説明

圧電振動子

【課題】 高発振周波数に対応して小型化する圧電振動板の主振動による振動エネルギーを効率よく得ることができると共に、前記圧電振動板を安定して支持することのできる支持構造を備えた幅縦・長さ縦結合モードの圧電振動子を提供することである。
【解決手段】 幅縦モードの主振動を伴う一対の主振動辺22a,22b及び長さ縦モードの副振動を伴う一対の副振動辺からなる四角形状の圧電振動板22と、一対の主振動辺から外方向に延びる支持アーム25,23と、圧電振動板22の外周に設けられ、支持アーム25,23の一端が接続されるフレーム24とを備えた圧電振動子21であって、一方の支持アーム25は主振動辺22aから2つの屈曲部25a,25bを有し、他方の支持アーム23は主振動辺22bから2つの屈曲部23a,23bを有し、これら支持アーム25,23とフレーム24との間が一つの経路によって結ばれるように構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、幅縦・長さ縦結合モードの圧電振動子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
図17は、従来の幅縦振動を主振動とする幅縦・長さ縦結合モードの圧電振動子1をパッケージ5内に搭載したものである。圧電振動子1は、幅縦モードの主振動辺2a,2b及び長さ縦モードの副振動辺2c,2dを有し、表面に励振電極7が形成された圧電振動板2と、前記一対の主振動辺2a,2bの一端を支え、端子電極6から前記励振電極7に繋がる電極パターン(図示せず)が形成された一対の支持アーム3とを有して構成されている。前記支持アーム3は、バネ性と共に剛性を持たせるため、ループ状の張出部(単純梁)を有した構造となっている。このような構造による圧電振動子1は、前記支持アーム3によって長さ縦モードの副振動に制限を加え、その周波数を制御することでカップリング(結合)の度合いを調整して良好な温度特性を得ていた。
【0003】
前記幅縦振動による主振動の共振周波数は、1〜3.5MHz程度までは実用化がなされている。例えば、主振動の共振周波数が2.1MHzの場合、圧電振動板2の一辺の長さは、1.5mm程度となる。このような大型の圧電振動板2にあっては、励振電極7も比較的広く取れるので、圧電振動板2の振動エネルギーは十分に大きいものとなる。このため、良好な温度特性を得るには、図17に示したような形状の支持アーム3によって副振動に制限を加え、その振動周波数を調整することで、主振動との結合状態を制御するのが比較的容易であった。
【0004】
また、前記圧電振動子1は、主振動である幅縦モードの周波数と副振動である長さ縦モードの周波数との結合状態を変化させることによって、周波数温度特性を変化させることができるようになっている。
【0005】
通常、主振動モードの周波数は、公称周波数であるため変えることはできず、ある設定された周波数で発振させる必要がある。また、温度特性を変化させるには、結合状態を変えることが必要となる。このためには、副振動モードの周波数を変化させる必要がある。この副振動モードの周波数を変化させる方法の一つは、ループ状の支持アームの太さと長さを変えることでそのバネ性を調節して、副振動モードの振動に制限(振動の勢いを殺ぐ)をかける方法であり、もう一つは、錘を付加あるいは除去して、副振動モードの周波数を減少あるいは上昇させることによって調節する方法である。
【0006】
また、前記主振動の容量比γは、その振動状態の良し悪しや与えられた電磁エネルギーを振動エネルギーに変換する際の変換効率のバロメーターとなる。幅縦・長さ縦結合モードの場合、容量比γの値は圧電振動板の大きさ(周波数)には依存しない。報告されている2.1MHzにおける一般的な従来の圧電振動子の容量比は400〜600であり、支持アームを無視した圧電振動板のみでの容量比(200〜400)の値と比較すると大きく、支持アームが副振動を制御したことによる容量比悪化への影響は大きくなる。換言すると、副振動を大きく制限する従来形状の支持アームは、圧電振動板の振動エネルギーを大きくロスしながら、周波数温度特性を良好なものとし、実使用上、問題の無い電気的特性を得られる範囲で設計されていたと言える。
【0007】
