説明

垂直磁気記録媒体

【課題】垂直磁気記録媒体を提供する。
【解決手段】基板と、基板上に順次に形成された下部軟磁性層及び上部軟磁性層を備え、上部軟磁性層の異方性磁界が下部軟磁性層の異方性磁界より高く形成された複数の軟磁性層と、下部軟磁性層と上部軟磁性層との間に介在されて、下部及び上部軟磁性層の磁気的相互作用を防止する隔離層と、上部軟磁性層上に形成される底層と、底層上に形成されるものであって、複数の強磁性層を有し、底層側に位置した下部の強磁性層から上部の強磁性層へ行くほど、磁気異方性エネルギーが次第に低くなるように、それぞれの強磁性層が異なる磁気異方性エネルギーを有する記録層と、を備えることを特徴とする垂直磁気記録媒体である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、垂直磁気記録媒体に係り、特にさらに高密度で情報を記録して再生できる垂直磁気記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
最近、情報量の急増により、さらに高密度でデータを記録/再生できる情報記憶装置が要請されている。特に、記録媒体を利用する磁気記録装置は、大容量であり、かつ高速アクセスが可能であるという特性により、コンピュータだけでなく、各種のデジタル機器の情報記憶装置として注目されている。
【0003】
かかる磁気記録装置の磁気記録は、記録方式によって、水平磁気記録方式と垂直磁気記録方式とに大別される。水平磁気記録方式は、磁性層の磁化方向が磁性層の表面に平行に整列されることを利用して情報を記録する方式であり、垂直磁気記録方式は、磁性層の磁化方向が磁性層の表面に垂直方向に整列されることを利用して情報を記録する方式である。記録密度の側面から見ると、垂直磁気記録方式は、水平磁気記録方式よりはるかに有利である。
【0004】
垂直磁気記録媒体の構造は、記録磁場の磁化経路を生成する軟磁性層と、記録磁場によりアップ/ダウンの垂直方向に磁化されて記録される記録層と、記録層の結晶性及び配向性を制御する底層との三層構造で形成される。
【0005】
垂直磁気記録方式で高密度記録を達成するためには、記録されたデータの安定性の確保のための記録層の高い保磁力及び垂直磁気異方性エネルギーKu、小さいグレインサイズ及びグレイン間の小さな交換結合力による小さな磁区サイズなどの特徴を有する垂直磁気記録媒体が要求される。前記交換結合力は、記録層内でグレイン間の磁気的相互作用の程度を表す定数であって、交換結合力が小さい値であるほど、グレイン間の分離が容易になる。かかる高密度の垂直磁気記録媒体を製造するためには、記録層の磁気異方性エネルギーKu及び垂直方向への結晶配向性を極大化できる技術が必要である。
【0006】
また、高い磁気異方性エネルギーKuを有する物質を使用して記録層を形成すれば、記録層の保磁力が増加して、記録時に強い強度の記録磁場が要求される。垂直磁気記録媒体の側面から見ると、かかる強い強度の記録磁場を十分に引き付けて磁化経路を形成できる軟磁性層が必要であり、このためには、透磁率の高い軟磁性層の開発が要求されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、高密度の記録を達成するために、記録層の磁気異方性エネルギーKuを高め、かつ記録層の微細に形成したグレインを互いに明確に分離し、結晶配向性を向上させ、磁気異方性エネルギーKuの高い記録層の記録特性を改善させるために、軟磁性層の構造を改善した垂直磁気記録媒体を提供するところにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するために、本発明による垂直磁気記録媒体は、基板と、前記基板上に順次に形成された下部軟磁性層及び上部軟磁性層を備え、前記上部軟磁性層の異方性磁界が前記下部軟磁性層の異方性磁界より高く形成された複数の軟磁性層と、前記下部軟磁性層と上部軟磁性層との間に介在されて、前記下部及び上部軟磁性層の磁気的相互作用を防止する隔離層と、前記上部軟磁性層上に形成される底層と、前記底層上に形成されるものであって、複数の強磁性層を有し、前記底層側に位置した下部の強磁性層から上部の強磁性層へ行くほど、磁気異方性エネルギーが次第に低くなるように、それぞれの強磁性層が異なる磁気異方性エネルギーを有する記録層と、を備える。
【0009】
前記複数の強磁性層は、下部の強磁性層から上部の強磁性層へ行くほど、Pt組成が小さくなる。
