説明

基板製造方法、配線基板の製造方法、ガラス基板および配線基板

【課題】ガラス基板に形成した貫通孔の孔内を囲む側壁と貫通孔の孔内に充填した金属材
との気密性を高め、気体のリークを防止する。
【解決手段】ケイ素酸化物を含むガラスを用いて形成されるガラス基板2の表裏面に連通する貫通孔3の孔内に金属材が充填されている基板であって、金属材を充填する前に、貫通孔3の孔内を囲む側壁のケイ素酸化物を選択的にエッチングすることでアンカー部を形成し、アンカー部形成後、貫通孔3の孔内に金属材を充填することで実現する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板製造方法、配線基板の製造方法、ガラス基板および配線基板に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、MEMS(Micro Electro Mechanical System)等の電子部品が実装される配線基板に対しては、高い接続信頼性を確保しつつ電子部品等の高密度実装を可能にすることが求められている。これに応えるべく、配線基板については、樹脂基板ではなく、平滑性、硬質性、絶縁性、耐熱性等に優れたガラス基板をコア基板として用い、そのガラス基板の表裏面に連通する貫通孔の孔内に金属を充填することで、基板表裏面に形成された各電気配線を確実に導通させることを可能とし、これにより微細化や高密度化等に対応し得るようにすることが、本願発明者らによって提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
このようなガラス基板からなる配線基板は、以下に述べる手順で製造される。具体的には、例えば特許文献1に開示されているように、ガラス基板に貫通孔を形成する工程を行った後、メッキ法によって貫通孔内に金属を充填する工程を行う。そして、金属を充填する工程では、その初期段階において、ガラス基板の表裏面における貫通孔の開口部のいずれか一方を金属で閉塞し、その後、閉塞によって形成された孔内の底部に他方の開口部の側から金属を堆積して当該他方の開口部に向けて成長させることで貫通孔内に金属を充填する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2005/027605号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このように、貫通孔内に金属を充填させた場合、貫通孔の孔内を囲む側壁と充填した金属との気密性(ガスバリア性など)が低い。気密性が低いと、気密性の低い箇所からガスなどの気体が通過するリークを発生してしまう。例えば、貫通孔内に金属を充填したガラス基板に対して配線パターンなどを形成する場合など、ガラス基板の表裏面に対して金属層を所定のガス雰囲気中で積層させる。しかしながら、上述した気密性が低いとガスのリークによる影響を受けて金属層の積層制御を妨げてしまうなどの問題を招来してしまう。
【0006】
そこで、本発明は、上述した課題を解決するために提案されたものであり、貫通孔の孔内を囲む側壁と貫通孔の孔内に充填した金属材との気密性を高め、気体のリークを防止することができる基板製造方法、配線基板の製造方法、ガラス基板および配線基板を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本明細書で開示する一つの発明は、基板の製造方法である。本基板製造方法は、ケイ素酸化物を含むガラスを用いて形成されているガラス基板の表裏面に連通する貫通孔の孔内に金属材が充填されている基板を製造する基板製造方法である。
本基板製造方法の特徴は、前記金属材を充填する前に、前記貫通孔の孔内を囲む側壁付近にあるケイ素酸化物を選択的にエッチングすることでアンカー部を形成するエッチング工程と、前記エッチング工程後、前記貫通孔の孔内に金属材を充填する充填工程とを備えることである。
ここで言う「ケイ素酸化物」とは、組成式「Si」で表される物質を示しており、たとえば、二酸化ケイ素(SiO)が例示される。Siは、二酸化ケイ素の結晶質物質のみに限定されず、Siのアモルファス構造である石英ガラスも含まれる。また、ケイ素酸化物を主体とする構造のSiサイトの一部に、Alや他の元素が置換している場合も、ここで言う「ケイ素酸化物」に含まれる。
【0008】
本基板製造方法において、前記ガラスが結晶化ガラスであると好ましい。結晶化ガラスでは、結晶質部分とアモルファス部分で分子構造が異なる。また、結晶質成分も単一の結晶体が分散しているのではなく、複数種類の結晶体が分散している場合がある。つまり、結晶化ガラスでは、異なる構造(結晶構造又はアモルファス構造)を有する複数のクラスターがランダムに分散していると考えられる。
【0009】
本発明によれば、貫通孔側壁に露出したケイ素酸化物部分を選択的にエッチングすることができ、複雑なアンカー部を形成することができる。孔内に充填された金属はその複雑なアンカー部に入り込んで噛みあうので、ガラス基板と充填された金属とのガスバリア性は向上する。
【0010】
本基板製造方法において、前記エッチング工程では、酸性フッ化アンモニウムと強酸アンモニウム塩との混合液をエッチング液として用いると好ましい。
酸性フッ化アンモニウムに加え強酸アンモニウム塩を加えたエッチング液を使用すると、ケイ素酸化物に対するエッチング選択性が向上するため好ましい。
強酸アンモニウム塩として、例えば、硫酸アンモニウム、硝酸アンモニウム、過塩素酸アンモニウム、及び、ハロゲン化アンモニウムが挙げられる。中でも硫酸アンモニウムが好ましい。
【0011】
ここで開示する他の発明は、配線基板の製造方法である。具体的には、前述した構成のガラス基板の少なくとも一方の面に配線が形成される構成である。
【0012】
ここで開示する他の発明は、ガラス基板である。本ガラス基板は、基板の表裏面に連通する貫通孔の孔内に金属材が充填されてなるガラス基板であって、前記貫通孔の孔内を囲む側壁のアンカー部が形成されており、そのアンカー部にも金属が入り込んでいることを特徴とする。
【0013】
