説明

基材を染色するための方法及び組成物

【課題】
基材上にディジタル処理画像を形成するための、速くて信頼性があり且つ安価な方法及び組成物を提供する。
【解決手段】
着色剤溶液を用いて基材上に画像を形成するための方法及び組成物を開示する。基材上に画像を形成する方法は、反応性着色剤と放射線吸収剤とを含んで成る着色剤溶液を基材に適用するステップを含む。基材を染色するための組成物は、放射線吸収剤と、放射線への曝露時に色を生成し得る反応性着色剤とを含む。当該着色剤溶液を利用するシステムもまた開示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して、基材を染色することに関し、詳細には、反応性着色剤を用いて基材上に画像を形成するための方法及び組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
布地印刷産業では、布地は、典型的にスクリーン印刷技術を用いて、染料又は顔料のような着色剤で染色される。大規模な布地印刷工程のほとんどが、円筒形に成型された微細な金属スクリーン中に組み込まれたパターンを利用するロータリースクリーン印刷技術を採用している。多くの場合液体ペースト状である着色剤は、配管を通して円筒金属スクリーン中に輸送され、次いで、スクリーンを通して且つ布地上へ当該ペーストを押し付けるスクイージによって微細金属スクリーンのパターン化された目を通して、布地へ転写される。
【0003】
配管及びスクリーンから種々のカラーペーストを洗浄除去するためには、ロータリースクリーンプリンタを停止させなければならない。この洗浄工程は、時間が掛かる上、洗浄工程中に大量の廃液流を生ずるため環境に優しくない。ロータリースクリーンプリンタを洗浄する必要があることに加えて、布地上に様々なパターンを印刷できるよう種々のスクリーンをプリンタ中に挿入し、軸合せし、そして調節する必要もある。
【0004】
産業規模よりも小規模に利用できる印刷プロセスに対する要望に適うために、布地上へのディジタルインクジェット印刷プロセスが開発されてきている。当業者には既知のように、インクジェットプリンタのノズルからターゲット表面(例えば紙や布地など)上に向けて射出されるインク着色剤からなる微小液滴を利用するディジタルプリンタもある。布地上に所望の印刷品質の画像あるいはパターンを生成するためには、特別の前処理及び後処理プロセスが用いられる。
【0005】
インク受容層を付着させ、次いで布地及びインク受容層を最適な印刷品質へと整えるべく、前印刷及び後印刷工程が用いられる。最終的に、着色剤は、布地の繊維に当該着色剤を物理的に又は化学的に定着させる定着工程(後処理)を必要とする。前印刷調整ステップは、布地の湿度及び温度をまず制御して布地の最適インク受容状態をもたらすために用いられ、そして後処理ステップは、インク着色剤が布地の繊維によって受容された後、布地に当該インク着色剤を「定着」させるために用いられる。加えて、有機材料による布地の前処理によって、インク受容性が高まり且つ布地の繊維に沿った印刷インクのにじみに起因するインクの拡がりの程度が軽減される。
【0006】
このように、印刷プロセスにおいて基材に織物を用いることで、多くの問題が生じる。布地用のエネルギー重合性スクリーン印刷インクを開発すべく幾多の試みがなされており、その試みの幾つかにおいては、織物に適用される際に織物にしっかり付着するインク又はコーティングを開発することに主眼が置かれている。この方法によれば、印刷されたパターンは、色堅牢性、剥離耐性を有し、且つ通常の着衣条件下あるいは洗浄条件下では劣化しないであろう。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
布地上へのインクジェット印刷技術は既に存在しているものの、布地上に印刷された画像の歪みは、不変の課題である。画像の歪みを避けるために、インクジェットシステムは、布地の伸張抑制、布地の調整、及び印刷工程時の布地の動きをはじめとする問題に取り組む必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
基材を染色するための方法及び組成物に関し記載する。本発明の方法及び組成物は、基材上にディジタル処理画像を形成するための、速くて信頼性があり且つ安価な「インクレス」法に関する。
【0009】
一実施形態では、基材上に画像を形成する方法が提供される。当該方法は、反応性着色剤と放射線吸収剤とを含有する着色剤溶液を基材に適用するステップを包含する。同方法はさらに、前記基材の着色剤溶液の少なくとも一部を放射線に曝して、反応性着色剤に可視染料を形成させるステップも包含する。
【0010】
別の実施形態では、基材を染色するための組成物が提供される。当該組成物は、放射線吸収剤、並びに放射線に曝されると基材上で色を生成し得る反応性着色剤を含有する。他の実施形態では、基材を染色するための組成物は、放射線吸収剤、並びに放射線に曝された際に基材上で色を生成するための手段を含んで成る。
【0011】
さらに別の実施形態では、画像を受容するための基材は、当該基材の少なくとも一部をコーティングしている着色剤溶液を含む。当該着色剤溶液は、放射線を吸収するための手段、並びに放射線に曝されると基材上で色を生成し得る反応性着色剤を含んで成る。
【0012】
基材上に画像を形成するためのシステムは、画像を受容するための基材を含み、この場合、当該基材は、反応性着色剤と放射線吸収剤とを含有する着色剤溶液によってコーティングされる。当該システムはさらに、放射線源を含む。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、基材上にディジタル処理画像を形成するための、速くて信頼性があり且つ安価な方法及び組成物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明は、基材上に画像を形成するのに用いられる方法及び組成物に関する。1つの方法は、反応性着色剤と放射線吸収剤を含有する着色剤溶液を基材に適用し、次いでその基材の一部を放射線に曝して反応性着色剤に色を発現させるステップを包含する。他の実施形態では、色の形成を促進させるために、着色剤溶液に、任意に現像液を添加することができる。
【0015】
本明細書では、用語「放射線吸収剤」は、所定の周波数の電磁放射線に曝される際に、熱を発生し還元反応を起こさせるか、あるいはまた接触している周囲の分子にエネルギーを転移し得るところの、電磁放射線感応剤を表すために用いる。所定の周波数は、放射線吸収剤毎に異なり得る。当該放射線吸収剤は、染料を形成し得る反応性着色剤と混合されるか又はそれと接触して配置される場合に、所定の周波数に曝される際に反応性着色剤に染料を形成させることができるよう十分な量で含有させ得る。
【0016】
本明細書では、用語「反応性着色剤」は、刺激を受けた際に、白色光の下、肉眼で見ることのできる染料へと変化する化合物を表すために用いる。
【0017】
放射線吸収剤は、光の波長を吸収するエネルギーアンテナとして作用し、反応性着色剤に染料を形成させる。放射線吸収剤は、着色剤溶液中に約0.001%〜約10%、あるいは約0.5%〜約1%の量にて存在させ得、この場合、着色剤溶液中に存在する放射線吸収剤の量は、用いられる反応性着色剤の種類に応じて変更し得る。
【0018】
一実施形態では、放射線吸収剤は、約600nm〜約1200nmの周波数を有するレーザ光を吸収することができる。放射線吸収剤によって吸収されるエネルギーの形態は、用いる装置、周囲条件、及び所望の結果に応じて変更し得る。放射線吸収剤として用い得る化合物の例には、無機化合物及び有機化合物が含まれる。その他の実施形態では、放射線吸収剤は、IR放射線、UV放射線、X線又は可視光線をはじめとする、他の形態のエネルギーを吸収することができる。
【0019】
放射線吸収剤の代表的な例として、限定はしないが、ポリメチン染料、ポリメチルインドリウム染料、金属錯体赤外染料、インドシアニングリーン、ヘテロ環化合物、及びそれらの任意の組合せが挙げられる。
【0020】
他の放射線吸収剤として、限定はしないが、IR780(1)(アルドリッチ社から入手可能、42,531−1)、IR783(2)(アルドリッチ社から入手可能、54,329−2)、Syntec 9/1(3)、Syntec 9/3(4)、又はジチオラン金属錯体(5)及びインドアニリン金属錯体(6)などの金属錯体が挙げられる。化合物名直後の括弧内の数字は、その化合物と以下の化学構造との対応を示すものである。
【0021】
【化1】


