説明

地震災害軽減装置、地震災害軽減方法、地震災害軽減プログラム、およびコンピュータ読み取り可能な記録媒体

【課題】 地震が到達する前に適切な防災措置を講じ得る地震災害軽減装置を提供する。
【解決手段】 リアルタイム地震情報を受信する地震情報受信部2と、地震情報受信部2にて受信したリアルタイム地震情報に基づき、S波に関するパラメータを予測するS波情報予測部7と、S波情報予測部7にて予測されたパラメータに基づき、地震災害を軽減する対象区域としてのサイトにおける防災アクションを決定する防災アクション決定部8とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各地域で発生する地震に関する情報をリアルタイムで取得し、その取得された情報に基づき適切な防災アクションをとるための地震災害軽減装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、地震災害を軽減するために、種々の技術が提案されている(たとえば、特許文献1または特許文献2参照)。特に、1995年の阪神淡路大震災の後、地震災害を軽減することに対する社会的要請が高まり、リアルタイムに地震に関する情報を集約し、その情報を各地へ伝達するネットワークの構築が全国的に強化された。なお、このようにリアルタイムで集約/伝達される地震に関する情報を、以下では単に「リアルタイム地震情報」と記載する。
【0003】
このリアルタイム地震情報は、現在では、独立行政法人 防災科学技術研究所により提供されている。同研究所は、Hi−netと呼ばれる高感度地震観測網を構築し、全国各地に約20km間隔で700点の地震計を設置している。そして、Hi−netでは、衛星通信システムを用いて、各地震計により得られた地震データを収集し、リアルタイム地震情報として配信している。また、Hi−netにより提供されるリアルタイム地震情報では、発震時に関する情報、発震時の誤差に関する情報、震源の緯度および経度に関する情報、震源の深さに関する情報、マグニチュードに関する情報が含まれている。
【0004】
さらに近年では、2000年に発生した鳥取地震や、2001年に発生した芸予地震などの経験から、地震災害対策への社会的要請が一層高められている。また、2003年の半ばより、地震発生直後に約10秒ほどで、震源の位置、マグニチュード、S波の到達までの時間などが、リアルタイム地震情報として衛星通信システムでいくつかの研究所に配信されるようになった。
【特許文献1】特開平11−160447号公報(1999年6月18日公開)
【特許文献2】特開2000−275351号公報(2000年10月6日公開)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述のようにリアルタイム地震情報が各地域に配信されてはいるものの、その情報が地震災害軽減のために十分に活用されているとはいえない。
【0006】
たとえば、震源から200km程度離れた地点においては、地震発生から10秒程度経ってから地震に関する情報が配信される。そして、その情報が配信された時点からさらに40秒程度経ってから、S波が到達する。したがって、この40秒程度の時間に、地震災害を軽減するための措置が講じられなけれならない。さらに、現状では、リアルタイム地震情報を受信した後に、各地域で人間の判断によりどのような防災措置を講じるかが決定されている。
【0007】
しかしながら、上述したようにリアルタイム地震情報を受信してからS波が到達するまでは40秒程度の時間しかない。したがって、このほんの僅かな時間に、人間が適切な防災措置を決定し実行に移すことは非常に困難である。
【0008】
本発明は、上記従来の問題点に鑑みなされたものであって、地震が到達する前に適切な防災措置を講じ得る地震災害軽減装置、地震災害軽減方法、地震災害軽減プログラム、およびコンピュータ読み取り可能な記録媒体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の地震災害軽減装置は、上記課題を解決するために、リアルタイムで配信される地震に関する情報であるリアルタイム地震情報を受信する地震情報受信手段と、上記地震情報受信手段にて受信したリアルタイム地震情報に基づき、地震に関するパラメータを予測する地震情報予測手段と、上記地震情報予測手段にて予測された地震に関するパラメータに基づき、地震災害を軽減する対象区域としてのサイトにおける、地震災害を軽減するための措置である防災アクションを決定する防災アクション決定手段とを備えていることを特徴としている。
