説明

圧着端子及び当該圧着端子を備えたガスセンサ及び前記圧着端子の製造方法

【課題】クリンパの圧着面に潤滑剤を塗布する必要なしに、固定部の外表面とクリンパの圧着面との滑り性を常に確保でき、かつ高温環境下でも使用できる圧着端子及び当該圧着端子を備えたガスセンサ及び前記圧着端子の製造方法を提供する。
【解決手段】ガスセンサは、検出素子の検出部の出力信号を外部に取り出す圧着端子を備える。この圧着端子は、外部と接続するリード線の芯線16を加締めて固定するバレル部を備える。このバレル部を構成する固定部は、U字状の圧着前固定部77の内側にリード線の芯線16を配置し、アンビル120及びクリンパ121間で圧着されて形成される。圧着前固定部77の外表面にはメッキ層85が形成されているので、クリンパ121の圧着面との滑り性を常に確保できる。また、メッキ層85は耐熱性を有するので、高温環境下でも融解せず、ガスセンサの起電圧に悪影響を与えない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧着端子及び当該圧着端子を備えたガスセンサ及び圧着端子の製造方法に関するものであり、具体的には、リード線の芯線を固定する固定部を備えた圧着端子及び当該圧着端子を備えたガスセンサ及び前記圧着端子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、軸線方向に延びるとともに、リード線の芯線を内包して固定するための固定部を備えた圧着端子が知られている(例えば、特許文献1参照)。この固定部は、リード線の芯線に向かって先端側を曲折することにより、芯線を固定するための一対の側部と、一対の側部の基端側を連結する底部とを備えている。
【0003】
この圧着端子は以下のように製造される。まず、圧着前端子が用意される。この圧着前端子は、底部と、該底部の両端から起立する一対の側部とを有するU字状の圧着前固定部を備えている。そして、その圧着前固定部の内表面に当接するようにリード線の芯線が配置される。次いで、一対の金型であるアンビルとクリンパとにより、両側部が底部側に圧着される。このとき、圧着前固定部の両側部の先端側がクリンパの圧着面に沿って摺動することにより、両側部ともにリードの芯線に向かって深く曲折される。そして、一方の側部の先端側が、他方の側部の先端側に当接し、底部及び両側部内に芯線が内包されて加締められることによって、リード線の芯線を内包して固定する固定部を備えた圧着端子が形成される。
【0004】
ところで、上記した圧着端子の製造において、圧着前固定部の圧着作業は連続的に行われるが、両側部の外表面とクリンパの圧着面との滑り性が圧着回数に応じて徐々に劣化することが知られている。この滑り性が劣化すると、両側部の先端側の芯線への喰い込みが不十分となるため、固定部の高さであるC.H.(クリンプハイト)が上昇し、芯線を強固に固定することができなくなり、その結果、リード線と圧着端子との電気導通性が低下する。さらに、近年では圧着端子の耐久性等により、インコネル(INCO社の登録商標)等のビッカース硬度が高い材質を用いて圧着端子を作製することが増えており、クリンパが摩耗し、クリンパに喰いつきやすくなり、滑り性が低下しやすい傾向にある。そこで、特許文献1のように、圧着作業前に、クリンパの圧着面に潤滑剤を予め塗布することで、圧着作業が連続的に行われたとしても、この滑り性を常に維持し、適正なC.H.を備えた固定部を形成し、リード線と圧着端子との電気導通性を維持している。
【0005】
そして、このような圧着端子は、例えば、検出素子、ハウジング本体及び保護カバーを備えるガスセンサ内に組み付けられる。ここで、検出素子は、軸線方向に延び、先端側に検出部をもつものである。ハウジング本体は、少なくとも検出部が自身の先端側から露出するように検出素子を保持する筒状のものである。保護カバーは、ハウジング本体の後端側に自身の先端側が接続され、外部と電気的に接続するリード線を内部に収容するものである。そして、上記の圧着端子は、検出素子とリード線とを電気的に接続し、検出部の出力信号を外部に取り出すために用いられる。このガスセンサは、例えば、エンジンの排気管等の排気系に装着され、排気ガス中における被測定ガス(例えば、酸素、窒素等)を検出するために用いられる。
【特許文献1】特開昭64−41184号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1では、圧着作業毎にクリンパの圧着面に潤滑剤をわざわざ塗布しなければならないので、圧着端子の製造工程が複雑になるという問題点があった。また、クリンパの圧着面に予め潤滑剤が塗布されるので、固定部の両側部の外表面に潤滑油が付着してしまう。そして、このような圧着端子を備えたガスセンサが、例えば、エンジンの排気管等に装着される酸素センサの場合、圧着端子の固定部の温度は非常に高温になる。これにより、固定部の両側部の外表面に付着した潤滑剤が熱分解して分解ガスを発生してしまうので、ガスセンサの起電圧が変動してしまい、測定誤差を引き起こすという問題点があった。また、特許文献1の明細書中には、酸素センサ等に用いる圧着端子では、分解ガスを発生しない潤滑剤(例えば、テトラフロロエチレンやカーボン等)の使用が好ましいと記載されているが、ガスセンサの使用環境によって、潤滑剤の種類を選択しなければならないのは手間であった。
【0007】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、クリンパの圧着面に潤滑剤を塗布する必要なしに、固定部の外表面とクリンパの圧着面との滑り性を常に確保でき、かつ高温環境下でも使用できる圧着端子及び当該圧着端子を備えたガスセンサ及び前記圧着端子の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、請求項1に係る発明の圧着端子は、他部材と電気的に接続する接続部と、リード線の芯線を内包して、該リード線と電気的に接続するための固定部と、を有し、前記固定部は、前記リード線の芯線に向かって先端側を曲折することにより、前記芯線を固定するための一対の側部と、該一対の側部の基端側を連結する底部と、を有する圧着端子において、前記固定部は、350HV以上のビッカース硬度を有し、前記一対の側部は、少なくとも前記先端側外表面にAg又はAuを主成分とする金属層が備えられていることを特徴とする。
【0009】
また、請求項2に係る発明の圧着端子は、請求項1に記載の発明の構成に加え、前記金属層は、ビッカース硬度100HV以下であることを特徴とする。
【0010】
また、請求項3に係る発明の圧着端子は、請求項1又は2の何れかに記載の発明の構成に加え、前記金属層の厚みは、0.1μm以上であることを特徴とする。
【0011】