【0010】
前記複数の強磁性層は、前記底層から順次に積層される第1及び第2強磁性層を備え、前記第1強磁性層は、基板と平行な格子面内の原子間間隔が、前記第2強磁性層の基板と平行な格子面内の原子間間隔より広い。
【0011】
前記第1強磁性層は、FePt合金、FePt合金酸化物、CoPt合金及びCoPt合金酸化物のうちいずれか一つで形成され、前記第2強磁性層は、CoCrPt合金酸化物で形成される。
【0012】
前記底層は、酸素が含有されたRuで形成される。
【0013】
前記底層は、Ruで形成された第1底層と、前記第1底層上にRu及び酸化物で形成された第2底層と、を備え、前記第2底層は、Ruがグレインをなし、酸化物がグレインの間に介在される。
【0014】
前記隔離層は、非磁性金属または非金属物質で形成される。
【0015】
前記上部軟磁性層は、複数の単位軟磁性層と、前記複数の単位軟磁性層の間に介在されてRKKY(Ruderman−Kittel−Kasuya−Yosida)結合構造を形成する少なくとも一つの非磁性スペーサと、を有する。
【0016】
前記上部軟磁性層の下部には、前記上部軟磁性層の高い異方性磁界を誘導する磁区制御層が設けられる。
【0017】
前記磁区制御層は、反強磁性体または強磁性体で形成される。
【0018】
前記上部軟磁性層は、下部軟磁性層に比べて薄い。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の一実施形態による垂直磁気記録媒体の概略的な構造を示す断面図である。
【図2】図1の垂直磁気記録媒体の軟磁性層で記録/再生特性の向上を説明する図面である。
【図3】図1の垂直磁気記録媒体の軟磁性層で記録/再生特性の向上を説明する図面である。
【図4】図1の垂直磁気記録媒体の軟磁性層の変形例を示す図面である。
【図5】図1の垂直磁気記録媒体の軟磁性層の変形例を示す図面である。
【図6】図1の垂直磁気記録媒体の軟磁性層の変形例を示す図面である。
【図7】図1の垂直磁気記録媒体の底層及び記録層の構造を示す図面である。
【図8】図1の垂直磁気記録媒体の底層のTEMイメージである。
【図9】図1の垂直磁気記録媒体の記録層のTEMイメージである。
【図10】図1の垂直磁気記録媒体の記録層で積層順序による特性を示すグラフである。
【図11】図1の垂直磁気記録媒体の記録層で積層順序による特性を示すグラフである。
【図12A】図1の垂直磁気記録媒体の記録層で積層順序によるXRDグラフである。
【図12B】図1の垂直磁気記録媒体の記録層で積層順序によるXRDグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、添付された図面を参照しつつ、本発明の望ましい実施形態を詳細に説明する。しかし、後述する実施形態は、本発明の範囲を限定するものではなく、本発明を当業者に十分に説明するために提供されるものである。以下の図面で、同じ参照符号は同じ構成要素を指し、図面上で、各構成要素の大きさは、説明の明瞭性及び便宜上誇張されうる。
【0021】
図1は、本発明の一実施形態による垂直磁気記録媒体の概略的な構造を示す断面図である。
【0022】
図1に示すように、前記垂直磁気記録媒体100は、下部から基板110、軟磁性層130、底層150、記録層160、保護層170及び潤滑層190が順次に積層されて形成される。
【0023】
前記基板110は、主にガラスやAlMg合金で形成され、円盤状に製造される。
【0024】
前記保護層170は、前記記録層160を外部から保護するためのものであって、DLC(Diamond−like Carbon)で形成され、前記保護層170上には、磁気ヘッドとの衝突及び摺動によるヘッド及び保護層の磨耗を減少させるために、潤滑層190を形成できる。潤滑層190は、テトラオール潤滑剤などで形成される。
【0025】
前記基板110と軟磁性層130との間及び軟磁性層130と底層150との間には、バッファ層120,140が介在される。バッファ層120,140は、例えば、数nmの厚さにTiまたはTaを積層して形成される。かかるバッファ層120,140は、基板110と軟磁性層130との間または軟磁性層130と記録層160との間の磁気的相互作用を抑制する役割を行う。
【0026】