【0010】
また、本発明の地震災害軽減方法は、上記課題を解決するために、リアルタイムで配信される地震に関する情報であるリアルタイム地震情報を、地震災害軽減装置の地震情報受信手段により受信する第1ステップと、上記第1ステップにて受信したリアルタイム地震情報に基づき、地震に関するパラメータを、上記地震災害軽減装置の地震情報予測手段により予測する第2ステップと、上記第2ステップにて予測された地震に関するパラメータに基づき、地震災害を軽減する対象区域としてのサイトにおける、地震災害を軽減するための措置である防災アクションを、上記地震災害軽減装置の防災アクション決定手段により決定する第3ステップとを備えていることを特徴としている。
【0011】
上記構成の地震災害軽減装置によれば、地震情報受信手段により受信されたリアルタイム地震情報に基づき、地震情報予測手段が地震に関するパラメータ、たとえば、震度、震源の位置、地震の到達時間を予測する。そして、地震情報予測手段が予測したこれらのパラメータに基づき、防災アクション決定手段は、サイトにおける防災アクション、たとえば設備の電源停止、データバックアップ、地震警報発令を講じるか否かを決定する。
【0012】
すなわち、リアルタイム地震情報を受信してから防災アクションを決定するまでの処理が、地震災害軽減装置に設けられた各手段により自動的に実行されるので、地震災害に対して迅速な防災アクションを実行することができる。それゆえ、地震による揺れがサイトに到達する前に防災アクションを実行することができ、地震災害を軽減することが可能となる。
【0013】
また、上記構成の地震災害軽減方法によれば、第1ステップにより上記地震情報受信手段と同一の処理が実現され、第2ステップにより上記地震情報予測手段と同一の処理が実現され、第3ステップにより上記防災アクション決定手段と同一の処理が実現されている。それゆえ、上記構成の地震災害軽減装置と同様の作用効果を得ることができる。
【0014】
さらに、本発明の地震災害軽減装置は、上記構成において、上記地震情報予測手段が予測する地震に関するパラメータがS波に関するパラメータである構成とされていることが好ましい。
【0015】
つまり、地震による揺れは、P波による揺れとS波による揺れとに分けられる。そして、S波による揺れの度合いはP波による揺れの度合いよりも大きいので、地震災害は主にS波により引き起される。
【0016】
上記構成では、地震情報予測手段がS波に関するパラメータを予測するので、防災アクション決定手段において、S波のパラメータに基づき防災アクションを決定することができる。したがって、大きな地震災害を引き起すS波に対応した防災アクションを決定できるので、より適切に地震災害を軽減することが可能となる。
【0017】
さらに、本発明の地震災害軽減装置は、上記構成において、上記防災アクション決定手段が、複数の上記サイトのそれぞれに対して実行すべき上記防災アクションの候補が関連付けられているアクションテーブルを用いて、防災アクションを決定するものであることが好ましい。
【0018】
上記構成によれば、防災アクション決定手段が、各サイトと防災アクションとが関連付けられているアクションテーブルを用いて防災アクションを決定するので、簡易な処理にて防災アクションを決定することができる。
【0019】
さらに、各サイトにおいて講じるべき防災アクションは、そのサイトにおける建造物の配置関係、サイトにおいて設置されている設備、サイトにおける地盤の硬さ等のサイト特有の状況により異なる。したがって、アクションテーブルにて各サイトに対応した防災アクションを管理しておくことにより、地震発生時に各サイトに最も適切な防災アクションを講じることができる。
【0020】
さらに、本発明の地震災害軽減装置は、上記構成において、上記防災アクション決定手段により決定された防災アクションに関する情報である防災アクション情報を、複数の上記サイトのそれぞれに設置されるとともにそのサイトにおいて上記防災アクションを実行するサイト側防災装置に、ネットワーク経由で送信する防災アクション送信手段を備えている構成であることが好ましい。
【0021】
上記構成によれば、複数のサイトのそれぞれに設置されたサイト側防災装置に対して、防災アクション送信手段からネットワーク経由で防災アクション情報を送信できる。したがって、複数のサイトにおける防災アクションを本発明の地震災害軽減装置により集中管理することができる。
