説明

地磁気センサ及びこの地磁気センサを備えた移動体表示装置

【課題】 外乱磁界を高精度で検出することにより、異常な外乱磁界による影響を低減できるようにした地磁気センサ及びこの地磁気センサを備えた移動体表示装置を提供する。
【解決手段】
任意の測定位置において検出した地磁気Fの全磁力|F|が、方位球100上の所定の領域に設けられた略リング状のウインドウ110A内にあり、且つ伏角δも前記ウインドウ110A内にある場合には、正常な地磁気であると判定し、それ以外の場合を異常な地磁気であると判定することにより、外乱磁界による地磁気の乱れを高い精度で検出することができる。またこのような地磁気センサを備えることにより、正確な情報のみを表示する信頼性の高い移動体表示装置を提供することが可能なる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測定地点で取得された地磁気から移動体の進行方向などを検出する地磁気センサ及びこの地磁気センサを備えた移動体表示装置に係わり、特に外乱磁界による影響を低減できるようにした地磁気センサ及びこの地磁気センサを備えた移動体表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
本願発明に関する先行技術文献としては、例えば下記の特許文献1が存在している。特許文献1に記載された地磁気検出装置には、方位円100に沿って一定幅でリング状に形成された第一ウインドウW1と、前記方位円100の原点Oを中心点として第二ウインドウW2の外枠をなす円103とが設定されている。この地磁気検出装置は、地磁気センサ12の出力が第一ウインドウW1を所定時間外れた場合、または地磁気センサ12の出力が第二ウインドウW2を外側に外れた場合に警報を行うことにより、地磁気データに外乱磁界が含まれているか否かを検出する機能を備えている。
【特許文献1】特開平5−79842号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、地磁気は3軸方向の成分からなる3次元ベクトルで表され、地平面に対しは伏角を有している。
【0004】
したがって、上記特許文献1に記載されているように、地磁気データに外乱磁界が含まれているか否かの判定に当たり、地磁気を地平面に投影した水平成分Hのみで判定すると、正常な地磁気を誤って異常な地磁気と判定する可能性は少ないが、Z軸方向成分は元々扱わないようにしているためZ軸方向に発生した異常な外乱磁界の混入を見落とす可能性がある。
【0005】
すなわち、国土地理院ホームページ内(http://vldb.gsi.go.jp/sokuchi/geomag/
survey/horizontalforce2000.jpg参照)には日本国内における地磁気の水平分力H(2000.0年値)の大きさが示されているが、測定位置によっては基準となるこれらの水平分力Hから±10%程度の誤差が生じることがある。また温度や経時変化により地磁気センサの感度が5〜10%程度変化することを見込むと、異常な外乱磁界により検出された地磁気に乱れがあったと判定するときの判定条件には、基準となる前記水平分力Hに対し概ね±15〜20%程度の許容範囲を設けることが一般的である。
【0006】
したがって、外乱磁界が大きい場合には、元々の水平成分に前記外乱磁界が合成された後の水平成分の大きさが前記許容範囲内に収まる可能性は低いが、前記外乱磁界の大きさが中程度で(例えば、外乱磁界の絶対値が地磁気ベクトルの30%程度)の場合には、合成後の水平成分の大きさが前記許容範囲内に収まってしまう可能性が高く、この場合には異常な外乱磁界に基づく検出地磁気の乱れを見逃してしまうという問題がある。
【0007】
しかも、このような地磁気センサを備えた携帯機器では、前記のような異常な外乱磁界を誤差として含んだままの状態に基づく情報が画面上に表示されてしまう。
【0008】
本発明は上記従来の課題を解決するためのものであり、外乱磁界に対する検出精度を高めることにより、異常な外乱磁界による影響を低減できるようにした地磁気センサ及びこの地磁気センサを備えた移動体表示装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の地磁気センサは、任意の測定位置において互いに直交する3軸方向の地磁気を検出する地磁気検出手段と、前記3軸のうち地面に平行する2軸の傾きを検出する傾斜角検出手段と、前記測定位置における地磁気の全磁力および伏角に関する標準データを取得する手段と、前記地磁気検出手段と前記傾斜角検出手段とから前記測定位置における全磁力および伏角の実測値を算出する手段と、前記実測値が前記標準データを基準とする所定の許容範囲から外れたときに異常な地磁気が検出されたものと判定する制御手段と、を有することを特徴とするものである。
【0010】
本発明では、全磁力と伏角を用いて判定するようにしたため、地磁気異常を高精度に判定することができる。しかも、正常な地磁気を誤って異常な地磁気と判定する可能性をなくし、Z軸方向に発生した異常な外乱磁界の混入を見落とす可能性も少なくできる。
【0011】
上記において、測定位置に対応する前記標準データが記憶されたメモリ手段が設けられているものとすることができる。
【0012】
上記手段では、測定位置を確定することにより、当該測定位置に対応する標準データを取得することができる。
【0013】
この場合、例えば前記標準データを取得する手段がGPS用の人工衛星から受信した電波から前記測定位置を割り出すとともに、前記測定位置に対応する標準データが前記メモリ手段から読み出されるものとすることができる。
【0014】
あるいは、前記標準データを取得する手段が、携帯電話システムの中継局との間における通信から前記測定位置を割り出すとともに、このときの測定位置に対応する標準データが前記メモリ手段から又は前記中継局を介して取得されるものとすることができる。
