説明

圧電アクチュエータ及びこれを用いたポンプ

【課題】圧電体とメンブレン部を備えた圧電体支持体とが接合されてなるダイヤフラム構造の圧電アクチュエータにおいて、強度、及びアクチュエータとしての変位量をともに向上させることが可能な圧電アクチュエータを提供することを目的とする。
【解決手段】圧電体1とメンブレン部2aを備えた圧電体支持体2とが接合されてなるダイヤフラム構造の圧電アクチュエータ10であって、圧電体1と圧電体支持体2との間に隙間Sを形成して非接合部分を設けた。圧電体支持体2はシリコンで構成されている。圧電体支持体2は、メンブレン部2aの周囲に厚肉部2bを備え、メンブレン部2a及び厚肉部2bそれぞれに圧電体1に向かって突出する台座3a、3bが形成され、該各台座3a、3bに圧電体1が接合されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電アクチュエータ、詳しくはダイヤフラム構造の圧電アクチュエータ及びこれを用いたポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
圧電アクチュエータは、逆圧電効果すなわち外部から印加された電圧に応じて歪みを発生させる現象を利用したものであり、印加電圧の大きさにより、圧電体の伸縮を制御することができる。圧電体とこれを支持するシリコンからなる圧電体支持体で構成したダイヤフラム構造の圧電アクチュエータでは、通常、メンブレン部を含む圧電体支持体の上面に圧電体を直接接合している。
【0003】
圧電アクチュエータの駆動用電極は、圧電体の上下両面に金属薄膜にて形成されている。これらの電極に電圧を印加すると、圧電体は面内方向に伸縮するが、圧電体に接合されている圧電体支持体は伸縮しないため、結果的に圧電体と圧電体支持体とが一体になって厚み方向に屈曲する。このような圧電アクチュエータの厚み方向の屈曲を利用したポンプを構成することもできる。
【0004】
圧電アクチュエータの変位量を大きくするためには、圧電体をメンブレン部の全面に配置するよりも、圧電体の外形をメンブレン部の外形よりも小さくして圧電体をメンブレン部の中に納め、メンブレン部の周辺部での変形が大きくなるようにした方が、メンブレン部が厚み方向に大きく屈曲する。
【0005】
例えば、特許文献1に開示されている圧電ダイヤフラムポンプの圧電材と真鍮などの弾性板とからなるダイヤフラム(圧電体支持体)は、ダイヤフラムの周囲部を自由端部とする、周囲部を樹脂製部材でシールする、下部電極を兼ねる弾性板の外周部の剛性を中央部の剛性よりも小さくする、下部電極を兼ねる弾性板の面積を圧電材の面積よりも大きくすること等により、変位量を増大させている。
【特許文献1】特開2001−65461号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示されているダイヤフラム構造は、ダイヤフラムがシリコンで構成されたものではなく、金属など弾力性に富んだ材料で構成した場合に実現可能である。シリコンは壊れやすいため、メンブレン部が50μm以下と薄い場合には、その周辺部のみを薄くすると、その箇所で破壊が容易に起こるため実用化できない。また、メンブレン部より内側に圧電体を配置すると、電極にリード線をワイヤボンディングにて接続する際に、メンブレン部が破損するなど、強度に問題がある。
【0007】
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたものであり、圧電体とメンブレン部を備えた圧電体支持体とが接合されてなるダイヤフラム構造の圧電アクチュエータにおいて、強度、及びアクチュエータとしての変位量をともに向上させることが可能な圧電アクチュエータ、及びこの圧電アクチュエータを用いたポンプを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の圧電アクチュエータは、圧電体とメンブレン部を備えた圧電体支持体とが接合されてなるダイヤフラム構造の圧電アクチュエータであって、前記圧電体と前記圧電体支持体との間に非接合部分を設けたことを特徴としている。
【0009】
請求項2に記載の圧電アクチュエータは、請求項1に記載の圧電アクチュエータにおいて、前記圧電体支持体はシリコンで構成されていることを特徴としている。
