説明

圧縮成形法及び同成形法により成形される強化熱可塑性部品

繊維強化部品は、異なる長さを有し、かつ当該部品のほぼ全体に亘ってランダムに配向した繊維で強化した圧縮成形熱可塑性樹脂により形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は概して、圧縮成形法に関するものであり、更に具体的には、繊維強化熱可塑性部品を圧縮成形する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
機械加工金属部品の代わりに、重量がより軽い成形材料を用いようとする種々の試みが為されている。例えば、航空機産業では、幾つかの金属部品に替えて、多種多様な方法のうちのいずれかの方法を使用して成形されるプラスチック部品または複合材部品が採用されるようになっている。重量が軽くなる他に、ポリマー材料により形成される部品は、機械加工時間が短くなり、そして材料消費量が少なくなるという一部の理由から、更に低コストで製造することができる。
【0003】
比較的高い強度の部品を、ポリマー材料を使用して製造しようとするこれまでの試みでは、シート状の成形材料を圧縮成形し、そして種々の形状の複合材積層板を、熱硬化材料を使用して積層していた。これらのこれまでの試みの各試みは、不具合を伴う。例えば、低粘度熱硬化材料によって、成形時の流動距離が短くなるので、この低粘度熱硬化材料から更に複雑な部品を形成することができない可能性がある。シート形態の使用は、微小な部品、複雑な部品、または断面幾何学形状が変化する部品を形成するためには適していない。既存の製造方法では更に、幾つかの用途ではコスト効率が上がらない可能性がある比較的複雑な積層構成及び/又は複雑化した金型を必要とする。最後に、既存のプロセスによって形成されるポリマー部品は、全ての方向に略同じ機械的特性を持たない可能性がある。例えば、積層構成部品は、積層板の面内方向に、かつ肉厚方向に同じ機械的強度を持たない可能性がある。同様に、成形短繊維熱硬化樹脂部品は、肉厚方向の機械的強度が低いという不具合を呈する。
【0004】
従って、略等方性または擬似等方性の機械的特性を持つ高強度で複雑なポリマー部品を高流動成形/圧縮成形する方法が必要になる。また、機械加工金属部品に替えて、複合材料を用いることにより、部品重量及び製造コストの両方を低減する必要がある。
【発明の概要】
【0005】
開示の実施形態によれば、繊維強化熱可塑性樹脂の高流動圧縮成形によって、成形プロセス中の繊維からの樹脂の剥離を減らすことができるので、不所望の樹脂過多領域及び樹脂不足領域を低減することができる。この成形法では、少なくとも、炭素繊維を編み込んだ略網目状の複合材部品、及び複雑な幾何学形状を有し、かつ厳格な寸法公差を維持する継手を形成する。開示の方法によって、樹脂及び繊維の混合物が比較的複雑な金型通路を流れるときの流動長さを長くすることができるので、異なる長さを有する繊維が3次元に配列するようになって、部品の等方性の特性を向上させることができる。開示の方法は、比較的簡単であり、そして当該方法によって、予備成形する必要を、繊維の形状を最適化することにより無くすことができる。開示の方法は、多種多様な部品形状を圧縮成形するために有用であり、これらの部品形状として、これらに限定されないが、ほんのわずかな例を挙げると、抜き勾配、リブ、切り欠き、半径部分、穴、クレビス、及び突起を挙げることができる。圧縮成形熱可塑性部品の比較的高い強度及び靭性によって、突起及びブッシングのような金属インサートを部品に装着することができる。
【0006】
1つの開示の実施形態によれば、複合材部品を形成する方法が提供される。方法は、各フレークが繊維を含む構成の複数のフレークを形成するステップを含む。金型充填物は、フレーク及び熱可塑性樹脂を金型に注入することにより成形される。充填物を圧縮成形して部品とする。フレークを形成するステップでは、フレークの各フレークを繊維強化プリプレグから切り出す。方法は更に、少なくとも2つの異なる形状のフレークを混合するステップを含むことができ、充填物を成形するステップでは、2つの異なる形状のフレークを金型に注入する。圧縮成形法では、金型充填物を、金型を流れる金型充填物の乱流が生じるような速度で圧縮することができる。方法は更に、穴を成形部品に形成するステップと、そして金属製硬質インサートを穴に取り付けるステップと、含むことができる。
