説明

圧電ポンプの駆動回路及びこれを内蔵した駆動回路内蔵圧電ポンプ

【課題】駆動電圧の電圧軸成分の分割数を増やすことなく、騒音の影響を低減することができる圧電ポンプの駆動回路を提供すること。
【解決手段】デジタル信号生成部520は、電圧軸成分が等間隔で分割された駆動制御用信号を正弦波デジタル信号としたときに、正弦波デジタル信号の電圧軸成分を、正弦波デジタル信号から導かれる参照信号波形の接線勾配の絶対値が相対的に大きい第1の領域と、上記参照信号波形の接線勾配の絶対値が相対的に小さい第2の領域との少なくとも2つの領域に分け、上記電圧軸成分の第1の領域を、上記正弦波デジタル信号の分割間隔よりも大きい間隔で等間隔に分割し、上記電圧軸成分の第2の領域を、上記正弦波デジタル信号の分割間隔よりも小さい間隔で等間隔に分割した、重み付け分割信号を生成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電ポンプの駆動回路及びこれを内蔵した駆動回路内蔵圧電ポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
駆動回路内蔵圧電ポンプは、単一のハウジング内に、表裏の少なくとも一面にポンプ室を形成する圧電振動子と、この圧電振動子に対する駆動回路を有する駆動基板とを収納し、圧電振動子を振動させることによりポンプ室内に液体を給排してポンプ作用を得るものである。具体的には、圧電振動子の両面に設けられた電極間に駆動回路により駆動電圧を印加すると圧電振動子が正逆に弾性変形(振動)し、ポンプ作用が得られる(特許文献1、2)。
【0003】
駆動回路により印加する電圧波形はアナログ波形である理想的な正弦波であることが好ましいが、実際は回路規模の制約等で理想正弦波の実現は難しく、矩形波である正弦波デジタル信号をコンバートした擬似正弦波を用いる(DAC)。この正弦波デジタル信号は、電圧軸成分に関して等間隔にサンプリング(分割)されたものが用いられる。
【特許文献1】特願2007−175905号
【特許文献2】特願2008−183144号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、擬似正弦波はあくまでも矩形波である正弦波デジタル信号の合成波に過ぎず可聴帯域である高調波成分を含むので、圧電ポンプ駆動時には圧電振動子の振動による騒音が発生する。特に、電圧軸成分の分割間隔が騒音に与える影響は大きく、分割が粗いと圧電振動子がスピーカとして機能して騒音が極めて大きくなってしまう。
【0005】
この騒音の問題は、理論的には正弦波デジタル信号の電圧軸成分の分割間隔を小さくすることにより解決できるが、上述した回路規模の制約等から限界がある。そこで、電圧軸方向の分割間隔を増やすことなく騒音を低減できる圧電ポンプの駆動回路の開発が望まれている。
【0006】
本発明は、上記の問題意識に基づいてなされたものであり、圧電振動子に印加する駆動電圧の電圧軸成分の分割数を増やすことなく、騒音の影響を低減することができる圧電ポンプの駆動回路及びこれを内蔵した駆動回路内蔵圧電ポンプを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、正弦波デジタル信号の電圧軸成分には、騒音に影響を与え易い領域(高調波)と与え難い領域(低調波)があり、これらの領域を「参照信号波形の接線勾配」により区別できることを見出した。本明細書で「参照信号波形」とは、正弦波デジタル信号を、その電圧軸成分について等間隔で分割し、分割した各ポイントのうち隣接するポイントを結んでできる近似波形を意味する。従って、「参照信号波形の接線勾配」とは、隣接するポイント間を結んでできる直線の傾きを意味し、正弦波デジタル信号の立ち上がり角度(又は立ち下がり角度)と表現することもできる。
