説明

在床状態判定装置

【課題】的確に在床状態を判定することができる在床状態判定技術を提供する。
【解決手段】ベッドが設置面に加える時々刻々の荷重を分散して計測するように複数の荷重計が配置されている。重心算出部はこの複数の荷重計により計測された複数の計測値に基づいて重心を算出する。また、重心変動量算出部が所定時間内における重心の変動量である重心変動量を算出し、人存否判定部が重心変動量に基づいてベッド上の人の存否を判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベッド上の人の在床状態、特に、人の存否、人の睡眠状態、人の姿勢を判定する在床状態判定技術に関する。
【背景技術】
【0002】
病院や高齢者施設等では、患者や入居者等の安全管理のために、これらの人がベッド上にいるか、さらに、ベッド上にいるならばどのような姿勢をとっているか、また睡眠中であるかまたは覚醒しているかを確認したいという要望がある。
【0003】
しかしながら、職員等による見回りでは常に確認することは困難である。また、監視カメラ等を用いた場合には患者や入居者等のプライバシーの問題や監視負担の増大の問題が生じる。
【0004】
これらの問題を解決するために、ベッドの荷重に基づいてベッド上の人の存否を判定する技術が提案されている。例えば、ベッドの床部上の荷重を検知可能な荷重センサの信号を入力して荷重を検知する荷重検知手段と、時々刻々検知される荷重値から、設定された短時間の平均値と、設定された長時間に渡る平均値を求める平均値演算手段と、短時間の平均値と、長時間に渡る平均値の差分を演算する差分演算手段と、求められた差分値からベッド上の状態を判定する状態判定手段とを備えたベッドにおける使用者の状態検知システムがある(特許文献1参照)。
【0005】
この特許文献1の技術では、荷重検知手段により時々刻々のベッドの荷重が計測され、短時間の平均値と長時間の平均値とが算出される。その後、短時間の平均値と長時間の平均値との差分に基づいてベッド上の状態を判定している。そのため、時々刻々の荷重値に基づいて判定する手法に比べて、計測誤差に対するロバスト性が向上している。
【0006】
また、ベッドの支柱及び床面間に介装された荷重センサと、この荷重センサでもって検出された荷重が予め設定された基準値を所定条件に従って越えた場合にはベッド上に人が存在していると判定する在床判定手段と、ベッド上に人が存在していない場合に加わる荷重を在床判定手段の基準値として設定するリセットスイッチと、在床判定手段による判定結果を外部に対して送信する送信手段と、を備えた在床検知装置がある(特許文献2参照)。
【0007】
この特許文献2の技術では、ベッド上に人がいないと判定された際に在床を判定するための基準値がリセットされる。そのため、ベッドの上に人以外の物が置かれた場合にも適切な基準値を設定することができる。
【0008】
また、ベッド台とベッド台に載置されるマットレスとの間に配設されてマットレス上の就寝者の心拍及び呼吸等に起因する振動に応じて電荷を発生するセンサ部と、センサ部で発生した電荷を電気信号に変換して出力する変換部と、変換部の出力信号のうち心拍の周波数帯域の振動成分及び呼吸の周波数帯域の振動成分を抽出する生体情報抽出部と、生体情報抽出部で得られた生体情報から就寝者の睡眠の深さに応じた複数の睡眠状態のうち何れか1つの睡眠状態を推定する睡眠状態推定部とを備え、睡眠状態推定部は、生体情報に基づいて就寝者の体動を推定するとともに、就寝者の体動が発生している若しくは前記睡眠状態の何れにも該当しない状態を体動・過渡状態とし、該体動・過渡状態と併せて就寝者の睡眠状態を推定する睡眠状態推定装置がある(特許文献3参照)。
【0009】
この特許文献3の技術では、体動の発生状態を検出し、その体動発生状態を含めて睡眠状態を推定しているため、就寝者の睡眠状態推定の精度を向上させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2009−118980号公報
【特許文献2】特開平10−55491号公報
