説明

圧縮機

【課題】 圧縮部材の耐久性を改善して、信頼性の向上を図りながら、高効率な圧縮機を提供する。
【解決手段】 密閉容器1内に収納された駆動要素2及びこの駆動要素2の回転軸5により駆動される圧縮要素3とを備え、圧縮要素3は、内部に圧縮空間21が構成されるシリンダ8と、シリンダ8内の圧縮空間21に連通する吸込ポート27及び吐出ポート28と、回転軸5の軸方向に交差する一面が上死点33Aと下死点33Bの間で連続して傾斜すると共に、シリンダ8内に配置されて回転し、吸込ポート27から吸い込まれた流体を圧縮して吐出ポート28より密閉容器1内に吐出する圧縮部材9と、吸込ポート27と吐出ポート28間に配置されて圧縮部材9の一面に当接し、シリンダ8内の圧縮空間21を低圧室LRと高圧室HRとに区画するベーン11とから構成され、圧縮部材9の他面側の空間54の圧力を、密閉容器1内の圧力より低い値とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷媒や空気などの流体を圧縮して吐出する圧縮機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より例えば冷凍機においては圧縮機を用いて冷媒を圧縮し、回路内を循環させる方式が採られている。この場合の圧縮機の方式としては、回転式圧縮機と称されるロータリ圧縮機(例えば、特許文献1参照。)やスクロール圧縮機、スクリュー圧縮機などがある。
【0003】
上記ロータリ圧縮機は構造が比較的簡単で生産コストが安価である利点があるものの、振動とトルク変動が大きくなる問題がある。また、スクロール圧縮機やスクリュー圧縮機はトルク変動は小さいものの、加工性が悪く、コストが高騰する問題があった。
【0004】
そこで、シリンダ内に回転する圧縮部材としての斜板を設け、この斜板の上下に構成される圧縮空間をベーンで区画して流体を圧縮する方式も開発されている(例えば、特許文献2参照。)。係る方式の圧縮機によれば、構造比較的簡単にして振動の少ない圧縮機を構成できる利点がある。
【特許文献1】特開平5−99172号公報
【特許文献2】特表2003−532008号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献2のような構造の場合、シリンダ内全域において圧縮部材(斜板)の上下で高圧室と低圧室とが隣接するかたちとなるため、高低圧差が大きくなり、冷媒リークによる効率悪化が問題となる。
【0006】
更に、圧縮部材の上下に圧縮空間が構成される従来の構成では、圧縮空間の背圧を制御することができなかいため、圧縮部材と当該圧縮部材に当接するベーンや圧縮部材と対向して設けられた部材とに摩擦が生じて、圧縮部材が著しく摩耗するため、耐久性が悪くなり、機械損失が増大すると云った問題が生じていた。
【0007】
本発明は、係る従来の技術的課題を解決するために成されたものであり、圧縮部材の耐久性を改善して、信頼性の向上を図りながら、高効率な圧縮機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の圧縮機は、密閉容器内に収納された駆動要素及びこの駆動要素の回転軸により駆動される圧縮要素とを備え、この圧縮要素は、内部に圧縮空間が構成されるシリンダと、このシリンダ内の圧縮空間に連通する吸込ポート及び吐出ポートと、回転軸の軸方向に交差する一面が上死点と下死点の間で連続して傾斜すると共に、シリンダ内に配置されて回転し、吸込ポートから吸い込まれた流体を圧縮して吐出ポートより密閉容器内に吐出する圧縮部材と、吸込ポートと吐出ポート間に配置されて圧縮部材の一面に当接し、シリンダ内の圧縮空間を低圧室と高圧室とに区画するベーンとから構成され、圧縮部材の他面側の圧力を、密閉容器内の圧力より低い値としたものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明の圧縮機によれば、圧縮空間が構成される圧縮部材の一面と反対側となる圧縮部材の他面側の圧力を、密閉容器内の圧力より低い値としたので、圧縮部材が他面側の圧力により一面側に押される力を軽減することができるようになる。
【0010】
これにより、圧縮部材の耐久性を改善し、機械損失を低減して、信頼性の向上を図ることができるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、図面に基づき本発明の実施形態を詳細に説明する。尚、以後説明する各実施例の圧縮機Cは、例えば冷凍機の冷媒回路を構成し、冷媒を吸い込んで圧縮し、回路内に吐出する役割を果たすものである。
【実施例1】
【0012】
図1は本発明の第1の実施例の圧縮機Cの縦断側面図、図2はもう一つの縦断側面図、図3は圧縮機Cの圧縮要素3の斜視図、図4は圧縮機Cの圧縮要素3のもう一つの斜視図、図5は圧縮機Cの圧縮要素3の平面図、図6は圧縮機Cの圧縮要素3の底面図をそれぞれ示している。各図において、1は密閉容器であり、この密閉容器1内には上側に駆動要素2が、下側にこの駆動要素2の回転軸5により駆動される圧縮要素3がそれぞれ収納されている。
【0013】
駆動要素2は、密閉容器1の内壁に固定され、固定子コイルが巻装された固定子4と、この固定子4の内側で中央に回転軸5を有する回転子6とで構成された電動モータである。尚、この駆動要素2の固定子4の外周部と密閉容器1間には所々上下を連通する隙間10が形成されている。
【0014】
圧縮要素3は、密閉容器1の内壁に固定された支持部材7と、この支持部材7の下側にボルトにより取り付けられたシリンダ8と、このシリンダ8内に配置された後述する圧縮部材9と、ベーン11、吐出バルブ12と、シリンダ8の下側にボルトにより取り付けられた副支持部材22等から構成されている。支持部材7の上面中央部には同心状に上方に突出し、そこに回転軸5の主軸受13が形成されている。また、下面中央部は同心円柱状の突出部材14がボルトにより固定されており、この突出部材14の下面14Aは平滑面とされている。即ち、支持部材7は密閉容器1の内壁に固定された主部材15と、主部材15の上方に突出する主軸受13と、主部材15の下方にボルトにより固定された突出部材14により構成されている。
【0015】
支持部材7の突出部材14内にはスロット16が形成され、このスロット16内に前記ベーン11が上下往復動自在に挿入される。このスロット16の上部にはベーン11に密閉容器1内の高圧を背圧として印加するための背圧室17が形成されると共に、スロット16内にはベーン11の上面を下方に押圧する付勢手段としてのコイルバネ18が配置されている。
【0016】
そして、シリンダ8の上開口部は上記支持部材7により閉塞され、これにより、当該シリンダ8内部(前記圧縮部材9と支持部材7の突出部材14の間のシリンダ8内部)には圧縮空間21が構成される。また、シリンダ8には吸込通路24が形成されると共に、密閉容器1には吸込配管26が取り付けられてこの吸込通路24に接続されている。シリンダ8には圧縮空間21に連通する吸込ポート27と吐出ポート28が形成されており、吸込通路24は吸込ポート27に連通し、吐出ポート28はシリンダ8の側面にて密閉容器1内に連通している。また、前記ベーン11はこの吸込ポート27と吐出ポート28の間に位置している。
【0017】
前記回転軸5は、支持部材7に形成された主軸受13と副支持部材22に形成された副軸受23に支持されて回転する。即ち、回転軸5は係る支持部材7、シリンダ8、及び副支持部材22の中央に挿通され、上下方向の中央部を主軸受13により回転自在に軸支されると共に、下方は副支持部材22の副軸受23にて回転自在に軸支されている。そして、圧縮部材9は係る回転軸5の下部に一体に形成され、シリンダ8内に配置されている。
【0018】