【0008】
そして本発明者らは、正弦波デジタル信号の電圧軸成分を、参照信号波形の接線勾配が大きい領域(立ち上がり角度が急峻な領域、0°近辺)を比較的粗い間隔で分割し、参照信号波形の接線勾配が小さい領域(立ち上がり角度が緩やかな領域、90°近辺)を比較的細かい間隔で分割することにより、騒音への影響が低減できる重み付け分割信号を生成できることを見出した。更に本発明者は、粗い間隔で分割した領域と細かい間隔で分割した領域の分割状態を平滑化することにより、より高い騒音除去効果が得られることを見出したのである。
【0009】
即ち、本発明の圧電ポンプの駆動回路は、表裏の少なくとも一面にポンプ室を形成する圧電振動子を振動させることにより上記ポンプ室内に液体を給排してポンプ作用を得る圧電ポンプの駆動回路において、直流低電圧信号から、駆動制御用の重み付け分割信号を生成するデジタル信号生成部と、上記重み付け分割信号を用いて高電圧駆動信号を生成し、該高電圧駆動信号を上記圧電振動子に与える高電圧制御部とを有し、上記デジタル信号生成部は、電圧軸成分が等間隔で分割された駆動制御用信号を正弦波デジタル信号としたときに、上記正弦波デジタル信号の電圧軸成分を、該正弦波デジタル信号から導かれる参照信号波形の接線勾配の絶対値が相対的に大きい第1の領域と、上記参照信号波形の接線勾配の絶対値が相対的に小さい第2の領域との少なくとも2つの領域に分け、上記電圧軸成分の第1の領域を、上記正弦波デジタル信号の分割間隔よりも大きい間隔で等間隔に分割し、上記電圧軸成分の第2の領域を、上記正弦波デジタル信号の分割間隔よりも小さい間隔で等間隔に分割した、重み付け分割信号を生成することを特徴とする。
【0010】
上記デジタル信号生成部は、上記正弦波デジタル信号の電圧軸成分を、該正弦波デジタル信号から導かれる参照信号波形の接線勾配の絶対値が相対的に最も大きい第1の領域から最も小さい第nの領域(n=4以上)に分け、電圧軸成分の分割数を第1の領域を最も大きい間隔で分割し、以下次第に当該間隔を漸次小さくして第nの領域で当該間隔を最も小さくする重み付け分割信号を生成し、かつ、重み付けを行わないときの電圧軸成分の全分割数の総和と重み付けを行ったときの各領域の全分割数の総和を等しくすることが好ましい。
【0011】
また、本発明の圧電ポンプの駆動回路は、表裏の少なくとも一面にポンプ室を形成する圧電振動子を振動させることにより上記ポンプ室内に液体を給排してポンプ作用を得る圧電ポンプの駆動回路において、直流低電圧信号から、駆動制御用の重み付け分割信号を生成するデジタル信号生成部と、上記重み付け分割信号を用いて高電圧駆動信号を生成し、該高電圧駆動信号を上記圧電振動子に与える高電圧制御部とを有し、上記デジタル信号生成部は、電圧軸成分が等間隔で分割された駆動制御用信号を正弦波デジタル信号としたときに、上記正弦波デジタル信号の電圧軸成分を、該正弦波デジタル信号から導かれる参照信号波形の接線勾配の絶対値が相対的に最も大きい第1の領域と、上記参照信号波形の接線勾配の絶対値が相対的に二番目に大きい第2の領域と、上記参照信号波形の接線勾配の絶対値が相対的に最も小さい第3の領域とに分け、上記電圧軸成分の第1の領域を、上記正弦波デジタル信号の分割間隔よりも大きい間隔で等間隔に分割し、上記電圧軸成分の第2の領域を、上記正弦波デジタル信号の分割間隔と同一の間隔で分割し、上記電圧軸成分の第3の領域を、上記正弦波デジタル信号の分割間隔よりも小さい間隔で等間隔に分割した、重み付け分割信号を生成することを特徴とする。
【0012】
上記デジタル信号生成部は、重み付け分割信号の分割状態を指示する分割指示信号を生成する重み付け分割部と、この分割指示信号に従って直流低電圧信号を重み付け分割信号にDA変換するDAC部とを有するのが実際的である。
