説明

圧電振動デバイスの周波数調整装置

【課題】 効率的で安定したイオンビームを用いた圧電振動子の周波数調整装置を提供することを目的とする。
【解決手段】 周波数調整装置は、真空室1と、真空室内に設けられた斜めに配置されたイオンガン2と、水晶振動子3と、水晶振動子を搭載するパレット4と、パレット4を搬送する搬送機構と、捕捉体24を有し、真空室外部には周波数測定部6や真空ポンプ7あるいは不活性ガス供給部23等を有する構成である。イオンガンの複数のグリッド開口20aは全体として略菱形状に配置された構成で、各グリッド開口20aはその平面形状が楕円形状となっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水晶振動子等の圧電振動デバイスの周波数調整装置に係り、特にイオンビームを用いた周波数調整装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
水晶振動子等の圧電振動デバイスは、その表面に形成された電極等の金属材料を加減することによりその周波数を調整している。金属材料を付加することにより質量が増加し、圧電振動デバイスの周波数は低下する。また金属材料を削減することにより、質量が減少しその周波数は上昇する。上述のイオンビームを用いた周波数調整方法は、後者の質量を減少させる調整方法であり、近年広く用いられている。
【0003】
このような技術を用いた周波数調整方法の公知例として、特許第2602215号(特許文献1)をあげることができる。特許文献1はビーム状の不活性ガスイオン粒子を励振電極に照射し、エッチングを行うものであり、これにより周波数調整を行っている。また引用文献1には励振電極に対して斜めにイオンビームを照射する構成も開示されている。
【特許文献1】特許第2602215号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
圧電振動デバイスの励振電極に対して垂直方向からイオンビームを照射(イオン粒子をビーム状に照射)した場合、イオンビームにより切除、除去された金属材料は金属微粒子としてイオンビームが反射して反射経路やその周辺に飛散し浮遊することがある。この浮遊した金属材料の金属微粒子はイオンガンからのイオンビームと衝突することがあり、このような場合、浮遊した金属材料が加速されたイオンビームによって、再度励振電極に付着するという再付着の問題があった。この問題を解決することを目途として、励振電極に対して斜めにイオンビームを照射する方法が考えられている。励振電極に対して斜めにイオンビームを照射することにより、切削、除去された金属材料が斜め方向にはじき出され、これによりイオンガンからのイオンビームが効率的に励振電極に照射することができ、周波数の調整効率を向上させることができるというものである。
【0005】
しかしながら、このように電極に対して斜めにイオンビームを照射する場合、調整する領域がばらつくという問題があった。すなわち、イオンガンはイオン放射面となるグリッドを有し、当該グリッドに形成された複数のグリッド開口は一般に正円形であるが、このような開口形状で斜め方向からイオンビームを照射すると照射スポット形状(処理対象物に照射したビーム形状)は照射方向に伸長した楕円形状になり、意図した照射領域(調整領域)から拡がってしまっていた。このような拡がりは、電極に対してイオンビームが照射された照射スポットにおけるイオン粒子(荷電粒子)の分布にもばらつきが生じ、その結果として調整領域のばらつきやエッチングレートの不安定化を招き、周波数調整が精度よく行えないという問題を有していた。
【0006】
本発明は上記課題を解決するためになされたもので、効率的で安定したイオンビームを用いた圧電振動子の周波数調整装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、電極膜(金属材料)にイオンビームを斜めから照射することにより周波数を調整する構成において、次のようないくつかの工夫を提案したものである。
【0008】
すなわち、請求項1に示すように、真空室内で圧電振動板に形成された金属膜をイオンビームを用いてエッチングすることにより圧電振動デバイスの周波数を調整する装置であって、前記圧電振動板の金属膜に対して斜め方向からイオンビームを照射するよう配置されたイオンガンを有し、当該イオンガンのグリッドの各開口を縦方向寸法が横方向寸法より短く設定した構成、または/および前記イオンガンのグリッドの各開口の配置を全体として縦方向の配置が横方向の配置より短く設定された構成、であることを特徴とする圧電振動デバイスの周波数調整装置を提案している。