【特許文献3】特開2009−297455号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、特許文献1の技術では、単に計測荷重の短時間平均値と長時間平均値との差により在床状態を判定しているため、ベッド上に人以外の物を載せた場合等には正確に在床状態を判定することはできない。
【0012】
また、特許文献2の技術では、在床状態を判定するための基準値の設定をし直すことはできるものの、単に計測荷重と所定閾値との比較により在床状態の判定を行っているため、正確な在床判定は困難である。また、正確でない在床判定に基づいて基準値をリセットしているため、適切な基準値を設定することも困難である。
【0013】
一方、特許文献3の技術のように、就寝者の睡眠状態を推定する際に体動状態をも用いることは睡眠状態の推定精度の向上に寄与する。しかし、特許文献3の技術のように、センサをベッド台とマットレスとの間に設置すると、就寝者の位置に応じてセンサ出力が変動し、体動状態や就寝状態を正確に判定することが困難となる。また、センサ出力はマットレスの重量の影響を受けるため、マットレス毎に体動状態や就寝状態を判定するための閾値を調整する必要がある。
【0014】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、的確に在床状態を判定することができる在床状態判定技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するため、本発明の在床状態判定装置は、ベッドが設置面に加える荷重を分散して計測するように配置された複数の荷重計と、前記複数の荷重計により計測された複数の計測値に基づいて重心を算出する重心算出部と、所定時間内における前記重心の変動量である重心変動量を算出する重心変動量算出部と、前記重心変動量に基づいて前記ベッド上の人の存否を判定する人存否判定部を備えている。
【0016】
ベッド上に人が在床している場合には、人が安静にしている場合であっても、呼吸や拍動の影響により多少なりとも重心が変動する。一方、ベッド上に物が置かれた場合には、理想的には重心は一定となる。したがって、ベッド上に荷重が生じた場合であっても、荷重の重心の変動を追跡することで、ベッド上に人が在床しているか否かを判定することができる。そのため、この構成では、荷重計の計測値に基づいて算出された重心の所定時間内の変動量に基づいて、ベッド上の人の存否を判定している。
【0017】
本発明の在床状態判定装置の好適な実施形態の一つでは、前記重心算出部は前記複数の計測値そのものの重心である計測値重心を算出する。
【0018】
この構成では、ベッドおよびベッド上の人を含む全ての重量に対する計測値の重心を算出するため、簡易な構成で重心を算出することができる。
【0019】
ベッドの重量に対して人の重量が小さい場合には、重心は人よりもベッドの影響が大きくなり、人の重心移動を正確に測ることが困難となる。そのため、本発明の在床状態判定装置の好適な実施形態の一つでは、人が在床していない状態の前記複数の計測値を初期値とする基準荷重を前記荷重計毎に記憶する荷重記憶部を備え、前記重心算出部は前記複数の計測値から前記基準荷重を減じた補正荷重の重心である補正重心を算出する。
【0020】
この構成では、人が在床していない状態の前記複数の計測値を初期値とする基準荷重を計測値から減じた補正荷重に基づいて重心が算出される。したがって、補正荷重はベッドに荷重を加える人や物の重量を反映した荷重となり、この補正荷重の重心は人や物の重心となる。よって、その人や物の重心を正確に測ることができ、在床判定の精度を高めることができる。
【0021】
本発明の在床状態判定装置の好適な実施形態の一つでは、前記人存否判定部により前記ベッド上に人が存在しないと判定された際に、前記荷重記憶部に記憶されている前記基準荷重を当該判定に用いられた前記複数の計測値により更新する。
【0022】
この構成では、ベッド上に人が在床していないと判定された際に、そのときの計測値が基準荷重として設定される。したがって、ベッド上に物が置かれた場合には、ベッドとその物との重量が基準荷重となり、人の体重および重心を正確に計測することができる。それにより、在床判定の精度を向上させることもできる。
【0023】
本発明の在床状態判定装置の好適な実施形態の一つでは、前記補正重心から得られる重心情報に対する閾値を設定する閾値設定部と、前記重心情報と前記閾値とを比較する比較部と、を備えている。
