説明

圧縮機用シュー及びその製造方法

【課題】軽量化と実用的な強度とを両立することが可能な圧縮機用シューを提供する。
【解決手段】本発明の圧縮機用シュー21は、斜板8と摺接する斜板摺接面211aをもつ基部211と、基部211と一体をなし、ピストン10に球面で凹設された受け座10aと摺接する受け座摺接面212aをもつ半球部212とを有する。基部211と半球部212との間には空洞213が形成され、基部211と半球部212とは互いの中心方向に延びる中実の支柱部214により連結されている。基部211と半球部212との間には、空洞213を外部に連通させる開口215が形成され得る。また、基部211と半球部212とは材質が異なることも可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は圧縮機用シュー及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
斜板とピストンとを備えた圧縮機においては、斜板とピストンとの間に前後一対の圧縮機用シューが設けられ得る。各シューは、基部と、この基部と一体をなす半球部とを有している。基部は、斜板と摺接する斜板摺接面をもっている。半球部は、ピストンに球面で凹設された受け座と摺接する受け座摺接面をもっている。
【0003】
上記のように構成された圧縮機では、駆動軸が回転することにより斜板が同期回転し、シューを介してピストンがシリンダボア内を往復動する。これにより、ピストンのヘッド側において、冷媒ガスの吸入、圧縮及び吐出行程が行われることとなる。この間、シューは、基部の斜板摺接面が斜板の表面と摺接するとともに、半球部の受け座摺接面がピストンの受け座と摺接することとなる。
【0004】
一般的なシューは、基部及び半球部が中実で一体となった半球状のものである。このようなシューは、例えばSUJ2(JIS G4805)からなる線材に対し、切断、プレス加工、研摩等を行うことにより製造されることが一般的である。
【0005】
一方、基部と半球部との間に空洞が形成されることにより、軽量化されたシューも公知である(例えば、特許文献1〜6)。斜板の傾斜角を変化させ得る圧縮機にこのシューを用いれば、ピストンの往復慣性力を低減することができ、容量制御性を向上させることができる。また、このシューは、圧縮機を駆動するための動力の低減、圧縮機等の軽量化等を実現することも可能である。
【0006】
【特許文献1】特開2005−90385号公報
【特許文献2】特開2002−31051号公報
【特許文献3】特開平2−119686号公報
【特許文献4】特開2002−39058号公報
【特許文献5】特開2001−263225号公報
【特許文献6】実開平6−40385号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上記従来公知のシューは、いずれも、空洞によって軽量化は実現しているものの、実用的な強度が懸念される。
【0008】
すなわち、シューは、上記のように、圧縮機が冷媒ガスの吸入、圧縮及び吐出行程を行っている間、基部の斜板摺接面が斜板の表面と摺接するとともに、半球部の受け座摺接面がピストンの受け座と摺接する。このため、シューには、基部と半球部とを互いに近づける方向の力が大きく作用している。
【0009】
上記特許文献2〜6開示のシューは、この力を支え難く、長期の使用により基部と半球部とが近づく方向に変位するおそれがある。この場合、斜板とシューの基部との間又はシューの半球部とピストンの受け座との間にガタを生じ、異音を生じたり、滑らかな運転に支障をきたしたりしてしまうこととなる。
【0010】
この点、特許文献1開示のシューは、基部と半球部とが互いの中心方向に延びる中空の支持部により連結されているため、他のシューと比較すれば改善が見られると思われる。しかしながら、このシューにおいても、支持部が中空であることにより、やはり実用的な強度不足を払拭しきれない。
【0011】
