補強効果を得ることができる。
【0057】
また、左右の補強壁41L、41R、42L、42Rの大小の区別を、前後の補強壁41L、41R、42L、42Rで逆に設定しているので、左右の各側で圧着時の操作力のバランスをとることができる。また、圧着端子10の捩れを前後で相殺させることができ、圧着による圧着端子10の捩れを防ぐことができる。
【0058】
なお、上記実施形態では、導体圧着部12の前後の第1の繋ぎ部14および第2の繋ぎ部15が共に、底板21、51と低背の左右両側板22、52を有した断面略U字状になっている場合を示したが、側板22、52がほとんどない場合にも本発明は適用することができる。
【0059】
その場合は、左右の導体加締片32の前端縁と第1の繋ぎ部14の底板21の左右両側縁との間に、それら両者間を繋ぐ前側補強壁41L、41Rをそれぞれ設けると共に、左右の導体加締片32の後端縁と第2の繋ぎ部15の底板51の左右両側縁との間に、それら両者間を繋ぐ後側補強壁42L、42Rをそれぞれ設ければよい。この場合も、上記実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0060】
また、上記実施形態では、左右の補強壁41L、41R、42L、42Rの大きさを異ならせた場合を示したが、左右の補強壁41L、41R、42L、42Rの大きさを同一に設定してもよい。
【0061】
さらに、上記実施形態において、圧着端子に接続する電線の導体は、アルミ電線の導体の他に、銅電線の導体等でもよい。
【符号の説明】
【0062】
10 圧着端子
11 電気接続部
12 導体圧着部
13 被覆加締部
21 底板
22 低背の側板
31 底板
32 導体加締片
41L,41R 前側補強壁
42L,42R 後側補強壁
51 底板
52 側板
W 電線
Wa 導体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
端子長手方向の前部に電気接続部が設けられ、その後部に第1の繋ぎ部を介して、電線の端末の導体に圧着して接続される導体圧着部が設けられ、さらにその後部に第2の繋ぎ部を介して被覆加締部が設けられ、
前記導体圧着部が、底板と、該底板の左右両側縁から上方に延設されて該底板の内面上に配された前記導体を包むように加締められる一対の導体加締片と、で断面略U字状に形成され、
前記第1の繋ぎ部と第2の繋ぎ部が共に、底板と、該底板の左右両側縁から上方に起立した低背の側板と、で断面U字状に形成され、
前記導体圧着部の底板と前記第1および第2の繋ぎ部の底板とが連続して形成され、前記導体圧着部の導体加締片の下半部と前記第1および第2の繋ぎ部の低背の側板とが連続して形成されている圧着端子において、
前記左右の導体加締片の上半部の前端縁と前記第1の繋ぎ部の左右の低背の側板の上端縁との間にそれら両者間を繋ぐ前側補強壁をそれぞれ設けると共に、
前記左右の導体加締片の上半部の後端縁と前記第2の繋ぎ部の左右の低背の側板の上端縁との間にそれら両者間を繋ぐ後側補強壁をそれぞれ設けたことを特徴とする圧着端子。
【請求項2】
端子長手方向の前部に電気接続部が設けられ、その後部に第1の繋ぎ部を介して、電線の端末の導体に圧着して接続される導体圧着部が設けられ、さらにその後部に第2の繋ぎ部を介して被覆加締部が設けられ、
前記導体圧着部が、底板と、該底板の左右両側縁から上方に延設されて該底板の内面上に配された前記導体を包むように加締められる一対の導体加締片と、で断面略U字状に形成され、
前記第1の繋ぎ部と第2の繋ぎ部が共に、前記導体圧着部の底板と連続して形成された底板を有している圧着端子において、
前記左右の導体加締片の前端縁と前記第1の繋ぎ部の底板の左右両側縁との間にそれら両者間を繋ぐ前側補強壁をそれぞれ設けると共に、
前記左右の導体加締片の後端縁と前記第2の繋ぎ部の底板の左右両側縁との間にそれら両者間を繋ぐ後側補強壁をそれぞれ設けたことを特徴とする圧着端子。
【請求項3】
請求項1または2に記載の圧着端子であって、
前記前側補強壁および後側補強壁の各上端縁の高さを、前記導体圧着部から前記第1および第2の繋ぎ部に向かうに従い徐々に低くなるように設定したことを特徴とする圧着端子。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の圧着端子であって、
前記前側補強壁および後側補強壁の大きさをそれぞれ左右で互いに異ならせ、且つ、前側補強壁と後側補強壁とで左右の大小の区別を逆に設定したことを特徴とする圧着端子。
【請求項5】
請求項4に記載の圧着端子を用いた圧着構造であって、
前記導体加締片の加締めと共に前記前側補強壁および後側補強壁を加締める際に、左右の補強壁のうち大きい方の補強壁が小さい方の補強壁の外側に被さるように加締めたことを特徴とする圧着構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−244888(P2010−244888A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−93245(P2009−93245)
【出願日】平成21年4月7日(2009.4.7)
【出願人】(000006895)矢崎総業株式会社 (7,019)
【Fターム(参考)】