【化2】

【0022】
構造(5)に関しては、Mは遷移金属であり、R、R、R及びRは、ハロ置換基を有するか又は有していないアルキル又はアリール基であり、A、A、A及びAは、S、NH又はSEとし得る。構造(6)に関しては、MはNi又はCuであり、R及びRは、ハロ置換基を有するか又は有していないアリール又はアルキル基である。
【0023】
その他の実施形態では、当該放射線吸収剤は、以下の化合物のうちの1つ又は複数を含み得る:ケイ素−2,3−ナフタロシアニンビス(トリヘキシルシリルオキシド)(7)(Aldrich 38,993−5、米国ウィスコンシン州53201ミルウォーキー私書箱2060のアルドリッチ社から入手可)、及び2,3−ナフタロシアニンのマトリックス可溶誘導体(8)。
【0024】
【化3】


式中、R=−O−Si−(CH(CHCHである。
【化4】

【0025】
また、当該放射線吸収剤として、Rodgers,A.J.et al.,107 J.Phys.Chem.A 3503−3514(2003年5月8日)に記載のケイ素フタロシアニンのマトリックス可溶誘導体、並びにAoudia,Mohamed,119 J.Am.Chem.Soc.6029−6039(1997年7月2日)に記載のベンゾフタロシアニンのマトリックス可溶誘導体(それぞれの副構造を(9)及び(10)で示す)も挙げることができる。
【0026】
【化5】


式中、Mは金属である。
【0027】
当該放射線吸収剤にはまた、(11)に示すものなどの化合物(米国特許第6,015,896号に記載)を用いることもできる。
【0028】
【化6】


式中、Mは金属又は水素であり、Pcはフタロシアニン核であり、R、R、W、及びWは、個々独立してH又は任意に置換されたアルキル、アリール、又はアラルキルであり、Rはアミノアルキル基であり、Lは二価の有機結合基であり、x、y及びtは、それぞれ個々独立して0.5〜2.5であり且つ(x+y+t)=3〜4である。
【0029】
放射線吸収剤のその他の非限定例として、(12)に示すものなどの化合物(米国特許第6,025,486号に記載)が挙げられる。
【0030】
【化7】