また、請求項4に係る発明の圧着端子は、請求項1乃至3の何れかに記載の発明の構成に加え、前記金属層と、前記一対の側部の前記先端側外表面との間には、Auを主成分とするストライクメッキ層が形成されていることを特徴とする。
【0012】
また、請求項5に係る発明の圧着端子は、請求項1乃至4の何れかに記載の発明の構成に加え、一方の側部の先端部外表面が他方の側部の先端側外表面に当接していることを特徴とする。
【0013】
また、請求項6に係る発明の圧着端子は、芯線と、該芯線を一端から露出させる被覆部材とからなるリード線と、他部材と電気的に接続する接続部と、リード線の芯線を内包して、該リード線と電気的に接続する固定部を有し、該固定部が、前記リード線の芯線に向かって先端側が曲折し、前記芯線を固定する一対の側部、及び該一対の側部の基端側を連結する底部を有する圧着端子と、からなるリード線付き圧着端子において、前記固定部は、350HV以上のビッカース硬度を有し、前記一対の側部は、少なくとも前記先端側外表面にAg又はAuを主成分とする金属層が備えられていることを特徴とする。
【0014】
また、請求項7に係る発明のガスセンサは、軸線方向に延び、先端側に検出部をもつ検出素子と、少なくとも前記検出部が自身の先端側から露出するように前記検出素子を保持する筒状のハウジング本体と、当該ハウジング本体の後端側に自身の先端側が接続され、外部と電気的に接続するリード線を内部に収容する保護カバーと、前記検出素子と前記リード線とを電気的に接続し、前記検出部の出力信号を外部に取り出すための圧着端子を備えたガスセンサにおいて、当該圧着端子が、請求項1乃至6の何れかに記載の圧着端子であることを特徴とする。
【0015】
また、請求項8に係る発明の圧着端子の製造方法は、他部材と電気的に接続する接続部と、リード線の芯線を内包して、該リード線と電気的に接続するための固定部とを有し、前記固定部は、前記リード線の芯線に向かって先端側を曲折することにより、前記芯線を固定するための一対の側部と、該一対の側部の基端側を連結する底部と、を有する圧着端子の製造方法において、前記板材の一方の面のうち、少なくとも前記側部の前記先端側が形成されると予定する部分にAg又はAuを主成分とする金属メッキを施すメッキ形成工程と、前記一方の面が外側となるように、前記板材をプレスしてU字状の圧着前固定部を形成するプレス工程と、前記圧着前固定部の他方の面に当接するように前記芯線を配置させ、一対のアンビルとクリンパとの間で圧着することによって、前記芯線が内包された前記固定部を形成する圧着工程とを備えたことを特徴とする。
【0016】
また、請求項9に係る発明の圧着端子の製造方法は、請求項8に記載の発明の構成に加え、前記メッキ形成工程より前に、前記板材の一方の面のうち、少なくとも前記側部の前記先端側が形成されると予定する部分にAuのストライクメッキを施すストライクメッキ工程を備えることを特徴とする。
【0017】
また、請求項10に係る発明の圧着端子の製造方法は、他部材と電気的に接続する接続部と、リード線の芯線を内包して、該リード線と電気的に接続するための固定部とを有し、前記固定部は、前記リード線の芯線に向かって先端側を曲折することにより、前記芯線を固定するための一対の側部と、該一対の側部の基端側を連結する底部と、を有する圧着端子の製造方法において、前記板材をプレスしてU字状の圧着前固定部を形成するプレス工程と、前記圧着前固定部の少なくとも前記側部の前記先端側外表面にAg又はAuを主成分とする金属メッキを施すメッキ形成工程と、前記圧着前固定部の内表面に当接するように前記芯線を配置させ、一対のアンビルとクリンパとの間で圧着することによって、前記芯線が内包された前記固定部を形成する圧着工程とを備えたことを特徴とする圧着端子の製造方法。
【0018】
また、請求項11に係る発明の圧着端子の製造方法は、請求項10に記載の発明の構成に加え、前記プレス工程と前記メッキ形成工程との間に、前記板材の一方の面のうち、少なくとも前記側部の先端側が形成されると予定する部分にAuのストライクメッキを施すストライクメッキ工程を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
請求項1に係る発明の圧着端子では、側部の少なくとも先端側外表面に金属層が形成されているので、固定部を金型で圧着して形成する際に、金型の圧着面に対し、金属層を介して一対の側部の外表面を接触させることができる。この金属層は、Ag又はAuを主成分としており、固定部を金型で圧着して形成する際に、固定部の両側面の外表面と金型の圧着面との滑り性が維持される。よって、圧着の際には、一対の側部の先端側を芯線に向かって十分に喰い込ませることができ、適正なC.H.を備えた固定部を形成し、リード線と圧着端子との電気導通性を維持することができる。特に、固定部のビッカース硬度が350HV以上のものであっても、十分に滑り性が維持される。そして、この金属層は、固定部毎に形成されているので、圧着作業が連続的に行われたとしても、固定部の外表面と金型の圧着面との滑り性が徐々に劣化することを防止できる。つまり、金型の圧着面に循環剤を塗布する必要なしに、固定部の外表面と金型の圧着面との滑り性を常に維持することができる。さらに、金属層は耐熱性を備えているので、圧着時の熱やその後の高温下に晒され、金属層が溶融してしまうのを防止している。なお、固定部のビッカース硬度は600HV以下が好ましい。固定部のビッカース硬度が600HVを超えると固定部が曲げられない。
【0020】
なお、この金属層は、側部の先端側外表面に形成されている構成であっても、側面外表面全体に形成されている構成であってもよい。さらに、金属層は、側面だけでなく底面の外表面に形成されている構成であってもよい。
【0021】
また、請求項2に係る発明の圧着端子は、請求項1乃至3の何れかに記載の発明の効果に加え、金属層は、ビッカース硬度100HV以下の材料を用いているので、金属層自身がやわらかく、固定部と金型との滑り性を更に確保でき、固定部を金型で圧着して形成する際に、固定部の外表面と金型の圧着面との滑り性が更に維持される。なお、金属層のビッカース硬度は、形成された金属層の材料硬度から分かるものであり、ビッカース硬度100HV以下の材料としては、純Au、純Ag等が挙げられる。なお、金属層のビッカース硬度は10HV以上が好ましい。
【0022】
また、請求項3に係る発明の圧着端子は、請求項1乃至4の何れかに記載の発明の効果に加え、金属層の厚みは0.1μm以上であるので、金属層と金型の圧着面との滑り性を確保することができる。また、金型の摩耗を抑制し、喰い付きにくくなるので滑り性を維持できる。一方、金属層の厚みは、2μm以下が好ましい。金属層の厚みが2μmを超えると、アンビルとクリンパとにより、両側部を底部側に圧着する際、固定部から金属層が剥離してしまうことがある。
