説明

基板、基板の製造方法、超電導線材および超電導線材の製造方法

【課題】超電導線材の交流損失を低減することができる基板、基板の製造方法、超電導線材および超電導線材の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の基板は、銅層と、銅層上に形成され、かつ銅およびニッケルを含む合金層と、合金層上に形成されたニッケル層と、ニッケル層上に形成された中間層とを備えている。合金層とニッケル層との界面における合金層のニッケルの濃度よりも、合金層と銅層との界面における合金層のニッケルの濃度が小さい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板、基板の製造方法、超電導線材および超電導線材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高温超電導体の発見以来、ケーブル、マグネット、限流器等の電力機器用途への適用を目指して高温超電導線材の開発が活発に行われている。高温超電導線材としては、大別してビスマス系銀シース線材とRE123系の薄膜線材(RE=希土類元素)の2種類がある。
【0003】
RE123系薄膜超電導線材は、(1)液体窒素温度(77.3K)での臨界電流密度が、ビスマス系銀シース線材と比較して約2桁高い106A/cm2程度の性能を有する、(2)磁場下での臨界電流密度が高い、という利点のために次世代の高温超電導線材として開発が期待されている。
【0004】
薄膜超電導線材の一般的な構造としては、金属基板の上にセラミックスの薄膜中間層が形成され、その上に超電導層が形成される。薄膜超電導線材において、優れた超電導特性を引き出すためには、超電導層の結晶方位を三次元的に揃える事が必要である。そのためには、前記の薄膜中間層について配向性の高い薄膜を形成する必要がある。
【0005】
特許文献1には、配向金属基板表面の酸化層を除去して、配向金属基板の2軸配向性を維持したまま、中間層および超電導層などの薄膜をエピタキシャル成長する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−1935号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1のように、配向金属基板としてNiなどの強磁性体を用いて超電導線材を作製した場合、得られた超電導線材に電流を流すと、基板の飽和磁化が大きく、ヒステリシス損失による交流損失が増加するという問題があった。
【0008】
したがって本発明の目的は、超電導線材の交流損失を低減することができる基板、基板の製造方法、超電導線材および超電導線材の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の基板は、銅層と、銅層上に形成され、かつ銅およびニッケルを含む合金層と、合金層上に形成されたニッケル層と、ニッケル層上に形成された中間層とを備えている。合金層とニッケル層との界面における合金層のニッケルの濃度よりも、合金層と銅層との界面における合金層のニッケルの濃度が小さい。
【0010】
本発明の基板において好ましくは、合金層とニッケル層との界面から、合金層と銅層との界面に向かって合金層のニッケルの濃度が単調減少している。
【0011】
本発明の基板の製造方法は以下の工程を備えている。めっき法を用いて銅層上にニッケル層が形成された基材を準備する。ニッケル層の一部を残しつつニッケル層の他の部分を合金化する。ニッケル層を合金化する工程の後にニッケル層上に中間層をエピタキシャル成長させる。
【0012】
本発明の超電導線材は、銅層と、銅層上に形成され、かつ銅およびニッケルを含む合金層と、合金層上に形成されたニッケル層と、ニッケル層上に形成された中間層と、中間層上形成された超電導層とを備えている。合金層とニッケル層との界面における合金層のニッケルの濃度よりも、合金層と銅層との界面における合金層のニッケルの濃度が小さい。
【0013】
本発明の超電導線材において好ましくは、合金層とニッケル層との界面から、合金層と銅層との界面に向かって合金層のニッケルの濃度が単調減少している。
【0014】
