説明

型締装置、成形機、型締装置の制御方法

【課題】異常検出の精度を向上させることができる型締装置を提供する。
【解決手段】一つの実施形態に係る型締装置2は、固定金型21が取り付けられる固定盤12と、移動金型22が取り付けられる移動盤13と、移動盤13を進退させる型締駆動機構17と、移動盤13に保持され、移動金型22から成形品を剥離させる押出部材15と、押出部材15を押し出す押出用駆動機構16と、型閉動作中に、押出部材15または押出用駆動機構16の状態の変化から異物を検知する異常検知手段81とを具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、押出部材を備えた型締装置及びその型締装置の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂や金属の溶融物を金型内に射出して成形する成形機では、成形品の取り出し不良や落下不良などにより、金型の合わせ面に成形品が残ることがある。この状態で型締動作が行われると、成形品を挟んだ状態で型締力が掛かるため、金型や成形機が破損する可能性がある。そこで、移動盤を動かす型締モータのトルクを監視し、正常動作時と比較することで、成形品が残っている時に異常を検出する成形機が提案されている。
【0003】
特許文献1には、型閉工程に監視区間を設けた射出成形機が開示されている。この射出成形機では、型閉動作に伴う物理量を検出するとともに、当該物理量の検出値と予め設定された設定値との偏差が予め設定された閾値以上になったときに異常処理を行う。
【0004】
特許文献2にも、型閉工程に監視区間を設けた射出成形機が開示されている。この射出成形機では、型閉動作を行うサーボモータのトルクまたはそのサーボモータの速度が閾値を超えたときに異常処理を行う。
【0005】
特許文献3には、型締が良好に行われた時の、可動盤の位置と型締力の関係の基準パターンを採る射出成形機が開示されている。この射出成形機では、上記基準パターンに基づいて監視区間を設け、この監視区間内で型締力が許容限界値を超えたときにアラームを発する。
【0006】
特許文献4には、型閉動作の監視区間で、型締用モータのトルクが制限値を超えたときに、型締用モータの駆動を停止させる成形機が開示されている。
【0007】
特許文献5には、モータ電流を検出すること、外乱負荷オブザーバで負荷を推定すること、あるいは、歪センサなどを使用して直接負荷を測定することにより、可動部の負荷を求める射出成形機が開示されている。この射出成形機では、上記求められた負荷に対し、過去1回または過去複数回の可動部の負荷を異常検出用基準負荷とし、その異常検出用基準負荷と現在の負荷との偏差が許容範囲を超えた場合に、可動部を駆動するサーボモータを停止させる。
【0008】
特許文献6には、可動型と固定型との間への異物の混入時に、可動型と可動盤とが相対移動したことを検知して、型開閉駆動手段を停止させる金型保護装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2002−172670号公報
【特許文献2】特開2004−330527号公報
【特許文献3】特開2004−142211号公報
【特許文献4】特開2006−334820号公報
【特許文献5】特開2009−279891号公報
【特許文献6】特開平9−207182号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述したように、移動金型と固定金型との間に残る異物(成形品)を検出する多くの方法では、移動盤を動かす型締サーボモータのトルクを監視し、正常動作時と比較することで異常検出が行われる。この場合、金型や移動盤の重量は大きく、それにより移動盤を動かすのに必要なトルクもまた大きくなる。またそれとともに、給脂状態によってある程度のばらつきがある。そのため、正常動作時と比較して異常を判定するための閾値は、上記ばらつきを考慮した余裕を持たせた値となる。
【0011】
一方で、成形品は、金型や移動盤に比べて軽くて軟らかく、成形品を挟み込んだ場合でも型締サーボモータのトルクの変化量は非常に小さい。そのため、モータトルクが上記閾値を越えて変化した時点では、成形品がすでに大きく潰れ、金型が損傷していることもある。
【0012】
