説明

型締装置の制御方法

【課題】型開完了位置で安全装置を確実に係合させることができる型締装置の制御方法を提供することを目的とする。
【解決手段】複数の係合段部9を有する安全棒7と、安全扉開放時に前記係合段部9に係合可能となるように構成された係合板10からなる安全装置6を備えた型締装置13の制御方法であって、型開完了位置で前記係合板10が前記係合段部9に係合可能となるようにする調整を型開完了設定値Dに対して実施することとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、安全扉に連動して機械的に型閉動作を阻止する成形機の型締装置における制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
射出成形機等の型締装置は極めて強大な型締め力を有しており、作業者が移動する金型や可動盤に接触した場合には、負傷する危険がある。そのため、型締装置の移動部分には、作業者が接近できないように安全扉を設けるとともに、安全扉を開放したときには電気的・油圧的に作用するインターロックを設けて型締装置が型閉じ作動をしないように構成している。しかしながら、そのようなインターロックは、リミットスイッチ、油圧弁、制御装置等に故障が発生する可能性が存在するかぎり、完全な作動は保障されていない。
そこで、確実に型閉じを阻止する機械式のものとして、係合段部を有する安全棒とそれに係合する係合板を備えた安全装置が用いられている。この安全装置には、金型の厚さに応じて係合段部と係合板との係合位置を調整可能にした調整式のものと、係合棒と係合板は可動盤と型締盤に移動不能に取り付けられて調整不能にした無調整式のものとがある。無調整式の安全装置は、調整の手間が省けて便利ではあるが、金型厚さや可動盤の型開完了位置の変更に伴って係合段部と係合板との係合状態が変化し、係合出来ずに係合板が係合段部の頂部に当接する状況も現出する。そのような状況で型閉じしたときには、係合板は自重及び/又は弾発力で係合段部を押圧するのみであるため、係合板が係合段部を乗り越えて係合できず、型閉じを阻止することができないこともある。
【0003】
特許文献1には、係合板をエアシリンダで前進駆動させて係合段部と強制的に係合させる技術が開示されている。しかしながら、特許文献1の技術によれば、係合の確率は増加するであろうが、電気・空圧的な手段が介在することにより故障の確率も増加する。さらに、係合板が係合段部の頂部に当接して係合出来ない状況から型閉じして係合することが一定確率で発生することは避けられないのである。
【0004】
【特許文献1】実公平4−23621号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記した問題を解決すべくなされたものであって、型開完了位置で安全装置を確実に係合させることができる型締装置の制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、請求項1に記載の発明は、複数の係合段部を有する安全棒と、安全扉開放時に前記安全棒に向けて移動されるように構成された係合板からなる安全装置を備えた型締装置の制御方法であって、型開完了位置で前記係合板が前記係合段部に係合可能となるように可動盤停止位置を調整することを特徴とすることをその要旨としている。
【0007】
請求項2に記載の発明は、複数の係合段部を有する安全棒と、安全扉開放時に前記安全棒に向けて移動されるように構成された係合板からなる安全装置を備えた型締装置の制御方法であって、型開完了位置で前記係合板が前記係合段部に係合可能となるようにする調整を型開完了設定値に対して実施することをその要旨としている。
【0008】
これら請求項1と請求項2はそれぞれ、型開完了位置で安全装置を確実に係合させることができる。
【0009】
請求項3に記載の発明は、請求項1または請求項2に記載の型締装置の制御方法において、前記調整を型開低速設定値に対しても行うことをその要旨としている。
【0010】
これによれば、型開き高速が低速に変化する時点は遅延せず、安全に型開き作動を行うことができる。
【0011】
請求項4に記載の発明は、請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の型締装置の制御方法において、前記調整は、前記係合段部のピッチと、前記型締装置のデイライトと、型厚設定値と、型開完了設定値とに基づいて演算する調整量により実施することをその要旨としている。
【0012】
これによれば、調整量がより明確に求められ、型開完了位置で安全装置を確実に係合させることができる。
【0013】
