説明

垂直磁気ディスクの製造方法

【課題】高いSNRを確保しつつ信頼性を向上することが可能な垂直磁気ディスクの製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明にかかる垂直磁気ディスクの製造方法の構成は、基板上に、第1の圧力の雰囲気ガス下でRuまたはRu合金からなる第1下地層を成膜する第1下地層成膜工程と、第1の圧力より高い第2の圧力の雰囲気ガス下でRuまたはRu合金からなる第2下地層を成膜する第2下地層成膜工程と、第1の圧力より高く且つ第2の圧力よりも低い第3の圧力の雰囲気ガス下で、RuまたはRu合金を主成分とし酸化物を副成分とする第3下地層を成膜する第3下地層成膜工程と、第3下地層より上層に、柱状に成長したCoCrPt合金を主成分とする磁性粒子の周囲に酸化物を主成分とする非磁性物質が偏析して粒界部が形成されたグラニュラ磁性層を成膜するグラニュラ磁性層成膜工程と、を含むことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、垂直磁気記録方式のHDD(ハードディスクドライブ)などに搭載される垂直磁気ディスクの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年の情報処理の大容量化に伴い、各種の情報記録技術が開発されている。特に磁気記録技術を用いたHDDの面記録密度は年率50%程度の割合で増加し続けている。最近では、HDD等に用いられる2.5インチ径の磁気記録媒体にして、320GByte/プラッタを超える情報記録容量が求められるようになってきており、このような要請にこたえるためには500GBit/Inchを超える情報記録密度を実現することが求められる。
【0003】
垂直磁気ディスクの高記録密度化のために重要な要素としては、トラック幅の狭小化によるTPI(Tracks per Inch)の向上、及び、BPI(Bits per Inch)向上時のシグナルノイズ比(SNR:Signal to Noise Ratio)やオーバーライト特性(OW特性)などの電磁変換特性の確保、さらには、前記により記録ビットが小さくなった状態での熱揺らぎ耐性の確保、などが上げられる。中でも、高記録密度条件でのSNRの向上は重要である。
【0004】
近年主流になっているグラニュラ構造の磁性層(以下、グラニュラ磁性層と称する)は、柱状に成長したCoCrPt合金を主成分とする磁性粒子の周囲に酸化物を主成分とする非磁性物質が偏析して粒界部が形成されている。この構成では磁性粒子同士が分離されているためにノイズが低減され、高SNRに有効である。さらにSNRを高めるための重要な要素は、結晶粒子の微細化および粒径均一化(あわせて「粒径制御」ともいう。)、結晶粒子の孤立化および結晶配向性の向上である。Coはhcp構造(六方最密格子構造)を取り、c軸方向(結晶格子である六角柱の軸方向)が磁化容易軸となる。したがって、より多くの結晶のc軸をより垂直方向に配向させることにより、ノイズが低減し、またシグナルが強くなって、相乗効果的にSNRを向上させることができる。
【0005】
ところで、スパッタによって結晶の上に結晶を成膜するとき、エピタキシャル成長により膜厚が厚くなるほど結晶配向性は向上する傾向にある。そこでグラニュラ磁性層を初期成長段階から微細化および粒径均一化し、また結晶配向性を高めるために、従来からhcp構造の金属であるRuで下地層(中間層とも呼ばれている)を成膜し、その上にグラニュラ磁性層を成膜することが行われている。
【0006】
下地層に用いる材料としてはTi、V、Zr、Hfなどが知られているが、特許文献1に示されるように、現在ではRu(ルテニウム)が主流となっている。Ruはhcp構造をとり、Co(コバルト)を主成分とするグラニュラ磁性層の磁化容易軸の垂直配向性を効果的に向上させることができ、高いSNRが図られることが知られているからである。
【0007】
また下地層は、材質が同じであっても、成膜プロセスにおける雰囲気ガスの圧力によって膜の機能が変動することが知られている。例えば特許文献2には、垂直磁性層の下地膜として、高圧アルゴン雰囲気(6Pa〜10Pa程度)で成膜されたルテニウムを含む層と、低圧アルゴン雰囲気(1Pa前後)で成膜されたルテニウムを含む層を有する構成が提案されている。これにより、低圧Ru層は磁性層が高配向となる効果を奏し、また高圧Ru層は磁性層が微粒子となる効果を奏すると述べている。
【0008】
また特許文献3(特開2008−140460)では、Ruからなる下地層に酸素または酸化物を添加することにより、それらをRu間に偏析させてRuの粒子を孤立化させ、その上に成膜されるグラニュラ磁性層の磁性粒子の孤立化を促進する技術も提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平7−334832号公報
【特許文献2】特開2002−197630号公報