本発明の目的は、異常検出の精度を向上させることができる型締装置、成形機、及び型締装置の制御方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記目的を達成するために、本発明の一つの形態に係る型締装置は、固定金型が取り付けられる固定盤と、移動金型が取り付けられる移動盤と、前記移動盤を進退させる型締駆動機構と、前記移動盤に保持され、前記移動金型から成形品を剥離させる押出部材と、前記押出部材を押し出す押出用駆動機構と、型閉動作中に、前記押出部材または前記押出用駆動機構の状態の変化から異物を検知する異常検知手段とを具備する。
【0014】
前記目的を達成するために、本発明の一つの形態に係る型締装置の制御方法は、固定金型が取り付けられる固定盤と、移動金型が取り付けられる移動盤と、前記移動盤を進退させる型締駆動機構と、前記移動盤に保持され、前記移動金型から成形品を剥離させる押出部材と、前記押出部材を押し出す押出用駆動機構とを備えた型締装置において、型閉動作中に、前記押出部材または前記押出用駆動機構の状態の変化から異物を検知する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、異常検出の精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一つの実施形態に係る射出成形機の側面図。
【図2】図1中に示された型締装置の側面図。
【図3】図1中に示された制御部の一部の構成を模試的に示すブロック図。
【図4】図1中に示された型締装置の金型位置と押出位置との間係の一例を示すグラフ。
【図5】図1中に示された型締装置の金型位置と押出位置との間係の他の一例を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1乃至図5は、本発明の一つの実施形態に係る射出成形機1を開示している。射出成形機1は、「成形機」の一例である。図1に示すように、射出成形機1は、型締装置2と、射出装置3とを備えている。型締装置2は、フレーム11、固定盤12、移動盤13、タイバー14、押出部材15、押出用駆動機構16、型締駆動機構17、及び制御部18を備えている。
【0018】
フレーム11は、射出成形機1の土台を形成している。フレーム11の上には、図示しないリニアガイドが設けられている。固定盤12は、フレーム11上に固定されている。固定盤12には、固定金型21が取り付けられる。タイバー14は、例えば4本設けられている。タイバー14の一端部(第1の端部)は、固定盤12に固定されている。タイバー14は、固定盤12から移動盤13を通り越して、型締駆動機構17まで延びている。
【0019】
移動盤13は、フレーム11のリニアガイド上に載置され、固定盤12に対向している。移動盤13は、タイバー14またはリニアガイドに案内され、固定盤12に近付く方向と固定盤12から離れる方向とに進退可能である。移動盤13には、固定金型21に対向する移動金型22が取り付けられる。移動金型22と固定金型21とが合わされることで、移動金型22と固定金型21との間に製品形状に対応した空間が形成される。
【0020】
図2に示すように、移動盤13には、押出部材15が保持されている。押出部材15は、成形品(製品)の取出時に、移動金型22の型面から突き出るように押し出され、成形品を移動金型22から剥離させる。
【0021】
押出部材15の一例は、押出プレート23、押出軸24、押出盤25、及び押出ピン26を含む。押出プレート23は、移動盤13に対して固定盤12とは反対側に設けられている。押出軸24は、押出プレート23に支持され、移動盤13を貫通し、移動金型22の内部まで延びている。
【0022】
押出盤25は、押出軸24の先端部に取り付けられ、移動金型22の内部で支持されている。押出ピン26は、押出盤25に支持され、移動金型22を貫通し、移動金型22と固定金型21の間に露出される。押出プレート23、押出軸24、押出盤25、及び押出ピン26は、互いに一体で移動盤13に対して進退可能(図2中で左右方向に移動可能)である。なお、押出部材15の構成は、上記に限らず、例えば押出プレート23と、この押出プレート23に直接固定された押出ピン26とで構成されてもよい。
【0023】
押出用駆動機構16は、移動盤13の移動金型取付面とは反対側の面に取り付けられている。押出用駆動機構16は、例えば成形品取り外し時に押出部材15を押し出し、成形品を剥離させる。なお本明細書で「押し出す」とは、移動金型22の型面から押出部材15を突出させることをいう。
【0024】
押出用駆動機構16の一例は、押出用サーボモータ27、ボールねじ28、及び伝達機構29を有する。ボールねじ28は、回転運動を直線運動に変換する運動方向変換機構の一例であり、押出プレート23に連結されている。ボールねじ28が回転されることで、押出部材15が進退される。
