説明

地磁気センサ及び加速度センサを用いて歩行者の進行方向を決定する携帯端末、プログラム及び方法

【課題】端末の姿勢が大凡一定となるように所持された携帯端末について、加速度センサ及び地磁気センサを用いて歩行者の進行方向を正確に決定する携帯端末等を提供する。
【解決手段】加速度データから、鉛直方向加速度を算出する鉛直方向加速度算出手段と、鉛直方向上向き加速度の極大点を歩行タイミングとして検出する歩行タイミング検出手段と、加速度データ及び地磁気データを用いて、鉛直方向加速度に直交する水平方向加速度を算出する水平方向加速度算出手段と、歩行タイミングに基づいて、1歩分の水平方向加速度に区分する歩毎加速度区分手段と、主成分分析を用いて、1歩分の水平方向加速度から、歩毎方向を算出する歩毎方向算出手段と、歩毎方向を、奇数歩目又は偶数歩目に交互に分類する歩毎方向分類手段と、奇数歩目の歩毎方向と偶数歩目の歩毎方向との二等分線の方向を、進行方向として算出する進行方向算出手段とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地磁気センサ及び加速度センサを用いて歩行者の進行方向を決定する技術に関する。特に、進行方向をリアルタイムに導出する自律航法技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、加速度センサ及び方位センサを用いて、進行方向及び現在位置をリアルタイムに導出する自律航法技術がある。自律航法技術は、GPS(Global Positioning System)技術と組み合わされて、主にカーナビゲーションシステム(Car Navigation System)に利用されている。カーナビゲーションシステムは、自動車の運転者に対して、正確な進行方向及び現在位置と、目的地への走行経路案内とを、ディスプレイに表示する。
【0003】
カーナビゲーションシステムは、GPSによって測位した現在位置情報を、車速パルス又はジャイロのような自律航法技術によって補正する。また、道路地図情報を必要に応じて読み出し、現在の走行経路が道路上と一致するように、進行方向及び現在位置を補正する(投影法によるマップマッチング技術、例えば特許文献1参照)。これにより、センサの誤差によって、現在位置が、道路上でない位置になることを防ぐことができる。
【0004】
これに対し、このようなナビゲーション技術を、歩行者の所持する携帯端末に適応したシステムもある。具体的には、検出した歩行者の「歩数」と、その歩行者の「歩幅」とを用いて、始点からの累積的な現在位置を導出する(例えば特許文献2参照)。自律航法技術を歩行者に適応した場合、水平方向の移動以外の加速度成分も検出される。従って、測定される距離は、単純に加速度センサの出力を積分するのではなく、歩数及び歩幅から導出される。
【0005】
「歩数」は、携帯端末内の加速度センサによって検出された軸毎の加速度を二乗和の平方根とし(√(x+y+z))、そのピーク−ピーク間を1歩として検出する(例えば特許文献3参照)。「歩幅」は、利用者が予め設定するか、若しくは利用者の身長から推定する。又は、他の技術によれば、歩行者に規定距離を歩行させることによって、その歩幅をキャリブレーションする技術もある(例えば非特許文献1参照)。
【0006】
「進行方向」は、「方位センサ」によって検出される。方位センサとしては、一般に地磁気センサが利用される。水平方向の加速度の分布に基づいて進行方向を決定する技術もある(例えば特許文献8、9参照)。また、端末の姿勢を導出するべく鉛直方向を決定した後に、鉛直方向加速度と進行方向加速度との関係を利用して、歩行者の進行方向を決定する技術もある(例えば特許文献4参照)。更に、歩行者の腕振りの特徴から進行方向を決定する技術もある(例えば非特許文献2参照)。更に、特定時点の端末の姿勢から進行方向を決定する技術もある(例えば特許文献5参照)。更に、進行方向に交差点を介して複数の道路が存在する場合、その交差点を、現在位置とする技術もある(例えば特許文献6参照)。
【0007】
自律航法技術を用いた現在位置の決定について、センサデータの累積的誤差の影響を防ぐために、交差点での右折左折を検出した際に、その交差点を、現在位置の特定のための始点とする技術もある(例えば特許文献7参照)。即ち、方向転換が検出される毎に、センサデータの累積的誤差がリセットされることなり、その後の現在位置の特定に、先の累積的誤差が影響しない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平5−061408号公報
【特許文献2】特開平9−089584号公報