【特許文献3】特開2008−140460号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述した特許文献3では、高圧アルゴン雰囲気で成膜速度を低下させて高圧Ru層を成膜することにより、その皮膜に微細な空孔を形成して、結晶粒子の微細化および孤立化を図っている。しかし、微細な空孔が存在するということは、皮膜は粗な状態である。このため、高圧Ru層は皮膜強度が低く、磁気ヘッドとの接触による損傷や欠損が生じやすくなり、垂直磁気ディスクの信頼性の低下を招く一因となっていた。
【0011】
本発明は、このような課題に鑑み、高いSNRを確保しつつ信頼性を向上することが可能な垂直磁気ディスクの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために発明者が検討したところ、高圧Ru層の膜厚を薄くして、磁気ヘッドとの接触により生じる凹凸の高さを減少させれば信頼性の向上を図ることができると考えた。しかし、高圧Ru層を薄くすると、Ruの結晶粒子の微細化および孤立化が所望の程度にまで至らず、グラニュラ磁性層の磁性粒子に与える効果が低減してしまう。
【0013】
ここで、高圧Ru層の上に硬い金属層を成膜するということが考えられる。しかし、その手法であると、高圧Ru層の全面に金属層が成膜されて、せっかく形成した高圧Ru層の微細な空孔が埋められて分離性が低下してしまう。更に、上側のRu下地層を高圧で成膜する代わりに、酸化物を含有させてRu粒子の微細化および孤立化を担わせることも考えられる。しかし、単に低圧で成膜した下側のRu下地層の上に酸化物入りのRuを成膜しても、高圧で成膜した時ほどの微細化および孤立化の促進は図れない。
【0014】
そこでさらに検討したところ、高圧Ru層による分離性および孤立化の効果を維持し、且つ高圧Ru層よりも緻密で強度の高い皮膜を高圧Ru層上に形成できれば、高SNRと信頼性の両立を図ることが可能であると考えて発明完成に至った。
【0015】
すなわち本発明にかかる垂直磁気ディスクの製造方法の代表的な構成は、基板上に、第1の圧力の雰囲気ガス下でRuまたはRu合金からなる第1下地層を成膜する第1下地層成膜工程と、第1下地層上に、第1の圧力より高い第2の圧力の雰囲気ガス下でRuまたはRu合金からなる第2下地層を成膜する第2下地層成膜工程と、第2下地層上に、第1の圧力より高く且つ第2の圧力よりも低い第3の圧力の雰囲気ガス下で、RuまたはRu合金を主成分とし酸化物を副成分とする第3下地層を成膜する第3下地層成膜工程と、第3下地層より上層に、柱状に成長したCoCrPt合金を主成分とする磁性粒子の周囲に酸化物を主成分とする非磁性物質が偏析して粒界部が形成されたグラニュラ磁性層を成膜するグラニュラ磁性層成膜工程と、を含むことを特徴とする。
【0016】
上記構成によれば、第1下地層を成膜する際の第1の圧力を低圧とすると、第1の圧力より高い第2の圧力で成膜される第2下地層は、すなわち高圧で成膜される層である。したがって、高圧で成膜される第2下地層は、そのRu結晶粒子の微細化や孤立化が促進され、第2下地層の上に成膜された第3下地層のRu結晶粒子は、第2下地層のRu結晶粒子を継承して成長し、微細化および孤立化された状態となる。また第3下地層には酸化物が含まれているため、それらがRu結晶粒子の間に偏析し、微細化および孤立化がより促進される。このため、第3下地層は、高圧Ru層すなわち第2下地層によるグラニュラ磁性層の磁性粒子の微細化および孤立化の促進効果を維持することができる。
【0017】
そして、上記のようにして第3下地層においてもRu結晶粒子の微細化および孤立化が図られるため、第3下地層は、高圧で成膜させて微細化および孤立化を図る必要がない。故に、第3下地層は、第2下地層よりも低い圧力、すなわち中圧で成膜することができる。これにより、第3下地層は、第2下地層よりも空孔が少ない密な状態となる。更に、第3下地層が中圧で成膜されることにより、その表面の平坦さが増すためグラニュラ磁性層の磁性粒子がより好適に成長することができ、更なる結晶配向性の向上を図ることできる。したがって、第3下地層を成膜することにより、分離性および孤立化の効果を維持してSNRを向上しつつ、皮膜の強度を高めて信頼性を確保することが可能となる。
【0018】
上記の副成分の酸化物の含有量は、1mol%以上10mol%以下であるとよい。かかる範囲により、第3下地層のRu粒子の微細化および孤立化を好適に促進することが可能となる。なお、1mol%未満であると、Ru結晶粒子間に偏析する酸化物の量が少なすぎるため、第3下地層を中圧で成膜する際におけるRu結晶粒子の微細化および孤立化を十分に確保することができない。また、10mol%より多いと、量が多すぎるためRu結晶粒子間に析出できない酸化物が生じ、Ru結晶粒子の柱状成長を阻害してしまい、ひいてはグラニュラ磁性層の結晶配向性を低下させる可能性があるので好ましくない。
【0019】
上記の副成分の酸化物は、Si、Ti、Cr、Ru、Coの群から選択される元素の酸化物であるとよい。これらの元素のうち、Ruは、下地層の主成分であるため、下地層におけるRu結晶粒子の結晶配向性を乱すことがないという利点を有する。またCrとCoは、下地層の上に成膜されるグラニュラ磁性層の磁性粒子の主成分と同一の元素であり、SiとTiは、グラニュラ磁性層の粒界部の主成分と同一の元素である。したがって、これらの酸化物はグラニュラ磁性層に対する不純物とならないので、グラニュラ磁性層への悪影響が生じることがないという利点を有する。