【0015】
また前記所定の許容範囲が、地磁気センサの3つの検出軸の出力によって形成され、前記3つの検出軸が交差する原点を中心として所定の半径寸法からなる方位球の、球面の内球と外球との間に略リング状に形成されるウインドウとして設定されるものが好ましい。
【0016】
上記手段では、判定上の無駄を防止することができ、地磁気異常の判定を効率良く行うことができる。
【0017】
例えば、伏角の実測値と標準データとの比較判定を行った後、全磁力の実測値と標準データとの比較判定が行われるものとすることができる。
【0018】
また本発明は、少なくとも、前記いずれか記載の地磁気センサと、地図を画面上に表示することが可能な表示手段と、外部との通信を行う通信手段とを有する移動体表示装置であって、
前記制御手段が、外乱磁界を含まない正常な異常な地磁気が検出されたと判定したときには前記画面の地図上に現在の方位表示をし、且つ外乱磁界を含む異常な地磁気が検出されたと判断したときには、前記画面上に方位表示が行われないようにしたことを特徴とするものである。
【0019】
上記発明では、正常な地磁気を検出した場合に限って表示手段上に方位表示を行うようにし、異常な地磁気を検出した場合には表示しないようにしため、正確な情報のみを表示する信頼性の高い移動体表示装置を提供することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明の地磁気センサは、3軸方向成分のすべてを含む全磁力を用いて判断するため、地磁気が外乱磁界の影響を受けていない正常なものであるか、または外乱磁界の影響を受けた異常なものであるかを高い精度で判定することができる。
【0021】
また地磁気の正常/異常の判定が、方位球全体ではなく略リング状のウインドウに絞り込んで行うことができるため、判定上の無駄を省くことができる。
【0022】
また正常な地磁気を検出した場合に限って表示手段上に方位表示を行うようにしたため、正確な情報のみを表示する信頼性の高い移動体表示装置を提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
図1は本発明の地磁気センサを搭載した移動体表示装置と方位角との関係を2次元的に示す平面図、図2は地磁気センサの構成を示すブロック図、図3は地磁気センサに傾きが無い場合の方位検出の原理を3次元的に説明するための方位解析図である。
【0024】
以下においては、符号Fが地磁気(ベクトル)を、符号|F|が地磁気の絶対値としての全磁力を、符号Hが地磁気ベクトルを水平面に投影した水平成分を、符号|H|が前記水平成分Hの大きさを、符号δが伏角(地平面に対して地磁気ベクトルがなす角度)を示すものとする。
【0025】
また方位角θは、磁北(水平成分Hの方向)と後述する地磁気センサ10の検出軸Xとの間の角度であり、前記検出軸Xが磁北に一致するときを0[deg]とし、地磁気センサ10が時計回りに回転する方向を正(+)とする。
【0026】
図1に示す移動体表示装置1は携帯電話機をイメージしたものである。ただし、前記移動体表示装置1は携帯電話機に限られるものではなく、その他PDA、携帯型のコンピュータ、電子腕時計、携帯型のナビゲーションシステムなどであってもよい。
【0027】
図2に示すように、この移動体表示装置1は3軸型の地磁気センサ10、二次元型の傾斜センサ(傾斜角検出手段)20、通信手段30、制御手段40、表示手段50およびメモリ手段60などを備えている。
【0028】
図2に示すように、地磁気センサ10は軸方向の磁界を検出する3つの検出軸X,Y,Zを有している。すなわち各検出軸X,Y,Zには地磁気検出手段10a,10b,10cがそれぞれ設けられており、これら地磁気検出手段10a,10b,10cが検出軸X,Y,Zを形成するとともにXYZ直交座標系を形成している。地磁気センサ10を構成する地磁気検出手段10a,10b,10cとしては、例えばMR(Magneto Resistive)素子、ホール素子、フラックスゲート型磁気センサなどを用いることができる。
【0029】
地磁気センサ10の検出軸X,Y,Zの出力を地磁気データVx,Vy,Vzとすると、これらは任意の測定位置における地磁気ベクトルFのX軸(南北)成分,Y軸(東西)成分,Z軸(鉛直)成分を示す。なお、地磁気センサ10は、その検出軸X,Yが地平面に水平な状態にあり、且つ前記検出軸Zが地平面に対して垂直(鉛直方向に対し平行)な状態を基本姿勢としている。
【0030】
前記傾斜センサ(傾斜角検出手段)20は、例えば狭チャンネル内に封じられた制動電解液が傾くことによる電気抵抗の変化分から角度変化を検知するタイプのものなどを使用することができる。X軸とY軸からなるXY平面が地平面に対し水平となる基本姿勢を0[deg]とし、一方の軸を中心に傾いたときに他方の軸と地平面との間の角度差を傾斜角θx,θyとして出力する。すなわち、傾斜角θxとはX軸を中心として傾斜センサ20を傾けたときにY軸と地平面との間の角度差(X軸回りの傾斜角)を意味し、また傾斜角θyとはY軸を中心として傾斜センサ20を傾けたときにX軸と地平面との間の角度差(Y軸回りの傾斜角)を意味する。
【0031】
通信手段30は、例えば移動体表示装置1とGPS(Global Positioning System:汎地球測位システム)を構成する人工衛星との間で電波を受信するための手段、あるいは移動体表示装置1が携帯電話機の場合には電話やメールの際に、携帯電話システムを営む通信事業者の中継局との間で通信を行うための手段などであり、前記GPSや中継局を解して所定のデータを取得するためのものである。
【0032】
