堤防の補強構造
【要 約】
【課 題】 地震や洪水等のさまざまな外力に対応できる盛土堤防の補強構造を実現する。
【解決手段】 堤防の河道側法肩付近に堤防を構成する盛土地盤よりも止水性の高い矢板壁2を打設するとともに、民地側法肩付近にこの止水性の高い矢板壁2よりも透水性の高い矢板壁3を打設し、これら両矢板壁2、3を連結材4で水平方向に連結する。
【課 題】 地震や洪水等のさまざまな外力に対応できる盛土堤防の補強構造を実現する。
【解決手段】 堤防の河道側法肩付近に堤防を構成する盛土地盤よりも止水性の高い矢板壁2を打設するとともに、民地側法肩付近にこの止水性の高い矢板壁2よりも透水性の高い矢板壁3を打設し、これら両矢板壁2、3を連結材4で水平方向に連結する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、河川における盛土式の堤防の補強構造に関する。
【背景技術】
【0002】
大きな河川の両岸には盛土式の堤防が構築されている。地震や洪水時にこの堤防が決壊すると沿岸地域に大きな被害をもたらす。したがって崩壊防止対策が必要である。
従来工法として、たとえばコンクリート製などの遮水性の高い表面材で堤防の表面を被覆する方法がある。この方法によれば、堤体内部への水の浸透や堤防内側への漏水、洪水時における堤体内の浸潤線の変動による構造の不安定化等を抑止することは可能であるが、堤体の構造自体の強度を向上させるわけではないため、地震や大洪水等の大きな外力による堤体の破壊や、基礎地盤の軟化、変形に伴う堤体の不安定化を防止することはできず、堤防の破壊や堤防高さの低下が発生すれば、たとえ局所的であっても河川の氾濫につながってしまうという問題点がある。
【0003】
また堤防表面の被覆であることから、堤体下部の透水性の高い層を通じて生じる堤体内部側への漏水を防止することができないため、法尻(のりじり)付近に基盤漏水防止用の矢板壁等を打設する必要がある。
特許文献1には、このような矢板壁について、『軟弱地盤ハンドブック』(株式会社建設産業調査会)および『液状化対策工法設計・施工マニュアル(案)』(建設省土木研究所他)の構成例が引用されている。このうち河川堤防の場合のものを図13に示す。(a)は前者、(b)は後者からの引用であるがいずれもほぼ同じ構造で、法尻付近に打設した対向する鋼矢板間にタイロッドを架設している。タイロッドの架設によって水みちが形成されることを回避する場合には、タイロッド架設に代えて自立の鋼矢板を打設することも行われる。
しかし、法尻付近に鋼矢板を打設するのみでは締め切り内での地盤に対する拘束力が低下することから、堤防および地盤の変形を完全に防止することはできない。また、頂部が法尻付近に位置する鋼矢板では、堤防高さを越える大規模洪水による洗い掘り、越水、浸透等による堤体自身の破壊や、地震時の盛土への大きな外力の作用による盛土自身の破壊に対しては地盤の拘束効果が機能しないため、堤防の破壊を防止することはできない。
【0004】
なお、コンクリート等による被覆は景観を損ねるのみならず、自然環境を破壊するという指摘もある。
特許文献1に記載の発明は、こうした景観や自然環境にも配慮し、法尻付近を除く盛土の内部に、これを貫通し、支持地盤に根入れされた1列の矢板壁を盛土の長さ方向に連続的に設置し、盛土内に矢板壁と、この矢板壁で締め切られた地盤からなる構造骨格部を形成しようとするものである。
【0005】
図14は、特許文献1に記載の発明の一実施例を示す断面図で、盛土の天端(てんば)を含む両側の法肩(のりかた)付近間に2列の矢板壁を設置し、これらの矢板壁を連結材で連結している。矢板壁によって盛土内部が3区画の構造骨格部に区分され、盛土地盤と基礎地盤とを狭い範囲に締め切ることにより地盤の拘束効果を高め、構造安定性を高めている。1は堤防、2、3は矢板壁、4は連結材、Bは盛土地盤、Fは基礎地盤、Sは支持地盤である。この実施例では河川側の盛土地盤は石積みで構成され、河川と反対側は盛土の天端と法面を保護材で被覆している。
【0006】