【0020】
上記の第3下地層の膜厚は、0.5nm以上3nm以下であるとよい。膜厚が0.5nm未満だと、第2下地層を保護するには薄すぎるので、信頼性の向上を十分に図ることができない。また、上述したようにスパッタ成膜される膜はエピタキシャル成長により膜厚が厚くなるほど結晶配向性は向上する傾向にある。このため、膜厚が薄いと第3下地層のRu結晶粒子の柱状成長が不十分となり、その結晶配向性ひいてはグラニュラ磁性層の結晶配向性の低下を招いてしまう。一方、膜厚が3nmを超えると、第3下地層のRu結晶粒子の微細化が促進されすぎ、その結果、グラニュラ磁性層の結晶配向性を低下させてしまう。
【0021】
上記の第2下地層成膜工程では、RuまたはRu合金を主成分とし、酸化物を副成分として2mol%以下含有する第2下地層を成膜するとよい。これにより、第2下地層におけるRu結晶粒子の微細化および孤立化を更に促進し、第3下地層のRu結晶粒子ひいてはグラニュラ磁性層の磁性粒子のよりいっそうの微細化および孤立化を図ることができる。したがって、更なるSNRの向上が可能となる。なお、2mol%を超える量の酸化物を入れてしまうと、第2下地層の結晶配向性が低下するため好ましくない。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、高いSNRを確保しつつ信頼性を向上することが可能な垂直磁気ディスクの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本実施形態にかかる垂直磁気ディスクの構成を説明する図である。
【図2】各種の要素を変更して比較説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値などは、発明の理解を容易とするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0025】
(垂直磁気ディスクおよびその製造方法)
図1は、本実施形態にかかる垂直磁気ディスク100の構成を説明する図である。図1に示す垂直磁気ディスク100は、基板110、付着層120、軟磁性層130、前下地層140、下地層150(第1下地層152、第2下地層154および第3下地層156を含む)、グラニュラ磁性層160、分断層170、補助記録層180、保護層190、潤滑層200で構成されている。
【0026】
基板110は、例えばアモルファスのアルミノシリケートガラスをダイレクトプレスで円板状に成型したガラスディスクを用いることができる。なおガラスディスクの種類、サイズ、厚さ等は特に制限されない。ガラスディスクの材質としては、例えば、アルミノシリケートガラス、ソーダライムガラス、ソーダアルミノケイ酸ガラス、アルミノボロシリケートガラス、ボロシリケートガラス、石英ガラス、チェーンシリケートガラス、又は、結晶化ガラス等のガラスセラミックなどが挙げられる。このガラスディスクに研削、研磨、化学強化を順次施し、化学強化ガラスディスクからなる平滑な非磁性の基板110を得ることができる。
【0027】
基板110上に、DCマグネトロンスパッタリング法にて付着層120から補助記録層180まで順次成膜を行い、保護層190はCVD法により成膜することができる。この後、潤滑層200をディップコート法により形成することができる。以下、各層の構成について説明する。
【0028】
付着層120は基板110に接して形成され、この上に成膜される軟磁性層130と基板110との密着強度を高める機能を備えている。付着層120は、例えばCrTi系非晶質合金、CoW系非晶質合金、CrW系非晶質合金、CrTa系非晶質合金、CrNb系非晶質合金等のアモルファス(非晶質)の合金膜とすることが好ましい。付着層120の膜厚は、例えば2〜20nm程度とすることができる。付着層120は単層でも良いが、複数層を積層して形成してもよい。
【0029】
軟磁性層130は、垂直磁気記録方式において信号を記録する際、ヘッドからの書き込み磁界を収束することによって、磁気記録層への信号の書き易さと高密度化を助ける働きをする。軟磁性材料としては、CoTaZrなどのコバルト系合金の他、FeCoCrB、FeCoTaZr、FeCoNiTaZrなどのFeCo系合金や、NiFe系合金などの軟磁気特性を示す材料を用いることができる。また、軟磁性層130のほぼ中間にRuからなるスペーサ層を介在させることによって、AFC(Antiferro-magnetic exchange coupling:反強磁性交換結合)を備えるように構成することができる。こうすることで磁化の垂直成分を極めて少なくすることができるため、軟磁性層130から生じるノイズを低減することができる。スペーサ層を介在させた構成の場合、軟磁性層130の膜厚は、スペーサ層が0.3〜0.9nm程度、その上下の軟磁性材料の層をそれぞれ10〜50nm程度とすることができる。
【0030】