【0025】
伝達機構29は、例えば回転体29a(例えばプーリ)と、この回転体29aに掛けられた線状体29b(例えばタイミングベルト)などで構成されている。伝達機構29は、押出用サーボモータ27の回転をボールねじ28に伝達する。これにより、押出用サーボモータ27が回転されると、押出部材15が進退される。なお、押出用駆動機構16の構成は、上記に限定されるものではなく、他の構成であってもよい。
【0026】
図1に示すように、押出用駆動機構16には、第1の検出部31が設けられている。第1の検出部31は、押出部材15または押出用駆動機構16の状態に関する情報を検出する。なお、「押出部材15または押出用駆動機構16の状態に関する情報」とは、例えば、押出部材15の位置、押出用駆動機構16の位置、押出用駆動機構16の速度、押出用駆動機構16の加速度、または押出用駆動機構16のトルクなどに関する情報である。
【0027】
本実施形態では、第1の検出部31は、例えば押出用サーボモータ27に設けられ、押出用サーボモータ27のトルク(負荷トルク)を検出する。なお第1の検出部31は、例えば押出用サーボモータ27の回転に関する情報を検出してもよい。
【0028】
第1の検出部31は、検出した情報を制御部18に送る。なお「押出部材15または押出用駆動機構16の状態に関する情報」とは、直接に計測された押出部材15などの位置情報に限らず、その情報に基づき制御部18が、押出部材15または押出用駆動機構16の状態、例えば押出部材15の位置、押出用駆動機構16の位置、押出用駆動機構16の速度、押出用駆動機構16の加速度、または押出用駆動機構16のトルクなどを割り出す(算出する)ことができる情報でもよい。
【0029】
第1の検出部31は、押出用サーボモータ27に設けられたものに限らず、例えば押出部材15や押出用駆動機構16の他の部分に設けられたものでもよい。また第1の検出部31は、上記説明した以外のものでもよい。
【0030】
図2に示すように、型締駆動機構17は、移動盤13に対して固定盤12とは反対側に設けられている。型締駆動機構17の一例は、トグル機構である。なお、型締駆動機構17の構成は、トグル機構に限らず、例えば油圧シリンダとタイバーを用いた構成やその他の構成であってもよい。本実施形態の型締駆動機構17は、例えば、トグルサポート41(圧受盤)、トグル機構駆動部42、クロスヘッド43、第1のトグルレバー44、第2のトグルレバー45、及びトグルアーム46を備えている。
【0031】
トグルサポート41は、トグル型締装置の支持部であり、フレーム11上に支持されている。トグルサポート41には、タイバー14の他端部(第2の端部)が固定されている。トグル機構駆動部42は、トグルサポート41に設けられ、例えば、型締サーボモータ47、ボールねじ48、及び伝達機構49を備えている。
【0032】
ボールねじ48の先端部には、クロスヘッド43が取り付けられている。ボールねじ48は、回転運動を直線運動に変換する運動方向変換機構の一例である。ボールねじ48が回転されることで、クロスヘッド43が移動盤13に向けて進退(図1中で左右方向の移動)される。
【0033】
伝達機構49は、例えば回転体49a(例えばプーリ)と、この回転体49aに掛けられた線状体49b(例えばタイミングベルト)などで構成されている。伝達機構49は、型締サーボモータ47の回転をボールねじ48に伝達する。これにより、型締サーボモータ47が回転されると、クロスヘッド43が進退される。
【0034】
第1のトグルレバー44は、クロスヘッド43に連結されている。第2のトグルレバー45は、トグルサポート41と第1のトグルレバー44との間に設けられている。トグルアーム46は、第2のトグルレバー45と移動盤13との間に設けられている。トグルサポート41と第2のトグルレバー45との間、第1のトグルレバー44と第2のトグルレバー45との間、第2のトグルレバー45とトグルアーム46間、クロスヘッド43と第1のトグルレバー44との間、及びトグルアーム46と移動盤13との間は、それぞれ揺動可能にリンク結合されている。
【0035】
クロスヘッド43が進退されると、トグル機構が作動する。すなわち、クロスヘッド43が前進(図2中で右方向に移動)すると、移動盤13が固定盤12に向いて移動され、型閉が行われる。また、トグル倍率が乗じられた型締力が移動盤13に加わり、移動金型22と固定金型21の型締が行われる。なお、トグル機構やトグル機構駆動部の構成は、上記に限定されるものではなく、他の構成であってもよい。