【0013】
上記デジタル信号生成部は、上記重み付け分割信号の電圧軸成分の第1、第2及び第3の領域の分割状態を平滑化する平滑化部を有することが好ましい。この場合、上記重み付け分割信号の電圧軸成分の第2の領域の分割間隔は、上記第1及び第3の領域の分割間隔の平均であることが好ましい。更に、平滑化前における上記電圧軸成分の第1の領域の分割数と第3の領域の分割数の総和と、平滑化後における上記電圧軸成分の第1の領域の分割数と第3の領域の分割数の総和は同一であることが好ましい。
【0014】
本発明の駆動回路内蔵圧電ポンプは、上述のいずれかの駆動回路を有する駆動基板と、上記圧電振動子とを単一のハウジング内に収納したものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、正弦波デジタル信号から導かれる参照信号に基づいて、正弦波デジタル信号の電圧軸成分を複数の領域に分け、電圧軸成分の変動が粗い領域を大きい分割間隔で、電圧軸成分の変動が細かい領域を小さい分割間隔でそれぞれ分割した重み付け分割信号を生成するので、重み付け分割信号及びこれを要素とする高電圧駆動信号(擬似正弦波)が理想的な正弦波に近くなる結果、駆動時における圧電振動子の騒音を低減することができる。また、全体としての電圧軸成分の分割数は増えないので、回路規模の増大等の問題も生じない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
(実施の形態1)
図1〜図4は、本発明の実施の形態1に係る駆動回路内蔵圧電ポンプ(以下単に「圧電ポンプ」という)100の構成を示す図である。
【0017】
圧電ポンプ100は、圧電振動子10と、ハウジング20と、駆動基板50を備えている。ハウジング20は、アッパハウジング20Aと、メインハウジング20Bと、ロアハウジング20Cからなり、メインハウジング20Bには、アッパハウジング20A側に開口させて円形凹部41が形成され、ロアハウジング20C側に開口させて駆動基板収納凹部(以下単に「基板収納凹部」という)51が形成されている(図2、図4)。円形凹部41周縁には、Oリング収納環状溝41aが同心に形成されている。
【0018】
圧電振動子10は、円形の金属性シム(以下単に「シム」という)11と、このシム11の上面(アッパハウジング20A側の面)に設けられた円形の圧電体12を有しており、圧電振動子10とアッパハウジング20Aの間に大気室Aが形成され、圧電振動子10とメインハウジング20Bの間にポンプ室Pが形成されている。尚、シム11の上面と下面にそれぞれ圧電体を設けたバイモルフ型の圧電振動子とすることもできる。
【0019】
シム11は、厚さ30μm〜300μm程度のステンレス又は42アロイ等からなる導電性金属板である。圧電体12は、表裏両面に電極が形成された厚さ50μm〜300μm程度のチタン酸ジルコン酸鉛(PZT:Pb(Zr,Ti)O3)等からなり、その表裏方向に分極処理が施されている。圧電体12の表裏面に高電圧駆動信号(交番電界)が与えられると、圧電体12の一方の面が伸びて他方の面が縮むサイクルが繰り返され、シム11(圧電振動子10)が振動する。
【0020】
圧電振動子10には、圧電体12の表面周縁部に、環状金属板18に半径方向に突出させて一体形成した配線接続突起18cに第1リード線14が接続されている。また、シム11に半径方向に突出させて一体に形成した配線接続突起11cには、第2リード線15が接続されている。
【0021】
メインハウジング20BのOリング収納環状溝41aには、Oリング27が挿入され、円形凹部41内には、圧電振動子10が挿入されている。そして、圧電振動子10の周縁上にゴム製の環状ガイド28を介在させてメインハウジング20B上にアッパハウジング20Aを被せることにより、圧電振動子10が液密に挟着支持されている。