前述した圧縮部材9は上述の如くシリンダ8内に配置されて、回転軸5により回転駆動され、吸込ポート27から吸い込まれた流体(本実施例では冷媒)を圧縮して吐出ポート28より密閉容器1内に吐出するためのものであり、全体としては回転軸5と同心の略円柱状を呈している。図7は圧縮機Cの圧縮部材9を含む回転軸5の側面図、図8乃至図13は圧縮部材9の斜視図をそれぞれ示している。図7乃至図13に示されるように、圧縮部材9は一側の肉厚部31と他側の肉薄部32とが連続した形状を呈して、回転軸5の軸方向に交差する上面33(一面)が肉厚部31にて高く、肉薄部32にて低い傾斜面とされている。即ち、上面33は、最も高くなる上死点33Aから最も低くなる下死点33Bを経て上死点33Aに戻る上死点33Aから下死点33Bの間で連続して傾斜する形状を呈している。
【0019】
この圧縮部材9の上面33は、上死点33Aと下死点33Bの間の中間点33Cを中心とした所定範囲に構成された第1の曲面34、34と、上死点33Aと下死点33Bを経て各第1の曲面34、34間を結ぶ第2の曲面35、35とから構成されている。
【0020】
ここで、圧縮部材9の上面33の形状について説明する。図14は回転軸5の中心からの距離が同一となる点を結んだ線80の上死点33Aから下死点33Bまでの線を展開した図である。図14に示すように、回転軸5の中心からの距離が同一となる点を結んだ線80は、第1の曲面34では直線82となり、第2の曲面35では上死点33A及び下死点33Bに漸近する曲線84となる。この回転軸5の中心からの距離が同一となる点を結んだ線80は、回転軸5の中心からの距離が近くなるほど急峻で、遠くなるほど緩慢な傾斜となり、圧縮部材9の上面33はこれらの線80の集まりにより構成されている。
【0021】
前記曲線84は、上死点33A及び下死点33Bの付近では正弦波形状(曲線84A)を呈し、直線82との接続点付近では直線82と正弦波形状の曲線とを滑らかに結ぶ曲線84Bとされている。即ち、本実施例の圧縮部材9の上面は、下死点33Bを0°とする回転角度において、325°〜35°とこれと対称となる145°〜215°に正弦波形状の曲線84Aからなる曲面、60°〜120°とこれと対称となる240°〜300°に直線82からなる第1の曲面34、そして、これらを接続する35°〜60°、120°〜145°、215°〜240°、及び、300°〜325°の範囲が正弦波形状の曲線84Aと直線82とを滑らかに接続する曲線84Bからなる曲面にて構成されている。尚、本実施例の圧縮部材9の上面33は、325°〜35°と145°〜215°に正弦波形状の曲線84Aにて構成される曲面、60°〜120°と240°〜300°を直線82にて構成される第1の曲面34からなるものとしたが、本発明は当該回転角度の範囲に限らず、上死点33Aと下死点33Bの間の中間点33Cを中心とした所定範囲に第1の曲面、上死点33Aと下死点33Bを経て各第1の曲面34、34間を結ぶ第2の曲面とから圧縮部材9の上面33を構成するものであれば構わない。
【0022】
また、第1の曲面34の傾きは、線80を上死点33Aと下死点33Bとの間の全範囲で直線とした場合の傾きより急峻であり、上死点33Aと下死点33Bとの間の全範囲で正弦波形状の曲線とした場合における中間点の傾きよりも緩慢とされている。
【0023】
このように、回転軸5の中心からの距離が同一となる点を結んだ線80が直線となるように第1の曲面34を構成することで、圧縮部材9の上面33の加工を容易に行うことができ、コストの低減を図ることができるようになる。また、第1の曲面34の傾きを線80を上死点33Aと下死点33Bとの間の全範囲で直線とした場合の傾きより急峻とすることで、ベーン11の上死点33A及び下死点33B付近における移動を滑らかにすることができる。更に、上死点33Aと下死点33Bとの間の全範囲で正弦波形状の曲線とした場合における中間点の傾きよりも緩慢とすることで、ベーン11による摺動ロスを低減することができる。これにより、圧縮機Cの性能を改善し、高効率な圧縮を実現することができるようになる。
【0024】
更に、この圧縮部材9の上死点33Aが支持部材7の突出部材14の下面14Aに微小なクリアランスを介して移動自在に対向する。また、ベーン11は、前述したように吸込ポート27と吐出ポート28の間に配置されると共に、圧縮部材9の上面33に当接し、シリンダ8内の圧縮空間21を低圧室LRと高圧室HRとに区画する。前記コイルバネ18はこのベーン11を常時上面33側に付勢する。
【0025】
一方、図15乃至図17に示すように、圧縮部材9の下面(他面)側の副軸受23に対して、圧縮部材9の反対側となる軸受、即ち、圧縮部材9の上面33側の軸受である主軸受13端部には、回転軸5に当接する軸封シール50が設けられている。この軸封シール50は鉄板をNBR材等のゴム部材にて被覆することにより形成された支持部と、回転軸5に当接して、当該回転軸5と支持部材7との間に形成された隙間をシールするように設けられた当接部52にて構成されており、当該当接部52には内側(回転軸5)に付勢するためのバネ部材が取り付けられており、回転軸5に摺動自在に当接している。また、軸封シール50の上面はカバー53にて閉塞されており、軸封シール50の脱落を防止している(図1及び図2では軸封シール50及びカバー53は図示せず)。尚、カバー53は支持部材7の上面にボルトにより固定されている。この軸封シール50により、主軸受13側のシールを行うことで、主軸受13の内面で十分にシールを行い、ガスリークを防ぐことができるようになる。このように、圧縮空間21内の冷媒ガスが回転軸5と支持部材7の間の主軸受13のクリアランスからリークする不都合を未然に回避することができるので、体積効率を改善することができるようになる。これにより、圧縮機1の性能の向上を図ることができるようになる。
【0026】
前記シリンダ8の下開口部は副支持部材22により閉塞され、前記圧縮部材9の下面(他面)と副支持部材22の間(圧縮空間21の背面側)には、空間54が形成されている。この空間54は、圧力調整手段55を介して密閉容器1内と連通されている。この圧力調整手段55は副支持部材22内に軸心方向に形成され、圧縮部材9の下面と連通する孔56と、孔56と一端が連通すると共に、該孔56から副支持部材22の外側(密閉容器1側)に水平方向に延在し、他端が密閉容器1内と連通する連通孔57と、該連通孔57の他端(密閉容器1内と連通する端部)に挿入され、中心部に微小な通路(ノズル)が形成されたノズル部材58にて構成されている(図17)。
【0027】
この圧力調整手段55により、空間54には密閉容器1内の冷媒が流れ込む。即ち、密閉容器1内の高圧冷媒が、圧力調整手段55のノズル部材58から流入して、連通孔57、孔56を経て空間54に流入する。このとき、空間54にはノズル部材58に形成された微小な通路を通過する過程で、当該微小通路の通路抵抗により圧力が低下した冷媒が流入することとなる。これにより、圧縮部材9の下面側(他面側)の空間54内の圧力は密閉容器1内の圧力より低い値となる。
【0028】
ここで、空間54を高圧とした場合、圧縮部材9は空間54の圧力により、支持部材7側に強く押されて、受け面となる突出部材14の下面14Aと圧縮部材9の上面33の上死点33Aとに摩擦が生じ、これらが著しく摩耗するため、耐久性が非常に悪くなる。しかしながら、本発明の如く圧力調整手段55により、空間54の圧力を密閉容器1内の高圧より低い値とすることで、圧縮部材9の上面33の上死点33Aが受け面となる突出部材14の下面14A側に押される力を軽減、若しくは、突出部材14の下面14Aと圧縮部材9の上面33の上死点33Aとを接触させずに僅かにクリアランスを有した状態とすることができるようになる。これにより、圧縮部材9の上面33の耐久性を改善し、信頼性の向上と、機械損失の低減を図ることができるようになる。
【0029】
