説明

圧縮機

【課題】駆動軸の軸方向変位による騒音や振動、および、径方向への撓みに起因する焼付き、並びに摺動による機械損失を抑制する。
【解決手段】圧縮機は、シャフト8の偏心部8aに回転自在に嵌合されたローラ41が配置された圧縮室31を有するシリンダ30と、シリンダ30の軸方向両端に配置され、シャフト8が挿通される軸受け孔21、51をそれぞれ有するフロントヘッド20およびリアヘッド50とを備えている。フロントヘッド20およびリアヘッド50の軸受け孔21、51の周壁面であって且つ偏心部8aに面した部分に凹部27、57を形成し、その凹部27、57に樹脂製のリング部材91、92を設ける。リング部材91、92は、フロントヘッド20およびリアヘッド50の端面に対して偏心部8a側に向かって突出する突出部分91a、92aを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷媒を圧縮するための圧縮機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、圧縮機として、密閉されたケーシング内に、冷媒を圧縮する圧縮機構を設けたものが知られている。例えば、特許文献1に開示されている圧縮機においては、圧縮機構は、圧縮室を有するシリンダと、シリンダの軸方向両端に配置される端板部材と、圧縮室に配置される環状のローラおよびローラの外周面から延在するブレードを有するピストンとを備えている。ローラは、端板部材に形成された軸受け孔に挿通された駆動軸の偏心部に嵌合されている。そして、駆動軸の回転に伴って、ローラが圧縮室の周壁面に沿って移動し、圧縮室内で冷媒が圧縮される。端板部材には弁機構が設けられた吐出口が形成されており、冷媒が所定の圧力以上に圧縮された時点で弁機構が開弁して、圧縮された冷媒がケーシング内に吐出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−151026号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述のような圧縮機においては、圧縮機構の吐出口から間欠的に冷媒が吐出されるので、圧力脈動が生じる。係る圧力脈動により駆動軸が軸方向に変位することで、駆動軸の偏心部がシリンダの軸方向両端に配置された端板部材と接触し、騒音や振動が生じるという問題がある。また、上述のような圧縮機においては、圧縮室内の圧力の高まりにより駆動軸に対して径方向の荷重が加わる。これにより、駆動軸の偏心部近傍が径方向に撓み、端板部材の軸受け孔の周壁面と駆動軸との接触面の面圧が高くなり、焼付きが生じる。さらに、駆動軸と端板部材とが接触する場合には、摺動による機械損失が生じる。
【0005】
そこで、本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、駆動軸の軸方向変位による騒音や振動、および、径方向への撓みに起因する焼付き、並びに摺動による機械損失を抑制できる圧縮機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の発明に係る圧縮機は、駆動軸の偏心部が配置された圧縮室を有するシリンダと、前記シリンダの軸方向両端にそれぞれ配置され、前記駆動軸が挿通される軸受け孔を有する2つの端板部材とを備え、前記2つの端板部材の少なくともいずれか一方において前記軸受け孔の周壁面であって且つ前記偏心部に面した部分には凹部が形成されており、前記凹部には、前記端板部材の端面に対して前記偏心部側に向かって突出する突出部分を有する樹脂製のリング部材が設けられている。
【0007】
この圧縮機では、偏心部が軸方向へ移動した場合でも端板部材と接触する前にリング部材と接触するか、または、偏心部がリング部材と常に接触することにより軸方向へ移動しないように構成されているので、偏心部と端板部材との接触を防ぎ、騒音や振動を低減できる。また、駆動軸の偏心部近傍がその径方向に撓んだ場合は、比較的大きな弾性力を有する樹脂でできたリング部材が変形することで、駆動軸に加わる面圧を低減し、焼き付きを防止できる。また、リング部材は比較的摺動性の良い樹脂でできているので、リング部材と駆動軸とが接触した場合でも、機械損失を抑制できる。
【0008】