【0036】
図1に示すように、型締駆動機構17には、第2の検出部51が設けられている。第2の検出部51は、型締状態に関する情報を検出する。なお、「型締状態に関する情報」とは、例えば、移動盤13や型締駆動機構17の位置、移動盤13や型締駆動機構17の速度、移動盤13や型締駆動機構17の加速度、または型締駆動機構17のトルクなどに関する情報である。
【0037】
本実施形態では、第2の検出部51は、例えば型締サーボモータ47に設けられ、型締サーボモータ47のトルク(負荷トルク)を検出する。なお第2の検出部51は、例えば型締サーボモータ47の回転に関する情報を検出してもよい。
【0038】
第2の検出部51は、検出した情報を制御部18に送る。なお「型締状態に関する情報」とは、直接に計測された型締力などに限らず、その情報に基づき制御部18が、型締状態、例えば、移動盤13や型締駆動機構17の位置、移動盤13や型締駆動機構17の速度、移動盤13や型締駆動機構17の加速度、型締駆動機構17のトルクなどを割り出す(算出する)ことができる情報でもよい。
【0039】
第2の検出部51は、型締サーボモータ47に設けられたものに限らず、移動盤13や型締駆動機構17の他の部分に設けられたものでもよい。また第2の検出部51は、上記説明した以外のものでもよい。
【0040】
図1に示すように、射出装置3は、固定盤12の背後に設けられている。射出装置3は、加熱バレル61、スクリュ62、計量部63、及び射出装置駆動部64を備えている。射出装置3は、溶融された材料を、金型内に注入する。
【0041】
図1に示すように、射出成形機1には、マン・マシン・インターフェイス(以下、MMI/F)71が設けられている。MMI/F71は、ヒューマン・マシン・インターフェイス(HMI)とも呼ばれる。オペレータは、MMI/F71を通じて、射出成形機1の動作に関する指令などの設定を入力することができる。MMI/F71を通じて入力可能な情報の一例は、後述の異常検出動作に用いる閾値などである。
【0042】
制御部18は、例えば射出成形機1の全体の制御を担う。また本実施形態に係る制御部18は、第1の検出部31から送られた情報に基づき、異常検出動作を行う。制御部18の一部は、第1の検出部31と協働して、異常検知手段81の一例を構成する。以下、制御部18の異常検出動作について詳しく説明する。
【0043】
制御部18は、押出用駆動機構16及び型締駆動機構17を制御することで、型閉動作前または型閉動作中に押出部材15を押し出し、押出部材15を押し出した状態で型閉動作を行い、第1の検出部31から受け取る押出部材15または押出用駆動機構16の状態に関する情報を監視する。そして、押出部材15が異物(例えば金型に残留した成形品やバリなど)に接触した時に、押出部材15または前記押出用駆動機構16の状態の変化から異物を検知する。すなわち、制御部18は、第1の検出部31から受け取る情報を監視し、その情報から得られた数値(すなわちその情報に含まれた数値、またはその情報に含まれた数値から算出される数値)が予め設定された閾値を越えた時に、異物を検知する。
【0044】
より詳しく述べると、制御部18の一例は、図4に示すように、型閉動作前に、押出用駆動機構16を駆動し、押出部材15を任意の所定量(設定量)StEだけ押し出す。すなわち、押出部材15を予め所定量StEだけ押し出した状態にしてから、移動盤13が固定盤12に向けて移動され、型閉動作が行われる。
【0045】
なお、これに代えて、制御部18は、図5に示すように、型閉動作中に、押出用駆動機構16を駆動し、押出部材15を任意の所定量StEだけ押し出してもよい。すなわち、制御部18は、型閉動作中のある位置までに、押出部材15を所定量StEまで押し出しながら型閉じを行ってもよい。
【0046】
図4及び図5に示すように、押出部材15は、型閉動作中に押し出された状態で待機させられ、移動盤13に対して静止される。図2に示すように、押出部材15が待機した状態では、押出用サーボモータ27のトルクは、ゼロで一定である。制御部18は、押出部材15が移動盤13に対して静止された状態で、押出部材15または押出用駆動機構16の状態の変化を監視する。
【0047】
制御部18は、押出用サーボモータ27のトルク変動の閾値(検出押圧力)を予め設定しておく。なおこの閾値は、例えば予め設定された内部パラメータまたはMMI/F71を通じてオペレータから入力された値などで設定される。
【0048】