【0010】
請求項3に記載の圧電アクチュエータは、請求項1又は2に記載の圧電アクチュエータにおいて、前記圧電体と前記圧電体支持体との間に隙間を設けたことを特徴としている。
【0011】
請求項4に記載の圧電アクチュエータは、請求項3に記載の圧電アクチュエータにおいて、前記圧電体支持体は、前記メンブレン部の周囲に厚肉部を備え、前記メンブレン部及び前記厚肉部それぞれに前記圧電体に向かって突出する台座が形成され、該各台座に前記圧電体が接合されていることを特徴としている。
【0012】
請求項5に記載の圧電アクチュエータは、請求項4に記載の圧電アクチュエータにおいて、前記圧電体の周縁部が前記圧電体支持体の厚肉部に形成された台座に接合されていることを特徴としている。
【0013】
請求項6に記載の圧電アクチュエータは、請求項1から5の何れか1項に記載の圧電アクチュエータにおいて、前記圧電体は圧電性セラミックスのバルクであることを特徴としている。
【0014】
請求項7に記載の圧電アクチュエータは、請求項6に記載の圧電アクチュエータにおいて、前記圧電体は圧電セラミックスと電極の交互多層構造からなる積層体であることを特徴としている。
【0015】
請求項8に記載の圧電アクチュエータは、請求項1から5の何れか1項に記載の圧電アクチュエータにおいて、前記圧電体はシリコン基板上に圧電セラミックスが膜状に形成されたものであることを特徴としている。
【0016】
請求項9に記載のポンプは、請求項1から8の何れか1項に記載の圧電アクチュエータを備えたことを特徴としている。なお、ここで、ポンプには、流体を排出及び吸入する機能を備えたものだけではなく、流体を排出又は吸入する機能を備えたものを含む。例えば、流体を排出する機能を備えたものとして各種のインジェクタや注射器等が、流体を吸入する機能を備えたものとして各種の吸入器やスポイト等が挙げられる。
【発明の効果】
【0017】
請求項1に記載の圧電アクチュエータによれば、圧電体とメンブレン部を備えた圧電体支持体とが接合されてなるダイヤフラム構造の圧電アクチュエータが、圧電体と圧電体支持体との間に非接合部分を設けている。電圧が印加された圧電体は面方向に伸縮(面内伸縮)するが、この伸縮は接合されている圧電体支持体により妨げられる。圧電体支持体と接合されていない非接合部分においては圧電体の伸縮が圧電体支持体により直接的に妨げられないので、圧電体と圧電体支持体との間を全面的に渡って接合する従来の圧電アクチュエータに比べて、メンブレン部の厚み方向の撓み量、すなわちアクチュエータとしての変位量が向上する。
【0018】
請求項2に記載の圧電アクチュエータによれば、圧電体支持体はシリコンで構成されている。そのため、半導体製造過程等に用いられる多様な高精度微細加工を適用することができ、高精度かつ形状自由度が高いので、高機能な圧電アクチュエータを安価に得ることが可能となる。
【0019】
請求項3に記載の圧電アクチュエータによれば、圧電体と圧電体支持体との間に隙間を設けている。そのため、圧電体と圧電体支持体との間に非接合部分を容易かつ確実に設けることが可能となる。なお、隙間は、空隙であってもよいが、圧電体と圧電体支持体との間の空間内に弾性変形しやすい樹脂等が充填されてなるものであってもよい。
【0020】
請求項4に記載の圧電アクチュエータによれば、圧電体支持体のメンブレン部に形成された台座に圧電体が接合されている。そのため、圧電体のメンブレン部の厚み方向の変位が直接的にメンブレン部に伝達されるので、アクチュエータとしての変位量を向上することが可能となる。また、圧電体支持体の厚肉部に形成された台座に圧電体が接合されている。そのため、圧電体支持体のメンブレン部のみにて圧電体が接合されている圧電アクチュエータに比べて、圧電体支持体のメンブレン部が破損することを防止することが可能となる。特に、圧電体支持体を金属に比べ強度の低いシリコン等で構成する場合、顕著である。さらに、圧電体支持体の厚肉部に形成された台座に接合されている圧電体の部分にてワイヤボンディングを行うことが可能となり、電極にリード線を電気的に接続することが容易となる。なお、圧電体支持体のメンブレン部に形成された台座は、メンブレン部の一部に形成されたものであり、メンブレン部の中央近傍を含む部分に形成されることが好ましい。また、圧電体支持体のメンブレン部に形成された台座及び厚肉部に形成された台座は、各々1つでも複数であってもよく、メンブレン部と厚肉部とに形成された台座が分離しているのものであっても、部分的に連結されているものであってもよい。