表示手段50としては、例えばTFT液晶、DSTN液晶などの液晶ディスプレイ(LCD)や有機ELディスプレイなどである。移動体表示装置1が、ナビゲーションシステムを搭載している場合には、表示手段50には地図が画面表示されるが、このとき例えば地図の北方向が常に上向きなるようなノースアップ表示、あるいは進行方向が常に地図の上になるヘディングアップ表示などが行われるようになっている。
【0033】
メモリ手段60には、測定位置ごとの全磁力|F|(地磁気ベクトルFの絶対値)と伏角δに関する標準値データが記憶されている。例えば国土地理院の技術資料B・1−No.35によれば、北半球に位置する日本国では、全磁力|F|は概ね44000[nT](沖縄県の石垣島付近)〜51000[nT](北海道の稚内市付近)の範囲にあり、伏角δはおおよそ−36[deg](沖縄県の石垣島付近)〜−60[deg](北海道の稚内市付近)の範囲にある。因みに、東京近辺では全磁力|F|は46500[nT]、伏角δは−49[deg]程度であり、全磁力|F|と伏角δとは各地域ごとに標準値を有している。そして、このような全磁力|F|と伏角δに関する標準値データが、地域ごとにテーブル化されて前記メモリ手段60に記憶されている。
【0034】
なお、北半球では地磁気ベクトルFは上空から地中に向かう方向に地平面を突き抜けるため、伏角δの符号は負(マイナス)となるが、南半球では地中から上空に向かう方向に地平面を突っ切るため、伏角δの符号は正(プラス)となる。
【0035】
前記通信手段30を用いてGPSや中継局との通信を行うことによって、移動体表示装置1の現在の測定位置を割り出すことにより、その位置に対応する全磁力|F|と伏角δに関する標準値データを前記メモリ手段60から読み出すことが可能とされている。なお、通信事業者が全磁力|F|と伏角δに関する標準値データを配信するサービスの提供を行っている場合には、前記標準値データをメモリ手段60に記憶せずに前記通信手段30を介して中継局から直接入手するものであってもよい。
【0036】
制御手段40はCPUを主体に構成されている。なお、制御手段40の機能等について以下に詳述するが、例えば地磁気センサ10からの地磁気データVx,Vy,Vzの取得、傾斜センサ20からの傾斜角θx,θyの取得、前記通信手段30を介してのGPSや中継局との間での現在位置に関するデータの取得、あるいは表示手段50への地図表示や現在位置のカーソル表示など多数の制御を行っている。
【0037】
図4は方位球とウインドウとの関係を3次元的に示す説明図、図5はウインドウの詳細を示す図4の部分拡大断面図である。
【0038】
ここで図4に示すように、全磁力|F|が理想的な一定の大きさと仮定し、前記移動体表示装置1の中心点(地磁気センサ10の各検出軸X,Y,Zの交点)Oを中心として前記移動体表示装置1を地磁気中で様々な方向に回転させると、地磁気センサ10の各検出軸X,Y,Zの出力から合成される全磁力|F|を半径とするいわゆる方位球100を得ることができ、このとき地磁気センサ10の各検出軸X,Y,Zの出力(地磁気データ)は前記方位球100の球面上を移動する。したがって、任意の測定地点における方位は、方位球100上の全磁力|F|からでも求めることが可能である。
【0039】
しかし、外部磁界による外乱(以下、「外乱磁界」という)が、前記地磁気ベクトルFに重畳すると、前記全磁力|F|が前記理想的な方位球100の球面上から大きく外れてしまうため、方位を正確に判定することができなくなる。
【0040】
そこで、前記全磁力|F|の大きさが一定の誤差を見込んだ範囲内であるか否かを判定基準とすることにより、地磁気ベクトルFの正常/異常を判定しやすくすることができる。
【0041】
例えば、図5に示すように前記方位球100の内側に半径R1の内球111(R1<|F|)と、その外側に半径R2の外球112(R2>|F|)とを設定し、前記内球111と外球112とに囲まれた部分に球殻状の許容範囲(誤差の範囲)110を設け、前記全磁力|F|がこの球殻状の許容範囲110内にある場合(R1<|F|<R2)には正常な地磁気ベクトルF、すなわち外乱磁界の影響の少ない地磁気ベクトルFとして扱い、前記球殻状の許容範囲110内にない場合(R1>|F|または|F|>R2)には異常な地磁気を含む地磁気ベクトルFとして扱うことにすれば、地磁気ベクトルFの正常/異常の判定を容易化することができる。
【0042】
しかし、地磁気ベクトルFは測定位置ごとに大きく異なる伏角δを有している。このため、実際の三次元空間内で正常な地磁気の占める範囲は、図4に斜線で示す略リング状のウインドウ110Aであり、これは前記球殻状の許容範囲110内の一部に過ぎない。したがって、上記のように前記全磁力|F|の大きさに一定の誤差を見込んだ範囲の全てを判定基準としたものは、前記ウインドウ110Aを含む球殻状の許容範囲110全域を範囲とするため、三次元空間上に広く分布し過ぎて無駄が多い。
【0043】
そこで、このような無駄を省くため、全磁力|F|および伏角δに関する測定位置ごとの格差を考慮し、正常な地磁気ベクトルFの範囲が略リング状のウインドウ110Aとなるように伏角δからの絞り込みを行った上で判定することが好ましい。
【0044】
以下には、そのような判定の手法を具体的に説明する。
図6は検出された地磁気の正常/異常を判定する方法を示すフローチャートである。なお、以下においてはフローチャートの各段階をST1のようにSTの符号と番号とを用いて表わすこととする。
【0045】
まず、ST1では、前記制御手段40は地磁気センサ10を駆動して任意の測定位置における地磁気ベクトルFを検出し、3つの検出軸X,Y,Zの出力である地磁気データVx,Vy,Vzとして取得する。
【0046】
ここで、図3に示すように地磁気センサ10の検出軸Xの出力Vxと、全磁力|F|、水平成分Hの絶対値|H|、伏角δおよび方位角θとは以下の数1に示すような関係がある。
【0047】
【数1】

