説明

地上及び車上観測データを用いた高度列車安全制御システム

【課題】 各種情報を組み合わせることにより災害の発生を予測し、広域的かつ段階的な危険回避が必要な自然災害に対して自動で安全確保を行うことができる地上及び車上観測データを用いた高度列車安全制御システムを提供する。
【解決手段】 地上及び車上観測データを用いた高度列車安全制御システムにおいて、線区内の地上観測装置7と、車上観測装置2及びリアルタイム列車位置・速度計測装置3を有する列車1と、地理空間情報を記憶する指令所5と、自然災害情報の提供に関与する外部機関9とを備え、前記地上観測装置7からの地上観測データ23と、前記リアルタイム列車位置・速度計測装置3からの車両の位置・速度情報22と、前記外部機関9からの気象情報24と、前記指令所5における地理空間情報25とを組み合わせることにより、前記指令所5において高精度の災害予測を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、雨, 風, 雪, 地震などによる自然災害から列車の安全を守るための地上及び車上観測データを用いた高度列車安全制御システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、自然災害時に列車走行の安全性を確保するために、沿線に設置した各種センサからのデータや、駅員・運転士及び外部機関からの情報を収集し、運転規制の発令や規制解除・運転再開の判断に利用している(下記特許文献1〜3参照)。この時、情報の信頼性の観点から、判断に用いる重要な情報は事業者独自で収集したものを用いることが多い。例えば、地上に設置されたセンサにより観測されたデータの値があらかじめ定められた基準値を超えた場合、指令員の判断で列車運転の中止や徐行、運転再開などの判断が一定の区間にわたって行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第2595412号公報
【特許文献2】特開2006−284200号公報
【特許文献3】特開2006−343126号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の列車安全制御システムにおいては、列車運転の中止や徐行、運転再開などの判断は、主に地上に設置されたセンサにより観測されたデータにのみ依存している。
本発明は、上記状況に鑑みて、地上及び車上観測データを組み合わせることにより災害の発生を予測し、広域的かつ段階的な危険回避が必要な災害に対して自動で安全確保を行うことができる高度列車安全制御システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上記目的を達成するために、
〔1〕地上及び車上観測データを用いた高度列車安全制御システムにおいて、線区内の地上観測装置と、車上観測装置及びリアルタイム列車位置・速度計測装置を有する列車と、地理空間情報を記憶する指令所と、気象情報の提供に関与する外部機関とを備え、前記地上観測装置からの地上観測データと、前記車上観測装置からの車上観測データと、前記リアルタイム列車位置・速度計測装置からの車両の位置・速度情報と、前記外部機関からの気象情報と、前記指令所における地理空間情報とを組み合わせることにより、前記指令所において高精度の災害予測を行うことを特徴とする。
【0006】
〔2〕上記〔1〕記載の地上及び車上観測データを用いた高度列車安全制御システムにおいて、前記車上観測情報が降雨量又は風速値であることを特徴とする。
〔3〕上記〔1〕記載の地上及び車上観測データを用いた高度列車安全制御システムにおいて、前記地理空間情報が地盤、地質、地形、構造物、周辺設備に関する情報であることを特徴とする。
【0007】
〔4〕上記〔1〕記載の地上及び車上観測データを用いた高度列車安全制御システムにおいて、前記地上観測データが線路の周辺地形や構造物の変状データであることを特徴とする。
〔5〕上記〔1〕記載の地上及び車上観測データを用いた高度列車安全制御システムにおいて、前記災害予測の結果に基づいて、前記指令所から運転規制指令を前記列車に通報することを特徴とする。
【0008】
〔6〕上記〔5〕記載の地上及び車上観測データを用いた高度列車安全制御システムにおいて、前記災害予測の結果に基づいて、前記列車に前記運転規制の解除指令を行うことを特徴とする。
〔7〕上記〔1〕記載の地上及び車上観測データを用いた高度列車安全制御システムにおいて、必要に応じて保守管理所に巡回範囲の情報を自動で配信することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、地上及び車上で得られた観測データと各所からの情報を集約して高精度の災害予測を行うことにより、列車の安全走行に寄与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施例を示す地上及び車上観測データを用いた高度列車安全制御システムの模式図である。