請求項5に記載の発明は、請求項4に記載の型締装置の制御方法において、前記調整量は、デイライトから型厚設定値と型開完了設定値との和を減算した値をピッチで除した商の剰余に基づいて演算されることをその要旨としている。
【0014】
これによれば、調整量がさらに明確に求められ、型開完了位置で安全装置を確実に係合させることができる。
【0015】
請求項6に記載の発明は、請求項4又は5に記載の型締装置の制御方法において、前記調整は、作業者が前記調整量を確認し採否を判断した後に実行されることをその要旨としている。
【0016】
これによれば、極めて安全な制御を行うことができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明は、複数の係合段部を有する安全棒と、安全扉開放時に前記安全棒に向けて移動されるように構成された係合板からなる安全装置を備えた型締装置の制御方法であって、型開完了位置で前記係合板が前記係合段部に係合可能となるように可動盤停止位置を調整するので、型開完了位置で安全装置を確実に係合させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
図面に基づいて、本発明の実施の形態を詳細に説明する。図1は、本発明の制御方法を実施する型締装置の平面図である。図2は、本発明の制御方法を実施する型締装置の部分側面図である。図3は、安全装置が係合した状態を示す拡大平面図である。図4は、本発明の制御方法を示す流れ図である。
【0019】
型締装置13は、射出成形機、圧縮成形機、熱成形機等に採用されるものであり、横型であるか縦型であるかは問わない。
【0020】
型締装置13は、固定盤1と、固定盤1に対向して型開閉移動する可動盤2と、可動盤2を制御装置5の司令信号で型開閉・型締駆動する型締手段4と、型締手段4の可動盤2側端部を形成し可動盤2を挿通して固定盤1との間に張設する図示しないタイバを固着する型締盤3とからなる。型締手段4は、直圧式、トグル式に大別され、それぞれの駆動方式にはシリンダを用いた油圧式・空圧式やボール螺子を用いた機械式等がある。このように、型締装置は様々な型締手段を備え得るが、本発明の安全装置は、その取付箇所と型締盤の構成を変化させることにより、どのような型締装置にも適用できる。
【0021】
可動盤2の側面には取付座8が設けられ、取付座8には安全棒7の一端が挿通して固着されている。安全棒7の一端近傍には何も設けられず、安全棒7の他端過半部には係合段部9が等間隔のピッチPで複数設けられている。係合段部9の外径は、一端部と同径に形成されている。係合段部9は、断面形状で余裕幅Eを有する鋸歯状であることが好ましいが、円弧状であってもよい。また、係合段部9は、安全棒7の外周に環状に設けられているが、安全棒の外周の一部の面のみに設けてもよい。特に、安全棒が角棒である場合には、その一面のみに係合段部を設けることが効果的である。
【0022】
安全棒7の他端部は、案内板12を介して摺動可能に型締盤3の側面に取り付けられている。係合板10は、案内板12に旋回可能に軸支されている。係合板10の軸支部の延長部分にはローラ11が設けられている。ローラ11は、図示しない安全扉が閉鎖されたとき、図示しないカム等で下方に押圧されるようになっている。それにより、係合板10は上方へ旋回して係合段部9との係合を解くのである。安全扉を開放したときには、ローラ11への下向きの力が解除され、係合板10は自重又は図示しない弾発体やエアシリンダ等の他の駆動手段により下降して安全棒7へ向けて移動する。そして安全棒7の係合段部9間の溝に直接係合板10が入り込む場合と、最初に係合段部の頂部に当接され、その後安全棒7の移動により係合段部9間の溝に係合板10が入り込む場合がある。そして係合段部9間の溝に係合板10が入り込んだ状態から型閉じ作動が行われると、可動盤2は安全棒7を牽引し、牽引力は係合段部9と係合板10との係合部から案内板12を介して型締盤3に伝達されるので、型閉が阻止されるのである。このように、安全装置6は、安全棒7と係合板10とから構成される。なお、ローラ11は必須のものではなく、特に、係合板10の旋回を他の駆動手段のみで行う場合には不要である。また、係合板10の移動を旋回ではなく、直線往復移動としてもよい。またさらに、安全棒と係合板の取り付け箇所は、型締装置の型締手段の方式に応じて、固定盤と可動盤の間、固定盤や型締盤の架台と可動盤の間、トグル式での受圧盤(型締盤)と可動盤の間、トグル式でのクロスヘッドと受圧盤の間、トグル式での受圧盤の架台とクロスヘッドの間等としてもよい。トグル式での受圧盤(型締盤)と可動盤の間に安全棒を取り付ける場合は、トグルリンクの最後退位置に対して安全棒の最初のピッチが係合可能に設けられており、前記最初のピッチを起点にして型開完了位置に対応するピッチ(係合段部の番号)が演算され、可動盤停止位置が調整される。