【特許文献3】特開2005−038018号公報
【特許文献4】特開2008−039619号公報
【特許文献5】WO2006/104140
【特許文献6】特開平3−099399号公報
【特許文献7】特開昭63−011813号公報
【特許文献8】特許第4126388号公報
【特許文献9】特開2008−116315号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】「Nike+iPodユーザーズガイド」、第27頁、「online」、[平成21年2月3日検索]、インターネット<URL:http://manuals.info.apple.com/ja/nikeipod_users_guide.pdf>
【非特許文献2】上坂大輔、岩本健嗣、村松茂樹、西山智、「携帯電話における加速度・地磁気センサを用いた位置取得システム」、マルチメディア・分散・協調とモバイルシンポジウム、論文集、pp.761-767、2008年7月
【非特許文献3】村松茂樹、上坂大輔、横山浩之、「歩行時の端末姿勢の推定に関する一検討」、株式会社KDDI研究所、FIT2009(第8回情報科学技術フォーラム)、講演論文集、平成21年9月2日、[online]、[平成22年2月3日検索]、インターネット<URL:http://www.sofken.com/FIT2009/pdf/M/M_037.pdf>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献4に記載された技術は、所定の閾値を超える加速度が検出された方向を、進行方向の候補とする。しかしながら、加速度の分布が、直線状ではなく幅をもつ場合には、多数の進行方向の候補に対する評価が必要であり、演算量が膨大になる。
【0011】
また、特許文献5、8、9に記載された技術によれば、歩行者の身に着けられた携帯端末の姿勢が大凡一定であれば、歩行の際に検出される水平方向の加速度が、進行方向に分布することを利用している。しかしながら、端末を片手に持って移動するような場合、端末の姿勢が大凡一定であっても、水平方向の加速度が進行方向に分布しないことがある。
【0012】
図1は、歩行者によって手持ちされた携帯端末の態様を表す説明図である。
【0013】
図1によれば、歩行者は、携帯端末を手持ちし、その画面を視認している。例えば、携帯端末に地図が表示されており、歩行者は、そのディスプレイを閲覧しながら、歩行している場合が想定される。これは、歩行者にとって最も正確に進行方向を知りたい場合における姿勢である。このとき、歩行中の携帯端末の姿勢は、大凡一定となる。携帯端末の姿勢が大凡一定であれば、携帯端末に搭載された加速度センサ及び地磁気センサを用いて、進行方向を推定することができる。センサは、携帯端末に固定的に内蔵されているために、携帯端末の向きが決まれば、センサの軸の向きも決まる。例えば、図1によれば、x軸はキー面の上から下へ向けて、y軸はキー面の左から右へ向けて、z軸はキー面の裏から表へ向けて、割り当てられている。勿論、センサの座標系の割り当ては、これに限られない。
【0014】
しかしながら、図1によれば、携帯端末の姿勢は大凡一定しているけれども、歩行に伴って、水平方向及び鉛直方向へ揺れる。また、手持ちされた携帯端末で検出される加速度は、腕によって吸収されることとなる。このような状態で、特許文献4に記載された技術を用いた場合、多数の進行方向の候補に対する評価が必要となり、演算量が膨大になる。
【0015】
そこで、本発明は、利用者に端末の姿勢が大凡一定となるように所持された携帯端末について、その携帯端末に搭載された加速度センサ及び地磁気センサを用いて、歩行者の進行方向をできる限り正確に決定する携帯端末、プログラム及び方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明によれば、3軸の加速度データを出力する加速度センサと、3軸の地磁気データを出力する地磁気センサと、加速度データ及び地磁気データから歩行者の進行方向を決定する進行方向決定手段とを有し、歩行者によって所持される携帯端末であって、
進行方向決定手段は、
加速度データから、鉛直方向加速度を算出する鉛直方向加速度算出手段と、
鉛直方向上向き加速度の極大点を歩行タイミングとして検出する歩行タイミング検出手段と、
加速度データ及び地磁気データを用いて、鉛直方向加速度に直交する水平方向加速度を算出する水平方向加速度算出手段と、
歩行タイミングに基づいて、1歩分の水平方向加速度に区分する歩毎加速度区分手段と、
1歩分の水平方向加速度から、歩毎方向を算出する歩毎方向算出手段と、
歩毎方向を、奇数歩目又は偶数歩目に交互に分類する歩毎方向分類手段と、