上記圧電振動子1において、主振動の共振周波数を上げるために圧電振動板2を小型化すると、振動エネルギーそのものが小さくなる。上述したように、従来形状の支持アーム3は、ループ状の張出部によって副振動を大きく制限する構造であるため、振動エネルギーが小さくなればなるほど、副振動を制御し難くなるといった欠点があった。したがって、圧電振動板2のサイズが比較的大きな1〜3.5MHzの共振周波数帯では実用上問題はないが、従来形状をそのまま小型化するだけでは、設計が非常に困難となる。
【0008】
前記圧電振動板2の振動エネルギーが小さくなればなるほど、支持アーム3を小さく、薄く、細く、そして、軽くして副振動の制限量を抑えていかなければならない。前記支持アーム3は圧電振動板2をパッケージ5内で中空に保持する役割もあるため、破損等を招くような衝撃に対する耐性を考慮する必要もある。このため、前記支持アーム3を無制限に小さく、薄く、細く、そして、軽くすることはできない。このような状況の下では、設計の自由度が狭くなり、満足な振動特性、温度特性を得ることが困難となっていた。また、仮に実用可能な諸特性が得られたとしても、容量比が400〜600の値となってしまうといった問題があった。
【0009】
特許文献1,2には、幅縦・長さ縦結合モードの振動を生じさせるための一般的な形状及び構造を有した圧電振動子が開示されている。このタイプの圧電振動子は、少なくとも一対以上の励振電極が形成された圧電振動板と、この圧電振動板に副振動となる長さ縦モードを制御する支持アームとからなっている。なお、強度を保つと共に、落下などによる衝撃等によって破損しないように、前記支持アームが圧電振動板の外周部から外方向に延びる支持本体部と、前記圧電振動板を包囲するようにして設けられ、前記それぞれの支持本体部の一端が繋がる支持枠(フレーム)とを備えて構成される場合もある。
【0010】
また、圧電振動板の振動エネルギーが支持アームを介して漏れ出ることを防止するために、支持アームを細く構成する場合があるが、製造工程において組立をする際に、支持アームを破損し易いという欠点があり、前述したように、支持アームを圧電振動板から延びる支持本体部とこの支持本体部に繋がるフレームとで構成して強度をアップする必要があった。しかしながら、圧電振動板を支持本体部やフレームで完全に包囲してしまうと、支持強度は増すものの、振動子全体としての小型化ができない。また、必要以上にフレームによって支持強度を高めると、副振動となる長さ縦振動を阻害し、主振動となる幅縦振動と適切な結合状態を作り出すことが困難となる場合があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平1−126009号公報
【特許文献2】特開平10−117120号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
ところで、前述した従来の単純梁構造による幅縦・長さ縦結合モードの圧電振動子は、1.0〜3.5MHz程度の比較的低い周波数で実用化されている例が多い。これは、共振周波数を4MHz以上に設定すると、圧電振動板を非常に小さくする必要があるからである。例えば、共振周波数12MHzで基本波の場合には、方形状の圧電振動板の幅は約270μm程度となる。従来例のような構造の支持アームのままで小型化かつ高周波化すると、圧電振動板の振動エネルギーそのものが小さいため、振動が阻害され、等価直列抵抗(R1)が大きくなる。また、R1以外にも容量比γやQなど、満足な電気的特性を得られないという欠点があった。
【0013】
また、幅縦振動と長さ縦振動の結合度合いを調整することで、一般的に最も良く使用され、かつ、周波数温度特性が最も良いとされるATカット圧電振動子よりも良い周波数温度特性を得ることができる。しかし、幅縦・長さ縦結合モード水晶振動子は、長さ縦モードの周波数を調整する支持アームの重量が圧電振動板重量と比較して大きくなりすぎると良好な周波数温度特性を得る結合状態をつくり出すことができない。従って、共振周波数を上げて、圧電振動板を小さく、重量を軽くすると、それにつれて、支持アームも細く、小さく、薄くして重量を軽くする必要が生じてくる。その結果、満足な周波数温度特性が得られるような形状やサイズに支持アームを作製できたとしても、強度が弱くなりすぎて圧電振動板を保持できないという問題があった。
【0014】
さらに、図17に示したように、従来の圧電振動子1をパッケージ5内に搭載しようとした場合、フレームのない一対の支持アーム3のみでは、それぞれの支持アーム3の端部を導電性接着剤などによって、一対の端子電極6に直接両支持固定することが必須となる。しかしながら、水晶デバイス工業会などで規格化されているATカット厚みすべり水晶振動子向け3.2mmx2.5mmなど、既存小型セラミックパッケージの多くは、パッケージ内部の片側のみで振動子を固定するような構造が多い。したがって、このような比較的入手しやすいセラミックパッケージに対して、従来のフレームの無いタイプの圧電振動子は搭載できなかった。