【0023】
図1に示すように、可動盤2は、型締手段4の機構的な構成でその移動距離が決定される。すなわち、可動盤2は、最小型厚Mを最も固定盤1に接近する位置とし、デイライトLを最も固定盤1から離隔した位置としてその間を型開閉移動可能とされている。そして、安全棒7は、可動盤2が最小型厚M位置にあるとき(図1の状態)、案内板12から係合段部9がすべて脱出した位置となるように設定されている。さらに、安全棒7は、可動盤2がデイライトL位置にあるとき(図1の二点鎖線又は図2の状態)、安全棒7の一端側の最初の係合段部9に係合板10が係合するように設定されている。
【0024】
安全装置6は、このように構成・設定されているので、型厚が型厚設定値Bの金型を固定盤1と可動盤2に取り付け、型開完了位置を型開完了設定値Dとして制御装置5に設定した場合、型開完了時における係合部は、型厚設定値Bと型開完了設定値Dの値に応じて係合するときと、係合板10が係合段部9に安全棒7の軸に直角の方向から接触して係合しないときとが現れる。
【0025】
ところで、図1と図3から、係合するときの係合段部の数N(係合段部の番号)(小数点以下切り捨て)は次の式で求められる。
N=[L−(B+D)]/P
そして、N算出時の剰余Tは、
T=L−(B+D)−N・P
となる。
ここで、係合部を係合させるに要する型開完了設定値Dの調整量Hを求めると、
H=P−T−E
である。ただし演算した調整量Hが零以下のときは無効とし零と見做す。また剰余Tが零の場合も調整量Hを零と見做す。このようにして求めた調整量Hを型開完了設定値Dから減算すれば、係合部を型開完了時に係合させることのできる型開完了設定値D´を求めることができ、制御装置5は上記演算を実行するとともに、型開完了設定値Dの調整を行う。これにより、安全棒7を移動調整することなく、型開完了位置で安全装置6を確実にいずれかの係合段部9に係合させることができる。
なお、型開完了設定値Dの調整に伴って、型開完了位置に到達する距離が短縮され、高速型開きを低速型開きに変化させる型開低速切換え時点が相対的に遅延することになり金型に衝撃を与える虞があるので、型開低速設定値Cも型開完了設定値Dと同様に調整量Hを減算して型開低速設定値C´に調整することが好ましい。これにより、安全な制御が設定変更の手間を要せずに得られる。
【0026】
次に、制御装置5における型締装置13の設定・制御方法について図4の流れ図を参照して説明する。
【0027】
制御装置5は、マイクロプロセッサに基づいて構成されており、液晶パネル等からなる設定・操作・表示手段を備える。そして、設定・操作・表示手段には、型開完了位置制限選択スイッチと、調整量表示と、調整実行確認選択スイッチとが設けられている。
【0028】
型開完了位置設定を行うか、又は、型開完了位置制限選択スイッチを操作する(S1)。制御装置5は、型開完了位置制限選択スイッチがONかOFFかを確認し(S2)、OFFであればS8へ進んで型開完了設定値Dや型開低速設定値Cの調整を実行せずその設定値を維持して終了する。型開完了位置制限選択スイッチがONのときには、制御装置5は上記した調整量Hを求める演算を実行する。そして、調整量Hが零か否かを確認し(S3)、零であればS8へ進んで型開完了設定値Dや型開低速設定値Cの調整を実行せずその設定値を維持して終了する。調整量Hが零を越える値であるときには、設定・操作・表示手段にその値を表示する(S4)。作業者は、表示された調整量Hの値を確認して調整を実行するか中止するかを判断する(S5)。作業者が調整を中止すると判断して調整実行確認選択スイッチをOFFしたときには、制御装置5は型開完了位置制限選択スイッチをOFFにした(S7)後、S8へ進んで型開完了設定値Dや型開低速設定値Cの調整を実行せずその設定値を維持して終了する。作業者が調整を実行すると判断して調整実行確認選択スイッチをONしたときには、制御装置5は、型開完了設定値Dと型開低速設定値Cから調整量Hをそれぞれ減算して型開完了設定値D´と型開低速設定値C´を求め、型開完了設定値Dと型開低速設定値Cを型開完了設定値D´と型開低速設定値C´にそれぞれ変更して(S6)終了する。
【0029】