本発明は、上記従来の実情に鑑みてなされたものであって、軽量化と実用的な強度とを両立することが可能な圧縮機用シューを提供することを解決すべき課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
第1発明の圧縮機用シューは、斜板と摺接する斜板摺接面をもつ基部と、該基部と一体をなし、ピストンに球面で凹設された受け座と摺接する受け座摺接面をもつ半球部とを有する圧縮機用シューにおいて、
前記基部と前記半球部との間には空洞が形成され、該基部と該半球部とは互いの中心方向に延びる中実の支柱部により連結されていることを特徴とする。
【0013】
第1発明のシューは、基部と半球部との間に形成された空洞によって軽量化が実現されている。また、このシューは、基部と半球部とが互いの中心方向に延びる中実の支持部により連結され、その支持部が基部と半球部とを互いに近づける方向の力を支持するため、実用的な強度を確保可能である。
【0014】
したがって、第1発明のシューは、軽量化と実用的な強度とを両立することが可能である。このため、このシューによれば、容量可変型斜板式圧縮機の容量制御性の向上、動力低減、軽量化等の効果に加え、圧縮機の異音抑制、耐久性の向上等の効果を実現することが可能になる。
【0015】
第1発明において、中実とは、軸断面の中心部に穴が開いていない意味であり、軸断面の中心部に穴が開いている中空に対する意味である。中実は無垢(solid)ともいう。
【0016】
基部と半球部との間には、空洞を外部に連通させる開口が形成されていることが好ましい。この場合、圧縮機内の潤滑油が開口を介して空洞内に入り、その潤滑油が必要に応じて開口から外部に排出されることとなるため、基部の斜板摺接面と斜板の表面との摺接や半球部の受け座摺接面とピストンの受け座との摺接が滑らかとなる。これによって圧縮機の容量制御性、動力の低減効果等が向上する。
【0017】
基部と半球部とは、同一の材質でもよく、異なる材質でもよい。基部と半球部とは材質が異なることが好ましい。基部と半球部との材質が異なれば、斜板及びピストンの材質の選択枝が広がり、より優れた圧縮機を実現することが可能になる。
【0018】
第1発明のシューは以下の第2〜6発明の圧縮機用シューの製造方法によって製造することが可能である。
【0019】
第2発明の製造方法は、斜板と摺接する斜板摺接面をもつ基部と、該基部と一体をなし、ピストンに球面で凹設された受け座と摺接する受け座摺接面をもつ半球部とを有する圧縮機用シューの製造方法において、
中実の素材を得る素材形成工程と、
プレス型を用いて該素材をプレス成形することにより、前記基部と前記半球部との間に空洞が形成され、該基部と該半球部とが互いの中心方向に延びる中実の支柱部により連結されているシューを得るプレス工程とを備えていることを特徴とする。
【0020】
第2発明の製造方法では、素材が変形してシューとなる。この製造方法によれば、基部と半球部とが同一の材質からなるシューを容易に製造することが可能である。但し、第2発明の製造方法において、一端側と他端側とが異なる材質からなる一体の素材を用いれば、基部と半球部とが異なる材質からなるシューを製造することも可能である。プレス成形としては熱間鍛造を採用することができる。
【0021】
第2発明の製造方法において、素材の容積及びプレス成形におけるキャビティの容積を調整すれば、基部と半球部との間に開口を形成することも可能である。
【0022】
素材形成工程は、円盤状の底部と、円盤状の傘部と、底部と傘部とを連結する軸部とを形成する工程から構成され得る。この場合、プレス工程は、上型と下型とからなるプレス型を用い、下型で底部を支持しつつ上型で傘部をプレスすることにより、底部で基部を構成し、傘部で半球部を構成し、軸部で支柱部を構成することができる。
【0023】
第3発明の製造方法は、斜板と摺接する斜板摺接面をもつ基部と、該基部と一体をなし、ピストンに球面で凹設された受け座と摺接する受け座摺接面をもつ半球部とを有する圧縮機用シューの製造方法において、
外形が半球状であり、内部に空洞を有し、頂上に該空洞を外部に連通させる挿入口が形成された中空体を得る中空体製造工程と、