【0022】
また、本発明の地震災害軽減装置は、上記構成において、上記防災アクション決定手段により決定された上記防災アクションを実行する防災アクション実行手段を備えている構成であってもよい。
【0023】
上記構成の防災アクション実行手段を備えた地震災害軽減装置をサイト内に設置することにより、リアルタイム地震情報が受信されてから防災アクションが実行されるまでの一連の処理を、上記地震災害軽減装置により行うことができる。
【0024】
したがって、防災アクション情報をネットワーク経由で送信するよりも、迅速に防災アクションを決定および実行することができるので、地震災害に対してさらに迅速な対応が可能となる。
【0025】
なお、コンピュータに上記地震災害軽減方法を実行させる地震災害軽減プログラムにより、コンピュータを用いて本発明の地震災害軽減方法と同様の作用効果を得ることができる。さらに、上記地震災害軽減プログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記憶させることにより、任意のコンピュータ上で上記地震災害軽減プログラムを実行させることができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、リアルタイム地震情報を受信してから防災アクションを決定するまでの処理が、地震災害軽減装置に設けられた各手段により自動的に実行されるので、地震災害に対して迅速な防災アクションを実行することができる。それゆえ、地震による揺れがサイトに到達する前に防災アクションを実行することができ、地震災害を軽減することが可能となる。
【0027】
したがって、本発明によれば、企業資産を地震災害から迅速かつ適切に保護できるだけでなく、地震災害による死亡者の数も軽減することができるので、企業資産保護、人命保護の観点からすると絶大な効果を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
本発明の地震災害軽減装置の一実施形態について、図1ないし図4に基づき説明する。
【0029】
〔1.地震災害軽減システムの構成〕
本実施形態の地震災害軽減システムに用いられるセンタ側防災装置(地震災害軽減装置)1は、図1に示すように、地震情報受信部(地震情報受信手段)2と、サイト対応防災解析部3と、記憶部4と、防災アクション送信部(防災アクション送信手段)5とを備えている。また、サイトA・Bのそれぞれには、サイト側防災装置A1・B1が設置されている。このように、センタ側防災装置と最後側防災装置とから構成されるシステムに関して、本明細書では「地震災害軽減システム」と記載している。以下、センタ側防災装置1の構成に関して具体的に説明する。
【0030】
地震情報受信部2は、衛星通信システムを介して、リアルタイム地震情報を受信するものである。このリアルタイム地震情報は、上述したように、たとえば独立行政法人 防災科学技術研究所のHi−netと呼ばれる地震観測網から提供されているものを用いることができる。
【0031】
サイト対応防災解析部3は、地震情報受信部2にて受信されたリアルタイム地震情報に基づき、防災の対象とする各サイトにおいて適切な防災アクションを決定するためのものである。より具体的には、サイト対応防災解析部3は、P波情報予測部(地震情報予測手段)6と、S波情報予測部(地震情報予測手段)7と、防災アクション決定部(防災アクション決定手段)8とを備えている。
【0032】
P波情報予測部6は、地震情報受信部2にて受信したリアルタイム地震情報に基づき、P波に関する種々のパラメータを予測するものである。より具体的には、P波情報予測部6は、P波に関するパラメータとして、P波による揺れの大きさ、P波の到達時刻等を予測する。
【0033】
S波情報予測部7は、地震情報受信部2にて受信したリアルタイム地震情報に基づき、S波に関する種々のパラメータを予測するものである。より具体的には、S波情報予測部7は、S波に関するパラメータとして、S波による揺れの大きさ(震度)、S波の到達時刻等を予測する。
【0034】
防災アクション決定部8は、S波情報予測部7において予測された、震度に関する情報、およびS波の到達時間に関する情報の少なくとも1つに基づいて、各サイトにおける地震災害を軽減するために適切な措置(防災アクション)を決定するものである。そして、防災アクション決定部8は、自身が決定した防災アクションに関する情報(防災アクション情報)を、防災アクション送信部5に出力する。
【0035】
