説明

垂直磁気記録媒体

【課題】Coを含有するグラニュラ構造の磁気記録層と、補助記録層とを備えた構成において、電磁変換特性におけるノイズを低減できる垂直磁気記録媒体を提供すること。
【解決手段】本発明の垂直磁気記録媒体は、非磁性基板上に、少なくともCoを含有する柱状の磁性粒子間に非磁性の粒界部を有するグラニュラ構造の第1磁気記録層20aと、前記第1磁気記録層20a上に設けられた非磁性層22と、前記非磁性層22上に設けられたCoを含有する柱状の磁性粒子間に非磁性の粒界部を有するグラニュラ構造の第2磁気記録層20bと、前記第2磁気記録層20b上に設けられた補助記録層24と、を具備していることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、垂直磁気記録方式のHDD(ハードディスクドライブ)などに搭載される垂直磁気記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の情報処理の大容量化に伴い、各種の情報記録技術が開発されている。特に、磁気記録技術を用いたHDDの面記録密度は年率100%程度の割合で増加し続けている。最近では、HDDなどに用いられる2.5インチ径の磁気記録媒体にして、1枚あたり250GBを超える情報記録容量が求められるようになってきており、このような要請に応えるためには、1平方インチあたり400Gビットを超える情報記録密度を実現することが求められる。
【0003】
HDDなどに用いられる磁気ディスクにおいて高記録密度を達成するために、近年、垂直磁気記録方式の磁気記録媒体(垂直磁気記録媒体)が提案されている。従来の面内磁気記録方式では、磁気記録層の磁化容易軸が基体面の平面方向に配向されていたが、垂直磁気記録方式では、磁化容易軸が基体面に対して垂直方向に配向するよう調整されている。垂直磁気記録方式は、面内記録方式に比べて、高密度記録時に、より熱揺らぎ現象を抑制することができるので、高記録密度化に対して好適である。
【0004】
垂直磁気記録方式に適した磁気記録層の材料としては、CoCrPt−SiO2やCoCrPt−TiO2が広く用いられている。これらの材料は、Coのようなhcp構造(六方最密結晶格子)の結晶が柱状に成長し、Cr及びSiO2(又はTiO2)が偏析して非磁性の粒界を形成してなるグラニュラ構造を採る。この構造は、物理的に独立した微細な磁性粒子を形成し易く、高記録密度を達成し易い。
【0005】
上記磁気記録層においては、結晶粒子が微細な磁気ビットを安定かつ明瞭に保持するために、十分に細かく、その結晶粒径の分散も小さいことが必要とされる。また、Coのc軸、すなわち磁化容易軸が基板面に対して狭い分散をもって垂直配向していることが求められる。
【0006】
上記理想的なグラニュラ構造を得るためには、一般的に下地層を用いた微細構造制御を行う。具体的には、磁気記録層の下部に、下地層を単層もしくは複数層、さらには下地層の構造を制御する配向制御層を積層させて、微細かつ高配向の粒子構造を達成する。
【0007】
例えば,配向制御層としてNiW膜を用い、その上に下地層であるRu膜を積層することにより、高いc軸の配向性と、結晶粒子の微細化、粒径の低分散化を達成することが報告されている(特許文献1)。
【0008】
ここで、下地層の材料であるRuは、Coと同様にhcp構造(六方最密結晶格子)を有し、かつ両者の格子間隔も近いことから、Co粒子のエピタキシャル成長を誘引し、Coのhcp結晶の生成、c軸の高配向性を達成するために用いられている。
【0009】
しかしながら、その一方でRu(a=2.705オングストローム)とCo(a=2.503オングストローム)との間の結晶格子間隔の差異により、Ru膜と磁気記録層との間の界面は完全なエピタキシャル成長とはならず、磁気記録層に格子欠陥が誘発されることが予想される。これにより、磁気記録層の結晶磁気異方性(Ku)の低下が引き起こされたり、格子欠陥を含む初期劣化層が形成されて、電磁変換特性におけるノイズ源となる可能性がある。