第2の発明に係る圧縮機は、第1の発明に係る圧縮機において、前記リング部材と前記偏心部との間には、隙間が形成されている。
【0009】
この圧縮機では、リング部材と偏心部とが常時接触する場合に比べて、摺動による機械損失を低減できる。
【0010】
第3の発明に係る圧縮機は、第1の発明に係る圧縮機において、前記リング部材が、前記端板部材と前記偏心部との間に縮装されている。
【0011】
この圧縮機では、偏心部を軸方向に移動しないように構成することにより、騒音や振動を確実に低減できる。
【0012】
第4の発明に係る圧縮機は、第1〜第3のいずれかの発明に係る圧縮機において、前記リング部材が、前記2つの端板部材の両方に設けられている。
【0013】
この圧縮機では、2つの端板部材の両方で偏心部との接触を防ぐことができるので、確実に騒音や振動を低減できる。
【0014】
第5の発明に係る圧縮機は、第1〜第4のいずれかの発明に係る圧縮機において、前記リング部材の径方向の厚みは、前記偏心部に近付くにつれて厚くなる。
【0015】
この圧縮機では、駆動軸の偏心部近傍が撓んだ場合に、リング部材の偏心部側の端部近傍の比較的厚みの厚い部分が、確実に弾性変形する。
【発明の効果】
【0016】
以上の説明に述べたように、本発明によれば、以下の効果が得られる。
【0017】
第1の発明では、偏心部が軸方向へ移動した場合でも端板部材と接触する前にリング部材と接触するか、または、偏心部がリング部材と常に接触することにより軸方向へ移動しないように構成されているので、偏心部と端板部材との接触を防ぎ、騒音や振動を低減できる。また、駆動軸の偏心部近傍がその径方向に撓んだ場合は、比較的大きな弾性力を有する樹脂でできたリング部材が変形することで、駆動軸に加わる面圧を低減し、焼き付きを防止できる。また、リング部材は比較的摺動性の良い樹脂でできているので、リング部材と駆動軸とが接触した場合でも、機械損失を抑制できる。
【0018】
第2の発明では、リング部材と偏心部とが常時接触する場合に比べて、摺動による機械損失を低減できる。
【0019】
第3の発明では、偏心部を軸方向に移動しないように構成することにより、騒音や振動を確実に低減できる。
【0020】
第4の発明では、2つの端板部材の両方で偏心部との接触を防ぐことができるので、確実に騒音や振動を低減できる。
【0021】
第5の発明では、駆動軸の偏心部近傍が撓んだ場合に、リング部材の偏心部側の端部近傍の比較的厚みの厚い部分が、確実に弾性変形する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の第1実施形態に係る圧縮機の概略断面図である。
【図2】図1のA−A線に沿った断面図であって、シリンダ内でのピストンの動作を示す図である。
【図3】図1に示した圧縮機のフロントヘッドを示す概略図であり、(a)は上方から見た図、(b)は下方から見た図である。
【図4】図1に示した圧縮機のリアヘッドを上方から見た概略図である。
【図5】(a)は図1の部分拡大図を模式的に示した図であり、(b)は(a)に示すシャフトが撓んだ状態を示す図である。
【図6】本発明の第2実施形態に係る圧縮機における、シリンダ内でのローラおよびベーンの動作を示す図である。
【図7】第1実施形態の第1変形例に係る圧縮機の圧縮機構の部分拡大図を模式的に示した図である。
【図8】第1実施形態の第2変形例に係る圧縮機の圧縮機構の部分拡大図を模式的に示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
<第1実施形態>
以下、本発明の第1実施形態について説明する。
本実施形態は、1シリンダ型のロータリ圧縮機に本発明を適用した一例である。
図1に示すように、本実施形態の圧縮機1は、密閉ケーシング2と、密閉ケーシング2内に配置される圧縮機構10および駆動機構6を備えている。なお、図1は、駆動機構6の断面を示すハッチングを省略して表示している。この圧縮機1は、例えば、空調装置などの冷凍サイクルに組み込まれて使用され、後述する吸入管3から導入された冷媒(本実施形態では、CO2)を圧縮して排出管4から排出する。図1の上下方向を単に上下方向として、圧縮機1について以下説明する。
【0024】