【0009】
前記金属膜は圧電振動板に形成された励振電極等の電極膜であってもよいし、電極としては機能しない金属膜であってもよい。いずれにしても金属膜はイオンビームによるエッチングに対してエッチングレートの良好な金属、たとえば金(Au)、銀(Ag)等の金属材料が好ましい。
【0010】
イオンガンのグリッドはイオンの放射面に形成された構成であり、グリッドにはイオンが加速して放射されるグリッド開口が複数形成されている。グリッドの各開口の形状は縦方向寸法が横方向寸法より短く設定されている構成であり、たとえば縦方向が短手、横方向が長手となる楕円形状や菱形状であってもよいし、縦方向が短辺、横方向が長辺となる長方形状であってもよい。
【0011】
また、前記イオンガンのグリッド開口が複数形成されており、これらの配置が全体として縦方向の配置が横方向の配置より短く設定された構成であってもよい。たとえば縦方向が短手、横方向が長手となる楕円形状や菱形状であってもよいし、縦方向が短辺、横方向が長辺となる長方形状であってもよい。この場合において、グリッドの各開口自体も、上述のように楕円形状や菱形形状等のアスペクト比を有する構成であってもよいし、正円形であってもよい。
【0012】
なお、縦方向寸法と横方向寸法との寸法比率は、前記金属膜に対するイオンビームの照射角度(金属膜に対する垂線からの傾き角度)に依存し、照射角度によってその比率が異なる。例えば照射角度が小さい(例えば20度と)場合、換言すれば金属膜面に対するイオンビームの入射角度が大きい場合は、横方向寸法に対して縦方向寸法が大きくなるが、両者の差は大きくはない。しかし、照射角度が大きい(例えば60度)場合、換言すれば金属膜面に対するイオンビームの入射角度が小さい場合は、その差が大きくなり縦方向寸法に対して横方向寸法がより小さくなる。このような調整を行うことにより、照射スポット形状を正円等の縦横寸法の等しい構成とすることができる。
【0013】
請求項1に示す構成によれば、イオンガンからのイオンビームが金属膜に対して斜めに照射された場合でも、その照射スポット形状の縦横寸法(上下方向と左右寸法)の差を小さくすることができるので、所望の調整領域に対して調整動作を行うことができるとともに、照射スポットにおけるイオン粒子の分布のばらつきも抑制できる。よって、効率的で安定した周波数調整を行うことのできるイオンビームを用いた圧電振動子の周波数調整装置を得ることができる。
【0014】
また請求項2に示すように、真空室内で圧電振動板に形成された金属膜をイオンビームを用いてエッチングすることにより圧電振動デバイスの周波数を調整する装置であって、前記圧電振動板の金属膜に対して斜め方向からイオンビームを照射するよう配置されたイオンガンを有し、当該イオンガンのグリッド前面であって、当該グリッドのイオン放射面とは非平行にシャッタを配置したことを特徴とする圧電振動デバイスの周波数調整装置であってもよい。
【0015】
このようにシャッタをイオン放射面と非平行な状態、すなわち相互に傾きを有する状態で配置することにより、イオンガンからのイオンビームの放射が停止していない状態でシャッタを閉じた場合でも、シャッタに衝突したイオン粒子の跳ね返りがイオンガン側に向かわず、他の方向に向かうので、イオンガン自体に対する悪影響を避けることができる。
【0016】
シャッタの配置は、例えば当該イオンガンのグリッド前面に前記金属膜と平行にシャッタを配置した構成であってもよい。この場合、イオンビームがシャッタに対して斜めに照射されるので、シャッタに衝突したイオン粒子の跳ね返りがイオンガン側に向かわず、イオンガンの損傷を抑制できる。
【0017】
なお、上記請求項2の構成に、請求項1で開示した、イオンガンのグリッドの各開口は縦方向寸法が横方向寸法より短く設定されている構成を付加してもよい。この場合は、上記作用効果に加えて、調整領域のばらつきを抑制し、照射スポットにおけるイオン粒子の分布のばらつきも抑制でき、効率的で安定した周波数調整を行うことができる。
【0018】
さらに請求項3に示すように、真空室内で圧電振動板に形成された金属膜をイオンビームを用いてエッチングすることにより圧電振動デバイスの周波数を調整する装置であって、前記圧電振動板の金属膜に対して斜め方向からイオンビームを照射するよう配置されたイオンガンを有し、圧電振動板の金属膜に照射されたイオンビームが反射する経路上に、当該イオンと極性の異なる電荷を有する捕捉体が配置されていることを特徴とする圧電振動デバイスの周波数調整装置であってもよい。
