説明

基板の製造方法

【課題】ボイドの発生を抑制することができ、かつ接合強度を向上することができ、かつ製造コストを低減することができる基板の製造方法を提供する。
【解決手段】基板10の製造方法は、第1の基板1と第2の基板2とが接合された基板10の製造方法であって、以下の工程を備えている。希ガスプラズマが照射された一方面1aを有する第1の基板1および酸素プラズマが照射された一方面2aを有する第2の基板2が準備される。第1の基板1の一方面1aと第2の基板2の一方面2aとが向かい合わされて大気中で第1の基板1および第2の基板2が張り合わせられて仮接合される。仮接合された状態の第1の基板1と第2の基板2とが加熱されて接合される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は基板の製造方法に関し、特に、第1の基板と第2の基板とが接合された基板の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、同種あるいは異種の薄板の基板を貼り合わせる基板接合技術が用いられている。この基板接合技術によって電子部品および光学部品の製造・設計手法が拡がる。このため、電子部品および光学部品の高機能化、低コスト化などが図られる。この基板接合技術を用いた構造として、たとえば、シリコン(Si)基板上に形成されたMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)デバイスのパッケージングのためにキャビティを掘り込んだガラスウェハをシリコン基板と接合する構造、光導波路を形成するためにInP(リン化インジウム)基板をシリコン基板上に接合する構造などが提案されている。
【0003】
このような基板接合技術を利用した電子部品および光学部品において、基板接合技術として樹脂接着剤を用いた手法が安価な手法として利用されている。しかし、樹脂は熱、湿度などに対する環境耐性が低い。そのため、樹脂は電子部品および光学部品の特性劣化および信頼性不良の要因となる。このため、樹脂接着剤を用いずに基板の表面同士を直接接合する技術が求められている。
【0004】
直接接合の手法として、基板表面を薬液洗浄と研磨加工とによって高清浄、高平滑にして、原子間力で基板同士を貼り付け、最終的に加熱して強固な接合を得る手法がある。この手法は拡散接合と呼ばれている。この手法では十分な接合強度を得るために材料の融点近くまで加熱する必要があり、たとえばシリコン基板同士を張り合わせた基板は1000℃以上に加熱される。その後基板が加圧されて接合される。ここで、異種基板接合では熱膨張係数が僅かでも異なると接合基板が室温へ冷却される際に接合された基板同士の収縮率の違いにより接合基板が破壊されるという欠点があるため、この手法を適用できる材料は限られている。
【0005】
次に、低温で直接接合を実現する手法として、接合時に基板間へ電圧を印加し、静電力を利用して接合する手法がある。この手法は陽極接合と呼ばれている。この陽極接合では、たとえばシリコン基板とパイレックス(登録商標)ガラス基板とを400℃で強固に接合することができる。しかし、この陽極接合では、イオン伝導性のない絶縁体基板は接合できないため、適用できる基板材料は限られる。
【0006】
数100℃の加熱で強固な直接接合を実現する手法として、基板表面をプラズマ、イオンビームなどで清浄化・活性化して接合する手法がある。この手法は表面活性化接合と呼ばれている。この表面活性化接合に関して、様々な技術が提案されている。
【0007】
たとえば、特開平10−92702号公報(特許文献1)では、真空中でアルゴン(Ar)イオンビームを照射してシリコンウェハの接合面を清浄化・活性化し、そのまま真空中でシリコンウェハを常温接合する技術が提案されている。この技術ではシリコンウェハが真空中で接合されているため大気雰囲気で形成されるコンタミネーション層(汚染層)がシリコンウェハの接合面に付着しない。そのため、接合面の表面原子のダングリングボンドによる共有結合が形成され得る。そのため常温での強固な接合が可能となり得る。
【0008】