式中、Mは金属又は水素であり、Pcはフタロシアニン核であり、各Rは、個々独立して、H又は任意に置換されたアルキル、アリール、又はアラルキルであり、各Lは、個々独立して、二価の有機結合基であり、Zは、任意に置換されたピペラジニル基であり、qは1又は2であり、x及びyはそれぞれ、個々独立して0.5〜3.5であり且つ(x+y)は2〜5である。放射線吸収剤として、市販の銅フタロシアニン誘導体である800NP(英国マンチェスターM9 8ZSブラックレーヘキサゴンハウス私書箱42のアビシア社から入手可能な特許品染料)も挙げることができる。
【0031】
着色剤溶液の反応性着色剤は、色を形成する化学的性質を利用するものであり、それには、或る波長の光に曝されている放射線吸収剤と相互作用するか若しくはそれと近接する際に、又は還元される際に、染料を形成し得る化合物が含まれる。従って、着色剤溶液を光に曝した後あるいは還元した後に、反応性着色剤が染料へと変換されることによって、色が形成される。
【0032】
一実施形態では、反応性着色剤と放射線吸収剤を含む着色剤溶液を液体キャリヤーと混合して基材に適用し、そして、着色剤溶液を有するか又は着色剤溶液によってコーティングされた基材を光などの放射線に曝露する。そのエネルギーは放射線吸収剤によって吸収され、それによって、放射線印加時に反応性着色剤が有色の染料を形成する。この場合、染料は基材に付着することができる。
【0033】
別の実施形態では、着色剤溶液はさらに、反応性着色剤の染料形成に役立つ現像剤を含有し得る。着色剤溶液はさらに、ゼラチン又はトラガカントゴム等をはじめとする乳化剤又は増粘剤を含有し得、この場合、乳化剤又は増粘剤は、着色剤溶液が基材をコーティングするのを促進する。
【0034】
基材の非限定例として、布地、繊維、光ディスク、高分子表面、ガラス、セラミック、セルロース紙、プラスチック、アクリレート、又は本明細書に記載の反応性着色剤で染色し得る他の基材が挙げられる。
【0035】
着色剤溶液を有する基材を或るパターンの光に曝すことによって、当該基材上に画像を形成することができる。一実施形態では、色の形成を実現するのに用いられるエネルギー又は放射線は、ディジタルアドレッシングシステムに有効に接続されているレーザである。当該実施形態では、ディジタルアドレッシングシステムは、レーザエネルギーを発生させ且つ基材及び着色剤溶液部を、数、文字、あるいは他の任意の画像のような所定のパターンのレーザエネルギーに曝露させるべく、光源を向ける。その他の実施形態では、当該エネルギーには、IR放射線、UV放射線、X線、可視光線、又は放射線吸収剤と組み合わせた反応性着色剤に染料を形成させ得る他の任意の適切なエネルギーを用いることができる。
【0036】
さらに他の実施形態では、放射線への曝露後、水、弱酸、アルコール、有機溶媒、又はそれらの任意の組合せを用いて基材を洗浄することにより、未曝露の着色剤溶液を基材から除去することができる。この未曝露の着色剤溶液は、別の基材において再利用することができる。さらに別の実施形態では、用いる反応性着色剤の種類に応じて、反応性着色剤から形成された染料を、熱、化学処理又は染料を基材へ定着させる他の任意の既知の方法を利用して基材に定着させることができる。
【0037】
着色剤溶液は、多数の各種反応性着色剤と多数の各種放射線吸収剤を含むことができる。この方法では、第1の所定の放射線に曝露時に第1カラーを特定的に形成するのに第1の反応性着色剤を使用し、第2の所定の放射線に曝露時に第2カラーを形成するのに第2の反応性着色剤を使用することができ、その結果、着色剤溶液を用いて基材上に種々の色を形成することができる。例えば、第1放射線によって青色を形成し、そして第2放射線によって赤色を形成することができる。この方法では、種々の放射線に曝される際に、基材上に種々の色を形成することができ、それによってカラー画像を形成することができる。
【0038】
以下の例において、本発明による、基材上に画像を形成するための方法及び組成物に関する種々の実施形態を説明する。この例は、単に本発明を説明するために示すものであって、本発明の範囲を限定する意は全くない。
【0039】
例1.
一実施形態では、着色剤溶液の反応性着色剤として、例えばフタロシアニン前駆体などの先染め(イングレイン)染料(ingrain dye)が挙げられる。本実施形態では、着色剤溶液を放射線に曝露する際、無色のフタロシアニン前駆体(例えば、イソ−1−アミノ−3−イミノ−イソインドレニン)は、遷移金属(例えば、Cu、Co又はNi塩)の存在下、レドックス反応において有色の化合物へと変化する。他の実施形態では、フタロシアニン前駆体には表1に挙げたものを含むことができ、限定はしないが、グループ1:IF3GK(Brilliant Blue)、IFBK(Turquoise)、IB(Blue 1)、及びIBN(Blue);グループ2:IF3G(Brilliant Blue)、IFFB(Brilliant Green)、及びIF2B(Brilliant Green);グループ2a:IF3GM(Brilliant Blue)、IFBM(Turquoise)、IFFBM(Brilliant Green)、IFGM(Brilliant Blue)、IRM(Blue)、IRRM(Marine Blue)、及びIVM(Blue Black);グループ3:Phthalogen K、Phthalogen Ni、Phthalogen P、Phthalogen B、及びPhthalogen FN;及び濃い緑がかった青色を生ずる三価のコバルトフタロシアニンの誘導体であるPhthalogen Blue IBN(表1参照、Phthalogen Blue IBNは、グループ1のNo.4として金属DehydroPc(ジヒドロフタロシアニン)錯体の次に記載)が含まれる。
【0040】
表1の添字は、以下の意味を有する。Iは、染料及び印刷物のインダンスレン堅牢性(Indanthrene fastness)を表し;F及びFFは、色合いの明るさの強弱であり;G及びGG、B及び2B、及びR及びRRはそれぞれ、黄色の強弱、青色の強弱及び赤色の強弱を示し;Mは、ジイミノイソインドリンと金属ドナーPhthalogen K若しくはNi(グループ2a)との混合物を表し;Kは、前駆錯体(即ち、DehydroPc金属錯体)が包含されることを表し;そしてNは新しい品種であることを示す。
【0041】
表1.Phthalogenの市販製品
【表1】

【0042】
グループ1には、予め形成されたDehydroPc環を有する金属錯体が含まれる。グループ2には、1,3−ジイミノイソインドリンが含まれる。グループ2aには、実質的にグループ2に類似する1,3−ジイミノイソインドリンが含まれるが、さらに、Phthalogen KあるいはPhthalogen Niといった形態の、染料顕色に必要とされる金属ドナーのような現像剤がさらに均一に混合されている。Phthalogen前駆体12〜15(表1)には、以下の構造を有する多くのジチア前駆体1,3−ジイミノ−4,7−ジチア−4,5,6,7−テトラヒドロイソインドレン(13)が含まれる。
【0043】
【化8】

【0044】
グループ3に関して言えば、Phthalogen K及びPhthalogen Ni(14)は、以下の構造の銅及びニッケルの錯体である。
【0045】
【化9】