【0015】
そこで、本発明の目的は、高発振周波数に対応して小型化する圧電振動板の主振動による振動エネルギーを効率よく得ることができると共に、前記圧電振動板を安定して支持することのできる支持構造を備えた幅縦・長さ縦結合モードの圧電振動子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題を解決するために、本発明の圧電振動子は、幅縦モードの主振動を伴う一対の主振動辺及びこの一対の主振動辺と直交し、長さ縦モードの副振動を伴う一対の副振動辺からなる四角形状の圧電振動板と、前記一対の主振動辺の少なくとも一方から外方向に延びる支持アームと、前記圧電振動板の外周に設けられ、前記支持アームの一端が接続されるフレームとを備えた圧電振動子であって、前記支持アームは、前記主振動辺と前記フレームとの間が一つの経路によって結ばれ、その間に二以上の屈曲部を有していることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明の圧電振動子によれば、支持アームが長さ縦モードの副振動方向と直交する主振動辺上に接続されているため、幅縦モードの主振動に影響を及ぼすことなく安定した状態で圧電振動板を支持することができる。また、前記支持アームが前記主振動辺と前記フレームとの間を一つの連続した経路によって結ばれ、その間に二以上の屈曲部を有して弾性的に圧電振動板を支持することができるため、主振動に対する副振動を効率的に低減させることができる。
【0018】
また、前記主振動辺を略二分する中間位置は、主振動の起点となる節部となっているため、この中間位置に支持アームを接続することによって、主振動への影響を最小限に抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の第1実施形態における圧電振動子の平面図である。
【図2】上記圧電振動子をパッケージに搭載したときの状態を示す平面図である。
【図3】圧電振動板の縦横の辺比と容量比との関係を示すグラフである。
【図4】本発明の第2実施形態における圧電振動子の平面図である。
【図5】上記第2実施形態の圧電振動子の第1変形例を示す平面図である。
【図6】上記第2実施形態の圧電振動子の第2変形例を示す平面図である。
【図7】上記図6の圧電振動子と従来の圧電振動子の寸法形状を示す平面図である。
【図8】支持アーム形状の違いにおける主振動と副振動の周波数差を示すグラフである。
【図9】支持アーム形状の違いにおける1次温度係数を示すグラフである。
【図10】上記第2実形態の圧電振動子の第3変形例を示す平面図である。
【図11】本発明の第3実施形態における圧電振動子の平面図である。
【図12】本発明の第4実施形態における圧電振動子の平面図である。
【図13】本発明の第5実施形態における圧電振動子の平面図である。
【図14】本発明の第6実施形態における圧電振動子の平面図である。
【図15】本発明の第7実施形態における圧電振動子の平面図である。
【図16】本発明の第8実施形態における圧電振動子の平面図である。
【図17】従来の圧電振動子の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1及び図2は、基本形状となる第1実施形態の圧電振動子11の平面形状及びパッケージ15への実装形態例を示す。この圧電振動子11は、輪郭振動を伴う基本形状からなり、幅縦・長さ縦結合モードの振動を発生させるための四角形状の圧電振動板12と、この圧電振動板12の一側面から外方向に延びる支持アーム13と、この支持アーム13を支持するフレーム14とを備えて一体形成されている。
【0021】
幅縦・長さ縦結合モードは、通常、長さ縦モードの振動を調整して、幅縦モードを結合させることにより、温度特性などの良好な振動子特性を得る。前記支持アーム13は、長さ縦モードの振動に対する錘として機能すると共に、バネ性を有しているため、振動を抑制することで周波数を調整する役割を備えている。
【0022】
