説明

圧電ファイバおよびそれを用いた非破壊検査方法

【課題】構造体の強度を低下させることがなく、かつ、非破壊検査を効率よく行える圧電ファイバおよびそれを用いた非破壊検査方法を提供する。
【解決手段】導電性があり線状の金属コア1を芯材とし、その周囲にセラミックス圧電材料2を被覆して外層材とした棒状の圧電ファイバAを、構造体Sに取付け、圧電ファイバAから、超音波振動を面状で発生させる。2本の圧電ファイバA,A´を、超音波の発振用および受振用として用いると、四角形の領域で探傷できる。また、金属コア1が強度部材として機能するので、構造体Sに埋め込んでも構造体Sの強度を低下させない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電ファイバおよびそれを用いた非破壊検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
非破壊検査については、超音波探傷技術が従来より用いられている。
この超音波探傷技術は、圧電素子を構造体の表面に貼り付けたり、内部に埋め込んで設置し、圧電素子から構造体に超音波振動を与えて、その反射波を観測するというものである。すなわち、内部に傷がある場合と無い場合とでは、反射して戻ってくる反射波の時間が違ってくるので、これによって内部のひび割れや、鋳物の巣、溶接の良否などを判定することができる(非特許文献1)。
【0003】
しかるに、上記のように、圧電素子を構造体の内部に埋め込むと、構造体自体の強度が低下するという問題がある。
また、振動は発信デバイスから発信し、受信デバイスで検出するので探傷できる部分は線状にしかならない。よって、一定の面積を診断するには、発振器と受振器を走査しなければならず、診断に大変な時間がかかり、効率が悪いものであった。
【0004】
一方、圧電素子については、従来から水晶共振子などが用いられていたが、近年では、強誘電体セラミックスであるチタン酸ジルコン酸鉛系の振動子が用いられるようになっている。このチタン酸ジルコン酸鉛系振動子は、変換効率が高く、送波と受波を兼用できるという利点がある(非特許文献2)。
【0005】
ちなみに、チタン酸ジルコン酸鉛系振動子を使った撓みアクチュエータとしては、つぎの従来技術がある(特許文献1)。
振動子は、白金やステンレス鋼などの金属コアを芯線として、その周囲にチタン酸ジルコン酸鉛結晶を被覆しており、この振動子を炭素繊維強化プラスチックの積層物に多層に埋め込んだ構造としている。そして、幾つかの金属コアのみを長手方向に伸縮させて、曲げを発生させ、この曲げ変形力をアクチュエータとして利用しようとしたものである。
しかしながら、この従来技術では、実際には曲げ変形はほとんど発生せず、仮に曲げ変形が発生しても、その変形の伝播は限られたものになるので、実用性のある技術ではなかった。
【0006】
【非特許文献1】図解電気の大百科 474〜475頁 平成9年12月20日第1版第2刷発行(株)オーム社
【非特許文献2】日本の最新技術シリーズ(12) センサ百科 160〜162頁 日刊工業新聞社 1983年7月25日発行
【特許文献1】特開2003‐328266号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記事情に鑑み、構造体の強度を低下させることがなく、かつ、非破壊検査を効率よく行える圧電ファイバおよびそれを用いた診断方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1発明の圧電ファイバは、導電性を有する線状の金属コアを芯材とし、その周囲にセラミックス圧電材料の外層材を被覆して棒状に構成したことを特徴とする。
第2発明の圧電ファイバは、第1発明において、前記金属コアが1本、前記外層材の中に入れられていることを特徴とする。
第3発明の圧電ファイバは、第1発明において、前記金属コアが2本並列に、前記外層材の中に入れられていることを特徴とする。
第4発明の非破壊検査方法は、請求項1の圧電ファイバを、構造体に取付け、該圧電ファイバに通電して超音波振動を面状で発生させることを特徴とする。
第5発明の非破壊検査方法は、請求項1の圧電ファイバを、構造体の被検査面を挟む超音波振動の発振位置と受振位置に取り付けて、発振位置の圧電ファイバに通電して超音波振動を面状で発生させ、受振位置の圧電ファイバで超音波振動を受振することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
第1発明によれば、棒状の圧電ファイバの全長から半径方向へ超音波振動を発振させ、また受振させることができるため、一定の面積を有する領域を一度に探傷することができる。また、金属コアは強度部材として機能するので、検査対象である構造体に埋め込んだとしても構造体の強度を低下させることがない。よって、常時設置型の検査も行える。
第2発明によれば、金属コアは導電性を有しているので、この金属コアを介して通電すれば、セラミックス圧電材料を振動させ探傷に利用させることができる。また、構造的には一本の金属コアを芯材とする単純なものであるから、製造が容易である。
第3発明によれば、金属コアが2本とも外層材の中に配置されているので、セラミックス圧電材料を、2本の金属コア間で往復する方向にのみ振動させることができる。このようにして振動に指向性が与えられると、振動をより遠くまで伝播させることができ、より広い面積での探傷が可能となる。