尚、圧縮部材9の上死点33Aと支持部材7の突出部材14の下面14Aとの間のクリアランスは、密閉容器1内に封入されたオイルによってシールすることで、ガスのリークを回避することができ、高効率な運転を維持することができる。
【0030】
他方、前記圧縮部材9の上面33(一面)の硬度は、上死点33Aの受け面としての支持部材7の突出部材14の下面14Aよりも高く成るように設定されている。ここで、圧縮部材9の上面33及びベーン11に使用する部材の材質及び加工方法の一例を図18に示す。図18に示すようにベーン11として高速度工具鋼系材料(SKH)を窒化処理したものを使用する場合には、回転軸5及び圧縮部材9の上面33はクロムモリブデン鋼(SCM)や炭素鋼(例えば、S45C等)の表面を浸炭焼入れしたもの、又は、クロムモリブデン鋼や炭素鋼を高周波焼入れしたのもの、若しくは、ねずみ鋳鉄(FC)や球状黒鉛鋳鉄(FCD)を使用する。この場合、圧縮部材9の上面33(一面)の硬度はベーン11よりも低くなる。
【0031】
また、ベーン11として高速度工具鋼系材料をPVD処理したものを使用する場合には、回転軸5及び圧縮部材9の上面33は上記クロムモリブデン鋼や炭素鋼の表面を浸炭焼入れしたもの、クロムモリブデン鋼や炭素鋼を高周波焼入れしたのもの、又は、ねずみ鋳鉄や球状黒鉛鋳鉄に加えて、ねずみ鋳鉄や球状黒鉛鋳鉄を窒化又は焼入れ処理したものを使用するものとする。この場合においても、上記同様に圧縮部材9の上面33(一面)の硬度はベーン11よりも低くなる。
【0032】
このように、圧縮部材9の上面33の硬度をベーン11より低いものとすることで、ベーン11が摩耗し難くなる。これにより、ベーン11の耐久性を向上させることができるようになる。
【0033】
また、圧縮部材9の上面33の硬度を、当該圧縮部材9の上死点33Aの受け面としての突出部材14の下面14Aより高くすることで、上死点33Aが突出部材14の下面14Aに当接した場合においても、圧縮部材9の上面33が摩耗し難くなり、圧縮部材9の耐久性を高めることができるようになる。
【0034】
ここで、圧縮要素3を潤滑油などのオイルにて潤滑せずに、無潤滑とする場合には、ベーン11と圧縮部材9の上面33(一面)とに硬度差が生じるように構成する。即ち、図18に示す如くベーン11をカーボン系材料にて構成する場合、回転軸5及び圧縮部材9の上面33としてクロムモリブデン鋼や炭素鋼の表面を浸炭焼入れしたもの、クロムモリブデン鋼や炭素鋼を高周波焼入れしたのもの、又は、ねずみ鋳鉄や球状黒鉛鋳鉄を窒化又は焼入れ処理したものを使用することで、これらの摺動部をオイルなどにより潤滑することなく、摺動させることができる。また、この場合も圧縮部材9の上面33(一面)の硬度はベーン11よりも低くなる。
【0035】
同様に、ベーン11をセラミック系材料にて構成する場合、回転軸5及び圧縮部材9の上面33としてベーン11と同じセラミック系材料や、上述のクロムモリブデン鋼や炭素鋼の表面を浸炭焼入れしたもの、クロムモリブデン鋼や炭素鋼を高周波焼入れしたのもの、若しくは、ねずみ鋳鉄や球状黒鉛鋳鉄を窒化又は焼き入れ処理したものを使用すれば、この場合も摺動部をオイルなどにより潤滑することなく、摺動させることができる。そして、この場合も圧縮部材9の上面33(一面)の硬度はベーン11よりも低くなる。
【0036】
更に、ベーン11をフッ素樹脂系材料、又は、高分子材料のポリエーテルエーテルケトン(PEEK)系材料にて構成する場合、回転軸5及び圧縮部材9の上面33としてAl(アルミニウム)を表面処理(アルマイト処理)したものや、上述のクロムモリブデン鋼や炭素鋼の表面を浸炭焼入れしたもの、クロムモリブデン鋼や炭素鋼を高周波焼入れしたのもの、若しくは、ねずみ鋳鉄や球状黒鉛鋳鉄を窒化又は焼入れ処理したものを使用すれば、この場合も上記と同様に摺動部をオイルなどにより潤滑することなく、摺動させることができる。この場合、圧縮部材9の上面33の硬度はベーン11よりも高くなる。
【0037】
以上のように、ベーン11をカーボン系材料、セラミック系材料、フッ素樹脂系材料、又はポリエーテルエーテルケトンにて構成した場合、圧縮部材9の上面33をそれぞれ図18に示す材料及び加工を施すことで、ベーン11をカーボン系材料、セラミック系材料にて構成した場合には、圧縮部材9の上面33の硬度はベーン11の硬度より低くなり、フッ素樹脂系材料、又はポリエーテルエーテルケトンにて構成した場合には、圧縮部材9の上面33の硬度はベーン11の硬度より高くなる。
【0038】
このように、ベーン11をカーボン系材料、セラミック系材料、フッ素樹脂系材料、又はポリエーテルエーテルケトンにて構成し、且つ、圧縮部材9の上面33とベーン11との間で硬度差が生じるように構成することで、圧縮部材9及びベーン11の耐摩耗性が向上して、耐久性を高めることができるようになる。
【0039】
更に、圧縮部材9の上面33の硬度を、当該圧縮部材9の上死点33Aの受け面としての突出部材14の下面14Aより高くすることで、上死点33Aが突出部材14の下面14Aに当接した場合においても、圧縮部材9の上面33が摩耗し難くなり、圧縮部材9の耐久性を高めることができるようになる。
【0040】
特に、ベーン11を上述したカーボン系材料、セラミック系材料、フッ素樹脂系材料、又はポリエーテルエーテルケトンにて構成することで、ベーン11や圧縮部材9等の摺動部への給油が不足した場合にも良好な摺動性を保持することができるようになる。即ち、圧縮要素3の摺動部をオイルにより潤滑せずに、無潤滑とすることも可能となる。これにより、無潤滑仕様の圧縮機にも適用できるようになり、汎用性を高めることが出来るようになる。
【0041】
また、圧縮部材9の周面はシリンダ8の内壁との間に微少なクリアランスを構成し、これにより、圧縮部材9は回転自在とされている。そして、この圧縮部材9の周面とシリンダ8の内壁との間もオイルによってシールされる。
【0042】
前記吐出ポート28の外側にはシリンダ8の圧縮空間21の側面に位置して前記吐出バルブ12が取り付けられると共に、密閉容器1の上端には吐出配管37が取り付けられている。そして、密閉容器1内下部にオイル溜め36が構成されている。そして、回転軸5の下端にはオイルポンプ40が設けらており、一端がオイル溜め36内に浸漬されている。そして、当該オイルポンプ40により吸い上げられたオイルは、回転軸5内中心に形成されたオイル通路42及びオイル通路42から回転軸5の軸方向となる圧縮要素3の側面に渡って形成されたオイル孔44、45を介して圧縮要素3の摺動部等に供給される。また、密閉容器1内には例えばCO2(二酸化炭素)、R−134a、或いは、HC系の冷媒が所定量封入される。
【0043】
以上の構成で、駆動要素2の固定子4の固定子コイルに通電されると、回転子6が下から見て時計回り方向に回転する。この回転子6の回転は回転軸5を介して圧縮部材9に伝達され、これにより、圧縮部材9はシリンダ8内において下から見て時計回り方向に回転する。今、圧縮部材9の上面33の上死点33Aが吐出ポート28のベーン11側にあり、ベーン11の吸込ポート27側でシリンダ8、支持部材7、圧縮部材9及びベーン11で囲まれた空間(低圧室LR)内に吸込配管26及び吸込通路24を介して吸込ポート27から冷媒回路内の冷媒が吸い込まれているものとする。
【0044】
そして、その状態から圧縮部材9が回転していくと、上死点33Aがベーン11、吸込ポート27を過ぎた段階から上面33の傾斜により上記空間の体積は狭められていき、空間(高圧室HR)内の冷媒は圧縮されていく。そして、上死点33Aが吐出ポート28を通過するまで圧縮された冷媒は吐出ポート28から吐出され続ける。一方、上死点33Aが吸込ポート27を通過した後、ベーン11の吸込ポート27側でシリンダ8、支持部材7、圧縮部材9及びベーン11で囲まれた空間(低圧室LR)の体積は拡大していくので、吸込配管26及び吸込通路24を介して吸込ポート27から冷媒回路内の冷媒が圧縮空間21内に吸い込まれていく。