【0023】
また、請求項4に係る発明の圧着端子は、請求項1乃至5の何れかに記載の発明の効果に加え、金属層と側部の先端側外表面との間にAuを主成分とするストライクメッキ層が形成されてことで、金属層との密着性を向上させ、金属層が固定部から剥離することを抑制できる。なお、「Auを主成分とする」とは、Auがストライクメッキ層中に50wt%以上含有することを指す。
【0024】
また、請求項5に係る発明の圧着端子は、請求項1乃至6の何れかに記載の発明の効果に加え、一方の側部の先端側外表面が他方の側部の先端側外表面に当接していることで、固定部が強固に芯線を固定することができる。
【0025】
また、請求項6に係る発明の圧着端子は、側部の少なくとも先端側外表面に金属層が形成されているので、固定部を金型で圧着して形成する際に、金型の圧着面に対し、金属層を介して一対の側部の外表面を接触させることができる。この金属層は、Ag又はAuを主成分としており、固定部を金型で圧着して形成する際に、固定部の両側面の外表面と金型の圧着面との滑り性が維持される。よって、圧着の際には、一対の側部の先端側を芯線に向かって十分に喰い込ませることができ、適正なC.H.を備えた固定部を形成し、リード線と圧着端子との電気導通性を維持することができる。特に、固定部のビッカース硬度が350HV以上のものであっても、十分に滑り性が維持される。そして、この金属層は、固定部毎に形成されているので、圧着作業が連続的に行われたとしても、固定部の外表面と金型の圧着面との滑り性が徐々に劣化することを防止できる。つまり、金型の圧着面に循環剤を塗布する必要なしに、固定部の外表面と金型の圧着面との滑り性を常に維持することができる。さらに、金属層は耐熱性を備えているので、圧着時の熱やその後の高温下に晒され、金属層が溶融してしまうのを防止している。
【0026】
また、請求項7に係る発明のガスセンサは、圧着端子が、請求項1乃至6の何れかに記載の圧着端子である。この圧着端子に備えられた金属層は耐熱性を有するので、ガスセンサの使用中に圧着端子が高温に曝されても、金属層が融解せず、分解ガスも発生しないので、ガスセンサの起電圧の変動を防止できる。また、請求項1乃至4の何れかに記載の圧着端子は、C.H.が適正に調整された固定部を備えているので、リード線の芯線を確実に固定することができる。これにより、検出部の出力信号を、圧着端子を介して確実に外部に取り出すことができる。
【0027】
また、請求項8に係る発明の圧着端子の製造方法は、プレス工程よりも先にメッキ形成工程が行われるので、圧着前固定部がプレス成形される前の板材の状態で、金属メッキを施すことができる。これにより、金属層を容易に形成することができる。さらに、メッキ形成工程で金属メッキを一方の面に施した後で、その金属メッキを施した一方の面が外側となるように、圧着前固定部をプレス成形するので、圧着前固定部の外側となる一方の面だけに金属層を形成することができ、両面に金属メッキを形成するのに対し、コストの低減を図ることができる。また、圧着工程では、U字状の圧着前固定部の他方の面に当接するように芯線を配置させた後に、一対のアンビルとクリンパとの間で圧着する。このとき、一対の先端側の外側面が、金属層を介して、クリンパの圧着面に当接して滑らかに摺動するので、一対の先端側を芯線に向かって十分に喰い込ませることができる。さらに、圧着前固定部の少なくとも固定部の側部の先端側が予定される外側の面に金属層が形成されるので、圧着工程後において、アンビルとクリンパとの圧着面に対し、一対の側部の先端側が予定されている外側面が張り付くのを防止できる。また、金属メッキは展延性を備えているので、圧着前固定部の外側面と、アンビル及びクリンパの各圧着面との滑り性が確保され、複数の圧着前固定部の圧着作業を連続して行うことができ、適正なC.H.を有する固定部を常に備えた圧着端子を連続して形成することができる。
【0028】
なお、この金属メッキは、固定部の側面の先端側が予定されている部位に施す構成であっても、固定部の側面全面が予定されている部位に施す構成であってもよい。さらに、金属メッキは、側面だけでなく底面が予定されている部位まで施す構成であってもよい。
【0029】
また、請求項9に係る発明の圧着端子の製造方法は、請求項8記載の発明の効果に加え、メッキ形成工程より前に、板材の一方の面のうち、少なくとも側部の先端側が形成されると予定する部分にAuのストライクメッキを施すストライクメッキ工程を備えているので、形成されたストライク層が金属層との密着性を向上させ、金属層が固定部から剥離することを抑制できる。
【0030】
また、請求項10に係る発明の圧着端子の製造方法は、プレス工程の後にメッキ形成工程が行われるので、例えば、プレス工程で形成された圧着前固定部をメッキ浴に浸すことによって、圧着前固定部の外表面金属メッキを容易に施すことができる。さらに、圧着前固定部を先に形成してから金属メッキを施すので、余分な金属メッキを使用せず、金属メッキにかかるコストを節約することができる。また、圧着工程では、U字状の圧着前固定部の内表面に当接するように芯線を配置させた後に、一対のアンビルとクリンパとの間で圧着する。このとき、一対の先端側外表面が、金属層を介して、クリンパの圧着面に当接して摺動するので、一対の先端側を芯線に向かって十分に喰い込ませることができる。さらに、圧着前固定部の外側の面に金属層が形成されるので、圧着工程後において、アンビルとクリンパとの圧着面に対し、一対の側部の先端側外表面が張り付くのを防止できる。また、金属メッキは、展延性を備えているので、圧着前固定部の外側の面と、アンビル及びクリンパの各圧着面との滑り性が確保され、複数の圧着前固定部の圧着作業を連続して行うことができ、適正なC.H.を有する固定部を常に備えた圧着端子を連続して形成することができる。
【0031】
また、請求項11に係る発明の圧着端子の製造方法は、請求項12に記載の発明の効果に加え、メッキ形成工程より前に、板材の一方の面のうち、少なくとも側部の先端側が形成されると予定する部分にAuのストライクメッキを施すストライクメッキ工程を備えているので、形成されたストライク層が金属層との密着性を向上させ、金属層が固定部から剥離することを抑制できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