【0019】
金属膜に対して斜め方向からイオンビームを照射することにより、切削除去された金属微粒子は、金属膜から反射角をもって飛散することがあるが、イオンビームが反射する経路上に、当該イオン粒子と極性の異なる電荷を有する捕捉体を配置することにより、金属微粒子を捕捉体がキャッチし真空室内への飛散を抑制する。
【0020】
捕捉体はエッチングに用いるイオン粒子に応じていずれかの極性に帯電している必要がある。例えば、エッチングに用いるイオン粒子がArイオンの場合、陽イオンであるので、捕捉体は負電荷に帯電させる必要がある。
【0021】
なお、上記請求項3の構成に、請求項1で開示した、イオンガンのグリッドの各開口は縦方向寸法が横方向寸法より短く設定されている構成を付加してもよい。この場合は、上記作用効果に加えて、調整領域のばらつきを抑制し、照射スポットにおけるイオン粒子の分布のばらつきも抑制でき、効率的で安定した周波数調整を行うことができる。
【0022】
また、上記請求項3の構成に、請求項2で開示した、当該イオンガンのグリッド前面であって、当該グリッドのイオン放射面とは非平行にシャッタを配置した構成を付加してもよい。この場合、イオンビームがシャッタに対して斜めに照射されるので、シャッタに衝突したイオン粒子の跳ね返りがイオンガン側に向かわず、イオンガンの損傷を抑制できる。
【0023】
さらに請求項3の構成にイオンガンのグリッドの各開口は縦方向寸法が横方向寸法より短く設定されている構成と、当該イオンガンのグリッド前面であって、当該グリッドのイオン放射面とは非平行にシャッタを配置した構成を付加してもよい。
【0024】
また請求項4に示すように、圧電振動板の金属膜に対するイオンビーム照射角度は前記金属膜に対する垂線から20〜60度傾けた角度であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の圧電振動デバイスの周波数調整装置であってもよい。上記照射角度範囲であると、エッチングが効率的に行うことができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、効率的で安定したイオンビームを用いた圧電振動子の周波数調整装置を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
本発明による実施の形態について図面を参照して説明する。図1は周波数調整装置の構成を示す図、図2は水晶振動子の内部構成を示す断面図、図3はグリッドの構成を示す図、図4は捕捉体を示す平面図である。
【0027】
本発明による圧電振動デバイスの周波数調整装置は、真空室1と、真空室内に設けられたイオンガン2と、水晶振動子3と、水晶振動子を搭載するパレット4と、パレット4を搬送する搬送機構と、捕捉体24を有し、真空室外部には周波数測定部6や真空ポンプ7あるいは不活性ガス供給部23等を有する構成である。
【0028】
周波数調整対象となる水晶振動子3は図2に示す構成であり、凹形の収納部を有するパッケージ31にATカットで切り出された水晶振動板32を収納し、導電接合材3でパッケージと導電接合を行った構成である。パッケージ31には水晶振動板32と接合する電極接合部31b,31c(31cは図示せず)とパッケージ内の電極を外部に導出する外部接続端子31d,31eと、リッド34との接合を金属シール部31aを有している。周波数調整時にはリッド34が接合される前の状態で調整動作が進められる。
【0029】
水晶振動子32の表裏面には金属膜からなる励振電極32a、32bが形成され、それぞれ電極接合部31b、31cと導電接合されている。本実施の形態においては、励振電極32aを構成する金属膜(例えば表面がAu層あるいはAg層)が周波数調整の対象となる。
【0030】
水晶振動子を保持するパレット4は保持用の収納凹部4aをマトリクス状に配した構成であり、各収納凹部の底部にはイオンビームを通過させる開口41が形成されている。パレット4はX−Y方向の2次元的な動作が可能なように、搬送装置(図示せず)により連続的または間欠的に移動される。例えば、停止、移動を連続して行う間欠的移動を行い、停止時に周波数調整が実行される。搬送装置は搬送制御部5からの制御信号に基づき周波数調整動作等に同調して駆動する。
【0031】