【0021】
請求項5に記載の圧電アクチュエータによれば、圧電体の周縁部が圧電体支持体の厚肉部に形成された台座に接合されている。圧電体支持体の厚肉部は圧電体の伸縮によってはほぼ変位しない。そのため、圧電体支持体の厚肉部に形成された台座に接合された部分の外側周囲部に圧電体が存在する場合であっても、当該部分の圧電体によってアクチュエータとしての変位量はほぼ同じである。よって、前記の場合に比べて、圧電体の面積を抑えることができるので、圧電体に電圧を印加したときの消費電力を抑えることが可能となる。
【0022】
請求項6に記載の圧電アクチュエータによれば、圧電体は圧電性セラミックスのバルクである。そのため、発生駆動力が大きな圧電アクチュエータを得ることが可能となる。
【0023】
請求項7に記載の圧電アクチュエータによれば、圧電体は圧電セラミックスと電極の交互多層構造からなる積層体である。そのため、圧電体に印加する電圧を低下させることができる。
【0024】
請求項8に記載の圧電アクチュエータによれば、圧電体はシリコン基板上に圧電セラミックスが膜状に形成されたものである。そのため、圧電体に印加する電圧を低下させることができる。また、圧電体を容易に形成することができる。例えば、1μmから数μmの薄膜を形成する場合にはスパッタリング法やCVD(Chemical Vapor Deposition:化学気相成長)法を、10μmから数十μmの厚膜を形成する場合にはスクリーン印刷法を用いることができる。
【0025】
請求項9に記載のポンプによれば、請求項1から8の何れか1項に記載の圧電アクチュエータを備える。そのため、これら圧電アクチュエータの有する前述した各効果を備えたマイクロポンプを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明の実施の形態に係る圧電アクチュエータについて、図面に基づき説明する。圧電アクチュエータ10は、図1にその模式断面図を図2にその模式分解斜視図を示すように、圧電体1と圧電体支持体2とが接合されてなるダイヤフラム構造の圧電アクチュエータであって、圧電体1と圧電体支持体2との間に非接合部分としての隙間Sを設けている。
【0027】
圧電体1は、圧電素子部材であり、圧電性セラミックスのバルクである。ここでは、圧電セラミックスとしてチタン酸ジルコン酸鉛(Pb(Zr,Ti)O、以下、略してPZTという。)を用いている。他に圧電セラミックスとして、チタン酸バリウム(BaTiO)、チタン酸鉛(PbTiO)、PZTに少量のLaを添加して得られるチタン酸ジルコン酸ランタン鉛((Pb,La)(Zr,Ti)O)などを用いてもよい。また、圧電体1の厚さは30μmであるが、一般に5μmから200μm程度が好ましい。圧電体1の表面形状は一辺3.2mmの正方形であるが、特に限定されない。ただし、励起される振動モードを単純化させる観点から長方形や正方形を含む矩形であることが好ましい。なお、圧電体1は、圧電セラミックスの単層体であってもよいが、圧電セラミックスと電極の交互多層構造からなる積層体であることが好ましい。これにより、圧電体1自体の厚さ方向の撓み量が同じである場合、電極に印加する電圧が低くなるので好ましい。
【0028】
圧電体支持体2は、その一方の主面(以下、上面という。)側にて圧電体1を支持するとともに、可撓板としてのメンブレン部2aを備えるダイヤフラムである。圧電体支持体2は、シリコン(Si)、詳細には、シリコン単結晶で構成されている。シリコン単結晶を用いることにより、ウェットエッチングによる異方性加工やドライエッチングによる高アスペクト比加工などの微細加工を行うことができ、高精度で形状加工性に優れた圧電体支持体2を得ることができる。
【0029】