該挿入口に中実の軸部を挿入し、該中空体で前記基部と前記半球部とを構成し、該軸部で支柱部を構成することによって、該基部と該半球部との間に空洞が形成され、該基部と該半球部とが互いの中心方向に延びる該支柱部により連結されているシューを得る組付工程とを備えていることを特徴とする。
【0024】
第3発明の製造方法では、中空体がシューの基部及び半球部となり、軸部がシューの支柱部となる。この製造方法において、支柱部の材質を中空体と異ならせることも可能である。この場合、支柱部を剛性の高い材質のものとすることにより、より実用的な強度のシューとすることができる。
【0025】
第4発明の製造方法は、斜板と摺接する斜板摺接面をもつ基部と、該基部と一体をなし、ピストンに球面で凹設された受け座と摺接する受け座摺接面をもつ半球部とを有する圧縮機用シューの製造方法において、
キャップ状の頭部と、該頭部の頂上から内部に延びる中実の軸部とからなる第1部材を得る第1部材製造工程と、
円盤状の第2部材を得る第2部材製造工程と、
該軸部の先端を該第2部材の中心と結合し、該第2部材で前記基部を構成し、該頭部で前記半球部を構成し、該軸部で支柱部を構成することによって、該基部と該半球部との間に空洞が形成され、該基部と該半球部とが互いの中心方向に延びる該支柱部により連結されているシューを得る組付工程とを備えていることを特徴とする。
【0026】
第4発明の製造方法では、第1部材の頭部がシューの半球部となり、第1部材の軸部がシューの支柱部となり、第2部材がシューの基部となる。この製造方法によれば、半球部及び支柱部と基部とが異なる材質のシューを容易に製造することが可能である。
【0027】
第5発明の製造方法は、斜板と摺接する斜板摺接面をもつ基部と、該基部と一体をなし、ピストンに球面で凹設された受け座と摺接する受け座摺接面をもつ半球部とを有する圧縮機用シューの製造方法において、
キャップ状の第1部材を得る第1部材製造工程と、
円盤状の底部と、該底部の中央から延びる中実の軸部とからなる第2部材を得る第2部材製造工程と、
該軸部の先端を該第1部材の中心と結合し、該底部で前記基部を構成し、該第1部材で前記半球部を構成し、該軸部で支柱部を構成することによって、該基部と該半球部との間に空洞が形成され、該基部と該半球部とが互いの中心方向に延びる該支柱部により連結されているシューを得る組付工程とを備えていることを特徴とする。
【0028】
第5発明の製造方法では、第1部材がシューの半球部となり、第2部材の底部がシューの基部となり、第2部材の軸部がシューの支柱部となる。この製造方法によれば、半球部と基部及び支柱部とが異なる材質のシューを容易に製造することが可能である。
【0029】
第6発明の製造方法は、斜板と摺接する斜板摺接面をもつ基部と、該基部と一体をなし、ピストンに球面で凹設された受け座と摺接する受け座摺接面をもつ半球部とを有する圧縮機用シューの製造方法において、
キャップ状の第1部材を得る第1部材製造工程と、
円盤状の第2部材を得る第2部材製造工程と、
中実の軸部を得る軸部製造工程と、
該軸部の一端を該第1部材の頂上に結合するとともに、該軸部の他端を該第2部材の中心と結合し、該第2部材で前記基部を構成し、該第1部材で前記半球部を構成し、該軸部で支柱部を構成することによって、該基部と該半球部との間に空洞が形成され、該基部と該半球部とが互いの中心方向に延びる該支柱部により連結されているシューを得る組付工程とを備えていることを特徴とする。
【0030】
第6発明の製造方法では、第1部材がシューの半球部となり、第2部材がシューの基部となり、軸部がシューの支柱部となる。この製造方法によれば、半球部と基部と支柱部とがそれぞれ異なる材質のシューを容易に製造することが可能である。
【0031】
基部と半球部と支柱部とは材質が異なることが好ましい。基部と半球部と支柱部との材質がそれぞれ異なれば、斜板及びピストンの材質の選択枝が広がり、より優れた圧縮機を実現することが可能になる。また、支柱部を剛性の高い材質のものとすることにより、より実用的な強度のシューとすることができる。
【0032】