前記軟磁性層130は、磁気記録時に記録ヘッドから発生する記録フィールドの磁路を形成して記録層に情報を記録させる層である。本実施形態の軟磁性層130は、下部軟磁性層131と上部軟磁性層135との二重層構造で形成される。ここで、基板110側を下部と、保護層170/潤滑層190側を上部と称する。
【0027】
上部軟磁性層135の異方性磁界Hkが前記下部軟磁性層131の異方性磁界Hkより高く形成され、下部軟磁性層131と上部軟磁性層135とは、磁気的に分離されている。下部及び上部軟磁性層131,135は、垂直磁気記録媒体100のクロストラック方向に磁化容易軸が形成されるように磁化されて製造される。
【0028】
下部及び上部軟磁性層131,135の磁気的隔離のために、下部軟磁性層131と上部軟磁性層135との間には、隔離層133が介在される。前記隔離層133は、例えばTa,Tiのような非磁性金属物質または非磁性非金属物質で形成される。かかる隔離層133は、数nm以上の厚さに形成して、前記下部及び上部軟磁性層131,135の磁気的相互作用を防止する。
【0029】
また、下部軟磁性層131は、記録ヘッドから発生する記録フィールドを効果的に引き付け、記録フィールドの磁路となるように、上部軟磁性層135の厚さよりさらに厚く形成できる。下部軟磁性層131は、例えば10nmないし100nmの厚さに形成でき、上部軟磁性層135は、例えば1nmないし20nmの厚さに形成できる。
【0030】
前記下部軟磁性層131は、NiFe合金、CoZrNb、CoZrTa、FeTa合金、FeCo合金からなるグループから選択されたいずれか一つで形成され、前記上部軟磁性層135は、CoZrNb、CoZrTa、FeTa合金、FeCo合金からなるグループから選択されたいずれか一つで形成される。
【0031】
前記上部軟磁性層135の異方性磁界Hkを下部軟磁性層131の異方性磁界Hkより高くするために、本実施形態の上部軟磁性層135は、RKKY結合構造を有する。すなわち、上部軟磁性層135は、スペーサ137を介して第1及び第2単位軟磁性膜136,138がサンドウィッチ構造で形成される。ここで、RKKY結合構造とは、非磁性金属層を介して上下磁性体が反強磁性的に結合された構造を意味する。前記スペーサ137は、上下に位置した第1及び第2単位軟磁性膜136,138が反強磁性的に結合されるために、Ruなどの非磁性物質で2nm以下の厚さ、例えば0.8nmの厚さに形成される。ノイズの原因である磁壁の形成を抑制させるためには、上部軟磁性層135の異方性磁界が高いことが望ましく、かかる高い異方性磁界は、第1及び第2単位軟磁性膜136,138の膜厚さを調節することによって得られる。例えば、第1及び第2単位軟磁性膜136,138は、約5nmないしそれ以下の厚さに形成できる。
【0032】
このように上部軟磁性層135がRKKY結合構造を有することによって、下部及び上部軟磁性層131,135を同じ物質で形成しつつも、上部軟磁性層135の異方性磁界Hkを下部軟磁性層131の異方性磁界Hkより高く形成できる。
【0033】
本実施形態の軟磁性層130は、上部軟磁性層135の異方性磁界Hkを前記下部軟磁性層131の異方性磁界Hkより高く形成し、下部軟磁性層131と上部軟磁性層135とを磁気的に分離させることによって、記録時に下部軟磁性層131により記録ヘッドから発生する記録フィールドを効果的に引き付け、再生時に上部軟磁性層135によりストレイフィールドを効果的に抑制させることができる。
【0034】
かかる本実施形態の軟磁性層130の機能は、図2及び図3を通じて説明する。説明の便宜上、図2及び図3において、垂直磁気記録媒体は、下部及び上部軟磁性層131,135、隔離層133及び記録層160のみを示した。
【0035】
図2は、下部軟磁性層131の異方性磁界Hkを低くすることによって、磁気記録時に記録ヘッドから発生する記録フィールドを効果的に引き付けて、記録フィールドが記録層160に集束されることを表す。すなわち、記録時、下部軟磁性層131は、磁化困難軸方向に磁化されて記録フィールドがヘッドの記録ポールから出て記録層160と軟磁性層130とを通過してヘッドのリターンポールに入る磁路を形成するところ、下部軟磁性層131の異方性磁界Hkを低くすることによって、高い透磁率を確保して、記録層160を経由する記録磁界の磁束密度を高く維持させる。かかる高い透磁率の下部軟磁性層131は、記録磁場の強度をさらに高めることができるので、後述するように、記録層160の磁気異方性エネルギーHkを高める時に悪化する上書き特性を改善させる。