【0024】
この構成では、重心情報に対する閾値が適宜設定可能となっており、比較部により重心情報と設定された閾値との比較が行われる。上述したように補正重心はベッド上の人の重心を表しており、補正重心の移動は、荷重計のノイズに起因するもの、人の呼吸や心拍等に起因するもの、人の寝返り等の体動に起因するもの等に大別することができる。本発明の発明者らの研究により、これらの重心移動量はそれぞれに異なっており、閾値に基づいて分離可能であることが判明している。そのため、この補正重心から得られる重心情報に対して、閾値設定部により、検出したい状態に応じて適切な閾値を設定し、重心情報と閾値とを比較すれば、ノイズの分離、体動の有無の検出等を行うことができる。また、体動が検出できれば、体動に基づいて、ベッド上の人が睡眠状態であるか覚醒状態であるかを判定することができる。さらに、体動も通常の寝返り等と、痛みや病状の悪化等に起因する異常時の体動に分類することができ、これらも重心情報に対する閾値により分離することができる。すなわち、本構成では、閾値設定部によって閾値を設定し、判定部による判定結果に基づけば、人の種々の状態を判定することができる。
【0025】
また、補正荷重からはベッド上の人の体重を算出することもでき、この体重と補正重心から得られる重心情報に基づけば、ベッド上でのその人の姿勢を判定することも可能となる。そのため、本発明の在床状態判定装置の好適な実施形態の一つでは、前記補正荷重に基づいて前記ベッド上の人の体重を算出し、当該体重と前記補正重心から得られる重心情報とに基づいて当該人の在床姿勢を判定する姿勢判定部を備えている。
【0026】
重心変動量は種々の方法により算出することができる。例えば、本発明の在床状態判定装置の好適な実施形態の一つでは、前記重心変動量算出部は、所定時点における前記重心と、当該所定時点から前記所定時間過去の各々の時点における前記重心との距離の和を前記重心変動量として算出している。
【0027】
この構成では、所定時点の重心と所定時点から所定期間過去の各時点における重心との偏差の和を重心変動量としている。これにより、簡易な演算により重心変動量を算出することができる。
【0028】
本発明の在床状態判定装置の好適な実施形態の一つでは、前記人存否判定部は、前記重心変動量を補正した値に基づいて前記ベッド上の人の存否を判定する。この構成では、補正した重心変動量に基づいてベッド上の人の存否を判定しているため、より正確に人の存否を判定することができる。補正とは、例えば、荷重計のノイズ等の測定誤差の補正である。また、ベッドの重量に比べて人の体重が非常に軽い場合に、全荷重に由来する重心変動量の変位は非常に小さくなり、人の存否判定の精度が低下するおそれがある。そのような場合にも重心変動量を補正することが望ましい。そのため、本発明の在床状態判定装置の好適な実施形態の一つでは、前記複数の計測値の総和を乗ずることにより前記重心変動量の補正を行っている。これにより、重心変動量がスケーリングされ、その変位が明確となり、人の存否判定の精度の低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】実施例1における在床状態判定装置の構成図である。
【図2】実施例1における在床状態判定処理の流れを表すフローチャートである。
【図3】荷重センサの配置を示す図である。
【図4】重心変動量の変化を表すグラフである。
【図5】実施例2における在床状態判定装置の構成図である。
【図6】実施例2における在床状態判定処理の流れを表すフローチャートである。
【図7】実施例3における在床状態判定装置の構成図である。
【図8】実施例3における在床状態判定処理の流れを表すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0030】
以下に、図面を用いて本発明の在床状態判定装置の実施例を説明する。図1は本発明に係る在床状態判定装置Aの構成図である。図に示すように、本実施形態の在床状態判定装置Aは、複数の荷重センサS(本発明の荷重計の例)および汎用コンピュータからなる制御装置Cにより構成されている。
【0031】