基部と半球部とを溶接する溶接工程を備えていることも好ましい。この場合、基部と半球部とが強固に結合し、支柱部以外でも圧縮反力等を好適に受承することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
以下、第1〜6発明を具体化した実施例1〜6を図面を参照しつつ説明する。
【実施例1】
【0034】
始めに、容量可変型斜板式圧縮機について説明する。この圧縮機は、図1に示すように、シリンダブロック1の前端にフロントハウジング2が接合されているとともに、シリンダブロック1の後端には弁ユニット3を介してリヤハウジング4が接合されている。シリンダブロック1及びフロントハウジング2には軸方向に延びる軸孔1a、2aが貫設されており、軸孔1a、2aにはそれぞれ軸受装置等を介して駆動軸5が回転可能に支承されている。なお、図1における下側を前側、上側を後側としている。
【0035】
フロントハウジング2内はクランク室6とされている。クランク室6では、フロントハウジング2との間に軸受装置を介し、ラグプレート7が駆動軸5に固定されている。また、クランク室6には、外周側の前後の表面8aが平坦に形成された斜板8がラグプレート7の後方に設けられている。斜板8は、駆動軸5によって挿通され、この状態でラグプレート7との間に設けられたリンク機構9によって傾斜角が変化するようになっている。
【0036】
シリンダブロック1には、軸方向に延びる複数個のシリンダボア1bが同心円状に貫設されている。各シリンダボア1b内には片頭のピストン10が往復動可能に収納されている。各ピストン10のクランク室6側は首部とされており、各ピストン10の首部にはそれぞれ球面で凹設された受け座10aが互いに対面して設けられている。
【0037】
斜板8と各ピストン10との間には、前後一対のシュー21が設けられている。各シュー21は、図2に示すように、円盤状の基部211と、この基部211と一体をなす外面が半球状の半球部212とを有している。基部211の外面は、斜板8と摺接する円形の斜板摺接面211aとされている。斜板摺接面211aの周縁は面取りされている。半球部212の外面は、ピストン10の受け座10aと摺接する球形の受け座摺接面212aとされている。
【0038】
図1に示すように、リヤハウジング4には吸入室4a及び吐出室4bが形成されている。シリンダボア1bは、弁ユニット3の吸入弁機構を介して吸入室4aに連通可能になっているとともに、弁ユニット3の吐出弁機構を介して吐出室4bに連通可能になっている。
【0039】
また、リヤハウジング4には容量制御弁11が収納されている。容量制御弁11は、検知通路4cにより吸入室4aに連通し、給気通路4dにより吐出室4bとクランク室6を連通させている。容量制御弁11は、吸入室4aの圧力を検知することにより、給気通路4dの開度を変更し、圧縮機の吐出容量を変更している。また、クランク室6と吸入室4aとは抽気通路4eによって連通している。吐出室4bには配管12によって凝縮器13、膨張弁14及び蒸発器15が接続されており、蒸発器15は配管12によって吸入室4aに接続されている。
【0040】
フロントハウジング2の前端には軸受装置を介してプーリ16が回転可能に設けられており、プーリ16は駆動軸5に固定されている。プーリ16にはエンジン17によって回転駆動されるベルト18が巻き掛けられている。
【0041】
上記シュー21は、図3に示すように、基部211と半球部212との間に空洞213が形成されている。また、基部211と半球部212とは、互いの中心方向に延びる中実の支柱部214により連結されている。
【0042】
各シュー21は、以下の製造方法によって製造したものである。
【0043】
まず、図4(A)に示すように、素材形成工程として、例えば鉄系材料であるSUJ2(JIS G4805)からなる中実の素材Wを用意する。この素材Wは、円盤状の底部W1と、底部W1と同心をなし、底部W1よりやや小径の円盤状の傘部W2と、底部W1と傘部W2とを互いの中心方向で連結する軸部W3とからなる。素材Wは、鋳造によって形成されてもよく、またプレスや切削によって形成されてもよい。