圧電体支持体2は、薄肉のメンブレン部2aの周囲を取り囲む厚肉部2bを備えている。メンブレン部2aは、他方の主面(以下、下面という。)に開口部2cを設けることにより、上面側に薄肉のメンブレン部2aを形成している。メンブレン部2aの厚さは20μm、一般に5μmから100μm程度が好ましい。メンブレン部2aの面形状は一辺2.0mmの正方形であるが、圧電体1の表面形状を考慮して定める。
【0030】
圧電体支持体2のメンブレン部2a及び厚肉部2bには、それぞれ圧電体1に向かって突出する台座3a、3bが形成されている。メンブレン部2a及び厚肉部2bの上面にそれぞれ段差が形成されて盛上り形とされた台座3a、3bが設けられている。各台座3a、3bは、その主端面(上面)に圧電体1の一方の主面(以下、下面という。)が接合され、圧電体1を圧電体支持体2に固定するアンカとして機能を有する。メンブレン部2aに形成された台座3aには、圧電体1の中央部が接合される。ここでは、メンブレン部2aに、メンブレン部2aの中央を中心とする一辺1.6mmの正方形の面形状を有する台座3aが1つ形成されている。台座3aの面形状は、主にメンブレン部2aの面形状によって定められる。メンブレン部2aと台座3aの面形状が相似する矩形状であるとき、メンブレン部2aの1辺の長さに対する台座3aの1辺の長さの比が0.7から0.8程度であるとき、メンブレン部2aの厚さ方向の撓み量が最大となることが理論的に算出されるので、前記の比であることが好ましい。厚肉部2bに形成された台座3bには、圧電体1の周縁部である4隅部が接合される。ここでは、厚肉部2bに一辺0.2mmの正方形の面形状を有する台座3bが4つ形成されている。台座3bの面形状や個数は、特に限定されるものではなく、台座3bと圧電体1が十分な強度にて接合されるものであればよい。また、台座3a、3bの高さは約4μmであるが、特に限定されるものではなく、台座3a、3bのその周囲部と圧電体1が接合されることを確実に防ぐことが可能な高さであればよい。
【0031】
このように、圧電体支持体2の上面側の一部に設けた台座3a、3bに圧電体1の下面が接合しているので、圧電体支持体2と圧電体1との間には隙間(ギャップ)Sが設けられることとなる。この隙間Sが設けられた部分が、圧電体支持体2と圧電体1とが接合されていない非接合部分となる。この非接合部分は、メンブレン部2aと厚肉部2bとの境界部分を含むように設けられている。非接合部分をメンブレン部2aと厚肉部2bとの境界部分に設けることにより、当該部分の圧電体支持体2が単独で屈曲するため、圧電体1とともに屈曲する場合にて比べて屈曲しやすくなり、メンブレン部2aの厚さ方向の撓み量がより増されることとなる。
【0032】
圧電体支持体2と圧電体1とは、約1μmの金(Au)薄膜を中間層に用いたAu−Si共晶接合により接合している。他にTi/Auを中間層に用いたTi/Au−Si共晶接合、エポキシ系接着剤を用いた接着、ガラス介在層を用いた陽極接合、Auを用いた熱圧着接合などにより接合してもよい。
【0033】
圧電体1には、当該圧電体1に電圧を印加するための電極4a、4bが両方の主面にそれぞれ形成されている。圧電体1の下面には下部電極4a、他方の主面である上面には上部電極4bがそれぞれ形成されている。ここで、圧電体支持体2と圧電体1とを接合する中間層として用いた金薄膜を下部電極4aとしている。また、上部電極4bとして、圧電体1の上面全体に渡ってAu/Crの薄膜が形成されている。下部電極4aは、圧電体1の下面全面に渡って形成されているが、特に限定されるものではない。なお、電極4a、4bを圧電体1の面全面に渡って形成するよりも、中央部(メンブレン部2aに形成された台座3aと接合される部分)のみに形成する方が、電極面積が小さくなり、メンブレン部2aの厚さ方向の撓み量が同じである場合、電極4a、4bに印加する電圧が低くなり、消費電力が少なくなるので好ましい。また、図示しないが、台座3aと接合される電極4aが、台座3bの内の1つと接合される電極と幅狭の導電通路にて連結されているものであってもよい。この場合、厚肉部2bに形成された台座3bに接合される電極にリード線をワイヤボンディングにより接合することにより、圧電体支持体2の破損可能性を減少させ、電極4aとリード線を電気的に接続することができる。
【0034】