この圧電振動子11は、機械軸(Y軸)に垂直となるY板水晶を電気軸(X軸)を回転軸として角度θx=+40°〜+60°回転し、更に、前記X軸の回転後の新軸(Y´軸)を回転軸として、角度θy=40°〜50°回転した上下面及び四方向の側面を有する薄板状の水晶基板19を所定の形状に加工して形成されている。また、前記Y軸の回転後の新軸であるY´軸に垂直な面となる圧電振動板12の表面及び裏面には極性の異なる少なくとも一対の励振電極17,18(17の裏面側)が対向して配置されている。なお、前記圧電振動板12、支持アーム13及びフレーム14は、前記水晶基板19を所定形状に打ち抜くことによって形成される。
【0023】
前記圧電振動板12は、幅縦の主振動を生じさせるように対向する一対の主振動辺12a,12bと、長さ縦の副振動を生じさせるように前記主振動辺12a,12bと直交する方向に対向する一対の副振動辺12c,12dとによって四角形状に形成されている。前記主振動辺12a,12bと副振動辺12c,12dとの辺比は、発振させる周波数によって異なる。また、圧電振動板12の表面に第1励振電極17、裏面に第2励振電極18が形成され、それぞれの励振電極に対して逆位相の電圧をパッケージ15に設けられている一対の端子電極16からフレーム14及び支持アーム13を介して印加することで、前記主振動辺12a,12b及び副振動辺12c,12dが撓み変形して幅縦・長さ縦結合モードの振動が生じる。
【0024】
前記支持アーム13は、前記一方の主振動辺12bとフレーム14との間が連続した一つの経路によって弾性を有して結ばれた形状(片持ち梁)になっている。このような片持ち梁形状を有した支持アーム13では、幅縦モードの主振動への影響を極力及ぼさないようにするため、圧電振動板12との接続点Cは少なく且つ狭いほどよい。このため、本実施形態の圧電振動子11は、支持アーム13の接続点Cが圧電振動板12の片方の主振動辺12b上に設けられる。前記接続点Cは、副振動の節となる主振動辺12bの略中間位置に設定すると共に、不要振動を吸収するために、前記支持アーム13は副振動方向に屈曲した部分を有するのが好ましい。
【0025】
前記諸条件を満たすため、本実施形態の支持アーム13は、主振動辺12bと直交する方向に延びる第1アーム部20aと、該第1アーム部20aから第1の屈曲部13aを介して一方の主振動辺12bと平行に延びる第2アーム部20bと、該第2アーム部20bから第2の屈曲部13bを介して前記フレーム14に向かって延びる第3アーム部20cとによって形成される。前記第1アーム部20a,第2アーム部20b,第3アーム部20cは、略L字状に屈曲する一つの経路を構成している。
【0026】
前記2つの屈曲部13a,13bの屈曲角度を略90度にすることによって、圧電振動板12とフレーム14を繋ぐ支持アーム13の全体の長さを短く設定したが、前記屈曲部13a,13bの屈曲角度を90度より大きく設定することで、支持アーム13の長さを調整することができる。
【0027】
図2に示したように、前記フレーム14は、圧電振動子11をパッケージ15に固定すると共に、前記支持アーム13を介して圧電振動板12の第1励振電極17及び第2励振電極18に電圧を印加するために設けられる。このフレーム14も前記支持アーム13の一部を構成するため、支持強度を保持しつつ、できるだけ軽量であることが望ましい。このため、本実施形態では、前記圧電振動板12の上側の主振動辺12aを除いた三方向の振動辺12b,12c,12dを囲うようにコ字状に形成した。このフレーム14は、前記支持アーム13が接続されている部分から離れた縦辺14aをパッケージ15内の端子電極16に半田接続することによって、一方の縦辺14cに接続されている支持アーム13及び圧電振動板12を浮かせた状態で支持することができる。
【0028】
次に、図1及び図3に基づいて前記圧電振動子11の強度と等価直列抵抗(R1)の低減化及び良好な周波数温度特性を得るための最良の実施形態を示す。図3は所定のカット角θxにおける容量比γの変化を圧電振動板12の縦横の辺比に基づいてFEMシミュレーションしたものである。ここでは、図1に示したように、圧電振動板12における縦(主振動辺VW)と横(副振動辺VL)の辺比(VW/VL)、圧電振動板12の重量(WV)と支持アーム13の重量(WE)の重量比(WE/WV)、長さ縦モードを制御する支持アーム13の幅及び長さ(Ew1、El1)の値を適切に選ぶ必要がある。特に、発振周波数が4MHz以上の場合、VWが小さくなり、強度を保とうとしてEw1やEl1を大きくすると、WE/WVが大きくなり満足な特性が得られない。そこで、(WE/WV)<=0.23となり、且つ、振動漏れが少なくなるようなEw1やEl1を設定して、支持アーム13が屈曲するバネ性を持たせる。さらに、フレーム14が圧電振動板12を所定の間隙を隔して包囲しない(コの字)形状とし、Fw1とFl1を適切な寸法として圧電振動子11全体の強度を保持する。このように、フレーム14自体にもバネ性を付与して長さ縦モードの周波数を制御することで、強度、等価直列抵抗及び周波数温度特性の諸条件を最も良好な状態とすることができる。