【特許文献1】特開2007−179598号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、Coを含有するグラニュラ構造の磁気記録層と、Hn(逆磁区核形成磁界)の改善やオーバーライトの改善に寄与する補助記録層を備えた構成において、電磁変換特性におけるノイズを低減できる垂直磁気記録媒体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の垂直磁気記録媒体は、非磁性基板上に、少なくともCoを含有する柱状の磁性粒子間に非磁性の粒界部を有するグラニュラ構造の第1磁気記録層と、前記第1磁気記録層上に設けられた非磁性層と、前記非磁性層上に設けられたCoを含有する柱状の磁性粒子間に非磁性の粒界部を有するグラニュラ構造の第2磁気記録層と、前記第2磁気記録層上に設けられた補助記録層と、を具備することを特徴とする。
【0012】
この構成によれば、各層の膜厚を適宜調整することにより、第1磁気記録層には、強い反磁界が加わる。すなわち、第1磁気記録層から漏洩する磁界強度は極めて低いものとなり、これにより、第1磁気記録層に起因するノイズを低下することができる。
【0013】
本発明の垂直磁気記録媒体においては、前記非磁性層は、Ru又はRu化合物で構成されていることが好ましい。
【0014】
本発明の垂直磁気記録媒体においては、前記第1磁気記録層の厚さが5nm以下であり、前記非磁性層の厚さが0.1nm〜1nmであることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明の垂直磁気記録媒体は、非磁性基板上に、Coを含有する柱状の磁性粒子間に非磁性の粒界部を有するグラニュラ構造の第1磁気記録層と、前記第1磁気記録層上に設けられた非磁性層と、前記非磁性層上に設けられたCoを含有する柱状の磁性粒子間に非磁性の粒界部を有するグラニュラ構造の第2磁気記録層とを有しているので、電磁変換特性におけるノイズを低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
下地層の材料としてのRuと磁気記録層に含まれるCoとの間の結晶格子間隔の差異に基づく電磁変換特性におけるノイズを低減させるためには、下地層と磁気記録層との間に、できるだけ磁気記録層に近い結晶構造及び結晶格子間隔を有する層を介在させ、磁気記録層に理想的なエピタキシャル成長を促すことが考えられる。しかしながら、単純にこのような手法をとった場合、下地層のRuと磁気記録層のグラニュラ層が磁性を有してしまうために、グラニュラ層そのものがノイズ源となってしまうことは明白である。
【0017】
本発明者らはこのような点に着目し、従来系である下地層/磁気記録層という構成を下地層/第1磁気記録層/非磁性層/第2磁気記録層という構成に置き換えることにより、前記問題を生じることなく電磁変換特性におけるノイズを低減できることを見出し本発明をするに至った。
【0018】
本発明の骨子は、非磁性基板上に、少なくともCoを含有する柱状の磁性粒子間に非磁性の粒界部を有するグラニュラ構造の第1磁気記録層と、前記第1磁気記録層上に設けられた非磁性層と、前記非磁性層上に設けられたCoを含有する柱状の磁性粒子間に非磁性の粒界部を有するグラニュラ構造の第2磁気記録層と、前記第2磁気記録層上に設けられた補助記録層と、を具備することを特徴とする垂直磁気記録媒体により、電磁変換特性におけるノイズを低減することである。
【0019】
以下、本発明の実施の形態について添付図面を参照して詳細に説明する。
図1は、本発明の実施の形態に係る磁気記録媒体の概略構成を示す断面図である。この磁気記録媒体は、垂直磁気記録再生方式に用いられる磁気記録媒体である。
【0020】