また、特開2004−54170号公報(特許文献2)では、Arイオンビームで結晶表面を数10nm程度エッチングして清浄化した後、僅かな荷重を加えて結晶表面を密着させ、真空中において融点以下(たとえばYVO4の(イットリウム・バナデート)の場合は600℃)で加熱して接合する技術が提案されている。この技術では融点以下で接合することで、接合面の歪みがないため光学特性が向上し得る。
【0009】
また、特開2009−226412号公報(特許文献3)では、板状部材の表面にプラズマを照射した後に200℃程度で加熱する技術が提案されている。この技術では基板が余剰に吸着した水分が脱離され、本接合における気泡(ボイド)の発生が抑制され得る。この手法により、ボイドが少ない接合が可能となり得る。
【0010】
また、特開2005−79353号公報(特許文献4)では、基板の表面に酸素プラズマを照射して表面にOH基を吸着させる活性化を行った後、さらに窒素プラズマによるラジカルを照射する技術が提案されている。この技術では、酸素プラズマおよび窒素プラズマでの二段階の照射によって、酸素プラズマだけを照射する場合に比べて基板が強固に結合され得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平10−92702号公報
【特許文献2】特開2004−54170号公報
【特許文献3】特開2009−226412号公報
【特許文献4】特開2005−79353号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上記の特開平10−92702号公報の技術では、シリコンウェハを真空中で搬送する機構が装置の高コスト化を招くという問題がある。さらにシリコンウェハあるいはロット毎に超高真空状態へのポンピングが必要であるため、スループット(単位時間当たりの処理能力)が低くなることで製造コストが高くなるという問題がある。
【0013】
また上記の特開2004−54170号公報の技術では、Arイオンビームによるエッチングだけでは結晶表面において十分に活性化が起こらないため、自発接合力が弱い。そのため広い面積を接合する場合に未接合部が残りやすい。また接合強度も低くなる。このためダイシングなどの後工程に必要な接合強度が得られないという問題がある。
【0014】
また、上記の特開2009−226412号公報の技術では、仮接合前の加熱により余剰な水分が脱離すると同時にOH基も脱離してしまうことで、自発接合力不足による接合不良、本接合後の接合強度不足が起こるという問題がある。
【0015】
また、上記の特開2005−79353号公報の技術では、ラジカル照射は特別な機構を有する装置でしか行うことができないため、装置導入費用が高くなる。そのため製造コストが高くなるという問題がある。
【0016】
本発明は上記課題を鑑みてなされたものであり、その目的は、ボイドの発生を抑制することができ、かつ接合強度を向上することができ、かつ製造コストを低減することができる基板の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明の基板の製造方法は、第1の基板と第2の基板とが接合された基板の製造方法であって、以下の工程を備えている。希ガスプラズマが照射された一方面を有する第1の基板および酸素プラズマが照射された一方面を有する第2の基板が準備される。第1の基板の一方面と第2の基板の一方面とが向かい合わされて大気中で張り合わせられて仮接合される。仮接合された状態の第1の基板と第2の基板とが加熱されて接合される。
【発明の効果】
【0018】
本発明の基板の製造方法によれば、第2の基板の一方面では、酸素プラズマが照射されているため親水性は高くなる。そのため第2の基板の一方面にOH基が十分に吸着されるため自発接合力が向上する。これにより接合強度を向上することができる。
【0019】
また、第2の基板の一方面では親水性が高くなるため、水分子が多く吸着されている。水分子が多く吸着されているとボイドが発生しやすい。そこで、第1の基板の一方面は、希ガスプラズマが照射されることで、表面が洗浄され、かつOH基の吸着が第2の基板よりも少なくなる。そのため、水分子の吸着は第2の基板よりも少なくなる。これにより、第1の基板と第2の基板とを張り合わせた際に接合部の水分量を抑えることができる。このため、仮接合された状態の第1の基板と第2の基板とが加熱される際に、ボイドの発生を抑制することができる。このボイドの発生を抑制することによっても接合強度を向上することができる。