以下、本発明のガスセンサの一実施の形態であるガスセンサ1について、図面に基づいて説明する。図1は、本実施形態であるガスセンサ1の断面図であり、図2は、圧着端子51bの側面図であり、図3は、バレル部53の斜視図であり、図4は、圧着端子51bの製造工程を示したフローチャートであり、図5は、ストライプメッキ処理を施した金属板80の平面図であり、図6は、圧着前固定部77の内側に素子用リード線14bの芯線16を配置した状態を示す斜視図であり、図7は、圧着前固定部77の断面図であり、図8は、アンビル120−クリンパ121間に、圧着前固定部77が配置された状態を示す断面図であり、図9は、アンビル120−クリンパ121間に、圧着前固定部77が圧着された状態を示す断面図であり、図10は、固定部57の断面図であり、図11は、試験1の結果を示すグラフであり、図12は、連続圧着回数11回目の固定部97の断面図であり、図13は、試験2の結果を示すグラフであり、図14は、試験3の結果を示すグラフであり、図15は、圧着端子51bの製造工程の変形例を示したフローチャートである。なお、図1において、下側をガスセンサ1の先端側とし、上側をガスセンサ1の後端側とする。
【0033】
本実施形態のガスセンサ1は、自動車の排気管に装着されて使用に供されるものであって、排気管内を流通する排気ガス中の酸素濃度を検出する酸素センサである。
【0034】
はじめに、ガスセンサ1について説明する。図1に示すように、ガスセンサ1は、略筒状の主体金具2、排気ガス中の特定ガス(例えば、酸素)の濃度を検知する検出素子6、当該検出素子6を加熱するセラミックヒータ7、検出素子6の先端側を保護するプロテクタ4、4本のリード線14(図1では3本のみ図示)に各々固定された4本の圧着端子51(図1では3本のみ図示)を内挿するアルミナ製のセパレータ18、当該セパレータ18を取り囲んで保護する略筒状の保護カバー3等を主体に構成されている。そして、検出素子6及びセラミックヒータ7は、ガスセンサ1の軸線方向に延設されている。なお、図1に示す主体金具2が、「ハウジング本体」に相当する。
【0035】
まず、検出素子6は、固体電解質体6aと、その固体電解質体6aの内面にPt或いはPt合金により形成された内部電極6bと、固体電解質体6aの外面に形成された外部電極6cとを有している。
【0036】
主体金具2の内側には、この検出素子6が挿入されている。さらに、主体金具2の後端側は径方向内側に加締められ、検出素子6の先端側に設けられた検出部は、主体金具2の先端側に露出して絶縁状態で保持されている。また、主体金具2の後端側には、円筒状のボス部2bが形成され、該ボス部2bには金属製の保護カバー3の先端側が固着されている。
【0037】
一方、主体金具2の先端側には円筒状のボス部2aが形成され、該ボス部2aには、金属製のプロテクタ4が接続されている。このプロテクタ4は、外側に位置する外側プロテクタ4aと、該外側プロテクタ4aの内側に固定された内側プロテクタ4bとから構成され、外側プロテクタ4aの後端側がボス部2aの外周に固着されている。また、プロテクタ4には、酸素濃度を測定するためのガスを検出素子6の検出部と接触させるためのガス導入口4cが形成されている(内側プロテクタ4bのガス導入口は図示せず)。
【0038】
また、主体金具2の内側には、検出素子6が金属製のパッキン9a、セラミックス製のホルダ10、金属製のパッキン9b、タルク等からなるシーリング粉末11、セラミックス製のスリーブ12及び金属製のリング13を介して挿通されている。そして、検出素子6の内部には、後端側から先端側に向かってセラミックヒータ7が挿入されている。さらに、主体金具2の後端側の外側面には、径方向外側に突出するフランジ2cが設けられている。そして、そのフランジ2cとボス部2aとの間には、主体金具2を排気管(図示外)に固定するための雄ねじ2dが形成されている。さらに、その雄ねじ2dとフランジ2cとの間には、ガスケットGが取り付けられている。
【0039】
一方、保護カバー3の内側には、セパレータ18が内装されている。そして、このセパレータ18の外周面には、径方向外側に突出するフランジ18aが設けられ、該フランジ18aよりも先端側に略円筒状の保持金具17が介装されている。即ち、保持金具17は、セパレータ18を内挿保持するとともに、保護カバー3の内側に保持されている。さらに、セパレータ18の内側では、4本の圧着端子51が、4本の各リード線14の複数の芯線16の先端側と電気的に接続されている。
【0040】
具体的に各リード線14は、素子用リード線14a,14bと、ヒータ用リード線14c、14d(図示せず)とを有している。この素子用リード線14aの芯線16は、検出素子6の外面に対して外嵌される圧着端子51aと機械的に接続され、素子用リード線14aは、検出素子6の外部電極6cと電気的に接続される。また、この素子用リード線14bの芯線16は、検出素子6の内面に対して圧入される圧着端子51bと機械的に接続され、素子用リード線14bは、検出素子6の内部電極6bと電気的に接続される。さらに、ヒータ用リード線14c,14dの芯線16は、セラミックヒータ7の発熱抵抗体と接合された一対の圧着端子51cと各々接続される。
【0041】
また、保護カバー3の後端側には、セパレータ18に隣接してゴム製のグロメット19が内挿されている。そして、このグロメット19を介して、4本のリード線14がガスセンサ1の外部に延出されている。また、グロメット19の中央には、貫通孔19aが形成され、該貫通孔19aには、フィルタユニット20が挿着されている。このフィルタユニット20は、金属製の筒状である支持部材20aと、該支持部材20aの周面及び上面(ガスセンサ1の後端側)に被覆されたPTFE製のフィルタ20bとから構成されている。これにより、ガスセンサ1の後端側の大気が、貫通孔19a及びフィルタユニット20のフィルタ20bを介すことによって、保護カバー3の内部に流入するようになっている。
【0042】
次に、圧着端子51bについて説明する。なお、圧着端子51a、圧着端子51b、圧着端子51cはそれぞれ異なる形状であるが、本発明の主要部である固定部は同形状となるため、以下の説明では圧着端子51bについて説明し、圧着端子51a、圧着端子51cは省略する。図2に示すように、この圧着端子51bは、全体がガスセンサ1(図1参照)の軸線方向に対して平行に延設され、検出素子6(図1参照)の後端側に嵌合して内部電極6bと電気的導通をはかる素子嵌合部52と、素子用リード線14bの複数の芯線16を内包して加締めることによって電気的接続をはかるバレル部53と、素子嵌合部52とバレル部53との間に介設されたリード部54と、当該リード部54の外側面に設けられ、セパレータ18(図1参照)の内側面に当接して、圧着端子51bを弾性保持する保持片55とから構成されている。
【0043】
ここで、バレル部53について説明する。図3に示すように、バレル部53は、3つの固定部57から構成され、該固定部57は、バレル部53の長手方向に沿って互いに所定の隙間を空けて列設されている。よって、素子用リード線14bの芯線16は、3つの固定部57に内包されることにより、圧着端子51bのバレル部53との電気的接続がはかられている。また、このバレル部53の外表面全体には、Agメッキで形成されたメッキ層85が施されている。そして、このメッキ層85が本発明の特徴であり、その作用効果については後述する。