【0022】
メインハウジング20Bには、円形凹部41内に、圧電振動子10(円形凹部41)の平面中心に対する偏心対称位置に位置させて、吸入側液溜室42と吐出側液溜室43が形成されている。吸入側液溜室42とポンプ室P、吐出側液溜室43と大気室Aの間にはそれぞれ、吸入側逆止弁32と吐出側逆止弁33が設けられている。また、メインハウジング20Bには、吸入側液溜室42と吐出側液溜室43に連通する吸入ポート24と吐出ポート25が形成されている。
【0023】
吸入側逆止弁32は、吸入ポート24からポンプ室Pへの流体流を許してその逆の流体流を許さない吸入側逆止弁であり、吐出側逆止弁33は、ポンプ室Pから吐出ポート25への流体流を許してその逆の流体流を許さない吸入側逆止弁である。逆止弁32、33は、同一の形態であり、流路に溶着固定される穴あき基板32a、33aに、弾性材料からなるアンブレラ32b、33bを装着してなっている(図2)。
【0024】
メインハウジング20Bには、円形凹部41周囲の筒状部44に、周方向位置を異ならせて、リード線収納溝45、46が形成されている(図3、4)。リード線収納溝45、46は、第1リード線14と第2リード線15を通すもので、通した状態でも十分な空気流通空間が確保できるように、大断面積が確保されている。
【0025】
メインハウジング20Bには、リード線収納溝45、46を介して、大気室Aと基板収納凹部51を連通させる大切欠(大気室通路、貫通穴)52が形成されている(図3、4)。この大切欠52の上面は、メインハウジング20Bに被せたアッパハウジング20Aにより塞がれる。
【0026】
メインハウジング20Bには、基板収納凹部51を外部に連通させる外部連通路(穴)54が形成されている。この外部連通路(穴)54には外部信号(直流電圧Vcc、GND、保護出力信号)用の図示しないリード線が設けられる。なお、基板収納凹部51は、大切欠52とリード線収納溝45、46を介して大気室Aに連通し、外部連通路54を介して外部と連通している。このため、メインハウジング20Bの基板収納凹部51に駆動基板50を嵌め、ロアハウジング20Cで蓋をした状態でも、大気室Aは外部と連通することとなる。即ち、圧電振動子10が振動して大気室Aの容積が縮小と拡大を繰り返しても圧力損失を生じず圧電振動子10の変位を損なうことは無い。
【0027】
駆動基板50上には、圧電振動子10に対する駆動制御を行う駆動回路53と、この駆動回路53を接続するプリント配線(図示せず)が形成されている。リード線収納溝45、46を介して大気室A(円形凹部41)の外に導かれた第1リード線14と第2リード線15は、駆動基板50に接続されている。
【0028】
次に、本発明の特徴部分である圧電振動子10の駆動回路53の構成及びその駆動制御について説明する。
【0029】
図5は、本発明の実施の形態1に係る駆動回路53の構成を示すブロック図である。駆動回路53は、電源500と、増幅部510と、デジタル信号生成部520と、高電圧制御部530とを有している。デジタル信号生成部520は重み付け分割部521とDAC部522とを有している。
【0030】
電源500は、例えば5Vの安定した直流電圧信号(低電圧信号)を生成し、増幅部510とデジタル信号生成部520に出力する。増幅部510は、電源500から入力した直流電圧信号を昇圧して、例えば200Vの直流電圧信号(高電圧信号)に増幅し、高電圧制御部540に出力する。
【0031】