以下、圧電アクチュエータ10の製作プロセスについて説明する。まず、厚さ300μm、両面研磨のシリコンウェハに熱酸化を行い、約0.3μmの酸化膜を形成する。次に、BHF溶液(NH/HF/HO:バッファードフッ素酸溶液)を用いてシリコンウェハ両面に形成された酸化膜のパターニングを行う。シリコンウェハの上面にパターニングされた酸化膜をマスクとして、ICP−RIE(Inductive Coupled Plasma − Reactive Ion Etching:誘導結合プラズマ反応性イオンエッチング)を用いて約4μmの段差加工を行う。ここで形成した段差はPZTバルクのパターニングの際に用いる。次に、シリコンウェハの上面及びPZTバルクの両面に真空蒸着を用いて金薄膜を1μm形成する。Auを形成した面を重ね合わせ、PZT−Si接合を行う。ここで、接合と同時に直流電圧を印加し、PZTの分極処理を同時に行う。PZT−Si接合後、30μmまでPZTの研磨を行う。その後、PZTバルクの上面にアクチュエータ駆動用の上部電極4bを真空蒸着を用いてAu/Crにて形成する。研磨されたPZTバルクをエキシマレーザを用いて加工を行う。ここで、シリコンウェハの上面の段差の外周を加工する。そこで、接合されていない部分は取り除かれ、PZTバルクのパターニングを行う。最後に、TMAH(Tetramethyl ammonium hydroxide:N(CHOH)を用いてシリコンウェハの下面から異方性エッチングを行い、開口部2cを形成する。ここで、CYTOP(旭硝子株式会社製全フッ素透明樹脂、登録商標)を用いてシリコンウェハの上面及びPZTバルクをエッチング液から表面保護を行った。
【0035】
以下、圧電アクチュエータ10の具体的な構造例に対するシミュレーションを図面に基づいて説明する。比較例1は、従来例の圧電アクチュエータであり、図3(a)に示すように、圧電体支持体の上面全体に渡って圧電体の下面を接合している。電極は1辺1.6mmの正方形状である。比較例2は、従来例の圧電アクチュエータを改良したものであり、図3(b)に示すように、圧電体支持体のメンブレン部の中央部に設けた台座の上面のみにて圧電体の下面を接合している。台座及び電極は1辺1.6mmの正方形状である。実施例1は、本願実施形態に係る圧電アクチュエータであり、図4(a)に示すように、圧電体支持体のメンブレン部の中央部及び厚肉部にそれぞれ設けた台座の上面にて圧電体の下面を接合している。電極は圧電体の上下両面全面に渡って形成されている。メンブレン部の中央部の台座は1辺1.6mmの正方形状である。厚肉部の台座は1辺0.2mmの正方形状であり、圧電体の4隅に対応するように形成されている。一方、実施例2は、本願実施形態の変形に係る圧電アクチュエータであり、図4(b)に示すように、実施例1とは、電極が1辺1.6mmの正方形状であることのみが異なっている。各例とも、圧電体の厚さは30μmであり、圧電体支持体のメンブレン部は厚さ20μmで1辺2.0mmの正方形状である。
【0036】
各例に対するシミュレーションの計算結果は、図5に示される。図5において、横軸はメンブレン部の中央からの面内方向の距離(単位mm)を、縦軸は比較例1の場合を1とした場合の相対値にてメンブレン部の上下方向の変位量をそれぞれ表している。従来例の圧電アクチュエータを示す比較例1に比べて、本実施形態に係る圧電アクチュエータ及びその変形に係る圧電アクチュエータを示す実施例1及び実施例2において、メンブレン部の中央部の変位量が大幅に向上していることが理解される。実施例2は、実施例1と比較するとメンブレン部の中央部の変位量が僅かに向上することが理解される。なお、従来例の圧電アクチュエータを改良した比較例2は、実施例1及び実施例2と比較するとメンブレン部の中央部の変位量が大きいことが理解される。しかし、前述したように、シリコンで構成される圧電体支持体からなる比較例2は、メンブレン部が容易に破損するため、実用的でない。
【0037】
以上説明したように、この圧電アクチュエータ10によれば、圧電体1と圧電体支持体2との間に非接合部分を設けている。圧電体支持体2と接合されていない非接合部分においては圧電体1の面内方向の伸縮(面内伸縮)が圧電体支持体2により直接的に妨げられないので、圧電体1と圧電体支持体2との間を全面的に渡って接合する従来の圧電アクチュエータに比べて、メンブレン部2aの厚み方向の撓み量、すなわちアクチュエータとしての変位量が向上する。また、圧電体1と圧電体支持体2との間に隙間Sを設けているので、圧電体1と圧電体支持体2との間に非接合部分を容易かつ確実に設けることができる。