【0044】
次に、圧着端子51bの製造工程について概略的に説明する。図4に示すように、はじめに、圧着端子51bの母材となる金属板80(図5参照)の一方の面の所定部分に、Agメッキを施すメッキ形成工程(S10)が行われる。次に、該メッキ形成工程にてAgメッキが施された金属板80のプレス成形をおこない、U字状の圧着前固定部77を備えた圧着前端子71bを形成するプレス工程(S11)が行われる。そして、最後に、該プレス工程にて形成された圧着前端子71bの圧着前固定部77の内表面に当接するように、素子用リード線14bの芯線16を配置し、一対の金型であるアンビル120及びクリンパ121(図8参照)間で圧着することによって、固定部57を備えた圧着端子51bを形成する圧着工程(S12)が行われる。以下、上記した圧着端子51bの製造工程の各処理工程(S9,S10,S11,S12)について詳細に説明する。
【0045】
まず、図5に示すように、まず、圧着端子51bの材料となる金属板80を用意する。この金属板80は帯状に形成され、インコネル(INCO社の登録商標)を材質としている。次に、この金属板80の一方の面に対し、プレス前の後述する圧着前端子71bであるプレス前端子61のプレスレイアウトを行う。なお、プレス前端子61は、プレス前嵌合部62、プレス前バレル部63、プレス前リード部64で構成され、プレス前バレル部63は、3つのプレス前固定部67で構成されている。そして、このようなプレス前端子61を、金属板80の長手方向に向かって複数配置する。このとき、互いに隣り合うプレス前端子61の向きは違いに逆向きになるように配置する。即ち、互いに隣り合うプレス前端子61のプレス前バレル部63の位置が互い違いとなるように配置する。これは、金属板80のプレス後の残査部分を少なくするためである。また、図5に示すプレス前固定部67が、特許請求の範囲の「固定部が形成されると予定される部分」に相当する。
【0046】
次に、ストライクメッキ工程(S9)を行う。プレス前端子61がプレスレイアウトされた金属板80の一方の面とは反対側の他方の面(図5の紙面裏側の面)にマスキングをする。そして、金属板80の前記一方の面に対し、Auストライクメッキ処理を行う。このAuストライクメッキ処理は、後に施されるAgメッキと、金属板80の母材であるインコネルとの密着性を向上させるものである。このストライクメッキ処理は、各々プレスレイアウトされた個々のプレス前端子61のうち、少なくともプレス前バレル部63(3つのプレス前固定部67)上にAgメッキが施されるようにストライプ状にされる。
【0047】
この後、メッキ工程(S10)を行う。具体的には、Auストライクメッキが施された金属板80の前記一方の面に対し、Agのメッキ処理を行う。このメッキ処理もストライクメッキ処理と同様にストライプ状に行われ、Auストライクメッキ上に形成される。
【0048】
こうして、金属板80の一方の面に、プレス前端子61のプレス前バレル部63上を通過する平面視帯状のメッキ層85が2本形成される。そして、このメッキ層85の厚さは0.1μm以上(本実施例では、1.0μm)となるように調整される。これにより、圧着前固定部77の外表面に施されるメッキ層85と、後述するクリンパ121の凹部121a(図8,図9参照)の圧着面との滑り性を効果的に確保できる。なお、本実施形態では、メッキ層85の材料として、純Agメッキを使用したが、展延性及び耐熱性のある金属メッキであればよく、例えば純Auメッキでもよい。この純Auメッキを用いた場合、Auストライクメッキとの密着性が純Agメッキよりも更によい。そして、このメッキ層85は耐熱性を備えた金属メッキで形成されているので、ガスセンサ1に圧着端子51bが内蔵され、自動車の排気管等に装着されて高温になったとしても融解せず、分解ガスも発生しないのでガスセンサ1の起電圧の変動を防止できる。
【0049】
次に、プレス工程(S11)について説明する。このプレス工程では、メッキ形成工程(S10)でメッキ処理された金属板80を、プレス機(図示外)によってプレス成形を行う。具体的には、金属板80上にプレスレイアウトされたプレス前端子61の形状に沿ってプレスを行う。そして、そのプレス前端子61のうち、プレス前バレル部63においては、メッキ層85が形成された一方の面が外側となるようにU字状にプレスを行う。こうして、図6に示すように、圧着前バレル部73を備えた圧着前端子71bが形成される。そして、圧着前バレル部73を構成する各圧着前固定部77は、図6,図7に示すように、軸線方向に垂直な断面で見たとき、底部77aと、該底部77aの両端から起立する一対の側部77bとによってU字状に形成されている。さらに、両側部77bにおける底部77aとは反対側に位置する両先端側77cは、互いに近づく方向に傾斜している。また、両先端側77cは、各側部77bの他の部位よりもやや肉薄に形成されている。そして、この圧着前固定部77の外表面には、前記メッキ形成工程にて処理されたメッキ層85が形成されている。
【0050】
次に、圧着工程(S12)について説明する。図8に示すように、この圧着工程では、一対の金型であるアンビル120及びクリンパ121が用いられる。アンビル120は、上方に突出する凸部120aを備えている。一方、クリンパ121は下側に開口する凹部121aを備えている。また、凹部121aの最底部に位置する圧着面は、両側から中央に湾曲する略M字状に形成されている。さらに、この凹部121aと凸部120aとは互いに整合するようになっている。このような一対の金型において、アンビル120に対し、クリンパ121が下降することによって、凸部120aと凹部121aとの間に挟まれた対象物(本実施形態では、圧着前固定部77)が圧着されるようになっている。
【0051】
まず、凸部120aの上部に、U字状の圧着前固定部77を配置する。このとき、圧着前固定部77の開口側を、クリンパ121の凹部121aに対向させて配置する。次いで、圧着前固定部77の内周面に当接するように、素子用リード線14bの芯線16を配置する(図7,図8参照)。これにより、芯線16は、底部77a及び両側部77bに取り囲まれた状態となる。
【0052】
次に、クリンパ121をアンビル120に向かって下降させる。すると、上記したように、圧着前固定部77の両先端側77cは互いに近づく方向に傾斜しているので、クリンパ121の凹部121aの圧着面には、まず、両先端側77cの外表面が当接する。そして、両先端側77cは、両側部77bの他の部位よりも肉薄であるため、両先端側77cがクリンパ121の凹部121aの圧着面に沿って摺動する。さらに、クリンパ121の凹部121aの圧着面は、両側から中央に向かって湾曲する略M字状に形成されているので、両先端側77cは、互いに近づく方向に徐々に案内される。
