説明

地盤の振動を減衰させる方法、および同装置

【課題】 例えば杭打ち作業のように、振動公害を発生する虞れの有る地盤振動を減衰させる技術を提供する。
【解決手段】 震源の周囲の地表を覆って圧電制振板5A,5Bを配置し、その上に加圧重錘6を載置する。前記圧電制振板は、上側鋼板と下側鋼板との間に圧電素子を挟んで構成されている。地盤振動は前記圧電素子に対して繰返し圧力を与えて発電させる。このようにして地盤の振動エネルギーが電気エネルギーに変換され、地盤振動が減衰する。発生した電気エネルギーを電気抵抗に流し、熱エネルギーに再変換して放散させても良いが、バッテリに充電して有効利用することもでき、また、発生電圧を検出して振動の強さを計測することもできる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば土木工事における杭打ち作業のように、公害を発生させる虞れの有る振動が発生する場合、この振動を遠くまで伝播させないよう、途中で減衰させる技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば杭打ち工事においては、振動公害と騒音公害とを発生する虞れが有り、その防止対策が必要である。
騒音は、空気の振動が空気中を伝播して生活空間に到達する現象であり、これを防止するため、杭打機を遮音板で囲むなどの対策が行なわれている。
振動公害は、地盤の振動が地盤の中を伝播して生活区域に到達する現象であって、実用的な防止技術は未だ開発されていない。
【特許文献1】 特開2008−87512号公報
【特許文献2】 特開2006−132397号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は前述の事情に鑑みて為されたものであって、その目的は、地盤中を伝播する振動を減衰させて無害化することである。その具体的な手段は、後の項で詳しく説明するように、圧電素子によって地盤の振動エネルギーを電気エネルギーに変換する。
発生した電気エネルギーは、バッテリに蓄えておいて利用しても良く、電気抵抗に流して熱エネルギーに再変換して放散させても良い。要するに本願発明の基本的な技術思想は振動エネルギーを吸収して減衰させることが要旨であって、変換されて発生した電気エネルギーの有効利用までは想到していない。しかし、発生した電気エネルギーを無害に処理することは、公知技術を利用して容易に可能である。
【0004】
特許文献1として挙げた特開2008−87512号公報に記載された「タイヤ発電装置及びこれを用いたタイヤセンサ、並びにタイヤ剛性可変装置」は、ゴム製チューブレスタイヤに発電素子と送電手段とを設けたものであり、
また、特許文献2として挙げた特開2006−132397号公報に記載された「流力振動を利用した圧電セラミックによる発電方法及び装置」は、水流の中に柱を設置してカルマン渦を発生させ、この渦によって生じる圧力変化を利用して圧電振動板を振動させて発電するものである。
これに類似した多数の発明が提案されているが、いずれの発明も「効率良く発電すること」を発明の目的とし、発生した電気エネルギーの有効利用を工夫している。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、これら先行の公知技術とは全く目的を異にし、振動エネルギーを吸収して電気的エネルギーに変換することにより、地盤の振動を減衰させて振動公害を防止する。
前記の目的を達成するために創作した請求項1に係る発明方法は、地表付近で発生した振動を減衰させる方法であって、
震源周囲の地表の少なくとも一部分を、圧電素子で覆うとともに、
上記圧電素子の上に重錘を載置して、該圧電素子を地面に向けて押圧することを特徴とする。
【0006】
請求項2に係る発明方法は、地盤の中を伝播する振動を減衰させる方法であって、
振動の伝播方向に対してほぼ直交する仮想の平面に添って、圧電素子を配置することを特徴とする。
【0007】