パレットの下方にはイオンガン2が配置されている。本発明においては金属膜に対して斜めにイオンビームを照射する構成であり、イオンガンが斜めに配置されている。イオンガン2は全体として円筒形状であり、内部構成は図示していないが、内部に熱陰極(フィラメント)と当該熱陰極の前面に円筒状に形成された陽極(アノード)と、陽極の前面に設けられた遮蔽グリッドと、その遮蔽グリッドの前面に設けられた加速グリッド20と内部に不活性ガスを供給する供給口を有する構成である。この加速グリッド20からイオン粒子が放射される。
【0032】
本実施の形態において、加速グリッド20は図3に示すように複数のグリッド開口20aが全体として略菱形状に配置された構成である。各グリッド開口20aはその平面形状が楕円形状であり、図3で示す横方向(X軸方向)寸法が、縦方向(Y軸方向)寸法より大きい構成となっている。ここで縦方向(Y軸方向)はイオンガンの放射面の上下方向になり、斜めにイオンビームを照射した際に、放射スポット(非放射面のビーム照射形状)が延びる方向に相当する。
【0033】
このようなグリッド開口から放射されたイオンビームは、そのビーム断面は楕円形状になるが、これが上述のY軸方向が上下方向になるように斜めに金属膜に照射された場合は、上記縦(上下)方向寸法が伸長し照射スポット形状は円形あるいは円形に近い形状になる。よって、その照射スポット形状の縦横寸法(上下方向と左右方向寸法)の差を小さくすることができるので、所望の調整領域に対して調整動作を行うことができるとともに、照射スポットにおけるイオン分布(荷電粒子の分布)のばらつきも抑制できる。
【0034】
イオンガン2の加速グリッドの前面にはシャッタ21が配置されている。シャッタ21はイオンビームの照射経路中に配置され、シャッタの開閉によりイオンビームが水晶振動子の金属膜への照射を制御する。本実施例において、シャッタ21はイオンガンの放射面である加速グリッドの平面と平行には配置されておらず、前記水晶振動子の励振電極(金属膜)32aと平行に配置されている。このような構成により、シャッタ21が閉じた状態においても照射したイオンがイオンガンの加速グリッド側に反射することが無く、イオンガンに対する悪影響を及ぼすことがない。
【0035】
イオンガンの近傍でイオンガンから金属膜に照射したイオン粒子が反射する経路上に捕捉体24が配置されている。イオンビームによって切削された金属体(金属微粒子等)はイオン粒子とともに前記経路上に飛散することがあるが、捕捉体24に前記イオン粒子の極性と異なる極性の電圧を印加することにより、イオン粒子および切削された金属体が当該捕捉体に吸着する。具体的には例えばArイオン(陽イオン)粒子をイオンビームに用いる場合は、捕捉体に対しては負の電荷を印加する。これにより、イオン粒子および切削された金属体は捕捉体に吸着し、真空室内への飛散、浮遊を抑制することができ、水晶振動子に対する金属体の再付着を防止することができる。
【0036】
捕捉体24は本実施の形態において、図4に示すように格子状電極24aを有する構成である。図4は捕捉体24の平面図であるが、例えば金網等からなる金属体からなっている。金網状の構成であると、その表面積を多くとることができ、イオン粒子の吸着と金属体の吸着効率を向上させることができる。当該金網は網目が小さい構成が吸着効率を向上させる観点から好ましい。
【0037】
当該捕捉体24に対して真空室外部からの電源により負の電圧が印加されている。また捕捉体の配置位置については、必ずしもイオンガンから金属膜に照射したイオン粒子が反射する経路上でなくてもよい。例えば、イオン粒子により削られた金属体の飛散する経路上であったり、あるいは非加工物である金属膜に近接して設置することにより、前記捕捉体への吸着作用を得ることができる。また捕捉体をこれらイオン粒子や金属体の飛散する可能性のある領域に複数設置してもよい。これにより飛散の抑制効果を向上させることができる。なお、捕捉体は金網のような構成に限定されるものではなく、波板状の凹凸を有する構成であってもよい。
【0038】
真空室には開閉バルブ71が設けられ、当該開閉バルブに真空ポンプ7が接続されている。真空ポンプは例えばクライオポンプやロータリーポンプ等が用いられ、イオンビームによるエッチングに適した真空度に保たれるとともに、放射したArガスや切削した金属体を真空室外部に放出する機能を有している。
【0039】
なお周波数調整時の水晶振動子に対しては周波数測定部により調整時の周波数を測定する。周波数測定部6は水晶振動子の周波数を測定するためのπ回路やネットワークアナライザ等からなり、真空室内で水晶振動子の外部接続部31d,31eと当接するコンタクトプローブ61,62を有している。コンタクトプローブは図示しないアクチュエータにより上下動作し、前述の周波数調整動作に対応して動作制御が行われる。