奇数歩目の歩毎方向と偶数歩目の歩毎方向との二等分線の方向を、進行方向として算出する進行方向算出手段と
を有することを特徴とする。
【0017】
本発明の携帯端末における他の実施形態によれば、水平方向加速度算出手段は、
加速度センサから出力された軸毎の加速度に基づいて、重力ベクトルGを算出し、
重力ベクトルG及び地磁気ベクトルMを用いて、北向き加速度ANorth及び東向き加速度AEastを算出し、
水平方向加速度を、北向き加速度ANorth及び東向き加速度AEastによって構成することも好ましい。
【0018】
本発明の携帯端末における他の実施形態によれば、水平方向加速度算出手段は、
重力ベクトルG及び地磁気ベクトルMを用いて、G×M/|G×M|によって東向き単位ベクトルeEastを算出し、
東向き単位ベクトルeEastに対する加速度データの内積をとることによって、東向き加速度AEastを算出し、
重力ベクトルG及び地磁気ベクトルMを用いて、G×M×G/|G×M×G|によって北向き単位ベクトルeNorthを算出し、
北向き単位ベクトルeNorthに対する加速度データの内積をとることによって、北向き加速度ANorthを算出することも好ましい。
【0019】
本発明の携帯端末における他の実施形態によれば、歩毎方向算出手段は、1歩分の多数の水平方向加速度を水平面にプロットし、主成分分析を用いて、多数のプロットに対する歩毎方向を算出することも好ましい。
【0020】
本発明の携帯端末における他の実施形態によれば、歩毎方向算出手段は、
歩毎の北向き及び東向きの水平方向加速度について分散Vxx,Vyy及び共分散Vxyを算出し、
分散及び共分散に基づいて、固有値λを算出し、
固有値λを用いて、固有ベクトル[e1,e2]を算出し、
固有ベクトル[e1,e2]を用いて、角度Tan-1(e1/e2)を、歩毎方向として算出することも好ましい。
【0021】
本発明の携帯端末における他の実施形態によれば、奇数歩目の歩毎方向と偶数歩目の歩毎方向との平均値を、進行方向として算出することも好ましい。
【0022】
本発明の携帯端末における他の実施形態によれば、鉛直方向加速度算出手段及び水平方向加速度算出手段は、加速度データに対して、高域周波数成分を遮断するローパスフィルタとして機能することも好ましい。
【0023】
本発明によれば、3軸の加速度データを出力する加速度センサと、3軸の地磁気データを出力する地磁気センサとを有する携帯端末に搭載されたコンピュータを、加速度データ及び地磁気データから歩行者の進行方向を決定する進行方向決定手段として機能させるプログラムであって、
進行方向決定手段は、
加速度データから、鉛直方向加速度を算出する鉛直方向加速度算出手段と、
鉛直方向上向き加速度の極大点を歩行タイミングとして検出する歩行タイミング検出手段と、
加速度データ及び地磁気データを用いて、鉛直方向加速度に直交する水平方向加速度を算出する水平方向加速度算出手段と、
歩行タイミングに基づいて、1歩分の水平方向加速度に区分する歩毎加速度区分手段と、
1歩分の水平方向加速度から、歩毎方向を算出する歩毎方向算出手段と、
歩毎方向を、奇数歩目又は偶数歩目に交互に分類する歩毎方向分類手段と、
奇数歩目の歩毎方向と偶数歩目の歩毎方向との二等分線の方向を、進行方向として算出する進行方向算出手段と
してコンピュータを機能させることを特徴とする。
【0024】
本発明によれば、3軸の加速度データを出力する加速度センサと、3軸の地磁気データを出力する地磁気センサとを有する携帯端末によって、加速度データ及び地磁気データから歩行者の進行方向を決定する進行方向決定方法であって、
加速度データから、鉛直方向加速度を算出する第1のステップと、
鉛直方向上向き加速度の極大点を歩行タイミングとして検出する第2のステップと、
加速度データ及び地磁気データを用いて、鉛直方向加速度に直交する水平方向加速度を算出する第3のステップと、
歩行タイミングに基づいて、1歩分の水平方向加速度に区分する第4のステップと、
1歩分の水平方向加速度から、歩毎方向を算出する第5のステップと、
歩毎方向を、奇数歩目又は偶数歩目に交互に分類する第6のステップと、
奇数歩目の歩毎方向と偶数歩目の歩毎方向との二等分線の方向を、進行方向として算出する第7のステップと
を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0025】
本発明の携帯端末、プログラム及び方法によれば、利用者に端末の姿勢が大凡一定となるように所持された携帯端末について、その携帯端末に搭載された加速度センサ及び地磁気センサを用いて、歩行者の進行方向をできる限り正確に決定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】歩行者によって手持ちされた携帯端末の態様を表す説明図である。