【0045】
吐出ポート28からは吐出バルブ12を介して、冷媒が密閉容器1内に吐出される。そして、密閉容器1内に吐出された高圧冷媒は、駆動要素2の固定子4と回転子6とのエアギャップを通過し、密閉容器1内の上部(駆動要素2の上方)にてオイルと分離し、吐出配管37より冷媒回路に吐出される。一方、分離したオイルは、密閉容器1と固定子4の間に形成された隙間10から流下し、オイル溜め36に戻ることとなる。
【0046】
このような構成により、圧縮機Cは小型で構造簡単でありながら、十分な圧縮機能を発揮することができるようになる。特に、従来の如くシリンダ8内全域で高圧と低圧とが隣接することも無くなると共に、圧縮部材9は連続する肉厚部31と肉薄部32を有して上面33(一面)が傾斜する形状を呈しているので、高圧室HRに対応することになる肉厚部32においてシリンダ8の内壁との間のシール寸法を十分に確保することができる。
【0047】
これらにより、圧縮部材9とシリンダ8間における冷媒リークの発生を効果的に防止できるようになり、効率的な運転が可能となる。また、圧縮部材9の肉厚部31はフライホールの役割を果たすので、トルク変動も少なくなる。また、圧縮機Cは所謂内部高圧型の圧縮機であるので構造の更なる簡素化が図れる。
【0048】
また、支持部材7(支持部材7の突出部材14)にベーン11のスロット16を構成し、更にコイルバネ18を当該支持部材7内に設けているので、精度が必要となるシリンダ8にベーン取付構造を形成する必要が無くなり、加工性が改善される。更に、実施例の如く圧縮部材9を回転軸5に一体に形成すれば、部品点数の削減を計ることができるようになる。
【0049】
尚、本実施例では、空間54と密閉容器1内とを副支持部材22内に圧縮部材9の下面と連通する軸心方向に形成された孔56と、孔56と一端が連通すると共に、この孔56から副支持部材22の外側に水平方向に延在し、他端が密閉容器1内と連通する連通孔57と、この連通孔57の他端に挿入され、中心部に微小な通路(ノズル)が形成されたノズル部材58にて構成される圧力調整手段55を介して連通させ、密閉容器1内の高圧冷媒をノズル部材58に形成された微小な通路を通過させることで、圧力を低下させて、圧縮部材9の下面側となる空間54内の圧力を密閉容器1内の圧力より低い値となるようにしたが、これに限らず、圧力調整手段は、例えば、副支持部材22を軸心方向に貫通する孔にて空間54と密閉容器1内とを連通させ、密閉容器1側の開口を中心部に微小な通路(ノズル)が形成されたノズル部材を挿入するものとしても構わない。
【実施例2】
【0050】
尚、実施例1では圧縮部材9とは反対側の軸受である主軸受13端部に軸封シール50を設けて、圧縮空間21内の冷媒ガスが回転軸5と支持部材7の間の主軸受13のクリアランスからリークする不都合を未然に回避するものとしたが、これに限らず、軸受に対応する位置の回転軸5にピストンリングシールを設けるものとしても構わない。
【0051】
ここで、図19及び図20は、この場合の圧縮機Cの一例であり、図19は回転軸5及び圧縮要素3の縦断側面図、図20はシリンダ8が取り付けられた状態の回転軸5の斜視図をそれぞれ示している。図19及び図20に示すように、圧縮部材9の下面(他面)側の副軸受23に対して、圧縮部材9の反対側となる軸受、即ち、圧縮部材9の上面33側の軸受である主軸受13端部に対応する位置の回転軸5の外周面に溝61を形成し、この溝61内に当該ピストンリングシール60を取り付けるものとする。このピストンリングシール60は、3mm〜10mm程度の幅を有するリング形状であり、ゴム部材などの伸縮性及び耐久性に優れた素材により構成されている。尚、ピストンリング60の幅は溝61の深さ(幅)と同じか、若しくは、それ以下(実施例のピストンリングシール60は3mm〜10mm程度の幅)に設定されている。即ち、ピストンリング60の外径は回転軸5の外径以下に設定されているため、ピストンリング60を溝61内に取り付けた状態では、回転軸5の外周面からピストンリング60の外周縁が突出することなく収納される。
【0052】
そして、圧縮機Cが起動して、密閉容器1内が高圧となると、ピストンリングシール60は上方から加わる密閉容器1内の高圧により、下方に押され、且つ、膨張する(外側に押し出される)ため、支持部材7と回転軸5の間の隙間がピストンリングシール60により十分にシールされる。
【0053】
このように、ピストンリングシール60により、主軸受13の内面で、十分にシールを行い、圧縮空間21内の冷媒ガスが回転軸5と支持部材7の間の主軸受13のクリアランスからリークする不都合を未然に回避することができるので、主軸受13の端部における摺動ロスを低減し、且つ、シール性の向上による体積効率の改善を同時に実現することができるようになる。これにより、圧縮機Cの性能の向上を図ることができるようになる。
【0054】
尚、本実施例では上記ピストンリングシール60を主軸受13に対応する位置に一つ設けるものとしたが、ピストンリングシール60の設置位置は上記に限らず、副軸受23に対応する回転軸5にも取り付けるものとしても構わない。また、当該ピストンリングシール60を複数本用いても良い。これらにより、回転軸5と主軸受13若しくは回転軸5と副軸受23間のシール性をより一層向上させて、高性能の圧縮機を提供することができるようになる。
【実施例3】
【0055】
次に、本発明の第3の実施例について図21乃至図23を用いて説明する。図21はこの場合の圧縮機Cの縦側断面図、図22は圧縮機Cのもう一つの縦即断面図、図23は圧縮機Cの更にもう一つの縦断側面図をそれぞれ示している。尚、図21乃至図23にて上記図1乃至図20に示されているものと同一の符号が付されているものは、同様若しくは類似の効果を奏するものである。
【0056】
本実施例において、密閉容器1内には上側に圧縮要素3が、下側に駆動要素2がそれぞれ収納されている。即ち、本実施例では圧縮要素3を、駆動要素2の上側に配置している。
【0057】
駆動要素2は、上記実施例同様に密閉容器1の内壁に固定され、固定子コイルが巻装された固定子4と、この固定子4の内側で中央に回転軸5を有する回転子6とで構成された電動モータである。
【0058】
圧縮要素3は、密閉容器1の内壁に固定され、回転軸5の上端側に位置する支持部材77と、この支持部材77の下側にボルトにより取り付けられたシリンダ78と、このシリンダ78内に配置された圧縮部材89と、ベーン11、吐出バルブ12、シリンダ78の下側にボルトにより取り付けられた主支持部材79等から構成されている。主支持部材79の下面中央部は同心状に下方に突出し、そこに回転軸5の主軸受13が形成されている。また、主支持部材79の上面はシリンダ78の下開口部を閉塞している。
【0059】
上記支持部材77は、外周面が密閉容器1の内壁に固定された主部材85と、該主部材85の中央に貫通形成された副軸受83と、主部材85の下面中央部にボルトにより固定された突出部材84とにより構成され、この突出部材84の下面84Aは平滑面とされている。
【0060】
支持部材77の突出部材84内にはスロット16が形成され、このスロット16内には前記ベーン11が上下往復動自在に挿入される。このスロット16の上部には背圧室17が形成されると共に、スロット16内にはベーン11の上面を下方に押圧する付勢手段としてのコイルバネ18が配置されている。
【0061】