第4発明によれば、圧電ファイバは棒状であって長いので、面状に超音波振動を発生させることができる。このため、広い面積の探傷を一度に行え、検査効率が高くなる。
第5発明によれば、超音波振動の発振側も受振側も棒状に長い圧電ファイバを用いるので、四角形の領域内を一度に探傷することができる。よって、検査効率が一層高くなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
つぎに、本発明の実施形態を図面に基づき説明する。
まず、本発明の非破壊検査に用いる圧電ファイバを説明する。
図3は本発明における圧電ファイバの一例を示す説明図である。図4は本発明における圧電ファイバの他の例を示す説明図である。
【0011】
図3の(A)図に示す圧電ファイバAは、金属コア1を芯材とし、その周囲にセラミックス圧電材料2(以下、圧電セラミックス2という)を被覆して外層材としたものである。
金属コア1としては、白金やパラジウム、銀パラジウム合金などの導電性があり、外装の圧電性セラミックス材2の焼結温度に耐え、柔軟性あるいは非脆性を有する線状の金属が用いられる。直径は外装材の厚みを考慮し、必要な分極電圧、性能により、0.05〜0.8mm程度の幅で設計を行う必要がある。
圧電セラミックス2はPZT材料、チタン酸ジルコン酸鉛系材料や、BNT材料チタン酸ニオブ酸ビスマス系材料が用いられる。被覆の方法は任意であり、公知の形成方法のいずれを用いてもよい。
外層材の外径は、0.1〜1mm位が好ましく、例えば、0.1〜0.2mmの物がCFRPなどの複合材料の中に埋め込む場合、市販されているCFRPプリプレグ1枚、もしくは2枚の中に埋め込むことができるため、容易に埋め込むことができ、埋め込みの影響を軽減することができる。また直径は小さいほど構造材に埋め込んだとき、構造材の強度が低下しなくてよい、また、長さも任意である。
【0012】
図3の(B)図に示すように、1本の金属コア1が圧電セラミックス層2の中心にある場合、圧電セラミックス層2の外周に導電性の被膜を形成し外部電極3とすることがある。
この場合、金属コア1と外部電極3間に一定周波数の電圧を印加すると、圧電セラミックス層2が同じ周波数で振動し、その振動が放射状に外界に向けて振動が伝播される。このような外部電極3を用いた電圧ファイバAは、非導電性の構造体に埋め込んだり、導電性の構造体であっても、その表面に接着して使用する場合に適している。また外部電極3をグランドに落とせば、内部の信号ライン1は外部からの電磁的なノイズを遮断し、高感度なセンサにすることができる。
ただし、構造体が導電性であり、その構造体に埋め込んで使用する場合は、金属コア1と周囲の構造体との間で電圧を印加すると圧電セラミックス層2に振動が発生するので、この場合は、外部電極3を用いなくてもよい。
【0013】
図4の(A)図は他の実施形態の圧電ファイバBを示している。
芯線である金属コア1,1は2本用いられており、圧電セラミックス層2の中で平行に配置されている。金属コア1や圧電セラミックス層2の材質は、前記実施形態と同様である。
この実施形態では、2本の金属コア1,1間に電圧を印加すると、その間の圧電セラミックス層2が印加電圧と同じ周波数で振動を発生する。また、このため、第1実施形態で用いた外部電極3は必ずしも必要がない。
本実施形態では、2本の金属コア1,1間の部分の圧電セラミックス層2に振動が発生するので、振動が2本の金属コア1,1の並ぶ面に沿って発振する指向性を有する点に特徴がある。
【0014】
つぎに、本発明の非破壊検査方法を説明する。
図1は本発明の一実施形態に係る非破壊検査方法を示している。
(A)図に示すように、構造体Sの表面に2本の圧電ファイバA,Aを平行に並べて接着剤で固定する。一方の圧電ファイバAを発振側とし、他方の圧電ファイバA´を受振側として用いる。発振側の圧電ファイバAに通電して超音波振動を発生させると、圧電ファイバAは長いので、振動は面状に伝播していって、受振側の圧電ファイバA´がその振動を受振し、振動に応じた電圧を発生する。
【0015】
振動の伝わり方は構造材Sに傷等が有るか無いかによって変る。すなわち、振動発振位置と受振位置との間に、亀裂や破断等があると、振動発振位置から伝わってきた超音波が亀裂部分で回り込んだりするため、受振信号に変化が生じる。この生じた変化により、内部亀裂の位置や大きさを検出することが可能となる。したがって、受振側の圧電ファイバA´の起電力波形を観察することで、傷の有無、大きさ等を判定できる。また、定期的に行うと、内部の亀裂の進行や、疲労破壊の状態をモニタリングを行える。
そして、本実施形態のように、超音波振動を面状で発生させると、一度に一定の面積を有する四角形の領域内の診断ができるので、診断能率が高くなる。
なお、発振側または受振側にのみ本実施形態の長い圧電ファイバAを用い、他方に点状に設置する従来の圧電素子を用いてもよい。この場合でも、探傷面積は三角形になるので、従来の線状の探傷面積よりは効率のよい診断が行える。
【0016】
図1の(B)図は金属コア1を2本用いた圧電ファイバBを2本用いて構造材Sの表面に距離を離して貼付したものである。
この場合も、(A)図の方法と同様に、一定の四角形の面積を診断することができる。また、発振側または受振側にのみ圧電ファイバBを用い、他方に点状の圧電素子を用いて、三角形状の面積を探傷することもできる。