【0044】
そして、プレス工程として、上型P1及び下型P2からなるプレス型Pを用意する。上型P1にはシュー21の受け座摺接面212aと整合する半球凹状の成形面P11が形成され、下型P2にはシュー21の斜板摺接面211aと整合する成形面P21が形成され、成形面P11、P21によってキャビティCが形成されている。図4(B)に示すように、このプレス型Pを用いて素材Wを熱間鍛造する。これにより、素材Wの底部W1が基部211となり、傘部W2が半球部212となり、軸部W3が支柱部214となる。こうして実施例1のシュー21が得られる。
【0045】
この製造方法によれば、基部211と半球部212とが同一の材質からなるシュー21を容易に製造することが可能である。なお、多段に熱間鍛造することも可能である。また、プレス後の製品に必要に応じて表面研磨を行ったり、すずめっきやDLC等の表面コーティングを行ってシュー21とすることも可能である。
【0046】
上記のように構成された圧縮機では、駆動軸5が回転することにより斜板8が同期回転し、シュー21を介してピストン10がシリンダボア1b内を往復動する。これにより、ピストン10のヘッド側に形成される圧縮室が容積変化をする。このため、吸入室4a内の冷媒ガスは圧縮室内に吸入されて圧縮された後、吐出室4b内に吐出される。こうして圧縮機、凝縮器13、膨張弁14及び蒸発器15からなる冷凍回路で冷凍作用が行われる。この間、シュー21は、基部211の斜板摺接面211aが斜板8の表面8aと摺接するとともに、半球部212の受け座摺接面212aがピストン10の受け座10aと摺接する。
【0047】
この際、このシュー21は、空洞213によって軽量化が実現されているため、ピストン10の往復慣性力を低減することができ、圧縮機の容量制御性を向上させることができる。また、このシュー21は、圧縮機を駆動するための動力の低減、圧縮機等の軽量化等を実現することも可能である。
【0048】
また、このシュー21は、基部211と半球部212とが中実の支持部214により連結され、その支持部214が基部211と半球部212とを互いに近づける方向の力を支持するため、実用的な強度を発揮する。
【0049】
したがって、このシュー21は軽量化と実用的な強度とを両立することが可能であるため、このシュー21によれば、容量可変型斜板式圧縮機の容量制御性の向上、動力低減、軽量化等の効果に加え、圧縮機の異音抑制、耐久性の向上等の効果を実現することが可能になる。
【0050】
また、上記製造方法において、基部211と半球部212とを溶接する溶接工程を行うことも可能である。この場合、基部211と半球部212とが強固に結合し、支柱部214以外でも圧縮反力等を好適に受承することが可能になる。
【実施例2】
【0051】
図5に示すように、実施例2のシュー22は、基部211と半球部212との間に開口215が形成されている。開口215は、空洞213を外部に連通させている。他の構成は実施例1のシュー21と同様である。このシュー22は実施例1と同様の圧縮機に用いられる。
【0052】
このシュー22は、実施例1の製造方法において、素材Wの容積あるいはプレス成形型PにおけるキャビティCの容積を調整することにより得られる。
【0053】
このシュー22を用いた圧縮機では、潤滑油が開口215を介して空洞213内に入り、その潤滑油が必要に応じて開口215から外部に排出されることとなる。このため、基部211の斜板摺接面211aと斜板8の表面8aとの摺接や半球部212の受け座摺接面212aとピストン10の受け座10aとの摺接が滑らかとなる。これによって圧縮機の容量制御性、動力の低減効果等が向上する。
【0054】
なお、開口215は基部211の周囲に環状に形成されていてもよく、基部211と半球部212とが部分的に連結することにより適数個で形成されていてもよい。また、実施例1、2はシュー21、22の材料としてSUJ2を用いたが、シューの材料としてAl−Si合金等のアルミニウム合金を用いてもよい。
【実施例3】