図1に示す磁気記録媒体は、ディスク基体1、付着層12、第1軟磁性層14a、スペーサ層14b、第2軟磁性層14c、配向制御層16、第1下地層18a、第2下地層18b、第1磁気記録層20a、非磁性層22、第2磁気記録層20b、補助記録層24、媒体保護層28、及び潤滑層30がその順で積層されて構成されている。なお、第1軟磁性層14a、スペーサ層14b、第2軟磁性層14cは、あわせて軟磁性層14を構成する。第1下地層18aと第2下地層18bはあわせて下地層18を構成する。第1磁気記録層20a、非磁性層22、第2磁気記録層20bは合わせて磁気記録層20を構成する。
【0021】
ディスク基体10としては、例えば、ガラス基板、アルミニウム基板、シリコン基板、プラスチック基板などを用いることができる。ディスク基体10にガラス基板を用いる場合には、例えば、アモルファスのアルミノシリケートガラスをダイレクトプレスで円盤状に成型してガラスディスクを作製し、このガラスディスクに研削、研磨、化学強化を順次施すことにより作製することができる。
【0022】
付着層12は、ディスク基体10との間の密着性を向上させるための層であり、軟磁性層14の剥離を防止することができる。付着層12としては、例えば、CrTi膜などを用いることができる。
【0023】
軟磁性層14の第1軟磁性層14a及び第2軟磁性層14cとしては、例えば、FeCoTaZr膜などを用いることができる。スペーサ層14bとしては、Ru膜などを挙げることができる。第1軟磁性層14aと第2軟磁性層14cとは、反強磁性交換結合(AFC(Antiferro-magnetic exchange coupling)しており、これにより、軟磁性層14の磁化方向を高い精度で磁路(磁気回路)に沿って整列させることができ、磁化方向の垂直成分を極めて少なくして、軟磁性層14から生じるノイズを低減することができる。
【0024】
配向制御層16は、軟磁性層14を保護すると共に、下地層18の結晶粒の配向を促進する。配向制御層16の材料としては、Ni、Cu、Pt、Pd、Zr、Hf、Nbから選択したものを用いることができる。さらに、これらの金属を主成分とし、Ti、V、Ta、Cr、Mo、Wのいずれか1つ以上の添加元素を含む合金を用いても良い。例えば、NiW、CuW、CuCrが好適である。
【0025】
下地層18を構成する材料はhcp構造を有し、磁気記録層20を構成する材料のhcp構造の結晶をグラニュラ構造として成長させることができる。したがって、下地層18の結晶配向性が高いほど、磁気記録層20の配向性を向上させることができる。下地層18の材質としては、Ruの他に、RuCr、RuCoなどのRu化合物を挙げることができる。Ruはhcp構造をとり、Coを主成分とする磁気記録層を良好に配向させることができる。
【0026】
本実施の形態において、下地層18は、2層構造のRu膜で構成されている。上層側の第2下地層18bを形成する際に、下層側の第1下地層18aを形成するときよりもArのガス圧を高くしている。ガス圧を高くするとスパッタリングされるRu粒子の自由移動距離が短くなるため、成膜速度が遅くなり、結晶粒子の分離性を改善することができる。また高圧にすることにより、結晶格子の大きさが小さくなる。Ruの結晶格子の大きさはCoの結晶格子よりも大きいため、Ruの結晶格子を小さくすればCoのそれに近づき、Coのグラニュラ層の結晶配向性をさらに向上させることができる。
【0027】