デジタル信号生成部520は、重み付け分割部521を有しない場合、電源500から入力した直流電圧信号から、駆動制御用の正弦波デジタル信号a(図示せず)を生成する。正弦波デジタル信号aは、非連続の電圧値(デジタル値)により正弦波を表すものであり、時間軸に沿った階段状の電圧変化を有している。また、この階段状の電圧変化の各段ごとの電圧差Daveはすべて同じ、つまり正弦波デジタル信号aは電圧軸成分に関して等間隔Daveで分割されている(図6参照)。尚、正弦波デジタル信号aの周波数及び振幅は、圧電振動子10の駆動態様に応じて適宜設定可能である。
【0032】
デジタル信号生成部520は、重み付け分割部521を有すると、電源500から入力した低電圧信号から、電圧軸成分に関する分割間隔を領域ごとに異ならせた重み付け分割信号bを生成する。具体的には、重み付け分割部521は、重み付け分割信号bの分割状態を指示する分割重み付け指示信号を生成し、DAC部522は、この分割指示信号に従って、電源500から入力した低電圧信号を重み付け分割信号bにデジタル−アナログ変換(DAC)して、高電圧制御部530に出力する。
【0033】
次に、重み付け分割信号b(重み付け分割部521から出力される分割重み付け指示信号の具体的内容)を詳細に説明する。
【0034】
まず、重み付け分割部521は、参照信号波形の接線勾配の絶対値、つまり正弦波デジタル信号aの立ち上がり角度(図6における隣接する×ポイントを結んだ直線の傾き)に基づいて、正弦波デジタル信号aの電圧軸成分(ここでは90°までの立ち上がり部分、4分の1周期)を、参照信号波形の接線勾配の絶対値が最も大きい領域X(第1の領域)と、二番目に大きい領域Y(第2の領域)と、最も小さい領域Z(第3の領域)に分ける。次いで、重み付け分割部521は、領域Xを、正弦波デジタル信号a全体の電圧軸成分を等間隔で分割した場合(Dave)よりも大きい間隔DXで等間隔に分割し、領域YをDaveと同一の間隔DYで等間隔に分割し、領域ZをDaveよりも小さい間隔DZで等間隔に分割する。具体的に、領域Xは、間隔DXで3分割され、領域Yは、間隔DYで3分割され、領域Zは、間隔DZで4分割されている。そして、この重み付け分割部521により設定された重み付け分割に従って、低電圧信号をDAC部522にてDA変換し、重み付け分割信号bを生成して、高電圧制御部530に出力する。このようにして、電圧軸成分の分割間隔を領域ごとに異ならせた重み付け分割信号bが生成される(図7参照)。
【0035】
高電圧制御部530は、増幅部510から入力した高電圧信号と、デジタル信号生成部520から入力した重み付け分割信号bとを合成して、圧電振動子10を駆動可能なレベルの擬似正弦波である高電圧駆動信号cを生成し、圧電振動子10に出力する。これにより、圧電振動子10が振動し、圧電ポンプ100にポンプ作用が与えられる。
【0036】
ここで、重み付け分割信号bは、電圧軸成分の変動が粗い領域X(0°近辺)をDaveよりも相対的に大きい分割間隔DXで分割し、電圧軸成分の変動が細かい領域Z(90°近辺)をDaveよりも相対的に小さい分割間隔DZで分割して生成されている。即ち、重み付け分割信号bは、領域ごとに電圧軸成分の分割ピッチを可変として生成されている。
【0037】
これにより、重み付け分割信号bの領域Xと領域Zにおいて、正弦波デジタル信号aに見られる理想的な正弦波Sと大きく離れた部分(騒音要素)が除去され、正弦波デジタル信号aよりも重み付け分割信号bの方が理想的な正弦波Sに近付いている(図6、7)。すると、重み付け分割信号bを要素として生成した高電圧駆動信号cの方が、正弦波デジタル信号aをそのまま要素として生成した高電圧駆動信号よりも高精度な擬似正弦波となるので、ポンプ駆動時に発生する騒音が飛躍的に低減される。
【0038】