より具体的には、防災アクション決定部8は、記憶部4に記憶されたアクションテーブル10を参照して、各サイトに対して防災アクションを決定する。このアクションテーブル10には、図2に示すように、各サイト(サイトA,B,…)と、S波の予測値と、閾値と、講じるべき防災アクションとが関連付けて格納されている。
【0036】
アクションテーブル10に格納されるS波の予測値としては、S波が到達するまでの時間、震源までの距離、震源の方角、震度等、地震に関する種々のパラメータを設定することができる。また、アクションテーブル10においては、これらの予測値のそれぞれについて閾値が設定されている。防災アクション決定部8(図1)は、S波情報予測部7から受信したS波の予測値が、アクションテーブル10に記録された閾値を超えているか否かを判断し、予測値が閾値を超えていれば、アクションテーブル10に格納された防災アクションを各サイトにおいて講じるべき防災アクションとして決定する。
【0037】
たとえば、図2に示すように、S波の予測値としての到達時間が閾値AAを超えているならば、サイトAにおいて講じるべき防災アクションとして、たとえば設備電源停止、データバックアップ等の防災アクションが決定される。また、S波の予測値としての到達時間が閾値aaを超えているならば、サイトBにおいて講じるべき防災アクションとして、データバックアップ、地震警報発令等の防災アクションが決定される。
【0038】
なお、図2に示すアクションテーブル10と同様のアクションテーブルをP波について作成するとともに、そのアクションテーブルとP波情報予測部6から受信するP波の予測値とに基づき、防災アクション決定部8にて防災アクションが決定されるように構成してもよい。
【0039】
そして、防災アクション送信部5は、防災アクション情報をネットワークを介して各サイトへ送信する。防災アクション情報を送信するためのネットワークとしては、DoPa(登録商標)のような携帯電話網を利用したパケット通信ネットワークや、インターネット回線を利用したネットワーク、LANなど、種々のネットワークを用いることができる。
【0040】
また、サイトAにおいては、図1に示すように、サイト側防災装置A1が設置されている。このサイト側防災装置A1は、防災アクション情報受信部A2と、防災アクション実行部A3とを備えている。
【0041】
さらに、サイトAと同様にサイトBにおいても、サイト側防災装置B1が設置されている。このサイト側防災装置B1は、防災アクション情報受信部A2と同一の機能を果たす防災アクション情報受信部B2と、防災アクション実行部A3と同一の機能を果たす防災アクション実行部B3とを備えている。以下の記載では、特にサイト側防災装置A1の構成について説明する。
【0042】
防災アクション情報受信部A2は、センタ側防災装置1の防災アクション送信部5より送信された防災アクション情報を、ネットワーク経由で受信するものである。また、防災アクション情報受信部A2は、自身が受信した防災アクション情報を、防災アクション実行部A3に出力する。そして、防災アクション実行部A3は、防災アクション情報受信部A2から入力された防災アクション情報に基づき、防災アクションの実行命令を所定機器に付与する。
【0043】
たとえば、防災アクション情報が、防災アクションとしての「設備電源停止」に関するものであれば、防災アクション実行部A3は、サイトAにおける各種設備に電源停止命令を付与する。この場合の各種設備としては、サイトAが工場であるなら、生産設備、空調設備、運搬設備等を設定することができる。
【0044】
また、防災アクション情報が、防災アクションとしての「データバックアップ」に関するものであれば、防災アクション実行部A3は、サイトAに設置されている各種コンピュータに対してデータバックアップ指令を付与する。
【0045】
さらに、防災アクション情報が、防災アクションとしての「地震警報発令」に関するものであれば、防災アクション実行部A3は、サイトAに設置された震度表示計、防災サイレン、避難誘導灯等の警報器に対して、地震警報処理を実行するよう防災アクションの実行命令を付与する。
【0046】
なお、地震警報処理とは、たとえば警報器が震度表示計であるなら、震度表示計にて「震度5です。危険です、非難してください」という表示を実現するための処理である。また、警報器が防災サイレンであるなら、地震警報処理は防災サイレンにサイレンの鳴動を実行させるための処理となる。さらに、警報器が避難誘導灯であるなら、避難経路を表示する処理が地震警報処理に相当する。