磁気記録層20は、第1磁気記録層20a(ディスク基体側)と、第2磁気記録層20b(補助記録層側)とから構成されている。第1磁気記録層20a及び第2磁気記録層20bは、それぞれ1層のグラニュラ構造の磁性層である。磁気記録層20a,20bの材料としては、CoCrPt-Cr、CoCrPt−SiO、CoCrPt−TiOなどを挙げることができる。これらの材料においては、複数の酸化物が含まれていても良い。ここでは、第1磁気記録層20aには、CoCrPt-Crを用い、第2磁気記録層20bには、CoCrPt−SiO・TiOを用いた。これらのグラニュラ構造の磁性層においては、非磁性物質(酸化物)が磁性物質の周囲に偏析して粒界を形成している。これにより、これらの磁性層は、磁性粒(磁性グレイン)が柱状に成長した結晶粒子の間に非磁性物質からなる粒界部を有する構造を持つ。この磁性粒は、下地層18のグラニュラ構造から継続してエピタキシャル成長している。なお、非磁性物質としては、例えば、酸化珪素(SiOx)、クロム(Cr)、酸化クロム(CrOx)、酸化チタン(TiO2)、酸化ジルコン(ZrO2)、酸化タンタル(Ta25)を例示することができる。
【0028】
第1磁気記録層20aは、第2磁気記録層20bに良好なエピタキシャル成長を促すために、良好な結晶構造を保てる範囲で薄膜化する必要がある。例えば、第1磁気記録層20aの厚さは、実質的に5nm以下であることが好ましい。また、第2磁気記録層20bの厚さは、好適な保磁力を得るために、5nm〜15nmであることが好ましい。
【0029】
第1磁気記録層20aは、第2磁気記録層20bの結晶欠陥を低減させ、ひいては媒体ノイズを低減させる効果を有する。このため、第1磁気記録層20aの組成は、第2磁気記録層20bの組成と近いことが好ましい。なお、第2磁気記録層20bに適度な結晶歪みを誘発すると、結晶磁気異方性(Ku)が増大するので、この点を考慮して、適宜組成を調整することが望ましい。
【0030】
第1磁気記録層20aと、第2磁気記録層20bとの間には、非磁性層22を設ける。これにより、第1磁気記録層20aと、第2磁気記録層20bとが磁気的に分離された状態となり、かつ、非磁性層に適切な材料及び膜厚を選択することにより、膜面垂直方向に反強磁性交換結合(AFC(Antiferro-magnetic exchange coupling)が発生する。すなわち、第1磁気記録層20aと第2磁気記録層20bの磁化の向きが互いに向き合う方向に(反平行に)配置する。これにより、第1磁気記録層20aには、強い反磁界が加わる。すなわち、第1磁気記録層20aから漏洩する磁界強度は極めて低いものとなり、これにより、第1磁気記録層20aに起因するノイズを低下することができる。第1磁気記録層20aの膜厚が大きいと、第1磁気記録層20a内の反磁界が低下し、第1磁気記録層20aから漏洩する磁界が大きくなってノイズが顕在化するので、この点からも第1磁気記録層20aは薄いことが望ましい。
【0031】
本実施の形態においては、第1磁気記録層20a/非磁性層22/第2磁気記録層20bの構成について説明しているが、本発明はこの構成に限定されず、第1磁気記録層20a及び/又は第2磁気記録層20bが、複数層の磁気記録層で構成されていても良く、また、第1磁気記録層20a及び/又は第2磁気記録層20bが、層の厚さ方向に組成が異なる層(例えば、酸化物を含むグラニュラ膜である場合に、厚さ方向で酸化物の含有量が異なるもの)であっても良い。
【0032】
非磁性層22は、第1磁気記録層20aから第2磁気記録層20bへのエピタキシャル成長を阻害しない程度に薄膜化することが好ましい。例えば、非磁性層22の厚さは、0.1nm〜1nmであることが好ましい。また、非磁性層22の材料としては、Coとの間の良好なエピタキシャル成長を阻害しないという観点から、Ruや、Ru化合物(RuO,RuCr,RuCo,Ru−SiO2,Ru−TiO2,Ru−Cr23)などを用いることが望ましい。なお、非磁性層22が極薄膜の場合、結晶の相図には現われない結晶系の形成も予想されるため、第1磁気記録層20aと第2磁気記録層20bのエピタキシャル成長を阻害しない条件の下であれば、いかなる材料を用いても良い。
【0033】