【0053】
ここで、圧着前固定部77の外表面には、メッキ層85が形成されているので、クリンパ121の凹部121aの圧着面と、圧着前固定部77の外表面との滑り性が確保されている。これにより、両先端側77cは、互いに弧を描くようにして、底部77a側に向かって深く曲げられ、図9に示すように、芯線16が底部77a、両側部77bによって強固に加締められた状態となる。また、クリンパ121の凹部121aの圧着面と、圧着前固定部77の外表面との滑り性が確保されているので、圧着前固定部77の外表面が、アンビル120及びクリンパ121の各圧着面に張り付かない。これにより、各圧着面から固定部57を容易に剥がすことができるので、圧着端子51bの形状が変形する恐れがない。こうして、図10に示すような複数の芯線16を内包する固定部57が形成される。
【0054】
この固定部57は、図10に示すように、軸線方向に垂直な断面で見たとき、底部57aと、該底部57aの両端から起立する一対の側部57bとから構成されている。そして、両側部57bにおける底部57aとは反対側に位置する両先端側57cが、底部57a側に向かって深く曲げられている。さらに、一方の先端側57cの外表面と、他方の先端側57cの外表面とが当接している。こうして、この圧着端子51bの固定部57には、素子用リード線14bの芯線16が、底部57a及び両側部57bによって内包されて加締め固定されている。
【0055】
また、この固定部57のビッカース硬度は、350(HV)以上に調整されている。なお、固定部57のビッカース硬度は、固定部57の底部57aにおいて、複数箇所で計測して平均した値とする。また、ビッカース硬度の測定条件は、荷重:300gf、荷重負荷時間:10秒である。
【0056】
そして、上記したように、本実施形態では、圧着前固定部77の外表面にメッキ層85を設けたことによって、クリンパ121の凹部121aの圧着面と、圧着前固定部77の外表面との滑り性が確保されている。これにより、例えば、複数の圧着前固定部77を連続圧着する場合、圧着前固定部77の外表面と、クリンパ121の凹部121aの圧着面との滑り性を常に維持することができるので、性能及び外観ともに不具合のない圧着端子51bを得ることができる。
【0057】
次に、メッキ層85による滑り性の効果を確認するために、アンビル120及びクリンパ121による圧着前固定部77の連続圧着評価試験を行った。はじめに、この連続圧着評価試験において、圧着工程で形成される固定部57を評価するための評価方法について説明する。図10に示すように、まず、固定部57の最底部をP点とする。そして、P点から固定部57の最上部までの距離(固定部57の高さ)をC.H.(クリンプハイト)とする。さらに、固定部57の両側部57bの起立する部分の幅の長さ(肉厚)をそれぞれW1,W2とする。また、底部57aと両側部57bとが連結する部分の外表面をK点とする。そして、これら設定された各基準点を評価ポイントとし、1.C.H.の変動量、2.W1,W2の幅の長さ、3.K点の形状、4.圧着端子51bの外観、等を総合的に判断して固定部57及び圧着端子51bの評価を行った。
【0058】
まず、試験1について説明する。試験1では、圧着前固定部の外表面にメッキ層が設けられていない従来の圧着前端子を複数用意し、圧着前固定部の連続圧着試験を行った。そして、圧着によって形成された圧着回数毎の固定部のC.H.(mm)をそれぞれ計測した。さらに、C.H.の変動量は、初回の圧着で形成された固定部のC.H.を基準値(0mm)とし、この基準値からの変動量Δhとして換算した。なお、本試験において、潤滑剤は使用していない。
【0059】
次に、試験1の結果について説明する。図11に示すように、例えば、連続圧着回数が3回の場合は、Δh=0.005mm、連続圧着回数が6回の場合は、Δh=0.013mm、連続圧着回数が9回の場合は、Δh=0.021mm、連続圧着回数が11回の場合は、Δh=0.025mmであった。このように、連続圧着回数が増加するにしたがって、Δhも増加する傾向を示した。ここで、図12に示すように、連続圧着回数11回目で形成された固定部97を観察すると、図10に示す本実施形態の固定部57に比べてC.H.がやや高く、固定部97の底部97a、両側部97bに囲まれた複数の芯線16同士には隙間を生じた。また、W1,W2の肉厚も増大していた。さらに、固定部97の各K点には、下方に突出するバリが発生していた。
【0060】
次に、試験1の結果について考察する。圧着回数が増加するにしたがって、クリンパ121の凹部121aの圧着面と、圧着前固定部の外表面との間の滑り性が徐々に劣化してしまうので、圧着前固定部の両側部の両先端側が複数の芯線16に向かって喰い込まず、C.H.が上昇したものと推測される。また、図12に示すように、両先端側97cの芯線16への喰い込みが不十分であったため、両側部97bの先端側97cが開いてしまい、芯線16を強固に固定できなかった。また、W1,W2の肉厚が増大した理由については、両先端側97cの芯線16への喰い込みが不十分であったため、クリンパ121に両側部97bが肉厚の垂直方向から押圧されてしまったと推測される。また、各K点にバリを生じた理由については、両側部97bが肉厚の垂直方向から押圧されてしまったことから、アンビル120とクリンパ121との隙間にその両側部97bの一部が逃げて下方に延びてバリとなったと推測される。
【0061】
次に、試験2について説明する。試験2では、本実施形態である圧着前端子71bを複数用意し、圧着前固定部77の連続圧着試験を行った。そして、試験1と同様に、圧着によって形成された圧着回数毎の固定部のC.H.(mm)をそれぞれ計測した。さらに、各計測値は、初回の圧着で形成された固定部のC.H.を基準値(0mm)とし、この基準値からの変動量Δhとして換算した。なお、本試験において、潤滑剤は使用していない。
【0062】
次に、試験2の結果について説明する。図13に示すように、例えば、連続圧着回数が3回の場合は、Δh=0.001mm、連続圧着回数が6回の場合は、Δh=0.002mm、連続圧着回数が11回の場合は、Δh=0.002mm、連続圧着回数が15回の場合は、Δh=0.004mm、連続圧着回数が20回の場合は、Δh=0.004mm、連続圧着回数が25回の場合は、Δh=0.005mmであった。ここで、連続圧着回数25回目で形成された固定部57を観察すると、図12に示す固定部97に比べてC.H.が低く、固定部57の底部57a、両側部57bに囲まれた複数の芯線16同士は隙間なく密着していた(図10参照)。また、W1,W2の長さにほとんど変化がなく、K点にバリが発生することもなかった。