本発明の超電導線材の製造方法は以下の工程を備えている。めっき法を用いて銅層上にニッケル層が形成された基材を準備する。ニッケル層の一部を残しつつニッケル層の他の部分を合金化する。ニッケル層を合金化する工程の後にニッケル層上に中間層をエピタキシャル成長させる。中間層上に超電導層を形成する。
【0015】
本発明の基板、基板の製造方法、超電導線材および超電導線材の製造方法によれば、基板に含まれるニッケルの一部が合金化されて非磁性体となっている。このため、基板のヒステリシス損失が減少し、超電導線材の交流損失を低減することができる。
【0016】
本発明の基板の製造方法において好ましくは、ニッケル層を合金化する工程を水素ガスを含まない減圧下にて行う。
【0017】
本発明の超電導線材の製造方法において好ましくは、ニッケル層を合金化する工程を水素ガスを含まない減圧下にて行う。
【0018】
ニッケル層を合金化する工程を水素ガスを含まない減圧下にて行うことで、中間層形成直前までNi表面の酸化層を残し、中間層形成時に還元することで中間層と格子マッチングが良好なNiを表面に露出させつつ基板近くにH2Oを存在させ、中間層である金属酸化物の酸素欠損を防ぎ、配向を助けることができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、超電導線材の交流損失を低減することができる基板および超電導線材を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の一実施の形態における基板を概略的に示す断面図である。
【図2】本発明の一実施の形態における超電導線材を概略的に示す断面図である。
【図3】本発明の一実施の形態における基板および超電導線材の製造方法を概略的に示す断面図である。
【図4】本発明の一実施の形態における基板または超電導線材の合金層中のニッケル濃度を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。なお、以下の図面において同一または相当する部分には、同一の参照符号を付し、その説明は繰り返さない。
【0022】
<実施の形態1>
(基板)
図1は、本発明の一実施の形態における基板1を概略的に示す断面図である。図1を参照して、本発明の一実施の形態における基板1は、銅層(以下Cu層ともいう)2と、銅層2上に形成され、かつ銅およびニッケルを含む合金層3と、合金層3上に形成されたニッケル層4(以下Ni層ともいう)と、ニッケル層4上に形成された中間層5とを備えている。
【0023】
基板1は、長尺なテープ状の形状を有することができる。
(銅層)
Cu層2は、Cu原子が2軸配向しているため、配向基板に適している。なお2軸配向しているとは、完全な2軸配向のみならず、結晶軸のずれ角が25°以下の場合も含まれる。また、配向の方向は、<100>軸が基板面に垂直な方向に、<010>軸が基板の長さ方向に配向していることが好ましい。
【0024】
Cu層2は、他の金属または合金上に積層することもできる。たとえば、高強度材料であるステンレス鋼(以下SUSともいう)上にCu層2を設けることもできる。
【0025】
Cu層2は、長尺なテープ状の形状を有することができる。
Cu層2の厚みは、たとえば15〜18μmである。
【0026】
(合金層)
合金層3は、ニッケルおよび銅を含む非磁性金属である。合金層3は配向していることが好ましい。
【0027】
合金層3の飽和磁化は、Ni単体の飽和磁化よりも小さい。つまり、磁束密度が0Tの場合と、磁束密度が0Tを超えてNi単体の磁束密度よりも低い場合とを含む。
【0028】
合金層3の磁性は、Ni単体の磁性よりも小さい。つまり、最大エネルギー(BHmax)が0J/m3の場合と、最大エネルギーが0J/m3を超えてNi単体の最大エネルギーよりも小さい場合とを含む。
【0029】
合金層3内には、Ni濃度分布がある。具体的には、図1および図2のAで示す合金層とニッケル層との界面における合金層のニッケルの濃度よりも、図1および図2のBで示す合金層と銅層との界面における合金層のニッケルの濃度が小さい。
【0030】
さらに、合金層3において、図1および図2のAで示す合金層3とNi層4との界面から、図1および図2のBで示す合金層3とCu層2との界面に向かって合金層3のNiの濃度が単調減少していることが好ましい。