【図2】本発明における携帯端末の機能構成図である。
【図3】経過時間に応じた軸毎の加速度のグラフである。
【図4】経過時間に応じた鉛直方向加速度のグラフである。
【図5】水平方向加速度の変化を表す説明図である。
【図6】水平方向加速度と鉛直方向加速度との変化の対応を表す説明図である。
【図7】重力G及び地磁気Mに対する方位の関係を表す説明図である。
【図8】歩毎の方向を表す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて詳細に説明する。
【0028】
図2は、本発明における携帯端末の機能構成図である。
【0029】
図2によれば、携帯端末1は、利用者によって手持ち可能な端末であって、例えば携帯電話機である。携帯端末1は、進行方向決定部10と、加速度センサ11と、地磁気センサ12と、測位部13と、地図情報記憶部14と、表示制御部15と、ディスプレイ16とを有する。進行方向決定部10、地図情報記憶部14及び表示制御部15は、携帯端末に搭載されたコンピュータを機能させるプログラムを実行することによって実現される。
【0030】
加速度センサ11は、x軸、y軸及びz軸毎の加速度を検出する。既存の一般的な携帯電話機の場合、加速度センサを予め搭載しているものも多い。検出された加速度データは、進行方向決定部10へ出力される。
【0031】
図3は、経過時間に応じた軸毎の加速度のグラフである。
【0032】
図3によれば、歩行者が、携帯端末を手持ちし、そのディスプレイを視認しながら歩行した場合に、加速度センサによって得られた軸毎の加速度データが表されている。
【0033】
地磁気センサ12は、南から北へ向かう地球の磁力線である地磁気を検出する。検出された地磁気の水平面に対する正射影の向きが、「北」となる。3軸の地磁気センサの場合、水平でなくても傾きを検出することによって、方位を検出することができる。検出された地磁気データは、進行方向決定部10へ出力される。
【0034】
測位部13は、GPS(Global Positioning System)衛星からの測位電波を受信し、現在位置の緯度経度データを取得する。その緯度経度データは、表示制御部15へ出力される。
【0035】
地図情報記憶部14は、地図情報を蓄積する。表示制御部15から指示された現在位置に基づいて、その地図情報を表示制御部15へ出力する。
【0036】
表示制御部15は、進行方向決定部10から進行方向データを入力し、測位部13から現在位置情報を入力する。また、表示制御部15は、現在位置情報を地図情報記憶部14へ出力し、現在位置の地図情報を取得する。そして、表示制御部15は、地図の上に現在位置を表示すると共に、その進行方向を矢印で表示した画像を生成する。その画像は、ディスプレイ部16へ出力される。例えば、歩行者用のナビゲーションシステムに用いられる。
【0037】
ディスプレイ14は、表示制御部15からの画像を表示することによって、歩行中のユーザに対してその画像を視認させる。
【0038】
進行方向部10は、鉛直方向加速度算出部101と、水平方向加速度算出部102と、歩行タイミング検出部103と、歩毎加速度区分部104と、歩毎方向算出部105と、歩毎方向分類部106と、進行方向算出部107とを有する。以下では、これら機能構成部について、詳細に説明する。
【0039】
[鉛直方向加速度算出部・水平方向加速度算出部]
鉛直方向加速度算出部101は、加速度データを用いて鉛直方向加速度を算出する。また、水平方向加速度算出部102は、加速度データ及び地磁気データを用いて水平方向加速度を算出する。尚、鉛直方向加速度と水平方向加速度とは、互いに直交する。
【0040】
図4は、経過時間に応じた鉛直方向加速度のグラフである。
【0041】
図4によれば、鉛直方向加速度の上側は、鉛直方向下向きを表し、下側は、鉛直方向上向きを表す。また、鉛直方向加速度の変化は、歩行と一致する周期性を有する。ここで、鉛直方向下向き加速度の極大点は、身体が下がった時点、即ち、地面を離れていた足が接地する時点を表す。一方で、鉛直方向上向き加速度の極大点は、身体が上がった時点、即ち、足が上がった時点を表す。また、鉛直方向下向き加速度の極小点間、即ち、鉛直方向上向き加速度の極大点間は、歩行者の一歩を表す。
【0042】
図5は、水平方向加速度の変化を表す説明図である。
【0043】