制御部18は、第1の検出部31の情報から得られた押出用サーボモータ27のトルクの変動を監視する。そして、押出用サーボモータ27のトルクに変動が見られない時は、押出部材15に接触する異物がなく、型閉動作が正常であると判定する。
【0049】
一方で、取り出し不良や落下不良などで固定金型21と移動金型22の間に異物が残っている場合、その異物は、押出部材15にいち早く接触する。押出部材15が異物に接触すると、押出用サーボモータ27のトルクが変化する。制御部18は、押出用サーボモータ27のトルクが上記閾値を越えて変動した時に、押出部材15が異物に接触したと判定し、異物を検知する。すなわち、制御部18は、上記閾値にトルクリミットをかけておき、押出用サーボモータ27のトルクが上記トルクリミットに掛かった時点で、異物検出処理を行う。
【0050】
なお、上記例では、制御部18は、押出用サーボモータ27のトルク(すなわち押出用駆動機構16のトルク)を監視したが、これに代えて、またはこれに加えて、押出部材15の位置、押出用駆動機構16の位置、押出用駆動機構16の速度、または押出用駆動機構16の加速度のいずれか一つまたは複数を監視してもよい。押出部材15が移動盤13に対して静止された状態では、移動盤13に対する押出部材15の相対位置の変化、押出部材15の速度、および押出部材15の加速度も、ゼロで一定である。
【0051】
また制御部18は、図4及び図5に示すように、型閉動作が進むに従い押出部材15を後退(図1中の左移動)させる。この押出部材15の後退は、固定金型21と移動金型22との間隔に基づいて、押出部材15が固定金型21に接触しないように行われる。
【0052】
より詳しく述べると、固定金型21と移動金型22との間隔は、押出部材15の位置と移動盤13の移動量に基づき算出される。制御部18は、型閉動作の途中から、移動盤13の動作に合わせて、押出部材15が固定金型21に接触しないように、押出部材15を戻しながら型閉じを完了させる。すなわち、制御部18は、型閉動作が進むに従い押出部材15を後退させ、押出部材15が固定金型21に接触しないように制御する。
【0053】
換言すれば、金型位置の変化パターンは、例えば型締サーボモータ47の動作及びトグル機構の構成などに基づき、予め計算可能である。制御部18は、上記変化パターンに合致するように押出部材15を後退させる。すなわち、制御部18は、型閉動作が進み、金型位置が押出部材15の押出量StEに達する時点で、押出部材15の後退動作を開始させる。そして、移動金型22が固定金型21にタッチする時点では、押出部材15の先端が移動金型22から突出しない位置まで戻される。なお、「金型位置」とは、固定金型21と移動金型22との間の間隔のことである。
【0054】
また制御部18は、図3中に模試的に示すように、異常時動作停止モジュール82と、異常時動作処理モジュール83とを含む。異常時動作停止モジュール82は、「異常時動作停止手段」の一例である。異常時動作停止モジュール82は、異物が検知された時に、型締駆動機構17の動作を停止させる。
【0055】
異常時動作処理モジュール83は、「異常時動作処理手段」の一例である。異常時動作処理モジュール83は、異物が検知された時に、押出部材15を後退させる。異常時動作処理モジュール83は、押出部材15を、例えば後退限(押出部材15の先端が移動金型22から突出しない位置)まで後退させる。
【0056】
なお、異常時動作停止モジュール82及び異常時動作処理モジュール83は、それぞれハードウエアで実現されてもよいが、ソフトウエア(すなわち制御プログラムの一部)で実現されてもよい。
【0057】
なお、次に、制御部18の一つの変形例について説明する。
制御部18の別の一例は、型閉動作が良好に行われた時の押出部材15または押出用駆動機構16の状態に関する情報を記憶(記録)する。制御部18は、型閉動作が良好に行われた時の、例えば、押出部材15の位置、押出用駆動機構16の位置、押出用駆動機構16の速度、押出用駆動機構16の加速度、または押出用駆動機構16のトルクの変化パターンを記憶する。
【0058】
制御部18は、第1の検出部31の情報から得られた押出部材15または押出用駆動機構16の状態に関する数値(実測値)を、制御部18に記憶された型閉動作が良好に行われた時の変化パターンと比較する。制御部18は、第1の検出部31の情報から得られた数値が、記憶された上記変化パターンに予め設定された閾値を越えて変動した時に、押出部材15が異物に接触したと判定し、異物を検知する。
【0059】