【0007】
別の開示の実施形態によれば、繊維強化複合材部品を成形する方法が提供される。方法は、複数のフレークを、熱可塑性樹脂を予め含浸させた一方向繊維プリフォームから切り出すステップと、そして金型充填物を、予め選択された量のフレークを金型に注入することにより成形するステップと、を含む。方法は、金型充填物を金型キャビティで、かつ比較的速い流動速度で圧縮成形するステップであって、流動速度によって、繊維を金型キャビティに、略ランダムな繊維配向で略均一に分散させる、圧縮成形するステップを含む。フレークを切り出すステップでは、フレークを、帯状の一方向プリプレグテープを打ち抜いて該プリプレグテープから切り出すことができる。フレークは、正方形、矩形、円形、楕円形、台形、三角形、六角形、または菱形のうちの少なくとも1つ以上の形状とすることができる。
【0008】
更に別の実施形態によれば、強化複合材部品は、異なる長さを有し、かつ多方向強化繊維となるランダム配向繊維を有する圧縮成形熱可塑性樹脂を含む。繊維は、部品のほぼ全体に亘って略ランダムに配向する。部品は更に、少なくとも1つの穴と、そして穴の内部に固く固定される金属製硬質インサートと、を含むことができる。1つの実施形態では、穴にネジを切り、そして硬質インサートはHeliCoil(登録商標)を含むことができる。部品群は、ほぼ擬似等方性の特性を有する。
【0009】
1.複合材部品を形成する方法であって:
各フレークが繊維を含む構成の複数のフレークを形成するステップと;
金型充填物を、フレーク及び熱可塑性樹脂を金型に注入することにより成形するステップと;
充填物を圧縮成形して部品とするステップと、
を含む、方法。
【0010】
2.フレークを形成するステップでは、フレークの各フレークを繊維強化プリプレグから切り出す、請求項1に記載の方法。
【0011】
3.更に:
異なる長さの繊維をそれぞれ有する、少なくとも2つの異なる形状のフレークを混合するステップを含み、
充填物を成形するステップでは、2つの異なる形状のフレークを成形材料に混入させる、請求項1に記載の方法。
【0012】
4.圧縮成形するステップでは、金型充填物を、金型を流れる金型充填物の乱流が生じるような速度で圧縮する、請求項1に記載の方法。
【0013】
5.熱可塑性樹脂は:
PEI、
PPS、
PES、
PEEK、
PEKK、及び
PEKK−FC
のうちの1つである、請求項1に記載の方法。
【0014】
6.フレークを形成するステップでは、フレークの各フレークを乾燥繊維プリフォームから切り出し、そして
熱可塑性樹脂を金型に注入するステップは、フレークを金型に注入するステップとは別に行なわれる、
請求項1に記載の方法。
【0015】
7.更に:
穴を成形部品に形成するステップと;
硬質インサートを穴に取り付けるステップと、
含む、請求項1に記載の方法。
【0016】
8.穴を、ドリル穿孔法により形成し、そして
硬質インサートを挿入するステップでは、穴の内側の部分にネジを切り、そしてインサートを穴にねじ込む、請求項7に記載の方法。
【0017】
9.繊維には、熱可塑性樹脂を予め含浸させている、請求項1に記載の方法。
【0018】
10.請求項1に記載の方法により形成される複合材部品。
【0019】
11.繊維強化複合材部品を成形する方法であって:
複数のフレークを、熱可塑性樹脂を予め含浸させた一方向繊維プリフォームから切り出すステップと;
金型充填物を、予め選択された量のフレークを金型に注入することにより成形するステップと;
金型充填物を金型キャビティ内で圧縮成形するステップと、
を含む、方法。
【0020】
12.フレークを切り出すステップでは、フレークを、帯状の一方向プリプレグテープを打ち抜く、請求項11に記載の方法。
【0021】
13.フレークのうちの少なくとも特定のフレークはそれぞれ:
正方形、
矩形、
円形、
楕円形、
台形、
三角形、
六角形、及び
菱形のうちの1つの形状を有する、請求項11に記載の方法。
【0022】
14.フレークのうちの少なくとも特定のフレークは、異なる長さを有する繊維を含む、請求項11に記載の方法。
【0023】
15.熱可塑性樹脂は:
PEI、
PPS、
PES、
PEEK、
PEKK、及び
PEKK−FC
のうちの1つである、請求項11に記載の方法。
【0024】
16.異なる長さを有し、かつ多方向強化繊維となるランダム配向繊維を有する圧縮成形熱可塑性樹脂を含む、強化複合材部品。
【0025】
17.熱可塑性樹脂は:
PEI、
PPS、
PES、
PEEK、
PEKK、及び
PEKK−FC
のうちの1つである、請求項16に記載の強化複合材部品。
【0026】
18.繊維は炭素繊維であり、かつ樹脂のほぼ全体に亘って略均一に分散している、請求項16に記載の強化複合材部品。
【0027】
19.フレークは:
正方形、
矩形、
円形、
楕円形、
台形、
六角形、及び
三角形
のうちの少なくとも1つの形状を有する、請求項16に記載の強化複合材部品。
【0028】
20.フレークは、少なくとも2つの異なる形状を有する、請求項16に記載の強化複合材部品。
【0029】
21.更に:
圧縮成形熱可塑性樹脂に開けた少なくとも1つの穴と、
穴の内部に固く固定される金属製硬質インサートと、
を備える、請求項16に記載の強化複合材部品。
【0030】
22.穴にネジを切り、そして
硬質インサートはHeliCoil(登録商標)を含む、請求項21に記載の強化複合材部品。
【0031】
23.部品はほぼ、擬似等方性の特性を有する、請求項21に記載の強化複合材部品。
【0032】
24.複合材航空機部品を成形する方法であって:
複数の第1フレークを、一方向炭素繊維熱可塑性プリプレグテープから切り出すステップであって、第1フレークの各第1フレークが第1形状を有する、切り出すステップと;
複数の第2フレークを、一方向炭素繊維熱可塑性プリプレグテープから切り出すステップであって、第2フレークの各第2フレークが、第1形状とは異なる第2形状を有する、切り出すステップと;
第1及び第2フレークを、部品の形状を略忠実に再現できる金型キャビティを有する金型に注入するステップと;
充填物を、熱及び圧力を充填物に加えて、金型キャビティを流れる充填物の流動速度を比較的速くすることにより、充填物の流動速度及び粘度が組み合わされてフレーク内の繊維が、金型キャビティ全体に略均一に、かつ略ランダムな繊維配向で分散するようにすることにより、圧縮成形するステップと、
を含む、方法。
【0033】
25.略等方性の機械的特性を有する炭素繊維強化複合材航空機部品であって:
樹脂に開けた少なくとも1つの穴を有する構成の圧縮成形熱可塑性樹脂と;
成形樹脂と一体成形される複数の強化繊維であって、異なる長さを有する繊維が、成形樹脂全体に亘って略均一に分散し、かつ略ランダムな配向を有する、複数の強化繊維と;
穴の内部に固く固定される少なくとも1つの金属製硬質インサートと、
を備える、炭素繊維強化複合材航空機部品。
圧縮成形する開示の方法、及び当該方法により形成される繊維強化熱可塑性部品は、略等方性または擬似等方性の特性を有する比較的複雑な幾何学形状の強化熱可塑性部品を形成する比較的低コストの製造方法のニーズを満たす。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】図1は、圧縮成形プロセスにより成形される強化熱可塑性部品の斜視図を含む、圧縮成形プロセスのブロック図を示している。
【図2】図2は、図1に示す熱可塑性部品を強化するために使用される繊維フレークを切り出す方法を示す図を示している。
【図3】図3は、フレークの代表的な形状を示す図である。
【図3A】図3Aは、異なる繊維長が含まれている様子を示す繊維フレークの図である。
【図4】図4は、硬質インサートを任意に有する、繊維強化熱可塑性部品を圧縮成形するフロー図を示している。
【図5】図5は、開示の成形法により形成される代表的な繊維強化熱可塑性部品の斜視図を示している。
【図6】図6は、開示の成形法により形成される代表的な繊維強化熱可塑性部品の斜視図を示している。
【図7】図7は、開示の成形法により形成される代表的な繊維強化熱可塑性部品の斜視図を示している。
【図8】図8は、開示の成形法により形成される代表的な繊維強化熱可塑性部品の斜視図を示している。
【図9】図9は、部品の複雑な繊維微細構造を示す圧縮成形部品の断面図を示している。