図5によれば、現実に、歩行者が、図1のような態様で携帯端末を右手で把持して歩行させて取得した水平方向加速度をプロットしたものである。このように、前進加速度は、加速・減速を繰り返すと同時に、前後・上下を繰り返す。ここで明らかになった点として、水平方向加速度の分布は、進行方向とは一致しないことである。図5によれば、奇数歩目及び偶数歩目(右足と左足)がそれぞれ、別々の方向に分布している。また、明らかになった点として、奇数歩目及び偶数歩目それぞれの方向の二等分線の方向は、進行方向に一致する。これによって、進行方向を算出することができる。
【0044】
更に、一歩の歩行サイクルの加速度は、以下の順に観測される。
鉛直方向上向きの極大->進行方向後向きの極大->
鉛直方向下向きの極大->進行方向前向きの極大
これによって、加速度の分布方向によって進行方向前方を選別することができる。
【0045】
図6は、水平方向加速度と鉛直方向加速度との変化の対応を表す説明図である。
【0046】
図6によれば、2歩分の加速度の軌跡が表されている。また、鉛直方向加速度と水平方向加速度とは、互いに直交する。
[t0] 第1歩目について、鉛直方向下向き加速度が極大の時点で、水平方向加速度は進行向き左側に遷移している。
[t1] 第1歩目について、鉛直方向上向き加速度が極大の時点で、水平方向加速度は進行向き右側に遷移している。
[t2] 第2歩目について、鉛直方向下向き加速度が極大の時点で、水平方向加速度は進行向き右側に遷移している。
[t3] 第2歩目について、鉛直方向上向き加速度が極大の時点で、水平方向加速度は進行向き左側に遷移している。
【0047】
図7は、重力G及び地磁気Mに対する方位の関係を表す説明図である。
【0048】
重力ベクトルG及び地磁気ベクトルMは、x軸、y軸及びz軸毎に、以下のように表される。尚、歩行中の携帯端末の姿勢は大凡一定であるために、短時間に観測される地磁気データは、ほぼ一定となる。
重力ベクトルG :G=(gx,gy,gz
地磁気ベクトルM:M=(mx,my,mz
【0049】
最初に、重力ベクトルGを算出する。歩行時における携帯端末の重力方向は、加速度データを用いても、歩行毎に正確に決定することは困難である。そこで、所定時間範囲に検出された多数のx軸、y軸及びz軸の加速度データを用いて、これら各軸の加速度の和のベクトルの向きを、重力方向とみなす。
【0050】
i番目の各軸の加速度を、以下のように表す。
x軸の加速度:ACCx[i]
y軸の加速度:ACCy[i]
z軸の加速度:ACCz[i]
n個の加速度データの和は、以下のように表される。
ACCSx=Σi=1NACCx[i]
ACCSy=Σi=1NACCy[i]
ACCSz=Σi=1NACCz[i]
そして、重力ベクトルGは、以下のように表される。
G=(gx,gy,gz)=(ACCSx,ACCSy,ACCSz)
【0051】
次に、図1と同様にx軸、y軸、z軸が右手系であると想定すると、各向きの単位ベクトルは、以下のように表される。
北向き単位ベクトルeNorth:eNorth=(eNx,eNy,eNz)
東向き単位ベクトルeEast :eEast=(eEx,eEy,eEz)
下向き単位ベクトルeDown :eDown =(eDx,eDy,eDz)
また、加速度データは、以下のように表される。
A=(Ax,Ay,Az
【0052】
図7によれば、重力ベクトルG及び地磁気ベクトルMとした場合、各単位ベクトルは、以下のように表される。
北向き単位ベクトルeNorth:eNorth=G×M×G/|G×M×G|
東向き単位ベクトルeEast :eEast =G×M/|G×M|
下向き単位ベクトルeDown :eDown =G/|G|
×:クロス積(ベクトル積、外積)
【0053】
「G×M」(外積)とは、重力ベクトルGと地磁気ベクトルMとによって作られる平面に対して垂直な方向のベクトルを作る。重力ベクトルGの方向を向いて見ると、地磁気ベクトルMから見て時計回りの方向にG×Mが伸びる。地磁気ベクトルMは、南から北へ向いているので、その軸から時計回りに90度となる方向、即ち、G×Mは、「東」の方位を向く。
【0054】
また、「(G×M)×G」とは、東向きベクトルG×Mと重力ベクトルGとによって作られる平面に対して垂直な方向のベクトルを作る。東向きベクトルG×Mを向いて見ると、重力ベクトルから見て時計回りの方向に(G×M)×Gが伸びる。重力ベクトルは、上から下へ向いているので、その軸から時計回りに90度となる方向、即ち、(G×M)×Gは、「北」の方位を向く。
【0055】
そうすると、各向きの加速度ベクトルは、各向きの単位ベクトルeに対して加速度ベクトルAの内積をとることによって算出される。
北向き加速度 :AN=eNx×Ax+eNy×Ay+eNz×Az