図10において、波形1は、DAC部522のみで構成された(重み付け分割無し)デジタル信号生成部から出た正弦波デジタル信号aをそのまま高電圧制御部530に入力して得た高電圧駆動信号cを圧電振動子10に与えた場合のポンプ騒音値を示し、波形2は、重み付け分割部521により重み付け分割された重み付け分割信号bを高電圧制御部530に入力して得た高電圧駆動信号cを圧電振動子10に与えた場合のポンプ騒音値を示している。駆動信号の電圧軸成分の分割数にかかわらず、波形1では40dB(A)を超える騒音が発生しているのに対し、波形2では波形1よりも大幅に騒音が低減されており、正弦波デジタル信号aの重み付け分割による騒音低減効果が示されている。
【0039】
また、領域Xにおいて分割数を増やした分に対応させて領域Zの分割数を減らしているので、電圧軸全体としての分割数が増えることはなく、回路規模の増大等の問題は生じない。
【0040】
(実施の形態2)
図8は、本発明の実施の形態2に係る駆動回路60の構成を示すブロック図である。駆動回路60は、実施の形態1の駆動回路53とデジタル信号生成部の構成が異なっている。即ち、デジタル信号生成部600は、実施の形態1のデジタル信号生成部520において、重み付け分割部521とDAC部522の間に平滑化部610を設けたものである。それ以外の構成は実施の形態1と同一なので、説明を省略する。
【0041】
平滑化部610は、重み付け分割部521の重み付け分割の電圧軸成分の領域X、領域Y及び領域Zの分割状態を平滑化設定して平滑化信号dを生成し、高電圧制御部530に出力する。
【0042】
平滑化信号dを詳細に説明する。重み付け分割信号bのうち理想正弦波Sからのずれが大きい領域は領域Yであり(図7参照)、この領域Yの分割状態を、領域Xと領域Zにより平滑化して補完する。
【0043】
具体的には、重み付け分割信号bの領域Xの分割間隔DXと領域Zの分割間隔DZの平均値を、領域Yの新たな分割間隔(DX+DZ)/2とする。この新たな分割間隔(DX+DZ)/2はDYよりも大きく、領域Yの分割数は3で変わらないので、結果として領域Yの電圧軸成分は広くなる(図9参照)。
【0044】
また、重み付け分割信号bの領域Xの分割間隔DXはそのままで、分割数のみを3から2に減らしているので、結果として領域Xの電圧軸成分は狭くなる。逆に、重み付け分割信号bの領域Zの分割間隔DZはそのままで、分割数のみを4から5に増やしているので、結果として領域Zの電圧軸成分は広くなる。このように、重み付け分割信号bの電圧軸成分の各領域X、Y、Zを、領域Yの分割間隔と分割数に対応させて平滑化している。
【0045】
これにより、領域Yの理想正弦波からのずれが補完されるので、平滑化信号dは、重み付け分割信号bよりも理想的な正弦波Sに近づいている(図7、9)。すると、平滑化信号dを要素として生成した高電圧駆動信号eの方が、重み付け分割信号bを要素として生成した駆動電圧信号よりも高精度な擬似正弦波となるので、ポンプ駆動時に発生する騒音が飛躍的に低減される。
【0046】
図10において、波形3は、平滑化部610により平滑化された平滑化信号dを高電圧制御部530に入力して得た高電圧駆動信号eを圧電振動子10に与えた場合のポンプ騒音値を示している。波形3では、正弦波デジタル信号aをそのまま用いた場合に対しては勿論、重み付け分割信号bを用いた場合に対しても飛躍的な騒音低減効果が示されている。
【0047】
一方、重み付け分割信号bの領域Xの分割数は3であり、領域Zの分割数は4であるのに対し(図7)、平滑化信号dの領域Xの分割数は2であり、領域Zの分割数は5である(図9)。即ち、平滑化前後において、電圧軸成分のX領域の分割数とZ領域の分割数の総和は7で同一である。従って、全体として電圧軸成分の分割数は不変であり、回路規模の増大を招くこともない。
【0048】