しかしこの構造では、天端付近から雨水が流入した場合や、矢板壁の径年変化によって地下水が浸透した場合に締め切り構造のため流入した水が抜けず、盛土のコア部分(構造骨格部)がゆるむとともに、矢板壁付近に水みちが形成され、盛土コア部分が損傷したり沈下するおそれがある。また堤防に地震等による外力が作用した場合、矢板にたわみが残留するとともに、地盤材と矢板との剛性の違いなどにより矢板と地盤との間に亀裂や肌離れが発生し、堤防の弱点となるおそれもある。
【特許文献1】特開2003−13451号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記の従来の技術における問題点を解消し、洪水や地震等のさまざまな外力条件に対応できる堤防の補強構造を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に記載の本発明は、堤防の河道側法肩付近に堤防を構成する盛土地盤よりも止水性の高い矢板壁を打設するとともに、この堤防の民地側法肩付近に前記止水性の高い矢板壁よりも透水性の高い矢板壁を打設し、これら両矢板壁を連結材で水平方向に連結して構成したことを特徴とする堤防の補強構造である。
請求項2に記載の本発明は、堤防の河道側法肩付近に堤防を構成する盛土地盤よりも止水性の高い矢板壁を打設するとともに、この堤防の民地側法肩付近に堤防長さ方向に間隔を設けて矢板を打設し、前記矢板壁とこの矢板とを連結材で水平方向に連結して構成したことを特徴とする堤防の補強構造である。
【0009】
請求項3に記載の本発明は、堤防の民地側法尻付近の地盤材を、堤防の基礎地盤よりも透水性の高いものとしたことを特徴とする請求項1または2に記載の堤防の補強構造である。
請求項4に記載の本発明は、前記矢板壁あるいは矢板の少なくとも表層部を含む周辺地盤材を、堤防の盛土地盤よりも透水性が高く、かつ掃流抵抗特性の高いものとしたことを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の堤防の補強構造である。
【発明の効果】
【0010】
請求項1に記載の本発明によれば、堤防の河道側に堤防を構成する盛土地盤よりも止水性の高い矢板壁を打設することにより、河道側からの水の浸入、透水を抑止し、洪水時や地震時の外力による盛土構造物の破壊を防止することができる。また、堤防の民地側に前記止水性の高い矢板壁よりも透水性の高い矢板壁を打設することにより、コア部分に溜まった水を速やかに排出できるため、水みちの形成やコア部分の沈下を防止することができる。
【0011】
請求項2に記載の本発明によれば、河道側については同様の効果であり、民地側については矢板を堤防長さ方向に間隔を設けて矢板壁を構築するため、コア部分の民地側への通水性がいっそう高まることから、水みちの形成やコア部分の沈下を確実に防止することができる。
請求項3に記載の本発明によれば、民地側法尻付近の地盤材を堤防の基礎地盤よりも透水性の高いものとしたことにより、コア部分に流入した水をさらに確実に排出できる。
【0012】
さらに請求項4に記載の本発明によれば、矢板壁あるいは矢板の少なくとも表層部を含む周辺地盤材を堤防の盛土地盤よりも透水性の高い、かつ掃流抵抗特性の高いものとすることにより、洪水や地下水位上昇時において材料の流出や矢板壁付近の水みちの形成を防止し、堤防を健全な状態に維持することができる。特に地盤材料を砂礫、粗粒砂等の比較的粒径が大きく均一性の高いものとすることにより、材料が矢板の残留たわみに追随して変形するので、亀裂や肌離れを抑制できる。
【0013】
なお、本発明は既存の施工機器を使用して矢板壁を打設することで実施できるから、新設堤防でも、既存の堤防の補強でも、いずれにも適用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の実施例を図面により説明する。
図1は請求項1に記載した本発明の実施例に相当する堤防の断面図、図2は平面図で、堤防1の河道側(堤外地側)法肩付近に堤防を構成する盛土地盤よりも止水性の高い矢板壁2を打設するとともに、この堤防の民地側(堤内地側)法肩付近に前記の止水性の高い矢板壁2よりも透水性の高い矢板壁3を打設し、これら両矢板壁2、3を連結材4で水平方向(堤防の幅方向)に連結して構成している。