密閉ケーシング2は、両端が塞がれた円筒状の容器であり、その上部には、圧縮された冷媒を排出するための排出管4と、駆動機構6の後述する固定子7bのコイルに電流を供給するためのターミナル端子5が設けられている。なお、図1では、コイルとターミナル端子5とを接続する配線は省略して表示している。また。密閉ケーシング2の側部には、圧縮機1に冷媒を導入するための吸入管3が設けられている。また、密閉ケーシング2内の下部には、圧縮機構10の摺動部の動作を滑らかにするための潤滑油Lが貯留されている。密閉ケーシング2の内部には、駆動機構6と、圧縮機構10とが上下に並んで配置されている。
【0025】
駆動機構6は、圧縮機構10を駆動するために設けられており、駆動源となるモータ7と、このモータ7に取り付けられたシャフト8とから構成されている。
【0026】
モータ7は、密閉ケーシング2の内周面に固定されている略円環状の固定子7bと、この固定子7bの径方向内側にエアギャップを介して配置される回転子7aとを備えている。回転子7aは磁石(図示省略)を有し、固定子7bはコイルを有している。モータ7は、コイルに電流を流すことによって発生する電磁力によって、回転子7aを回転させる。また、固定子7bの外周面は、全周にわたって密閉ケーシング2の内周面に密着しているわけではなく、固定子7bの外周面には、上下方向に延び且つモータ7の上下の空間を連通させる複数の凹部(図示省略)が、周方向に並んで形成されている。
【0027】
シャフト8は、モータ7の駆動力を圧縮機構10に伝達するために設けられており、回転子7aの内周面に固定されて、回転子7aと一体的に回転する。また、シャフト8は、後述する圧縮室31内となる位置に、偏心部8aを有している。偏心部8aは、円柱状に形成されており、その軸心がシャフト8の回転中心から偏心している。この偏心部8aには、圧縮機構10の後述するローラ41が装着されている。シャフト8は、金属材料で形成されている。
【0028】
また、シャフト8の下側略半分の内部には、上下方向に延在する給油路8bが形成されている。この給油路8bの下端部には、シャフト8の回転に伴って潤滑油Lを給油路8b内に吸い上げるための螺旋羽根形状のポンプ部材(図示省略)が挿入されている。さらに、シャフト8には、給油路8b内の潤滑油Lをシャフト8の外側に排出するための複数の排出孔8cが形成されている。
【0029】
圧縮機構10は、密閉ケーシング2の内周面に固定されるフロントヘッド(端板部材)20と、フロントヘッド20の上側に配置されるマフラー11と、フロントヘッド20の下側に配置されるシリンダ30と、シリンダ30の内部に配置されるピストン40と、シリンダ30の下側に配置されるリアヘッド(端板部材)50とを備えている。詳細は後述するが、図2に示すように、シリンダ30は、略円環状の部材であって、その中央部に圧縮室31が形成されている。シリンダ30は、リアヘッド50と共に、フロントヘッド20の下側にボルトにより固定されている。なお、図2〜図4においては、かかるボルト孔は省略して表示している。
【0030】
図1および図3(a)、(b)に示すように、フロントヘッド20は、略円環状の部材であって、その中央部に、シャフト8が回転可能に挿通される軸受け孔21が形成されている。フロントヘッド20の外周面は、密閉ケーシング2の内周面にスポット溶接などによって固定されている。フロントヘッド20の下面は、シリンダ30の圧縮室31の上端を閉塞している。フロントヘッド20のシリンダ30よりも径方向外側の部分には、複数の油戻し孔23が周方向に並んで形成されている。フロントヘッド20は、金属材料で形成されている。
【0031】
また、図3(a)に示すように、フロントヘッド20の上面には、凹部25が形成されている。この凹部25は、平面視が扇状の扇状凹部25aと、扇状凹部25aの径方向の一辺から延在する弁収容凹部25bとから構成されている。扇状凹部25aの底面には、シリンダ30の圧縮室31と連通し、圧縮室31において圧縮された冷媒が吐出される吐出孔22が形成されている。
【0032】
また、凹部25内には、吐出孔22の出口を開閉する吐出弁24と、この吐出弁24の上面に配置され、吐出弁24の開放を規制する押さえ部材(図示省略)とが配置されている。この吐出弁24と押さえ部材との基端部は、弁収容凹部25bの底面に形成されたピン嵌合孔26に嵌め込まれたピン(図示省略)によって固定されている。圧縮室31内の冷媒の圧力が所定以上になると、吐出弁24の先端部(図3中右上端部)が上方に押し上げられて、吐出孔22から冷媒が吐出される。