前下地層140は、この上方に形成される下地層150の結晶配向性を促進する機能と、粒径等の微細構造を制御する機能とを備える。前下地層140は、hcp構造であってもよいが、(111)面が基板110の主表面と平行となるよう配向した面心立方構造(fcc構造)であることが好ましい。前下地層140の材料としては、例えば、Ni、Cu、Pt、Pd、Ru、Co、Hfや、さらにこれらの金属を主成分として、V、Cr、Mo、W、Ta等を1つ以上添加させた合金とすることができる。具体的には、NiV、NiCr、NiTa、NiW、NiVCr、CuW、CuCr等を好適に選択することができる。前下地層140の膜厚は1〜20nm程度とすることができる。また前下地層140を複数層構造としてもよい。
【0031】
下地層150はhcp構造であって、この上方に形成されるグラニュラ磁性層160のhcp構造の磁性結晶粒子の結晶配向性を促進する機能と、粒径等の微細構造を制御する機能とを備え、グラニュラ構造のいわば土台となる層である。RuはCoと同じhcp構造をとり、また結晶の格子間隔がCoと近いため、下地層150にRuを含有させることにより、Coを主成分とする磁性粒を良好に配向させることができる。したがって、下地層150の結晶配向性が高いほど、グラニュラ磁性層160の結晶配向性を向上させることができる。また、下地層150の粒径を微細化することによって、グラニュラ磁性層160の粒径を微細化することができる。上述したように下地層150の材料としてはRuが好適であるが、さらにCr、Coなどの金属との合金(Ru合金)を用いたり、酸化物を添加したりすることもできる。
【0032】
本実施形態では、スパッタ時のガス圧を変更することにより下地層150を3層構造とする。具体的には、まず基板110の上層(本実施形態においては前下地層140上)に、第1の圧力の雰囲気ガス下でRuまたはRu合金からなる第1下地層152を成膜する(第1下地層成膜工程)。次に、第1下地層152上に、第1の圧力より高い第2の圧力の雰囲気ガス下でRuまたはRu合金からなる第2下地層154を成膜する(第2下地層成膜工程)。第1下地層152および第2下地層154の膜厚は、例えば5〜40nm程度とすることができる。そして、第2下地層154上に、第1の圧力より高く且つ第2の圧力よりも低い第3の圧力の雰囲気ガス下で、RuまたはRu合金を主成分とし酸化物を副成分とする第3下地層156を成膜する(第3下地層成膜工程)。
【0033】
上記の第1下地層成膜工程の第1の圧力を低圧とすると、第2下地層154は、第1の圧力より高い第2の圧力すなわち高圧で成膜されることとなる。このため、高圧で成膜される第2下地層154は、そのRu結晶粒子の微細化や孤立化が促進された層となる。そして、この第2下地層154の上に第3下地層156を成膜すると、第3下地層156のRu結晶粒子は、第2下地層154のRu結晶粒子を継承して成長し、微細化および孤立化された状態となる。
【0034】
また第3下地層156には酸化物が含まれているため、かかる酸化物がRu結晶粒子の間に偏析する。これにより、第3下地層156の微細化および孤立化がより促進される。したがって、第3下地層156は、第2下地層154によるグラニュラ磁性層160の磁性粒子の微細化および孤立化の促進効果を維持することができる。
【0035】
上述したように、第3下地層156に副成分を含有させることによりそのRu結晶粒子の微細化および孤立化が図られるため、第3下地層156は、高圧で成膜させて微細化および孤立化を図る必要がない。したがって、第3下地層156は、第2下地層154よりも低い圧力である中圧で成膜できるため、その皮膜は第2下地層154よりも空孔が少ない密な状態となる。これにより、皮膜の強度を高めて信頼性を確保することが可能となる。また第3下地層156を中圧で成膜することにより、その表面の平坦さが増すためグラニュラ磁性層160の磁性粒子がより好適に成長することができ、更なる結晶配向性の向上を図ることできる。故に、本実施形態の第3下地層156を設けることにより、信頼性を向上させながらも、下地層150ひいてはグラニュラ磁性層160の分離性および孤立化の効果を維持し、高いSNRを確保することが可能となる。
【0036】
第3下地層156に含有させる副成分の酸化物としては、Si、Ti、Cr、Ru、Coの群から選択される元素の酸化物を好適に用いることができる。これらの元素のうち、Ruは、下地層の主成分であるため、下地層150におけるRu結晶粒子の結晶配向性を乱すことがない。
【0037】
またCrとCoは、下地層の上に成膜されるグラニュラ磁性層160の磁性粒子の主成分と同一の元素であり、SiとTiは、グラニュラ磁性層160の粒界部の主成分と同一の元素である。したがって、これらの酸化物はグラニュラ磁性層160に対する不純物とならないので、グラニュラ磁性層160への悪影響が生じることがない。
【0038】
上記の副成分の酸化物の含有量は、1mol%以上10mol%以下であるとよい。1mol%未満であると、Ru結晶粒子間への酸化物の偏析が不足し、中圧成膜時における第3下地層156のRu結晶粒子の微細化および孤立化を十分に確保することができない。一方、10mol%より多いと、Ru結晶粒子間に析出できない酸化物が生じ、Ru結晶粒子の柱状成長を阻害してしまうため好ましくない。したがって、酸化物の含有量を上記範囲とすることにより、第3下地層156のRu粒子の微細化および孤立化を好適に促進することが可能となる。