【0055】
図6に示すように、実施例3のシュー23は、支柱部214の材質が基部211及び半球部212の材質と異なる。他の構成は実施例1のシュー21と同様である。このシュー23も実施例1と同様の圧縮機に用いられる。
【0056】
このシュー23は、以下の製造方法によって製造したものである。
【0057】
まず、図7に示すように、中空体製造工程として、アルミニウム合金からなる中空体W4を用意する。この中空体W4は、外形が半球状であり、内部に空洞213を有している。中空体W4の頂上には、空洞213を外部に連通させる挿入口216が形成されている。
【0058】
そして、組付工程として、挿入口216に前述のSUJ2からなる中実の軸部W5を圧入する。これにより中空体W4がシュー23の基部211及び半球部212となり、軸部W5がシュー23の支柱部214となる。こうして実施例3のシュー23が得られる。
【0059】
この製造方法では、支柱部214を剛性の高い材質のものとすることにより、より実用的な強度のシュー23とすることができる。また、本実施例において、軸部W5をアルミニウム合金で製造してもよい。この場合でも、中空体W4をそのままでシューとして用いるより、強度の高いシューとすることができる。
【実施例4】
【0060】
図8に示す実施例4のシュー24は、半球部212及び支柱部214の材質が基部211の材質と異なる。他の構成は実施例1のシュー21と同様である。このシュー24も実施例1と同様の圧縮機に用いられる。
【0061】
このシュー24は、以下の製造方法によって製造したものである。
【0062】
まず、図9に示すように、第1部材製造工程として、SUJ2からなる第1部材W6を用意する。第1部材W6は、キャップ状の頭部W7と、頭部W7の頂上から内部に延びる中実の軸部W8とからなる。
【0063】
また、第2部材製造工程として、アルミニウム合金からなる円盤状の第2部材W9を用意する。第2部材W9の中心には軸部W8を圧入可能な凹部217が凹設されている。
【0064】
そして、組付工程として、第1部材W6の軸部W8の先端を第2部材W9の凹部217に圧入する。これにより第1部材W6の頭部W7がシュー24の半球部212となり、第1部材W6の軸部W8がシュー24の支柱部214となり、第2部材W9がシュー24の基部211となる。
【実施例5】
【0065】
図10に示すように、実施例5のシュー25は、半球部212の材質が基部211及び支柱部214の材質と異なる。他の構成は実施例1のシュー21と同様である。このシュー25も実施例1と同様の圧縮機に用いられる。
【0066】
このシュー25は、以下の製造方法によって製造したものである。
【0067】
まず、図11に示すように、第1部材製造工程として、SUJ2からなるキャップ状の第1部材W10を用意する。
【0068】
また、第2部材製造工程として、同じくSUJ2からなる第2部材W11を用意する。第2部材W11は、円盤状の底部W12と、底部W12の中央から垂直に延びる中実の軸部W13とからなる。
【0069】
そして、組付工程として、軸部W13の先端を第1部材W10の中心と摩擦圧接等により結合する。これにより第1部材W10がシュー25の半球部212となり、第2部材W11の底部W12がシュー25の基部211となり、第2部材W11の軸部W13がシュー25の支柱部214となる。
【実施例6】
【0070】
図12に示すように、実施例6のシュー26は、半球部212の材質と基部211の材質と支柱部214の材質とがそれぞれ異なる。他の構成は実施例1のシュー21と同様である。このシュー26も実施例1と同様の圧縮機に用いられる。
【0071】
このシュー26は、以下の製造方法によって製造したものである。
【0072】
まず、図13に示すように、第1部材製造工程として、アルミニウム合金からなるキャップ状の第1部材W14を用意する。
【0073】
また、第2部材製造工程として、第1部材W14とは異なるアルミニウム合金からなる円盤状の第2部材W15を用意する。
【0074】
さらに、軸部製造工程として、SUJ2からなる中実の軸部W16を用意する。