【0033】
さらに、図3(b)および図5(a)に示すように、フロントヘッド20の下面には、環状の凹部27が形成されている。より詳細には、凹部27は、軸受け孔21の周壁面であって且つ圧縮室31内に配置される偏心部8aに面した部分に形成されている。なお、図3(b)においては、フロントヘッド20の下面におけるシリンダ30およびピストン40との位置関係を示すために、シリンダ30およびピストン40を上方から見た図を破線で示している。図5(a)に示すように、凹部27の幅(径方向の長さ)は、上下方向に関してほぼ均一である。この凹部27には、樹脂製のリング部材91が嵌め込まれている。
【0034】
リアヘッド50は、略円環状の部材であって、その中央部にシャフト8が回転可能に挿通される軸受け孔51が形成されている。リアヘッド50は、シリンダ30の圧縮室31の下端を閉塞している。リアヘッド50は、金属材料で形成されている。
【0035】
図4および図5(a)に示すように、リアヘッド50の上面には、環状の凹部57が形成されている。より詳細には、凹部57は、軸受け孔51の周壁面であって且つ圧縮室31内に配置される偏心部8aに面した部分に形成されている。なお、図4においては、リアヘッド50の上面におけるシリンダ30およびピストン40との位置関係を示すために、シリンダ30およびピストン40を下方から見た図を破線で示している。図5(a)に示すように、凹部57の幅(径方向の長さ)は、上下方向に関してほぼ均一である。この凹部57には、樹脂製のリング部材92が嵌め込まれている。
【0036】
マフラー11は、フロントヘッド20の吐出孔22から冷媒が吐出される際の騒音を低減するために設けられている。マフラー11は、フロントヘッド20の上面にボルトによって取り付けられ、フロントヘッド20との間にマフラー空間Mを形成している。なお、図3(a)においては、かかるボルト孔は省略して表示している。また、図示は省略するが、マフラー11には、マフラー空間M内の冷媒を排出するためのマフラー吐出孔が形成されている。
【0037】
図1および図2に示すように、シリンダ30には、上述した圧縮室31と、圧縮室31内に冷媒を導入するための吸入孔32と、ブレード収容部33が形成されている。なお、図2は、図1のA−A線断面図であって、フロントヘッド20の吐出孔22は本来表れないが、説明の便宜上表示している。シリンダ30は、金属材料で形成されている。
【0038】
吸入孔32は、シリンダ30の径方向に延在して形成されている。また、吸入孔32の圧縮室31側とは反対側の端部には、吸入管3の先端が内嵌されている。
【0039】
ブレード収容部33は、シリンダ30を上下方向に貫通しており、圧縮室31と連通している。ブレード収容部33は、圧縮室31の径方向に延在している。ブレード収容部33は、上下方向から視て、吸入孔32とフロントヘッド20の吐出孔22との間の位置に形成されている。このブレード収容部33内には、一対のブッシュ34が配置されている。一対のブッシュ34は、略円柱状の部材を半分割した形状に形成されている。この一対のブッシュ34の間にブレード42が配置されている。一対のブッシュ34は、その間にブレード42が配置された状態で、ブレード収容部33内において周方向に揺動可能となっている。
【0040】
ピストン40は、円環状のローラ41と、このローラ41の外周面から径方向外側に延在するブレード42とから構成されている。図2に示すように、ローラ41は、偏心部8aの外周面に相対回転可能に嵌合されて、圧縮室31内に配置されている。ブレード42は、ブレード収容部33に配置された一対のブッシュ34の間に進退可能に配置されている。
【0041】
ここで、図5(a)に示すように、圧縮室31の上下方向長さH1は、シャフト8の偏心部8aの上下方向長さH2よりも大きい。したがって、偏心部8aの上面とフロントヘッド20の下面との間、および、偏心部8aの下面とリアヘッド50の上面との間には、隙間D1、D2がそれぞれ形成される。
【0042】