【0020】
また、第1の基板の一方面と第2の基板の一方面とが大気中で張り合わせられて仮接合されても、水分量を減らせるため、真空中で仮接合するための装置が不要となる。そのため本発明では真空中で仮接合する場合と比較して装置を低コスト化することができる。また希ガスプラズマおよび酸素プラズマを照射するための装置以外の特別な装置は必要ないため、装置導入コストを低くすることができる。そのため、製造コストを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の実施の形態1における基板の製造方法を示す図である。
【図2】本発明の実施の形態2における基板の製造方法を示す図である。
【図3】本発明の実施の形態3における基板の製造方法を示す図である。
【図4】本発明の実施の形態3における変形例の基板の製造方法を示す図である。
【図5】本発明の実施の形態4における基板の製造方法を示す図である。
【図6】本発明の実施の形態5における基板の製造方法を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態について図に基づいて説明する。
(実施の形態1)
最初に本発明の実施の形態1の基板の製造方法について説明する。
【0023】
まず、図1を参照して、基板10は、第1の基板1と第2の基板2とが接合されることで製造される。第1の基板1は、たとえばパイレックス(登録商標)ガラス基板である。この場合、第1の基板1は、たとえば直径4インチ、厚み0.3mmに設定されている。第2の基板2は、たとえばシリコン基板である。この場合、第1の基板1は、たとえば直径4インチ(10.16cm)、厚み0.3mm、導電型p型、抵抗率1〜10Ωcmに設定されている。
【0024】
第1の基板1の一方面1aには希ガスプラズマが照射される。第1の基板1の一方面1aに、たとえば、平行平板型のプラズマ照射装置によって、圧力10Pa、RFパワー100Wのアルゴン(Ar)プラズマが30秒間照射される。このようにして第1の基板1の一方面1aにはArプラズマ処理が施される。これにより、第1の基板1の一方面1aでは表面洗浄化の効果が得られる。
【0025】
第2の基板2の一方面2aには酸素プラズマが照射される。第2の基板2の一方面2aに、たとえば、平行平板型のプラズマ照射装置によって、圧力10Pa、RF(ラジオ波)パワー100Wの酸素(O2)プラズマが30秒間照射される。このようにして第2の基板2の一方面2aにはO2プラズマ処理が施される。これにより、第2の基板2の一方面2aでは表面洗浄化の効果および高い親水性が得られる。そのため、第2の基板2の一方面2aにOH基が十分に吸着される。
【0026】
希ガスプラズマが照射された一方面1aを有する上述の第1の基板1と、酸素プラズマが照射された一方面2aを有する上述の第2の基板2とが準備される(ステップS1)。
【0027】
次に、プラズマ照射面である第1の基板1の一方面1aと第2の基板2の一方面2aとが向かい合わされて大気中で第1の基板1および第2の基板2が張り合わされて仮接合される(ステップS2)。第1の基板1と第2の基板2とが張り合わされる際には、第1の基板1と第2の基板2とを重ね合わせた状態で1点を軽く押し込むことにより、自発的に接触面が広がり、第1の基板1の一方面1aと第2の基板2の一方面2aとが密着した状態となる。
【0028】
なお、接触面が広がる様子は、第2の基板2にパイレックス(登録商標)ガラス基板が用いられる場合には、パイレックス(登録商標)ガラス基板側から見える干渉縞が消えることで確認される。
【0029】
また、この仮接合では、OH基が十分に吸着していないと自発接合力が小さくなる。この場合には、第1の基板1および第2の基板2のうねりに追従できないため仮接合の面積が広がらない。
【0030】
次に、仮接合された状態の第1の基板1と第2の基板2とが加熱されて接合される(ステップ3)。加熱処理は、たとえばアニール炉を用いて、窒素あるいは大気雰囲気中において300℃で8時間程度行われる。これにより、第1の基板1と第2の基板2とは、OH基によるイオン性結合からSi−O−Siの共有結合にシフトする。このようにして第1の基板1と第2の基板2とは本接合状態となる。
【0031】