【0048】
同様に、地磁気センサ10の検出軸Yの出力Vyについては以下の数2に示すような関係がある。
【0049】
【数2】

【0050】
地磁気センサ10をXY平面内でZ軸回りに回転させたときには、検出軸Zの出力Vzは変化しないため、地磁気センサ10の検出軸Zの出力Vzは以下の数3となる。
【0051】
【数3】

【0052】
ST2では、地磁気ベクトルの全磁力|F|(実測値)が前記地磁気データVx,Vy,Vzを用いて以下の数4として求められる。
【0053】
【数4】

【0054】
ST3では、方位角θの算出が行われる。前記数1を変形したcosδ=Vx/|F|cosθを数2に代入すると、数5のように変形できる。
【0055】
【数5】

よって、方位角θは以下の数6として求めることができる。
【0056】
【数6】

【0057】
なお、上記数6で求めた方位角θは、傾斜角θx,θyがともに0[deg]の場合(傾斜角θx=θy=0)に相当する。したがって、θx≠0および/またはθy≠0の場合には、これらを考慮した傾斜補正後の地磁気データVx,Vy,Vzを用いて前記方位角θが算出される。
【0058】
次にST4では、制御手段40が伏角δを以下の方法により求める。
数1、数2をそれぞれ二乗して加算して変形すると、以下の数7となる。
【0059】
【数7】