【0015】
矢板壁2、3は、堤防1を構成する盛土地盤(堤防地盤)Bと、その下の基礎地盤Fを貫通し、支持地盤Sに根入れされる深さを有し、堤防1の長さ方向に連続して設置され、これら矢板壁2、3によって締め切られた盛土地盤(堤防地盤)Bにより構造骨格部(コア部分)5が形成されている。基礎地盤Fは軟弱地盤もしくは液状化地盤である。
洪水時や地震時にこの堤防1に破壊が生じる場合、または基礎地盤Fの液状化等による大変形によって堤防1が沈下、あるいは破壊する場合など、さまざまな要因により堤防1が形状を維持できなくなった場合でも、この構造骨格部5によって堤防高さが確保できるので、河川の氾濫は防止できる。
【0016】
矢板壁2、3に鋼矢板や鋼管矢板を使用するものとすれば、既存の施工機械が使用できるので、短期間での施工が可能である。また堤防1が既設の場合、矢板壁2、3を施工するために新たな用地を確保する必要はない。
矢板壁2は堤防を構成する盛土地盤よりも止水性の高いものとする。より具体的には、透水係数が盛土地盤Bの1/100程度以下の矢板壁とすることが望ましい。
【0017】
図1に示した矢板壁2は、図中、斜線を施した部分、すなわち盛土地盤Bに接している部分と、基礎地盤Fに接している部分の一部のみを止水性の高いものとしてある。それより下部の、支持地盤Sに達する部分は、通常の矢板壁で構成されている。後述する図10ないし図12における矢板壁2も同様である。
堤防の河道側法肩付近に打設する矢板壁2は、少なくとも盛土地盤に接する部分が、盛土地盤よりも止水性の高い矢板壁となっていればよく、必ずしも堤防の深さ方向の全長にわたって止水性の高い矢板壁とする必要はない。
【0018】
止水性の高い矢板壁の一例を図3に示す。21は鋼矢板、22は水膨張性のゴム、樹脂等でなる止水材である。U形の鋼矢板21のラルゼン継手の爪の部分に予め止水材22を塗布、あるいは装着してから矢板壁2を打設する。
図4は止水性の高い矢板壁の他の例である。矢板壁2の河道側(堤外側)に、ドレーン23を配置する。ドレーン23は、孔あき管等の水抜き手段である。堤防1内に浸入した水をドレーン23から流出させ、矢板壁2に作用する浸透圧を下げ、コア部分への浸透水の流入を抑止する。
【0019】
逆に堤防1の民地側には、河道側の矢板壁2よりも透水性の高い矢板壁3を設置する。
より具体的には、矢板壁の透水係数を盛土地盤Bおよび基礎地盤Fの透水係数と同等以上とすることが望ましい。
透水性の高い矢板壁3の例としては、矢板の所定位置に所定の大きさの孔を設けたものを挙げることができる。また、図5に示すように、矢板壁3の鋼矢板31の継手部32の所定位置から上の部分を削除して、隙間部33を形成するようにしてもよい。
【0020】
この他、図6に示すように継手部に嵌合爪を有しない矢板31aを使用することによって、透水性、通水性の高い矢板壁3を構成することも可能である。この場合は矢板の製造コストが低減される他、施工時の貫入抵抗が低減されるので、施工速度ならびに施工精度が向上する。
図7は請求項2に記載した本発明の実施例に相当する堤防の平面図である。ちなみに断面図は図1と変わらない。この実施例では、堤防の河道側法肩付近に盛土地盤よりも止水性の高い矢板壁2を打設することは前記の実施例と同様であるが、この堤防の民地側法肩付近に、堤防長さ方向に間隔を設けて矢板31を打設し、前記矢板壁2とこの矢板31とを連結材4で水平方向(堤防の幅方向)に連結して堤防を構成している。
【0021】
民地側の矢板31を堤防長さ方向に間隔を設けて、すなわち離散させて打設することによって、民地側の矢板壁3はきわめて透水性、通水性の高いものとなる。また、図2のものと比較して矢板の使用枚数が減少するので施工速度が向上し、施工コストが軽減される。
図8は図7に示した実施例の変形例を示す平面図、図9は断面図である。間隔を設けて打設した鋼矢板31に対して、その各頭部をH形鋼などの頭部固定材5で固定するようにすると、離散配置された鋼矢板31の内の特定の1本に変形や荷重が集中して堤防破壊につながる事態を回避することができる。
【0022】