このように、調整量Hは制御装置5の設定・操作・表示手段に表示されて、作業者がその数値を確認し問題が生ずることなく適切なものであることを判断したうえで調整を実行させるようにしたので、極めて安全な制御を行うことができる。しかしながら、調整量Hによる型開完了設定値Dや型開低速設定値Cの調整を作業者の確認を経ずに自動的に行わせることが可能であることは言うまでもない。また制御装置5の設定・操作・表示手段に、安全棒の係合段部に対して直接係合可能な型開完了位置を位置表示または番号表示してその中から作業者が選択するものでもよい。更には例えば金型のメンテナンスモード等のモードを選択入力した場合に、自動的に安全棒の係合段部に係合可能な型開完了位置が選択されるものでもよく、射出成形機が自動的に成形サイクルや取出機との関係から型開完了位置を演算設定するものでもよい。
【0030】
また本発明は、下方の固定盤に対して上方の可動盤が昇降するタイプの縦型射出成形機の型締装置の場合に有効である。上方の可動盤が昇降する型締装置に取付けられる安全装置は、固定盤と可動盤のいずれか一方の盤の側方に複数の係合段部を有する安全棒が段部の水平部を上方に向けて鉛直方向に取付けられ、安全棒の他方はいずれか他方の盤の側方に位置している。そして前記他方の盤には、安全扉開放時にエアシリンダまたはバネの作動により、安全棒に向けて移動され、段部と位置が合致した際に係合される係合板が取付けられている。
【0031】
縦型射出成形機の型締装置の型開制御についても、可動盤が上昇した際の型開完了停止位置は、型開完了位置の設定値による停止位置ではなく、安全棒のいずれかの段部に係合板が係止可能な位置に停止されるよう制御される点は先の横型の型締装置の例と同じである。そして例えば型開閉機構が油圧シリンダからなり油漏れにより可動盤が下降した等の理由によって、安全棒に対して係合板が係止可能な位置にない場合については、光電管やリミットスイッチ等により検出され、信号が制御装置に送られる。そして制御装置では、再度可動盤を安全棒に対して係合板が係止可能な位置へ移動させるか、または警報を発して装置を停止する。
【0032】
なお、本発明は、当業者の知識に基づいて様々な変更、修正、改良等を加えた態様において実施され得るものを含む。また、前記変更等を加えた実施態様が、本発明の趣旨を逸脱しない限りいずれも本発明の範囲内に含まれるものであることは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の制御方法を実施する型締装置の平面図である。
【図2】本発明の制御方法を実施する型締装置の部分側面図である。
【図3】安全装置が係合した状態を示す拡大平面図である。
【図4】本発明の制御方法を示す流れ図である。
【符号の説明】
【0034】
1 固定盤
2 可動盤
3 型締盤
4 型締手段
5 制御装置
6 安全装置
7 安全棒
8 取付座
9 係合段部
10 係合板
11 ローラ
12 案内板
13 型締装置
B 型厚設定値
C 型開低速設定値
D 型開完了設定値
E 余裕幅
L デイライト
M 最小型厚
P ピッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の係合段部を有する安全棒と、安全扉開放時に前記安全棒に向けて移動されるように構成された係合板からなる安全装置を備えた型締装置の制御方法であって、型開完了位置で前記係合板が前記係合段部に係合可能となるように可動盤停止位置を調整することを特徴とする型締装置の制御方法。
【請求項2】
複数の係合段部を有する安全棒と、安全扉開放時に前記安全棒に向けて移動されるように構成された係合板からなる安全装置を備えた型締装置の制御方法であって、型開完了位置で前記係合板が前記係合段部に係合可能となるようにする調整を型開完了設定値に対して実施することを特徴とする型締装置の制御方法。
【請求項3】
前記調整を型開低速設定値に対しても行う請求項1または請求項2に記載の型締装置の制御方法。
【請求項4】
前記調整は、前記係合段部のピッチと、前記型締装置のデイライトと、型厚設定値と、型開完了設定値とに基づいて演算する調整量により実施する請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の型締装置の制御方法。
【請求項5】
前記調整量は、デイライトから型厚設定値と型開完了設定値との和を減算した値をピッチで除した商の剰余に基づいて演算される請求項4に記載の型締装置の制御方法。
【請求項6】
前記調整は、作業者が前記調整量を確認し採否を判断した後に実行される請求項4又は5に記載の型締装置の制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−99938(P2010−99938A)
【公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−273662(P2008−273662)
【出願日】平成20年10月24日(2008.10.24)
【出願人】(000155159)株式会社名機製作所 (255)
【Fターム(参考)】