【0063】
次に、試験2の結果について考察する。圧着回数が増加しても、クリンパ121の圧着面と、圧着前固定部77の外表面との間の滑り性がメッキ層85によって確保されているので、圧着前固定部77の両側部77bの両先端側77cが複数の芯線16に向かって強固に喰い込み、C.H.が変化しなかったものと推測される。また、両側部57bの芯線16への喰い込みが十分であるので、連続圧着回数が25回目に形成された固定部57でも、芯線16を強固に固定できたものと推測される。なお、固定部57に開きは発生せず、圧着端子51b全体の外観形状も正常であった。これにより、連続圧着を行った場合でも、芯線16を内包して強固に固定できる固定部57を形成できるとともに、外観形状に不具合のない圧着端子51bを得ることができる。
【0064】
次に、試験3について説明する。試験3では、本実施形態である圧着前端子71bの外表面に形成されたメッキ層85をAuメッキで形成し、試験1,2と同様に、圧着前固定部77の連続圧着試験を行った。そして、圧着によって形成された圧着回数毎の固定部のC.H.(mm)をそれぞれ計測した。さらに、各計測値は、初回の圧着で形成された固定部のC.H.を基準値(0mm)とし、この基準値からの変動量Δhとして換算した。なお、本試験において、潤滑剤は使用していない。
【0065】
次に、試験3の結果について説明する。図13に示すように、例えば、連続圧着回数が3回の場合は、Δh=−0.003mm、連続圧着回数が6回の場合は、Δh=0.002mm、連続圧着回数が11回の場合は、Δh=0.007mm、連続圧着回数が15回の場合は、Δh=0.004mm、連続圧着回数が20回の場合は、Δh=0.009mm、連続圧着回数が25回の場合は、Δh=0.007mmであった。
【0066】
次に、試験3の結果について考察する。メッキ層85の材質をAgメッキからAuメッキに置き換えても、試験2とほぼ同様の結果が得られた。これにより、クリンパ121の圧着面と、圧着前固定部77の外表面との間の滑り性を、Auメッキからなるメッキ層85でも維持することができると推測された。また、Auメッキからなるメッキ層85を備えた固定部57、該固定部57を備えた圧着端子51bの外観形状にも不具合は認められなかった。なお、本試験では、Auメッキを一例に挙げたが、展延性及び耐熱性を備える金属メッキであれば適用可能である。
【0067】
以上説明したように、本実施形態のガスセンサ1は、検出素子6の検出部の出力信号を外部に取り出すための圧着端子51bを備えている。この圧着端子51bは、外部と接続する素子用リード線14bの芯線16と電気的接続を図るために、該素子用リード線14bの芯線16を加締めて固定するバレル部53を備えている。このバレル部53は、3つの固定部57から構成されている。さらに、この固定部57は、U字状の圧着前固定部77の内側に、素子用リード線14bの芯線16を配置した状態で、アンビル120及びクリンパ121間で圧着されることによって形成される。そして、本実施形態では、圧着前固定部77の外表面には、メッキ層85が形成されている。これにより、クリンパ121の圧着面と、圧着前固定部77の外表面との滑り性が確保されている。よって、圧着前固定部77の圧着工程の際には、両先端側77cの外表面は、メッキ層85を介して、クリンパ121の圧着面に滑らかに摺動するので、両先端側77cは、互いに弧を描くようにして、底部77a側に向かって深く曲げられ、芯線16を底部77a、両側部77bによって強固に加締めることができる。
【0068】
また、クリンパ121の圧着面と、圧着前固定部77の外表面との滑り性が確保されているので、圧着前固定部77の外表面が、アンビル120及びクリンパ121の各圧着面に張り付かない。これにより、各圧着面から固定部57を容易に剥がすことができるので、圧着端子51bの形状が変形する恐れがない。さらに、複数の圧着前固定部77の連続圧着を行った場合でも、クリンパ121の圧着面と、圧着前固定部77の外表面との滑り性が確保されているので、芯線16を内包して強固に固定できる固定部57を形成できるとともに、外観形状に不具合のない圧着端子51bを得ることができる。
【0069】
また、この圧着端子51bの外表面に形成されたメッキ層85は、耐熱性を備えたAgメッキで形成されているので、ガスセンサ1が自動車の排気管等に装着され、高熱環境下に曝された場合でも、メッキ層85は融解しないので、分解ガスが発生せず、ガスセンサ1の起電圧が変動する恐れもない。
【0070】
なお、本発明のガスセンサは、上記実施形態に限らず、各種変更が可能なことは言うまでもない。例えば、メッキ形成工程(S10)において、金属板80の一方の面に対し、Agのストライプメッキ処理を行い、プレス前バレル部63(3つのプレス前固定部67)上にAgメッキが施されるようにストライプ状に処理したが、図16に示すように、プレス前バレル部63のみを選択的に部分メッキしてもよい。部分メッキを行うことでコストの低下を図ることができる。さらには、図17に示すように、プレス前のバレル部63のうち、圧着前固定部57の側部の先端側を予定する部位にのみ形成してもよい。これにより、クリンパ121の圧着面と、圧着前固定部77の外表面との滑り性を確保しつつ、更なるコストの低下を図ることができる。
【0071】
また、メッキ形成工程(S10)において、金属板80上におけるプレス前端子61のプレスレイアウトを全て同じ向きで行い、さらに、同じ側に配置された複数のプレス前バレル部63上に、一本の帯状のメッキ層85が通過するようにしてもよい。
【0072】
さらに、本実施形態では、圧着端子51bの製造工程を、図4に示すように、ストライクメッキ工程(S9)、メッキ形成工程(S10)、プレス工程(S11)、圧着工程(S12)の順に構成したが、例えば、図15に示す変形例のように、プレス工程(S20)を先に行い、次いで、該プレス工程で形成された圧着前端子71bの圧着前バレル部73のみをストライクメッキするストライクメッキ工程(S19)、さらにはメッキするメッキ形成工程(S21)を行い、最後に圧着工程(S22)を行ってもよい。この製造方法の場合、プレス工程では、金属板80を先にプレス成形して、U字状の圧着前固定部77を備えた圧着前端子71bを先に形成する。その後、メッキ形成工程にて、その圧着前端子71bの圧着前バレル部73のみを、Agメッキ浴またはAuメッキ浴に浸らせ、液面管理によってメッキ位置を調整する。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明は、酸素センサ等のガスセンサに限らず、種々の装置に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】本実施形態であるガスセンサ1の断面図である。