さらに変形すると数8となる。
【0060】
【数8】

数3を数8で割ると、以下の数9となる。
【0061】
【数9】

よって、数9を変形することにより、伏角δの実測値が数10として求まる。
【0062】
【数10】

【0063】
なお、各検出軸X,Y,Zからなる地磁気センサ10のXYZ直交座標系に傾きが生じている場合には、前記制御手段40は傾斜センサ20を駆動して前記傾斜角θx,θyを検出するとともに、この傾斜角θx,θyを用いて地平面に垂直な鉛直軸に対する検出軸Zの傾斜角度を算出する。そして、制御手段40は、傾きを有する地磁気センサ10が検出した地磁気ベクトルFの地磁気データVx,Vy,Vzを上記数10に代入して得られる角度(補正前の伏角δ)と前記検出軸Zの傾斜角度との差を求めることにより、補正後の伏角δが算出される。
【0064】
次はST5に示すように、制御手段40は前記通信手段30を駆使して、GPSにおける人工衛星または中継局にアクセスして、現在の測定位置情報を取得するとともに、この位置情報から当該測定位置に対応する全磁力|F|と伏角δに関する標準値データを前記メモリ手段60から読み出す。あるいは通信事業者が全磁力|F|と伏角δの標準値データに関する配信サービスを提供している場合には、前記中継局から前記標準値データを直接取得してもよい。なお、このST5において読み出された全磁力の標準値データが|F|(std)であり、伏角δの標準値データがδ(std)である。
【0065】
ST6では、伏角δを用いたウインドウの絞り込みが行われる。すなわち、実際の測定と数10から算出された伏角(実測値)δと前記ST7で取得された各測定位置に対応する伏角の標準値データδ(std)との比較を行うが、より具体的には前記伏角(実測値)δが前記伏角の標準値データδ(std)を中心とする所定の許容値±Δδ(δ(std)±Δδ)内にあるか否か、すなわち前記伏角δが所定の許容範囲の条件(δ(std)−Δδ)<δ(実測値)<(δ(std)+Δδ)を満たすか否かで判定する。
【0066】
例えば、西暦2000年における東京近郊の伏角δの標準値は約−49[deg]である。このため、使用地域が日本国内に限定されるような移動体表示装置1の場合において、例えば任意の測定位置が関東地方の場合には−50±5[deg]程度とすることができる。また使用地域が全世界を対象とするような移動体表示装置1の場合において、例えば任意の測定位置が日本国の場合には−51±9[deg]程度とすることができる。
【0067】
したがって、制御手段40は、任意の測定位置において前記移動体表示装置1を使用して方位を測定した場合において、実際に地磁気データVx,Vy,Vzを測定して得た測定値を数10に代入して算出された伏角(実測値)δが、前記標準値データδ(std)を中心とする所定の許容範囲(δ(std)±Δδ)内にあれば、少なくとも検出された伏角δが、緯度方向では正常な範囲(略リング状のウインドウ110A)内にあるものであると判断することができ、結果として三次元空間上に広く分布する前記全磁力|F|について無駄な判定を行う必要のない程度の範囲に絞り込むことができる。
【0068】
一方、実際の測定値を数10に代入して算出された伏角δが、前記一定の許容範囲(略リング状のウインドウ110A)内になければ、伏角δは異常な値を示しているから、制御手段40は次に説明する全磁力|F|の判定を行うまでもなく、外乱磁界を含む異常な地磁気Fと判定し、表示手段50の画面上に方位表示を行わず、例えば地磁気に異常がある旨の警報を表示したり(ST6−1)、あるいはST1に戻って地磁気センサ10を用いて地磁気データの再取得を行う。
【0069】
ST7では、前記ST6において検出された伏角δが正常であると判断された場合に、制御手段40は上記ST3において数4により算出された全磁力|F|の実測値と前記ST6で取得された全磁力の標準値データ|F|(std)との比較を行う。
【0070】
このときの判定は、全磁力|F|が前記半径R1の内球111と半径R2の外球112の間にあるか否か(R1<|F|<R2)によって行われる。なお、全磁力の標準値データ|F|(std)に対する許容値ΔFは、温度や経時変化による地磁気センサの感度の変動が±5〜10%程度であることを見込むと、異常な外乱磁界の混入があったと判定するときの判定条件には、全磁力の標準値データ|F|(std)に対し概ね±15〜20%程度の許容範囲を設けることが好ましい(ΔF=|F|(std)×15〜20%)。