【0036】
図3は、上部軟磁性層135の異方性磁界Hkを高くすることによって、再生時に下部軟磁性層131側で発生するストレイフィールドを上部軟磁性層135に拡散して、ストレイフィールドが上部軟磁性層135の上部に位置する記録層160にノイズとして作用することを抑制できることを表す。すなわち、下部軟磁性層131は、高い透磁率を確保するために低い異方性磁界Hkを有するところ、かかる低い異方性磁界Hkは、相対的に不安定な磁気ドメイン構造を有して下部軟磁性層131でストレイフィールドが発生しうる。さらに、再生時に下部軟磁性層131で発生したストレイフィールドは、上部軟磁性層135の磁化困難軸方向にストレイフィールドの磁路を形成することによって、ヘッドの再生センサーに感知されることが防止される。
【0037】
本実施形態の軟磁性層130は、上部軟磁性層135の異方性磁界Hkを下部軟磁性層131の異方性磁界Hkより高く形成し、下部軟磁性層131と上部軟磁性層135とを磁気的に分離させた構造を有する。かかる軟磁性層の構造として、本実施形態では、上部軟磁性層がRKKY結合構造を例として説明しているが、これに限定されるものではなく、多様な構造が提示されるであろう。軟磁性層の変形例を示す図4ないし図6を参照して、軟磁性層の変形例を説明する。
【0038】
図4は、上部軟磁性層が高い異方性磁界を有するために、別途の磁区制御層を有する構造を示している。図4に示すように、本変形例の軟磁性層230は、下部軟磁性層131と上部軟磁性層235との間に隔離層133と磁区制御層234とが介在される。下部軟磁性層131と隔離層133とは、前述した実施形態の同一参照符号の部材とその構成が同一であるので、詳細な説明は省略する。
【0039】
前記磁区制御層234は、上部軟磁性層235の磁区を制御する層であって、例えばIrMnのような反磁性物質または強磁性物質で形成される。すなわち、磁区制御層234は、上部軟磁性層235との反磁性結合または強磁性結合を通じて上部軟磁性層235が強い異方性磁界Hkを有するようにする。
【0040】
一方、磁区制御層234の結晶性及び配向性を安定的に確保するために、磁区制御層234と隔離層133との間には、下地層(図示せず)が別途に介在され、隔離層133自体がかかる下地層の機能を行うこともできる。
【0041】
図5は、上部軟磁性層が高い異方性磁界を有するために、上部軟磁性層を多重層で形成した場合を示している。図5に示すように、本変形例の軟磁性層330は、下部軟磁性層131、隔離層133及び上部軟磁性層335を備える。下部軟磁性層131と隔離層133とは、前述した実施形態の同一参照符号の部材とその構成が同一であるので、詳細な説明は省略する。
【0042】
本変形例では、上部軟磁性層335を多重層で形成することによって、強い異方性磁界Hkを有するようにする。このとき、上部軟磁性層335は、複数の単位軟磁性膜336と、それらの間に介在される複数の非磁性スペーサ337とで構成される。ここで、単位軟磁性膜336は、図1を参照して前述した第1及び第2単位軟磁性膜136,138と実質的に同一であり、非磁性スペーサ337は、図1を参照して前述したスペーサ137と実質的に同一である。非磁性スペーサ337を挟んだ軟磁性膜336は、強く磁気的に結合されて、透磁率をある程度高く維持した状態で磁壁の形成を抑制できるので、ノイズ除去効果を向上させる。
【0043】
図6は、図1の軟磁性層の構造で下部軟磁性層もRKKY結合構造を有する変形例を示している。図6に示すように、本変形例の軟磁性層430は、下部軟磁性層431、隔離層133及び上部軟磁性層135を備える。隔離層133と上部軟磁性層135とは、図1を参照して説明した実施形態の同一参照符号の部材とその構成が同一であるので、詳細な説明は省略する。
【0044】
本変形例の下部軟磁性層431は、スペーサ433を介して第3及び第4単位軟磁性膜432,434がサンドウィッチ構造で形成される。前記スペーサ433は、上下に位置した第3及び第4単位軟磁性膜432,434が反強磁性的に結合されるために、Ruなどの非磁性物質で2nm以下の厚さ、例えば0.8nmの厚さに形成される。前記下部軟磁性層431が、高い透磁率を確保するために、例えば、第1及び第2単位軟磁性膜136,138は、約10nmないしそれ以上の厚さに形成できる。このように非磁性のスペーサ433を挟んだ第3及び第4軟磁性膜432,434は、強く磁気的に結合されて、透磁率をある程度高く維持した状態で磁壁の形成を抑制できるので、ノイズ除去効果を向上させる。