式中、Rはメチル基であり、R’はβ−ヒドロキシ−エチル基である。従って、Phthalogen K及びPhthalogen Niは、グリココル銅(即ち、R及びRがHである場合の構造(14))のN−置換生成物である。構造(14)のその他の適切な化合物として、R及びR’がβ−ヒドロキシエチル基又はカルボキシメチル基(−CH−COOH)である化合物が挙げられ、これらは、銅塩を有するニトリロ三酢酸から得ることができる。Phthalogen Pは、銅ドナーとし得る。Phthalotrop Bは、前印刷工程においてグループ2及び2aのPhthalogenと共に印刷するのに使用できる防染剤(resisting agent)とし得る。Phthalofix FNは、Phthalogen Brilliant Blue IF3GKと共に染色するのに使用できる前媒染剤(pre−mordant)である。
【0046】
フタロシアニン前駆体(例えば、6配位のDehydroPc−金属錯体)の他の非限定例としては:100℃未満の温度の溶媒中での、フタロニトリル又は1−置換3−イミノ−(イソ)インドレニンと金属塩とからのフタロシアニン前駆体の生成;100℃未満の温度のアルコール若しくは硝酸中での、ハロゲンなどの適切な酸化剤による金属フタロシアニンのDehydroPc錯体への転化;コバルト錯体のDehydroPc錯体への転化時における、約170〜220℃の温度での(任意にニトロベンゼンを付加)、モリブデン酸塩で触媒された尿素溶融物中における無水フタル酸とコバルト塩との相互作用;によって生成するフタロシアニン前駆体が挙げられる。その他のフタロシアニン前駆体として、還元されると、(R.A.Brooks、J.B.Burt、B.F.Skiles及びM.S.Whelenによる、J.Org.Chem.24,3(1959)に記載されたような)以下の構造のCuPc(15)を生成するC482513CuからなるCuPc現像剤が挙げられる。
【0047】
【化10】

【0048】
着色剤溶液は、反応性着色剤(例えば、フタロシアニン前駆体)を、例えば、溶媒のような液体キャリヤー中で放射線吸収剤と組み合わせることによって調製することができる。当該溶媒としては、例えば、レバゾールのような揮発性の水混和性溶媒を挙げることができる。さらに着色剤溶液に乳化剤又は増粘剤を含有させることによって、当該着色剤溶液が基材に適用されるのを促進することができる。
【0049】
別の実施形態では、液体キャリヤーは、基材上でPhthalogenを現像させるために金属フタロシアニンと組み合わせて用い得る水溶性有機溶媒を含むことができる。適切な溶媒には、限定はしないが、ポリアルコール(任意に、トリアルカノールアミンを含み得る)、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ホルムアミド、及びそれらの組合せが含まれる。
【0050】
反応性着色剤として用いるフタロシアニン前駆体の種類に応じて、着色剤溶液に活性化剤をさらに添加することができる。例えば、グループ2(表1)のフタロシアニン前駆体を用いる場合、銅塩、ニッケル塩、コバルト塩、又はその他の錯体塩の最適量を活性化剤として着色剤溶液に添加することができる。
【0051】
浸漬させるなどして、着色剤溶液を布地に適用することによって、基材上に画像を形成することができる。当該基材を乾燥させ、そして着色剤溶液でコーティングされた当該基材を放射線に曝すことで、フタロシアニン前駆体に色を生成させることができる。当該放射線には、画像形成を実行できるよう基材上でパターン化されているレーザビーム又はビーム群を含むことができる。フタロシアニン前駆体が染料(例えば、フタロシアニンの錯体)に変換されると、染料の溶解度が反応性着色剤に関して変化し、染料は基材に付着する。付着した染料とは異なる溶解度を有する未曝露のフタロシアニン前駆体は、洗浄するなどして基材から除去し、別の基材において再利用することができる。画像を形成するところの、基材上に付着した染料を、任意に、熱に曝すなどして、基材に定着させることができる。
【0052】
表1記載の種々のフタロシアニン前駆体を、適宜、現像剤と組み合わせて用いることで、基材上に種々の色を形成することができる。さらに、所望のフタロシアニン前駆体に合う放射線吸収剤を選択し且つ適合させることによって、当該放射線吸収剤に合う適切な放射線に基材を曝す際に、所望の色を形成させることができる。
【0053】
さらに別の実施形態では、ファロゲン(phalogen)色形成剤を、現像剤である遷移金属(例えば、Cu、Ni又はCo)のアミン錯体と組み合わせることができる。オンファイバー(on−fiber)フタロゲン組成物は、市販されており、それらには、限定はしないが、Brilliant Blue IF3GM、Turquoise IFBM、Brilliant Green IFFBM、及びIF2BMが含まれる。本明細書に記載の放射線吸収剤を用いた還元又は熱により、呈色反応が誘発される。幾つかのファロゲン色形成剤の代表例を以下の反応によって例示する。
【0054】
【化11】


【化12】

【0055】
例2.
別の実施形態では、反応性着色剤は、シクロテトラ−イソインドレニン−(エンド−イソインドレニノ)−コバルト錯体又はPhthalogene Blue IBと少なくとも1つの還元剤(本明細書に記載するような適切な放射線へ曝露する際に、前記錯体をフタロシアニン顔料へと還元し得る)とを含む塩基を含んで成る。一実施形態では、反応性着色剤はポリアミンを含んで成り、放射線吸収剤は第二鉄塩を含んで成り、そして還元剤はヒドロキノンを含むことができる。
【0056】
当該錯体に用い得るポリアミンには、例えば、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、γ、γ−ジアミノプロピルメチルアミン、1−アミノ−3−ジメチルアミノプロパン、1−ジエチルアミノ−4−アミノ−n−ペンタン、ヘキサメチレンジアミン及びγ、γ−ジアミノジプロピルエーテルが含まれる。用い得る第二鉄塩には、限定はしないが、塩化鉄、シュウ酸鉄、シュウ酸鉄アンモニウム、クエン酸鉄アンモニウム及びクエン酸鉄が含まれる。他の実施形態では、適切な量のシュウ酸又はアスコルビン酸を添加して色形成を促進することができる。さらに別の実施形態においては、反応性着色剤は、Phthalogene Blue IBを含むことができる。
【0057】
例3.
別の実施形態では、反応性着色剤は、以下の一般式を有するアゾ染料を含むことができる。
【0058】
【化13】