また、図に示すように、複数の荷重センサSはベッドBの脚部LとベッドBの載置面(床等)との間に配置されている。本実施形態では、ベッドBは4つの脚部Lを有しており、それぞれの脚部Lに対応して4つの荷重センサSが配置されている(図3参照)。したがって、ベッドBがその載置面に対して加える荷重は4つの荷重センサSにより分散して計測される。すなわち、4つの荷重センサSの計測値の総和が、ベッドBが載置面に加える荷重となる。この荷重センサSは、時々刻々の荷重を計測し、その計測値を制御装置Cに送信している。なお、各々の荷重センサSを区別する必要がない場合にはそれらを総称して荷重センサSまたは荷重センサSi(i=1〜4)と表記するが、区別する必要がある際には荷重センサS1,S2,S3およびS4と表記する。
【0032】
一方、制御装置Cは、各種制御を行う制御部1、荷重の重心を算出する重心算出部3、重心算出部3により算出された重心の変動量を算出する重心変動量算出部4、重心変動量算出部4により算出された重心変動量に基づいてベッドB上の人の存否を判定する人存否判定部5を備えている。
【0033】
本実施形態では、制御部1、重心算出部3、重心変動量算出部4および人存否判定部5はソフトウェアにより構成されているが、ハードウェアまたはソフトウェアとハードウェアとが協働する構成としても構わない。
【0034】
制御部1は、所定の時間間隔で荷重センサSからの計測値を取得したり、各機能部に対して指示を与えたりする機能を有している。
【0035】
重心算出部3は荷重の重心を算出する機能を有している。本実施例では荷重センサSの計測値に基づいて重心を算出している。荷重センサSの計測値はベッドBとベッドBに在床している人やベッドB上に置かれている物による荷重を含んでいるため、荷重センサSの計測値の総和を全荷重、荷重センサSの計測値に基づいて算出される重心を全荷重重心(本発明の計測値重心の例)と称する。なお、全荷重にベッドBとベッドBに在床している人やベッドB上に置かれている物による荷重の全てを含める必要はなく、例えば、ベッドB上に置かれている物の重量が既知であれば、その重量により補正された計測値を全荷重としても構わない。
【0036】
重心変動量算出部4は、重心演算部4により算出された重心の所定時間内における変動量(以下、重心変動量と称する)を算出する。
【0037】
人存否判定部5は、重心変動量算出部4による算出された重心変動量に基づいて、ベッドB上の人の存否を判定する。
【0038】
図2は、本実施例の在床状態判定装置Aの処理の流れを表すフローチャートである。まず、ベッドB上に人が在床していない状態で、初期化を行う(#01)。具体的には、制御部1はメモリ(図示せず)に記憶されている各時刻における重心(詳細は後述する)をリセットする。
【0039】
初期化が完了すると、制御部1は所定のサンプリング間隔で荷重センサSの計測値を取得し、以下の処理を実行する。なお、本実施例で1分間に100回のサンプリングを行うようにサンプリング間隔を設定しているが、このサンプリング間隔は適宜設定可能である。
【0040】
制御部1が各荷重センサSiの計測値WFi(t)(i=1〜4)を取得すると(#02)、それらの計測値WFi(t)は重心算出部3に送られる。なお、WFiは荷重センサSiにより計測された計測値であり、tは計測値WFiを取得した時刻を表している。
重心算出部3は、4つの計測値WFi(t)を取得すると、これらに基づいて全荷重重心ga(t)を算出する(#03)。図3は、荷重センサSの配置を表す図である。図に示すように、ベッドBを上面から見て、頭部側右側に荷重センサS1、頭部側左側に荷重センサS2、足部側左側に荷重センサS3、足部側右側に荷重センサS4を配置している。また、図に示すように、ベッドBの長辺に沿ってX軸、ベッドBの短辺に沿ってY軸を設定し、頭部側を原点に設定している。したがって、全荷重重心ga(t)は以下の式により求めることができる。
【数1】

【0041】
なお、式(1)で算出される重心は正規化重心となっているが、必ずしも正規化を行う必要はない。
【0042】
このようにして算出された各時刻における全荷重重心ga(t)は時刻順にメモリに一次記憶される。なお、全荷重重心gaは所定個数のみを記憶し、全荷重重心gaの数が所定個数を超えた際には、FIFO(First In First Out)形式で管理される。すなわち、最も過去の全荷重重心gaが破棄され、最も新しい全荷重重心gaが記憶される。なお、本実施例では、所定個数を11に設定している。