【0071】
すなわち、内球111の半径R1はR1=|F|(std)−ΔF、外球112の半径R2はR2=|F|(std)+ΔFで表され、全磁力|F|が(|F|(std)−ΔF)<|F|(実測値)<(|F|(std)+ΔF)を満たすか否かにより、地磁気の正常/異常を高い精度で判定することができる。
【0072】
そして、最終的に全磁力|F|(実測値)が上記条件を満たす場合(正常な大きさの場合)には、前記地磁気センサ10で検出された地磁気データVx,Vy,Vzに外乱磁界が含まれている可能性の低い正常な地磁気Fと判定される。そして、この場合には移動体表示装置1は表示手段50の地図上に測定者の現在位置が表示される(ST8)。このとき、例えば地図の北方向が常に上向きなるようなノースアップ表示、あるいは進行方向が常に地図の上になるヘディングアップ表示などが行われる。
【0073】
一方、ST7において、全磁力|F|(実測値)が上記条件を満たすことができなかった場合には、制御手段40は外乱磁界を含む異常な地磁気Fと判定し、表示手段50の画面上に方位表示を行う代わりに、例えば地磁気に異常がある旨の警報を表示したり(ST7−1)、あるいはST1に戻って地磁気センサ10を用いて地磁気データの再取得を行う。
【0074】
以上のように、本願発明の地磁気センサ10では、従来のように地磁気ベクトルFの水平成分H(X軸成分とY軸成分)だけで判断するのでははなく、Z軸成分をも含めた3軸方向成分のすべてを用いて判断することができるため、正常な地磁気を誤って異常な地磁気と判定する可能性をなくし、Z軸方向に発生した異常な外乱磁界の混入を見落とす可能性も少なくできる。すなわち、地磁気が外乱磁界の影響を受けていない正常なものであるか、または外乱磁界の影響を受けた異常なものであるかを高い精度で判定することが可能である。
【0075】
しかも、検出した地磁気が正常であるか異常であるかの判定が、方位球100全体ではなくある一定の範囲(狭い略リング状のウインドウ110A)に絞り込んで行うことができるため、判定上の無駄を省くことができる。
【0076】
また本願発明の地磁気センサ10を備えた移動体表示装置1では、正常な地磁気を検出した場合に限って表示手段上に方位表示を行うようにし、異常な地磁気を検出した場合には表示しないようにしため、正確な情報のみを表示する信頼性の高い移動体表示装置1を提供することが可能となる。
【0077】
なお、上記実施の形態では、測定位置情報の入手を前記ST5において行っているものとして説明したが、本発明はこれに限られるものではなく、前記ST6よりも前の段階であればいずれの段階で行ってもよい。
【0078】
また上記実施の形態では、先にST6で伏角δを判定してある程度の絞り込みを掛けた後に、ST7で全磁力|F|の判定を行うものとして説明したが、伏角δの判定と全磁力|F|の判定とを別個独立に行った後に、各判定条件を満たしたものどうしのANDをとることにより、地磁気の正常/異常を判定するものであってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】本発明の地磁気センサを搭載した移動体表示装置と方位角との関係を2次元的に示す平面図、
【図2】地磁気センサの構成を示すブロック図、
【図3】地磁気センサに傾きが無い場合の方位検出の原理を3次元的に説明するための方位解析図、
【図4】方位球とウインドウとの関係を3次元的に示す説明図、
【図5】ウインドウの詳細を示す図4の部分拡大断面図、
【図6】検出された地磁気の正常/異常を判定する方法を示すフローチャート、
【符号の説明】
【0080】
1 移動体表示装置
10 地磁気センサ
10a,10b,10c 地磁気検出手段
20 傾斜センサ
30 通信手段
40 制御手段
50 表示手段
60 メモリ手段
100 方位球
110 球殻状の許容範囲(誤差の範囲)
110A ウインドウ
111 内球
112 外球
F 地磁気ベクトル
|F| 全磁力(実測値)
|F|(std) 全磁力の標準値データ
±ΔF 全磁力の許容値
H 地磁気ベクトルの水平成分
X,Y,Z 検出軸
Vx,Vy,Vz 地磁気データ
R1 内球の半径
R2 外球の半径
θ 方位角
θx,θy 傾斜角
δ 伏角(実測値)
δ(std) 伏角の標準値データ
±Δδ 伏角の許容値