そして、シリンダ78の上開口部は支持部材77により閉塞され、これにより、シリンダ78内部(シリンダ78内の圧縮部材89と支持部材77の突出部材84との間)には圧縮空間21が構成される。また、支持部材77の主部材85及び突出部材84には吸込通路24が形成されると共に、密閉容器1には吸込配管26が取り付けられてこの吸込通路24の一端に接続されている。シリンダ78には圧縮空間21に連通する吸込ポートと吐出ポートが形成されており、吸込通路24の他端は吸込ポートに連通している。また、ベーン11はこの吸込ポートと吐出ポートの間に位置している。
【0062】
前記回転軸5は、主支持部材79に形成された主軸受13と支持部材77に形成された副軸受83と下端に形成された副軸受86に支持されて回転する。即ち、回転軸5は係る主支持部材79、シリンダ78、支持部材77の中央に挿通され、上下方向の中央部を主軸受13により回転自在に軸支される。また、回転軸5の上方は副軸受83にて回転自在に軸支されると共に、上端は支持部材77にて覆われている。更に、回転軸5の下方は副軸受86により軸支されている。この副軸受86は、駆動要素2の下側に設けられて、中心部に回転軸5を挿通するための孔を有する略ドーナッツ形状を呈しており、外周縁は軸心方向に起立して、密閉容器1の内壁に固定されている。この副軸受86には所々上下を連通する孔87が形成されている。また、副軸受86に形成された凸部88は、駆動要素2等から回転軸5に伝達された振動が副軸受86を介して密閉容器1に伝わるのを防ぐ、吸振作用を奏するものである。
【0063】
このように、回転軸5の軸受を圧縮要素3の上側(副軸受83)及び下側(主軸受13)と、駆動要素2の下側(副軸受86)に設けることで、回転軸5を安定的に支持して、圧縮機Cに生じる振動を効果的に低減することができる。これにより、圧縮機Cの振動特性の向上を図ることができるようになる。
【0064】
また、本実施例のように圧縮空間21を駆動要素2とは反対側の圧縮部材89の上面93に配置することで、主軸受13からのガスリークが生じ難くなり、主軸受13のシール性を高めることができる。更に、回転軸5の上端を支持部材77にて閉塞することで、副軸受83のシール性も向上し、且つ、回転軸5の周面が高圧となる不都合も回避することができるようになる。
【0065】
従来、圧縮要素3を密閉容器1の上側に配置した場合、密閉容器1内下部のオイル溜め36のオイルを圧縮要素3の圧縮部材89等の摺動部に供給するのが困難であった。
【0066】
即ち、回転軸5の周面に高圧ガスが入り込んで高圧となるため、回転軸5の上方に設けられたオイル孔44、45からの給油を円滑に行うことができなかった。
【0067】
しかしながら、回転軸5の上端を支持部材77にて閉塞することで、副軸受83のシール性が向上し、回転軸5の周面が高圧となる不都合を改善図ることが出来るので、オイルポンプ40によりオイルを密閉容器1の上側に設けられた圧縮部材89等の摺動部に供給することが可能となり、オイル供給量の最適化を図ることができるようになる。
【0068】
そして、圧縮部材89は係る回転軸5の上部に一体に形成され、シリンダ78内に配置されている。この圧縮部材89は、回転軸5により回転駆動され、吸込ポートから吸い込まれた流体(冷媒)を圧縮して吐出ポートより密閉容器1内に吐出するためのものであり、全体としては回転軸5と同心の略円柱状を呈している。
【0069】
また、圧縮部材89の回転軸5の軸方向に交差する上面93(一面)が最も高くなる上死点から最も低くなる下死点を経て上死点に戻る上死点から下死点の間で連続して傾斜する形状を呈している。
【0070】
この圧縮部材89の連続して傾斜する形状を呈する一面は、圧縮部材89の密閉容器1内の下側に収納された駆動要素2とは反対側の面となる上面93に配置されている。
【0071】
尚、圧縮部材89の上面93の形状は、実施例1の圧縮部材9の上面33と同じであるため、説明は省略する。同様に前記圧縮部材89の上面93(一面)の硬度は、上死点33Aの受け面としての支持部材77の突出部材84の下面84Aよりも高くなるように設定されている。また、圧縮部材89の上面93及びベーン11の材質及び加工方法は、実施例1で詳述したものを用いるものとする(図18参照)。これにより、上記実施例と同様に圧縮部材89及びベーン11の耐久性を高めることができるようになる。
【0072】
特に、ベーン11をカーボン系材料、セラミック系材料、フッ素樹脂系材料、又はポリエーテルエーテルケトンにて構成した場合、圧縮部材89の上面93をそれぞれ図18に示す材料及び加工を施すことで、圧縮部材89の上面93とベーン11との間で硬度差が生じると共に、摺動部への給油が不足した場合や圧縮要素3を無潤滑とした場合であっても良好な摺動性を保持することができるようになる。
【0073】
一方、ベーン11は吸込ポートと吐出ポートの間に配置されると共に、圧縮部材89の上面93に当接し、シリンダ78内の圧縮空間21を低圧室と高圧室とに区画する。また、コイルバネ18はこのベーン11を常時上面93側に付勢する。
【0074】
シリンダ78の下開口部は主支持部材79により閉塞され、圧縮部材89の下面(他面)と主支持部材79の間(圧縮空間21の背面側)には、空間54が形成されている。この空間54は、圧縮部材89と主支持部材79により密閉された空間とされている。そして、当該空間54には圧縮部材89とシリンダ78との間のクリアランスから僅かに圧縮空間21内の冷媒が流れ込むため、空間54の圧力は、吸込ポートに吸い込まれる低圧冷媒より高く、密閉容器1内の高圧冷媒の圧力より低い値(中間圧)となる。
【0075】
このように、空間54の圧力を中間圧とすることで、圧縮部材89が空間54の圧力により上側に強く押されて、圧縮部材89の上面93が受け面となる突出部材84の下面84とが著しく摩耗する不都合を回避することができる。これにより、圧縮部材89の上面93の耐久性を改善することができる。
【0076】
更に、圧縮部材89の他面側となる空間54の圧力を中間圧とすることで、密閉容器1内の圧力より空間54の圧力が低くなるので、当該圧力差を利用して、空間54の周辺部である圧縮部材89や主軸受13付近へのオイル供給も円滑に行うことができるようになる。
【0077】
他方、前述した背圧室17は従来のように高圧とせずに、密閉空間として当該背圧室17の圧力を吸込ポートに吸い込まれる冷媒(冷媒)の圧力より高く、且つ、密閉容器1内の圧力より低い値としている。従来では、背圧室17の一部と密閉容器1内とを連通させて、背圧室17内を高圧として、コイルバネ18に加えてベーン11を下方に付勢するものとしていた。しかしながら、本実施例では圧縮要素3が密閉容器1の上方に位置するため、背圧室17を高圧とすることで、ベーン11付近への給油が不足する恐れがあった。
【0078】
ここで、背圧室17を密閉容器1内と連通させずに、密閉した空間とすることで、当該背圧室17にはベーン11の隙間から圧縮空間21の低圧室側と高圧室側の冷媒が僅かに流入するのみとなる。このため、背圧室17は吸込ポートに吸い込まれる冷媒の圧力より高く、且つ、密閉容器1内の圧力より低い中間圧となる。これにより、密閉容器1内より背圧室17内の圧力の方が低くなるので、係る圧力差を利用して、回転軸5内のオイル通路42を上昇し、オイル孔44、45からのオイルをベーン11の周辺部にも供給することができるようになる。
【0079】
これらにより、圧縮要素3を密閉容器1内の上側に設けた場合においても、圧縮部材89やベーン11等の摺動部への給油を円滑に行うことができ、圧縮機Cの信頼性を改善することができるようになる。
【0080】
また、圧縮部材89の周面はシリンダ78の内壁との間に微小なクリアランスを構成し、これにより、圧縮部材89は回転自在とされている。そして、この圧縮部材89の周面とシリンダ78の内壁との間もオイルによってシールされる。
【0081】
前記吐出ポートの外側にはシリンダ78の圧縮空間21の側面に位置して前記吐出バルブ12が取り付けられると共に、シリンダ78及び支持部材77には、該吐出バルブ12と密閉容器1内の上側とを連通する吐出管95が形成されている。そして、シリンダ78内で圧縮された冷媒は吐出ポートから吐出バルブ12、吐出管95を介して密閉容器1内上部に吐出されることとなる。