そして、リング部材91、92の凹部27、57に嵌め込まれる前における上下方向の長さの合計は、上記隙間D1、D2および凹部27、57の深さ(上下方向長さ)L1、L2の合計よりも若干大きい。すなわち、リング部材91は、フロントヘッド20と偏心部8aとの間に縮装されており、リング部材92は、リアヘッド50と偏心部8aとの間に縮装されている。リング部材91の下端部は、フロントヘッド20の下面に対して偏心部8a側に向かって突出した突出部分91aとなっており、リング部材92の上端部は、リアヘッド50の上面に対して偏心部8a側に向かって突出した突出部分92aとなっている。
【0043】
上述のような構成により、偏心部8aは、リング部材91によって下方に押圧されると共に、リング部材92によって上方に押圧される。したがって、偏心部8aが軸方向(上下方向)に移動することがない。
【0044】
また、リング部材91の凹部27に嵌め込まれる前における外径は凹部27の径よりも若干大きく、リング部材92の凹部57に嵌め込まれる前における外径は凹部57の径よりも若干大きい。すなわち、リング部材91、92は、径方向に縮装された状態で凹部27、57にそれぞれ嵌め込まれている。
【0045】
さらに、リング部材91の径方向の厚みは上下方向に関してほぼ均一である。そして、凹部27の幅(径方向の長さ)とリング部材91の径方向の厚みとはほぼ同じである。したがって、リング部材91の内周面は、軸受け孔21の周壁面とほぼ面一となっている。また、リング部材92の径方向の厚みは上下方向に関してほぼ均一である。そして、凹部57の幅(径方向の長さ)とリング部材92の径方向の厚みとはほぼ同じである。したがって、リング部材92の内周面は、軸受け孔21の周壁面とほぼ面一となっている。
【0046】
次に、圧縮機構10の動作について、図2(a)〜図2(d)を参照して説明する。
図2(a)は、ピストン40が上死点にある状態を示しており、図2(b)〜図2(d)は、図2(a)の状態から、それぞれ、シャフト8が、90°、180°(下死点)、270°回転した状態を示している。
【0047】
吸入管3から吸入孔32を介して圧縮室31に冷媒を供給しつつ、モータ7の駆動によりシャフト8を回転させると、図2(a)〜図2(d)に示すように、偏心部8aに装着されたローラ41は、圧縮室31の周壁面に沿って移動する。これにより、圧縮室31内で冷媒が圧縮される。冷媒が圧縮される工程について、以下、詳細に説明する。
【0048】
図2(a)の状態から偏心部8aが図中の矢印方向に回転すると、図2(b)に示すように、ローラ41の外周面と圧縮室31の周壁面とによって形成される空間が、低圧室31aと高圧室31bに区画される。さらに偏心部8aが回転すると、図2(b)〜図2(d)に示すように、低圧室31aの容積が大きくなるため、吸入管3から吸入孔32を介して低圧室31a内に冷媒が吸い込まれていく。同時に、高圧室31bの容積が小さくなるため、高圧室31bにおいて冷媒が圧縮される。
【0049】
そして、高圧室31b内の圧力が所定の圧力以上になった時点で、フロントヘッド20に設けられた吐出弁24が開弁して、高圧室31b内の冷媒が吐出孔22を介してマフラー空間Mに吐出される。その後、図2(a)の状態に戻り、高圧室31bからの冷媒の吐出が完了する。この工程を繰り返すことにより、吸入管3から圧縮室31に供給された冷媒が連続的に圧縮されて排出される。マフラー空間Mに吐出された冷媒は、マフラー11のマフラー吐出孔(図示省略)から圧縮機構10の外に吐出される。
【0050】
上述のような圧縮機構10から吐出された冷媒は、固定子7bと回転子7aとの間のエアギャップなどを通過した後、最終的に、排出管4から密閉ケーシング2の外に排出される。このとき、シャフト8の排出孔8cから圧縮室31内に供給された潤滑油Lの一部は、冷媒と共に吐出孔22からマフラー空間Mに吐出された後、マフラー11のマフラー吐出孔(図示省略)から圧縮機構10の外に吐出される。圧縮機構10の外に吐出された潤滑油Lの一部は、フロントヘッド20の油戻し孔23を通って密閉ケーシング2の下部の貯留部に戻される。また、圧縮機構10の外に吐出された潤滑油Lの他の一部は、冷媒と共に固定子7bと回転子7aとの間のエアギャップを通過した後、固定子7bの外周面に形成された凹部(図示省略)と密閉ケーシング2の内周面との間と、フロントヘッド20の油戻し孔23とを通って、密閉ケーシング2の下部の貯留部に戻される。
【0051】