【0045】
図7は、図1の底層150及び記録層160の構造をさらに詳細に示す。
【0046】
図1及び図7に示すように、前記底層150は、記録層160の結晶配向性及び磁気的特性を向上させる役割を行う層であって、Ruからなる第1底層151と、Ru及び酸化物からなる第2底層153とで形成される二重層構造である。前記第2底層153の厚さは、第1底層151の厚さより薄い。前記第1底層151は、記録層160の結晶配向性を改善し、前記第2底層153は、グレインサイズを小さく且つ均一にして記録層160のグレインサイズを調節する役割を行う。かかる第1及び第2底層151,153は、グラニュラー構造で形成される。特に、第2底層153は、Ruグレイン153aの間に酸化物成分で分離される境界153bが形成されている。かかる分離のために、前記第2底層153をなすRu酸化物層は、O/(Ar+O)=0.1%ないし5%範囲の酸素含有量条件を満足するスパッタ雰囲気ガスにおいて酸素反応性スパッタリング方式で形成する。
【0047】
例えば、第1底層151は、スパッタリング方法でRuターゲットを使用して常温で10mTorr以下の圧力で約10nmの厚さに形成できる。一方、前記第2底層153は、前記第1底層151上に反応性スパッタリング方法を利用してアルゴンガスと酸素ガスとを注入し、40mTorr圧力で約8nmの厚さに形成できる。第2底層153は、表面粗度を第1底層151より適正レベルに増加させ、グレインの間を分離させる。図8は、酸素含有量が1%であるスパッタ雰囲気ガスで形成された第2底層153のTEM(Transmission Electron Microscopy)イメージを表す。図8に示すように、第2底層(図7の153a)のグレインが微細に形成され、グレインエッジ(図7の153b)に酸素が含まれてグレイン153aとグレイン153aとの間が明確に分離されたことが分かる。この時のRuグレイン153aのサイズは、平均5.4nmである。
【0048】
本実施形態は、第1底層151がRuで形成された場合を説明しているが、これに限定されず、前記第1底層151もRu及び酸化物で形成されうる。さらに、本実施形態は、底層150が二重層構造を有する場合を例として説明しているが、これに限定されるものではない。ただし、記録層160のグレインサイズを小さく且つ均一にするために、少なくとも底層150の上部は、Ruを蒸着させるときに酸素を含有させることが望ましい。
【0049】
前記記録層160は、前記底層150上に第1強磁性層161、第2強磁性層163及びキャッピング層169が順次に積層された3層構造を有する。
【0050】
前記第1強磁性層161の磁気異方性エネルギーKuが前記第2強磁性層163の磁気異方性エネルギーKuより高く形成されている。本実施形態の前記第1強磁性層161は、磁気異方性エネルギーKuの高いCoPt合金酸化物で形成され、第1強磁性層161の磁気異方性エネルギーKuは、5×10erg/ccないし5×10erg/ccとなりうる。例えば、第1強磁性層161がCoPt−SiOまたはCoPt−TiOのようなCoPt酸化物で形成される場合、前記CoPt酸化物のPt含量は、10at%ないし50at%となりうる。一方、第2強磁性層163は、磁気異方性エネルギーKuの低いCoCrPt−SiOのようなCoCrPt酸化物で形成され、第2強磁性層163の磁気異方性エネルギーKuは、1×10erg/ccないし5×10erg/ccであり、Pt含量は、1at%ないし30at%となりうる。このとき、第1強磁性層161のPt含量は、第2強磁性層161のPt含量より多い。
【0051】
前記第1及び第2強磁性層161,163は、図9に示すように、結晶内のグレイン161a,163aが境界161b,163bにより互いに分離されたグラニュラー構造を有する。このとき、グレイン161a,163aは、Co合金からなり、グレインとグレインとの境界161b,163bは、酸化物からなる。
【0052】