【0082】
また、シリンダ78及び支持部材77の前記吐出バルブ12の略対称となる位置には、当該シリンダ78及び支持部材77を軸心方向(上下方向)に貫通する連通孔120が形成されている。密閉容器1の側面の上記連通孔120の下部に対応する位置には吐出配管38が取り付けられている。上述の如く吐出管95から密閉容器1上部に吐出された冷媒は、連通孔120を通過し、吐出配管38から圧縮機Cの外部に吐出される。尚、回転軸5の下端にはオイルポンプ40が設けらており、一端が密閉容器1内下部のオイル溜め36内に浸漬されている。そして、当該オイルポンプ40により吸い上げられたオイルは、回転軸5内中心に形成されたオイル通路42及びオイル通路42から回転軸5の軸方向となる圧縮要素3の側面に渡って形成されたオイル孔44、45を介して圧縮要素3の摺動部等に供給される。また、密閉容器1内には例えばCO2(二酸化炭素)、R−134a、或いは、HC系の冷媒が所定量封入される。
【0083】
以上の構成で、駆動要素2の固定子4の固定子コイルに通電されると、回転子6が下から見て時計回り方向に回転する。この回転子6の回転は回転軸5を介して圧縮部材89に伝達され、これにより、圧縮部材89はシリンダ78内において下から見て時計回り方向に回転する。今、圧縮部材89の上面93の上死点(図示せず)が吐出ポートのベーン11側にあり、ベーン11の吸込ポート側でシリンダ78、支持部材77、圧縮部材89及びベーン11で囲まれた空間(低圧室)内に吸込配管26及び吸込通路24を介して吸込ポートから冷媒回路内の冷媒が吸い込まれているものとする。
【0084】
そして、その状態から圧縮部材89が回転していくと、上死点がベーン11、吸込ポートを過ぎた段階から上面93の傾斜により上記空間の体積は狭められていき、空間(高圧室)内の冷媒は圧縮されていく。そして、上死点が吐出ポートを通過するまで圧縮された冷媒は吐出ポートから吐出され続ける。一方、上死点が吸込ポートを通過した後、ベーン11の吸込ポート側でシリンダ78、支持部材79、圧縮部材89及びベーン11で囲まれた空間(低圧室)の体積は拡大していくので、吸込配管26及び吸込通路24を介して吸込ポートから冷媒回路内の冷媒が圧縮空間21内に吸い込まれていく。
【0085】
吐出ポートからは吐出バルブ12及び吐出管95を介して、冷媒が密閉容器1内上部に吐出される。そして、密閉容器1内に吐出された高圧冷媒は、密閉容器1の上部を通過し、支持部材77及びシリンダ78に形成された連通孔120を経て、吐出配管38より冷媒回路に吐出される。一方、分離したオイルは、連通孔120を流下し、更に、密閉容器1と固定子4の間から流下して、オイル溜め36に戻ることとなる。
【0086】
尚、実施例では背圧室17を密閉空間とすることで、ベーン11の背圧として印加される背圧室17の圧力を吸込ポートに吸い込まれる冷媒の圧力より高く、密閉容器1内の圧力より低い値としたが、このように背圧室17を密閉空間とする場合に限らず、例えば、背圧室17と密閉容器1内とを微細な通路(ノズル)により連通させるものとしても構わない。この場合、密閉容器1内の冷媒がノズルを通って背圧室17に流入するため、当該ノズルを通過する過程で、冷媒の圧力が低下する。これにより、背圧室17を吸込ポートに吸い込まれる冷媒の圧力より高く、密閉容器1内の圧力より低い値となるので、圧力差を利用して、ベーン11の周辺部への給油を円滑に行うことができるようになる。また、ノズルの径を調整することで、背圧室17内に流入する冷媒の圧力も自在に設定することができる。
【0087】
また、圧縮部材89の他面側の空間54も背圧室17と同様に、密閉空間として空間54の圧力も、吸込ポートに吸い込まれる低圧冷媒より高く、密閉容器1内の高圧冷媒の圧力より低い中間圧としたが、当該空間54も密閉容器1内と微細な通路(ノズル)により連通させるものとしても構わない。この場合、密閉容器1内の冷媒がノズルを通って空間54に流入するため、当該ノズルを通過する過程で、冷媒の圧力が低下する。これにより、空間54を吸込ポートに吸い込まれる冷媒の圧力より高く、密閉容器1内の圧力より低い値となるので、圧縮部材89の上面93が受け面となる突出部材84の下面84とが著しく摩耗する不都合を回避することができる。これにより、圧縮部材89の上面93の耐久性を改善することができる。更に、空間54を係る中間圧とすることで、圧力差を利用して、空間54の周辺部である圧縮部材89や主軸受13付近への給油も円滑に行うことができるようになる。また、ノズルの径を調整することで、空間54内に流入する冷媒の圧力も自在に設定することが可能となる。
【実施例4】
【0088】
次に、本発明の第4の実施例について図24乃至図26を用いて説明する。図24乃至図26はこの場合の圧縮機Cの縦断側面図であり、各図はそれぞれ異なる断面を示している。尚、図24乃至図26にて上記図1乃至図23に示されているものと同一の符号が付されているものは、同様若しくは類似の効果を奏するものであるため、説明を省略する。
【0089】
本実施例において、密閉容器1内には上側に駆動要素2が、下側に圧縮要素3がそれぞれ収納されている。即ち、圧縮要素3を駆動要素2の下側に配置している。
【0090】
圧縮要素3は、密閉容器1の内壁に固定された主支持部材107と、この主支持部材107の下側にボルトにより取り付けられたシリンダ108と、このシリンダ108内に配置された圧縮部材109と、ベーン11、吐出バルブ12と、シリンダ108の下側にボルトにより取り付けられた副支持部材110等から構成されている。主支持部材107の上面中央部は同心状に上方に突出し、そこに回転軸5の主軸受13が形成されている。また、外周縁は軸心方向(上方向)に起立し、この起立した外周縁が上述の如く密閉容器1の内壁に固定されている。
【0091】
そして、シリンダ108の上開口部は主支持部材107により閉塞され、これにより、シリンダ108内に設けられた圧縮部材109の上面(他面)と主支持部材107の間(圧縮部材109の他面側)には当該圧縮部材109と主支持部材107にて閉塞された密閉空間115が構成される。
【0092】
前記副支持部材110は、本体と、この中央に貫通形成された副軸受23と、上面中央部にボルトにより固定された突出部材112とにより構成され、この突出部材112の上面112Aは平滑面とされている。
【0093】
また、シリンダ108の下開口部は副支持部材110の突出部材112により閉塞され、これにより、シリンダ108内部(圧縮部材109と副支持部材110の突出部材112の間のシリンダ108内部)には圧縮空間21が構成される。
【0094】
副支持部材110の突出部材112内にはスロット16が形成され、このスロット16内には前記ベーン11が上下往復動自在に挿入される。このスロット16の下部には背圧室17が形成されると共に、スロット16内にはベーン11の下面を上方に押圧する付勢手段としてのコイルバネ18が配置されている。
【0095】
また、シリンダ108及び副支持部材110の突出部材112には吸込通路24が形成されると共に、密閉容器1には図示しない吸込配管が取り付けられてこの吸込通路24の一端に接続されている。このシリンダ108には圧縮空間21に連通する吸込ポートと吐出ポートが形成されており、吸込通路24の他端は吸込ポートに連通している。また、前記ベーン11はこの吸込ポートと吐出ポートの間に位置している。
【0096】