図10は請求項3に記載した本発明の実施例に相当する堤防の断面図である。これまで説明した各実施例の構成要件に加えて、民地側法尻付近の地盤材を基礎地盤よりも透水性の高いものとした。すなわち、民地側の法尻12付近の地盤材を、透水性の高い透水性地盤材6に置き換えてある。矢印で示したように、コア部分に浸入した水を速やかに排出し、排水に伴って発生する法尻付近の土砂流出を抑止することができる。この図に示すように、透水性地盤材6の部分に排水溝7を設けることも有効である。
【0023】
透水性地盤材6は、0.05(cm/sec)程度以上の透水係数を有する地盤材とすることが望ましく、例として粗粒砂や細礫などを挙げることができる。
図11は請求項4に記載した本発明の実施例に相当する堤防の断面図である。これまで説明した各実施例の構成要件に加えて、矢板壁2、3あるいは鋼矢板31の周辺の少なくとも表層部を含む盛土地盤Bを、盛土地盤Bよりも透水性が高く、かつ掃流抵抗特性の高い置換材8に置換してある。これにより、洪水時や地下水位上昇時において、地盤材の流出や、矢板壁2、3付近の水みちの形成を防止することができる。置換材8としては、透水性および掃流抵抗特性を考慮して、加積曲線における20%粒径(D20)で0.5mm程度以上の砂礫、粗粒砂等が望ましい。
【0024】
また、堤防に地震等による外力が作用した際、矢板壁は通常堤体の外側にはらむ傾向があること、また堤体の法部は比較的補修が容易であることから、図12に示すように矢板壁2、3に囲まれた内側の部分の表層部のみを置換材8で置換するようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明実施例における堤防の断面図である。
【図2】本発明実施例における堤防の平面図である。
【図3】本発明実施例における止水性の高い矢板壁の一例を示す断面図である。
【図4】本発明実施例における止水性の高い矢板壁の他の例を示す断面図である。
【図5】本発明実施例における透水性の高い矢板壁の一例を示す断面図である。
【図6】本発明の他の実施例における透水性の高い矢板壁の断面図である。
【図7】本発明の他の実施例における堤防の平面図である。
【図8】図7に示した実施例の矢板壁の変形例を示す平面図である。
【図9】図7に示した実施例の矢板壁の変形例を示す断面図である。
【図10】本発明のさらに他の実施例における堤防の断面図である。
【図11】本発明のさらに他の実施例における堤防の断面図である。
【図12】図11に示した実施例の変形例を示す堤防の断面図である。
【図13】従来の技術における堤防の補強構造を示す説明図である。
【図14】同じく従来の技術における堤防の補強構造を示す断面図である。
【符号の説明】
【0026】
1 堤防
2、3 矢板壁
4 連結材
5 頭部固定材
6 透水性地盤材
7 排水溝
8 置換材
11 法肩
12 法尻
21、31、31a 鋼矢板
22 止水材
23 ドレーン
32 継手部
33 隙間部
B 盛土地盤(堤防地盤)
F 基礎地盤
R 河川
S 支持地盤
【技術分野】
【0001】
本発明は、河川における盛土式の堤防の補強構造に関する。
【背景技術】
【0002】
大きな河川の両岸には盛土式の堤防が構築されている。地震や洪水時にこの堤防が決壊すると沿岸地域に大きな被害をもたらす。したがって崩壊防止対策が必要である。
従来工法として、たとえばコンクリート製などの遮水性の高い表面材で堤防の表面を被覆する方法がある。この方法によれば、堤体内部への水の浸透や堤防内側への漏水、洪水時における堤体内の浸潤線の変動による構造の不安定化等を抑止することは可能であるが、堤体の構造自体の強度を向上させるわけではないため、地震や大洪水等の大きな外力による堤体の破壊や、基礎地盤の軟化、変形に伴う堤体の不安定化を防止することはできず、堤防の破壊や堤防高さの低下が発生すれば、たとえ局所的であっても河川の氾濫につながってしまうという問題点がある。
【0003】
また堤防表面の被覆であることから、堤体下部の透水性の高い層を通じて生じる堤体内部側への漏水を防止することができないため、法尻(のりじり)付近に基盤漏水防止用の矢板壁等を打設する必要がある。