請求項3に係る発明方法は前記請求項2の構成要件に加えて、剛性を有する2枚の板状部材の間に圧電素子を挟み付けて一体的に結合し、
上記の一体化した部材を杭打ち手段によって地盤中に埋設することによって、前記の圧電素子を前記仮想の平面に添わせて配置することを特徴とする。
【0008】
請求項4に係る発明装置は、前記請求項1の発明方法を実施するために創作されたものであって、内径10cm以上の座金状鋼板2枚の間に、圧電素子を挟み付けて一体的に結合して成ることを特徴とする。
また、請求項5に係る発明装置の構成は前記請求項4の発明装置の構成要件に加えて、前記の座金状鋼板と圧電素子とから成る一体的結合部材が、放射状の切目によって複数個に分割されていることを特徴とする。
【0009】
請求項6に係る発明装置は、前記請求項3の発明方法を実施するために創作されたものであって、2枚の矢板状鋼板の間に圧電素子を挟み付けて一体的に結合して成ることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
請求項1の発明方法を適用すると、地表付近で発生した振動を吸収して電気エネルギーを変換するので、前記の発生した振動が減衰する。このため、振動公害を防止することができる。
また、請求項2の発明方法を適用すると、地盤の中を伝播している振動を減衰させることができ、振動公害の防止に有効である。
さらに、請求項3の発明方法によれば、前記請求項2の発明方法を容易に実施することができる。
【0011】
請求項4の発明装置は、前記請求項1に係る発明方法を杭打ち抜き工事に適用するために創作されたもので、杭打ち抜き工事の際に発生する振動を減衰させて振動公害を防止することができる。
請求項5の発明装置を、前記請求項4の発明装置に併せて適用すると、使用する機材の取扱いが容易である。
また、請求項6の発明装置は、前記請求項3の発明方法を実施するために創作されたものである。この請求項6の発明装置を用いると、請求項3の発明方法を容易に実施して、その効果を充分に発揮させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
図1は本発明の1実施形態を示す模式的な斜視図である。
クレーン3によって吊持された振動式の杭打抜機4によって杭2を把持し、該杭2を地盤1に打ち込んでいる。このため、杭と地盤とが接触している箇所で地盤振動が発生し、周囲に伝播してゆく。
圧電制振板5Aと同5Bとは、両者を合わせて座金状を成している。その大きさは、中心孔に杭を貫通させるため、内径寸法を10cm以上に設定する。外径寸法は適宜に定めることができる。
座金状とは、本発明装置のイメージを表したものであって、環状の平板を言う。しかし幾何学的に厳密な意味で形状を限定するものではなく、座金状に類似する形状を総称する意である。例えば内孔や外周が同心円に限定されず、同心の多角形でも良く、非同心の多角形でも、不定形の閉曲線でも良い。
また、上,下の面は必ずしも平面であることを要せず、凹凸が有っても良い。
要するに、杭打ち地点の周囲の地表を覆い得る形状,寸法であれば、本発明の技術的範囲に属する。
【0013】
前記の圧電制振板(5A,5B)は、座金状の形状を放射状切目5Cによって複数個に分割されている。分割個数および切目の形状は任意に設定することができる。前記の切目を放射状と呼んだのは、「この切目が内孔及び外周に繋がっていることを表した便宜上の称呼であって、幾何学的な放射形状に限定されるものではない。
図1の実施形態においては振動発生源である杭2の全周360度を圧電制振板(5A,5B)で取り囲んだが、本発明を実施する際、必ずしも全周を取り囲まなくても良い。
例えば、杭の打設地点から見て特定の方向に病院が有って振動を禁忌される場合とか、
又は、特定の方向は海であって振動が問題にならない場合には、杭(震源)の周囲の一部分に圧電制振板を配置しても良い。
何れの場合にも、配置した圧電制振板の上に加圧重錘6を載置する。