前記第1及び第2強磁性層161,163の上部には、記録特性を改善するためのキャッピング層169が設けられる。キャッピング層169は、第1及び第2強磁性層161,163の磁化飽和磁界Hsを減少させて、第1及び第2強磁性層161,163の高い垂直磁気異方性エネルギーKuにもかかわらず、容易に磁化させて記録特性を改善させる。さらに、キャッピング層169は、第1及び第2強磁性層161,163を熱的に安定させる役割を行う。かかるキャッピング層169は、例えばCoCrPtBのように酸素のないCo合金で形成され、したがって、酸化物によりグレインの分離なしに連続薄膜形態で形成される。しかし、本発明は、キャッピング層169が連続薄膜形態で形成される場合に限定されるものではなく、キャッピング層169は、グラニュラー構造を有することもできる。
【0053】
かかる多層構造の記録層160は、前記Ru/Ru酸化物の二重構造の底層150上にスパッタリング方法で、例えばCoPt−TiO/CoCrPt−SiO/CoCrPtB構造で形成される。例えば、CoPt−TiO層は、第1強磁性層161であって、CoPt−TiOターゲットを使用して40mTorr以上の高い圧力でPtリッチな雰囲気で約10nmの厚さに形成される。CoCrPt−SiO層は、第2強磁性層163であって、CoCrPt−SiOターゲットを使用して常温でアルゴンガスと酸素ガスとを注入して反応性スパッタリング方法で形成できる。酸素ガスは、全体の注入ガスのうち0.1%ないし10%注入する。このとき、CoCrPt−SiOの第2強磁性層163は、下部に位置するCoPt−TiOの第1強磁性層161の表面粗度を緩和させるように、スパッタリング電力を高め、圧力を下げ20mTorrの圧力で約10nmの厚さに形成される。CoCrPtB層は、キャッピング層169であって、連続薄膜形態で10mTorrの圧力で約5nmの厚さに形成される。CoPt−TiOの第1強磁性層161は、CoPtでグレイン161aが形成され、TiOでグレイン161aを取り囲む境界161bが形成された構造を有する。CoCrPt−SiOの第2強磁性層163は、CoCrPtでグレイン163aが形成され、SiOでグレイン163aを取り囲む境界163bが形成された構造を有する。図9は、本実施形態によってCoPt−TiO/CoCrPt−SiO/CoCrPtB構造で形成された記録層のTEMイメージである。図2及び図9に示すように、記録層160のグレイン161a,163aサイズが平均5.7nmであり、グレイン161aとグレイン163aとの間が明確に分離されるということが分かる。これは、底層150でよく分離されたグレイン153aが記録層160の下部に影響を及ぼして記録層160のグラニュラー構造を向上させたものと解釈される。
【0054】
CoCrPt磁性体において、Pt含有量が増加すれば、磁気異方性エネルギーKuが増大することは周知である。CoCrPt磁性体からCr組成をなくし、Pt含有量を10at%ないし50at%、望ましくは、20at%ないし30at%にすれば、磁性体の垂直磁気異方性エネルギーKuを約5×10erg/ccまで増大させる。ただし、Cr組成をなくせば、グレインの分離が多少悪化するので、結晶配向性を向上させる底層150を酸素を含むRuで形成し、上部にCoPt酸化物からなる第1強磁性層161と、CoCrPt酸化物からなる第2強磁性層163とを順次に形成して、第1及び第2強磁性層161,163内のグレイン161a,163aの分離を容易にする。
【0055】
一方、下部に位置した第1強磁性層161から上部に位置した第2強磁性層163へ行くほど、表面粗度を低くしてヘッドのフライング条件を向上させる。このために、例えば、第1及び第2強磁性層161,163をスパッタで形成する場合、第1強磁性層161を蒸着させる時に比べて、第2強磁性層163を蒸着させる時にスパッタに加えられる電力を高め、ガス圧力を下げることによって、第2強磁性層163の表面粗度をさらに低下させることができる。
【0056】
図10及び図11は、Co合金酸化物層の積層順序による磁気的特性を表すグラフである。図10及び図11において、実線は、下部からCoPt−TiO/CoCrPt−SiO/CoCrPtBで記録層を形成した本実施形態の磁気的特性を表し、点線は、積層順序を変えて下部からCoCrPt−SiO/CoPt−TiO/CoCrPtBで記録層を形成した比較例の磁気的特性を表す。CoCrPt−SiO層及びCoPt−TiO層の総厚さは、16nmに固定させた。一方、CoCrPtB層は、キャッピング層に該当する。
【0057】
図10及び図11に示すように、CoCrPt−SiO層を下部に置く比較例の場合、CoPt−TiO層の厚さ増加効果がほとんどないということが分かる。一方、本実施形態のようにCoPt−TiO層を下部に置く場合、磁気異方性エネルギーKuの高いCoPt−TiO層の厚さを増大させれば、記録層160の核生成磁界Hnや保磁力Hcが大幅に増加するということが分かる。