【図10】図10は、部品を成形しようとするときにプリプレグ繊維フレークが充填される開放圧縮金型を示す図を示している。
【図11】図11は、充填物を成形するために閉じてしまった状態の図10の金型を示す断面図を示している。
【図12】図12は、金型充填物が金型キャビティの一部を流動する様子を示す断面図を示している。
【図13】図13は、HeliCoil(登録商標)インサート及びネジ切りボルトを収容するネジ切り穴を有する圧縮成形熱可塑性部品の分解斜視図を示している。
【図14】図14は、航空機製造及び整備方法のフロー図を示している。
【図15】図15は、航空機のブロック図を示している。
【発明を実施するための形態】
【0035】
まず、図1を参照するに、開示の実施形態は、繊維強化熱可塑性部品20を、圧縮成形機22を使用して高流動成形/圧縮成形する方法に関するものである。成形機22は、金型キャビティ22bを有する金型22aを含み、この金型キャビティ22bに、金型充填物60を注入する。金型充填物60は、ランダム配向繊維フレーク24を含む。本明細書において使用されるように、「高流動」成形とは、金型充填物60が金型キャビティ22bを比較的長い距離だけ流動する現象を指し、この場合、「長い距離」とは、個々のフレーク24の最大長さ寸法の数倍の距離を指す。また、本明細書において使用されるように、「フレーク」及び「繊維フレーク」とは、部品20を強化するために適する繊維を含む個々の片、断片、薄片、層、または塊を指す。
【0036】
以下の記載において更に詳細に説明するように、1つの実施形態では、金型充填物60は、熱可塑性樹脂を予め含浸させた一方向繊維により形成される繊維フレーク24のみを含むことができる。この実施形態では、当該部品20を形成する熱可塑性樹脂の供給源は、フレーク24に含まれる樹脂にのみ由来している。別の構成として、別の実施形態では、粘着性乾燥繊維フレーク24を使用することができ、これらの乾燥繊維フレーク24には樹脂を予め含浸させる必要がなく、この場合、予め測定された量の熱可塑性樹脂26を充填物60に添加することができる。
【0037】
フレーク24は、1つ以上の特定形状を有し、これらの特定形状によって、繊維及び熱可塑性樹脂の溶融混合物が、金型キャビティ22b内の種々の形状部、狭窄部、及び末端部(全て図示されず)を流動するときに、強化繊維33が、樹脂及び強化繊維の溶融混合物内で、略均一に分散し、かつランダムに配向した状態を保持し易くなる(図3及び4を参照)。フレーク24の特定形状によって更に、擬似等方性の機械的特性を部品20に、種々の長さの強化繊維を混合物内に混入することにより持たせることができる。フレーク24の一部を形成する、または乾燥フレーク24に添加される熱可塑性樹脂は、これらには限定されないが、ほんのわずかな例として、PEI(ポリエーテルイミド)、PPS(硫化ポリフェニレン)、PES(ポリエーテルスルホン)、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)、PEKK(ポリエーテルケトンケトン)、及びPEKK−FC(ポリエーテルケトンケトン−fcグレード)のような比較的高粘度の熱可塑性樹脂を含むことができる。フレーク24の強化繊維は、これらには限定されないが、炭素繊維、金属繊維、セラミック繊維、及び/又はガラス繊維のような多種多様な高強度繊維のうちのいずれかの繊維とすることができる。部品20は、金属粒子及び/又はセラミック粒子、または「ウィスカー」を金型充填物60に添加することにより強化することもできる。
【0038】
以下に説明するように、金型充填物60に熱及び圧力を圧縮成形機22内で加えると、溶融樹脂及び繊維の混合物の流動速度が比較的速くなり、この溶融混合物は、特に金型壁面の影響を受ける場合に、金型キャビティ22bの少なくとも幾つかの部分における乱流に近い状態になる、または乱流になる。任意であるが、部品20は、種々の金属のうちのいずれかの金属により形成される硬質インサート42を有することができ、これらの金属は、部品20に成形プロセスの一部として成形されるか、または部品20を成形した後に取り付けられるかのいずれかである。
【0039】