本発明において加圧重錘とは、圧電素子に対して重力荷重を与える部材を総称する。すなわち、圧電素子の上に置くための専用部材に限らず、例えば定規を兼用しても加圧重錘である。
【0014】
本実施形態における圧電制振板(5A,5B)は、上,下2枚の鋼板の間に圧電素子を挟み付け、一体的に結合した。一体的に結合したのは取り扱いの便宜を図ったものであって、結合の手段は限定されない。要するに鋼板と圧電素子との成層構造物がバラバラにならないように止め付ければ良い。
本発明の変形例として、前記の鋼板を、鋼以外の剛性部材で代替することもできる。圧電制振板の本質的な部分は圧電素子であり、その下側の鋼板は形を整える役目と振動を伝える役目とを受け持っている。また、上側の鋼板は圧電素子を保護して形を整える役目と加圧重錘6の圧力を伝える役目を受け持っている。
前記の役割りに関して鋼板と等価に機能する部材を以って鋼板に代えても本発明と均等であり、その技術的範囲に属する。
【0015】
地盤1と杭2との接触箇所を震源とする地盤の振動は、地盤内を伝播してゆくが、その中で、地中深くに向かう振動成分は公害を惹起する虞れが無い。地表に沿って進行する振動が主たる振動公害源である。
図1の実施形態において、杭打ち地点で発生した振動のうち、地表に沿って進行する振動成分は圧電制振板5A,5Bを振動させる。
圧電制振板を構成している上下2枚の鋼板のうち、下側の鋼板は地面と一緒に上下に振動するが、上側の鋼板は加圧重錘6の慣性力によって上下振動を阻止される。
【0016】
このようにして、上下2枚の鋼板に挟まれた圧電素子は繰り返し圧縮力を受け、振動エネルギーを吸収して電気的エネルギーを発生する。
その結果、杭打ち作業によって発生した地盤の振動が減衰し、振動公害が防止された。
本実施形態においては、発生した電流を電気抵抗に通して熱に変え、放散させた。しかし、発生した電気エネルギーをバッテリに蓄電して有効利用することも、発生した振動の大きさを電気的に表示させることも、公知技術を適用して可能である。
この図1に示した実施形態においては、圧電制振板5A,5Bを搬送して配置したり、その上に加圧重錘6を載置したりする労力を必要とし、作業後に取り片付ける労力も必要である。
しかし、この種の杭打ち作業は必ずクレーン3を手配して協働させるから、このクレーンによって圧電制振板や加圧重錘を搬送すれば良く、減衰(振動公害防止)のための作業コストは僅少である。
【0017】
図2は前記と異なる実施形態を示し、(A)は模式的な断面図、(B)はそのb−b断面矢視図である。
振動式の杭打抜機4によって杭2が地盤1の中へ打ち込まれつつある。杭と地盤とが相互に接触している区域が震源である。
上記の震源から各方向に伝播する振動のうち、矢印a方向の振動が公害を招く虞れを有するものとし、矢印a′方向の振動は公害を招く虞れが無いものとする。
矢印cのように地盤の深部に向かう振動は公害を招く虞れを有しない。また、紙面手前方向や紙面背後方向に向かう振動も実害を及ぼさないものとする。
このような場合、矢印a方向に伝播する振動を減衰させれば良いことになる。
【0018】
このような作業条件においては、前記の矢印aで表した方向に対して直交する仮想の平面H−Hを想定し、この平面H−Hにほぼ添わせて圧電素子を配設する。具体的には、後に説明するようにして圧電素子を内蔵せしめた制振杭7を地中に打ち込む。
前記制振杭7のb−b断面を(B)に示す。矢板形外側鋼板8と矢板形内側鋼板9との間に圧電素子10を挟み付けて一体的に結合されている。結合の手段は任意に設定すれば良い。
本実施形態においては、JIS規格の鋼矢板をそのまま用いて矢板形外側鋼板8とし、JIS規格の鋼矢板から杭継手(通称セクション)を削り取って矢板形内側鋼板9とした。
本実施形態の制振杭7を製作する際は既製品の鋼矢板を利用すると便利である。鋼矢板の形式は限定されず、平形の鋼矢板でも異形鋼矢板でも良い。本実施形態において鋼矢板とは、杭打機によって地中に打設し得る部材の総称である。杭打機の種別は限定される。制振杭7の上端は地上に露出していても良く、下半部が地中に埋設されれば足りる。