【0029】
このシミュレーション結果によれば、上記形状による支持アーム13を採用したことによって、(VW/VL)=1.00〜0.92の範囲で、容量比γ=250〜400となることが確認できた。特に、主振動の共振周波数が4MHz以上になり、圧電振動板12の小型化によって振動エネルギーが小さくなるような場合であっても、必要な耐衝撃性を確保しつつ、前記容量比を得ることが可能となった。
【0030】
表1に従来の支持部形状による圧電振動子(従来形状1,2)と上記の本発明の実施形状(本実施形状)による圧電振動子の電気的特性を比較したものを示す。ここで、従来形状1の周波数F=2.1MHzにおけるデータは公知の文献資料に基づく一般的な数値であり、従来形状2のデータは、従来形状1と同一形状の圧電振動子を試作し、F=12MHzで実験したときの値である。この結果から、従来形状2のように周波数を12MHzに上げると、特に等価直列抵抗R1が極めて高い値となる。これに対して、本実施形状は、図1に示した圧電振動板12において、(WE/WV)<=0.23として試作し、F=12MHzで実験したときの値である。この実験データから本実施形状は、圧電振動子の特性に最も影響を及ぼす容量比γと等価直列抵抗R1の値が従来形状1の2.1MHz及び従来形状2の12MHzでの値よりも低くなり、良好な電気的特性が得られることが分かる。
【0031】
【表1】

【0032】
上記シミュレーション及び電気的特性データの結果として、支持アーム13の形状を図1のような形状とすれば、十分な強度を保つことのできる支持アーム13の幅、太さで圧電振動板12とフレーム14を接続しつつ、副振動となる長さ縦モードの振動周波数を容易に変化させることにより、幅縦モードと長さ縦モードの結合度合いを制御することができる。そして、圧電振動板12を最適な結合状態で振動させることができた時、すなわち、最も、振動効率が良い状態のとき、容量比は最小となり、良好な電気的特性を得ることが可能となる。
【0033】
図4は、第2実施形態の圧電振動子21の平面形状を示したものである。この圧電振動子21は、幅縦・長さ縦結合モードの振動を発生させるための四角形状の圧電振動板22と、この圧電振動板22の一方の主振動辺22aから外方向に2つの屈曲部(25a,25b)を有して一つの経路を構成する支持アーム25と、前記圧電振動板22の他方の主振動辺22bから外方向に2つの屈曲部(23a,23b)を有して一つの経路を構成する支持アーム23と、これら一対の支持アーム23,25を保持するフレーム24とを備えて一体形成されている。第1実施形態の圧電振動子11との違いは、圧電振動板22を挟んでミラー対称形となるように設けられる2本の支持アーム23,25によって圧電振動板22を支持していることである。このように、2本の支持アーム23,25によって支持されるため、圧電振動板22を安定した状態で振動させることができる。また、前記支持アーム23,25それぞれが圧電振動板22の主振動辺22a,22bを二分する中間位置に接続されることで、主振動に影響を及ぼすことなく、副振動を有効に抑えることができる。
【0034】
図5,図6,図10は、上記第2実施形態の圧電振動子21の第1乃至第3の変形例を示したものである。図5に示した第1変形例の圧電振動子31における支持アーム33,35は、圧電振動板32の一対の主振動辺32a,32bからそれぞれV字状に屈曲した一つの経路を経てフレーム34に接続されている。この支持アーム33,35は、それぞれ3つの屈曲部(33a〜33c)、(35a〜35c)を有して形成されている。
【0035】
図6に示した第2変形例の圧電振動子41における支持アーム43,45は、圧電振動板42の一対の主振動辺42a,42bからそれぞれコ字状に延びる一つの経路を経てフレーム44に接続されている。前記それぞれの経路上には、4つの屈曲部(43a〜43d)、(45a〜45d)を有している。
【0036】