【0043】
重心算出部3は全荷重重心gaの算出が完了すると重心変動量算出部4に対してその旨を通知する。重心算出部3からの通知を受けた重心変動量算出部4は、メモリに所定時間分の全荷重重心gaが記憶されているか否かをチェックする(#04)。本実施例では、所定時間間隔とは11サンプリング間隔としている。すなわち、メモリには現時点および、過去10時刻における全荷重重心gaが記憶されている。上述の全荷重重心gaの一次記憶数は、重心変動量算出部4において必要な重心の数と等しくなっている。なお、重心変動量の算出に用いる期間の長さは適宜設定可能である。
【0044】
メモリに必要数(この例では11)の全荷重重心gaが記憶されていなければ(#04のNo分岐)、処理は#02に移行し、上述の処理が繰り返される。一方、メモリに必要数の全荷重重心gaが記憶されていれば(#04のYes分岐)、以下の式により現時点tでの重心と現時点tから所定期間過去の各時刻における重心との偏差の和を重心変動量Vとして算出する(#05)。
【数2】

【0045】
なお、本実施例では偏差をユークリッド距離(2ノルム)としているが、例えば1ノルム等、他の距離を用いても構わない。
【0046】
算出された重心変動量Vは人存否判定部5に送られる。重心変動量Vを取得した人存否判定部5は重心変動量Vと所定の閾値THとを比較し(#06)、重心変動量Vが閾値THよりも大きければ(#06のYes分岐)、ベッドB上に人が在床していると判定する(#07)。一方、重心変動量Vが閾値TH以下であれば(#06のNo分岐)、人はベ
ッドBから離床していると判定する(#08)。この判定結果は制御部1に返される。
【0047】
制御部1では、取得した判定結果に基づいて所定の処理を行う。例えば、在床しているべき人が在床していない場合に看護士等に通報する等である。
【0048】
図4は重心変動量の変化を表すグラフである。縦軸が重心変動量、横軸が時間である。また、図中の実線はベッドB上に人が在床している状態、図中の点線は人がベッドBから離床している状態である。図から明らかなように、人がベッドB上に在床している場合には重心変動量が大きくなっている。したがって、上述したように、重心変動量に基づけば的確にベッドB上の人の存否を判定することができる。
【0049】
なお、人や物がベッドB上に載った直後には荷重センサSによる計測値が安定せず、そのような計測値に基づいて在床状態判定を行っても正確な判定を行うことは困難であるため、荷重センサSの計測値が安定しない間は在床状態判定処理を行わない構成としても構わない。
【実施例2】
【0050】
図5は本実施例における在床状態判定装置Aの構成図である。本実施例における制御装置Cの機能部は実施例1の機能部に対して、さらに、基準荷重を記憶する荷重記憶部2、人存否判定部5に対する閾値を設定する閾値設定部8が備えられている。また、重心算出部3が後述する補正荷重を算出する補正荷重算出部3aを備え、補正荷重に基づいて補正重心を算出する点において実施例1と異なっている。なお、本実施例では人存否判定部5が本発明の比較部として機能する。
【0051】
荷重記憶部2はRAM(Random Access Memory)により構成され、基準荷重を荷重センサSi毎に記憶している。ここで、基準荷重WSiとは荷重センサSiにより計測された計測値WFiであり、初期値はベッドB上に人が在床していない状態での荷重センサSiの計測値WFiである。なお、荷重記憶部2はハードディスクやフラッシュメモリ等の不揮発性記憶媒体により構成しても構わない。
【0052】
補正荷重算出部3aはソフトウェアにより構成され、補正荷重を求める機能を有している。補正荷重とは、荷重センサSiにより計測された計測値WFiから基準荷重WSiを減じた値である。すなわち、補正荷重Wri=WFi−WSiである。
【0053】