加熱によって第1の基板1と第2の基板2との接合が強固になるため未接合部分が減少する。つまり第1の基板1と第2の基板2との接合面が広がる。さらに加熱によって第1の基板1の一方面1aおよび第2の基板2の一方面2aの表面の活性化または第1の基板1および第2の基板2の残留応力緩和によって未接合部分が減少する。
【0032】
ここで、第1の基板1にパイレックス(登録商標)ガラス基板が用いられ、第2の基板2にシリコン基板が用いられた場合、電気的特性、外形、成分組成などの仕様によっては接合強度、ボイド生成率の違いはほとんどない。しかしながら、表面粗さは接合の成否に大きく影響するため、RMS(二乗平均粗さ)で1nm以下が必要とされる。
【0033】
一方、プラズマ条件によって接合強度、ボイド生成率は異なる。プラズマ条件として、パワーは小さく、照射時間は短い方が、表面荒れが小さくなるため、また表面へのイオンの打ち込みが少なくなるため、接合強度、ボイド生成率が良好である。ただし、プラズマ照射で十分な表面清浄化効果を得る必要があるため、少なくとも有機物が1nm以上除去されるようなRFパワーと照射時間が必要である。
【0034】
加熱処理の温度が高いほど、接合強度は高くなる傾向にある。たとえば300℃の加熱では10MPaの接合強度であるが、500℃で加熱すると30MPa程度の接合強度が得られる。しかし、温度を高くし過ぎると基板割れや面荒れを引き起こすので、融点の半分程度に加熱温度を留めることが好ましい。
【0035】
なお、本実施の形態では、全ての工程が無加圧で行われていてもよい。
次に、本発明の一実施の形態の作用効果について比較例と比較して説明する。
【0036】
図1および表1を参照して、比較例1〜3、本発明例1および本発明例2では、それぞれ第1の基板1として上述のパイレックス(登録商標)ガラス基板が用いられ、第2の基板2として上述のシリコン(Si)基板が用いられている。比較例1では両基板にArプラズマが30秒照射されている。比較例2では両基板にO2プラズマが30秒照射されている。比較例3では両基板にO2プラズマが5秒照射されている。一方、本発明例1ではパイレックス(登録商標)ガラス基板にArプラズマが30秒照射され、Si基板にO2プラズマが30秒照射されている。本発明例2ではパイレックス(登録商標)ガラス基板にArプラズマが5秒照射され、Si基板にO2プラズマが5秒照射されている。
【0037】
【表1】

【0038】
比較例1の非接合領域は35%であり、比較例2の非接合領域は17%であり、比較例3の非接合領域は11%である。一方、本発明例1の非接合領域は7%であり、本発明例2の非接合領域は5%である。このように表面活性化接合において、一方の基板にArプラズマを照射し、他方の基板にO2プラズマを照射することよって加熱時のボイド(気泡)の発生を抑制することで非接合領域を抑制することができる。なお、本発明例1および本発明例2の非接合領域は、それぞれ基板汚れに起因するものである。
【0039】
比較例1のように両基板にArプラズマが照射されると、表面清浄化の効果は得られるが親水性は高くならない。このため、自発接合力は小さくなる。これにより表面が密着しないため非接合領域が非常に多く残る。一方、比較例2および比較例3のように両基板にO2プラズマを照射すると、表面清浄化の効果と高い親水性とが得られるが、表面への水分子の吸着が多くなる。そのため、後の本接合の加熱時に水分子の蒸発によるボイド(気泡)が発生する。このため、非接合領域が多く残る。
【0040】
これに対して、本実施の形態の基板10の製造方法によれば、第2の基板2の一方面2aでは、酸素プラズマが照射されているため親水性は高くなる。そのため第2の基板2の一方面2aにOH基が十分に吸着されるため自発接合力が向上する。これにより接合強度を向上することができる。
【0041】
また、第2の基板2の一方面2aでは親水性が高くなるため、水分子が多く吸着されている。水分子が多く吸着されているとボイドが発生しやすい。そこで、第1の基板1の一方面1aは、希ガスプラズマが照射されることで、表面が洗浄され、かつOH基の吸着が第2の基板よりも少なくなる。そのため、水分子の吸着は第2の基板2よりも少なくなる。これにより、第1の基板1と第2の基板2とを張り合わせた際に接合部の水分量を抑えることができる。このため、仮接合された状態の第1の基板1と第2の基板2とが加熱される際に、ボイドの発生を抑制することができる。このボイドの発生を抑制することによっても接合強度を向上することができる。