【0039】
更に、第3下地層156の膜厚は、0.5nm以上3nm以下であるとよい。0.5nm未満だと、第2下地層154を保護するには薄すぎ、信頼性の向上を十分に図ることができない。また、スパッタ成膜される膜はエピタキシャル成長により膜厚が厚くなるほど結晶配向性は向上する傾向があるため、膜厚が薄いと第3下地層156のRu結晶粒子の柱状成長が不十分となり、かかる第3下地層156の結晶配向性ひいてはグラニュラ磁性層160の結晶配向性の低下を招いてしまう。一方、膜厚が3nmを超えると、第3下地層156のRu結晶粒子の微細化が促進されすぎ、グラニュラ磁性層160の結晶配向性を低下させてしまう。したがって、第3下地層156の膜厚は上記範囲が適切である。
【0040】
また、上述した副成分の酸化物を第2下地層154に含有させてもよい。すなわち、第2下地層成膜工程では、RuまたはRu合金を主成分とし、酸化物を副成分とする第2下地層154を成膜してもよい。これにより、第2下地層154におけるRu結晶粒子の微細化および孤立化を更に促進し、第3下地層156のRu結晶粒子ひいてはグラニュラ磁性層160の磁性粒子のよりいっそうの微細化および孤立化を図ることができ、更なるSNRの向上が可能となる。
【0041】
ただし、第2下地層154に副成分の酸化物を含有させる場合、その含有量は2mol%以下となるよう設定する。これは、2mol%よりも多い量の酸化物を入れてしまうと、第2下地層154の結晶配向性の低下を招いてしまうからである。
【0042】
グラニュラ磁性層160は、第3下地層156より上層に成膜される(グラニュラ磁性層成膜工程)。かかるグラニュラ磁性層160は、柱状に成長したCo−Pt系合金(本実施形態においてはCoCrPt合金)を主成分とする強磁性体の磁性粒子の周囲に、酸化物を主成分とする非磁性物質を偏析させて粒界を形成したグラニュラ構造を有している。例えば、CoCrPt系合金にSiOや、TiOなどを混合したターゲットを用いて成膜することにより、CoCrPt系合金からなる磁性粒子(グレイン)の周囲に非磁性物質であるSiOや、TiOが偏析して粒界を形成し、磁性粒子が柱状に成長したグラニュラ構造を形成することができる。
【0043】
なお、上記に示したグラニュラ磁性層160に用いた物質は一例であり、これに限定されるものではない。CoCrPt系合金としては、CoCrPtに、B、Ta、Cu、Ruなどを1種類以上添加してもよい。また、粒界を形成するための非磁性物質としては、例えば酸化珪素(SiO)、酸化チタン(TiO)、酸化クロム(Cr)、酸化ジルコン(ZrO)、酸化タンタル(Ta)、酸化コバルト(CoOまたはCo)、等の酸化物を例示できる。また、1種類の酸化物のみならず、2種類以上の酸化物を複合させて使用することも可能である。
【0044】
分断層170は、グラニュラ磁性層160と補助記録層180の間に設けられ、これらの層の間の交換結合の強さを調整する作用を持つ。これによりグラニュラ磁性層160と補助記録層180の間、およびグラニュラ磁性層160内の隣接する磁性粒子の間に働く磁気的な相互作用の強さを調節することができるため、HcやHnといった熱揺らぎ耐性に関係する静磁気的な値は維持しつつ、オーバーライト特性、SNR特性などの記録再生特性を向上させることができる。
【0045】
分断層170は、結晶配向性の継承を低下させないために、hcp結晶構造を持つRuやCoを主成分とする層であることが好ましい。Ru系材料としては、Ruの他に、Ruに他の金属元素や酸素または酸化物を添加したものが使用できる。また、Co系材料としては、CoCr合金などが使用できる。具体例としては、Ru、RuCr、RuCo、Ru−SiO、Ru−WO、Ru−TiO、CoCr、CoCr−SiO、CoCr−TiOなどが使用できる。なお分断層170には通常非磁性材料が用いられるが、弱い磁性を有していてもよい。また、良好な交換結合強度を得るために、分断層170の膜厚は、0.2〜1.0nmの範囲内であることが好ましい。
【0046】
また分断層170の構造に対する作用としては、上層の補助記録層180の結晶粒子の分離の促進である。例えば、上層が酸化物のように非磁性物質を含まない材料であっても、磁性結晶粒子の粒界を明瞭化させることができる。
【0047】
なお、本実施形態においては、グラニュラ磁性層160と補助記録層180との間に分断層170を設ける構成としたが、これに限定するものではない。したがって、分断層170を設けずに、補助記録層180をグラニュラ磁性層160の直上に成膜する構成としてもよい。
【0048】
