説明

塗工方法及びその装置

【課題】残留塗工液を溶解して塗工ロール表面の塗工量を常に均一にできるようにする。
【解決手段】紙Aに塗工液を転写してから塗工液の供給を受けるまでの間で、塗工ロール2の表面の残留塗工液を加湿する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷用紙の製造に使用可能な塗工方法及びその装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、新聞用紙などの印刷においては、カラー化、高速化がますます進んでおり、一方で安定した網点再現性、ブランケット汚れの少ない印刷用紙の開発が強く求められている。
特に、オフセット印刷用新聞用紙の分野では、紙製造における抄紙工程塗工設備(サイザー設備)では、塗工量が一般のコート紙に比べて少ないため、網点再現性や印刷時のブランケット汚れが生じやすいという問題がある。
なお、この問題については、単に塗工量が少ないということだけではなく、塗工量が少ないうえに、抄紙機の大型化・高速化にともなって、紙の幅方向・流れ方向での安定した塗工がさらに重要な課題となっている。
【0003】
この課題に対して、例えば、特許文献1、2に開示された塗工装置においては、広幅・高速化において塗工量の調整容易化・安定化を図れるよう、転写式サイズプレスでは、ゲートロールコーター、ロッドメタリングサイズプレス、ブレードメタリングサイズプレスなどの方式が開発されている。
【特許文献1】特開2002−113404号公報
【特許文献2】特開2002−239431号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記従来技術の転写式サイズプレスでは、塗工の調整容易化・安定化等の問題がある程度解決されたものの、塗工液が紙に転写された後の塗工ロールの表面は、少量の塗工液が残った状態となり、回転して新たな塗工液が供給されるまでの間に、塗料の乾燥が起こり、固化した残留塗工液が堆積して塗工ロール面に不均一性を生じ、塗工ムラを発生するという問題がある。
特に、転写方式では設備スペース、設備費用、塗工ロール保守などの点から、ロッドメタリング方式が優れているが、塗工液の制御がロッドで掻き落す方式であるため、乾燥した残留塗工液を完全に排除するということが困難になっており、塗工ロール面に新たに塗工液を供給しても塗膜に凹凸が発生し、紙への塗工にムラを生じる結果を引き起こすことがある。
【0005】
従って、抄紙機の他のトラブルによる停止時や、悪化してきた場合には、その都度クリーニグしなければならず、操業性の低下にもつながっていた。
本発明は、このような従来技術の問題点を解決できるようにした塗工方法及びその装置を提供することを目的とする。
本発明は、転写後の塗工ロール表面を湿らして残留塗工液を加湿して、次に供給される塗工液との馴染みを良くすることにより、残留塗工液を溶解して塗工ロール表面の塗工量を常に均一にできるようにした塗工方法及びその装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明方法における課題解決のための具体的手段は、次の通りである。
第1に、紙Aに塗工液を転写してから塗工液の供給を受けるまでの間で、塗工ロール2の表面の残留塗工液を加湿することである。
これによって、塗工ロール2の表面で乾燥し始めている残留塗工液を加湿して溶融させ、次に塗工液が供給されたときにその塗工液と融和して馴染ませることができ、残留塗工液を溶解して塗工ロール2表面の塗膜を平滑に形成して、紙Aに転写する塗工量を常に均一にできる。しかも、紙Aの塗工面が良好になり、塗工ムラを生じるまでの操業時間が長くなって操業性が向上でき、塗工ロール2の軸方向全長に均一な水分が供給されることによって、水分プロファイルが安定する。
【0007】
第2に、塗工ロール2の下方から塗工液転写位置P通過後の塗工ロール2表面へ、塗工液温度に対してプラス5℃〜マイナス10℃の温水を、供給量90〜300cc/m2で噴霧することである。
これによって、残留塗工液の加湿・溶融が簡単かつ確実にできる。
本発明装置における課題解決のための具体的手段は、次の通りである。
第1に、塗工液転写位置Pから塗工液供給位置Sまでの間の塗工ロール2表面に加湿液を供給して残留塗工液を加湿する加湿手段3を設けていることである。
【0008】
これによって、塗工ロール2の表面で乾燥し始めている残留塗工液を加湿して溶融させ、塗工液供給位置Sで塗工液が供給されたときにその塗工液と融和して馴染ませることができ、残留塗工液を溶解して塗工ロール2表面の塗膜を平滑に形成して、塗工ロール2が紙Aに転写する塗工量を常に均一にできる。しかも、安価に構成でき、紙Aの塗工面が良好になり、塗工ムラを生じるまでの操業時間が長くなって操業性が向上でき、塗工ロール2の軸方向全長に均一な水分が供給されることによって、水分プロファイルが安定する。
第2に、前記加湿手段3は、塗工ロール2の下方から塗工液転写位置P通過後の塗工ロール2表面へ加湿液を噴霧する噴霧器4であることである。
【0009】
これによって、噴霧器4で噴霧するだけで、簡単かつ確実に塗工ロール2表面の残留塗工液を加湿できる。
第3に、前記加湿手段3は、噴霧器4の下方に加湿液を受ける液受け部材5を有することである。
これによって、噴霧器4の下方に塗工紙が搬送されていても、その塗工紙を濡らすことがない。