このように、磁気記録層20を、下地層18の上に、第1磁気記録層20a、非磁性層22及び第2磁気記録層20bのこの順で積層して形成することにより、第1磁気記録層20aと第2磁気記録層20bが磁気的に分離されるので、第2磁気記録層20bの膜質改善、ひいては電磁変換特性におけるノイズを低減(SNR(Signal to Noise Ratio)の改善)することができる。さらに、この構成によれば、静磁気的に第1磁気記録層20aからのノイズが発生せず、媒体全体の低ノイズ化を実現することができる。
【0034】
補助記録層24は、逆磁区核形成磁界Hn、耐熱揺らぎ特性の改善、オーバーライト特性の改善を目的とする。交換結合層24としては、例えば、CoCrPtや、CoCrPtB膜などを用いることができる。
【0035】
付着層12から補助記録層24までは、ディスク基体10上に、真空引きを行った成膜装置を用いて、Ar雰囲気中でDCマグネトロンスパッタリング法にて順次成膜を行う。生産性を考慮すると、インライン型成膜によりこれらの層や膜を形成することが好ましい。
【0036】
媒体保護層28は、磁気ヘッドの衝撃から磁気記録層を保護するための保護層である。媒体保護層28を構成する材料としては、例えば、カーボン、ジルコニア、シリカなどが挙げられる。一般に、CVD法によって成膜されたカーボンはスパッタリング法によって成膜したものと比べて膜硬度が向上するので、磁気ヘッドからの衝撃に対してより有効に垂直磁気記録層を保護することができる。
【0037】
潤滑層30は、例えば、液体潤滑剤であるパーフロロポリエーテル(PFPE)をフレオン系などの溶媒で希釈し、媒体表面にディッピング法、スピンコート法、スプレイ法によって塗布し、必要に応じ加熱処理を行って形成する。
【0038】
ここで、上記構成の垂直磁気記録媒体における非磁性層についてさらに詳述する。図2は、非磁性層22であるRu膜の膜厚を変化させたときのSNRとトラック幅との間の関係を示す図である。ここでは、第1磁気記録層20aを厚さ2nmのCoCrPt−Cr23膜とし、第2磁気記録層20bを厚さ10nmのCoCrPt−TiO2・SiO2とし、非磁性層22の膜厚を0.2nmから1nmの範囲で変化させている。また、図2には、比較例として、非磁性層22を設けない場合もプロットした。
【0039】
図2から分かるように、第1磁気記録層20a/非磁性層22/第2磁気記録層20bの構成、すなわち、第1磁気記録層20aと第2磁気記録層20bとの間に非磁性層22が介在する構成を有する垂直磁気記録媒体は、SNRが非常に改善されていた。この現象について本発明らが鋭意検討したところ、第2磁気記録層20bが、第1磁気記録層20aの構造を引き継いで、Coが柱状にエピタキシャル成長し、第2磁気記録層20bに格子欠陥の少ないグラニュラ構造が形成されたからであるとの考察がなされた。一方で、第1磁気記録層20aは、格子欠陥の多い、すなわち電磁変換特性において、高ノイズを誘引する構造を有することが想定されるが、第1磁気記録層20aの膜厚が十分に薄く、かつ、非磁性層22が存在しているので、第1磁気記録層20aと、第2磁気記録層20bとが磁気的に分離された状態となる。かつ、非磁性層に適切な材料及び膜厚を選択しているので、膜面垂直方向に反強磁性交換結合(AFC(Antiferro-magnetic exchange coupling)が発生する。すなわち、第1磁気記録層20aと第2磁気記録層20bの磁化の向きが互いに向き合う方向に(反平行に)配置する。このため、第1磁気記録層20a内に大きな反磁界が生まれ、第1磁気記録層20aからは再生出力/ノイズのいずれにおいても寄与が低く、垂直磁気記録媒体全体として高SNR化が達成されたものとの考察がなされた。
【0040】
図3は、第1磁気記録層20aであるCoCrPt−Cr23膜の膜厚を変化させたときのSNRとトラック幅との間の関係を示す図である。ここでは、非磁性層22を厚さ0.2nmのRu膜とし、第2磁気記録層20bを厚さ10nmのCoCrPt−TiO2・SiO2とし、第1磁気記録層20aの膜厚を1nmから6.5nmの範囲で変化させている。また、図3には、比較例として、第1磁気記録層20aを設けない場合もプロットした。