【0040】
以上の各構成部の動作は制御部Cにより集中制御している。例えばパレットの動作を制御する搬送制御部5や周波数測定部6、真空ポンプ7、イオンガン2の動作、Arガスの供給制御等は制御部Cによって制御され、所定の条件で周波数調整が行われる構成となっている。
【0041】
次に上記周波数調整装置を用いた周波数調整方法について説明する。図1に示すようにパレット4の収納凹部4aに搭載された気密封止前の各水晶振動子3が順次搬送装置により周波数調整実行位置に搬送される。当該位置で周波数測定部に接続されたコンタクトプローブ61,62が水晶振動子の外部接続部31d,31eに当接され、本工程による周波数調整前の周波数を測定する。当該測定データは制御部Cに転送され、制御部Cにて周波数調整が必要か否か、必要な場合の周波数調整量を決定する。そして、制御部Cからの指令により所定時間シャッタを開き、イオンビームを水晶振動子の励振電極32a(金属膜9に対して照射する。
【0042】
具体的にはイオンガスとしてArガスを不活性ガス供給部からイオンガン内部の放電領域に導入する。そして、電源から熱陰極(フィラメント)に通電し、熱陰極を加熱する。またこの熱陰極と円筒状に形成された陽極(アノード)間に直流電圧を印加し、ここから生じる直流放電によってArプラズマ界をつくる。遮蔽グリッドに高電圧を印加することにより、Arプラズマ界からArイオンによるイオンビームが形成され、遮蔽グリッドからイオンビームが加速されて放射される。さらに遮蔽グリッドの前面に設けられた加速グリッド20に対して、前記遮蔽グリッドとは異なる極性の電圧を印加することにより、イオンビームがさらに加速され、グリッド開口から放射され、シャッタ21の開閉により周波数調整が進められる。なお、イオンガン2によるイオンビームの放射動作あるいは放射量を制御して、前記シャッタの動作と組み合わせることにより周波数調整を行ってもよい。
【0043】
励振電極(金属膜)に対するイオンビーム照射角度は、前記金属膜に対する垂線から20〜60度傾けた角度が好ましい。20度以下になると跳ね返るイオン粒子や切削された金属体との干渉によりエッチング能力が低下し、またイオンガンに損傷を与える等の問題が生じる。70度以上になるとイオンビームによるエッチング能力低下が著しくなる。エッチング効率並びにイオンガン設置のスペース効率を考慮すると、金属膜面から30〜50度がより好ましい。
【0044】
周波数の調整状況は、周波数測定部により周波数調整実行にリアルタイムに測定してもよく、具体的には調整中に複数回の周波数測定を行い、周波数の調整状況を把握してもよい。またあらかじめ調整量を決定し、決定した調整を実行した後、周波数を測定し、その測定値と目標値との差を求め、その差分について追加的に周波数調整を行い、必要に応じてこの調整作業を繰り返してもよい。
【0045】
また周波数調整実行時において捕捉体には負の電圧が印加され、切削後の金属微粒子の飛散や浮遊を抑制している。なお、捕捉体を複数用意しておき、捕捉体に金属微粒子が過度に付着した場合あるいは定期的に次の捕捉体に切り替えることにより、イオンビームにより切削された金属体の捕捉能力を低下させることなく周波数調整を進めることができる。
【0046】
上記実施の形態においては、グリッド開口の形状を縦方向寸法が横方向寸法より短い楕円形状とし、さらにグリッド開口を複数形成し、その配置を全体として縦方向寸法が横方向寸法より短い菱形状に配置した構成としている。本発明はこのような形状、構成に限定されるものではなく、例えば、グリッドの開口が円形であっても、グリッド開口の配置が全体として縦方向寸法が横方向寸法より短い楕円状に配置した構成であってもよい。また、グリッド開口の形状を縦方向寸法が横方向寸法より短い楕円形状とし、複数のグリッド開口の配置を全体として円形や正方形等のアスペクト比を有さない構成に配置してもよい。
【0047】
なお、上記実施に形態では、当該イオンガンのグリッドの各開口を縦方向寸法が横方向寸法より短く設定した構成および前記イオンガンのグリッドの各開口の配置を全体として縦方向の配置が横方向の配置より短く設定された構成(請求項1に係る構成)と、当該グリッドのイオン放射面とは非平行にシャッタを配置した構成(請求項2に係る構成)と、圧電振動板の金属膜に照射されたイオンビームが反射する経路上に当該イオンと極性の異なる電荷を有する捕捉体を配置した構成(請求項3に係る構成)と、圧電振動板の金属膜に対するイオンビーム照射角度は前記金属膜に対する垂線から20〜60度傾けた角度である構成(請求項4に係る構成)をすべて具備する構成について説明を行っているが、それぞれの構成のみからなる周波数調整装置であっても、本発明による効果を得ることができる。