図2を参照するに、フレーク24は、例えばこれらには限定されないが、個々のフレーク24を、裏打ち材25aを有する一方向プリプレグテープ25のロール27から、抜き型29を用いて型抜きすることにより形成することができる。別の構成として、前に述べたように、フレーク24を、粘着性乾燥繊維プリフォーム(図示せず)から、例えば型抜き加工により、または他の方法により形成することもできる。抜き型29は、テープ25を支持する静止部分29aを含むことができるのに対し、往復動可能な嵌合金型部材29bは、フレーク24をテープ25から切り出す。裏打ち材25aは、第2ロール(図示せず)に巻き取ることができる。別の構成として、フレーク24は、一方向プリプレグシート(図示せず)から切り出すことができる。フレーク24は、他の製造プロセスを使用して形成することもできる。
【0040】
フレーク24は、略平板状とすることができ、そして種々の外形のうちのいずれかの外形を有することができる。例えば、図3に示すように、フレーク24は、正方形24a、矩形24b、円形24c、正三角形24d、台形24d、六角形24fまたは他の多角形(図示せず)、楕円形24g、または菱形24hの形状を有することができる。他の形状も可能である。幾つかの実施形態では、形状24a〜24hのうちの2つ以上の形状を持つフレーク24を熱可塑性成形材料26と一括混合して、異なる長さの繊維33を有する混合物を形成することができる。
【0041】
異なる長さを有する繊維33が混合物中に含まれることにより、フレーク24を部品20内に更に均一に分散させることができるとともに、部品20の等方性の機械的特性を向上させる、そして/または部品20を強化することができる。円形24c、三角形24d、六角形24f、楕円形24g、及び菱形24hのような形状を有するフレーク24は、これらの形状によって各フレーク24が異なる繊維長を有するようになるので、部品20の等方性の機械的特性を向上させるために特に有用となり得る。例えば、図3Aに示すように、フレーク24gの上部及び下部の近傍の繊維31は、フレーク24gの中央の近傍の繊維33の長さLよりもかなり短い長さLを有する。長い方の繊維33が、特定の方向に高い強度を実現するのに対し、短い長さの繊維31によって、フレーク24を更に容易に、複雑な3次元構造に形成することができる。従って、長繊維長及び短繊維長を1個のフレーク24内で組み合わせる、または混ぜ合わせることが特に望ましい。一般的に、フレーク24のサイズ及び形状は、部品20の流動性、強度、及び仕上げ品質を最適化するように選択することができる。
【0042】
次に、図4を参照するに、上に説明した部品20は、一方向繊維プリプレグテープまたはシートを供給する、または他の実施形態では、粘着性乾燥繊維プリフォームを供給するステップ28から始まる方法の1つの実施形態を使用して製造することができる。ステップ30では、フレーク24を当該テープまたはシートから切り出して、所望の外形とすることができる。ステップ32では、金型充填物60(図1)を、特定の部品20の充填物60を形成することになるフレーク24の量を測定することにより、通常は、計量することにより形成する。フレーク24が、粘着性乾燥プリフォームにより形成される場合では、充填物60の一部を形成することになる熱可塑性樹脂26の量も計量する。
【0043】
予め測定した量のフレーク24(及び、任意であるが、予め計量された熱可塑性樹脂)から成る金型充填物60を金型22aに流し込むと、フレーク24のこのような繊維配向は略ランダムになる。繊維フレーク24が粘着性乾燥繊維プリフォームにより形成され、かつ熱可塑性樹脂26を充填物60に別途加える必要があるこれらの実施形態では、フレーク24及び樹脂26を、金型充填物60内の複数の交互層として配置することにより、樹脂26を乾燥繊維フレーク24と成形プロセス中に混合し易くすることが望ましい。ステップ36では、金型充填物60を圧縮成形して、充填物の比較的高い流動速度を金型キャビティ22b全体で実現する(図1)。金型キャビティ22bを流動する金型充填物60の流動速度は、成形プロセス中に加える熱及び圧力の量によって異なり、この熱及び圧力の量が今度は、特定の用途によって左右される。
【0044】