ここで、図5(b)に示すように、高圧室31b内の圧力の高まりにより、シャフト8に対して高圧室31b側から低圧室31a側に向かう径方向の荷重が加わり、偏心部8a近傍が径方向に撓んだ場合について考える。このとき、シャフト8の偏心部8a近傍が、リング部材91、92に押し付けられ、リング部材91、92は弾性変形する。
【0052】
以上のように、本実施形態の圧縮機1は、フロントヘッド20において、軸受け孔21の周壁面であって且つ偏心部8aに面した部分に形成された凹部27、および、リアヘッド50において、軸受け孔51の周壁面であって且つ偏心部8aに面した部分に形成された凹部57に、樹脂製のリング部材91、92がそれぞれ設けられている。リング部材91は、フロントヘッド20の下面に対して偏心部8a側に突出する突出部分91aを有しており、リング部材92は、リアヘッド50の上面に対して偏心部8a側に突出する突出部分92aを有している。したがって、リング部材91、92によって偏心部8aの軸方向への変位を規制することで、偏心部8aとフロントヘッド20やリアヘッド50との接触を防ぎ、騒音や振動を低減できる。また、シャフト8の偏心部8a近傍がその径方向に撓んだ場合は、比較的大きな弾性力を有する樹脂でできたリング部材91、92が変形することで、シャフト8に加わる面圧を低減して焼き付きを防止できる。また、リング部材91、92は比較的摺動性の良い樹脂でできているので、リング部材91、92とシャフト8とが接触した場合でも、機械損失を抑制できる。
【0053】
また、本実施形態の圧縮機1では、リング部材91は、フロントヘッド20と偏心部8aとの間に縮装されており、リング部材92は、リアヘッド50と偏心部8aとの間に縮装されている。したがって、偏心部8aがシャフト8の軸方向に関して移動しないようにできるので、騒音や振動を確実に低減できる。
【0054】
また、本実施形態の圧縮機1では、リング部材91、92が、フロントヘッド20およびリアヘッド50の両方に設けられている。したがって、シリンダ30の軸方向両端に配置されたフロントヘッド20およびリアヘッド50の両方で偏心部8aとの接触を防ぐことができるので、確実に騒音や振動を低減できる。
【0055】
<第2実施形態>
次に、本発明の第2実施形態について説明する。
本実施形態の圧縮機は、圧縮機構210の構成が上記第1実施形態と異なっている。その他の構成は上記第1実施形態と同様であるため、同じ符号を用いて適宜その説明を省略する。
【0056】
図6に示すように、圧縮機構210は、シリンダ230とシリンダ230の内部に配置される部材の構成が異なっており、その他の構成は上記第1実施形態と同様である。
【0057】
シリンダ230は、圧縮室231と、圧縮室231内に冷媒を導入するための吸入孔232とを備えている。また、シリンダ230は、第1実施形態のブレード収容部33に代えて、ベーン収容部233を有しており、その他の構成は、上記第1実施形態のシリンダ30と同様である。ベーン収容部233は、シリンダ230を上下方向に貫通しており、圧縮室231に連通している。また、ベーン収容部233は、圧縮室231の径方向に延在している。
【0058】
圧縮室231の内側には、円環状のローラ241が配置されている。ローラ241は、偏心部8aの外周面に相対回転可能に嵌合された状態で、圧縮室231内に配置されている。
【0059】
ベーン収容部233の内側には、平板状の部材であるベーン244が配置されている。ベーン244の圧縮室231の中心側の先端部(図6中の下側の先端部)は、上方から視て先細り状に形成されている。また、ベーン244は、ベーン収容部233内に設けられた付勢バネ247によって付勢されており、圧縮室231側の先端部が、ローラ241の外周面に押し付けられている。そのため、図6(a)〜図6(d)に示すように、シャフト8の回転に伴ってローラ241が圧縮室231の周壁面に沿って移動すると、ベーン244は、ベーン収容部233内で、圧縮室231の径方向に沿って進退移動する。また、図6(b)〜図6(d)に示すように、ベーン244が、ベーン収容部233から圧縮室231側に出ている状態では、ローラ241の外周面と圧縮室231の周壁面との間に形成される空間は、ベーン244によって低圧室231aと高圧室231bとに区画される。
【0060】
次に、本実施形態の圧縮機の動作について説明する。