【0042】
また、第1の基板1と第2の基板2とが大気中で張り合わせられて仮接合される際、第2の基板2の一方面2aに吸着した水分子は第1の基板1の一方面1aで親水基となる。そのため第2の基板2の一方面2aに吸着した水分子の量が減少する。このため加熱時にボイドの発生を抑制することができる。
【0043】
また、第1の基板1の一方面1aと第2の基板2の一方面2aとが大気中で張り合わせられて仮接合されても、水分量を減らせるため、真空中で仮接合するための装置が不要となる。そのため本実施の形態では真空中で仮接合する場合と比較して装置を低コスト化することができる。また希ガスプラズマおよび酸素プラズマを照射するための装置以外の特別な装置は必要ないため、装置導入コストを低くすることができる。そのため、製造コストを低減することができる。
【0044】
また、パイレックス(登録商標)ガラス基板とシリコン基板とが接合されたMEMSセンサのパッケージなどにおいて、仮接合後の加熱工程でボイド(気泡)の発生を抑制することができる。これにより、ボイドレス接合を実現することができる。ボイドの発生を抑制することでMEMSデバイスのパッケージなどを歩留まりよく製造することができる。このため生産性を向上することができる。
【0045】
(実施の形態2)
本発明の実施の形態2では、実施の形態1で用いられたアルゴンプラズマの他にクリプトンプラズマまたはキセノンプラズマが用いられる。本実施の形態のこれ以外の構成および製造方法は上述した実施の形態1と同様であるため、同一の要素については同一の符号を付し、その説明を繰り返さない。
【0046】
図2を参照して、第1の基板1の一方面1aにクリプトン(Kr)プラズマまたはキセノン(Xe)プラズマが照射される。このようにして、第1の基板1の一方面1aにKrまたはXeプラズマ処理が施される。
【0047】
本実施の形態の基板10の製造方法によれば、希ガスプラズマは、アルゴンプラズマ、クリプトンプラズマまたはキセノンプラズマのいずれかである。これにより、第1の基板1の一方面1aでは表面洗浄化の効果を得ることができる。
【0048】
また、アルゴンプラズマが用いられる場合、アルゴンでは照射したイオンがシリコン結晶の格子間に埋没する数が多い。クリプトンプラズマまたはキセノンプラズマが用いられる場合、クリプトン原子およびキセノン原子はアルゴン原子より大きいため、クリプトンまたはキセノンでは照射したイオンがシリコン結晶の格子間に埋没することが抑制される。そのため、クリプトンおよびキセノンでは照射したイオンが基板表面において深い位置に取り込まれにくい。これにより、加熱工程で脱ガスによるボイド(気泡)の発生をさらに起こりにくくすることができる。
【0049】
(実施の形態3)
本発明の実施の形態3では、実施の形態1と比較して、仮接合の後に、第1の基板および第2の基板が加圧されている点で異なっている。
【0050】
図3を参照して、本実施の形態では、仮接合された状態の第1の基板1と第2の基板2とが加圧された状態で加熱される(ステップS3)。加圧の圧力はたとえば10MPaに設定される。
【0051】
本実施の形態の基板10の製造方法によれば、第1の基板1と第2の基板2とを加熱して接合する工程は、仮接合された状態の第1の基板1と第2の基板2とを加圧した状態で加熱する工程を含んでいる。第1の基板1と第2の基板2とが加圧された状態で加熱されることで接合強度をさらに向上することができる。また、第1の基板1と第2の基板2とが加圧されることでパーティクルおよび基板反りのために仮接合の際には未接合であった領域を接合することができる。
【0052】
また、第1の基板1と第2の基板2とが加圧された状態で加熱されると、基板割れが起こる可能性があるため、第1の基板1と第2の基板2は加熱前に無加圧に戻されてもよい。
【0053】
図4を参照して、本実施の形態の変形例では、仮接合された状態の第1の基板1と第2の基板2とが加圧される(ステップS4)。次に、加圧された状態の第1の基板1と第2の基板とが無加圧に戻される。第1の基板1と第2の基板とが無加圧の状態で加熱される(ステップS3)。
【0054】