【図2】本発明の実施例を示す地上及び車上観測データを用いた高度列車安全制御システムの制御処理装置のブロック図である。
【図3】本発明の実施例を示す地上及び車上観測データを用いた高度列車安全制御フローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
地上及び車上観測データを用いた高度列車安全制御システムは、線区内の地上観測装置と、車上観測装置及びリアルタイム列車位置・速度計測装置を有する列車と、地理空間情報を記憶する指令所と、気象情報の提供に関与する外部機関とを備え、前記地上観測装置からの地上観測データと、前記車上観測装置からの車上観測データと、前記リアルタイム列車位置・速度計測装置からの車両の位置・速度情報と、前記外部機関からの気象情報と、前記指令所における地理空間情報とを組み合わせることにより、前記指令所において高精度の災害予測を行う。
【実施例】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
図1は本発明の実施例を示す地上及び車上観測データを用いた高度列車安全制御システムの模式図、図2はその地上及び車上観測データを用いた高度列車安全制御システムの制御処理装置のブロック図である。
図1において、1は列車、2は列車1に搭載される車上観測装置(例えば、雨量計、風速計など)、3はリアルタイム列車位置・速度計測装置、4は列車1が走行する線路、5は指令所、6は指令所5の制御処理装置、7は線区内の地上観測装置、8は保守線区毎に設けられる保守管理所、9は気象庁等の気象情報の提供に関与する外部機関、10は線路4の周辺の地形、11は線路4の周辺の構造物である。
【0013】
地上観測装置7は線区の地理条件や気象条件に応じて種々のセンサ類を用いるようにする。例えば、傾斜面などの土構造物の変状を検知する地中埋設型のセンサ(特許第4208062号公報、特許第3871874号公報、特開2003−014451号公報参照)や、軌道狂いを計測するセンサ(特許第3871874号公報、特許第3942864号公報参照)などが挙げられる。
【0014】
また、指令所5には、あらかじめ線区の地理空間情報(地盤・地質・地形・構造物・周辺設備)をデータベースとして制御処理装置6に備えておく。
この制御処理装置6は、中央処理装置6A、線区の地理空間情報記憶装置6B、災害予測部6C、列車運転規制・運転再開判定部6D、無線送受信装置6E、送受信装置6Fを備えている。なお、その送受信装置6Fとしては、有線、無線、その他の送受信手段を用いることができる。指令所5では、列車1上の車上観測装置2で計測された雨量・風速などの各種車上観測データ21及びリアルタイム列車位置・速度計測装置3で計測された列車位置・速度情報22を無線送受信装置6Eを介して制御処理装置6に取り込み、地上観測装置7で観測された周辺地形10や構造物11に関する地上観測データ23と、気象庁等の外部機関9からの気象情報24を送受信装置6Fで制御処理装置6に取り込み、データを集約する。指令所5は、集約された各データ及び情報と、あらかじめ記憶されている地理空間情報25とを利用して、災害予測部6Cで自動で災害発生の予測を行い、必要に応じて列車運転規制・運転再開判定部6Dで列車の停止・徐行など運転規制の判断を行う。運転規制を要する場合は、列車の停止や徐行の範囲、出発抑止などの指示情報26を列車1に自動で配信する。また、指令所5は災害予測を継続して行い、列車1の運転再開が可能であると判断した場合には列車運転規制・運転再開判定部6Dで運転再開情報27を列車1に指令する。なお、運転再開にあたり必要に応じて保守管理所8等に巡回範囲情報28を自動で配信する。
【0015】
図3は本発明の実施例を示す地上及び車上観測データを用いた高度列車安全制御フローチャートである。
(1)指令所5の制御処理装置6に地理空間情報(地盤・地質・地形・構造物・周辺設備)25をデータベースとしてあらかじめ設定しておく(ステップS1)。
(2)次に、列車1に搭載される車上観測装置2からの雨量や風速などの車上観測データ23及びリアルタイム列車位置・速度計測装置3からの列車1の位置・速度情報22、地上観測装置6からの線区内の周辺地形10や構造物11の変状に関する地上観測データ23、そして気象庁等の外部機関9からの気象情報24を、送受信装置6Fを介して指令所5に収集する(ステップS2)。
【0016】
(3)上記ステップS1で記憶されている情報と上記ステップS2で収集した各データ及び情報を組み合わせて、災害予測部6Cで自動で災害発生の予測を行う(ステップS3)。