回転軸5は、主支持部材107に形成された主軸受13と副支持部材110に形成された副軸受23に支持されて回転する。即ち、回転軸5は係る支持部材107、シリンダ108、及び副支持部材110の中央に挿通され、上下方向の中央部を主軸受13により回転自在に軸支されると共に、下端は副支持部材110の副軸受23にて回転自在に軸支されている。そして、圧縮部材109は係る回転軸5の中央より下方となる位置に一体に形成され、シリンダ108内に配置されている。
【0097】
この圧縮部材109は上述したシリンダ108内に配置されて、回転軸5により回転駆動され、吸込ポートから吸い込まれた流体(本実施例では冷媒)を圧縮して吐出ポートから吐出バルブ12及び吐出管95を介して密閉容器1内に吐出するためのものであり、全体としては回転軸5と同心の略円柱状を呈している。圧縮部材109は一側の肉厚部と他側の肉薄部とが連続した形状を呈して、回転軸5の軸方向に交差する下面113(一面)が肉厚部にて低く、肉薄部にて高い傾斜面とされている。即ち、下面113は、最も高くなる上死点から最も低くなる下死点を経て上死点に戻る上死点から下死点の間で連続して傾斜する形状を呈している(図示せず)。
【0098】
この圧縮部材109の連続して傾斜する形状を呈する一面は、圧縮部材109の密閉容器1内の上側に収納された駆動要素2とは反対側の面となる下面113に配置されている。
【0099】
また、本実施例の吐出管95は吐出ポート28から密閉容器1内下部のオイル溜め36の油面上に延在する配管であり、シリンダ108内で圧縮された冷媒は、吐出ポート28から吐出バルブ12、吐出管95を介して密閉容器1内の油面上に吐出されることとなる。
【0100】
尚、圧縮部材109の下面113の形状は、実施例1の圧縮部材9の上面33と同じ形状であるため、説明は省略する。同様に前記圧縮部材109の下面113(一面)の硬度は、上死点33Aの受け面としての副支持部材110の突出部材112の上面112Aよりも高くなるように設定されている。また、圧縮部材109の下面113及びベーン11の材質及び加工方法は、実施例1で詳述したものを用いるものとする(図18参照)。これにより、上記実施例と同様に圧縮部材89及びベーン11の耐久性を高めることができるようになる。
【0101】
特に、ベーン11をカーボン系材料、セラミック系材料、フッ素樹脂系材料、又はポリエーテルエーテルケトンにて構成した場合、圧縮部材109の下面113をそれぞれ図18に示す材料及び加工を施すことで、圧縮部材109の下面113とベーン11との間で硬度差が生じると共に、摺動部への給油が不足した場合や圧縮要素3を無潤滑とした場合であっても良好な摺動性を保持することができるようになる。
【0102】
一方、ベーン11は前述の如く吸込ポートと吐出ポートの間に配置されると共に、圧縮部材109の下面113に当接し、シリンダ108内の圧縮空間21を低圧室と高圧室とに区画する。また、コイルバネ18はこのベーン11を常時下面113側に付勢する。
【0103】
また、前記空間115は前述の如く圧縮部材109と主支持部材107により密閉された空間とされているが、圧縮部材109とシリンダ108との間のクリアランスから僅かに圧縮空間21内の冷媒が流れ込むため、空間115の圧力は、吸込ポートに吸い込まれる低圧冷媒より高く、密閉容器1内の高圧冷媒の圧力より低い中間圧となる。
【0104】
このように、空間115の圧力を中間圧とすることで、圧縮部材109が空間115の圧力により上側に強く押されて、圧縮部材109の下面113が受け面となる突出部材112の上面112Aとが著しく摩耗する不都合を回避することができる。これにより、圧縮部材109の下面113の耐久性を改善することができる。
【0105】
また、圧縮部材109の他面側となる空間115の圧力を中間圧とすることで、密閉容器1内の圧力より空間115の圧力が低くなるので、当該圧力差を利用して、空間115の周辺部である圧縮部材109や主軸受13付近へのオイル供給も円滑に行うことができるようになる。
【0106】
更に、圧縮空間21を駆動要素2とは反対側となる圧縮部材109の下面113に配置することで、主軸受13からのガスリークが生じにくくなり、主軸受13のシール性を高めることができる。また、圧縮空間21となる圧縮部材109の下面113側の副軸受23はオイル溜め36内に位置するので、オイルにより副軸受23からのガスリークも回避でき、副軸受23のシール性も向上し、且つ、回転軸5の周面が高圧となる不都合も回避することができる。これにより、圧力差を利用した給油も円滑に行うことが可能となる。
【0107】
また、上記実施例(実施例3)と同様に前述した背圧室17は従来のように高圧とせずに、密閉空間として当該背圧室17の圧力を吸込ポートに吸い込まれる冷媒の圧力より高く、且つ、密閉容器1内の圧力より低い値とする。これにより、密閉容器1内より背圧室17内の圧力の方が低くなるので、係る圧力差を利用して、回転軸5内のオイル通路42を上昇し、オイル通路42から回転軸5の軸方向となる圧縮部材109の側面に渡って形成された図示しないオイル孔からのオイルをベーン11の周辺部にも供給することができるようになる。
【0108】
また、圧縮部材109の周面はシリンダ108の内壁との間に微小なクリアランスを構成し、これにより、圧縮部材109は回転自在とされている。そして、この圧縮部材109の周面とシリンダ108の内壁との間もオイルによってシールされている。
【0109】
そして、吐出ポートの外側にはシリンダ108の圧縮空間21の側面に位置して吐出バルブ12が取り付けられると共に、吐出バルブ12の外側となるシリンダ108内及び主支持部材107には吐出管95が形成され、吐出管95の上端はオイル溜め36の油面上に開口している。
【0110】
このように、吐出ポートから吐出された冷媒ガスを吐出管95を通過させて油面上に導くことで、吐出された冷媒の脈動を低減することができるようになる。
【0111】
以上詳述したように、本実施例においても圧縮部材109やベーン11等の摺動部への給油を円滑に行うことができ、圧縮機Cの信頼性を改善することができるようになる。また、実施例3では、回転軸5の軸受を圧縮要素3の上側(副軸受83)及び下側(主軸受13)と、駆動要素2の下側(副軸受86)の3箇所に設けるものとしたが、本実施例では主軸受13と副軸受23の2つの軸受にて回転軸5を十分に軸支することができるので、部品点数を削減し、圧縮機を安価にて構成することができる。
【実施例5】
【0112】
次に、図27乃至図29は第5の実施例の圧縮機Cを示し、図27乃至図29は第5の実施例の圧縮機Cの縦断側面図であり、各図はそれぞれ異なる断面を示した図である。尚、図27乃至図29にて上記図1乃至図26に示されているものと同一の符号が付されているものは、同様若しくは類似の効果を奏するものであるので説明を省略する。
【0113】
この場合、密閉容器1内の下側に駆動要素2を、上側に圧縮要素3を収納し、圧縮要素3の圧縮空間21を圧縮部材109の駆動要素2側となる下面側とし、当該圧縮部材109の下面(一面)113を上死点から下死点の間で連続して傾斜する形状としている。ここで、前記各実施例と同様に圧縮部材109の下面113(一面)の硬度は、上死点33Aの受け面としての副支持部材110の突出部材112の上面112Aよりも高くなるように設定されている。また、圧縮部材109の下面113及びベーン11の材質及び加工方法は、実施例1で詳述したものを用いるものとする(図18参照)。これにより、上記実施例と同様に圧縮部材89及びベーン11の耐久性を高めることができるようになる。
【0114】
特に、ベーン11をカーボン系材料、セラミック系材料、フッ素樹脂系材料、又はポリエーテルエーテルケトンにて構成した場合、圧縮部材109の下面113をそれぞれ図18に示す材料及び加工を施すことで、圧縮部材109の下面113とベーン11との間で硬度差が生じると共に、摺動部への給油が不足した場合や圧縮要素3を無潤滑とした場合であっても良好な摺動性を保持することができるようになる。