図6は本実施例における処理の流れを表すフローチャートである。まず、在床状態判定装置Aの初期化を行う(#11)。本実施例での初期化は、メモリに記憶されている各時刻の重心および基準荷重WSiのリセットおよび閾値設定部8により人存否判定部5に対する閾値の設定である。上述したように、基準荷重WSiの初期値はベッドB上に人が在床していない状態での荷重センサSiの計測値WFiである。そのため、基準荷重WSiの初期化はベッドB上に人が在床していない状態で、荷重センサSiの計測値WFiを得る必要がある。例えば、ベッドB上に人が在床していない状態で、在床状態判定装置Aを起動する、オペレータが在床状態判定装置Aに対して初期化命令を与える等により、確実に基準荷重WSiの初期化を行うことができる。なお、初期化のタイミングはこれらに限定されるものではなく、荷重センサSiの計測値WFiの変動に基づいて、簡易的にベッド上に人がいないことを判定して行っても構わない。もし、ここでの人の在床状態を誤判定したとしても、後述の処理により正しい基準荷重WSが得られるため、問題とはならない。
【0054】
このようにして、制御部1は初期化として、各時刻における重心変動量をリセットするとともに、4つの荷重センサSiからの計測値WFiを取得し、荷重記憶部2に対して基準荷重WSiとして記憶させる。また、制御部1から閾値設定部8に対して、人の存否判定を行う旨の指示が送られ、閾値設定部8は人存否判定部5に対して人の存否判定に適した閾値THを設定する。
【0055】
初期化が完了すると、制御部1は所定のサンプリング間隔で荷重センサSiの計測値を
取得し、以下の処理を実行する。
【0056】
制御部1が各荷重センサSiの計測値WFi(t)(i=1〜4)を取得すると(#12)、それらの計測値WFi(t)は重心算出部3に送られる。計測値WFi(t)を取得した重心算出部3では、補正荷重算出部3aにより補正荷重Wri(t)=WFi(t)−WSiが算出される(#13)。上述したように、基準荷重WSiはベッドB上に人が在床していない状態での計測値WFiであるため、ベッドB上に人が在床している場合には補正荷重Wri(t)は人の体重を表している。この補正荷重Wriに基づいて補正重心gr(t)が以下の式により求められる(#14)。
【数3】

【0057】
求められた補正重心gr(t)は実施例1と同様にFIFO形式でメモリに記憶される。重心算出部3は補正重心gr(t)の算出が完了すると重心変動量算出部4に対してその旨を通知する。重心算出部3からの通知を受けた重心変動量算出部4は、メモリに所定時間分の補正重心grが記憶されているか否かをチェックする(#15)。メモリに必要数(この例では11)の補正重心grが記憶されていなければ(#15のNo分岐)、処理は#12に移行し、上述の処理が繰り返される。一方、メモリに必要数の補正重心grが記憶されていれば(#15のYes分岐)、実施例1と同様に式(2)により重心変動量V(本発明の重心情報の例)を算出する(#16)。
【0058】
算出された重心変動量Vは人存否判定部5に送られる。重心変動量Vを取得した人存否判定部5は重心変動量Vと上述のように設定された閾値THとを比較し(#17)、重心変動量Vが閾値THよりも大きければ(#17のYes分岐)、ベッドB上に人が在床していると判定する(#18)。一方、重心変動量Vが閾値TH以下であれば(#17のNo分岐)、人はベッドBから離床していると判定する(#19)。この判定結果は制御部1に返される。
【0059】
判定結果を取得した制御部1は、実施例1と同様の処理を実行する。なお、本実施例では、人がベッドBから離床しているとの判定結果を受けた場合には、制御部1は荷重記憶部2の基準荷重WSiの更新を実行する(#20)。具体的には、現時点、すなわち、時刻tにおける荷重センサSiの計測値WFi(t)を基準荷重WSiとして記憶させる。この処理により、基準荷重WSiは必ず人の体重が除かれた荷重を示すこととなり、補正荷重Wrは人の体重を表すこととなる。
【0060】
このように、本実施例では、補正荷重Wrに基づいて重心変動量を算出しているため、ベッドBの重量に影響されない重心変動量を算出することができ、人の在床状態の判定精度を高めることができる。
【実施例3】
【0061】
図7は本実施例における在床状態判定装置の構成図である。本実施例における制御装置Cの機能部は実施例2の機能部に対して、さらに、ソフトウェアにより構成された、ベッドB上の人の睡眠または覚醒状態を判定する睡眠状態判定部6およびベッドB上の人の姿勢を判定する姿勢判定部7が備えられている。なお、本実施例では人存否判定部5および睡眠状態判定部6が本発明の比較部として機能する。