式中、Dはベンゼン系列のジアゾ成分であり、R1はアルキルラジカルであり、R2はアルキレンであり、Rはアルキル、アリール又はジ−置換アミノである。当該アゾ染料は、ポリエステルファイバーからなる基材を良好な堅牢度をもって赤及び青の色合いへと染色することができる。
【0059】
さらに別の実施形態では、アゾ染料は以下の構造を有し、基材上に赤の色合いを生成することができる。
【0060】
【化14】

【0061】
さらに別の実施形態では、以下の構造のアゾ染料を用いて、基材を赤の色合いに染色することができる。
【0062】
【化15】

【0063】
さらに他の実施形態では、以下の構造のアゾ染料を用いて、基材を赤の色合いに染色することができる。
【0064】
【化16】

【0065】
反応性着色剤として用い得る他のアゾ染料として、式D−N=N−Cで表されるものがあり、ここで、Dは、以下の構造(25〜33)を有する基を表す。
【0066】
【化17】

【例18】
【0067】

【例19】
【0068】

【0069】
式中、環1は、アルキル、アルコキシ、チオシアノ、アルキルチオ、シアノ、カルバモイル、アルキル−カルバモイル、アルコシキカルボニル、アシル、アルキルスルホニル、スルファモイル、SONH(アルキル)、SON(ジアルキル)、アルキルスルホンアミド、アシルアミド、ハロゲン、トリフルオロメチル、及びSO(アリール)から選択される1〜3の置換基を有し得る。
【0070】
環2は、アルキル、アルコキシ、塩素、臭素、SONH、SONH(アルキル)、及びSON(ジアルキル)から選択される1〜3の置換基を有し得る。
【0071】
環3は、アルキル、アルコキシ、ハロゲン、アルキルスルホニル、SONH、SONH(アルキル)、SON(ジアルキル)、アリールスルホニル、アシルアミノ、アリール、アリールチオ、アルケニルチオ、シクロヘキシルチオ、チオシアノ、シクロヘキシルスルホニル、アルキルチオ、及びシクロヘキシルから選択される置換基を有し得る。
【0072】
環4は、アルキル、アリール、ハロゲン、アルキルチオ、シクロヘキシルチオ、及びアルキルスルホニルから選択される置換基を有し得る。
【0073】
環5は、アルキル、ハロゲン、シアノ、カルバモイル、CONH−アルキル、アルコキシカルボニル、アルキルチオ、アルケニルチオ、アリールチオ、シクロヘキシルチオ、S−ヘテロ環、アリールオキシ、及びアルコキシから選択される1又は2の置換基を有し得る。
【0074】
環6は、アルキル、アルコシキカルボニル、アルキルチオ、アリール、シアノ、カルバモイル、アルキルカルバモイル、及びアルキルスルホニルから選択される1又は2の置換基を有し得、そしてN上の水素は、アルキル、アリール又は炭素数6〜10の、アルキルスルホニル、アリールスルホニル、アルカノイル、あるいはアルコキシカルボニルと置き換えることができる。
【0075】
環7は、アルキル、シアノ、アルコシキカルボニル、アシル、アルキルスルホニル、アリールスルホニル、カルバモイル、アルキルカルバモイル、アリール、ハロゲン、スルファモイル、アルキルスルファモイル、及びホルミルから選択される1〜3の基で置換し得る。
【0076】
環8は、アルキル、アリール、アルコキシカルボニル、カルボニル、CONH−アルキル、CON(アルキル)、ハロゲン、シアノ、チオシアノ、アルキルチオ、アルキルスルホニル、アリールスルホニル、ホルミル、アシル、及びアロイルから選択される1又は2の置換基を有し得る。
【0077】
環9は、アルキル、アルコキシ、チオシアノ、シアノ、ニトロ、アルキルチオ、アリールアゾ、アリールチオ、アロイル、カルバモイル、アルキルカルバモイル、アルカノイル、アルキルスルホニル、アリールスルホニル、スルファモイル、SONH(アルキル)、SON(ジアルキル)、アルキルスルホンアミド、アルカノイルアミノ、ハロゲン、トリフルオロメチル、及びSO(アリール)から個々独立して選択される1〜3の置換基を有し得る。
【0078】
D−N=N−CにおけるCは、それぞれ、以下の構造(34〜43)から選択される連結子である。
【0079】
【化20】