具体的には、制御部18は、例えば、予め算出した速度パターンと実速度との差を計算し、その差が所定量以上に大きくなったときに異常検出処理を行う。また、制御部18は、これに代えて、予め算出した位置パターンと実位置との差、予め算出した加速度パターンと実加速度との差、或いは正常動作時のトルクパターンと実トルクとの差に基づいて、異常検出処理を行ってもよい。なお、これら検出方法は、単独で用いられてもよく、複数組み合わせて用いられてもよい。
【0060】
このような構成によれば、異常検出の精度を向上させることができる。
【0061】
比較のため、移動盤13を動かす型締サーボモータ47のトルクを監視し、正常動作時と比較することで異常検出を行う成形機について考える。この場合、挟み込んだ成形品が金型と当たった時の衝撃や、成形品を潰すことによるモータトルクの変化を検出することになる。
【0062】
ここで、金型22や移動盤13の重量は大きいため、移動盤13を動かすのに必要なトルクもまた大きくなる。一方で、金属である金型22や移動盤13に比べて、成形品は軽く軟らかいため、成形品が金型と当たった時の衝撃や、成形品を潰すことによるモータトルクの変化は、変化量としては非常に小さい。このため、正常動作時と比較してモータトルクの変化量が明瞭になった時点では、成形品が既に大きく潰れ、金型が損傷している可能性がある。
【0063】
また、射出装置3の給脂状態などによって、型締サーボモータ47のトルクにはある程度のばらつきが生じる。さらに、型締サーボモータ47は、型閉動作を行うモータであり、型閉動作中には駆動されている。すなわち、図2に示すように、型締サーボモータ47は、型閉動作中に、移動盤13を移動させる加速トルク及び減速トルクを含む大きなトルク変動がある。このような駆動中のモータのトルクは、ガイドの摺動抵抗やその他の外乱要因にも影響され、大きくばらつきやすい。そのため、正常動作時と比較して異常を判定するための閾値は、上記ばらつきを考慮した余裕を持たせた値となる。この点からもモータトルクの変化量が明瞭になった時点では、成形品が既に大きく潰れ、金型が損傷している可能性がある。
【0064】
一方で、本実施形態に係る射出成形機1は、押出部材15を押し出した状態で型閉動作を行い、押出部材15または押出用駆動機構16の状態の変化から異物を検知する異常検知手段81を備えている。
【0065】
ここで、押出部材15は、移動盤13などに比べて、イナーシャ(すなわち動く部分の重さ)が小さい。すなわち、押出部材15を駆動させる押出用サーボモータ27のトルクは、型締サーボモータ47のトルクに比べて小さい。このため、型閉動作中に押出部材15が成形品と当たった時の衝撃は、モータトルクの変化として明瞭に現れやすい。これにより、異物を大きく潰す前に異物を検出することができ、異常検出の精度を向上させることができる。
【0066】
さらに、本実施形態では、押出部材15は、型閉動作中に押し出された状態で待機され、移動盤13に対して静止される。このため、図2に示すように、押出用サーボモータ27のトルクは、基本的にゼロで一定になる。このような待機中のモータのトルクには、ばらつきが生じにくく、閾値の値を小さく設定することができる。このため、押出用サーボモータ27のトルクが少し変動しただけでも、その変動から異常を検出することができ、異物の検出精度をさらに高めることができる。
【0067】
また、本実施形態では、押出部材15の接触で金型保護機能が作動するため、金型は損傷しにくい。すなわち、押出部材15のみの損傷で、型締工程を停止させることができる可能性がある。つまり、金型に比べて安価な押出部材15(例えば押出ピン26)のみの交換ですむ。結果、メンテナンスコスト(保守費用)を抑制することができる。
【0068】
また、押出部材15は、成形品取り出し時に使用される部材であり、多くの既存の成形機が一般的に備えている。本実施形態によれば、型閉動作では通常使用されない押出部材15を有効活用することで、他に特殊な追加部材を設けることなく、異常検出の精度を向上させることができる。すなわち本実施形態の射出成形機1は、既存の成形機の制御プログラムを入れ替えることで、大きなコストをかけることなく実現することができる。
【0069】
また本実施形態では、異物が検出された時点で、押出部材15を後退限まで下げることで、押出部材15の損傷防止を図ることができる。
【0070】
なお本実施形態の制御部18は、上記内容に加えて、例えば第2の検出部51から送られた情報に基づき、異常検出動作を補完してもよい。すなわち制御部18は、第2の検出部51から受け取る型締状態に関する情報を監視する。そして、固定金型21と移動金型22との間に異物が挟まれた時に、型締状態の変化から異物を検知する。