図6(a)は、ローラ241が上死点にある状態を示しており、図6(b)〜図6(d)は、図6(a)の状態から、それぞれ、シャフト8が、90°、180°(下死点)、270°回転した状態を示している。
【0061】
吸入管3から吸入孔232を介して圧縮室231に冷媒を供給しつつ、モータ7の駆動によりシャフト8を回転させると、図6(a)〜図6(d)に示すように、偏心部8aに装着されたローラ241は、圧縮室231の周壁面に沿って移動する。これにより、圧縮室231内で冷媒が圧縮される。冷媒が圧縮される工程について、以下、詳細に説明する。
【0062】
図6(a)の状態から偏心部8aが図中の矢印方向に回転すると、図6(b)に示すように、ローラ241の外周面と圧縮室231の周壁面とによって形成される空間が、低圧室231aと高圧室231bに区画される。さらに偏心部8aが回転すると、図6(b)〜図6(d)に示すように、低圧室231aの容積が大きくなるため、吸入管3から吸入孔232を介して低圧室231a内に冷媒が吸い込まれていく。同時に、高圧室231bの容積が小さくなるため、高圧室231bにおいて冷媒が圧縮される。
【0063】
そして、高圧室231b内の圧力が所定の圧力以上になった時点で、フロントヘッド20に設けられた吐出弁24が開弁して、高圧室231b内の冷媒が吐出孔22を介してマフラー空間Mに吐出される。マフラー空間Mに吐出された冷媒は、第1実施形態の圧縮機1と同様の経路を通り、最終的に、排出管4から密閉ケーシング2の外に排出される。
【0064】
本実施形態においても、フロントヘッド20に形成された凹部27、および、リアヘッド50に形成された凹部57に、樹脂製のリング部材91、92がそれぞれ嵌め込まれており、第1実施形態と同様の効果が得られる。
【0065】
以上、本発明の実施形態について図面に基づいて説明したが、具体的な構成は、これらの実施形態に限定されるものでないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施形態の説明ではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。
【0066】
例えば、上述の第1実施形態では、リング部材91、92が、フロントヘッド20と偏心部8aとの間、および、リアヘッド50と偏心部8aとの間にそれぞれ縮装されている場合について説明したが、これには限定されない。図7に示すように、第1実施形態の第1変形例においては、フロントヘッド20の凹部27に嵌め込まれるリング部材391の上下方向長さは、凹部27の深さL1よりも長く、且つ、偏心部8aとフロントヘッド20との間の隙間D1に凹部27の深さL1を加えた長さより短い。したがって、リング部材391のフロントヘッド20の下面に対して偏心部8a側に突出した突出部分391aと、偏心部8aとの間には、隙間が形成されている。同様に、リアヘッド50の凹部57に嵌め込まれるリング部材392についても、リアヘッド50の上面に対して偏心部8a側に突出した突出部分392aと偏心部8aとの間に隙間が形成されている。
本変形例においては、偏心部8aが軸方向へ移動した場合でも、フロントヘッド20やリアヘッド50と接触する前にリング部材391、392の突出部391a、392aと接触するように構成されている。したがって、第1実施形態と同様の効果が得られる。また、リング部材391、392と偏心部8aとが常時接触する場合に比べて、摺動による機械損失を低減できる。
なお、上述の第2実施形態においても、この変形例を適用することができる。
【0067】
また、上述の第1実施形態では、凹部27、57の径方向の長さ、および、リング部材91の径方向の厚みは、いずれも上下方向に関してほぼ均一である場合について説明したが、これには限定されない。図8に示すように、第1実施形態の第2変形例においては、リング部材491、492が嵌め込まれる凹部427、457のシャフト8と対向する壁面が、偏心部8a側に近づくにつれて径方向に広がったテーパ状になっている。すなわち、凹部427、457の径方向の長さは、偏心部8aに近づくにつれて大きくなっている。また、リング部材491、492の外周面もテーパ状になっており、リング部材491、492の径方向の厚みは、偏心部8aに近づくにつれて厚くなっている。つまり、リング部材491、492の偏心部8aとは反対側の端部における径方向の厚みW1は、偏心部8a側の端部における径方向の厚みW2に比べて小さい。