(4)上記ステップS3における災害発生の予測に基づいて、列車運転規制・運転再開判定部6Dで列車1の運転規制(停止又は徐行)は必要であるか否かの判断を行う(ステップS4)。
【0017】
(5)上記ステップS4において運転規制が必要である場合、指令所5から列車1へ運転規制の指令を行う(ステップS5)。
(6)指令所5において、災害予測を継続して行い、列車運転規制・運転再開判定部6Dで列車の運転再開ができるか否かの判断を行う(ステップS6)。
(7)上記ステップS6において運転再開が可能である場合は、指令所5から列車1へ運転再開の指令を行う(ステップS7)。
【0018】
また、地理空間情報は国土基盤情報とともに用いるようにしてもよい。
なお、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨に基づき種々の変形が可能であり、これらを本発明の範囲から排除するものではない。
【産業上の利用可能性】
【0019】
本発明の地上及び車上観測データを用いた高度列車安全制御システムは、指令所において高精度の災害予測を行い、列車の安全運行に寄与するツールとして利用可能である。
【符号の説明】
【0020】
1 列車
2 車上観測装置
3 リアルタイム列車位置・速度計測装置
4 線路
5 指令所
6 制御処理装置
6A 中央処理装置
6B 線区の地理空間情報記憶装置
6C 災害予測部
6D 列車運転規制・運転再開判定部
6E 無線送受信装置
6F 送受信装置
7 線区内の地上観測装置
8 保守管理所
9 外部機関
10 線路の周辺の地形
11 線路の周辺の構造物
21 各種車上観測データ
22 列車位置・速度情報
23 地上観測データ
24 気象情報
25 地理空間情報
26 列車の停止や徐行の範囲、出発抑止などの指示情報
27 運転再開情報
28 巡回範囲情報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)線区内の地上観測装置と、
(b)車上観測装置及びリアルタイム列車位置・速度計測装置を有する列車と、
(c)地理空間情報を記憶する指令所と、
(d)気象情報の提供に関与する外部機関とを備え、
(e)前記地上観測装置からの地上観測データと、前記車上観測装置からの車上観測データと、前記リアルタイム列車位置・速度計測装置からの車両の位置・速度情報と、前記外部機関からの気象情報と、前記指令所における地理空間情報とを組み合わせることにより、前記指令所において高精度の災害予測を行うことを特徴とする地上及び車上観測データを用いた高度列車安全制御システム。
【請求項2】
請求項1記載の地上及び車上観測データを用いた高度列車安全制御システムにおいて、前記車上観測データが降雨量又は風速値であることを特徴とする地上及び車上観測データを用いた高度列車安全制御システム。
【請求項3】
請求項1記載の地上及び車上観測データを用いた高度列車安全制御システムにおいて、前記地理空間情報が地盤、地質、地形、構造物、周辺設備に関する情報であることを特徴とする地上及び車上観測データを用いた高度列車安全制御システム。
【請求項4】
請求項1記載の地上及び車上観測データを用いた高度列車安全制御システムにおいて、前記地上観測データが線路の周辺地形や構造物の変状データであることを特徴とする地上及び車上観測データを用いた高度列車安全制御システム。
【請求項5】
請求項1記載の地上及び車上観測データを用いた高度列車安全制御システムにおいて、前記災害予測の結果に基づいて、前記指令所から運転規制指令を前記列車に通報することを特徴とする地上及び車上観測データを用いた高度列車安全制御システム。
【請求項6】
請求項5記載の地上及び車上観測データを用いた高度列車安全制御システムにおいて、前記災害予測の結果に基づいて、前記列車に前記運転規制の解除指令を行うことを特徴とする地上及び車上観測データを用いた高度列車安全制御システム。
【請求項7】
請求項1記載の地上及び車上観測データを用いた高度列車安全制御システムにおいて、必要に応じて保守管理所に巡回範囲の情報を自動で配信することを特徴とする地上及び車上観測情報を用いた高度列車安全制御システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−31710(P2011−31710A)
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−179168(P2009−179168)
【出願日】平成21年7月31日(2009.7.31)
【出願人】(000173784)財団法人鉄道総合技術研究所 (1,666)
【Fターム(参考)】