【0041】
図3から分かるように、第1磁気記録層20aの有無により、トラック幅に著しい改善が認められる。また、第1磁気記録層20aの膜厚が所望の膜厚(5nm)以上となると、SNRが低下する傾向が認められる。この結果は、図2における考察を裏付けるものである。
【0042】
図4は、非磁性層膜厚を変化させたときの再生出力と非磁性層膜厚との間の関係を示す図である。図4から分かるように、第1磁気記録層20a/非磁性層22/第2磁気記録層20bの構成をとることにより、出力が低下することが確認された。これは、第1磁気記録層20aに加わる反磁界の増大により、第1磁気記録層20aから外部へ漏洩する磁界が低下し、再生出力/ノイズに寄与しないからであるとかんがえられる。この結果は、上記仮説を裏付けるものである。
【0043】
図5は、本発明の垂直磁気記録媒体における磁気記録層を説明するための図である。第1磁気記録層20a/非磁性層22/第2磁気記録層20bの構成をとることにより、第1磁気記録層20aと、第2磁気記録層20bとが磁気的に分離された状態となる。そして、非磁性層22に適切な材料及び膜厚を選択することにより、膜面垂直方向に反強磁性交換結合(AFC(Antiferro-magnetic exchange coupling)が発生する。すなわち、第1磁気記録層20aと第2磁気記録層20bの磁化の向き20cが互いに向き合う方向に(反平行に)配置する。このため、第1磁気記録層20a内に大きな反磁界が生まれ、第1磁気記録層20aからは再生出力/ノイズのいずれにおいても寄与が低く、垂直磁気記録媒体全体として高SNR化が達成されたものと思われる。
【0044】
次に、本発明の効果を明確にするために行った実施例について説明する。
(実施例)
アモルファスのアルミノシリケートガラスをダイレクトプレスで円盤状に成型してガラスディスクを作製し、このガラスディスクに研削、研磨、化学強化を順次施すことによりガラス基板を作製した。このガラス基板上に、厚さ40nmの軟磁性層(CoTaZrFe/Ru/CoTaZrFe)、厚さ10nmのNiW膜、厚さ20nmのRu膜、厚さ2nmのCoCrPt-Cr203膜、厚さ0.2nmのRu膜、厚さ10nmのCoCrPt-TiO2・Si02膜、厚さ7nmの補助記録層(CoCrPtB)を、Ar雰囲気中でDCマグネトロンスパッタリング法により順次成膜した。
【0045】
なお、第1磁気記録層20aの成膜においては、非磁性物質の例としての酸化クロム(Cr23)を含有するCoCrPtからなる硬磁性体のターゲットを用い、第2磁気記録層20bの成膜においては、非磁性物質の例としての酸化チタン(TiO2)及び酸化ケイ素(SiO2)を含有するCoCrPtからなる硬磁性体のターゲットを用いた。また、本実施例では、第1磁気記録層20aと第2磁気記録層20bとで異なる材料(ターゲット)を用いているが、これに限定されず組成や種類が同じ材料を用いても良い。
【0046】
次いで、交換結合層上にCVD法により厚さ5nmのカーボン層を形成し、その上にディップ法により厚さ1.3nmの潤滑層を形成して実施例の垂直磁気記録媒体を作製した。
【0047】
得られた垂直磁気記録媒体について電磁変換特性評価を行った。電磁変換特性評価は、スピンスタンドを用いて磁気ヘッドによる記録再生特性を調べることにより行った。具体的には、記録周波数を変えて記録密度を変化させて信号を記録し、この信号の再生出力を読み取ることにより調べた。なお、磁気ヘッドとしては、垂直記録用単磁極ヘッド(記録用)、GMRヘッド(再生用)が一体となった垂直記録用マージ型ヘッドを用いた。その結果、SNRは17.6dBであった。これは、第1磁気記録層に強い反磁界が加わり、これにより、第1磁気記録層に起因するノイズが低下したからであると考えられる。
【0048】
(比較例)