【0031】
図4を用いて単調減少について説明する。単調減少の一例は、図4(a)のc,d,eに示すように、Aで示す合金層3とNi層4との界面から、Bで示す合金層3とCu層2との界面に向かって合金層3のNiの濃度が常に減少する。単調減少の他の一例は、図4(b)のfに示すように、Aで示す合金層3とNi層4との界面から、Bで示す合金層3とCu層2との界面に向かって合金層3のNiの濃度が減少するかまたは同じである。つまり、単調減少とは、Aで示す合金層3とNi層4との界面から、Bで示す合金層3とCu層2との界面に向かってNi濃度が増加している部分が含まれていないことを意味する。
【0032】
合金層3の厚みは、たとえば1.0〜2.1μmである。
(ニッケル層)
Ni層4は、中間層5を形成する際に、酸化を防止するための層である。Cu層2が配向している場合には、Ni層4も配向する。
【0033】
Ni層3の厚みは、0.3〜1.5μmであることが好ましい。
(中間層)
中間層5は、この表面上に超電導層6が形成されるための層である。中間層5は、1層または2層以上からなる。中間層5が複数の層により構成されている場合、中間層5を構成するそれぞれの層は互いに異なる材質により構成されていてもよい。
【0034】
中間層5としては、パイロクロア型、螢石型、岩塩型またはペロブスカイト型の結晶構造をもつ、1種以上の金属元素を有する金属酸化物が好ましく用いられる。具体的には、CeO2などの希土類元素酸化物、YSZ(イットリア安定化ジルコニア)、BZO(BaZrO3)、STO(SrTiO3)、Al23、YAlO3、MgO、Ln−M−O系化合物(Lnは1種以上のランタノイド元素、MはSr、ZrおよびGaの中から選ばれる1種以上の元素、Oは酸素)などが挙げられる。かかる酸化物は、配向金属基板であるCu層2と、中間層5上に形成される超電導層6の、結晶定数および結晶配向の差を緩和するとともに、Cu層2から超電導層6への金属原子の流出を防止する役割を果たす。このような材料としては、たとえばCeO2が挙げられる。
【0035】
<実施の形態2>
(超電導線材)
図2は、本発明の一実施の形態における超電導線材7を概略的に示す断面図である。図2を参照して、本発明の一実施の形態における超電導線材7は、銅層2と、銅層2上に形成され、かつ銅およびニッケルを含む合金層3と、合金層3上に形成されたニッケル層4と、ニッケル層4上に形成された中間層5と、中間層5上形成された超電導層6とを備えている。
【0036】
超電導線材7は、長尺なテープ状の形状を有することができる。
超電導線材7における銅層2、合金層3、ニッケル層4および中間層5は、基板1に用いたものと同じである。
【0037】
(超電導層)
超電導層6は、長尺なテープ状の形状を有している。超電導層6は、REBa2Cu3y(yは6〜8、より好ましくはほぼ7、REとはY(イットリウム)、またはGd(ガドリニウム)、Sm(サマリウム)、Ho(ホルミウム)などの希土類元素を意味する)として表される超電導体などであり、たとえばGdBCOからなることが好ましい。GdBCOとは、GdBa2Cu3y(yは6〜8、より好ましくはほぼ7)として表される。
【0038】
なお、超電導線材7は、超電導層6上に形成された保護層(図示せず)をさらに備えていてもよい。保護層は、超電導層6を保護するとともに、外部電極との接触部である。保護層としては、電導性の高いものであれば特に制限はないが、Ag、Au、Pt、Alまたはこれらの合金などが好ましく用いられる。
【0039】
<実施の形態3>
(基板の製造方法)
図3は、本発明の一実施の形態における基板1および超電導線材7の製造方法を概略的に示す断面図である。図3を参照して、本発明の一実施の形態における基板1の製造方法は、図3(a)に示すようなCu層2上に、図3(b)に示すようにめっき法を用いてNi層4が形成された基材を準備する工程と、図3(c)に示すようにNi層4の一部を残しつつNi層4の他の部分を合金化する工程と、図3(d)に示すようにNi層4を合金化する工程の後にNi層4上に中間層5をエピタキシャル成長させる工程とを備える。さらに図3を参照して、本発明の一実施の形態における超電導線材7の製造方法は、図3(e)に示すように、中間層5上に超電導層6を形成する工程を備える。