補助記録層180は基板主表面の面内方向に磁気的にほぼ連続した磁性層である。補助記録層180は、グラニュラ磁性層160に対して磁気的相互作用(交換結合)を有するため、保磁力Hcや逆磁区核形成磁界Hn等の静磁気特性を調整することが可能であり、これにより熱揺らぎ耐性、OW特性、およびSNRの改善を図ることを目的としている。補助記録層180の材料としてはCoCrPt合金を用いることができ、さらに、B、Ta、Cu等の添加物を加えてもよい。具体的には、CoCrPt、CoCrPtB、CoCrPtTa、CoCrPtCu、CoCrPtCuBなどとすることができる。また、補助記録層180の膜厚は、例えば3〜10nmとすることができる。
【0049】
なお、「磁気的に連続している」とは、磁性が途切れずにつながっていることを意味している。「ほぼ連続している」とは、補助記録層180全体で観察すれば必ずしも単一の磁石ではなく、部分的に磁性が不連続となっていてもよいことを意味している。すなわち補助記録層180は、複数の磁性粒子の集合体にまたがって(かぶさるように)磁性が連続していればよい。この条件を満たす限り、補助記録層180において例えばCrが偏析した構造であっても良い。
【0050】
保護層190は、磁気ヘッドの衝撃から垂直磁気ディスク100を防護するための層である。保護層190は、カーボンを含む膜をCVD法により成膜して形成することができる。一般にCVD法によって成膜されたカーボンはスパッタ法によって成膜したものと比べて膜硬度が向上するので、磁気ヘッドからの衝撃に対してより有効に垂直磁気ディスク100を防護することができるため好適である。保護層190の膜厚は、例えば2〜6nmとすることができる。
【0051】
潤滑層200は、垂直磁気ディスク100の表面に磁気ヘッドが接触した際に、保護層190の損傷を防止するために形成される。例えば、PFPE(パーフロロポリエーテル)をディップコート法により塗布して成膜することができる。潤滑層200の膜厚は、例えば0.5〜2.0nmとすることができる。
【0052】
(実施例)
上記説明した製造方法を用いて製造した垂直磁気ディスク100の有効性を確かめるために、以下の実施例としてのサンプルを用いて説明する。図2は、各種の要素を変更して比較説明する図である。ここで、垂直磁気記録ディスク100の信頼性とはその耐久性のことであると換言することができる。したがって、図2に示す信頼性試験では、耐久性の評価試験である針による引っかき試験を採用し、引っかき試験における磨耗痕深さが0.5nm未満だったときを‘AA’、0.5nm以上1.0nm未満だったときを‘A’、1.0nm以上3.0nm未満だったときを‘B’、3.0nm以上だったときを‘C’として4段階にて評価した。
【0053】
実施例として、基板110上に、真空引きを行った成膜装置を用いて、DCマグネトロンスパッタリング法にてAr雰囲気中で、付着層120から補助記録層132まで順次成膜を行った。なお、断らない限り成膜時のArガス圧は0.6Paである。付着層120はCr−50Tiを10nm成膜した。軟磁性層130は、0.7nmのRu層を挟んで、92(40Fe−60Co)−3Ta−5Zrをそれぞれ20nm成膜した。前下地層140はNi−5Wを8nm成膜した。第1下地層152は0.6Pa(第1の圧力:低圧)でRuを10nm成膜した。第2下地層154は、第1下地層152上に6.0Pa(第2の圧力:高圧)でRuを8nm成膜することを基本構成として、後述のように成膜圧力を変化させて比較した。第3下地層156は、第2下地層154上に4.0Pa(第2の圧力:中圧)でRuまたはRu合金を主成分としSiの酸化物であるSiO2を副成分とする膜を2nm成膜することを基本構成として、後述のように成膜圧力や組成、膜厚を変化させて比較した。グラニュラ磁性層160は、3Paで90(70Co−10Cr−20Pt)−10(Cr)を2nm成膜した上に、さらに3Paで90(72Co−10Cr−18Pt)−5(SiO)−5(TiO)を12nm成膜した。分断層170はRuを0.3nm成膜した。補助記録層180は62Co−18Cr−15Pt−5Bを6nm成膜した。保護層190はCVD法によりCを用いて4.0nm成膜し、表層を窒化処理した。潤滑層200はディップコート法によりPFPEを用いて1nm形成した。
【0054】
なお、図3中、上記の第1下地層152および第2下地層156の基本構成における第1下地層152を成膜する際の第1の圧力(0.6Pa)を低圧とし、第2下地層154を成膜する際の第2の圧力(6.0Pa)を高圧と定義する。したがって、かかる第1の圧力よりも高く且つ第3の圧力のよりも低い範囲が中圧と定義される。
【0055】
図2に示すサンプル1−1〜サンプル1−4では、第2下地層154の成膜圧力を、3Pa、6Pa、9Pa、12Paとそれぞれ変化させている。各サンプルのSNRおよび信頼性試験の結果を参照すると、まずサンプル1−1のように成膜圧力が3Pa、すなわち高圧より低い中圧であると、信頼性は極めて優れているものの高いSNRが得られないことがわかる。これは、第2下地層154を中圧で成膜すると、高圧成膜時よりも皮膜が密な状態になるため、信頼性の向上が図れる反面、そのRu結晶粒子の微細化や孤立化の促進が不足してSNRの向上が図れなかったものと考えられる。
【0056】