図7は、従来の支持アーム形状(単純梁モデル)による圧電振動子と図6に示した本発明の支持アーム形状(片持ち梁モデル)による圧電振動子41の形状寸法を示したものである。次に、単純梁モデルと片持ち梁モデルの電気的特性の違いを図8,図9に基づいて説明する。
【0037】
図8は、カット角θによる主振動と副振動の周波数差δの変化を示したものであり、図9は、カット角θによる1次温度係数αの変化を示したものである。このグラフによるFEM解析は、片持ち梁モデル及び単純梁モデル共に、水晶の厚みが5μm、Auによる電極厚みが500Åの条件で行った。
【0038】
図9に示されるように、従来の単純梁モデルは、どのカット角においてもα≒0とすることはできない。しかしながら、本発明の片持ち梁モデルとすれば、α>となるカット角が存在し、α≒0にすることが可能となる。このとき、図8に示した主振動と副振動の周波数差を見ると、片持ち梁モデルの方が主振動と副振動の周波数差が小さいことがわかる。このように、支持アーム形状の違いによって主振動と副振動の周波数差が異なるため、結果として温度特性に違いを生じることとなる。
【0039】
本解析条件に限定すれば、少なくとも、δ=8.8%程度にしなければならないが、従来の単純梁モデルでは不可能である。図7(a)に示した単純梁モデルを前提に寸法設計を行なうとすれば、支持アームを軽くするために、非常に細くしなければならない。一般的に、幅縦・長さ縦結合振動子は水晶厚みに対する電極膜厚の比率(Au/X'tal)が大きくなると、αの値はマイナスになる。通常、周波数調整範囲を広げるため、Au膜厚は1000Å程度とする場合が多いが、比率(Au/X'tal)が大きくなるので、さらにδを小さくする必要が生じ、支持アームもさらに細く加工する必要がある。
【0040】
図7(a)に示した従来の単純梁モデルにおける最大たわみδ1は、一般的に次式によって表わされる。
δ1=P1*L1^3/(48*E1*I1)
ここで、
P1:応力
L1:梁の長さ
E1:ヤング率
I1:断面2次モーメント
【0041】
これに対して、図7(b)に示した本発明の片持ち梁モデルにおける最大たわみδ2は次式によって表わされる。
δ2=P2*L2^3/(3*E2*I2)
ここで、
P2:応力
L2:梁の長さ
E2:ヤング率
I2:断面2次モーメント
【0042】
ある周波数の副振動モードを抑制して最適な温度特性を得ようとしたときに、支持アームの梁部分を考慮すると、以下のことが言える。
【0043】
支持アームの梁部分の幅、断面形状(E1=E2,I1=I2)が同じとき、同じ撓み量を得ようとするには、P1=P2であるため、L1^3=16*L2^3となる。すなわち、単純梁モデルにおける梁の長さL1は、片持ち梁モデルにおける梁の長さL2の約2.5198(16の三乗根)倍必要となる。換言すれば、同じ撓み量を得るには、片持ち梁モデルは単純梁モデルより約2.5倍軽くなることになる。前述の通り、副振動周波数を減少させる要因には、錘の効果がある。また、錘の効果は振動板と錘(支持アーム)の重量比で決まる。
【0044】
次に、振動エネルギーの観点から幅縦モードの周波数が高い場合について考察する。周波数が高くなると振動板が小さく、軽くなる。これによって、振動エネルギーは小さくなり、振幅も小さくなる。このように、振動板が小さく、周波数が高くなることによって振動エネルギーが小さい長さ縦モードは、振動板が大きく、周波数が低くなることによって振動エネルギーが大きい場合と比較して、幅縦モードとの結合が厳しくなる。したがって、十分な結合状態を得るためには、幅縦モードの周波数に長さ縦モードの周波数を近づける必要がある。すなわち、幅縦モードの周波数が上がると、結合させる長さ縦モードの周波数は幅縦モードの周波数に近づける必要がある。
【0045】
従来の単純梁モデルのように、軽い振動板(周波数の高い振動板)に対して、重い(太くて、長い)梁からなる支持アームを構成してしまうと、錘の効果で副振動長さ縦モードの周波数が下がり過ぎて、主振動幅縦モードの周波数に近づけることができずに、主振動の周波数温度特性が最適となるように調節することができない。また、小型化の点でも同様なことがいえ、単純梁モデルは、片持ち梁モデルと比較して梁の長さが約2.5倍長くなり、小型化の点でも不利である。
【0046】
以上の点から、本実施形態の片持ち梁モデルは、周波数の高い振動板の支持アームを構成する上で、重量、小型化の点で単純梁モデルよりも有利となる。
【0047】
図10に示した圧電振動子51における支持アーム53,55は、圧電振動板52の一対の主振動辺52a,52bからそれぞれ6つの屈曲部(53a〜53f)、(55a〜55f)を有しながら一つのS字状に延びる経路を経てフレーム54に接続されている。