【0071】
すなわち、制御部18は、例えば、移動盤13や型締駆動機構17の位置、移動盤13や型締駆動機構17の速度、移動盤13や型締駆動機構17の加速度、または型締駆動機構17のトルクなどの変動に対して閾値を設定しておき、上記変動が閾値を越えた時に異物を検知する。このような構成によれば、押出部材15に接触しない位置に成形品が残ってしまったときでも、成形品の残留を検知することができる。
【0072】
以上、本発明の一つの実施形態について説明したが、本発明の実施形態はこれらに限定されるものではない。また、本発明は、型閉動作の全工程(型閉動作の動作全体)に適用するだけでなく、型閉動作中の一部の区間(すなわち型閉動作のある一部分での動作)のみに適用するようにしてもよい。すなわち、型締ストロークの一部分についてのみ金型保護を有効にしてもよい。本発明は、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。本発明は、射出成形機に限らず、ダイカストマシンやトランスファ成形機、プレス機など他の成形機にも適用することができる。
【符号の説明】
【0073】
1…射出成形機、2…型締装置、3…射出装置、12…固定盤、13…移動盤、15…押出部材、16…押出用駆動機構、17…型締駆動機構、18…制御部、21…固定金型、22…移動金型、31…第1の検出部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定金型が取り付けられる固定盤と、
移動金型が取り付けられる移動盤と、
前記移動盤を進退させる型締駆動機構と、
前記移動盤に保持され、前記移動金型から成形品を剥離させる押出部材と、
前記押出部材を押し出す押出用駆動機構と、
型閉動作前または型閉動作中に前記押出部材を押し出し、前記押出部材を押し出した状態で型閉動作を行い、前記押出部材が異物に接触した時に、前記押出部材または前記押出用駆動機構の状態の変化から異物を検知する異常検知手段と、
を具備したことを特徴とする型締装置。
【請求項2】
請求項1の記載において、
前記押出部材は、型閉動作中に押し出された状態で前記移動盤に対して静止され、前記異常検知手段は、前記押出部材が前記移動盤に対して静止された状態で、前記押出部材または前記押出用駆動機構の状態の変化を監視することを特徴とする型締装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2の記載において、
前記異常検知手段は、前記押出部材の位置、前記押出用駆動機構の位置、前記押出用駆動機構の速度、前記押出用駆動機構の加速度、または前記押出用駆動機構のトルクの変化から、前記押出部材が異物に接触したことを検知することを特徴とする型締装置。
【請求項4】
請求項1または請求項2の記載において、
前記異常検知手段は、型閉動作が良好に行われた時の前記押出部材の位置、前記押出用駆動機構の位置、前記押出用駆動機構の速度、前記押出用駆動機構の加速度、または前記押出用駆動機構のトルクの変化パターンを記憶し、検出された前記押出部材の位置、前記押出用駆動機構の位置、前記押出用駆動機構の速度、前記押出用駆動機構の加速度、または前記押出用駆動機構のトルクを前記変化パターンと比較することで、前記押出部材が異物に接触したことを検知することを特徴とする型締装置。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれか1項の記載において、
前記異常検知手段は、前記押出部材を予め押し出した状態にしてから、型閉動作を行うことを特徴とする型締装置。
【請求項6】
請求項1乃至請求項4のいずれか1項の記載において、
前記異常検知手段は、型閉動作中に前記押出部材を予め設定された位置まで押し出すことを特徴とする型締装置。
【請求項7】
請求項1乃至請求項6のいずれか1項の記載において、
前記異常検知手段は、型閉動作が進むに従い前記押出部材を後退させることを特徴とする型締装置。
【請求項8】
請求項7の記載において、
前記押出部材の後退は、前記移動金型と前記固定金型との間隔に基づいて、前記押出部材が前記固定金型に接触しないように行われることを特徴とする型締装置。
【請求項9】
請求項1乃至請求項8のいずれか1項の記載において、
前記異常検知手段が異物を検知した時に、前記型締駆動機構の動作を停止させる異常時動作停止手段を備えたことを特徴とする型締装置。
【請求項10】
請求項1乃至請求項9のいずれか1項の記載において、