特許文献1には、このような矢板壁について、『軟弱地盤ハンドブック』(株式会社建設産業調査会)および『液状化対策工法設計・施工マニュアル(案)』(建設省土木研究所他)の構成例が引用されている。このうち河川堤防の場合のものを図13に示す。(a)は前者、(b)は後者からの引用であるがいずれもほぼ同じ構造で、法尻付近に打設した対向する鋼矢板間にタイロッドを架設している。タイロッドの架設によって水みちが形成されることを回避する場合には、タイロッド架設に代えて自立の鋼矢板を打設することも行われる。
しかし、法尻付近に鋼矢板を打設するのみでは締め切り内での地盤に対する拘束力が低下することから、堤防および地盤の変形を完全に防止することはできない。また、頂部が法尻付近に位置する鋼矢板では、堤防高さを越える大規模洪水による洗い掘り、越水、浸透等による堤体自身の破壊や、地震時の盛土への大きな外力の作用による盛土自身の破壊に対しては地盤の拘束効果が機能しないため、堤防の破壊を防止することはできない。
【0004】
なお、コンクリート等による被覆は景観を損ねるのみならず、自然環境を破壊するという指摘もある。
特許文献1に記載の発明は、こうした景観や自然環境にも配慮し、法尻付近を除く盛土の内部に、これを貫通し、支持地盤に根入れされた1列の矢板壁を盛土の長さ方向に連続的に設置し、盛土内に矢板壁と、この矢板壁で締め切られた地盤からなる構造骨格部を形成しようとするものである。
【0005】
図14は、特許文献1に記載の発明の一実施例を示す断面図で、盛土の天端(てんば)を含む両側の法肩(のりかた)付近間に2列の矢板壁を設置し、これらの矢板壁を連結材で連結している。矢板壁によって盛土内部が3区画の構造骨格部に区分され、盛土地盤と基礎地盤とを狭い範囲に締め切ることにより地盤の拘束効果を高め、構造安定性を高めている。1は堤防、2、3は矢板壁、4は連結材、Bは盛土地盤、Fは基礎地盤、Sは支持地盤である。この実施例では河川側の盛土地盤は石積みで構成され、河川と反対側は盛土の天端と法面を保護材で被覆している。
【0006】
しかしこの構造では、天端付近から雨水が流入した場合や、矢板壁の径年変化によって地下水が浸透した場合に締め切り構造のため流入した水が抜けず、盛土のコア部分(構造骨格部)がゆるむとともに、矢板壁付近に水みちが形成され、盛土コア部分が損傷したり沈下するおそれがある。また堤防に地震等による外力が作用した場合、矢板にたわみが残留するとともに、地盤材と矢板との剛性の違いなどにより矢板と地盤との間に亀裂や肌離れが発生し、堤防の弱点となるおそれもある。
【特許文献1】特開2003−13451号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記の従来の技術における問題点を解消し、洪水や地震等のさまざまな外力条件に対応できる堤防の補強構造を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に記載の本発明は、堤防の河道側法肩付近に堤防を構成する盛土地盤よりも止水性の高い矢板壁を打設するとともに、この堤防の民地側法肩付近に前記止水性の高い矢板壁よりも透水性の高い矢板壁を打設し、これら両矢板壁を連結材で水平方向に連結して構成したことを特徴とする堤防の補強構造である。
請求項2に記載の本発明は、堤防の河道側法肩付近に堤防を構成する盛土地盤よりも止水性の高い矢板壁を打設するとともに、この堤防の民地側法肩付近に堤防長さ方向に間隔を設けて矢板を打設し、前記矢板壁とこの矢板とを連結材で水平方向に連結して構成したことを特徴とする堤防の補強構造である。
【0009】
請求項3に記載の本発明は、堤防の民地側法尻付近の地盤材を、堤防の基礎地盤よりも透水性の高いものとしたことを特徴とする請求項1または2に記載の堤防の補強構造である。
請求項4に記載の本発明は、前記矢板壁あるいは矢板の少なくとも表層部を含む周辺地盤材を、堤防の盛土地盤よりも透水性が高く、かつ掃流抵抗特性の高いものとしたことを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の堤防の補強構造である。