ここで開示する他の発明は配線基板である。本配線基板は、前述した構成のガラス基板における一面側と他面側との少なくとも一方に配線パターンが形成されていることを特徴とする配線基板である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、貫通孔の孔内を囲む側壁と貫通孔の孔内に充填した金属材との気密性を高め、気体のリークを防止することを可能とする。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施形態に係る配線基板の構成例を示す断面図である。
【図2】本発明の実施形態に係る配線基板の製造方法を説明する工程図(その1)である。
【図3】本発明の実施形態に係る配線基板の製造方法を説明する工程図(その2)である。
【図4】貫通孔の断面形状を示す拡大図である。
【図5】本発明の実施形態に係る配線基板の製造方法を説明する工程図(その3)である。
【図6】本発明の実施形態に係る配線基板の製造方法を説明する工程図(その4)である。
【図7】本発明の変形例である配線基板の構成例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本明細書に記載するいくつかの実施形態の特徴を最初に整理する。
(特徴1)ガラス基板の素材である結晶化ガラスは、感光性ガラスである。
(特徴2)エッチング液は、酸性フッ化アンモニウムと硫酸アンモニウムの混合溶液を使用する。酸性フッ化アンモニウムと硫酸アンモニウムの比率は、1:1〜1:5程度、特に1:3が好ましい。
(特徴3)エッチングのターゲットは、ケイ素酸化物であり、特には、ケイ素酸化物のアモルファス成分である。
(特徴4)結晶化ガラスから構成されるガラス基板の上面および/または下面を粗化してアンカー部を形成する。アンカー部が発揮するアンカー効果により、ガラス基板上に、ガラス基板との密着力が弱い金属材料を配線パターンとして直接積層できる。これにより、密着層が不要となるため、配線基板を低コストで製造できる。
【0017】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しつつ詳細に説明する。
本発明の実施形態においては、次の順序で説明を行う。
1.配線基板の概略構成
2.配線基板の製造方法の手順
2−1.貫通孔形成工程
2−2.ガラス基板改質工程
2−3.エッチング工程(側壁面粗化工程)
2−4.貫通孔充填工程
(1)メッキ下地層形成工程
(2)開口部閉塞工程
(3)孔内金属充填工程
(4)基板面露出工程
(5)基板平坦化工程
2−5.配線パターン形成工程
3.本実施形態の効果
4.変形例等
【0018】
<1.配線基板の概略構成>
図1は本発明の実施形態に係る配線基板の構成例を示す断面図である。図示した配線基板1は、ガラス基板2を用いて構成されている。ガラス基板2は、配線基板1のコア基板として使用されている。ガラス基板2には複数(図1では1つのみ表示)の貫通孔3が設けられている。貫通孔3には金属4が充填されている。ガラス基板2の第1面および第2面には、それぞれ密着層5を介して配線パターン6が形成されている。このことから、配線基板1は両面配線基板を構成している。ガラス基板2の第1面と第2面は、互いに表裏の関係になっている。図1においては、ガラス基板2の下面を第1面とし、ガラス基板2の上面を第2面としている。配線パターン6は、配線経路に応じたパターン形状に形成されている。
【0019】
ガラス基板2は、感光性ガラス基板を用いて構成されている。ガラス基板2に用いられる感光性ガラス基板は、その平滑性、硬質性、絶縁性、加工性等の面で、配線基板1のコア基板として優れている。このような性質は、感光性ガラスのほかに、ソーダライムガラス等の化学強化ガラス、無アルカリガラス、アルミノシリケートガラス等でも同様であり、これらのガラスも配線基板1のコア基板に用いることが可能である。
【0020】
貫通孔3は、平面視略円形に形成されている。本発明を実施するにあたって、貫通孔3の配置に特に制限はない。このため、貫通孔3については、たとえば、所望する配線パターン6のパターン形状にあわせてランダムに配置してもよいし、あらかじめ決められた間隔でマトリクス状に配置してもよいし、マトリクス状以外の配列で配置してもよい。
【0021】
貫通孔3の孔内を囲む側壁の壁面(以下、側壁面とも呼ぶ。)は、金属4を充填する前の段階において、表面をエッチングすることにより粗化されている。これにより、貫通孔3の側壁面と貫通孔3に充填する金属4との密着力が強化される。そのため、金属4を充填した貫通孔3部分における気密性(ガスバリア性など)が向上し、気体のリークを防止することができる。貫通孔3の側壁面に施す粗化処理については、後で詳細に説明をする。
【0022】
金属4は、上述したようにガラス基板2の両面(第1面、第2面)に形成された配線パターン6同士を電気的に接続するものである。このため、金属4は、電気抵抗の低い金属材料(導電材料)であることが好ましい。また、本発明の実施形態においては、貫通孔3を金属4で埋め込む手法として電解メッキを利用する。このため、金属4は、電解メッキに適した金属材料であることが望ましい。具体的には、金属4は、銅、ニッケル、金、銀、白金、パラジウム、クロム、アルミニウム、ロジウムのいずれか一種から構成される金属または2種以上から構成される合金である。本実施形態においては、金属4を銅で構成することとする。
【0023】
密着層5は、ガラス基板2に対する配線パターン6の密着力を強化する層である。密着層5は、配線パターン6と同一のパターン形状をなしている。本実施形態においては、配線パターン6を金属4と同様に銅で構成している。この銅をガラス基板2上に直接積層すると十分な密着力が得られない。このため、ガラス基板2と配線パターン6との間に密着層5を介在させている。密着層5は、クロム層と銅層の2層構造でもよいし、それらの層間にクロム銅層を介在させた3層構造でもよいし、4層以上の多層構造でもよい。本実施形態においては、一例として、密着層5を3層構造にしている。具体的には、密着層5の構造を、ガラス基板2上にクロム層5a、クロム銅層5bおよび銅層5cを順に積層した3層構造にしている。