【0040】
(ニッケル層を形成する工程)
図3(a)および(b)に示すように、具体的には、まず、Cu層2上に、めっき法を用いてNi層4aが形成された基板を準備する。めっき法は例えばCu層2を塩化ニッケル、硫酸ニッケルなどを含む溶液中で電解ニッケルめっき処理する方法が挙げられる。
【0041】
図3(b)に示すように、Cu層2上にめっき法を用いて形成されるNi層4aの厚みは、1.3〜3.6μmであることが好ましく、1.3〜3.0μmであることがより好ましい。1.3μm以上の場合、後述するNi層4aの一部を残しつつNi層4aの他の部分を合金化する工程において800〜1000℃程度の熱が加えられても、すべてのNi原子がCu層2に拡散することを抑制できる。このため、Ni層4の、酸化されにくく、かつ中間層5との格子のマッチングが良好である機能を効果的に発現できる。3.6μm以下の場合、合金化する工程において、Ni層4aを構成するNiがCu層2へ容易に拡散するので合金化を効率的に行うことができる。
【0042】
(合金化する工程)
図3(c)に示すように、次に、Ni層4の一部を残しつつNi層4の他の部分を合金化する。この工程により、Ni層4を構成するNiと、Cu層2を構成するCuとが合金化され、Cu−Ni合金を含む合金層3を形成することができる。Cu−Ni合金の磁性は、Ni単体の場合よりも小さい。このため、合金層3を有する基板1を用いて超電導線材7を製造すると、超電導線材7の幅方向端部への磁界の集中を緩和することができる。したがって、超電導線材7を流れる電流に影響を及ぼす磁場が低減し、超電導線材の交流損失を低減することができる。
【0043】
また、この工程では、Ni層4表面の一部を残しているため、Ni層4の配向性を維持することができる。
【0044】
ニッケル層4を合金化する工程は、水素ガスを含まない減圧下にて行うことが好ましい。雰囲気ガスとしてはたとえばAr、N2などを使用することができる。減圧下とは、大気圧より低い圧力のことであり、たとえば0.1〜10Paが好ましい。
【0045】
ニッケル層4を合金化する工程は、たとえばNi層4を800〜1000℃の温度で熱処理することが好ましい。温度が800℃未満であるとニッケルの合金化が進まず、十分な磁性低減効果が得られない。1000℃を超えると、NiとCuが拡散して完全合金化するため、Ni層表面にCuが拡散する。Cuは酸化されやすいため、Ni層4表面の配向性を向上することができない。
【0046】
Ni層4を合金化する工程は、たとえばNi層を800〜1000℃の温度で15分〜25分間熱処理することが好ましい。熱処理時間が15分未満であると合金化が十分進まず、磁性低減効果が望めない。25分を超えると、NiとCuが拡散して完全合金化するため、Ni層表面にCuが拡散する。Cuは酸化されやすいため、Ni層4表面の配向性を向上することができない。
【0047】
(中間層をエピタキシャル成長させる工程)
図3(4)に示すように、次に、Ni層4上に中間層5をエピタキシャル成長させて、基板1を得る。中間層5となる酸化物薄膜の形成方法としては、本発明の目的に反さない限り特に制限はなく、スパッタ法、EBD(電子線ビーム蒸着;Electron Beam Deposition)法、PLD(パルスレーザー蒸着;Pulse Laser Deposition)法、熱蒸着法などの方法が好ましく用いられる。
【0048】
たとえば、合金化工程後の<100>軸が基板面に垂直な方向に、<010>軸が基板の長さ方向に、2軸配向しているNi層4上に、中間層5としてCeO2薄膜をエピタキシャルに成長させると、<100>軸が基板面に垂直な方向に、<011>軸が基板の長さ方向に配向したCeO2薄膜が形成され、2軸配向性の高いCeO2薄膜が得られる。
【0049】
中間層が複数の層から構成されている場合は、たとえば第1中間層上に第2中間層をエピタキシャル成長させることで配向性を維持することができる。
【0050】
<実施の形態4>
(超電導線材の製造方法)