前記異常検知手段が異物を検知した時に、前記押出部材を後退させる異常時動作処理手段を備えたことを特徴とする型締装置。
【請求項11】
固定金型が取り付けられる固定盤と、
移動金型が取り付けられる移動盤と、
前記移動盤を進退させる型締駆動機構と、
前記移動盤に保持され、前記移動金型から成形品を剥離させる押出部材と、
前記押出部材を押し出す押出用駆動機構と、
型閉動作中に、前記押出部材または前記押出用駆動機構の状態の変化から異物を検知する異常検知手段と、
を具備したことを特徴とする型締装置。
【請求項12】
請求項1乃至請求項11のいずれか1項に記載の型締装置と、
射出装置と、
を具備したことを特徴とする成形機。
【請求項13】
固定金型が取り付けられる固定盤と、
移動金型が取り付けられる移動盤と、
前記移動盤を進退させる型締駆動機構と、
前記移動盤に保持され、前記移動金型から成形品を剥離させる押出部材と、
前記押出部材を押し出す押出用駆動機構と、
を備えた型締装置において、
型閉動作前または型閉動作中に前記押出部材を押し出し、前記押出部材を押し出した状態で型閉動作を行い、前記押出部材が異物に接触した時に、前記押出部材または前記押出用駆動機構の状態の変化から異物を検知することを特徴とする型締装置の制御方法。
【請求項14】
請求項13の記載において、
前記押出部材を、型閉動作中に押し出された状態で前記移動盤に対して静止させ、前記押出部材が前記移動盤に対して静止された状態で、前記押出部材または前記押出用駆動機構の状態の変化を監視することを特徴とする型締装置の制御方法。
【請求項15】
請求項13または請求項14の記載において、
前記押出部材の位置、前記押出用駆動機構の位置、前記押出用駆動機構の速度、前記押出用駆動機構の加速度、または前記押出用駆動機構のトルクの変化から、前記押出部材が異物に接触したことを検知することを特徴とする型締装置の制御方法。
【請求項16】
請求項13または請求項14の記載において、
型閉動作が良好に行われた時の前記押出部材の位置、前記押出用駆動機構の位置、前記押出用駆動機構の速度、前記押出用駆動機構の加速度、または前記押出用駆動機構のトルクの変化パターンを記憶し、検出された前記押出部材の位置、前記押出用駆動機構の位置、前記押出用駆動機構の速度、前記押出用駆動機構の加速度、または前記押出用駆動機構のトルクを前記変化パターンと比較することで、前記押出部材が異物に接触したことを検知することを特徴とする型締装置の制御方法。
【請求項17】
請求項13乃至請求項16のいずれか1項の記載において、
前記押出部材を予め押し出した状態にしてから、型閉動作を行うことを特徴とする型締装置の制御方法。
【請求項18】
請求項13乃至請求項16のいずれか1項の記載において、
型閉動作中に前記押出部材を予め設定された位置まで押し出すことを特徴とする型締装置の制御方法。
【請求項19】
請求項13乃至請求項18のいずれか1項の記載において、
型閉動作が進むに従い前記押出部材を後退させることを特徴とする型締装置の制御方法。
【請求項20】
請求項19の記載において、
前記押出部材の後退は、前記固定金型と前記移動金型との間隔に基づいて、前記押出部材が前記固定金型に接触しないように行われることを特徴とする型締装置の制御方法。
【請求項21】
請求項13乃至請求項20のいずれか1項の記載において、
異物を検知した時に、前記型締駆動機構の動作を停止させることを特徴とする型締装置の制御方法。
【請求項22】
請求項13乃至請求項21のいずれか1項の記載において、
異物を検知した時に、前記押出部材を後退させることを特徴とする型締装置の制御方法。
【請求項23】
固定金型が取り付けられる固定盤と、
移動金型が取り付けられる移動盤と、
前記移動盤を進退させる型締駆動機構と、
前記移動盤に保持され、前記移動金型から成形品を剥離させる押出部材と、
前記押出部材を押し出す押出用駆動機構と、
を備えた型締装置において、
型閉動作中に、前記押出部材または前記押出用駆動機構の状態の変化から異物を検知することを特徴とする型締装置の制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−245743(P2012−245743A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−120857(P2011−120857)
【出願日】平成23年5月30日(2011.5.30)
【出願人】(000003458)東芝機械株式会社 (843)
【Fターム(参考)】