【0024】
配線パターン6は、密着層5の上に積層した状態で形成されている。より具体的には、配線パターン6は、密着層5の最上層となる銅層5cの上に形成されている。ガラス基板2の第1面に形成された配線パターン6の一部と、ガラス基板2の第2面に形成された配線パターン6の一部とは、貫通孔3に充填された金属4を介して電気的に接続(導通)されている。
【0025】
<2.配線基板の製造方法の手順>
次に、本発明の実施形態に係る配線基板の製造方法について説明する。
配線基板の一連の製造工程のなかには、貫通孔形成工程、ガラス基板改質工程、エッチング工程、貫通孔充填工程、配線パターン形成工程が含まれる。このうち、配線パターン形成工程を除く一連の工程は、本発明の実施形態に係る基板製造方法に含まれる工程となる。
【0026】
(2−1.貫通孔形成工程)
貫通孔形成工程は、ガラス基板2に貫通孔3を形成する工程である。貫通孔形成工程は、表裏の関係にある第1面および第2面を有する板状のガラス基材に、第1面側を第1開口部とし、かつ第2面側を第2開口部とする貫通孔を形成してなるガラス基板を用意する工程に相当する。このため、貫通孔3付きのガラス基板2を入手する手法としては、貫通孔形成工程を行う以外にも、たとえば、他のメーカーから貫通孔3付きのガラス基板2を購入してもよい。貫通孔3の形成方法としては、たとえば、レーザー加工法やフォトリソグラフィ法を用いることができる。本実施形態においては、貫通孔3を高精度に形成するうえで、レーザー加工法よりも有利なフォトリソグラフィ法を用いることにする。フォトリソグラフィ法は露光および現像の各処理を経て行われる。このため、貫通孔3の形成対象となるガラス基材には、感光性の物質をガラス中に分散させた感光性ガラスを用いることにする。
【0027】
その場合、ガラス基板2は、感光性を示すものであれば特に制限はない。ガラス基板2には、感光性成分として金(Au)、銀(Ag)、亜酸化銅(CuO)または酸化セリウム(CeO)のうち少なくとも1種を含んでいることが好ましく、2種以上含んでいることがより好ましい。このようなガラス基板2としては、たとえば質量%で、SiO:55%〜85%,酸化アルミニウム(Al):2%〜20%,酸化リチウム(LiO):5%〜15%,SiO+Al+LiO>85%を基本成分とし、Au:0.001%〜0.05%,Ag:0.001%〜0.5%,CuO:0.001%〜1%を感光性金属成分とし、更にCeO:0.001%〜0.2%を光増感剤として含有するものを用いることができる。
【0028】
以下、フォトリソグラフィ法によってガラス基板2に貫通孔3を形成する場合の具体的な手順について説明する。まず、ガラス基板2の貫通孔3を形成する部分(以下「貫通孔形成部分」という。)を露光する。この露光処理では、マスク開口を有するフォトマスク(図示せず)を用いる。フォトマスクは、たとえば、透明な薄いガラス基板に所望のパターン形状で遮光膜(クロム膜等)を形成し、この遮光膜で露光光(本形態例では紫外線)の通過を遮断するものである。上記露光処理では、このフォトマスクをガラス基板2の第1面または第2面に密着させて配置する。次に、フォトマスクを介してガラス基板2に紫外線を照射する。そうすると、ガラス基板2の貫通孔形成部分に対応してフォトマスクに形成されたマスク開口を通してガラス基板2に紫外線が照射される。
【0029】
次に、ガラス基板2を熱処理する。熱処理は、感光性ガラス基板の転移点と屈伏点との間の温度で行うことが好ましい。転移点を下回る温度では熱処理効果が十分に得られず、屈伏点を上回る温度では感光性ガラス基板の収縮が起こって露光寸法精度が低下する恐れがあるためである。熱処理時間としては30分〜5時間程度とすることが好ましい。
【0030】
このような紫外線照射と熱処理を行うことにより、紫外線が照射された貫通孔形成部分が結晶化される。その結果、図2(A)に示すように、ガラス基板2の貫通孔形成部分に露光結晶化部3aが形成される。
【0031】
その後、上述のように露光結晶化部3aが形成されたガラス基板2を現像する。現像処理は、適度な濃度の希フッ化水素酸等のエッチング液を、現像液としてガラス基板2にスプレー等することにより行う。この現像処理により、露光結晶化部3aが選択的に溶解除去される。その結果、図2(B)に示すように、ガラス基板2に貫通孔3が形成される。この貫通孔3は、ガラス基板2の下面(第1面)と上面(第2面)にそれぞれ開口した状態となる。以降の説明では、ガラス基板2の下面側に開口する貫通孔3の開口部(第1開口部)を下開口部とし、ガラス基板2の上面側に開口する貫通孔3の開口部(第2開口部)を上開口部とする。
【0032】
上記のフォトリソグラフィ法を用いた貫通孔3の形成方法によれば、ガラス基板2にアスペクト比10程度の貫通孔3を所望の数だけ同時に形成することができる。たとえば、厚さ0.3mm〜1.5mm程度のガラス基板2を用いた場合には、孔径(直径)が30μm〜150μm程度の貫通孔3を所望の位置に複数同時に形成することができる。これにより、配線パターンの微細化、貫通孔形成工程の効率化を図ることが可能になる。さらに、配線の高密度化のために、ランド幅を極めて小さくする、あるいはランド幅をゼロとしたランドレス構造とする場合には、貫通孔3間のスペースを十分広く確保することができる。そのため、貫通孔3間にも配線を形成することが可能になり、配線パターンの設計自由度の拡大や配線密度の向上を図ることも可能になる。また、複数の貫通孔3を狭ピッチで形成することによって配線密度の向上を図ることも可能になる。
【0033】
(2−2.ガラス基板改質工程)
貫通孔形成工程でガラス基板2に貫通孔3を形成した後は、ガラス基板改質工程を行う。
【0034】