【発明の効果】
【0010】
請求項1に記載の本発明によれば、堤防の河道側に堤防を構成する盛土地盤よりも止水性の高い矢板壁を打設することにより、河道側からの水の浸入、透水を抑止し、洪水時や地震時の外力による盛土構造物の破壊を防止することができる。また、堤防の民地側に前記止水性の高い矢板壁よりも透水性の高い矢板壁を打設することにより、コア部分に溜まった水を速やかに排出できるため、水みちの形成やコア部分の沈下を防止することができる。
【0011】
請求項2に記載の本発明によれば、河道側については同様の効果であり、民地側については矢板を堤防長さ方向に間隔を設けて矢板壁を構築するため、コア部分の民地側への通水性がいっそう高まることから、水みちの形成やコア部分の沈下を確実に防止することができる。
請求項3に記載の本発明によれば、民地側法尻付近の地盤材を堤防の基礎地盤よりも透水性の高いものとしたことにより、コア部分に流入した水をさらに確実に排出できる。
【0012】
さらに請求項4に記載の本発明によれば、矢板壁あるいは矢板の少なくとも表層部を含む周辺地盤材を堤防の盛土地盤よりも透水性の高い、かつ掃流抵抗特性の高いものとすることにより、洪水や地下水位上昇時において材料の流出や矢板壁付近の水みちの形成を防止し、堤防を健全な状態に維持することができる。特に地盤材料を砂礫、粗粒砂等の比較的粒径が大きく均一性の高いものとすることにより、材料が矢板の残留たわみに追随して変形するので、亀裂や肌離れを抑制できる。
【0013】
なお、本発明は既存の施工機器を使用して矢板壁を打設することで実施できるから、新設堤防でも、既存の堤防の補強でも、いずれにも適用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の実施例を図面により説明する。
図1は請求項1に記載した本発明の実施例に相当する堤防の断面図、図2は平面図で、堤防1の河道側(堤外地側)法肩付近に堤防を構成する盛土地盤よりも止水性の高い矢板壁2を打設するとともに、この堤防の民地側(堤内地側)法肩付近に前記の止水性の高い矢板壁2よりも透水性の高い矢板壁3を打設し、これら両矢板壁2、3を連結材4で水平方向(堤防の幅方向)に連結して構成している。
【0015】
矢板壁2、3は、堤防1を構成する盛土地盤(堤防地盤)Bと、その下の基礎地盤Fを貫通し、支持地盤Sに根入れされる深さを有し、堤防1の長さ方向に連続して設置され、これら矢板壁2、3によって締め切られた盛土地盤(堤防地盤)Bにより構造骨格部(コア部分)5が形成されている。基礎地盤Fは軟弱地盤もしくは液状化地盤である。
洪水時や地震時にこの堤防1に破壊が生じる場合、または基礎地盤Fの液状化等による大変形によって堤防1が沈下、あるいは破壊する場合など、さまざまな要因により堤防1が形状を維持できなくなった場合でも、この構造骨格部5によって堤防高さが確保できるので、河川の氾濫は防止できる。
【0016】
矢板壁2、3に鋼矢板や鋼管矢板を使用するものとすれば、既存の施工機械が使用できるので、短期間での施工が可能である。また堤防1が既設の場合、矢板壁2、3を施工するために新たな用地を確保する必要はない。
矢板壁2は堤防を構成する盛土地盤よりも止水性の高いものとする。より具体的には、透水係数が盛土地盤Bの1/100程度以下の矢板壁とすることが望ましい。
【0017】
図1に示した矢板壁2は、図中、斜線を施した部分、すなわち盛土地盤Bに接している部分と、基礎地盤Fに接している部分の一部のみを止水性の高いものとしてある。それより下部の、支持地盤Sに達する部分は、通常の矢板壁で構成されている。後述する図10ないし図12における矢板壁2も同様である。
堤防の河道側法肩付近に打設する矢板壁2は、少なくとも盛土地盤に接する部分が、盛土地盤よりも止水性の高い矢板壁となっていればよく、必ずしも堤防の深さ方向の全長にわたって止水性の高い矢板壁とする必要はない。
【0018】
止水性の高い矢板壁の一例を図3に示す。21は鋼矢板、22は水膨張性のゴム、樹脂等でなる止水材である。U形の鋼矢板21のラルゼン継手の爪の部分に予め止水材22を塗布、あるいは装着してから矢板壁2を打設する。