東向き加速度 :AE=eEx×Ax+eEy×Ay+eEz×Az
鉛直方向下向き加速度:AD=eDx×Ax+eDy×Ay+eDz×Az
【0056】
前述したように、鉛直方向加速度算出部101は、重力ベクトルGを算出し、その鉛直方向下向き加速度を歩行タイミング検出部103へ出力する。
【0057】
また、水平方向加速度算出部102は、重力ベクトルGを算出し、重力ベクトルG及びび地磁気ベクトルMを用いて、北向き加速度ANorth及び東向き加速度AEastを算出する。そして、北向き加速度ANorth及び東向き加速度AEastによって構成される水平方向加速度を、歩毎加速度区分部104へ出力する。
【0058】
尚、鉛直方向加速度算出部101及び水平方向加速度算出部102は、加速度データに対して、高域周波数成分を遮断するローパスフィルタとして機能することも好ましい。これによって、異常値としての加速度データを除去することができ、正確な進行方向を算出することができる。
【0059】
[歩行タイミング検出部]
歩行タイミング検出部103は、鉛直方向加速度算出部101から出力される鉛直方向加速度から、歩行者の歩行動作によって生じる歩行タイミングを検出する。歩行タイミングは、図4で前述したように、鉛直方向上向き加速度の極大点を抽出する。例えば、図6に記述されているように、鉛直方向下向き加速度が極小点となる毎に、その歩行タイミングを、歩毎加速度区分部104へ出力する。
【0060】
[歩毎加速度区分部]
歩毎加速度区分部104は、歩行タイミング検出部103から出力された歩行タイミングに応じて、歩毎に、水平加速度データ群に区分する。そして、歩毎の水平加速度データ群は、歩毎方向算出部105へ出力される。
【0061】
[歩毎方向算出部]
歩毎方向算出部105は、歩毎に、水平加速度データ群(北向き加速度及び東向き加速度の群)から、方向を検出する。検出された歩毎の方向は、歩毎方向分類部106へ出力される。
【0062】
図8は、歩毎の方向を表す説明図である。
【0063】
図8に表されているように、歩毎の方向は、例えば主成分分析を用いて決定される。「主成分分析」とは、多数の成分分布の中から、相関関係にある1つ以上の主成分を算出する方法である。その中で最も大きき相関関係を有する主成分が、本発明における歩毎の方向を表す。
【0064】
水平加速度における2変数x、yのi番目のデータをそれぞれ、xi、yiとする。このとき、n個のデータの固有値λは、以下の行列式によって算出される。
【数1】

(Vxx−λ)・(Vyy−λ)−Vxy・Vxy=0
Vxx・Vyy−Vxx・λ−λ・Vyy+λ2−Vxy2=0 (2つの固有値λが算出)
【0065】
ここで、Vxx、Vyy、Vxyは、分散及び共分散である。
Vxx=1/n・Σi=1n(xi−x)2
Vyy=1/n・Σi=1n(yi−y)2
Vxy=1/n・Σi=1n(xi−x)(yi−y)
【0066】
算出された2つの固有値λのうち、大きい方をλ1とすると、以下の式で固有ベクトルが算出される。
【数2】

【0067】
歩毎の水平加速度データ群における方向は、以下の式によって算出される。
角度=Tan-1(e2/e1)
【0068】
尚、歩毎加速度が、鉛直方向下向きの加速度の極小点毎に、歩毎の加速度データ群に区分されている場合、後向きの加速度の極大->前向きの加速度の極大の順に、観測される。
【0069】
このように、歩毎方向算出部105は、歩毎の北向き及び東向きの水平方向加速度について分散Vxx,Vyy及び共分散Vxyを算出する。そして、分散及び共分散に基づいて、固有値λを算出し、固有ベクトル[e1,e2]を算出し、角度Tan-1(e1/e2)を、歩毎方向として算出する。
【0070】
[歩毎方向分類部]
歩毎方向分類部106は、歩毎方向算出部105から歩毎方向を入力する。そして、歩毎方向分類部106は、歩毎方向を、奇数歩目又は偶数歩目に交互に分類する。ここで、奇数/偶数は、基準点からの奇数歩/偶数歩を意味せず、単に、歩毎方向を交互に格納して出力する。奇数歩目の歩毎方向と、偶数歩目の歩毎方向とが、進行方向算出部107へ出力される。
【0071】
[進行方向算出部]
進行方向算出部107は、奇数歩目の歩毎方向と偶数歩目の歩毎方向とを用いて、両方向の二等分線の方向を進行方向として決定する。例えば、図8に記述されているように、奇数歩目の歩毎方向と偶数歩目の歩毎方向とを平均化するものであってもよい。また、平滑化することも好ましい。「平滑化」とは、連続的な値について、他の値よりも大きく乖離しているデータを除去することによって、合理的に平均化する方法をいう。そして、算出された進行方向は、表示制御部15へ出力される。