【特許請求の範囲】
【請求項1】
任意の測定位置において互いに直交する3軸方向の地磁気を検出する地磁気検出手段と、前記3軸のうち地面に平行する2軸の傾きを検出する傾斜角検出手段と、前記測定位置における地磁気の全磁力および伏角に関する標準データを取得する手段と、前記地磁気検出手段と前記傾斜角検出手段とから前記測定位置における全磁力および伏角の実測値を算出する手段と、前記実測値が前記標準データを基準とする所定の許容範囲から外れたときに異常な地磁気が検出されたものと判定する制御手段と、を有することを特徴とする地磁気センサ。
【請求項2】
測定位置に対応する前記標準データが記憶されたメモリ手段が設けられている請求項1記載の地磁気センサ。
【請求項3】
前記標準データを取得する手段がGPS用の人工衛星から受信した電波から前記測定位置を割り出すとともに、前記測定位置に対応する標準データが前記メモリ手段から読み出される請求項2記載の地磁気センサ。
【請求項4】
前記標準データを取得する手段が、携帯電話システムの中継局との間における通信から前記測定位置を割り出すとともに、このときの測定位置に対応する標準データが前記メモリ手段から又は前記中継局を介して取得される請求項1または2記載の地磁気センサ。
【請求項5】
前記所定の許容範囲が、地磁気センサの3つの検出軸の出力によって形成され、前記3つの検出軸が交差する原点を中心として所定の半径寸法からなる方位球の、球面の内球と外球との間に略リング状に形成されるウインドウとして設定される請求項1記載の地磁気センサ。
【請求項6】
伏角の実測値と標準データとの比較判定を行った後、全磁力の実測値と標準データとの比較判定が行われる請求項1または5記載の地磁気センサ。
【請求項7】
少なくとも、前記請求項1ないし6のいずれか記載の地磁気センサと、地図を画面上に表示することが可能な表示手段と、外部との通信を行う通信手段とを有する移動体表示装置であって、
前記制御手段が、外乱磁界を含まない正常な異常な地磁気が検出されたと判定したときには前記画面の地図上に現在の方位表示をし、且つ外乱磁界を含む異常な地磁気が検出されたと判断したときには、前記画面上に方位表示が行われないようにしたことを特徴とする移動体表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−133154(P2006−133154A)
【公開日】平成18年5月25日(2006.5.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−324772(P2004−324772)
【出願日】平成16年11月9日(2004.11.9)
【出願人】(000010098)アルプス電気株式会社 (4,263)
【Fターム(参考)】