【0075】
そして、組付工程として、軸部W16の一端を第1部材W14の頂上に結合するとともに、軸部W16の他端を第2部材W15の中心と結合する。これにより第1部材W14がシュー26の半球部212となり、第2部材W15がシュー26の基部211となり、軸部W16がシュー26の支柱部214となる。
【0076】
このシュー26は、基部211と半球部212と支柱部214との材質がそれぞれ異なるため、斜板8及びピストン10の材質の選択枝が広がり、より優れた圧縮機を実現することが可能になる。また、支柱部214を剛性の高い材質のものとすることにより、より実用的な強度のシュー26とすることができる。
【0077】
以上において、第1〜6発明を実施例1〜6に即して説明したが、第1〜6発明は上記実施例1〜6に制限されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更して適用できることはいうまでもない。
【0078】
また、実施例1〜6のシューを用いる圧縮機は、上記のような容量可変型斜板式圧縮機に限られず、容量固定型斜板式圧縮機であってもよい。冷媒ガスは、R134aである必要はなく、二酸化炭素であってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明は車両用空調装置に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】実施例1〜6のシューを用いる圧縮機の断面図である。
【図2】実施例1の圧縮機の要部断面図である。
【図3】実施例1のシューの断面図である。
【図4】実施例1のシューの製造方法に係り、図(A)は熱間鍛造前のプレス型等を示す断面図、図(B)は熱間鍛造後のプレス型等を示す断面図である。
【図5】実施例2のシューの断面図である。
【図6】実施例3のシューの断面図である。
【図7】実施例3のシューの分解断面図である。
【図8】実施例4のシューの断面図である。
【図9】実施例4のシューの分解断面図である。
【図10】実施例5のシューの断面図である。
【図11】実施例5のシューの分解断面図である。
【図12】実施例6のシューの断面図である。
【図13】実施例6のシューの分解断面図である。
【符号の説明】
【0081】
8…斜板
211a…斜板摺接面
211…基部
10…ピストン
10a…受け座
212a…受け座摺接面
212…半球部
21〜26…圧縮機用シュー
213…空洞
214…支柱部
215…開口
W…素材
P…プレス型
216…挿入口
W4…中空体
W5、W8、W13、W16…軸部
W7…頭部
W6、W10、W14…第1部材
W9、W11、W15…第2部材
W12…底部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
斜板と摺接する斜板摺接面をもつ基部と、該基部と一体をなし、ピストンに球面で凹設された受け座と摺接する受け座摺接面をもつ半球部とを有する圧縮機用シューにおいて、
前記基部と前記半球部との間には空洞が形成され、該基部と該半球部とは互いの中心方向に延びる中実の支柱部により連結されていることを特徴とする圧縮機用シュー。
【請求項2】
前記基部と前記半球部との間には、前記空洞を外部に連通させる開口が形成されている請求項1記載の圧縮機用シュー。
【請求項3】
前記基部と前記半球部とは材質が異なる請求項1又は2記載の圧縮機用シュー。
【請求項4】
斜板と摺接する斜板摺接面をもつ基部と、該基部と一体をなし、ピストンに球面で凹設された受け座と摺接する受け座摺接面をもつ半球部とを有する圧縮機用シューの製造方法において、
中実の素材を得る素材形成工程と、
プレス型を用いて該素材をプレス成形することにより、前記基部と前記半球部との間に空洞が形成され、該基部と該半球部とが互いの中心方向に延びる中実の支柱部により連結されているシューを得るプレス工程とを備えていることを特徴とする圧縮機用シューの製造方法。
【請求項5】
前記素材形成工程は、円盤状の底部と、円盤状の傘部と、該底部と該傘部とを連結する軸部とを形成する工程から構成され、