通常、感光性のガラス基板2には、リチウムイオン(Li),カリウムイオン(K)等のアルカリ金属イオンが含まれている。これらのアルカリ金属イオンが配線基板1の配線金属に漏洩し、これに水が吸着すると、電圧が印加されている回路間において配線金属がイオン化し、これが再度電荷を受けて還元され析出するイオンマイグレーションが発生する。このイオンマイグレーションにより、最悪の場合には、析出した金属によって一方の回路から他方の回路に向かう配線が形成され、回路間が短絡してしまうおそれがある。このような短絡不良は、配線間隔が小さい場合に顕著となる。このため、微細な配線を高密度に形成するためにはイオンマイグレーションを抑止する必要がある。
【0035】
ガラス基板改質工程では、貫通孔3が形成されたガラス基板2全体に、たとえば紫外線を約700mJ/cmで照射し、その後、約850℃の温度で約2時間の熱処理を行うことにより、ガラス基板2を結晶化する。このように感光性のガラス基板2全体を結晶化することにより、結晶化前にくらべて、ガラス基板2に含まれるアルカリ金属イオンが移動しにくくなる。このため、イオンマイグレーションを効果的に抑止することができる。
【0036】
(2−3.エッチング工程(側壁面粗化工程))
ガラス基板改質工程でガラス基板2を結晶化させて結晶化ガラスとした後は、エッチング工程(側壁面粗化工程)を行う。
【0037】
エッチング工程は、少なくともガラス基板2に形成されている貫通孔3の側壁に対してその表面(側壁面)の粗化を行う工程である。表面の粗化とは、当該表面を粗い面状態に変化させること、より具体的にはSEM(電子顕微鏡)観察で識別できる差異が生じる程度以上の面粗さの変化を伴う面処理を行うことをいう。側壁面粗化工程では、少なくとも貫通孔3の側壁面に対して粗化を行えばよいことから、当該側壁面の他にガラス基板2の表裏面や側端面等を粗化対象面として含んでいてもよい。
【0038】
表面の粗化は、以下のような手法で行う。本実施形態においては、貫通孔3が形成され、かつ、結晶化された後のガラス基板2に対して、酸性フッ化アンモニウム(NHF・HF)と硫酸アンモニウム((NHSO)とが所定の比率で混合されてなるエッチング液によるエッチングを行う。このようなエッチング処理を行うと、ガラス基板2を構成する各種材料のうち、上記のエッチング液に溶け易いケイ素酸化物が優先して選択的に溶解除去される。具体的には、酸性フッ化アンモニウムと硫酸アンモニウムの比率は、1:1〜1:5程度、特に1:3が好ましい。その結果、エッチング処理された表面(貫通孔3の孔内における側壁の表面を含む)には、微細なエッチング痕が多数形成されることになる。このエッチング痕の形成によって、ガラス基板2の表面が粗化される。
【0039】
ガラス基板改質工程により結晶化されたガラス基板2は、ケイ素酸化物とリチウムダイシリケート(LiO・2SiO)によって構成されている。つまり、結晶化したガラス基板2は、クラスター状のケイ素酸化物を含んでいる。
このようなケイ素酸化物の構造としては、アモルファスである石英ガラス(シリカガラス)、結晶質である石英、トリジマイト及びクリストバライトが考えられる。
【0040】
図2(B)に示すように貫通孔3を形成したガラス基板2を結晶化した後、ガラス基板2の貫通孔3の孔内を囲む側壁面を上記のエッチング液によりエッチングすると、図2(C)に示すように粗化され、凹凸が形成される。
【0041】
このようにして粗化された表面については、粗化をしない場合に比べると、後述する貫通孔充填工程で貫通孔3の孔内に充填される金属材料の濡れ性が向上するため良好な充填を促進する。
また、粗化をしない場合と比較して粗化によって形成されたエッチング痕の底部まで金属材料が入り込むことでアンカー効果が発揮されるので、粗化をしない場合に比べると、粗化された表面に対する金属材料の密着強度が向上することになる。
【0042】
このエッチング工程による粗化は、ガラス基板2に形成された貫通孔3の側壁面を単に粗くするだけではない。上述したエッチング液は、ケイ素酸化物、特には、ケイ素酸化物のアモルファス成分(たとえば、石英ガラス等)をターゲットとして溶解除去していくため、図2(C)の領域A,B,Cに示すように、表面から深く入り込むようなエッチング痕を形成するようにエッチングがなされる。このような、領域A,B,Cでは、アンカー効果が極めて顕著となり金属材料との密着強度をさらに向上させることになる。このように、エッチング工程により表面を粗化された箇所は、アンカー効果が極めて高くなり、そのままでは密着力の弱かった、金属材料との密着強度を向上させることができる。
これにより、後述するように金属を充填した貫通孔3部分における気密性(ガスバリア性など)が向上し、気体のリークを防止することができる。
なお、図2(C)に示すガラス基板2に形成された貫通孔3の側壁面のように、エッチング工程により粗化され凹凸が形成された表面は、アンカー効果を示すことから、以下の説明においてアンカー部と呼ぶ。
【0043】
(2−4.貫通孔充填工程)
側壁面粗化工程で少なくとも貫通孔3の側壁面を粗化した後は、貫通孔充填工程を行う。貫通孔充填工程では、(1)メッキ下地層形成工程、(2)開口部閉塞工程、(3)孔内金属充填工程、(4)基板面露出工程、および、(5)基板平坦化工程を順に行う。
【0044】
(1)メッキ下地層形成工程
メッキ下地層形成工程は、ガラス基板2の下面側に金属のメッキ下地層7を形成する工程である。この工程では、ガラス基板2の上面側にメッキ下地層7を形成せず、ガラス基板2の下面側だけにメッキ下地層7を形成する。また、メッキ下地層形成工程では、図3(A)に示すように、ガラス基板2の下面とあわせて、貫通孔3の下開口部(第1開口部)の縁から貫通孔3の側壁面の一部にかけてもメッキ下地層7を形成しておく。これにより、ガラス基板2の下面側に位置する貫通孔3の側壁面部分はメッキ下地層7で覆われるのに対して、ガラス基板2の上面側に位置する貫通孔3の側壁面部分はメッキ下地層7で覆われることなく露出した状態となる。ちなみに、ここで記述する「貫通孔3の側壁面の一部」とは、貫通孔3の深さ方向の一部を占める側壁面部分であって、かつ、貫通孔3の下開口部の縁から貫通孔3の奥側(上開口部)に向かって連続する側壁面部分をいう。
【0045】