図3は、本発明の一実施の形態における基板1および超電導線材7の製造方法を概略的に示す断面図である。図3を参照して、本発明の一実施の形態における超電導線材7の製造方法は、図3(a)に示すようなCu層2上に、図3(b)に示すようにめっき法を用いてNi層4が形成された基材を準備する工程と、図3(c)に示すようにNi層4の一部を残しつつNi層4の他の部分を合金化する工程と、図3(d)に示すようにNi層4を合金化する工程の後にNi層4上に中間層5をエピタキシャル成長させる工程と、図3(e)に示すように、中間層5上に超電導層6を形成する工程とを備える。
【0051】
ニッケル層を形成する工程、合金化する工程および中間層をエピタキシャル成長させる工程は基板の製造方法と同じである。
【0052】
<超電導層の形成>
たとえば実施の形態4で得られた基板1の中間層5の上に超電導層6を形成した場合、中間層5は配向性が良好であるため、2軸配向性の高い超電導層6を得ることができる。
【0053】
超電導層6となる酸化物薄膜の形成方法としては、本発明の目的に反さない限り特に制限はなく、PLD法、MOD(有機金属成膜;Metal Organic Deposition)法、MOCVD(有機金属気相成長;Metal Organic Chemical Vapor Deposition)法などの方法が好ましく用いられる。
【0054】
さらに、超電導層6を保護するため、必要に応じて、超電導層6の上に保護層(図示せず)を形成することもできる。保護層の形成方法としては、特に制限はないが、スパッタ法、EBD法、PLD法、熱蒸着法、MOD法、MOCVD法、めっき法などの方法が好ましく用いられる。
【実施例】
【0055】
(実施例1)
まず、100μm厚さのSUS基板上に18μmの厚みのCu層を有する基板を準備した。前記Cu層を有する基板を塩酸ニッケルを含む溶液中で電解ニッケルめっきを行い、2.4μmの厚みのNi層を形成した。
【0056】
次に、上記Ni層を、Arガスを用いて、圧力0.1Pa〜10Pa雰囲気下で、850℃〜1000℃の熱処理温度で15分間で熱処理を行った。これにより、Ni層およびCu層からCu−Ni合金層を形成した。
【0057】
その直後に、スパッタ法により、還元性ガスとしてH2ガスとArガスの混合ガス(組成:H2ガス3モル%、Arガス97モル%)を用いて、圧力5.2Pa雰囲気下、基板温度700℃で、上記Ni層上に中間層としてCeO2薄膜を、0.15μmの厚さで形成した。その上に、混合ガスを変更(組成:O2ガス0.5モル%、Arガス99.5モル%)し、圧力2.6Pa雰囲気下、基板温度900℃で、上記CeO2層上に第2中間層としてYSZ薄膜を0.26μmの厚さで形成した。最後に、混合ガスを変更(組成:O2ガス1モル%、Arガス99モル%)し、圧力2.6Pa雰囲気下、基板温度800℃で、上記YSZ層上に第3中間層としてCeO2薄膜を0.05μmの厚さで形成した。これにより実施例1の基板を得た。
【0058】
次に、中間層上に、PLD法により、超電導層としてGdBCOを形成した。これにより実施例1の超電導線材を得た。
【0059】
(比較例1)
Ni層の熱処理を行わない以外は、上記実施例1と同様にして、基板および超電導線材を得た。
【0060】
(比較例2)
Ni層の熱処理時間を30分間とする以外は、上記実施例1と同様にして、基板および超電導線材を得た。
【0061】
(測定方法)
実施例1、比較例1および2の基板について、Ni層、Cu−Ni層(合金層)、Cu層の各層の厚みおよびCeO2薄膜の2軸配向性について測定した。さらに実施例1、比較例1および2の超電導線材について、ヒステリシス損失を測定した。結果を表1に示す。
【0062】
基板の各層の厚みは、電子マイクロアナライザー(EPMA;Electron Probe Micro-Analyzer)分析により測定した。
【0063】
基板上のCeO2薄膜のc軸配向性は、CeO2薄膜の(200)面および(111)面からのX線回折ピーク強度(I(200)およびI(111))を測定し、I(200)/(I(200)+I(111))の数値により評価した。かかる数値が大きいほど、中間層たるCeO2薄膜のc軸配向性が高く、好ましい。なお、(200)面からのX線回折ピーク強度は、<100>軸が基板面に垂直な方向に配向している結晶量を、(111)面からのX線回折ピーク強度は、<111>軸が基板面に垂直な方向に1軸配向している結晶量を示す。
【0064】