尚、上記実施の形態では、正弦波デジタル信号aの電圧軸成分を3つの領域に分ける場合について説明したが、その領域数は限定されない。正弦波デジタル信号aの電圧軸成分を少なくとも2つの領域に分ければ一定の騒音低減効果が得られるし、正弦波デジタル信号aの電圧軸成分を4つ以上の領域に分けることも勿論可能である。
【0049】
後者の構成を別言すると、デジタル信号生成部は、正弦波デジタル信号aの電圧軸成分を、正弦波デジタル信号aから導かれる参照信号波形の接線勾配の絶対値が相対的に最も大きい第1の領域から最も小さい第nの領域(n=4以上)に分け、電圧軸成分の分割数を第1の領域を最も大きい間隔で分割し、以下次第に当該間隔を漸次小さくして第nの領域で当該間隔を最も小さくする重み付け分割信号を生成し、かつ、重み付けを行わないときの電圧軸成分の全分割数の総和と重み付けを行ったときの各領域の全分割数の総和を等しくしたものである。
【0050】
尚、本実施の形態では、DAC部522、重み付け分割部521及び平滑化部610をデジタル信号生成部内の別ブロックとして説明しているが、これらを一体化して、重み付け分割信号又は平滑化信号を生成するデジタル信号生成部(DAC部)を回路構成することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】(A)本発明の実施の形態1に係る駆動回路内蔵圧電ポンプを示す平面図である。(B)本発明の実施の形態1に係る駆動回路内蔵圧電ポンプを示す背面図である。
【図2】図1(A)、(B)のI−I線に沿う断面図である。
【図3】図1(A)、(B)のII−II線に沿う断面図である。
【図4】本発明の実施の形態1に係る駆動回路内蔵圧電ポンプを示す概略斜視図である。
【図5】本発明の実施の形態1に係る駆動回路の構成を示すブロック図である。
【図6】正弦波デジタル信号の電圧軸成分の分割状態を示す図である。
【図7】重み付け分割信号の電圧軸成分の分割状態を示す図である。
【図8】本発明の実施の形態2に係る駆動回路の構成を示すブロック図である。
【図9】平滑化信号の電圧軸成分の分割状態を示す図である。
【図10】本発明の実施の形態1、2に係る駆動回路のポンプ駆動時における騒音低減効果を示す図である。
【符号の説明】
【0052】
10 圧電振動子
20 ハウジング
50 駆動基板
53、60 駆動回路
100 駆動回路内蔵圧電ポンプ
520、600 デジタル信号生成部
521 重み付け分割部
522 DAC部
530 高電圧制御部
610 平滑化部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表裏の少なくとも一面にポンプ室を形成する圧電振動子を振動させることにより上記ポンプ室内に液体を給排してポンプ作用を得る圧電ポンプの駆動回路において、
直流低電圧信号から、駆動制御用の重み付け分割信号を生成するデジタル信号生成部と、
上記重み付け分割信号を用いて高電圧駆動信号を生成し、該高電圧駆動信号を上記圧電振動子に与える高電圧制御部とを有し、
上記デジタル信号生成部は、
電圧軸成分が等間隔で分割された駆動制御用信号を正弦波デジタル信号としたときに、上記正弦波デジタル信号の電圧軸成分を、該正弦波デジタル信号から導かれる参照信号波形の接線勾配の絶対値が相対的に大きい第1の領域と、上記参照信号波形の接線勾配の絶対値が相対的に小さい第2の領域との少なくとも2つの領域に分け、上記電圧軸成分の第1の領域を、上記正弦波デジタル信号の分割間隔よりも大きい間隔で等間隔に分割し、上記電圧軸成分の第2の領域を、上記正弦波デジタル信号の分割間隔よりも小さい間隔で等間隔に分割した、重み付け分割信号を生成する、
ことを特徴とする圧電ポンプの駆動回路。
【請求項2】