貫通孔3の深さ方向において、メッキ下地層7を形成する範囲は、ガラス基板2の除去予定領域8よりも貫通孔3の奥側に入り込んだ位置まで確保することが望ましい。ガラス基板2の除去予定領域8とは、後述する基板平坦化工程でガラス基板2の表層部を機械加工により除去する際に、ガラス基板2の除去を予定している領域をいう。図3(A)においては、2本の二点鎖線で示す位置までガラス基板2の表層部を機械加工で除去する予定になっている。このため、ガラス基板2の機械加工(平坦化加工)を終えた段階では、2本の二点鎖線よりも内側の基板部分2aが、最終的にガラス基板2として残る部分になる。
【0046】
ガラス基板2の除去予定領域8は、ガラス基板2の両面にそれぞれ設定されている。このうち、ガラス基板2の下面側に設定された除去予定領域8に関しては、機械加工によってガラス基板2の表層部を除去した後でも貫通孔3の下開口部がメッキ下地層7および第1メッキ層4a(後述)によって閉塞された状態となるように、メッキ下地層7を形成しておく。具体的には、除去予定領域8の境界位置(二点鎖線で示す位置)よりも貫通孔3の奥側までメッキ下地層7を形成しておく。
【0047】
メッキ下地層7は、ガラス基板2との密着性が良好なスパッタリングによって形成することが望ましい。具体的には、ガラス基板2の下面側に、たとえば厚さが約0.05μmのクロム層7aと厚さが約1.5μmの銅層7bを、スパッタリングにより順に積層することにより、2層構造のメッキ下地層7を形成する。その際、スパッタリングによってターゲットからはじき飛ばされた金属原子(以下、「スパッタ原子」とも記す)の一部が、貫通孔3の下開口部から貫通孔3内に進入し、貫通孔3の側壁面に付着する。このため、スパッタ原子を貫通孔3の側壁面に効率良く付着させるには、上記貫通孔形成工程において、貫通孔3の下開口部側の断面形状が裾広がり状(フレア状)となるように、ガラス基板2に貫通孔3を形成しておくことが望ましい。
【0048】
具体的には、上記貫通孔形成工程において、露光結晶化部3aをエッチング液で溶解する場合に、エッチング液の濃度を適宜調整することにより、貫通孔3の深さ方向でガラス基板2の下開口部の縁に近い部分が遠い部分よりも多く溶けるようにする。これにより、貫通孔3の孔径が、深さ方向の中心部から上下の開口部に向かって徐々に大きくなるように、貫通孔3が形成されることになる。このように貫通孔3を形成しておけば、上記のクロム層7aおよび銅層7bのスパッタリングに際して、図4に示すように、貫通孔3の下開口部側の側壁面が貫通孔3の中心軸(一点鎖線)に対してフレア状に傾いた状態で配置される。このため、スパッタリングによって貫通孔3の下開口部から貫通孔3内に進入したスパッタ原子が、貫通孔3の側壁面に付着しやすくなる。貫通孔3の深さ方向におけるメッキ下地層7の形成範囲については、たとえば、貫通孔3の深さ寸法(ガラス基板2の厚み寸法)の少なくとも1/20以上、より好ましくは1/10以上、さらに好ましくは1/5〜1/2程度の範囲とし、この範囲で貫通孔3の側壁面をメッキ下地層7で被覆すればよい。
【0049】
なお、図4では、図面が煩雑になることを避けるため、貫通孔3の孔内を囲む側壁面を粗化した様子を省略するが、実際には、図2(C)に示すように粗化されアンカー部が形成されている。
【0050】
(2)開口部閉塞工程
開口部閉塞工程は、ガラス基板2の下面側に電解メッキによって金属の第1メッキ層4aを形成することにより、貫通孔3の下開口部を第1メッキ層4aによって閉塞する工程である。この工程では、図3(B)に示すように、ガラス基板2の下面でメッキ下地層7の表面から第1メッキ層4aを成長させるとともに、貫通孔3の内部でもメッキ下地層7の表面から第1メッキ層4aを成長させることにより、貫通孔3の下開口部を第1メッキ層4aによって閉塞する。本実施形態においては、銅の電解メッキによって第1メッキ層4aを形成する。
【0051】
開口部閉塞工程の電解メッキでは、たとえば、メッキ液である硫酸銅水溶液の入ったメッキ浴中に、銅板を陽極とし、ガラス基板2のメッキ下地層7を陰極として、それぞれ配置する。その際、メッキ下地層7が形成されているガラス基板2の下面側(第1面側)から電解メッキを行うために、ガラス基板2の下面側を陽極(銅板)に対向させる。この状態で陽極と陰極に直流電源を接続して所定の電圧を印加することにより、メッキ下地層7の表面に銅を析出させる。第1メッキ層4aの形成は、貫通孔3の孔径にも依存するが、通常よりも比較的高い電流密度の条件下(たとえば、1A/dm〜5A/dm程度)で行うようにする。また、この電流密度は、メッキ浴のpHや銅イオン濃度にも依存するため、その値を適切に設定するようにする。一般的には、メッキ液濃度が高い場合には、低い場合にくらべて、より高い電流密度に設定することができる。このような電流密度条件下で電解メッキを行うことにより、貫通孔3の下開口部を第1メッキ層4aによって閉塞することができる。このとき、電解メッキによってメッキ下地層7の上に積層される第1メッキ層4aの一部は、貫通孔3の側壁面を這い上がるようにしてメッキ下地層7よりも貫通孔3の奥側まで成長する。また、貫通孔3内における第1メッキ層4aの表面は、貫通孔3の中心部分で断面略U字状にへこんだ形状になる。
【0052】
(3)孔内金属充填工程
孔内金属充填工程は、ガラス基板2の上面側からの電解メッキによって貫通孔3内に金属の第2メッキ層4bを堆積することにより、貫通孔3を金属で充填する工程である。ここで記述する「ガラス基板2の上面側からの電解メッキ」とは、ガラス基板2の上面および下面のうち、ガラス基板2の上面側にこれに対向するように陽極を配置して行う電解メッキをいう。また、「貫通孔3を金属で充填する」とは、先述した開口部閉塞工程において貫通孔3の下開口部を第1メッキ層4aで閉塞した場合に、貫通孔3内で第1メッキ層4aにより埋め込まれていない部分(未充填部分)を金属で満たすことをいう。
【0053】
孔内金属充填工程では、図3(C)に示すように、貫通孔3の内部で第1メッキ層4aの表面から貫通孔3の上開口部に向かって第2メッキ層4bを成長させることにより、貫通孔3を金属で充填する。本実施形態においては、上述した第1メッキ層4aと同様に、銅の電解メッキによって貫通孔3内に第2メッキ層4bを形成する。この場合、貫通孔3の内部には、第1メッキ層4aおよび第2メッキ層4bを構成する銅と共に、メッキ下地層7(クロム層7a、銅層7b)を構成するクロムおよび銅が存在し、これらの金属によって貫通孔3が埋め込まれることになる。