【化21】

【化22】

【0080】
式中、R及びR14はそれぞれ、水素、フッ素、塩素、臭素、アルキル、シクロアルキル、アルコキシ、フェノキシ、アルキルチオ、アリールチオ、及び式−NH−X−R(式中、Xが−CO−、−COO−、又は−SO−である場合、Rはアルキル及びハロゲンで置換されたアルキル、ヒドロキシ、フェノキシ、アリール、シアノ、シクロアルキル、アルキルスルホニル、アルキルチオ、アルカノイルオキシ、及びアルコキシから選択され、そしてXが−CO−の場合、Rは水素、アミノ、アルキルアミノ、ジアルキルアミノ、アリールアミノ、アリール、及びフリルから選択される)を有する基、から選択される3つ以下の基を表す。
【0081】
及びRはそれぞれ、水素、アルキル、アリール、シクロアルキル、及び(ハロゲン、CN、OH、アルコシキ、アリールオキシ、アルコキシアルコキシ、アルカノイル、アルカノイルオキシ、カルバモイル、アルキルカルバモイル、スルファモイル、アルキルスルファモイル、アルコキシアルカノイルオキシ、及びシクロアルキルで置換された)アルキルから選択され、そしてR及びRは、合わせて、単一の結合基、即ち−CHCHCHCHCH−、−CHCHOCHCH−、−CHCH−S−CHCH−、又は−CHC−H−SO−CHCH−を表す。
【0082】
は、水素、アルキル及び(−CN、アルコシキ、アルコキシカルボニル、アルコキシカルボニルオキシ、フェニル、シクロヘキシオキシ、−OH−Cl及びBrで置換された)アルキル、アルコシキ、アルコキシカルボニル、アルコキシカルボニルオキシ、フェニル、シクロヘキシオキシ、−OH−Cl及びBrから選択される1又は2の基とし得る。
【0083】
、R10及びR11はそれぞれ、水素、アルキル、フェニル、又は(Cl、Br、アルキル又はアルコキシ、アルキルチオ、ベンジルチオ、シクロヘキシルチオ及びフェニルチオから選択される1〜3の基で置換された)フェニル、アルキルチオ、ベンジルチオ、シクロヘキシルチオ及びフェニルチオから選択し得る。
【0084】
Q及びQ’はそれぞれ、−CO−、−SO−、又は−CNから選択し得る。R12及びR13はそれぞれ、アルキル、ヒドロキシアルキル、アルコキシ、アルコキシカルボニルアミノ、トリフルオロメチル、フェニル又は(Cl、Br、アルキル又はアルコキシ、アルコキシカルボニルアルキル、シアノアルキル、アミノ、ハロアルキル、アルキルアミノ、アルキルチオ、ベンジルチオ、シクロヘキシルチオ及びフェニルチオから選択される1〜3の基で置換された)フェニル、アルコキシカルボニルアルキル、シアノアルキル、アミノ、ハロアルキル、アルキルアミノ、アルキルチオ、ベンジルチオ、シクロヘキシルチオ及びフェニルチオから選択し得、そしてR12及びR13は一緒になって、Q及びQ'と連結している−CHC(CHCH−、又は1,2−C−を構成し得る。
【0085】
16及びR17は、水素、シクロアルキル、アリール、アルキル、及び(アルコキシ、ヒドロキシ、アルコキシアルコキシ、ヒドロキシアルコキシ、カルバモイル、スルファモイル、アルカノイルアミノ、又はアルケニルスルホニルで置換された)アルキル、及びヒドロキシアルキルで置換されたアリールから選択される。
【0086】
当該構造において、eは1又は2とし得、t及びt’はそれぞれ、1又はゼロとし得る。
【0087】
さらに、上記のアルキル、アルカノイル、アルキレン、及びアルコキシ部分はそれぞれ、ヒドロキシ;ハロゲン;シアノ;スクシンイミド;グルタルイミド;フタルイミド;2−ピロリドン;シクロヘキシル;フェニル;(アルキル、アルコキシ、ハロゲン、アルカノイルアミノ、シアノ、又はアルコキシカルボニルで置換された)フェニル;アルカノイルアミノ;スルファモイル;アルキルスルファモイル;ビニルスルホニル;アクリルアミド;フタルイミジニル;ベンゾイルスルホンイミジル(benzoylsulfonicimidyl);アルキルスルホンアミド;フェニルスルホンアミド;アルコキシカルボニルアミノ;アルキルカルバモイルオキシ;アルコキシカルボニル;アルコキシカルボニルオキシ;以下の構造(44)
【化23】

〔式中、Yは、−NH−、−NH−アルキル−、−O−、−S−、又は−CHO−、−S−Rであり、ここで、Rは、アルキル、フェニル、(ハロゲン、アルキル、アルコキシ、アルカノイルアミノ、シアノ、又はアルコキシカルボニルで置換された)フェニル、ピリジル、ピリミジニル、ベンズオキサゾリル、ベンズイミダゾリル、ベンゾチアゾリルである〕;以下の構造(45)
【化24】