【0047】
また、防災アクションとしての「所定区域への進入禁止」に関する情報が防災アクション情報として設定されているなら、防災アクション実行部A3は、所定区域への進入を制限する遮断機、シャッター、エリアセンサー等に対して、進入禁止処理を実行するように防災アクションの実行命令を付与する。
【0048】
なお、進入禁止処理には、所定区域への進入を制限するために、遮断機において遮断バーを下げる処理、シャッターを下げる処理、所定区域への人間の進入を検知させるためにエリアセンサーを作動させる処理などが含まれる。
【0049】
このように、アクションテーブルを用いることにより、各サイトに対応した防災アクションを予め設定しておくことができる。アクションテーブル内に格納されている閾値や、防災アクションは、各サイトにおいて地震を想定した実験をしておくことにより予め決定しておけばよい。また、本実施形態の地震災害軽減システムを適用するサイトが増えた場合にも、そのサイトにおいて地震が発生したことを仮定した実験を行うことにより、アクションテーブルにおける閾値と防災アクションとを決定し、その閾値と防災アクションとが含まれるようにアクションテーブルを更新すればよい。これにより、新規のサイトにおける地震災害を軽減することが可能となる。
【0050】
以上のように、本実施形態のセンタ側防災装置1を用いれば、リアルタイム地震情報に基づき適切な防災アクションが防災アクション決定部8により決定され、その防災アクションが各サイトに設定されたサイト側防災装置の防災アクション実行部により実行される。以下、各サイトにおいて防災アクションが実行されるまでの手順について、図3のフローチャートを用いて説明する。
【0051】
先ず、図3に示すように、センタ側防災装置1の地震情報受信部2により、リアルタイム地震情報が受信される(ステップ1、以下ステップを単にSと記載する)。なお、このリアルタイム地震情報は、地震発生から10秒程度で地震情報受信部2に配信される。
【0052】
そして、S1にて受信したリアルタイム地震情報に基づき、P波情報予測部6は、P波に関する種々のパラメータを予測する(S2)。また、S波情報予測部7は、S1にて受信したリアルタイム地震情報に基づき、S波に関する種々のパラメータを予測する(S3)。
【0053】
なお、図3のフローチャートにおいては、S2の後にS3が実行されるように記載しているが、必ずしもその必要はない。たとえば、S3の後にS2を実行するようにしてもよいし、S2とS3とを同時に実行してもよい。
【0054】
そして、S2およびS3が実行されてから、防災アクション決定部8により防災アクションが決定される(S4)。この防災アクションの決定処理は、上述したように、たとえばアクションテーブルに基づき行われるものである。
【0055】
さらに、S4にて決定された防災アクションは、防災アクション情報として防災アクション送信部5によりネットワーク経由で各サイトへ送信される(S5)。さらに、その防災アクション情報は、サイト側防災装置A1(B1)の防災アクション情報受信部A2(B2)により受信される(S6)。最後に、サイト側防災装置A1(B1)の防災アクション実行部A3(B3)により、S6で受信した防災アクション情報に対応する防災アクションが実行される(S7)。
【0056】
そして、このS7までの処理は、地震発生から10数秒以内で実行することが可能である。一方で、震源から200km程度離れた地点においては、地震発生からP波が到達するまでに30秒程度、地震発生からS波が到達するまでに50数秒程度の時間がかかる。したがって、本実施形態の地震災害軽減システムによれば、S波が到達する前に十分な余裕をもって防災アクションを講じることができ、さらに、震源からある程度離れた地点においては、P波が到達する前にも防災アクションを講じることができる。
【0057】
〔2.地震災害軽減システムのその他の構成例〕
上述の地震災害軽減システムでは、センタ側防災装置1からネットワーク経由で送信される防災アクション情報をサイト側防災装置で受信して防災アクションを実行する構成について説明したが、本発明を適用可能な地震災害軽減システムの構成は、これに限定されるものではない。以下、地震災害軽減システムのその他の構成例について説明する。
【0058】