【0054】
孔内金属充填工程の電解メッキでは、たとえば、メッキ液である硫酸銅水溶液の入ったメッキ浴中に、銅板を陽極とし、ガラス基板2の第1メッキ層4aを陰極として、それぞれ配置する。その際、第1メッキ層4aが形成されていないガラス基板2の上面側(第2面側)から電解メッキを行うために、ガラス基板2の上面側を陽極(銅板)に対向させる。この状態で陽極と陰極に直流電源を接続して所定の電圧を印加することにより、第1メッキ層4aの表面に銅を析出させる。これにより、先に貫通孔3内に形成されているメッキ下地層7および第1メッキ層4aと、第1メッキ層4aの上に積層される第2メッキ層4bとによって、貫通孔3を埋め込む。この電解メッキは、比較的低い電流密度の条件下(たとえば、0.2A/dm〜0.8A/dm程度)で行うようにする。本工程においては、上記開口部閉塞工程の電解メッキで適用した電流密度よりも低い条件下(たとえば、0.5A/dm)で行うようにする。また、この電解メッキの際には、いわゆるパルスメッキ法を用いることもできる。パルスメッキ法は、貫通孔3内におけるメッキ金属の堆積速度のバラツキを抑える点で有効である。また、印加電圧は、水素過電圧以下に設定することが肝要である。貫通孔3の形状が高アスペクト比である場合には、発生した水素ガス泡を除去することが非常に困難だからである。
【0055】
このような条件で電解メッキを行うことにより、メッキ浴中の銅イオンが貫通孔3の上開口部から貫通孔3内に進出して第1メッキ層4aの表面に析出する。このため、貫通孔3内においては、先に形成した第1メッキ層4aの表面から上開口部に向かって第2メッキ層4bが成長することにより、貫通孔3が徐々に埋め込まれていく。そして、第2メッキ層4bの表面が貫通孔3の上開口部に達すると、貫通孔3が完全に埋め込まれた状態となる。ここでは、第2メッキ層4bの成長による貫通孔3の充填を確実なものとするために、図5(A)に示すように、第2メッキ層4bの表面がガラス基板2の上面側に突出するまで電解メッキを行うものとする。
【0056】
(4)基板面露出工程
基板面露出工程は、ガラス基板2の下面から第1メッキ層4aおよびメッキ下地層7を取り除いてガラス基板2の下面を露出させる工程である。この工程では、図5(A)と図5(B)を対比すると分かるように、ガラス基板2の下面を覆っていた第1メッキ層4aおよびメッキ下地層7を除去するとともに、ガラス基板2の上面側に突出していた第2メッキ層4bをへこませる。
【0057】
基板面露出工程では、除去の対象となる膜の構成材料に適した薬液を用いて、エッチング処理を行う。本実施形態においては、薬液を変えて2回のエッチング処理を行う。まず、1回目のエッチング処理では、たとえば、塩化第二鉄を主成分とする薬液を用いて、第1メッキ層4aを構成している銅や、メッキ下地層7の銅層7bを構成している銅をエッチングにより除去(溶解)する。また、1回目のエッチング処理では、第2メッキ層4bを構成している銅をエッチングにより除去する。次に、2回目のエッチング処理では、たとえば、フェリシアン化カリウムを主成分とする薬液を用いて、メッキ下地層7のクロム層7aを構成しているクロムをエッチングにより除去する。
【0058】
ちなみに、1回目のエッチング処理では、ガラス基板2の下面側にクロム膜7bが露出するまで銅をエッチングにより除去するが、貫通孔3内においては、エッチングによる第1メッキ層4aの後退面F1が、ガラス基板2の除去予定領域8(図3(A)を参照)内にとどまるようにエッチング時間等を調整する。また、ガラス基板2の上面側においては、第2メッキ層4bの表面がガラス基板2の上面から突出しないように、1回目のエッチング処理によって第2メッキ層4bの表面を貫通孔3内まで後退させる。この場合も、エッチングによる第2メッキ層4bの後退面F2が、ガラス基板2の除去予定領域8(図3(A)を参照)内にとどまるようにエッチング時間等を調整する。
【0059】
(5)基板平坦化工程
基板平坦化工程は、ガラス基板2の上面および下面のうち少なくとも下面を機械加工によって平坦化する工程である。本実施形態においては、ガラス基板2の両面(上面および下面)を機械加工によって平坦化する。具体的には、ガラス基板2の上面および下面を両面ラップ加工によって平坦化し、その後、必要に応じてガラス基板2の両面を仕上げ研磨する。このような機械加工により、ガラス基板2の上面側および下面側の各表層部が、それぞれ除去予定領域8の境界位置(図3(A)の二点鎖線で示す位置)にあわせて除去される。その結果、図5(C)に示すように、ガラス基板2の両面が平坦化されるとともに、貫通孔3に充填された金属4の両端面が、それぞれガラス基板2の上面および下面と面一な状態に仕上げられる。また、ガラス基板2の貫通孔3の下開口部は、メッキ下地層7および第1メッキ層4aによって閉塞された状態となる。この場合、貫通孔3の内部には、メッキ下地層7を構成する銅およびクロムと、メッキ層4a,4bを構成する銅とが残存した状態になる。そして、これらの金属が貫通孔3に充填された状態となる。これにより、上記図1に示すように、貫通孔3に金属4を充填した構造のガラス基板2が得られる。
【0060】
なお、基板平坦化工程に先立って基板面露出工程を行い、ガラス基板2の下面から第1メッキ層4aおよびメッキ下地層7を取り除いてガラス基板2の下面を露出させておけば、基板平坦化工程を行う際には、ガラス基板2の上面および下面のいずれも、ガラスという同一(共通)の材料をもって露出した面になる。このため、基板平坦化工程においては、機械加工によるガラス基板2の平坦化処理を両面ラップ加工で行うことができる。これにより、ガラス基板2を両面同時に平坦化処理することが可能となる。したがって、ガラス基板2を片面ずつ平坦化処理する場合にくらべて、基板製造コストを安く抑えることができる。ちなみに、ガラス基板2の上面と下面が互いに異なる材料をもって露出している場合は、両面ラップ加工の適用が困難になるため、ガラス基板2を片面ずつ平坦化処理する必要がある。