、−OXR、−NH−X−R、−X−R、−SONR〔式中、R及びXは、前述の通りであり、Rは、H、R、アルコキシ、(ヒドロキシ、シアノ、アルカノイルオキシ、又はアルコキシで置換された)アルコキシから選択される〕;フェノキシ;又は(アルキル、アルコキシ又はハロゲンのうちの1つ以上で置換された)フェノキシ;のうちの1〜3個で置換されていてもよく、且つアルキル、アルキレン、アルコキシ、アルカノイル、及びジアゾ成分及びカプラーの上記炭化水素部分は、直鎖又は分枝の何れでもよく且つ炭素数1〜6である。
【0088】
例4.
他の実施形態では、反応性着色剤は、放射線吸収剤及び現像剤としての還元剤前駆体と組み合わせることができる。本実施形態では、還元剤前駆体は、例えば、熱のような、刺激によって活性化される。
【0089】
本実施形態では、反応性着色剤は、還元剤の存在下における酸化的縮合反応を経て、アゾメチン又はインドアニリン染料を生成する。当該実施形態の反応性着色剤の非限定例としては、アミノトリアリールメタン、アミノキサンテン、アミノチオキサンテン、アミノ−9,10−ジヒドロアクリジン、アミノフェノキサジン、アミノフェノチアジン、アミノジヒドロフェナジン、アミノジフェニルメタン、アミノヒドロケイ皮酸(シアノエタン)、ロイコインジゴイド染料、及び1,4−ジアミノ−2,3−ジヒドロアントラキノンが含まれる。酸化的縮合反応を経ることのできる他の反応性着色剤には、例えば、ジヒドロフェナジン、フェノチアジン、及びフェノキサジンなどのような塩基性NH基を有するロイコ染料のアシル誘導体が含まれる。
【0090】
別の実施形態では、反応性着色剤は、4,4’−エチレンジアニリン、ジフェニルアミン、N,N−ジメチルアニリン、4,4’−メチレンジアニリン、トリフェニルアミン、及びN−ビニルカルバゾールをはじめとする、有機アミンを包含し得る。
【0091】
さらに別の実施形態では、反応性着色剤は、ジアゾニウム化合物へと酸化させ得る、ヒドラゾン又はヒドラゾンのアシル誘導体を包含し得る。ジアゾニウム化合物は、さらに、アゾ染料を生成し得るカップリング剤に結合させ得る。当該カップリング剤には、N,N−ジエチルアニリン、N,N−ジメチル−m−トルイジン、N−(2−シアノエチル)−N−メチル−2−ナフチルアミン、及びアセトアセトアミドのような活性メチレン化合物、2−テノイルアセトニトリル、及びm−クレゾール、2−ナフトール、6−スルファミド−1−ナフトール及びヒドロキノンのようなフェノール系化合物が包含され得る。
【0092】
反応性着色剤のその他の非限定例としては、3−メチル−2−ベンゾチアゾリノンヒドラゾン、6−クロロ−3−メチル−2−ベンゾチアゾリノンヒドラゾン、及び6−メトキシ−3−メチル−2−ベンゾチアゾリノンヒドラゾンが挙げられる。用い得る非アシル化ヒドラゾンとして、3−メチル−2−ベンゾチアゾリノンアセチルヒドラゾン、3−メチル−2−ベンゾチアゾリノン p−トルイルスルホニルヒドラゾン、3−メチル−2−ベンゾセレンアゾリノン プロピオニルヒドラゾン、3−エチル−2−ベンゾキサゾリノン フェニルスルホニルヒドラゾン、5−メトキシ−1,3−ジメチル−2−ベンズイミダゾリノン ベンゾイルヒドラゾン、及び1−メチルカルボスチリル フェノキシアセチルヒドラゾンが挙げられる。
【0093】
別の実施形態では、反応性着色剤として、ジアゾ成分と連結子化合物とを含む複合ヒドラゾン−連結子化合物を挙げることができる。そのような化合物の非限定例には、3−メチル−2−ベンゾチアゾリノン 1−ヒドロキシ−2−ナフトイルヒドラゾン及び3−メチル−2−ベンゾチアゾリノン 5−オキソ−1−フェニル−3−ピラゾリルカルボニルヒドラゾンが含まれる。
【0094】
他の実施形態では、反応性着色剤は、アゾメチン又はインドアニリン染料を生成すべくカップリング剤(例えば、活性メチレン、アニリン又はフェノール系化合物)と組み合わせられた芳香族ジアミン(例えば、N,N−ジアルキルフェニレンジアミン)を包含し得る。
【0095】
色の形成を達成するために、反応性着色剤、還元剤前駆体及び放射線吸収剤を基材に適用する。そして当該基材をレーザなどの放射線に曝露することで、放射線吸収剤に放射線を吸収させ、熱を発生させて、還元剤前駆体を活性な還元剤にすることができる。
【0096】
一実施形態では、還元剤は、ヒドロキノン又は置換ヒドロキノンである。置換ヒドロキノンの非限定例として、フェニルヒドロキノン、t−ブチルヒドロキノン及びジュロヒドロキノン(durohydroquinone)が挙げられる。別の実施形態では、p−ベンジルオキシフェノールの場合におけるように、ヒドロキノンを部分的にエーテル化することができる。用い得る他のヒドロキノンには、ナフタレン−1,4−ジオール、レソルシノール及びピロガロールが含まれる。
【0097】
その他の実施形態では、還元剤として、2,4,6−トリメチルフェノール又は2,6,ジ−tert−ブチル−p−クレゾールのようなフェノール系化合物を挙げることができる。還元剤として用い得る他の化合物には、N,N−ジメチルヒドロキシアミン及びN,N−ジブチル−ヒドロキシアミンのようなヒドロキシアミン;酒石酸のような酸化し得るヒドロキシ酸;セミカルバジド、ヒドラジン、及びフェニルヒドラジンのような適切な窒素含有化合物;アニリンのようなアミンが含まれる。
【0098】
さらに別の実施形態では、活性還元剤の生成は、3つの異なる反応のうちの1つを介して基材上でin−situにて行うことができる。一実施形態では、還元剤は、ソルボリシス反応によって形成され、この場合、還元剤は温和に加熱した後に形成される。ソルボリシス反応の非限定例には、p−ビス(2−テトラヒドロピラニルオキシ)ベンゼンを含む以下の反応によって例示されるアセタール:
【化25】

オルトギ酸のトリス(p−メトキシフェニル)エステルを含む以下の反応によって例示されるオルトエステル:
【化26】

オルト炭酸のテトラキス−(p−メトキシフェニル)エステルを含む以下の反応によって例示されるオルト炭酸塩:
【化27】

o−フェニレン炭酸塩を含む以下の反応によって例示される炭酸塩:
【化28】

エチルメチルケトンセミカルバゾンを含む以下の反応によって例示されるセミカルバゾン:
(CH)C=N−NHCONH+HO→
NHNHCONH+CCOCH
及びN−ベンジリジンアニリンを含む以下の反応によって例示されるシッフ塩基:
CH+NC+HO→CNH+CCHO
加水分解時に還元剤を生ずる他の化合物として、ホルマルアニリン及びホルムアルデヒドから得られる樹脂、並びに以下の構造を有する酒石酸のアセタール−エステル誘導体をが挙げられる。
【化29】

【0099】
別の実施形態では、水素の互変異性シフトを伴い且つ酸によって触媒される転位反応には、以下の非限定例が含まれる。
【化30】

【0100】
他の実施形態では、解離反応を用いることで、ヒドロキノン−ビス−(ジヒドロピラン)を含む以下の反応によって例示されるような還元剤を生成することができる。
【化31】