磁気記録層を分断する非磁性層を設けずに、磁気記録層として、厚さ2nmのCoCrPt−Cr23膜を用いること以外は実施例と同様にして比較例の垂直磁気記録媒体を作製した。得られた垂直磁気記録媒体について実施例と同様にして電磁変換特性評価を行った。その結果、SNRは16.9dBであった。これは、非磁性層がないために、磁気記録層に起因するノイズを低下させられなかったからであると考えられる。
【0049】
本発明は上記実施の形態に限定されず、適宜変更して実施することができる。例えば、磁性記録層及び補助記録層は、特にその構造に限定はされないが、好ましくは磁性記録層がグラニュラ構造を有する少なくとも一つの磁性層であって、補助記録層はグラニュラ構造を有するものや、連続膜、グラニュラ層よりも粒子の孤立化の程度が少ない、いわゆるキャップ層や、結晶構造を有さないアモルファス層を用いることができる。また、上記実施の形態における層構成、部材の材質、個数、サイズ、処理手順などは一例であり、本発明の効果を発揮する範囲内において種々変更して実施することが可能である。その他、本発明の目的の範囲を逸脱しない限りにおいて適宜変更して実施することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明は、垂直磁気記録方式のHDD(ハードディスクドライブ)などに搭載される垂直磁気記録媒体として利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の実施の形態に係る垂直磁気記録媒体の構成を示す図である。
【図2】非磁性層膜厚を変化させたときのSNRとトラック幅との間の関係を示す図である。
【図3】第1磁気記録層の膜厚を変化させたときのSNRとトラック幅との間の関係を示す図である。
【図4】非磁性層膜厚を変化させたときの再生出力と非磁性層膜厚との間の関係を示す図である。
【図5】本発明の実施の形態に係る垂直磁気記録媒体の磁気記録層を説明するための図である。
【符号の説明】
【0052】
1 ディスク基体
12 付着層
14 軟磁性層
14a 第1軟磁性層
14b スぺ−サ層
14c 第2軟磁性層
16 配向制御層
18 下地層
18a 第1下地層
18b 第2下地層
20 磁気記録層
20a 第1磁気記録層
20b 第2磁気記録層
20c 磁化の向き
22 非磁性層
24 補助記録層
28 媒体保護層
30 潤滑層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非磁性基板上に、少なくともCoを含有する柱状の磁性粒子間に非磁性の粒界部を有するグラニュラ構造の第1磁気記録層と、前記第1磁気記録層上に設けられた非磁性層と、前記非磁性層上に設けられたCoを含有する柱状の磁性粒子間に非磁性の粒界部を有するグラニュラ構造の第2磁気記録層と、前記第2磁気記録層上に設けられた補助記録層と、を具備することを特徴とする垂直磁気記録媒体。
【請求項2】
前記非磁性層は、Ru又はRu化合物で構成されていることを特徴とする請求項1記載の垂直磁気記録媒体。
【請求項3】
前記第1磁気記録層の厚さが5nm以下であり、前記非磁性層の厚さが0.1nm〜1nmであることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の垂直磁気記録媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−34603(P2011−34603A)
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−93659(P2008−93659)
【出願日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【出願人】(000113263)HOYA株式会社 (3,820)
【出願人】(501259732)ホーヤ マグネティクス シンガポール プライベートリミテッド (124)
【Fターム(参考)】