すなわち、本発明を適用可能な地震災害軽減システムは、図4に示すように、リアルタイム地震情報をサイト側防災装置(地震災害軽減装置)A’1にて受信する構成となっている。このサイト側防災装置A’1は、地震情報受信部2、サイト対応防災解析部3、記憶部4、防災アクション情報受信部A2、および防災アクション実行部(防災アクション実行手段)A3を備えている。これらの各ブロックが果たす機能については、図1の地震災害軽減システムにおいて説明したブロックと同じであるので、詳細な説明を省略する。また、サイトBにおいても、サイト側防災装置A’1と同一の構成を有するサイト側防災装置(地震災害軽減装置)B’1が設置されている。
【0059】
つまり、図4に示す地震災害軽減システムは、リアルタイム地震情報をサイト側で直接受信して防災アクションを実行する構成とされている点において、図1の地震災害軽減システムと異なる。したがって、図4の地震災害軽減システムを用いることにより、防災アクション情報をネットワーク経由で送信する処理を省略することができるので、より迅速に防災アクションを講じることが可能となる。
【0060】
〔3.地震災害軽減システムの適用例〕
本発明を用いる地震災害軽減システム(以下、本地震災害軽減システムとする)は、あらゆるサイトにおける地震災害を軽減するために好適である。以下、地震災害軽減システムの適用例について説明する。
【0061】
まず、本地震災害軽減システムは、サイトとしての製品組立工場における地震災害を軽減するために好適である。つまり、本地震災害軽減システムによれば、製品組立工場にS波が到達する前に適切な防災アクションを講じることができるので、製品組立工場における製造設備や製品管理に関するデータの破壊、または作業員の負傷などを未然に防ぐことができる。
【0062】
また、本地震災害軽減システムは、企業が入居するビル、一般人が入居するマンション、アパート、家屋等における地震災害を軽減するためにも好適である。すなわち、本地震災害軽減システムを用いることにより、これらのビル・マンション等におけるPCにて管理されているデータをS波が到達する前にバックアップすることができるので、重要な顧客データ等が破壊されてしまうことを軽減できる。また、ビルやマンションの入居者をS波が到達するまでに速やかに避難させることができる。
【0063】
このように、本地震災害軽減システムによれば、企業資産を地震災害から迅速かつ適切に保護できるだけでなく、地震災害による死亡者の数も軽減することができるので、企業資産保護、人命保護の観点からすると絶大な効果を得ることができる。
【0064】
このように、本実施形態のセンタ側防災装置1は、リアルタイム地震情報を受信する地震情報受信部2と、地震情報受信部2にて受信したリアルタイム地震情報に基づき、S波に関するパラメータを予測するS波情報予測部7と、S波情報予測部7にて予測されたパラメータに基づき、地震災害を軽減する対象区域としてのサイトにおける防災アクションを決定する防災アクション決定部8とを備えているものである。なお、防災アクション決定部8は、P波情報予測部6において予測されたP波のパラメータに基づき防災アクションを決定するように構成してもよい。
【0065】
上記構成のセンタ側防災装置1によれば、リアルタイム地震情報を受信してから防災アクションを決定するまでの処理が、センタ側防災装置1に設けられた各ブロックにより自動的に実行されるので、地震災害に対して迅速な防災アクションを実行することができる。それゆえ、S波がサイトに到達する前に防災アクションを実行することができ、地震災害を軽減することが可能となる。
【0066】
さらに、本実施形態のセンタ側防災装置1は、S波情報予測部7にてS波に関するパラメータを予測するものである。
【0067】
上記構成によれば、防災アクション決定部8において、S波のパラメータに基づき防災アクションを決定することができる。したがって、大きな地震災害を引き起すS波に対応した防災アクションを決定できるので、より適切に地震災害を軽減することが可能となる。
【0068】
さらに、本実施形態のセンタ側防災装置1は、防災アクション決定部8が、複数のサイトのそれぞれに対して実行すべき防災アクションの候補が関連付けられているアクションテーブル10を用いて、防災アクションを決定するものである。
【0069】
上記構成によれば、簡易な処理にて防災アクションを決定することができる。
【0070】
さらに、アクションテーブル10にて各サイトに対応した防災アクションを管理しておくことにより、地震発生時に各サイトに最も適切な防災アクションを講じることができる。
【0071】