部品20が硬質インサート42を含む場合では、付加的な一連のステップ37,39,及び41を行なうことができる。ステップ37では、1つ以上の穴を成形後の部品20に、穴を部品20に成形することにより、または部品を金型22a(図1)から取り出した後に、部品20をドリル穿孔するような機械加工プロセスにより形成する。硬質インサート42がネジを含む場合では、穴にステップ39でネジ切り加工を施し、その後、硬質インサート42をステップ41で取り付けることができる。
【0045】
図5,6,7,及び8は、比較的複雑な形状を有し、かつ開示の成形法を使用して圧縮成形することができる代表的な部品群を示している。図5は、一体成形した突起ボス38及びブッシングインサート42を有する継手20aを示している。図6は、インサート成形により形成した皿穴40、及びナットプレートインサート44を有する水平ダブラー20bを示している。図7は、テーパ付き薄肉末端部39、及びインサート成形により形成した皿穴40を有する回動継手20cを示している。図8は、インサート成形により形成したブッシング42を有する荷重伝達バー20dを示している。
【0046】
図9は、開示の圧縮成形法で形成される部品20の比較的複雑な繊維微細構造を拡大寸法で示しており、この繊維微細構造は、比較的高粘度の熱可塑性物質を使用した結果として、かつ金型充填物60(図1)を流動させる距離を長くして、繊維31,33の分離を行なった結果として得られる。熱可塑性成形樹脂が高粘度になると、強化繊維31,33が流動樹脂と一緒に、金型キャビティ22b(図1)全体を移動し易くなり、そしてフレークの密度が何れの特定領域内でも極めて高くなる、または極めて低くなるのを許容するのではなく、フレークが略均一に分散する状態を保持することができる。繊維31,33が比較的均一に仕上げ部品20内で分散するのは、フレーク24の樹脂が溶融して流れ出す前に、繊維33は最初に、当該繊維のプリプレグ状態で均一に分散するという一部の理由による。図9に示す比較的複雑な繊維微細構造において、繊維31,33が、略ランダムな繊維配向で略均一に分散することにより、部品20は、略等方性または擬似等方性の機械的特性、及び比較的複雑な故障モードを有するようになる。
【0047】
図10及び11は、図4に示すステップ32,34,及び36を実行する装置を示している。圧縮金型52は、第1金型部分52a及び第2金型部分52bを含み、これらの金型部分はそれぞれ、所望の部品20(図1)の形状に対応する金型面56a、56bを有することができる。金型52は、金型面56a、56bにより少なくとも部分的に形成される金型キャビティ58を含む。金型52は、金型52を所望の温度に加熱する加熱素子54を含むことができる。図10に示すように、金型が開いている状態では、予め測定した量のプリプレグフレーク24を容器48から金型部分52aに供給することができる。予め計量されたフレーク24を金型キャビティ58に流し込んで、フレーク24が、ランダムに配向するようにする。
【0048】
図11に示すように、力Fを、ラム62を介して金型部分52bに加えると、金型部分52a、52bを押して合体させることができるので、金型充填物60を金型キャビティ58内で圧縮することができる。繊維24は、これらの繊維が最初に、金型22a内に収容されると2つの平面でランダムにしか分散していないが、一旦、フレーク24内の樹脂溶融物が溶融状態になって、繊維31,33が自由に動けるようになってしまうと、金型キャビティ22b内の流動距離が長くなることによって、繊維33(図3A)が、これらの繊維自体を分散させるように「作用するようになって」、障害物、曲げ要素、金型22aとの摩擦などによって生じる複雑な3次元相互拘束構造を形成する。圧力及び熱が組み合わされて充填物60に加わると、溶融樹脂及び個々の繊維31,33の混合物が、比較的長い距離に亘って金型キャビティ58全体を流動するようになる。樹脂が金型キャビティ58を流動すると、フレーク31,33は、樹脂と一緒に移動して金型キャビティ58全体に略均一に分散するようになり、そして略ランダムに配向するようになる。金型52を最後に冷却すると、熱可塑性樹脂が固化して、フレーク24の材料になる、異なる長さの繊維33(図3A)は、ランダムに配向して固化樹脂と一体化された状態になる。
【0049】