【0101】
例5.
さらに別の実施形態では、着色剤溶液中の、放射線吸収剤と組み合わせられた反応性着色剤には、変色染料が包含され得る。一実施形態では、当該変色染料には、放射線に曝露時、放射線吸収剤によって生成される熱により反応すると、その構造の一部が解離して変色するサーモトロピック染料を挙げることができる。当該サーモトロピック染料の非限定例として、熱に暴露時、その分子のCOイソブチレン部分が取り除かれるアミノ置換ペリレンジカルボキシミドを含むところのアルコキシカルボニル化染料が挙げられる。
【0102】
この実施形態では、サーモトロピック染料は、光に安定な第1の色を有しており、熱に曝されると、当該サーモトロピック染料は不可逆変化を経て光に安定な第2の色となる。一実施形態では、反応性着色剤の変色は、ペリレンジカルボキシミド発色団に結合した強力な電子供与性第一アミノ基と、マスキング基として熱的に不安定なアルコキシカルボニル置換基とを組み合わせて用いることによって達成される。放射線吸収剤とアルコキシカルボニル化染料を含んで成る着色剤溶液を曝露すると、アルコキシカルボニル化染料からアルケン及び二酸化炭素が解離して、元の第一アミノ官能基化染料が再生され、よって、変色を生ずる。
【0103】
例6.
さらに別の実施形態では、先述のように、画像又は色を形成し得る反応性染料を含んで成る着色剤溶液でコーティングされた布地が製造される。当該布地は、販売の際、消費者又は小売店によって後でマーキングができる。一実施形態では、当該布地(例えば、その上に乾燥した着色剤溶液を有するT−シャツ)は、一定の場所で製造して小売店又は消費者に配送することができる。小売店又は消費者は、ディジタル操作できるエネルギー源を利用して、事前に着色剤溶液に浸漬されたT−シャツをそのエネルギー源に曝して、前述のように画像を作り出すことができる。この方法では、ディジタル操作可能なシステムを利用して任意の画像をレーザ光に変換してT−シャツ上に転写できるため、その上に模様(デザイン)を印刷し得るように、各T−シャツをあつらえることができる。画像を形成し得る状態で販売されるその他の布地として、限定はしないが、チームシャツ、布製スクールバッグ、ジーンズ、ヘアバンド、財布、又は本発明の着色剤溶液を受容し得るその他の任意の基材又は布地が挙げられる。
【0104】
一実施形態では、布地上に画像を形成する方法は、布地を着色剤溶液に浸し、布地上の着色剤溶液を乾燥させ、当該布地を販売し、そして浸漬された布地を放射線に曝すことにより画像を形成し、曝されなかった着色剤溶液を布地から洗浄し、任意に、得られる染料を布地に定着させる操作を包含する。
【0105】
例7.
さらに別の実施形態では、本発明の着色剤溶液は、基材上に多色を生成できるよう、上に挙げた例の中から、複数の反応性着色剤を組合せて含有し得る。例えば、着色剤溶液は、例1から第1の反応性着色剤を、そして例3から第2の反応性着色剤を選択し含んでもよく、この場合、第1及び第2の反応性着色剤は、基材上で、種々の波長の放射線で様々な色を生成するようにし得る。当該方法では、同一の着色剤溶液を使い且つ種々の波長の放射線に当該着色剤溶液を曝して、少なくとも2色を基材上に賦与することもできる。
【0106】
種々の例示的実施形態を参照して本発明を開示し、そして記載してきたが、本発明が属する分野における当業者であれば、特に本明細書に開示又は記載しなくとも、種々の追加、省略、並びに改良が、添付の特許請求の範囲によって規定される本発明の範囲内に帰属することは明らかであろう。さらに、種々の実施形態の特長及び構成要素はまた、組合せて採用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上に画像を形成する方法であって、
反応性着色剤と放射線吸収剤を含有する着色剤溶液を基材に適用するステップと、
前記基材の前記着色剤溶液の少なくとも一部を放射線に曝して、前記反応性着色剤に可視染料を形成させるステップと、
を包含する、方法。
【請求項2】
前記着色剤溶液の未曝露部分を前記基材から除去するステップをさらに包含する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記着色剤溶液の未曝露部分を再利用するステップをさらに包含する、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記基材上の前記着色剤溶液を乾燥させるステップをさらに包含する、請求項1〜3の何れか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記基材上に前記可視染料を定着させるステップをさらに包含する、請求項1〜4の何れか1項に記載の方法。
【請求項6】
基材を染色するための組成物であって、
放射線吸収剤と、
放射線に曝されると基材上で色を生成し得る反応性着色剤と、
を含んで成る、組成物。
【請求項7】
基材上に画像を形成するシステムであって、
画像を受容するための基材と、
反応性着色剤及び放射線吸収剤を含む着色剤溶液と、
放射線源と、
を含んで成る、システム。
【請求項8】
前記反応性着色剤が、フタロシアニン前駆体、シクロテトラ−イソインドレニン−(エンド−イソインドレニノ)−コバルト錯体、アゾ染料、アゾメチン染料、インドアニリン染料、有機アミン、ヒドラゾン、ヒドラゾンのアシル誘導体、ヒドラゾン−連結子化合物、芳香族ジアミン、及びそれらの組合せから成る群から選択される、請求項1〜7の何れか1項に記載の方法、組成物又はシステム。
【請求項9】
前記放射線吸収剤が、ポリメチン染料、ポリメチルインドリウム染料、金属錯体赤外染料、インドシアニングリーン、ヘテロ環化合物、IR780、IR783、Syntec 9/1、Syntec 9/3、ジチオラン金属錯体、インドアニリン金属錯体、及びそれらの組合せから成る群から選択される、請求項1〜8の何れか1項に記載の方法、組成物又はシステム。
【請求項10】
前記基材が、布地、繊維、光ディスク、高分子表面、ガラス、セラミック、セルロース紙、プラスチック、アクリレート、及びそれらの組合せから成る群から選択される、請求項1〜9の任意の1つに記載の方法、組成物又はシステム。

【公開番号】特開2006−2335(P2006−2335A)
【公開日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−174002(P2005−174002)
【出願日】平成17年6月14日(2005.6.14)
【出願人】(503003854)ヒューレット−パッカード デベロップメント カンパニー エル.ピー. (1,145)
【Fターム(参考)】