【0048】
上記図4乃至図6、図10に示した圧電振動子21,31,41,51は、圧電振動板の形状やサイズが共通であれば、支持アームの屈曲部が多くなるにしたがってバネ性が高くなるので、長さ縦モードによる副振動を拡散させる効果が大きくなる。
【0049】
図11は高次の幅縦・長さ縦モードの圧電振動板72を備えた圧電振動子71を示したものである。前記圧電振動板72は、複数の小励振電極面77a,77bによる小振動部がマトリクス状に配列されたものであり、極性の異なる小励振電極面77a,77bが縦横方向に隣接するように配置されている。図11に示した圧電振動板72は、5×5面の小振動部によって構成されている。このような高次の幅縦・長さ縦モードを備えた圧電振動板72にあっても、一対の主振動辺72a,72bの中間に位置する接続点からコ字状に屈曲する一つの経路を有して延びる一対の支持アーム73,75を介してフレーム74に連結することで、高次の長さ縦による副振動を抑えることができる。
【0050】
図12及び図13は3つ以上の支持アームによって圧電振動板を支持する構造を示したものである。図12は幅縦方向に2面の励振電極87a,87bを有する圧電振動板82と、前記励振電極87aが形成されている振動領域の両主振動辺を支持する一対の支持アーム73,75及び励振電極87bが形成されている振動領域の片方の主振動辺を支持する支持アーム76と、この3つの支持アーム73,75,76が連結されるフレーム74とを有して構成されている。また、図13は幅縦モードの振動方向に3面の励振電極97a,97b,97cを有する圧電振動板92と、前記励振電極97aが形成されている振動領域の両主振動辺を一つの経路を有して支持する一対の支持アーム93,95と、前記励振電極97cが形成されている振動領域の両主振動辺を一つの経路を有して支持する一対の支持アーム96,99と、これらの4つの支持アーム93,95,96,99が連結されるフレーム94とを有して構成されている。このように、複数の励振電極による振動部が複数形成される圧電振動板92にあっては、それぞれ一つの経路を有した3つ以上の支持アームを介して弾性的に支持することで、長さ縦モードによる副振動を抑えると共に、幅縦モードの主振動を安定させることができる。
【0051】
なお、図11乃至図14に示した支持アームは、4つの屈曲部を有したコ字状となっているが、2つの屈曲部を有するL字状、3つの屈曲部を有するV字状、6つの屈曲部を有するS字状とすることもできる。
【0052】
図14及び図15は、3面の励振電極107a,107b,107cによる振動部が幅縦モードの振動方向に形成されている圧電振動板102を支持するフレームの構成例を示したものである。なお、支持アーム103,105は共通で、それぞれ一つの経路上に4つの屈曲部を有したコ字状に形成されている。図14に示したフレーム104は、一対の支持アーム103,105から圧電振動板102の主振動辺102a,102bに沿って直線状に延びる一対の脚部104a,104bと、この一対の脚部104a,104bが連結される基部104cとで構成されている。前記脚部104a,104bは、支持アーム103,105や基部104cに比べて幅を狭くして形成される。
【0053】
図15に示したフレーム114は、一対の支持アーム103,105からそれぞれ延びる一対の脚部114a,114bを有し、この脚部114a,114bが3つの屈曲部を有してV字状に蛇行して形成されている。前記フレーム114は、パッケージ115内に配置されている一対の端子電極117上に基部114cの両端を載せて、導電性接着剤やハンダバンプなどの導電接合部材116によって電気的に接合することで、各励振電極に所定の電圧を供給することができると共に、圧電振動板102を浮かせた状態で保持することができる。
【0054】
前記図14に示した脚部104a,104b及び図15に示した脚部114a,114bは、幅狭あるいはU字状に蛇行させているため、十分なバネ性を備える。このバネ性によって、圧電振動板102に発生する長さ縦モードの副振動を有効に吸収することができる。したがって、フレームにおいても前記支持アームと同様に幅寸法や形状を変えることで副振動を抑制する効果が得られる。
【0055】
上記各実施形態の圧電振動子は、セラミック等のパッケージ内の端子電極にフレームの一端を電気的に接続することによって片持ち支持され、電子ビーム封止や真空シーム溶接、ガラス封止、AuSn封止などで蓋をして、真空度が1.0×10Pa以下で密閉封止される。