そして、成膜圧力を高めていくと、6Pa〜9Pa(サンプル1−2〜サンプル1−3)においてSNRがピークを示し且つ良好な信頼性を得られる。その後、12Pa(サンプル1−4)に達するとSNRは低圧成膜時(サンプル1−1)よりは高いものの信頼性が著しく低下する。これは、成膜圧力が高すぎたため、第2下地層154のRu結晶粒子の微細化が促進されすぎて結晶配向性ひいてはSNRが低下し、第2下地層154が粗な状態になりすぎて信頼性の低下を招いたと考えられる。これらのことから、第2下地層154の成膜圧力は高圧にすることが適切であり、その範囲は6Pa〜9Paが好ましいことがわかる。
【0057】
一方、サンプル1−5〜サンプル1−7では、第3下地層156の成膜圧力を、1Pa、3Pa、8Paとそれぞれ変化させている。サンプル1−5〜サンプル1−7、および第3下地層156を6Paで成膜しそれ以外の条件はこれらのサンプルと同様のサンプル1−2のSNRを参照すると、まずサンプル1−5のように、第1下地層152の成膜圧力に近い1Paのような低圧で第3下地層156を成膜しても、極めて高い信頼性が得られるものの高SNRが得られない。これは、低圧成膜により第3下地層156が極めて密な状態となり、皮膜強度の向上により信頼性が高まるものの、Ru結晶粒子の微細化および孤立化が不足してSNRの向上が図れなかったものと考えられる。
【0058】
そこで、成膜圧力を高めていくと、3Pa〜4Pa(サンプル1−6、サンプル1−2)においてSNRがピークを示し且つ信頼性においても良好な結果が得られる。そして、圧力を更に高めて、第2下地層154の成膜圧力に近い8Paのような高圧(サンプル1−7)に達するとSNRが下降し、信頼性も低下する。これは、第3下地層156においても第2下地層154と同様に皮膜が粗な状態になってしまったため第3下地層156による信頼性向上の効果が得られなかったものと考えられる。したがって、第3下地層156の成膜圧力は中圧が適切であり、その範囲は3Pa〜4Paが好ましいことがわかる。
【0059】
サンプル2−1〜サンプル2−6では、第3下地層156における副成分である酸化物(SiO2)の組成を変化させている(第3下地層156に含まれる酸化物の量を変化させている)。なおサンプル2−3はサンプル1−2と構成が同じであるが、説明の便宜上再掲して説明する。
【0060】
サンプル2−1のように第3下地層156がRuのみの場合に比べて、サンプル2−2のようにSiO2を1mol%含有させるとSNRは飛躍的に向上する。これは、第3下地層156に含有させたSiO2(酸化物)がRu結晶粒子の間に偏析し、その微細化および孤立化が促進されたためと考えられる。
【0061】
そして、サンプル2−3〜サンプル2−6のようにSiO2の量を増加させると、SNRは更に向上してサンプル2−3においてピークを示し、サンプル2−4〜サンプル2−5のようにSiO2の量が5〜10mol%になるとSNRが徐々に下降し、サンプル2−6のように12mol%に達するとSNRが著しく低下して高SNRが得られなくなる。これは、サンプル2−6では、SiO2の量が多すぎるためRu結晶粒子間に析出できないSiO2がRu結晶粒子の柱状成長を阻害したため、結晶配向性を低下させたためと考えられる。これらの結果から、第3下地層156に酸化物を含有させることによりSNRの向上を図れることがわかり、酸化物の含有量は、1mol%以上10mol%以下の範囲が好ましいことが理解できる。
【0062】
サンプル3−1〜サンプル3−6では、第3下地層156の膜厚を、0nm、0.5nm、1nm、2nm、3nm、5nmと変化させている。なおサンプル3−4はサンプル1−2と組成が同じであるが、説明の便宜上再掲して説明する。
【0063】
膜厚が0nmのとき、すなわち第3下地層156を形成しないサンプル3−1と、膜厚0.5nmの第3下地層156を形成したサンプル3−2を比較すると、第3下地層156を設けることによりSNRが向上することがわかる。そして、サンプル3−3〜サンプル3−4のように膜厚を更に増大させると、サンプル3−4の膜厚2nmにおいてSNRがピークを示し、信頼性においても高い評価を得ることができる。
【0064】
更に膜厚を増大させ、サンプル3−5のように膜厚が3nmに達すると、SNRおよび信頼性ともに若干の低下が見られ始める。その後、サンプル3−6のように膜厚が5nmに達するとSNRが著しく下降する。これは、膜厚が5nmに達すると(3nmを超えると)、第3下地層のRu結晶粒子の微細化が促進されすぎて、第3下地層156ひいてはグラニュラ磁性層160の結晶配向性を低下させてしまうためであると考えられる。このような結果から、第3下地層156の膜厚は0.5以上3nm以下が適切であることが理解できる。
【0065】
サンプル4−1〜サンプル4−5では、第3下地層156に含有させる酸化物の種類を変化させている。詳細には、酸化物として、サンプル4−1ではTiO2を含有させ、サンプル4−2ではCr2O3を含有させ、サンプル4−3ではSiO2を含有させ、サンプル4−4ではRuO2を含有させ、サンプル4−5ではCo3O4を含有させている。また、サンプル4−6ではWO3を含有させ、サンプル4−7ではMgOを含有させている。なお、サンプル4−3はサンプル1−2と組成が同じであるが、説明の便宜上再掲して説明する。
【0066】