【0072】
最後に、歩毎方向算出部105、歩毎方向分類部106及び進行方向算出部107における具体的な算出例を説明する。
[1歩目]
北向きx及び東向きyとし、1歩分の水平方向加速度の分散及び共分散が、以下のような値であったとする。
Vxx=7241.633
Vyy=569.402
Vxy=1798.564
ここで、固有値λを算出する。
Vxx・・'75yy−Vxx・λ−Vyy・λ+λ2−Vxy2=0
7241.633・569.402−7241.633・λ−569.402・λ+λ2−1798.5642=0
大きい方の固有値λ1=7695.570が算出される。
また、固有ベクトル[e1,e2]は、以下の式によって算出される。
-453.937・e1+1798.564・e2=0
[e1,e2]=k[3.962144, 1] (k:任意)
角度は、以下の式によって算出される。
Tan-1(e2/e1)=0.247rad[ラジアン]
【0073】
[2歩目]
Vxx=10693.206
Vyy=2633.204
Vxy=-4448.360
ここで、固有値λを算出する。
Vxx・・'75yy−Vyy・λ―'7cVxx・λ+λ2−Vxy2=0
10693.206・2633.204−10693.206・λ−2633.204・λ+λ2−(-4448.360)2=0
大きい方の固有値λ1=12665.606が算出される。
また、固有ベクトル[e1,e2]は、以下の式によって算出される。
-1972.400・e1+(-4448.360)・e2=0
[e1,e2]=k[-2.2553, 1] (k:任意)
角度は、以下の式によって算出される。
Tan-1(e2/e1)=-0.417rad[ラジアン]
【0074】
[進行方向]
1歩目が0.247radで、2歩目が-0.417radであるので、進行向きは、以下のように平均値となる。
(0.247+(-0.417))/2=-0.085rad[ラジアン]
これによって、前述の算出例では、その進行方向は、-0.085radとなる。
【0075】
以上、詳細に説明したように、本発明の携帯端末、プログラム及び方法によれば、利用者に端末の姿勢が大凡一定となるように所持された携帯端末について、その携帯端末に搭載された加速度センサ及び地磁気センサを用いて、歩行者の進行方向をできる限り正確に決定することができる。
【0076】
前述した本発明の種々の実施形態について、本発明の技術思想及び見地の範囲の種々の変更、修正及び省略は、当業者によれば容易に行うことができる。前述の説明はあくまで例であって、何ら制約しようとするものではない。本発明は、特許請求の範囲及びその均等物として限定するものにのみ制約される。
【符号の説明】
【0077】
1 携帯端末
10 進行方向決定部
101 鉛直方向加速度算出部
102 水平方向加速度算出部
103 歩行タイミング検出部
104 歩毎加速度区分部
105 歩毎方向算出部
106 歩毎方向分類部
107 進行方向算出部
11 加速度センサ
12 地磁気センサ
13 測位部
14 地図情報記憶部
15 表示制御部
16 ディスプレイ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
3軸の加速度データを出力する加速度センサと、3軸の地磁気データを出力する地磁気センサと、前記加速度データ及び前記地磁気データから歩行者の進行方向を決定する進行方向決定手段とを有し、歩行者によって所持される携帯端末であって、
前記進行方向決定手段は、
前記加速度データから、鉛直方向加速度を算出する鉛直方向加速度算出手段と、
鉛直方向上向き加速度の極大点を歩行タイミングとして検出する歩行タイミング検出手段と、
前記加速度データ及び前記地磁気データを用いて、前記鉛直方向加速度に直交する水平方向加速度を算出する水平方向加速度算出手段と、
前記歩行タイミングに基づいて、1歩分の水平方向加速度に区分する歩毎加速度区分手段と、
前記1歩分の水平方向加速度から、歩毎方向を算出する歩毎方向算出手段と、
前記歩毎方向を、奇数歩目又は偶数歩目に交互に分類する歩毎方向分類手段と、
前記奇数歩目の歩毎方向と前記偶数歩目の歩毎方向との二等分線の方向を、進行方向として算出する進行方向算出手段と
を有することを特徴とする携帯端末。
【請求項2】
前記水平方向加速度算出手段は、
前記加速度センサから出力された軸毎の加速度に基づいて、重力ベクトルGを算出し、
前記重力ベクトルG及び前記地磁気ベクトルMを用いて、北向き加速度ANorth及び東向き加速度AEastを算出し、
前記水平方向加速度を、前記北向き加速度ANorth及び前記東向き加速度AEastによって構成する