図4は止水性の高い矢板壁の他の例である。矢板壁2の河道側(堤外側)に、ドレーン23を配置する。ドレーン23は、孔あき管等の水抜き手段である。堤防1内に浸入した水をドレーン23から流出させ、矢板壁2に作用する浸透圧を下げ、コア部分への浸透水の流入を抑止する。
【0019】
逆に堤防1の民地側には、河道側の矢板壁2よりも透水性の高い矢板壁3を設置する。
より具体的には、矢板壁の透水係数を盛土地盤Bおよび基礎地盤Fの透水係数と同等以上とすることが望ましい。
透水性の高い矢板壁3の例としては、矢板の所定位置に所定の大きさの孔を設けたものを挙げることができる。また、図5に示すように、矢板壁3の鋼矢板31の継手部32の所定位置から上の部分を削除して、隙間部33を形成するようにしてもよい。
【0020】
この他、図6に示すように継手部に嵌合爪を有しない矢板31aを使用することによって、透水性、通水性の高い矢板壁3を構成することも可能である。この場合は矢板の製造コストが低減される他、施工時の貫入抵抗が低減されるので、施工速度ならびに施工精度が向上する。
図7は請求項2に記載した本発明の実施例に相当する堤防の平面図である。ちなみに断面図は図1と変わらない。この実施例では、堤防の河道側法肩付近に盛土地盤よりも止水性の高い矢板壁2を打設することは前記の実施例と同様であるが、この堤防の民地側法肩付近に、堤防長さ方向に間隔を設けて矢板31を打設し、前記矢板壁2とこの矢板31とを連結材4で水平方向(堤防の幅方向)に連結して堤防を構成している。
【0021】
民地側の矢板31を堤防長さ方向に間隔を設けて、すなわち離散させて打設することによって、民地側の矢板壁3はきわめて透水性、通水性の高いものとなる。また、図2のものと比較して矢板の使用枚数が減少するので施工速度が向上し、施工コストが軽減される。
図8は図7に示した実施例の変形例を示す平面図、図9は断面図である。間隔を設けて打設した鋼矢板31に対して、その各頭部をH形鋼などの頭部固定材5で固定するようにすると、離散配置された鋼矢板31の内の特定の1本に変形や荷重が集中して堤防破壊につながる事態を回避することができる。
【0022】
図10は請求項3に記載した本発明の実施例に相当する堤防の断面図である。これまで説明した各実施例の構成要件に加えて、民地側法尻付近の地盤材を基礎地盤よりも透水性の高いものとした。すなわち、民地側の法尻12付近の地盤材を、透水性の高い透水性地盤材6に置き換えてある。矢印で示したように、コア部分に浸入した水を速やかに排出し、排水に伴って発生する法尻付近の土砂流出を抑止することができる。この図に示すように、透水性地盤材6の部分に排水溝7を設けることも有効である。
【0023】
透水性地盤材6は、0.05(cm/sec)程度以上の透水係数を有する地盤材とすることが望ましく、例として粗粒砂や細礫などを挙げることができる。
図11は請求項4に記載した本発明の実施例に相当する堤防の断面図である。これまで説明した各実施例の構成要件に加えて、矢板壁2、3あるいは鋼矢板31の周辺の少なくとも表層部を含む盛土地盤Bを、盛土地盤Bよりも透水性が高く、かつ掃流抵抗特性の高い置換材8に置換してある。これにより、洪水時や地下水位上昇時において、地盤材の流出や、矢板壁2、3付近の水みちの形成を防止することができる。置換材8としては、透水性および掃流抵抗特性を考慮して、加積曲線における20%粒径(D20)で0.5mm程度以上の砂礫、粗粒砂等が望ましい。
【0024】
また、堤防に地震等による外力が作用した際、矢板壁は通常堤体の外側にはらむ傾向があること、また堤体の法部は比較的補修が容易であることから、図12に示すように矢板壁2、3に囲まれた内側の部分の表層部のみを置換材8で置換するようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明実施例における堤防の断面図である。
【図2】本発明実施例における堤防の平面図である。
【図3】本発明実施例における止水性の高い矢板壁の一例を示す断面図である。
【図4】本発明実施例における止水性の高い矢板壁の他の例を示す断面図である。