図12は、テーパ付き末端部66を有する金型キャビティ58の角形状部64の近傍の充填物60の流動を図式的に示している。この流動は、乱流成分68を含むことができ、これらの乱流成分68によって、流動樹脂内の繊維31,33の略均一な混合状態、及び分散状態を保持し易くなって、仕上げ部品20内の樹脂または繊維の過多、または樹脂または繊維の不足を回避することができる。
【0050】
図13は、HeliCoil(登録商標)インサート70を、開示の実施形態に従って製造される代表的な熱可塑性部品20に取り付ける様子を示している。穴71を部品20に、例えばドリル穿孔法または成形法により形成する。次に、当該穴71にネジ切り加工を施して、一連の熱可塑性樹脂製の内ネジ山72を穴71に形成する。次に、螺旋形金属コイル74を含むHeliCoil(登録商標)インサート70を穴71に挿入して、熱可塑性樹脂製ネジ72にねじ込む。一旦、穴71に取り付けられ、そして熱可塑性樹脂製の内ネジ72に収まると、金属コイル74は、穴71の内部の一連の金属雌(内)ネジ山75となり、この穴71に、別の部品(図示せず)の雄(外)ネジ77またはボルト79のようなファスナーをねじ込み可能に装着することができる。
【0051】
本開示の実施形態は、多種多様な潜在的用途に、具体的には、例えば航空宇宙用途、船舶用途、及び自動車用途を含む輸送産業に活用することができる。従って、次に図14及び15を参照するに、本開示の実施形態は、図14に示す航空機製造及び整備方法76、及び図15に示す航空機78に関連して使用することができる。製造前段階では、例示的な方法76において、航空機78の仕様決定及び設計80を行ない、そして材料調達82を行なうことができ、この材料調達82では、開示の部品20が指定されて、航空機78の部品群及びアセンブリ群に使用される。製造段階では、航空機78の部品及びサブアセンブリ製造84が行なわれる。開示の圧縮成形法を使用して、プロセス84,86中に組み付けられるパーツ群及び部品群を形成することができる。その後、航空機78は、証明書発行及び機体引き渡し88を経て、供用90に付される。顧客が航空機を供用している間、航空機78は、日常的なメンテナンス及び整備92を行うようにスケジューリングされる(このメンテナンス及び整備は、改修、再構成、改装などを含むこともできる)。開示の方法は、メンテナンス及び整備92中に取り付けられる部品群20に使用することができる。
【0052】
方法76のプロセス群の各プロセスは、システムインテグレータ、サードパーティ、及び/又はオペレータ(例えば、顧客)によって行なうことができるか、または実行することができる。この説明を進めるために、システムインテグレータとして、これらには限定されないが、何れかの数の航空機製造業者、及び航空機大手システムサブコントラクタを挙げることができ;サードパーティとして、これらには限定されないが、何れかの数のベンダー、サブコントラクタ、及びサプライヤーを挙げることができ;そしてオペレータは、航空会社、リース会社、軍隊、航空機整備機関などとすることができる。
【0053】
図15に示すように、例示的な方法76により製造される航空機78は、複数のシステム96を搭載した機体94と、そして機内98と、を含むことができる。開示の方法を使用して、機体94の一部を形成する、または機体94に取り付けることができる部品群20を形成することができる。高位システム96の例として、推進システム100、電気システム102、油圧システム104、及び環境システム106のうちの1つ以上を挙げることができる。何れかの数の他のシステムを含めてもよい。航空宇宙用の例を示しているが、本開示の原理は、船舶産業及び自動車産業のような他の産業に適用することができる。
【0054】
開示の成形法は、部品群を、製造及び整備方法76の種々の段階のうちの何れか1つ以上の段階中に成形するために用いることができる。例えば、製造プロセス84に対応する部品群またはサブアセンブリ群には、開示の成形法を使用して形成される複合材部品群を用いることができる。また、1つ以上の方法実施形態、またはこれらの方法実施形態の組み合わせは、例えば航空機78の組み立てを大幅に促進する、または航空機78のコストを大幅に低減することにより製造段階84及び86中に利用することができる。
【0055】