超電導線材のヒステリシス損失は、超電導線材を室温で、超電導線材のテープ面に平行な方向に磁場を印加したときのヒステリシス損失を、振動磁化型磁力計(VSM)を用いて測定した。
【0065】
(測定結果)
【0066】
【表1】

【0067】
実施例1は、Ni層を15分間熱処理することで、厚さ1.3μmのNi層を残しつつ、厚さ1.7μmのCu−Ni合金層が形成された。EPMA分析結果より、合金層中のNi濃度が合金層とニッケル層との界面から、合金層と銅層との界面に向かって単調減少していることが確認された。CuとNiは一部のみ合金化し、Ni層表面にCuは拡散しなかったため、CeO2薄膜の2軸配向性が優れていた。また、Ni層の熱処理を行わない比較例1に比べてヒステリシス損失を低減することができた。
【0068】
比較例1は、Ni層の熱処理を行わなかったため、NiとCuが合金化されず、超電導線材のヒステリシス損失が大きかった。
【0069】
比較例2は、Ni層を30分間熱処理することで、NiとCuが完全合金化し、超電導線材のヒステリシス損失は低減した。しかし、Ni層表面にCuが拡散したため、Ni層の熱処理を行わない比較例1に比べて、CeO2薄膜の2軸配向性が悪化した。
【0070】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0071】
1 基板、2 銅層、3 合金層、4,4a ニッケル層、5 中間層、6 超電導層、7 超電導線材。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅層と、
前記銅層上に形成され、かつ銅およびニッケルを含む合金層と、
前記合金層上に形成されたニッケル層と、
前記ニッケル層上に形成された中間層とを備え、
前記合金層と前記ニッケル層との界面における前記合金層のニッケルの濃度よりも、前記合金層と前記銅層との界面における前記合金層のニッケルの濃度が小さい、基板。
【請求項2】
前記合金層と前記ニッケル層との界面から、前記合金層と前記銅層との界面に向かって前記合金層のニッケルの濃度が単調減少している、請求項1に記載の基板。
【請求項3】
めっき法を用いて銅層上にニッケル層が形成された基材を準備する工程と、
前記ニッケル層の一部を残しつつ前記ニッケル層の他の部分を合金化する工程と、
前記ニッケル層を合金化する工程の後に前記ニッケル層上に中間層をエピタキシャル成長させる工程とを備えた、基板の製造方法。
【請求項4】
前記ニッケル層を合金化する工程を水素ガスを含まない減圧下にて行う、請求項3に記載の基板の製造方法。
【請求項5】
銅層と、
前記銅層上に形成され、かつ銅およびニッケルを含む合金層と、
前記合金層上に形成されたニッケル層と、
前記ニッケル層上に形成された中間層と、
前記中間層上形成された超電導層とを備え、
前記合金層と前記ニッケル層との界面における前記合金層のニッケルの濃度よりも、前記合金層と前記銅層との界面における前記合金層のニッケルの濃度が小さい、超電導線材。
【請求項6】
前記合金層と前記ニッケル層との界面から、前記合金層と前記銅層との界面に向かって前記合金層のニッケルの濃度が単調減少している、請求項5に記載の超電導線材。
【請求項7】
めっき法を用いて銅層上にニッケル層が形成された基材を準備する工程と、
前記ニッケル層の一部を残しつつ前記ニッケル層の他の部分を合金化する工程と、
前記ニッケル層を合金化する工程の後に前記ニッケル層上に中間層をエピタキシャル成長させる工程と、
前記中間層上に超電導層を形成する工程とを備えた、超電導線材の製造方法。
【請求項8】
前記ニッケル層を合金化する工程を水素ガスを含まない減圧下にて行う、請求項7に記載の超電導線材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−18599(P2011−18599A)
【公開日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−163514(P2009−163514)
【出願日】平成21年7月10日(2009.7.10)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【出願人】(390003193)東洋鋼鈑株式会社 (265)
【Fターム(参考)】