請求項1に記載の圧電ポンプの駆動回路であって、
上記デジタル信号生成部は、上記正弦波デジタル信号の電圧軸成分を、該正弦波デジタル信号から導かれる参照信号波形の接線勾配の絶対値が相対的に最も大きい第1の領域から最も小さい第nの領域(n=4以上)に分け、電圧軸成分の分割数を第1の領域を最も大きい間隔で分割し、以下次第に当該間隔を漸次小さくして第nの領域で当該間隔を最も小さくする重み付け分割信号を生成し、かつ、重み付けを行わないときの電圧軸成分の全分割数の総和と重み付けを行ったときの各領域の全分割数の総和を等しくした圧電ポンプの駆動回路。
【請求項3】
表裏の少なくとも一面にポンプ室を形成する圧電振動子を振動させることにより上記ポンプ室内に液体を給排してポンプ作用を得る圧電ポンプの駆動回路において、
直流低電圧信号から、駆動制御用の重み付け分割信号を生成するデジタル信号生成部と、
上記重み付け分割信号を用いて高電圧駆動信号を生成し、該高電圧駆動信号を上記圧電振動子に与える高電圧制御部とを有し、
上記デジタル信号生成部は、
電圧軸成分が等間隔で分割された駆動制御用信号を正弦波デジタル信号としたときに、上記正弦波デジタル信号の電圧軸成分を、該正弦波デジタル信号から導かれる参照信号波形の接線勾配の絶対値が相対的に最も大きい第1の領域と、上記参照信号波形の接線勾配の絶対値が相対的に二番目に大きい第2の領域と、上記参照信号波形の接線勾配の絶対値が相対的に最も小さい第3の領域とに分け、上記電圧軸成分の第1の領域を、上記正弦波デジタル信号の分割間隔よりも大きい間隔で等間隔に分割し、上記電圧軸成分の第2の領域を、上記正弦波デジタル信号の分割間隔と同一の間隔で分割し、上記電圧軸成分の第3の領域を、上記正弦波デジタル信号の分割間隔よりも小さい間隔で等間隔に分割した、重み付け分割信号を生成する、
ことを特徴とする圧電ポンプの駆動回路。
【請求項4】
請求項3記載の圧電ポンプの駆動回路であって、
上記デジタル信号生成部は、重み付け分割信号の分割状態を指示する分割指示信号を生成する重み付け分割部と、この分割指示信号に従って直流低電圧信号を重み付け分割信号にDA変換するDAC部とを有する圧電ポンプの駆動回路。
【請求項5】
請求項4記載の圧電ポンプの駆動回路であって、
上記デジタル信号生成部は、上記重み付け分割信号の電圧軸成分の第1、第2及び第3の領域の分割状態を平滑化する平滑化部を有する圧電ポンプの駆動回路。
【請求項6】
請求項5記載の圧電ポンプの駆動回路であって、
上記重み付け分割信号の電圧軸成分の第2の領域の分割間隔は、上記第1及び第3の領域の分割間隔の平均である圧電ポンプの駆動回路。
【請求項7】
請求項5又は請求項6記載の圧電ポンプの駆動回路であって、
平滑化前における上記電圧軸成分の第1の領域の分割数と第3の領域の分割数の総和と、平滑化後における上記電圧軸成分の第1の領域の分割数と第3の領域の分割数の総和は同一である圧電ポンプの駆動回路。
【請求項8】
請求項1乃至請求項7のいずれかに記載の駆動回路を有する駆動基板と、上記圧電振動子とが単一のハウジング内に収納されている駆動回路内蔵圧電ポンプ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−106703(P2010−106703A)
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−277825(P2008−277825)
【出願日】平成20年10月29日(2008.10.29)
【出願人】(000010098)アルプス電気株式会社 (4,263)
【出願人】(000001889)三洋電機株式会社 (18,308)
【出願人】(506227884)三洋半導体株式会社 (1,155)
【Fターム(参考)】