【0058】
図12A及び図12Bは、Co合金酸化物層の積層順序による結晶性変化を表すX線回折(X−Ray Diffraction:XRD)グラフである。図12Aにおいて、実線は、下部からCoPt−TiO/CoCrPt−SiO/CoCrPtBで記録層を形成した本実施形態のX線回折特性を表し、点線は、下部からCoPt−TiO/CoCrPtBで記録層を形成した比較例のX線回折特性を表す。一方、図12Bは、他の比較例のグラフであって、実線は、積層順序を変えて下部からCoCrPt−SiO/CoPt−TiO/CoCrPtBで記録層を形成した場合のX線回折特性を表し、点線は、下部からCoCrPt−SiO/CoCrPtBで記録層を形成した場合のX線回折特性を表す。
【0059】
図12Aに示すように、CoPt−TiOを下部に置き、CoPt−TiO/CoCrPt−SiOの二重層で積層した場合、Co(002)面に相当するピークがCoPt−TiOの単一層で積層した場合のピークに近接した位置で形成されるということが分かる。一方、図12Bに示すように、CoCrPt−SiOを下部に置き、CoCrPt−SiO/CoPt−TiOの二重層で積層した場合のピークが、CoCrPt−SiOの単一層で積層した場合のピークに近接した位置で形成されるということが分かる。図12A及び図12Bは、磁気特性に多くの影響を及ぼす結晶性、すなわち結晶面の間隔変化が積層順序によって非常に敏感に変化することを表し、特にCoPt−TiO本来の結晶特性及び磁気的特性を得るためには、本実施形態の場合のようにCoPt−TiOを下部に置き、その上にCoCrPt−SiOを積層する必要があることを表している。すなわち、図12A及び図12Bに示すように、CoPt−TiOを下部に置き、CoCrPt−SiOを積層させることによって、結晶性の改善を通じた記録層全体の磁気異方性エネルギーKuを増大させることが分かるところ、これは、基板と平行な結晶面内の原子間距離がさらに広いCoPt−TiOを下部に置き、基板と水平な結晶面内の原子間距離がさらに狭いCoCrPt−SiOを積層させることによって、結晶性の改善を通じて記録層全体の磁気異方性エネルギーKuが増大すると理解できるであろう。さらに、本発明の記録層は、二層以上の複数の強磁性層を有する場合にも適用される。この場合、複数の強磁性層のうち、下部の強磁性層の磁気異方性エネルギーKuを上部の強磁性層の磁気異方性エネルギーKuより高くすることによって、記録層全体の磁気異方性エネルギーKuを増大させるところ、これは、基板と水平な結晶面内の原子間距離がさらに広い層に形成させることによって、結晶性の改善を通じた記録層全体の磁気異方性エネルギーKuが増大すると理解できるであろう。また、Pt組成の増加と共に、磁気異方性エネルギーKuが増大するところ、下部の強磁性層のPt組成を上部の強磁性層のPt組成よりさらに大きくすることによって、下部の強磁性層が上部の強磁性層より高い磁気異方性エネルギーKuを有することができる。
【0060】
これに基づいて本実施形態で提示しているhcp(hexagonally−close−packed)構造のCoPt−TiOを下部の強磁性層として利用した記録層だけでなく、基板面に平行な結晶面内の原子間間隔がさらに広いFePt合金、FePt合金酸化物、CoPt合金またはCoPt合金酸化物で下部の強磁性層を形成し、CoCrPt酸化物で上部の強磁性層を形成した場合にも大きな効果が得られるということが理解できるであろう。さらに、第1及び第2強磁性層161,163は、二重層である場合を例として説明しているが、三層以上の複数層で形成されてもよい。三層以上の複数層で強磁性層が形成される場合、複数の強磁性層は、底層150側に位置した下部層からキャッピング層169側に位置した上部層へ行くほど、磁気異方性エネルギーKuが次第に低くなるように形成される。
【0061】
かかる本発明の垂直磁気記録媒体及びその製造方法は、理解を助けるために図面に示した実施形態を参考にして説明されたが、これは、例示的なものに過ぎず、当業者ならば、これから多様な変形及び均等な他の実施形態が可能であるという点を理解できるであろう。したがって、本発明の真の技術的保護範囲は、特許請求の範囲により決まらねばならない。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明は、情報記憶装置関連の技術分野に適用可能である。