本実施形態の圧電ファイバBでは、発生する振動に指向性があるので、より長い距離を伝播させることができる。このため、より広い面積での診断が可能である。また、2本の圧電ファイバB,B´を所望の場所に設置すれば、ある特定の場所のみを指向した超音波振動を発振し、振動状態のモニタリングを行うことが可能となる。
【0017】
図2は本発明の他の実施形態に係る非破壊検査方法を示している。
(A)図は、構造材Sの内部に2本の孔を距離をあけて穿孔し、それぞれの中に1本ずつ圧電ファイバA,A´を埋め込んだものである。一対の圧電ファイバA.A´は互いに離間し、かつ平行である。
(B)図は2本の金属コア1,1を用いる圧電ファイバBを2本離間して埋め込んだものである。
【0018】
上記2つの診断方法では、常時圧電ファイバA、Bを埋め込んで使用できるので、構造体を通常の使用に供しながら、常時診断が可能となるので、亀裂等の発生を初期段階で発見することができる。
また、これらの実施形態は、金属コア1が、強度部材として機能するので、孔をあけたとしても構造体の強度の低下を極力防止することができる。
【実施例】
【0019】
つぎに、図5に基づき実験例を説明する。
圧電ファイバAは、内部に直径0.05mmの白金コアを持つ直径0.2mmのPZT材料からなる圧電材料を形成し、さらにその表面に、スパッタリングや無電解めっき、シルバーペーストなどを用いて導電性皮膜を形成したものである。
上記の圧電ファイバAを1本、長さ300mm、幅50mm、厚み4mmのアルミニウム板に貼り付けている。この圧電ファイバAの金属コアと導電性皮膜との間にバースト信号を加え、圧電ファイバAにd33方向の振動を励振した。発生した振動は、アルミ板上を進行していく。その時の振動を圧電ファイバAから30mm、100mmはなれた位置で圧電デバイスCh1〜Ch4を用いて検出した。圧電デバイスCh1〜Ch3は亀裂(Crack)をはさんで取付け、圧電デバイスCh4は正常な板部分に取り付けた。
検出結果を図6に示す。同図に示すように、亀裂がない場合は超音波信号が直接伝わってくるため、検出デバイスからの信号が大きく出ているが、亀裂が進行してくると、亀裂により、超音波に回り込みが発生するため、信号の伝播が遅れてくる。また信号自体も亀裂により、超音波振動が弱められるため、信号の大きさも弱くなっていっているのがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0020】
本発明は、構造体に生じた亀裂の検出や亀裂の進行の検出を行なうことができるため、ビル、陸橋等の構造体から、航空機、自動車等の幅広い社会インフラに利用することができ、構造体内部の疲労破壊防止、損傷個所診断を行い構造体の信頼性の向上とメンテナンスコストの軽減が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の第1実施形態に係る非破壊検査方法を示す説明図である。
【図2】本発明の第2実施形態に係る非破壊検査方法を示す説明図である。
【図3】本発明における圧電ファイバの一例を示す説明図である。
【図4】本発明における圧電ファイバの他の例を示す説明図である。
【図5】実験例の説明図である。
【図6】実験結果を示すグラフである。
【符号の説明】
【0022】
1 金属コア
2 セラミックス圧電材料
3 外部電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性を有する線状の金属コアを芯材とし、その周囲にセラミックス圧電材料の外層材を被覆して棒状に構成した
ことを特徴とする圧電ファイバ。
【請求項2】
前記金属コアが1本、前記外層材の中に入れられている
ことを特徴とする請求項1記載の圧電ファイバ。
【請求項3】
前記金属コアが2本並列に、前記外層材の中に入れられている
ことを特徴とする請求項1記載の圧電ファイバ。
【請求項4】
請求項1の圧電ファイバを、構造体に取付け、該圧電ファイバに通電して超音波振動を面状で発生させる
ことを特徴とする非破壊検査方法。
【請求項5】
請求項1の圧電ファイバを、構造体の被検査面を挟む超音波振動の発振位置と受振位置に取り付けて、発振位置の圧電ファイバに通電して超音波振動を面状で発生させ、受振位置の圧電ファイバで超音波振動を受振する
ことを特徴とする非破壊検査方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−124276(P2007−124276A)
【公開日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−313715(P2005−313715)
【出願日】平成17年10月28日(2005.10.28)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)文部科学省委託研究「科学技術総合研 究委託(金属コア入り圧電ファイバの実用化)」産業活力再生特別措置法30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(592129486)株式会社長峰製作所 (18)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】