前記プレス工程は、上型と下型とからなるプレス型を用い、該下型で該底部を支持しつつ該上型で該傘部をプレスすることにより、該底部で前記基部を構成し、該傘部で前記半球部を構成し、該軸部で前記支柱部を構成する請求項4記載の圧縮機用シューの製造方法。
【請求項6】
斜板と摺接する斜板摺接面をもつ基部と、該基部と一体をなし、ピストンに球面で凹設された受け座と摺接する受け座摺接面をもつ半球部とを有する圧縮機用シューの製造方法において、
外形が半球状であり、内部に空洞を有し、頂上に該空洞を外部に連通させる挿入口が形成された中空体を得る中空体製造工程と、
該挿入口に中実の軸部を挿入し、該中空体で前記基部と前記半球部とを構成し、該軸部で支柱部を構成することによって、該基部と該半球部との間に空洞が形成され、該基部と該半球部とが互いの中心方向に延びる該支柱部により連結されているシューを得る組付工程とを備えていることを特徴とする圧縮機用シューの製造方法。
【請求項7】
斜板と摺接する斜板摺接面をもつ基部と、該基部と一体をなし、ピストンに球面で凹設された受け座と摺接する受け座摺接面をもつ半球部とを有する圧縮機用シューの製造方法において、
キャップ状の頭部と、該頭部の頂上から内部に延びる中実の軸部とからなる第1部材を得る第1部材製造工程と、
円盤状の第2部材を得る第2部材製造工程と、
該軸部の先端を該第2部材の中心と結合し、該第2部材で前記基部を構成し、該頭部で前記半球部を構成し、該軸部で支柱部を構成することによって、該基部と該半球部との間に空洞が形成され、該基部と該半球部とが互いの中心方向に延びる該支柱部により連結されているシューを得る組付工程とを備えていることを特徴とする圧縮機用シューの製造方法。
【請求項8】
斜板と摺接する斜板摺接面をもつ基部と、該基部と一体をなし、ピストンに球面で凹設された受け座と摺接する受け座摺接面をもつ半球部とを有する圧縮機用シューの製造方法において、
キャップ状の第1部材を得る第1部材製造工程と、
円盤状の底部と、該底部の中央から延びる中実の軸部とからなる第2部材を得る第2部材製造工程と、
該軸部の先端を該第1部材の中心と結合し、該底部で前記基部を構成し、該第1部材で前記半球部を構成し、該軸部で支柱部を構成することによって、該基部と該半球部との間に空洞が形成され、該基部と該半球部とが互いの中心方向に延びる該支柱部により連結されているシューを得る組付工程とを備えていることを特徴とする圧縮機用シューの製造方法。
【請求項9】
斜板と摺接する斜板摺接面をもつ基部と、該基部と一体をなし、ピストンに球面で凹設された受け座と摺接する受け座摺接面をもつ半球部とを有する圧縮機用シューの製造方法において、
キャップ状の第1部材を得る第1部材製造工程と、
円盤状の第2部材を得る第2部材製造工程と、
中実の軸部を得る軸部製造工程と、
該軸部の一端を該第1部材の頂上に結合するとともに、該軸部の他端を該第2部材の中心と結合し、該第2部材で前記基部を構成し、該第1部材で前記半球部を構成し、該軸部で支柱部を構成することによって、該基部と該半球部との間に空洞が形成され、該基部と該半球部とが互いの中心方向に延びる該支柱部により連結されているシューを得る組付工程とを備えていることを特徴とする圧縮機用シューの製造方法。
【請求項10】
前記基部と前記半球部と前記支柱部とは材質が異なる請求項9記載の圧縮機用シューの製造方法。
【請求項11】
前記基部と前記半球部とを溶接する溶接工程を備えている請求項4乃至10のいずれか1項記載の圧縮機用シューの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2008−69747(P2008−69747A)
【公開日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−251008(P2006−251008)
【出願日】平成18年9月15日(2006.9.15)
【出願人】(000003218)株式会社豊田自動織機 (4,162)
【Fターム(参考)】