本実施の形態の変形例の基板10の製造方法によれば、仮接合された状態の第1の基板1と第2の基板2とを加圧する工程をさらに備えている。加熱して接合する工程は、加圧された状態の第1の基板1と第2の基板2とを無加圧に戻した状態で加熱する工程を含んでいる。仮接合された状態の第1の基板1と第2の基板2とが加圧されることで接合強度をさらに向上することができる。第1の基板1と第2の基板2とが無加圧に戻された状態で加熱されることで基板割れが起こる可能性を低くすることができる。また、第1の基板1と第2の基板2とが加圧されることでパーティクルおよび基板反りのために仮接合の際には未接合であった領域を接合することができる。
【0055】
(実施の形態4)
本発明の実施の形態4では、第1の基板および第2の基板の材料として半導体結晶または酸化物材料が用いられている。
【0056】
本実施の形態では、第1の基板および第2の基板の材料は酸化物材料あるいは半導体結晶であればよい。つまり、第1の基板および第2の基板の少なくともいずれかは、半導体結晶を含んでいてもよい。半導体結晶としては、たとえば、シリコン(Si)、ヒ化ガリウム(GaAs)、リン化インジウム(InP)などが適用され得る。また、第1の基板1および第2の基板2の少なくともいずれかは、酸化物材料を含んでいてもよい。酸化物材料としては、たとえば、石英などが適用され得る。
【0057】
図5を参照して、本実施の形態の一例として、第1の基板としての石英基板3と第2の基板としてのGaAs基板4とが接合される場合について説明する。石英基板3の一方面3aにArプラズマが照射され、GaAs基板4の一方面4aにO2プラズマが照射される(ステップS1)。次に、石英基板3の一方面3aとGaAs基板4の一方面4aとが大気中で張り合わされて仮接合される(ステップS2)。その後に仮接合された状態の石英基板3とGaAs基板4とが加熱されて接合される(ステップS3)。これにより、たとえば高効率な発光素子を製造することができる。この発光素子では接合界面にボイドが少ないため歩留まりよく製造することができる。
【0058】
プラズマ照射条件は基板材料によって変える必要はない。一方、表面粗さは基板材料によらず、RMS(二乗平均粗さ)で1nm以下が必要とされる。なお、GaAs基板4にArプラズマが照射され、石英基板3にO2プラズマが照射されても接合は可能である。しかし、非酸化物材料にO2プラズマを照射した方が、接合強度が向上し、ボイド生成率が低減するため、GaAs基板4にO2プラズマが照射され、石英基板3にArプラズマが照射される方が好ましい。
【0059】
本実施の形態の基板10の製造方法によれば、第1の基板および第2の基板の少なくともいずれかは、半導体結晶を含んでいてもよい。このため、第1の基板および第の基板2の少なくともいずれかが半導体結晶を含むMEMSセンサのパッケージなどにおいて、仮接合後の加熱工程でボイド(気泡)の発生を抑制することができる。
【0060】
本実施の形態の基板10の製造方法によれば、第1の基板および第2の基板の少なくともいずれかは、酸化物材料を含んでいてもよい。このため、第1の基板および第2の基板の少なくともいずれかがガラス基板などの酸化物材料を含むMEMSセンサのパッケージなどにおいて、仮接合後の加熱工程でボイド(気泡)の発生を抑制することができる。
【0061】
また、石英基板3とGaAs基板4とが接合された発光素子などにおいて、仮接合後の加熱工程でボイド(気泡)の発生を抑制することができる。この発光素子では接合界面にボイドが少ないため歩留まりよく製造することができる。
【0062】
(実施の形態5)
本発明の実施の形態5では、第1の基板および第2の基板の材料として光学結晶が用いられている。
【0063】
本実施の形態では第1の基板および第2の基板の材料は光学結晶が用いられている。つまり、第1の基板および前記第2の基板の少なくともいずれかは、光学結晶を含んでいてもよい。光学結晶として、たとえばYAG(イットリウム・アルミニウム・ガーネット)、Nd:YAG(ネオジム・イットリウム・アルミニウム・ガーネット)、YVO4(イットリウム・バナデート)、ZnS(硫化亜鉛)などが適用され得る。
【0064】
図6を参照して、本実施の形態の一例として、第1の基板としてのYAG基板5と第2の基板としてのNd:YAG基板6とが接合される場合について説明する。また本実施の形態では、一のYAG基板5と他のYAG基板7とによってNd:YAG基板が挟まれるように積層された基板10について説明する。