【0038】
また、圧電体支持体2のメンブレン部2aに形成された台座3aに圧電体1が接合されている。そのため、圧電体1のメンブレン部2aの厚み方向の変位が直接的にメンブレン部2aに伝達されるので、アクチュエータとしての変位量を向上することが可能となる。また、圧電体支持体2の厚肉部2bに形成された台座3bに圧電体1が接合されている。そのため、圧電体支持体2のメンブレン部2aのみにて圧電体1が接合されている圧電アクチュエータに比べて、圧電体支持体2のメンブレン部2aが破損することを防止することが可能となる。さらに、圧電体支持体2の厚肉部2bに形成された台座3bに接合されている圧電体1の部分にてワイヤボンディングを行うことが可能となり、電極4a、4bにリード線(不図示)を電気的に接続することが容易となる。
【0039】
また、圧電体1の周縁部が圧電体支持体2の厚肉部2bに形成された台座3bに接合されている。圧電体支持体2の厚肉部2bは圧電体1の伸縮によってはほぼ変位しない。そのため、圧電体支持体2の厚肉部2bに形成された台座3bに接合された部分の外側周囲部に圧電体1が存在する場合であっても、当該部分の圧電体1によってアクチュエータとしての変位量はほぼ同じである。よって、前記の場合に比べて、圧電体1の面積を抑えることができるとともに、圧電体1に電圧を印加したときの消費電力を低下させることが可能となる。
【0040】
また、圧電体1はPZTのバルクである。そのため、薄膜PZTや厚膜PZTに比べて発生駆動力が大きな圧電アクチュエータ10を得ることが可能となる。
【0041】
なお、本実施の形態で示した圧電アクチュエータ10の構成は、本発明に係る圧電アクチュエータの一態様にすぎず、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の変形実施が可能である。例えば、圧電体1がPZTのバルクである場合の例を示した。しかしながら、圧電体1がシリコン基板上に圧電セラミックスが膜状に形成されたものであってもよい。例えば、シリコン単結晶基板上に厚さ数μmのPZT薄膜をスパッタリング法やMOCVD(Metal Organic Chemical Vapor Deposition:有機金属化学気相蒸着)法等により形成するものであっても、シリコン単結晶基板上に厚さ数十μmのPZT厚膜をスクリーン印刷法等により形成するものであってもよい。圧電アクチュエータはユニモルフ型、バイモルフ型、モノモルフ型及び積層型の何れであってもよい。また、圧電体支持体2がシリコンで構成される場合の例を示したが、圧電体支持体2が金属材料等から構成されるものであってもよい。
【0042】
また、圧電体1と圧電体支持体2との間に隙間Sを形成することにより非接合部分を設ける場合の例を示した。しかしながら、非接合部分を他の手段にて設けるものであってもよい。例えば、圧電体支持体2の上面側に台座3a、3bを設けることなく上面を平面状とし、下部電極4aを兼ねる接合用の中間層としての金薄膜を圧電体1の下面に部分的に形成するものであってもよい。これにより、金薄膜が形成されていない部分にては、圧電体1と圧電体支持体2とは接合されずに、非接合部分が設けられることとなる。
【0043】
以下、本発明の実施の形態に係るマイクロポンプ(ポンプ)20について、図面に基づき説明する。マイクロポンプ20は、図6にその模式断面図を示すように、前記実施の形態に係る圧電アクチュエータ10を備えたものである。マイクロポンプ20は、駆動部となる圧電アクチュエータ10と、吸入流路21及び排出流路22が形成された基体部23と、吸入弁24及び排出弁25を備えている。
【0044】
基体部23は、シリコンからなるものであり、圧電アクチュエータ10の開口部2cからなるキャビティCに外部(図中下方)から吸入される流体の流路となる吸入流路21と、キャビティCから外部へ排出される流体の流路となる排出流路22が形成されている。圧電アクチュエータ10の下面と基体部23の上面とは接合されている。吸入弁24はキャビティCから吸入流路21を介して流体が逆流することを、排出弁25は、排出流路22を介してキャビティCに流体が逆流することを、それぞれ防止する逆流防止弁としての機能を有する。