【符号の説明】
【0063】
100 垂直磁気記録媒体
110 基板
120,140 バッファ層
130 軟磁性層
131 下部軟磁性層
133 隔離層
135 上部軟磁性層
136 第1単位軟磁性膜
137 スペーサ
138 第2単位軟磁性膜
150 底層
151 第1底層
153 第2底層
160 記録層
161 第1強磁性層
163 第2強磁性層
169 キャッピング層
170 保護層
190 潤滑層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板上に順次に形成された下部軟磁性層及び上部軟磁性層を備え、前記上部軟磁性層の異方性磁界が前記下部軟磁性層の異方性磁界より高く形成された複数の軟磁性層と、
前記下部軟磁性層と上部軟磁性層との間に介在されて、前記下部及び上部軟磁性層の磁気的相互作用を防止する隔離層と、
前記上部軟磁性層上に形成される底層と、
前記底層上に形成されるものであって、複数の強磁性層を有し、前記底層側に位置した下部の強磁性層から上部の強磁性層へ行くほど、磁気異方性エネルギーが次第に低くなるように、それぞれの強磁性層が異なる磁気異方性エネルギーを有する記録層と、を備えることを特徴とする垂直磁気記録媒体。
【請求項2】
前記複数の強磁性層は、下部の強磁性層から上部の強磁性層へ行くほど小さくなる異なるPt組成を有することを特徴とする請求項1に記載の垂直磁気記録媒体。
【請求項3】
前記複数の強磁性層は、前記底層から順次に積層される第1及び第2強磁性層を備え、
前記第1強磁性層は、FePt合金、FePt合金酸化物、CoPt合金及びCoPt合金酸化物のうちいずれか一つで形成され、
前記第2強磁性層は、CoCrPt合金酸化物で形成されることを特徴とする請求項1に記載の垂直磁気記録媒体。
【請求項4】
前記第2強磁性層のPt組成は、前記第1強磁性層のPt組成より小さいことを特徴とする請求項3に記載の垂直磁気記録媒体。
【請求項5】
前記第1及び第2強磁性層は、グラニュラー構造で形成されることを特徴とする請求項3に記載の垂直磁気記録媒体。
【請求項6】
前記第2強磁性層は、グレインが磁気的に分離されたグラニュラー構造であって、前記グレインは、Co合金からなり、前記グレインの間は、酸化物が介在されたことを特徴とする請求項5に記載の垂直磁気記録媒体。
【請求項7】
前記記録層は、前記複数の強磁性層上に形成されるキャッピング層をさらに備えることを特徴とする請求項1ないし6のうちいずれか一項に記載の垂直磁気記録媒体。
【請求項8】
前記キャッピング層は、グレインに分離されず、連続的に形成されるCo合金で形成されることを特徴とする請求項7に記載の垂直磁気記録媒体。
【請求項9】
前記キャッピング層は、CoCrPtBで形成されることを特徴とする請求項8に記載の垂直磁気記録媒体。
【請求項10】
前記底層は、酸素が含有されたRuで形成されることを特徴とする請求項1ないし9のうちいずれか一項に記載の垂直磁気記録媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図10】
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【図11】
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【図12A】
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【図12B】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−187652(P2009−187652A)
【公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−20017(P2009−20017)
【出願日】平成21年1月30日(2009.1.30)
【出願人】(390019839)三星電子株式会社 (8,520)
【氏名又は名称原語表記】SAMSUNG ELECTRONICS CO.,LTD.
【住所又は居所原語表記】416,Maetan−dong,Yeongtong−gu,Suwon−si,Gyeonggi−do 442−742(KR)
【Fターム(参考)】