本変形例においては、フロントヘッド20に形成された凹部427、および、リアヘッド50に形成された凹部457にそれぞれ嵌め込まれたリング部材491、492により、第1実施形態と同様の効果が得られる。また、シャフト8の偏心部8a近傍が撓んだ場合に、リング部材491、492の偏心部8a側の端部近傍の比較的厚みの厚い部分が、確実に弾性変形する。
なお、上述の第2実施形態においても、この変形例を適用することができる。
【0068】
さらに、上述の第1および第2実施形態では、シリンダ30(230)の軸方向両端に配置されたフロントヘッド20およびリアヘッド50にそれぞれ形成された凹部27、57に、リング部材91、92が設けられている場合について説明したが、リング部材91、92は、フロントヘッド20およびリアヘッド50のいずれか一方のみに設けられていてもよい。例えば、フロントヘッド20にのみリング部材91が設けられている場合には、偏心部8aはリング部材91によって下方に押圧され、リアヘッド50に上面に押し付けられる。一方、リアヘッド50にのみリング部材92が設けられている場合には、偏心部8aはリング部材92によって上方に押圧され、フロントヘッド20の下面に押し付けられる。
【0069】
また、上述の第1および第2実施形態では、圧縮機構は、フロントヘッド20の外周部が密閉ケーシング2の内周面に固定されることで支持されているが、シリンダ30またはリアヘッド50の外周部が密閉ケーシング2の内周面に固定されることで支持される構成であってもよい。
【0070】
さらに、上述の第2実施形態では、ローラ241とベーン244とを備える圧縮機構を、1シリンダ型のロータリ圧縮機に適用しているが、2シリンダ型のロータリ圧縮機に適用してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明を利用すれば、駆動軸の軸方向変位による騒音や振動、および、径方向への撓みに起因する焼付き、並びに摺動による機械損失を抑制できる。
【符号の説明】
【0072】
1 圧縮機
8 シャフト(駆動軸)
8a 偏心部
20 フロントヘッド(端板部材)
27、57、427、457 凹部
21、51 軸受け孔
30、230 シリンダ
31、231 圧縮室
50 リアヘッド(端板部材)
91、92、391、392、491、492 リング部材
91a、92a、391a、392a、491a、492a 突出部分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動軸の偏心部が配置された圧縮室を有するシリンダと、
前記シリンダの軸方向両端にそれぞれ配置され、前記駆動軸が挿通される軸受け孔を有する2つの端板部材とを備え、
前記2つの端板部材の少なくともいずれか一方において前記軸受け孔の周壁面であって且つ前記偏心部に面した部分には凹部が形成されており、
前記凹部には、前記端板部材の端面に対して前記偏心部側に向かって突出する突出部分を有する樹脂製のリング部材が設けられていることを特徴とする圧縮機。
【請求項2】
前記リング部材と前記偏心部との間には、隙間が形成されていることを特徴とする請求項1に記載の圧縮機。
【請求項3】
前記リング部材が、前記端板部材と前記偏心部との間に縮装されていることを特徴とする請求項1に記載の圧縮機。
【請求項4】
前記リング部材が、前記2つの端板部材の両方に設けられていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の圧縮機。
【請求項5】
前記リング部材の径方向の厚みは、前記偏心部に近付くにつれて厚くなることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の圧縮機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−77636(P2012−77636A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−221700(P2010−221700)
【出願日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】