【0062】
睡眠状態判定部6は、重心算出部3により算出された補正重心grに基づいて、ベッドB上の人の体動を判定し、体動に基づいてその人が睡眠状態であるか覚醒状態であるかを判定する。
【0063】
姿勢判定部7は、重心算出部3により算出された補正荷重Wrに基づいてベッドB上の人の体重を算出するとともに、その体重と重心算出部3により算出された補正重心grとに基づいてベッドB上の人の姿勢を判定する。
【0064】
図8は、本実施例の在床状態判定装置Aの処理の流れを表すフローチャートである。#31から#40までの処理は、実施例2における#11から#20までの処理と同様であるので、詳細な説明は省略する。ただし、本実施例では、重心算出部3は算出した補正重心grを睡眠状態判定部6および姿勢判定部7に送るとともに、補正荷重Wrを姿勢判定部7に送っている。また、#31の初期化処理では、閾値設定部8は人存否判定部5および睡眠状態判定部6に対してそれぞれ、人の存否判定に適した閾値および人の体動判定に適した閾値を設定している。
【0065】
人存否判定部5から人がベッドBに在床している旨の判定結果を受けた制御部1は、睡眠状態判定部6および姿勢判定部7に対して判定処理を行うよう指示を送る。
【0066】
補正重心gr(t)を取得した睡眠状態判定部6は、補正重心gr(t)に基づいて得られる重心情報に基づいてベッドB上の人の睡眠状態を判定する(#41)。ここで、睡眠状態の判定とは、人が睡眠状態であるか覚醒状態であるかを判定することを意味している。判定された睡眠状態は制御部1に送られる。本実施例では、重心情報としての重心変動量Vと睡眠状態判定部6に対して設定された閾値とを比較することにより、所定時間当たりの体動数を算出し、その体動数に基づいて睡眠状態を判定している。具体的には、所定時間当たりに重心変動量Vが閾値を超えた回数を計数し、その値が所定回数以上であれば覚醒状態、それ未満であれば睡眠状態と判定する。
【0067】
一方、補正重心gr(t)および補正荷重Wrを取得した姿勢判定部7は、まず、補正荷重WriからベッドB上の人の体重WHを算出するとともに、補正重心gr(t)に基づいて得られる重心情報および体重WHに基づいてベッドB上の人の姿勢を判定する。上述したように、補正荷重Wriは人の体重のみを表しているため、体重WHは以下の式により求めることができる。なお、姿勢とは、横臥位、上体起立、端座位等である。
【数4】

【0068】
このように、本実施例では、人の体重のみが反映された補正荷重Wriに基づいて人の睡眠状態や姿勢を判定しているため、荷重センサSiの計測値WFiに基づいて判定するよりも正確な判定を行うことができる。また、ベッドB上に人がいないと判定されたタイミングでその判定に用いられた計測値を基準荷重として記憶させているため、ベッド上に物がおかれた場合等のようにベッドBの荷重が変動した場合であっても、正確な基準荷重を設定することができ、より判定精度を高めることができる。
【0069】
なお、本実施例では、実施例2と同様に補正重心grの重心変動量Vを用いて人の存否を判定したが、実施例1と同様に全荷重重心gaの重心変動量Vを用いて判定しても構わない。
【0070】
〔別実施形態〕
(1)上述の実施形態では、重心変動量算出部4により算出された重心変動量と閾値とを比較することにより人の存否判定を行ったが、算出された重心変動量Vを補正しても構わない。図4に示したように、ベッドB上に人がいない場合でも荷重センサSの計測誤差等の影響により重心変動量Vは0とはなっておらず、閾値THの設定次第では誤判定を招くおそれがある。このような場合には、カメラにおける暗電流補正と同様に、ベッドB上に人がいない場合の重心変動量Vの平均値を重心変動量算出部4により算出された重心変動量Vから減じる補正を行ってもよい。
【0071】
また、ベッドBの重さに対して人の重さが小さい場合には、重心変動量Vが小さくなる
傾向がある。その場合には、重心変動量算出部4により算出された重心変動量Vに所定の値を乗じる補正を行ってもよい。所定の値は、例えば、荷重センサ4の計測値WFiの総和を用いることができる。なお、重心変動量Vを補正するのではなく、ベッドBの重さに応じて閾値THを変更する構成としても構わない。