【0061】
このように、貫通孔充填工程では、まずアンカー部に対して金属材料を充填させる。そして、アンカー部に充填した金属材料に連なるように、さらに金属材料を充填していく。これにより、貫通孔3内に充填した金属材料は、当該貫通孔3の側壁面へのアンカー部の形成により密着強度が向上していることから、貫通孔3部分における気密性(ガスバリア性など)が向上し、気体のリークを防止することができる。
【0062】
また、メッキ下地層形成工程においては、ガラス基板2の除去予定領域8よりも貫通孔3の奥側に入り込んだ位置までメッキ下地層7を形成している。このため、基板平坦化工程において、ガラス基板2の下面側の表層部を機械加工により除去した後でも貫通孔3の下開口部がメッキ下地層7および第1メッキ層4aによって閉塞された状態となる。かかる状態のもとでは、メッキ下地層7によってもたらされる密着力強化作用により、第1メッキ層4aがメッキ下地層7を介して貫通孔3の側壁面に強固に密着した状態となる。このため、基板平坦化工程後に貫通孔3内にメッキ下地層7が残存しない製造条件を適用した場合にくらべて、貫通孔3とこれを埋め込む金属4の密着性が高くなる。したがって、金属4を充填した貫通孔3部分における気密性(ガスバリア性等)を、さらに向上させることができる。
【0063】
(2−5.配線パターン形成工程)
配線パターン形成工程は、ガラス基板2の上面および下面のうち少なくとも一方に配線パターン6を形成する工程である。配線パターン形成工程には、密着層形成工程、配線層形成工程およびパターニング工程が含まれる。以下、各工程について説明する。
【0064】
(密着層形成工程)
密着層形成工程では、図6(A)に示すように、ガラス基板2の各面に対して、スパッタリング法によって密着層5を形成する。本実施形態では、クロム層5a、クロム銅層5bおよび銅層5cを順に積層した3層構造で密着層5を形成する。密着層5を構成する各金属層は、後述するエッチングによって配線パターン6を形成するときに生じるサイドエッチング量を考慮すると、極力薄く形成することが望ましい。ただし、密着層5の各金属層の厚さが薄すぎると、配線層のパターニングのために行われる処理によって密着層5が除去されるおそれがある。したがって、たとえば、上述のように密着層5を3層構造で形成する場合は、クロム層5aの厚さを0.04μm〜0.1μm程度、クロム銅層5bの厚さを0.04μm〜0.1μm程度、銅層5cの厚さを0.5μm〜1.5μm程度とすることが望ましい。これにより、密着層5の厚さは、合計で2μm以下に抑えられる。
【0065】
(配線層形成工程)
配線層形成工程では、図6(B)に示すように、ガラス基板2の各面に対して、先に形成した密着層5を覆う状態で配線層6aを形成する。配線層6aの形成は、電解メッキによって行う。この配線層6aについては、上述した密着層5と同様に、サイドエッチング量を考慮して極力薄く形成することが望ましい。しかし、配線層6aが薄すぎると、使用環境によってガラス基板2の温度変化が繰り返された場合に、配線層6aの熱膨張係数とガラス基板2の熱膨張係数との差によって、配線パターンに金属疲労が生じるおそれがある。このため、金属疲労に対する配線パターンの接続の信頼性を確保するために、配線層6aは適度な厚みにしておく必要がある。具体的には、配線層6aの厚みを1μm〜20μm程度とすることが望ましく、さらには4μm〜7μm程度とすることがより好ましい。配線層6aの厚さが1μmを下回る場合には、上記金属疲労によって配線の断線が生じる危険性が高くなる。また、配線層6aの厚さが20μmを上回る場合には、配線パターンの微細化の要求に応えることが難しくなる。
【0066】
(パターニング工程)
パターニング工程では、図6(C)に示すように、ガラス基板2の各面上において、密着層5および配線層6aをフォトリソグラフィ法とエッチングによってパターニングすることにより、配線パターン6を形成する。具体的には、ガラス基板2の配線層6aを図示しないレジスト層で覆った後、このレジスト層を露光・現像することにより、レジストパターンを形成する。これにより、ガラス基板2の配線層6aの一部(配線パターンとして残す部分)がレジストパターンで覆われた状態となる。次に、レジストパターンをマスクとして、配線層6aおよび密着層5の露出部分をエッチングによって除去する。これにより、レジストパターンと同じパターン形状をもつ配線パターン6が得られる。ここで用いるレジストは、液状レジストでもドライフィルムレジストでも電着レジストでもよい。また、レジストタイプとしては、ポジ型およびネガ型のいずれであってもかまわない。一般的には、ネガ型レジストにくらべてポジ型レジストのほうが、解像性が高い。このため、微細な配線パターンを形成するうえでは、ポジ型レジストのほうが適している。
【0067】
<3.本実施形態の効果>
本実施形態で説明した基板製造方法、配線基板の製造方法、ガラス基板および配線基板によれば、以下のような効果が得られる。
【0068】
(第1の効果)
本実施形態によれば、結晶化したガラス基板2に形成した貫通孔3の孔内を囲む側壁付近にあるケイ素酸化物を選択的にエッチングすることでアンカー部を形成する。そして、アンカー部を形成した後、貫通孔3の孔内に金属材を充填する。したがって、貫通孔3の孔内を囲む側壁と貫通孔3の孔内に充填した金属材との気密性が高く、気体のリークが防止されたガラス基板2を製造することができる。
【0069】
(第2の効果)
本実施形態によれば、酸性フッ化アンモニウムと強酸アンモニウム塩とが所定の比率で混合されてなるエッチング液によりエッチングを行うため、結晶化したガラス基板2のケイ素酸化物、特に石英ガラスをターゲットとして粗化していく。これにより、ガラス基板2に形成した貫通孔3の側壁面を単に粗くするといったような粗化とは異なり、表面から深くかつ入り組んだエッチング痕を形成するため、密着強度の非常に高いアンカー部を形成することができる。特に、強酸アンモニウム塩として、硫酸アンモニウムを選択することで上記の効果をより高めることができる。