【図5】本発明実施例における透水性の高い矢板壁の一例を示す断面図である。
【図6】本発明の他の実施例における透水性の高い矢板壁の断面図である。
【図7】本発明の他の実施例における堤防の平面図である。
【図8】図7に示した実施例の矢板壁の変形例を示す平面図である。
【図9】図7に示した実施例の矢板壁の変形例を示す断面図である。
【図10】本発明のさらに他の実施例における堤防の断面図である。
【図11】本発明のさらに他の実施例における堤防の断面図である。
【図12】図11に示した実施例の変形例を示す堤防の断面図である。
【図13】従来の技術における堤防の補強構造を示す説明図である。
【図14】同じく従来の技術における堤防の補強構造を示す断面図である。
【符号の説明】
【0026】
1 堤防
2、3 矢板壁
4 連結材
5 頭部固定材
6 透水性地盤材
7 排水溝
8 置換材
11 法肩
12 法尻
21、31、31a 鋼矢板
22 止水材
23 ドレーン
32 継手部
33 隙間部
B 盛土地盤(堤防地盤)
F 基礎地盤
R 河川
S 支持地盤
【特許請求の範囲】
【請求項1】
堤防の河道側法肩付近に堤防を構成する盛土地盤よりも止水性の高い矢板壁を打設するとともに、この堤防の民地側法肩付近に前記止水性の高い矢板壁よりも透水性の高い矢板壁を打設し、これら両矢板壁を連結材で水平方向に連結して構成したことを特徴とする堤防の補強構造。
【請求項2】
堤防の河道側法肩付近に堤防を構成する盛土地盤よりも止水性の高い矢板壁を打設するとともに、この堤防の民地側法肩付近に堤防長さ方向に間隔を設けて矢板を打設し、前記矢板壁とこの矢板とを連結材で水平方向に連結して構成したことを特徴とする堤防の補強構造。
【請求項3】
堤防の民地側法尻付近の地盤材を、堤防の基礎地盤よりも透水性の高いものとしたことを特徴とする請求項1または2に記載の堤防の補強構造。
【請求項4】
前記矢板壁あるいは矢板の少なくとも表層部を含む周辺地盤材を、堤防の盛土地盤よりも透水性が高く、かつ掃流抵抗特性の高いものとしたことを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の堤防の補強構造。
【請求項1】
堤防の河道側法肩付近に堤防を構成する盛土地盤よりも止水性の高い矢板壁を打設するとともに、この堤防の民地側法肩付近に前記止水性の高い矢板壁よりも透水性の高い矢板壁を打設し、これら両矢板壁を連結材で水平方向に連結して構成したことを特徴とする堤防の補強構造。
【請求項2】
堤防の河道側法肩付近に堤防を構成する盛土地盤よりも止水性の高い矢板壁を打設するとともに、この堤防の民地側法肩付近に堤防長さ方向に間隔を設けて矢板を打設し、前記矢板壁とこの矢板とを連結材で水平方向に連結して構成したことを特徴とする堤防の補強構造。
【請求項3】
堤防の民地側法尻付近の地盤材を、堤防の基礎地盤よりも透水性の高いものとしたことを特徴とする請求項1または2に記載の堤防の補強構造。
【請求項4】
前記矢板壁あるいは矢板の少なくとも表層部を含む周辺地盤材を、堤防の盛土地盤よりも透水性が高く、かつ掃流抵抗特性の高いものとしたことを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の堤防の補強構造。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2010−24745(P2010−24745A)
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−188744(P2008−188744)
【出願日】平成20年7月22日(2008.7.22)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年7月22日(2008.7.22)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】
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