さらに、本実施形態のセンタ側防災装置1は、防災アクション決定部8により決定された防災アクションに関する情報である防災アクション情報を、複数のサイトのそれぞれに設置されるとともにそのサイトにおいて防災アクションを実行するサイト側防災装置A1・B1…に、ネットワーク経由で送信する防災アクション送信部5を備えている構成である。
【0072】
上記構成によれば、複数のサイトのそれぞれに設置されたサイト側防災装置A1・B1…に対して、防災アクション送信部5からネットワーク経由で防災アクション情報を送信できる。したがって、複数のサイトにおける防災アクションをセンタ側防災装置1により集中管理することができる。
【0073】
また、サイト側防災装置A’1のように、防災アクション決定部8により決定された防災アクションを実行する防災アクション実行部A3を備えている構成であってもよい。
【0074】
上記構成の防災アクション実行部A3を備えたサイト側防災装置A’1をサイト内に設置することにより、リアルタイム地震情報が受信されてから防災アクションが実行されるまでの一連の処理を、サイト側防災装置A’1により行うことができる。
【0075】
したがって、防災アクション情報をネットワーク経由で送信するよりも、迅速に防災アクションを決定および実行することができるので、地震災害に対してさらに迅速な対応が可能となる。
【0076】
〔4.補足〕
本実施形態の地震災害軽減システムの処理手順は、CPUなどの演算手段が、ROM(Read Only Memory)やRAMなどの記憶手段に記憶されたプログラムを実行し、キーボードなどの入力手段、ディスプレイなどの出力手段、あるいは、インターフェース回路などの通信手段を制御することにより実現することができる。
【0077】
したがって、これらの手段を有するコンピュータが、上記プログラムを記録した記録媒体を読み取り、当該プログラムを実行するだけで、本実施形態のセンタ側防災装置1およびサイト側防災装置A1・B1の各種処理を実現することができる。また、上記プログラムをリムーバブルな記録媒体に記録することにより、任意のコンピュータ上で上記の各種機能および各種処理を実現することができる。
【0078】
この記録媒体としては、マイクロコンピュータで処理を行うために図示しないメモリ、例えばROMのようなものがプログラムメディアであっても良いし、また、図示していないが外部記憶装置としてプログラム読み取り装置が設けられ、そこに記録媒体を挿入することにより読み取り可能なプログラムメディアであっても良い。
【0079】
また、何れの場合でも、格納されているプログラムは、マイクロプロセッサがアクセスして実行される構成であることが好ましい。さらに、プログラムを読み出し、読み出されたプログラムは、マイクロコンピュータのプログラム記憶エリアにダウンロードされて、そのプログラムが実行される方式であることが好ましい。なお、このダウンロード用のプログラムは予め本体装置に格納されているものとする。
【0080】
また、上記プログラムメディアとしては、本体と分離可能に構成される記録媒体であり、磁気テープやカセットテープ等のテープ系、フレキシブルディスクやハードディスク等の磁気ディスクやCD/MO/MD/DVD等のディスクのディスク系、ICカード(メモリカードを含む)等のカード系、あるいはマスクROM、EPROM(Erasable Programmable Read Only Memory)、EEPROM(Electrically Erasable Programmable Read Only Memory)、フラッシュROM等による半導体メモリを含めた固定的にプログラムを担持する記録媒体等がある。
【0081】
また、インターネットを含む通信ネットワークを接続可能なシステム構成であれば、通信ネットワークからプログラムをダウンロードするように流動的にプログラムを担持する記録媒体であることが好ましい。
【0082】
さらに、このように通信ネットワークからプログラムをダウンロードする場合には、そのダウンロード用のプログラムは予め本体装置に格納しておくか、あるいは別な記録媒体からインストールされるものであることが好ましい。
【0083】
なお、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明の地震災害軽減装置によれば、リアルタイム地震情報を受信してから防災アクションを決定するまでの処理が、地震災害軽減装置に設けられた各手段により自動的に実行されるので、地震災害に対して迅速な防災アクションを実行することができる。それゆえ、地震による揺れが工場,ビル,マンション等の防災対象サイトに到達する前に防災アクションを実行することができ、地震災害を軽減することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0085】