【0045】
このように構成されたマイクロポンプ20は、圧電アクチュエータ10の電極4a、4bに駆動電圧が印加されることにより、メンブレン部2aが図中上下方向に移動することにともない、キャビティC内の容積、ひいては圧力が変動することにより、キャビティC内に流体を吸入又はキャビティC内の流体を排出する。
【0046】
なお、本実施の形態で示したマイクロポンプ20の構成は、本発明に係るポンプの一態様にすぎず、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の変形実施が可能である。また、本実施の形態で示した圧電アクチュエータ10は、マイクロポンプ20以外にも、医療や分析の分野から半導体製造分野などの広範囲で用いられる各種のマイクロデバイスを駆動するアクチュエータとして用いることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明の実施の形態に係る圧電アクチュエータ10を示す模式断面図である。
【図2】圧電アクチュエータ10を示す模式分解斜視図である。
【図3】シミュレーションに用いた構造の模式断面図を示す図であり、(a)は比較例1を、(b)は比較例2を示す。
【図4】シミュレーションに用いた構造の模式断面図を示す図であり、(a)は実施例1を、(b)は実施例2を示す。
【図5】シミュレーション結果を示すグラフである。
【図6】本発明の実施の形態に係るマイクロポンプ20を示す模式断面図である。
【符号の説明】
【0048】
1 圧電体
2 圧電体支持体
2a メンブレン部
2b 厚肉部
2c 開口部
3a 台座
3b 台座
4a 下部電極
4b 上部電極
10 圧電アクチュエータ
20 マイクロポンプ(ポンプ)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電体とメンブレン部を備えた圧電体支持体とが接合されてなるダイヤフラム構造の圧電アクチュエータであって、
前記圧電体と前記圧電体支持体との間に非接合部分を設けたことを特徴とする圧電アクチュエータ。
【請求項2】
前記圧電体支持体はシリコンで構成されていることを特徴とする請求項1に記載の圧電アクチュエータ。
【請求項3】
前記圧電体と前記圧電体支持体との間に隙間を設けたことを特徴とする請求項1又は2に記載の圧電アクチュエータ。
【請求項4】
前記圧電体支持体は、前記メンブレン部の周囲に厚肉部を備え、前記メンブレン部及び前記厚肉部それぞれに前記圧電体に向かって突出する台座が形成され、該各台座に前記圧電体が接合されていることを特徴とする請求項3に記載の圧電アクチュエータ。
【請求項5】
前記圧電体の周縁部が前記圧電体支持体の厚肉部に形成された台座に接合されていることを特徴とする請求項4項に記載の圧電アクチュエータ。
【請求項6】
前記圧電体は圧電性セラミックスのバルクであることを特徴とする請求項1から5の何れか1項に記載の圧電アクチュエータ。
【請求項7】
前記圧電体は圧電セラミックスと電極の交互多層構造からなる積層体であることを特徴とする請求項6に記載の圧電アクチュエータ。
【請求項8】
前記圧電体はシリコン基板上に圧電セラミックスが膜状に形成されたものであることを特徴とする請求項1から5の何れか1項に記載の圧電アクチュエータ。
【請求項9】
請求項1から8の何れか1項に記載の圧電アクチュエータを備えたことを特徴とするポンプ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−54367(P2008−54367A)
【公開日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−225040(P2006−225040)
【出願日】平成18年8月22日(2006.8.22)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2006年2月24日 立命館大学主催の「立命館大学大学院理工学研究科修士論文公聴会」において文書をもって発表
【出願人】(593006630)学校法人立命館 (359)
【Fターム(参考)】