【0065】
まず、一のYAG基板5の一方面5aにArプラズマが照射され、Nd:YAG基板6の一方面6aにO2プラズマが照射される(ステップS1)。次に、一のYAG基板5の一方面5aとNd:YAG基板6の一方面6aとが張り合わされて仮接合される。続いて、Nd:YAG基板6の他方面6bにO2プラズマが照射され、他のYAG基板7の一方面7aにArプラズマが照射される(ステップS10)。
【0066】
次に、他のYAG基板7の一方面7aとNd:YAG基板6の他方面6bとが張り合わされて仮接合される(ステップS20)。その後に仮接合された状態の一のYAG基板5、Nd:YAG基板および他のYAG基板7とが加熱されて接合される(ステップS3)。このようにして一のYAG基板5と他のYAG基板7とによってNd:YAG基板が挟まれるように積層された基板10が製造される。これにより、たとえばNd添加YAG結晶を無添加YAG結晶で挟んだレーザ素子を製造することができる。このレーザ素子では接合界面にボイドが少ないため歩留まりよく製造することができる。
【0067】
本実施の形態の基板10の製造方法によれば、第1の基板および第2の基板の少なくともいずれかは、光学結晶を含んでいてもよい。このため、第1の基板および第の基板2の少なくともいずれかが光学結晶を含むレーザ素子などにおいて、仮接合後の加熱工程でボイド(気泡)の発生を抑制することができる。このレーザ素子では接合界面にボイドが少ないため歩留まりよく製造することができる。
【0068】
上記の各実施の形態は、適宜組み合わせられ得る。
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることを意図される。
【符号の説明】
【0069】
1 第1の基板、2 第2の基板、3 石英基板、4 GaAs基板、5 一のYAG基板、6 Nd:YAG基板、7 他のYAG基板、10 基板。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の基板と第2の基板とが接合された基板の製造方法であって、
希ガスプラズマが照射された一方面を有する前記第1の基板および酸素プラズマが照射された一方面を有する前記第2の基板を準備する工程と、
前記第1の基板の前記一方面と前記第2の基板の前記一方面とを向かい合わせて大気中で前記第1および第2の基板を張り合わせて仮接合する工程と、
前記仮接合された状態の前記第1の基板と前記第2の基板とを加熱して接合する工程とを備えた、基板の製造方法。
【請求項2】
前記希ガスプラズマは、アルゴンプラズマ、クリプトンプラズマおよびキセノンプラズマのいずれかである、請求項1に記載の基板の製造方法。
【請求項3】
前記加熱して接合する工程は、前記仮接合された状態の前記第1の基板と前記第2の基板とを加圧した状態で加熱する工程を含む、請求項1または2に記載の基板の製造方法。
【請求項4】
前記仮接合された状態の前記第1の基板と前記第2の基板とを加圧する工程をさらに備え、
前記加熱して接合する工程は、前記加圧された状態の前記第1の基板と前記第2の基板とを無加圧に戻した状態で加熱する工程を含む、請求項1または2に記載の基板の製造方法。
【請求項5】
前記第1の基板および前記第2の基板の少なくともいずれかは、半導体結晶を含む、請求項1〜4のいずれかに記載の基板の製造方法。
【請求項6】
前記第1の基板および前記第2の基板の少なくともいずれかは、酸化物材料を含む、請求項1〜4のいずれかに記載の基板の製造方法。
【請求項7】
前記第1の基板および前記第2の基板の少なくともいずれかは、光学結晶を含む、請求項1〜4のいずれかに記載の基板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−161831(P2012−161831A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−25827(P2011−25827)
【出願日】平成23年2月9日(2011.2.9)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】