【図1】本発明の一実施形態に係るセンタ側防災装置を含む地震災害軽減システムの構成を示すブロック図である。
【図2】図1のセンタ側防災装置が用いるアクションテーブルの構成を示す図である。
【図3】図1の地震災害軽減システムにより各サイトにおいて防災アクションが実行されるまでの手順を示すフローチャートである。
【図4】本発明の一実施形態に係るサイト側防災装置を含む地震災害軽減システムの構成を示すブロック図である。
【符号の説明】
【0086】
1 センタ側防災装置(地震災害軽減装置)
2 地震情報受信部(地震情報受信手段)
5 防災アクション送信部(防災アクション送信手段)
6 P波情報予測部(地震情報予測手段)
7 S波情報予測部(地震情報予測手段)
8 防災アクション決定部(防災アクション決定手段)
10 アクションテーブル
A’1 サイト側防災装置(地震災害軽減装置)
A3 防災アクション実行部(防災アクション実行手段)
B’1 サイト側防災装置(地震災害軽減装置)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リアルタイムで配信される地震に関する情報であるリアルタイム地震情報を受信する地震情報受信手段と、
上記地震情報受信手段にて受信したリアルタイム地震情報に基づき、地震に関するパラメータを予測する地震情報予測手段と、
上記地震情報予測手段にて予測された地震に関するパラメータに基づき、地震災害を軽減する対象区域としてのサイトにおける、地震災害を軽減するための措置である防災アクションを決定する防災アクション決定手段とを備えていることを特徴とする地震災害軽減装置。
【請求項2】
上記地震情報予測手段が予測する地震に関するパラメータは、S波に関するパラメータであることを特徴とする請求項1に記載の地震災害軽減装置。
【請求項3】
上記防災アクション決定手段は、複数の上記サイトのそれぞれに対して実行すべき上記防災アクションの候補が関連付けられているアクションテーブルを用いて、防災アクションを決定することを特徴とする請求項1または2に記載の地震災害軽減装置。
【請求項4】
上記防災アクション決定手段により決定された防災アクションに関する情報である防災アクション情報を、複数の上記サイトのそれぞれに設置されるとともにそのサイトにおいて上記防災アクションを実行するサイト側防災装置に、ネットワーク経由で送信する防災アクション送信手段を備えていることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の地震災害軽減装置。
【請求項5】
上記防災アクション決定手段により決定された上記防災アクションを実行する防災アクション実行手段を備えていることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の地震災害軽減装置。
【請求項6】
リアルタイムで配信される地震に関する情報であるリアルタイム地震情報を、地震災害軽減装置の地震情報受信手段により受信する第1ステップと、
上記第1ステップにて受信したリアルタイム地震情報に基づき、地震に関するパラメータを、上記地震災害軽減装置の地震情報予測手段により予測する第2ステップと、
上記第2ステップにて予測された地震に関するパラメータに基づき、地震災害を軽減する対象区域としてのサイトにおける、地震災害を軽減するための措置である防災アクションを、上記地震災害軽減装置の防災アクション決定手段により決定する第3ステップとを備えていることを特徴とする地震災害軽減方法。
【請求項7】
請求項6に記載の地震災害軽減方法における各ステップをコンピュータに実行させるための地震災害軽減プログラム。
【請求項8】
請求項7に記載の地震災害軽減プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−208249(P2006−208249A)
【公開日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−22228(P2005−22228)
【出願日】平成17年1月28日(2005.1.28)
【出願人】(504136568)国立大学法人広島大学 (924)
【Fターム(参考)】