【0019】
図2を参照して以上に説明した構成により、減衰させようとする振動の伝播方向(矢印a)に対してほぼ直交する仮想の平面に添って圧電素子10が配置される。
矢印a方向に進行してきた地盤振動は、圧電素子10に対して繰り返し圧力を加えて、該圧電素子に発電させる。本実施形態においては発生した電力を電気抵抗に流し、熱エネルギーに変換して放散させた。
上述の作用効果から明らかなように、圧電素子10の配列が矢印aに直交していれば、振動吸収・電力変換効率が最大となり、角αだけ狂うと、効率は角αの余弦(cosine)に比例して低下する。
ただし、0度近傍の余弦は1に近いので、多少の角度狂いは気にしなくても良い。本発明において「ほぼ直行する」とは、「平行でないこと」と均等である。
【0020】
図2に示した実施形態においては、1方向を表す矢印aに対し、ほぼ直交せしめて1本の制振杭7を打設したが、これと異なる実施形態として、該矢印aが水平面内で広がりを有する場合は、複数本の制振杭7を打設すると良い。
杭の打設地点を中心として全周方向の振動伝播を防止したいときは、杭2を取り囲んで制振杭7を列設すれば良い。
【0021】
図1の実施形態に示した圧電制振板5A,5Bは、地盤振動の横波成分を減衰させる機能が優れており、図2の実施形態に示した制振杭7は地盤振動の縦波成分を減衰させる機能が優れている。
こうした特性を考慮して、図1に示した圧電制振板と図2に示した制振杭とを併用して横波成分を縦波成分との両方を減衰させることも望ましい。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】 本発明の1実施形態を示し、模式的に描いた斜視図である。
【図2】 前記と異なる実施形態を示し、(A)は模式的に描いた断面図であり、(B)はそのb−b断面図矢視図である。
【符号の説明】
【0023】
1…地盤
2…杭
4…杭打抜機
5A,5B…圧電制振板
6…加圧重錘
7…制振杭
8…矢板形外側鋼板
9…矢板形内側鋼板
10…圧電素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地表付近で発生した振動を減衰させる方法であって、
震源周囲の地表の少なくとも一部分を、圧電素子で覆うとともに、
上記圧電素子の上に重錘を載置して、該圧電素子を地面に向けて押圧することを特徴とする、地盤の振動を減衰させる方法。
【請求項2】
地盤の中を伝播する振動を減衰させる方法であって、
振動の伝播方向に対してほぼ直交する仮想の平面に添って、圧電素子を配置することを特徴とする、地盤の振動を減衰させる方法。
【請求項3】
剛性を有する2枚の板状部材の間に圧電素子を挟み付けて一体的に結合し、
上記の一体化した部材を杭打ち手段によって地盤中に埋設することによって、前記の圧電素子を前記仮想の平面に添わせて配置することを特徴とする、請求項2に記載した地盤の振動を減衰させる方法。
【請求項4】
内径10cm以上の座金状鋼板2枚の間に、圧電素子を挟み付けて一体的に結合して成ることを特徴とする、地盤の振動を減衰させる装置。
【請求項5】
前記の座金状鋼板と圧電素子とから成る一体的結合部材が、放射状の切目によって複数個に分割されていることを特徴とする、請求項4に記載した地盤の振動を減衰させる装置。
【請求項6】
2枚の矢板状鋼板の間に圧電素子を挟み付けて一体的に結合して成ることを特徴とする、地盤の振動を減衰させる装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−133209(P2010−133209A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−335868(P2008−335868)
【出願日】平成20年12月3日(2008.12.3)
【出願人】(391002122)調和工業株式会社 (43)
【Fターム(参考)】