【0056】
図16に示す圧電振動子121は、図14に示した圧電振動子101を基本として、各構成部分の一部の幅又は厚みを調整して形成したものである。この圧電振動子121は、支持アーム123,125の一部(123a,125a)の厚み方向の面積比を減少すると共に、フレーム124の脚部124a,124bの幅方向及び厚み方向の面積比を減少させて形成したものである。このように、幅方向及び厚み方向のいずれか一方あるいは両方を減じることによって、周波数温度特性をさらに改善させることが可能となる。また、圧電振動板122については、縁部を厚めに形成し、励振電極127a,127b,127cが形成される表面を凹設することによって、3面の振動部を除く圧電振動板122の縁部自体が錘の役割を果たす。これによって、長さ縦モードによる副振動を抑えることもできる。さらに、前記圧電振動板122を凹設した内壁面や底面に沿って励振電極127a,127b,127cを形成することができるので、励振電極の有効面積が増え、振動特性の改善も図られるといった効果が得られる。
【符号の説明】
【0057】
C 接続点
11 圧電振動子
12 圧電振動板
12a,12b 主振動辺
12c,12d 副振動辺
13 支持アーム
13a,13b 屈曲部
14 フレーム
15 パッケージ
16 端子電極
17 第1励振電極
18 第2励振電極
19 水晶基板
20a 第1アーム部
20b 第2アーム部
20c 第3アーム部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
幅縦モードの主振動を伴う一対の主振動辺及びこの一対の主振動辺と直交し、長さ縦モードの副振動を伴う一対の副振動辺からなる四角形状の圧電振動板と、
前記一対の主振動辺の少なくとも一方から外方向に延びる支持アームと、
前記圧電振動板の外周に設けられ、前記支持アームの一端が接続されるフレームとを備えた圧電振動子であって、
前記支持アームは、前記主振動辺と前記フレームとの間が一つの経路によって結ばれ、その間に二以上の屈曲部を有していることを特徴とする圧電振動子。
【請求項2】
前記支持アームは、前記一対の主振動辺の少なくとも一方の略中間位置から前記フレームに向けて延びている請求項1に記載の圧電振動子。
【請求項3】
前記支持アームは、前記圧電振動板の主振動辺と直交する方向に延びる第1アーム部と、該第1アーム部から第1の屈曲部を介して主振動辺と平行に延びる第2アーム部と、該第2アームから第2の屈曲部を介して前記フレームに向かって延びる第3アーム部とを備える請求項1に記載の圧電振動子。
【請求項4】
前記支持アームは、前記主振動辺の略中間位置から前記フレームに向けて略L字状又は略コ字状に屈曲して延びる請求項1に記載の圧電振動子。
【請求項5】
前記フレームは、前記圧電振動板の外周に沿うように略L字状又は略コ字状に形成される請求項1に記載の圧電振動子。
【請求項6】
前記圧電振動板は、主振動方向又は副振動方向に対して複数の振動面を有して形成される請求項1に記載の圧電振動子。
【請求項7】
前記圧電振動板、支持アーム及びフレームは、水晶基板によって一体形成される請求項1に記載の圧電振動子。
【請求項8】
前記圧電振動板は、4MHz乃至30MHzの発振周波数を生じ、且つ、容量比が250〜400である請求項1に記載の圧電振動子。
【請求項9】
前記主振動辺による幅縦モードの主振動は、前記副振動辺による長さ縦モードの副振動よりも共振周波数が高く、且つ、等価直列抵抗が小さい請求項1に記載の圧電振動子。
【請求項10】
前記支持アーム又はフレームは、一部に幅方向及び厚み方向の少なくともいずれか一方の面積比が小さい部位を有して形成される請求項1に記載の圧電振動子。
【請求項11】
前記圧電振動板は、表面に凹部が設けられ、この凹部の内側面に沿って励振電極が形成される請求項1に記載の圧電振動子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2012−151651(P2012−151651A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−8743(P2011−8743)
【出願日】平成23年1月19日(2011.1.19)
【出願人】(000237444)リバーエレテック株式会社 (24)
【Fターム(参考)】