【0070】
(第3の効果)
本実施形態によれば、上述した一連の工程からなる基板製造方法を利用して配線基板の製造方法が構成されている。したがって、その製造方法によって得られる配線基板1は、貫通孔3の孔内を囲む側壁と貫通孔3の孔内に充填した金属材との気密性が高いことから気体のリークが防止されるため、例えば、ガラス基板2の表裏面に対して金属層を積層させる場合など、良好な積層を実現することができる。
【0071】
(第4の効果)
本実施形態によれば、結晶化したガラス基板2には、形成した貫通孔3の孔内を囲む側壁付近にあるケイ素酸化物が部分的に除去されることでアンカー部が形成されている。そして、アンカー部が形成されている貫通孔3の孔内に金属材が充填されている。したがって、ガラス基板2は、貫通孔3の孔内を囲む側壁と貫通孔3の孔内に充填した金属材との気密性が高く、気体のリークを防止することができる。なお、アンカー部は、ケイ素酸化物を選択的にエッチングして形成することが好ましい。
【0072】
(第5の効果)
本実施形態によれば、配線基板1を構成するガラス基板2に形成された貫通孔3の孔内を囲む側壁と貫通孔3の孔内に充填した金属材との気密性が高いことから、配線基板1において気体のリークが防止される。したがって、例えば、ガラス基板2の表裏面に対して金属層が良好に積層された配線基板を得ることができる。
【0073】
<4.変形例等>
なお、本発明の技術的範囲は上述した実施形態に限定されるものではなく、発明の構成要件やその組み合わせによって得られる特定の効果を導き出せる範囲において、種々の変更や改良を加えた形態も含む。
【0074】
例えば、本実施形態においては、配線基板の製造方法について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、配線基板以外の用途で利用される基板製造方法として実施することも可能である。また、本実施形態には、ガラス基板、配線基板も含まれる。
【0075】
また、上記実施形態においては、ガラス基板2として、感光性を有するガラス基板を用いたが、感光性を有していない他のガラス基板を用いてもよい。その場合は、貫通孔形成工程において、フォトリソグラフィ法以外の方法、たとえば、レーザー加工法によってガラス基板2に貫通孔3を形成することができる。
【0076】
図7は、本発明の変形例として示す配線基板10の構成を示す断面図である。
図7に示すように、貫通孔3の孔内の側壁面に形成したアンカー部を、結晶化したガラス基板2の上面、下面にも形成するようにしてもよい。これにより、結晶化したガラス基板2の上面、下面にもアンカー効果を発揮させることができるため、ガラス基板2と密着力の弱い、例えば銅などからなる金属材料を配線パターン16としてガラス基板2に対して直接積層することができる。
【0077】
配線パターン16は、ガラス基板2の第1面、第2面に直接積層した状態で形成されている。ガラス基板2の第1面、第2面は、配線パターン16を積層する前の段階において、表面をエッチングすることにより粗化されている。これにより、ガラス基板2の第1面、第2面と配線パターン16との密着力が強化される。そのため、密着力の弱いガラス基板2の第1面、第2面に配線パターン16を直接積層することができる。ガラス基板2の第1面に施す粗化処理は、上述したエッチング工程(側壁面粗化工程)と全く同じである。
これにより、図1、図6(C)において、配線パターン6を形成するために必要としていた密着層5が必要なくなるため、極めて低コストで配線基板10を製造することができる。
【符号の説明】
【0078】
1 配線基板
2 ガラス基板
3 貫通孔
4 金属
4a 第1メッキ層
4b 第2メッキ層
5 密着層
6 配線パターン
6a 配線層
7 メッキ下地層
8 除去予定領域
10 配線基板
16 配線パターン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケイ素酸化物を含むガラスを用いて形成されているガラス基板の表裏面に連通する貫通孔の孔内に金属材が充填されている基板を製造する基板製造方法であって、
前記金属材を充填する前に、前記貫通孔の孔内を囲む側壁付近にあるケイ素酸化物を選択的にエッチングすることでアンカー部を形成するエッチング工程と、
前記エッチング工程後、前記貫通孔の孔内に前記金属材を充填する充填工程とを備えること
を特徴とする基板製造方法。
【請求項2】
前記ガラスは、結晶化ガラスであることを特徴とする請求項1に記載の基板製造方法。
【請求項3】
前記エッチング工程では、酸性フッ化アンモニウムと強酸アンモニウム塩との混合液をエッチング液として用いること
を特徴とする請求項1または2に記載の基板製造方法。
【請求項4】
請求項1または2に記載の基板製造方法により、ガラス基板の貫通孔の孔内に金属材が充填されている基板を製造した後、当該ガラス基板における一面側と他面側との少なくとも一方に配線パターンを形成すること
を特徴とする配線基板の製造方法。
【請求項5】
ケイ素酸化物を含むガラスを用いて形成される基板の表裏面に連通する貫通孔の孔内に金属材が充填されているガラス基板であって、
前記貫通孔の孔内を囲む側壁にアンカー部が形成されており、そのアンカー部の凹凸の少なくとも一部に前記充填された金属が入り込んでいること
を特徴とするガラス基板。
【請求項6】
前記ガラスは、結晶化ガラスであることを特徴とする請求項5に記載のガラス基板。
【請求項7】
請求項5または6に記載のガラス基板における一面側と他面側との少なくとも一方に配線パターンが形成されていること
を特徴とする配線基板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−80904(P2013−80904A)
【公開日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−180212(P2012−180212)
【出願日】平成24年8月15日(2012.8.15)
【出願人】(000113263)HOYA株式会社 (3,820)
【Fターム(参考)】