サンプル4−1〜サンプル4−5に含有させた酸化物は第3下地層156の構成材料であるRuの酸化物、またはグラニュラ磁性層160の構成材料の酸化物であり、これらのサンプルでは、いずれも高SNRが得られている。一方、サンプル4−6およびサンプル4−7のように、第3下地層156やグラニュラ磁性層160の構成材料とは異なる材料の酸化物を含有させた場合、ある程度高めのSNRが得られるものの、サンプル4−1〜サンプル4−5のSNRには及ばない。これらのことから、サンプル4−1〜サンプル4−5のように第3下地層156およびグラニュラ磁性層160の構成材料の酸化物を用いることにより第3下地層156におけるRu結晶粒子の結晶配向性や、グラニュラ磁性層160における磁性粒子の結晶配向性の乱れを防いで極めて高いSNRが得られることが理解できる。
【0067】
サンプル5−1〜サンプル5−5では、第2下地層154に含有させる酸化物としてSiO2を用い、その量を0mol%から3.0mol%まで変化させている。なお、サンプル5−1はサンプル1−2と組成が同じであるが、説明の便宜上再掲して説明する。
【0068】
SiO2を含有させていないサンプル5−1と、SiO2を0.5mol%含有させたサンプル5−2を比較すると、SiO2を含有させることによりSNRの向上が図れていることがわかる。またサンプル5−3およびサンプル5−4のようにSiO2の含有量を増加させても高SNRが得られることがわかる。しかし、サンプル5−5のようにSiO2の含有量が3.0mol%に達すると、却ってSNRの低下を招いている。これは、酸化物の量が多くなりすぎたことにより第2下地層154の結晶配向性の低下を招いたものと考えられる。したがって、第2下地層154に含有させる酸化物の量は2mol%以下が好適であることが理解できる。
【0069】
上記説明したように、本実施形態にかかる垂直磁気ディスク100の製造方法によれば、低圧で成膜した第1下地層152の上に、高圧で成膜した第2下地層154を成膜し、更に、第2下地層154上に、酸化物を副成分として含有した第3下地層156を中圧で成膜することにより、高いSNRを確保しつつ信頼性を向上することが可能な垂直磁気ディスク100を製造することができる。そして、上述したように酸化物の量や第3下地層156の膜厚を最適化することにより、SNRと信頼性のバランスが最も優れた垂直磁気ディスクを得ることが可能となる。
【0070】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明は、垂直磁気記録方式のHDDなどに搭載される垂直磁気ディスクの製造方法として利用することができる。
【符号の説明】
【0072】
100…垂直磁気ディスク、110…基板、120…付着層、130…軟磁性層、140…前下地層、150…下地層、152…第1下地層、154…第2下地層、156…第3下地層、160…グラニュラ磁性層、170…分断層、180…補助記録層、190…保護層、200…潤滑層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に、第1の圧力の雰囲気ガス下でRuまたはRu合金からなる第1下地層を成膜する第1下地層成膜工程と、
前記第1下地層上に、前記第1の圧力より高い第2の圧力の雰囲気ガス下でRuまたはRu合金からなる第2下地層を成膜する第2下地層成膜工程と、
前記第2下地層上に、前記第1の圧力より高く且つ前記第2の圧力よりも低い第3の圧力の雰囲気ガス下で、RuまたはRu合金を主成分とし酸化物を副成分とする第3下地層を成膜する第3下地層成膜工程と、
前記第3下地層より上層に、柱状に成長したCoCrPt合金を主成分とする磁性粒子の周囲に酸化物を主成分とする非磁性物質が偏析して粒界部が形成されたグラニュラ磁性層を成膜するグラニュラ磁性層成膜工程と、
を含むことを特徴とする垂直磁気ディスクの製造方法。
【請求項2】
前記副成分の酸化物の含有量は、1mol%以上10mol%以下であることを特徴とする請求項1に記載の垂直磁気ディスクの製造方法。
【請求項3】
前記副成分の酸化物は、Si、Ti、Cr、Ru、Coの群から選択される元素の酸化物であることを特徴とする請求項1に記載の垂直磁気ディスクの製造方法。
【請求項4】
前記第3下地層の膜厚は、0.5nm以上3nm以下であることを特徴とする請求項1に記載の垂直磁気ディスクの製造方法。
【請求項5】
前記第2下地層成膜工程では、前記RuまたはRu合金を主成分とし、前記酸化物を副成分として2mol%以下含有する第2下地層を成膜することを特徴とする請求項1に記載の垂直磁気ディスクの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−248967(P2011−248967A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−122588(P2010−122588)
【出願日】平成22年5月28日(2010.5.28)
【出願人】(510210911)ダブリュディ・メディア・シンガポール・プライベートリミテッド (53)
【Fターム(参考)】