【図2】圧着端子51bの側面図である。
【図3】バレル部53の斜視図である。
【図4】圧着端子51bの製造工程を示したフローチャートである。
【図5】ストライプメッキ処理を施した金属板80の平面図である。
【図6】圧着前固定部77の内側に素子用リード線14bの芯線16を配置した状態を示す斜視図である。
【図7】圧着前固定部77の断面図である。
【図8】アンビル120−クリンパ121間に、圧着前固定部77が配置された状態を示す断面図である。
【図9】アンビル120−クリンパ121間に、圧着前固定部77が圧着された状態を示す断面図である。
【図10】固定部57の断面図である。
【図11】試験1の結果を示すグラフである。
【図12】連続圧着回数11回目の固定部97の断面図である。
【図13】試験2の結果を示すグラフである。
【図14】試験3の結果を示すグラフである。
【図15】圧着端子51bの製造工程の変形例を示したフローチャートである。
【図16】部分メッキ処理を施した金属板80の平面図である。
【図17】部分メッキ処理を施した金属板80の平面図である。
【符号の説明】
【0075】
1 ガスセンサ
2 主体金具
3 保護カバー
6 検出素子
14 リード線
16 芯線
51b 圧着端子
57 固定部
57a 底部
57b 側部
57c 先端側
67 プレス前固定部
77 圧着前固定部
77a 底部
77b 側部
77c 先端側
80 金属板
85 メッキ層
120 アンビル
121 クリンパ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
他部材と電気的に接続する接続部と、
リード線の芯線を内包して、該リード線と電気的に接続するための固定部と、
を有し、
前記固定部は、前記リード線の芯線に向かって先端側を曲折することにより、前記芯線を固定するための一対の側部と、該一対の側部の基端側を連結する底部と、を有する圧着端子において、
前記固定部は、350HV以上のビッカース硬度を有し、
前記一対の側部は、少なくとも前記先端側外表面にAg又はAuを主成分とする金属層が備えられていることを特徴とする圧着端子。
【請求項2】
前記金属層は、ビッカース硬度100HV以下であることを特徴とする請求項1記載の圧着端子。
【請求項3】
前記金属層の厚みは、0.1μm以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載の圧着端子。
【請求項4】
前記金属層と、前記一対の側部の前記先端側外表面との間には、Auを主成分とするストライクメッキ層が形成されていることを特徴とする請求項1乃至3の何れかに記載の圧着端子。
【請求項5】
前記一対の側部のそれぞれの先端側外表面に設けられた金属層が互いに当接していることを特徴とする請求項1乃至4の何れかに記載の圧着端子。
【請求項6】
芯線と、該芯線を一端から露出させる被覆部材とからなるリード線と、
他部材と電気的に接続する接続部と、リード線の芯線を内包して、該リード線と電気的に接続する固定部とを有し、該固定部が、前記リード線の芯線に向かって先端側が曲折し、前記芯線を固定する一対の側部、及び該一対の側部の基端側を連結する底部を有する圧着端子と、
からなるリード線付圧着端子において、
前記固定部は、350HV以上のビッカース硬度を有し、
前記一対の側部は、少なくとも前記先端側外表面にAg又はAuを主成分とする金属層が備えられていることを特徴とするリード線付圧着端子。
【請求項7】
軸線方向に延び、先端側に検出部をもつ検出素子と、少なくとも前記検出部が自身の先端側から露出するように前記検出素子を保持する筒状のハウジング本体と、当該ハウジング本体の後端側に自身の先端側が接続され、外部と電気的に接続するリード線を内部に収容する保護カバーと、前記検出素子と前記リード線とを電気的に接続し、前記検出部の出力信号を外部に取り出すための圧着端子を備えたガスセンサにおいて、
当該圧着端子が、請求項1乃至6の何れかに記載の圧着端子であることを特徴とするガスセンサ。
【請求項8】
他部材と電気的に接続する接続部と、リード線の芯線を内包して、該リード線と電気的に接続するための固定部とを有し、前記固定部は、前記リード線の芯線に向かって先端側を曲折することにより、前記芯線を固定するための一対の側部と、該一対の側部の基端側を連結する底部と、を有する圧着端子の製造方法において、
前記板材の一方の面のうち、少なくとも前記側部の前記先端側が形成されると予定する部分にAg又はAuを主成分とする金属メッキを施すメッキ形成工程と、
前記一方の面が外側となるように、前記板材をプレスしてU字状の圧着前固定部を形成するプレス工程と、
前記圧着前固定部の他方の面に当接するように前記芯線を配置させ、一対のアンビルとクリンパとの間で圧着することによって、前記芯線が内包された前記固定部を形成する圧着工程と
を備えたことを特徴とする圧着端子の製造方法。
【請求項9】
前記メッキ形成工程より前に、前記板材の一方の面のうち、少なくとも前記側部の前記先端側が形成されると予定する部分にAuのストライクメッキを施すストライクメッキ工程を備えることを特徴とする請求項8に記載の圧着端子の製造方法。
【請求項10】
他部材と電気的に接続する接続部と、リード線の芯線を内包して、該リード線と電気的に接続するための固定部とを有し、前記固定部は、前記リード線の芯線に向かって先端側を曲折することにより、前記芯線を固定するための一対の側部と、該一対の側部の基端側を連結する底部と、を有する圧着端子の製造方法において、
前記板材をプレスしてU字状の圧着前固定部を形成するプレス工程と、
前記圧着前固定部の少なくとも前記側部の前記先端側外表面にAg又はAuを主成分とする金属メッキを施すメッキ形成工程と、
前記圧着前固定部の内表面に当接するように前記芯線を配置させ、一対のアンビルとクリンパとの間で圧着することによって、前記芯線が内包された前記固定部を形成する圧着工程と
を備えたことを特徴とする圧着端子の製造方法。
【請求項11】
前記プレス工程と前記メッキ形成工程との間に、前記板材の一方の面のうち、少なくとも前記側部の先端側が形成されると予定する部分にAuのストライクメッキを施すストライクメッキ工程を備えることを特徴とする請求項10記載の圧着端子の製造方法。

【図4】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2007−180009(P2007−180009A)
【公開日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−239638(P2006−239638)
【出願日】平成18年9月4日(2006.9.4)
【出願人】(000004547)日本特殊陶業株式会社 (2,912)
【Fターム(参考)】