【0048】
また上記実施に形態においては、ATカット水晶振動板に形成された励振電極に対して周波数調整を行う例について開示したが、他の切断方位の水晶振動板であってもよく、また必ずしも励振電極に対して行わなくてもよい。例えば屈曲振動に用いられるXカットの音叉形水晶振動板を用い、音叉の振動腕の先端部分に周波数調整用の金属膜を形成し、当該部分に対して本発明による周波数調整動作を行ってもよい。当該金属膜は直接励振電極と電気的に接続されていない構成でもよく、質量調整による周波数調整に寄与する金属膜であればよい。
【0049】
なお、本発明は、その精神や主旨または主要な特徴から逸脱することなく、他のいろいろな形で実施することができる。そのため、上述の実施例はあらゆる点で単なる例示にすぎず、限定的に解釈してはならない。本発明の範囲は特許請求の範囲によって示すものであって、明細書本文には、なんら拘束されない。さらに、特許請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、全て本発明の範囲内のものである。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明は、水晶振動子、水晶発振器等の圧電振動デバイスの周波数調整の量産に有効である。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】周波数調整装置の構成を示す図である。
【図2】水晶振動子の内部構成を示す断面図である。
【図3】グリッドの構成を示す平面図である。
【図4】捕捉体を示す平面図である。
【符号の説明】
【0052】
1 真空室
2 イオンガン
24 捕捉体
3 水晶振動子
4 パレット
5 搬送制御部
6 周波数測定部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空室内で圧電振動板に形成された金属膜をイオンビームを用いてエッチングすることにより圧電振動デバイスの周波数を調整する装置であって、
前記圧電振動板の金属膜に対して斜め方向からイオンビームを照射するよう配置されたイオンガンを有し、当該イオンガンのグリッドの各開口を縦方向寸法が横方向寸法より短く設定した構成、または/および前記イオンガンのグリッドの各開口の配置を全体として縦方向の配置が横方向の配置より短く設定された構成、であることを特徴とする圧電振動デバイスの周波数調整装置。
【請求項2】
真空室内で圧電振動板に形成された金属膜をイオンビームを用いてエッチングすることにより圧電振動デバイスの周波数を調整する装置であって、
前記圧電振動板の金属膜に対して斜め方向からイオンビームを照射するよう配置されたイオンガンを有し、当該イオンガンのグリッド前面であって、当該グリッドのイオン放射面とは非平行にシャッタを配置したことを特徴とする圧電振動デバイスの周波数調整装置。
【請求項3】
真空室内で圧電振動板に形成された金属膜をイオンビームを用いてエッチングすることにより圧電振動デバイスの周波数を調整する装置であって、
前記圧電振動板の金属膜に対して斜め方向からイオンビームを照射するよう配置されたイオンガンを有し、圧電振動板の金属膜に照射されたイオンビームが反射する経路上に、当該イオンと極性の異なる電荷を有する捕捉体が配置されていることを特徴とする圧電振動デバイスの周波数調整装置。
【請求項4】
圧電振動板の金属膜に対するイオンビーム照射角度は前記金属膜に対する垂線から20〜60度傾けた角度であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の圧電振動デバイスの周波数調整装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−218977(P2009−218977A)
【公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−62005(P2008−62005)
【出願日】平成20年3月12日(2008.3.12)
【出願人】(000149734)株式会社大真空 (312)
【Fターム(参考)】