本開示の実施形態について、特定の例示的な実施形態を参照しながら説明してきたが、他の変形をこの技術分野の当業者であれば想到し得ることから、特定の実施形態が、例示のために、かつ非限定的に提示されていることを理解されたい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複合材部品を形成する方法であって、
それぞれが繊維を含む複数のフレークを形成するステップと、
フレーク及び熱可塑性樹脂を金型に注入することを含む金型充填物を成形するステップと、
充填物を圧縮成形して部品とするステップと
を含む方法。
【請求項2】
フレークを形成するステップは、繊維強化プリプレグから各フレークを切り出すことを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
更に:
異なる長さの繊維をそれぞれ有する、少なくとも2つの異なる形状のフレークを混合するステップを含み、
充填物を成形するステップは、成形材料に2つの異なる形状のフレークを混入することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
圧縮成形するステップは、金型を流れる金型充填物の乱流が生じるような速度で金型充填物を圧縮することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
フレークを形成するステップは、フレークの各フレークを乾燥繊維プリフォームから切り出すことを含み、
熱可塑性樹脂を金型に注入するステップは、フレークを金型に注入するステップとは別に行われる、
請求項1に記載の方法。
【請求項6】
更に:
穴を成形部品に形成するステップと、
硬質インサートを穴に取り付けるステップと
を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
ドリル穿孔法により穴を形成し、
硬質インサートを挿入するステップは、穴の内側の部分にネジを切り、そして穴にインサートをねじ込むことを含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
繊維に熱可塑性樹脂を予め含浸する、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
異なる長さを有し、多方向強化繊維となるランダム配向繊維を有する圧縮成形熱可塑性樹脂を含む強化複合材部品。
【請求項10】
熱可塑性樹脂が、
PEI、
PPS、
PES、
PEEK、
PEKK、及び
PEKK−FC
のうちの1つである、請求項9に記載の強化複合材部品。
【請求項11】
繊維が炭素繊維であり、樹脂のほぼ全体に亘って略均一に分散している、請求項9に記載の強化複合材部品。
【請求項12】
フレークが、
正方形、
矩形、
円形、
楕円形、
台形、
六角形、及び
三角形
のうちの少なくとも1つの形状を有する、請求項9に記載の強化複合材部品。
【請求項13】
フレークが、少なくとも2つの異なる形状を有する、請求項9に記載の強化複合材部品。
【請求項14】
更に:
圧縮成形熱可塑性樹脂に開けた少なくとも1つの穴と、
穴の内部に固く固定される金属製硬質インサートと
を備える、請求項9に記載の強化複合材部品。
【請求項15】
穴にネジを切り、
硬質インサートはHeliCoil(登録商標)を含む、請求項14に記載の強化複合材部品。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図3A】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate


【公表番号】特表2013−510013(P2013−510013A)
【公表日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−536809(P2012−536809)
【出願日】平成22年9月7日(2010.9.7)
【国際出願番号】PCT/US2010/048017
【国際公開番号】WO2011/056293
【国際公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【出願人】(500520743)ザ・ボーイング・カンパニー (773)
【氏名又は名称原語表記】The Boeing Company
【Fターム(参考)】