【0072】
(2)上述の実施例2および3では、補正重心grから算出される重心変動量Vに基づいて人の在床状態を判定したが、全荷重重心gaから算出される重心変動量Vと補正重心grから算出される重心変動量Vとを併用しても構わない。例えば、初期状態や人が在床していないと判定された際には全荷重重心gaから算出される重心変動量Vを用い、人が在床していると判定された際には補正重心grから算出される重心変動量Vを用いることができる。
【0073】
(3)上述の実施形態では、比較部としての人存否判定部5および睡眠状態判定部6は、重心情報と閾値とを比較し、人の存否や睡眠状態を報知したが、重心情報と閾値との比較結果のみを出力するように構成しても構わない。この構成では、比較結果を見た看護士等が人の存否や睡眠状態を判断することとなる。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明は、ベッド上の人の在床状態を判定する在床状態判定技術に適用することができる。
【符号の説明】
【0075】
A:在床状態判定装置
B:ベッド
S:荷重センサ(荷重計)
WF:計測値
WH:体重
Wr:補正荷重
WS:基準荷重
V:重心変動量
ga:全荷重重心
gr:補正重心
2:荷重記憶部
3:重心算出部
4:重心変動量算出部
5:人存否判定部
5:比較部
6:睡眠状態判定部
6:比較部
7:姿勢判定部
8:閾値設定部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベッドが設置面に加える荷重を分散して計測するように配置された複数の荷重計と、
前記複数の荷重計により計測された複数の計測値に基づいて重心を算出する重心算出部と、
所定時間内における前記重心の変動量である重心変動量を算出する重心変動量算出部と、
前記重心変動量に基づいて前記ベッド上の人の存否を判定する人存否判定部を備えた在床状態判定装置。
【請求項2】
前記重心算出部は前記複数の計測値そのものの重心である計測値重心を算出する請求項1記載の在床状態判定装置。
【請求項3】
人が在床していない状態の前記複数の計測値を初期値とする基準荷重を前記荷重計毎に記憶する荷重記憶部を備え、
前記重心算出部は前記複数の計測値から前記基準荷重を減じた補正荷重の重心である補正重心を算出する請求項1記載の在床状態判定装置。
【請求項4】
前記人存否判定部により前記ベッド上に人が存在しないと判定された際に、前記荷重記憶部に記憶されている前記基準荷重を当該判定に用いられた前記複数の計測値により更新する請求項3記載の在床状態判定装置。
【請求項5】
前記補正重心から得られる重心情報に対する閾値を設定する閾値設定部と、
前記重心情報と前記閾値とを比較する比較部と、を備えた請求項3または4記載の在床状態判定装置。
【請求項6】
前記補正荷重に基づいて前記ベッド上の人の体重を算出し、当該体重と前記補正重心から得られる重心情報とに基づいて当該人の在床姿勢を判定する姿勢判定部を備えた請求項3から5のいずれか一項に記載の在床状態判定装置。
【請求項7】
前記重心変動量算出部は、所定時点における前記重心と、当該所定時点から前記所定時間過去の各々の時点における前記重心との偏差の和を前記重心変動量として算出する請求項1から6のいずれか一項に記載の在床状態判定装置。
【請求項8】
前記人存否判定部は、前記重心変動量を補正した値に基づいて前記ベッド上の人の存否を判定する請求項1から7のいずれか一項に記載の在床状態判定装置。
【請求項9】
前記複数の計測値の総和を乗ずることにより前記重心変動量の補正を行う請求項8記載の在床状態判定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−11174(P2012−11174A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−4674(P2011−4674)
【出願日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【出願人】(000000011)アイシン精機株式会社 (5,421)
【Fターム(参考)】