ことを特徴とする請求項1に記載の携帯端末。
【請求項3】
前記水平方向加速度算出手段は、
前記重力ベクトルG及び前記地磁気ベクトルMを用いて、G×M/|G×M|によって東向き単位ベクトルeEastを算出し、
前記東向き単位ベクトルeEastに対する加速度データの内積をとることによって、前記東向き加速度AEastを算出し、
前記重力ベクトルG及び前記地磁気ベクトルMを用いて、G×M×G/|G×M×G|によって北向き単位ベクトルeNorthを算出し、
前記北向き単位ベクトルeNorthに対する加速度データの内積をとることによって、前記北向き加速度ANorthを算出する
ことを特徴とする請求項2に記載の携帯端末。
【請求項4】
前記歩毎方向算出手段は、1歩分の多数の水平方向加速度を水平面にプロットし、主成分分析を用いて、多数のプロットに対する歩毎方向を算出することを特徴とする請求項1から3のいずれ1項に記載の携帯端末。
【請求項5】
前記歩毎方向算出手段は、
歩毎の北向き及び東向きの水平方向加速度について分散Vxx,Vyy及び共分散Vxyを算出し、
前記分散及び共分散に基づいて、固有値λを算出し、
前記固有値λを用いて、固有ベクトル[e1,e2]を算出し、
前記固有ベクトル[e1,e2]を用いて、角度Tan-1(e1/e2)を、歩毎方向として算出する
ことを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の携帯端末。
【請求項6】
前記奇数歩目の歩毎方向と前記偶数歩目の歩毎方向との平均値を、進行方向として算出することを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の携帯端末。
【請求項7】
前記鉛直方向加速度算出手段及び水平方向加速度算出手段は、前記加速度データに対して、高域周波数成分を遮断するローパスフィルタとして機能することを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の携帯端末。
【請求項8】
3軸の加速度データを出力する加速度センサと、3軸の地磁気データを出力する地磁気センサとを有する携帯端末に搭載されたコンピュータを、前記加速度データ及び前記地磁気データから歩行者の進行方向を決定する進行方向決定手段として機能させるプログラムであって、
前記進行方向決定手段は、
前記加速度データから、鉛直方向加速度を算出する鉛直方向加速度算出手段と、
鉛直方向上向き加速度の極大点を歩行タイミングとして検出する歩行タイミング検出手段と、
前記加速度データ及び前記地磁気データを用いて、前記鉛直方向加速度に直交する水平方向加速度を算出する水平方向加速度算出手段と、
前記歩行タイミングに基づいて、1歩分の水平方向加速度に区分する歩毎加速度区分手段と、
前記1歩分の水平方向加速度から、歩毎方向を算出する歩毎方向算出手段と、
前記歩毎方向を、奇数歩目又は偶数歩目に交互に分類する歩毎方向分類手段と、
前記奇数歩目の歩毎方向と前記偶数歩目の歩毎方向との二等分線の方向を、進行方向として算出する進行方向算出手段と
してコンピュータを機能させることを特徴とする携帯端末用のプログラム。
【請求項9】
3軸の加速度データを出力する加速度センサと、3軸の地磁気データを出力する地磁気センサとを有する携帯端末によって、前記加速度データ及び前記地磁気データから歩行者の進行方向を決定する進行方向決定方法であって、
前記加速度データから、鉛直方向加速度を算出する第1のステップと、
鉛直方向上向き加速度の極大点を歩行タイミングとして検出する第2のステップと、
前記加速度データ及び前記地磁気データを用いて、前記鉛直方向加速度に直交する水平方向加速度を算出する第3のステップと、
前記歩行タイミングに基づいて、1歩分の水平方向加速度に区分する第4のステップと、
前記1歩分の水平方向加速度から、歩毎方向を算出する第5のステップと、
前記歩毎方向を、奇数歩目又は偶数歩目に交互に分類する第6のステップと、
前記奇数歩目の歩毎方向と前記偶数歩目の歩毎方向との二等分線の方向を、進行方向として算出する第7のステップと
を有することを特徴とする携帯端末の進行方向決定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−163861(P2011−163861A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−25473(P2010−25473)
【出願日】平成22年2月8日(2010.2.8)
【出願人】(000208891)KDDI株式会社 (2,700)
【Fターム(参考)】