【0115】
他方、圧縮部材109の他面側となる空間115を圧縮部材109と主支持部材107により密閉された空間とすることで、圧縮部材109とシリンダ108との間のクリアランスから僅かに圧縮空間21内の冷媒が流れ込むため、空間115の圧力は、吸込ポート27に吸い込まれる低圧冷媒より高く、密閉容器1内の高圧冷媒の圧力より低い中間圧となる。
【0116】
このように、空間115の圧力を中間圧とすることで、圧縮部材109が空間115の圧力により上側に強く押されて、圧縮部材109の下面113が受け面となる突出部材112の上面112Aとが著しく摩耗する不都合を回避することができる。これにより、圧縮部材109の下面113の耐久性を改善することができる。
【0117】
一方、主支持部材107及びシリンダ108内にはスロット16が形成され、このスロット16内にはベーン11が上下往復動自在に挿入される。このスロット16の下部には背圧室17が形成されると共に、スロット16内にはベーン11の下面を上方に押圧する付勢手段としてのコイルバネ18が配置されている。そして、ベーン11は、圧縮部材109の下面113に当接し、シリンダ108内の圧縮空間21を低圧室と高圧室とに区画する。また、コイルバネ18はこのベーン11を常時下面113側に付勢する。
【0118】
そして、背圧室17は上記実施例の如く密閉空間として当該背圧室17の圧力を吸込ポート27に吸い込まれる冷媒(冷媒)の圧力より高く、且つ、密閉容器1内の圧力より低い値としている。このように、背圧室17を密閉容器1内と連通させずに、密閉した空間とすることで、当該背圧室17にはベーン11の隙間から圧縮空間21の低圧室側と高圧室側の冷媒が僅かに流入するのみとなる。このため、背圧室17は吸込ポート27に吸い込まれる冷媒の圧力より高く、且つ、密閉容器1内の圧力より低い中間圧となる。これにより、密閉容器1内より背圧室17内の圧力の方が低くなるので、係る圧力差を利用して、回転軸5内のオイル通路42を上昇し、オイル孔44、45からのオイルをベーン11の周辺部にも供給することができるようになる。
【0119】
他方、圧縮部材109の他面側となる空間115は、圧縮部材109と主支持部材107により密閉された空間とされている。これにより、圧縮部材109とシリンダ108との間のクリアランスから僅かに圧縮空間21内の冷媒が流れ込むため、空間115の圧力は、吸込ポート27に吸い込まれる低圧冷媒より高く、密閉容器1内の高圧冷媒の圧力より低い中間圧となる。
【0120】
このように、空間115の圧力を中間圧とすることで、圧縮部材109が空間115の圧力により上側に強く押されて、圧縮部材109の下面113が受け面となる突出部材112の上面112Aとが著しく摩耗する不都合を回避することができる。これにより、圧縮部材109の下面113の耐久性を改善することができる。
【0121】
また、圧縮部材109の他面側となる空間115の圧力を中間圧とすることで、密閉容器1内の圧力より空間115の圧力が低くなるので、当該圧力差を利用して、空間115の周辺部である圧縮部材109や主軸受13付近へのオイル供給も円滑に行うことができるようになる。
【0122】
尚、上記各実施例では冷凍機の冷媒回路に使用されて冷媒を圧縮する圧縮機を例にとって説明したが、それに限らず、空気を吸い込んで圧縮し、吐出する所謂エアーコンプレッサにも本発明は有効である。また、各実施例では、縦型の密閉容器内の上下方向に駆動要素と圧縮要素とを収納する縦型の圧縮機を用いて説明したが、これに限らず、横型の圧縮機を用いても本発明は有効である。
【図面の簡単な説明】
【0123】
【図1】本発明の第1の実施例の圧縮機の縦断側面図である。
【図2】図1の圧縮機のもう一つの縦断側面図である。
【図3】図1の圧縮機の圧縮要素の斜視図である。
【図4】図1の圧縮機の圧縮要素のもう一つの斜視図である。
【図5】図1の圧縮機の圧縮要素の平面図である。
【図6】図1の圧縮機の圧縮要素の底面図である。
【図7】図1の圧縮機の圧縮部材を含む回転軸の側面図である。
【図8】図1の圧縮機の圧縮部材の第1の斜視図である。
【図9】図1の圧縮機の圧縮部材の第2の斜視図である。
【図10】図1の圧縮機の圧縮部材の第3の斜視図である。
【図11】図1の圧縮機の圧縮部材の第4の斜視図である。
【図12】図1の圧縮機の圧縮部材の第5の斜視図である。
【図13】図1の圧縮機の圧縮部材の第6の斜視図である。
【図14】図1の圧縮機の圧縮部材の上面を側面から見た場合の傾斜を示す拡大図である。
【図15】図1の圧縮機の回転軸及び圧縮要素の縦断側面図である。
【図16】図15のシリンダが取り付けられた状態の回転軸の斜視図である。
【図17】図1の圧縮機の圧縮要素のもう一つの縦断側面図である。
【図18】圧縮部材の一面とこの受け面及びベーンに使用する部材の材質と加工方法を示す図である。
【図19】本発明の第2の実施例の圧縮機の圧縮要素の縦断側面図である。
【図20】図19の圧縮機の圧縮要素の斜視図である。
【図21】本発明の第3の実施例の圧縮機の縦断側面図である。
【図22】図21の圧縮機のもう一つの縦断側面図である。
【図23】図21の圧縮機の更にもう一つの縦断側面図である。
【図24】本発明の第4の実施例の圧縮機の縦断側面図である。
【図25】図24の圧縮機のもう一つの縦断側面図である。
【図26】図24の圧縮機の更にもう一つの縦断側面図である。
【図27】本発明の第5の実施例の圧縮機の縦断側面図である。
【図28】図27の圧縮機のもう一つの縦断側面図である。
【図29】図27の圧縮機の更にもう一つの縦断側面図である。
【符号の説明】
【0124】
C 圧縮機
1 密閉容器
2 駆動要素
3 圧縮要素
4 固定子
5 回転軸
6 回転子
7、77 支持部材
8、78、108 シリンダ
9、89、109 圧縮部材
11 ベーン
13 主軸受
16 スロット
18 コイルバネ
21 圧縮空間
22、110 副支持部材
23 副軸受
24 吸込通路
26 吸込配管
27 吸込ポート
28 吐出ポート
31 肉厚部
32 肉薄部
33、93 上面
34 平面
35 曲面
36 オイル溜め
37、38 吐出配管
40 オイルポンプ
42 オイル通路
44、45 オイル孔
50 軸封シール
52 当接部
53 カバー
60 ピストンリングシール
61 溝
79、107 主支持部材
80 線
82 直線
84、84A、84B 曲線
113 下面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
密閉容器内に収納された駆動要素及び該駆動要素の回転軸により駆動される圧縮要素とを備え、
該圧縮要素は、内部に圧縮空間が構成されるシリンダと、
該シリンダ内の圧縮空間に連通する吸込ポート及び吐出ポートと、
前記回転軸の軸方向に交差する一面が上死点と下死点の間で連続して傾斜すると共に、前記シリンダ内に配置されて回転し、前記吸込ポートから吸い込まれた流体を圧縮して前記吐出ポートより前記密閉容器内に吐出する圧縮部材と、
前記吸込ポートと吐出ポート間に配置されて前記圧縮部材の一面に当接し、前記シリンダ内の圧縮空間を低圧室と高圧室とに区画するベーンとから構成され、
前記圧縮部材の他面側の圧力を、前記密閉容器内の圧力より低い値としたことを特徴とする圧縮機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【公開番号】特開2006−97620(P2006−97620A)
【公開日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−286497(P2004−286497)
【出願日】平成16年9月30日(2004.9.30)
【出願人】(000001889)三洋電機株式会社 (18,308)
【Fターム(参考)】