第4に、前記加湿手段3は、塗工液転写位置Pから塗工液供給位置Sまでの間の塗工ロール2表面を通過可能に覆う加湿室6と、この加湿室6内で加湿液の雰囲気を作り出す加湿器7とを有することである。
【0010】
これによって、塗工液転写後の塗工ロール2表面を高湿雰囲気内に曝して、残留塗工液の乾燥を防止しながら、加湿・保湿ができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、塗工ロール2の表面で乾燥し始めている残留塗工液を加湿して溶融させ、次に塗工液供給位置Sで塗工液が供給されたときにその塗工液と融和して馴染ませることができ、残留塗工液を溶解して塗工ロール2表面の塗膜を平滑に形成して、塗工ロール2が紙Aに転写する塗工量を常に均一にでき、塗工ロール2の軸方向全長に均一な水分が供給されることによって、水分プロファイルが安定する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1において、1はロッドメタリング方式の塗工装置(サイザー)であり、抄紙機から連続搬送される紙Aの搬送ラインを挟んで一対の塗工ロール(アプリケータロール)2が設けられており、この一対の塗工ロール2はトップ側塗工ロール2Tとボトム側塗工ロール2Bとが同期回転して、塗工液転写位置Pにおいて紙Aを挟持しながら下向き傾斜方向に送り出す。
各塗工ロール2の塗工液転写位置Pから略半周離れた位置(塗工液供給位置S)には、塗工ロール2の表面に澱粉等の塗工液を供給する塗工液供給手段11が配置されている。
【0013】
この塗工液供給手段11は、塗工ロール2の表面が回転して下向きから上向きになる位置に近接配置された供給ロッド12と、この供給ロッド12と塗工ロール2との間に塗工液を供給する供給ノズルを有する液溜具13とが備えられている。
前記供給ロッド12は外周面に多数条の細溝が形成され、塗工ロール2の表面に軸芯方向平行に配置されていてニップ係合可能に近接しており、ニップ係合部となる塗工液供給位置Sにおいて、塗工ロール2に対して低周速で逆方向に回転している。この供給ロッド12にはロッド外周面に剥離液を供給する剥離液供給手段を設けることもある。
【0014】
前記塗工液供給手段11による塗工液供給動作は、液溜具13の供給ノズルから塗工液供給位置S及び塗工液供給位置S近傍の塗工ロール2の表面へ澱粉等の塗工液が供給され、塗工ロール2の表面に塗工液が付着し、塗工液供給位置Sを通過する。
このとき、供給ロッド12は剥離液が塗布されながら塗工ロール2と近接状態で逆回転し、塗工ロール2表面を掻きながら塗工ロール2に付着する塗工液の量を制御し、それによって塗工ロール2の表面に塗膜(被膜)を形成する。この塗膜と供給ロッド12とは剥離液によって良好な剥離が行われ、塗工ロール2の表面にはスジ等の発生が抑えられる。
【0015】
前記塗工ロール2の表面に付着した膜状の塗工液は、トップ側塗工ロール2Tとボトム側塗工ロール2Bとが紙Aを挟む塗工液転写位置Pで、紙Aの表裏に転写される。
塗工液は完全に紙Aに転写される訳ではなく、塗工ロール2の表面に残るものも存在し、それが残留塗工液として塗工ロール2の表面に付着したままとなり、塗工液転写位置Pから塗工液供給位置Sまでの間の塗工ロール2の回転中に塗工ロール2の表面で乾燥し始めることになる。
この塗工液転写位置Pから塗工液供給位置Sまでの間の塗工ロール2表面に対して、その下方に加湿液を供給する加湿手段3が設けられている。
【0016】
図1に示す第1実施形態においては、加湿手段3として噴霧器4とその下方で加湿液を受ける液受け部材5を有しており、噴霧器4で加湿液を塗工ロール2の表面にその軸方向全長にわたって均一にかつ直接に噴霧(又は吹き付け)可能になっている。
噴霧器4の設置位置は、塗工ロール2の下方であれば良いが、各塗工ロール2の下方の鉛直線近傍にあることが好ましく、噴霧器4の噴射ノズルから噴射される水が走行する紙Aに直接かからないように角度調節可能に構成されている。
前記加湿液は、塗工液・ロール表面温度に影響を及ぼさないよう、塗工液の温度に対してプラス5℃〜マイナス10℃(好ましくは同温からマイナス5℃まで)の温水を使用して、供給量はロール1本について、塗工ロール2が回転数280rpm〜360rpmの場合、90〜300cc/m2(好ましくは110〜250cc/m2)で噴霧される。噴霧時の水圧は低くてもよく、塗工ロール2の表面を濡らす程度でよい。
【0017】
前記加湿液としての水の温度がマイナス10℃未満では塗工液の温度低下による粘性変化により、塗工ムラが発生する。また、5℃を超えると塗工ロール温度の上昇によって材質劣化が進行しやすくなる。
噴霧量が90cc/m2未満では十分な加湿効果は期待し難く、300cc/m2を超えると塗工液の濃度が変化し、塗工ムラを生じる。
この加湿液としては、温水の他に、塗工液と同種の希釈した澱粉液を使用することができ、塗工ロール2の表面で乾燥し始めている残留塗工液に供給して、その塗工液と融和して馴染ませることができる液体であればよい。
【0018】
前記加湿手段3の噴霧器4で塗工液転写位置Pから塗工液供給位置Sまでの間の塗工ロール2表面に加湿液を供給すると、塗工ロール2の表面で乾燥しそうになっている残留塗工液は加湿液によって融和し、凹凸があればそれを溶解して平滑化する。
その状態で塗工液供給位置Sに達すると、次の塗工液が塗工液供給手段11によって供給されるので、溶解した残留塗工液と新たな塗工液とが融和して馴染み、残留塗工液と加湿液と新塗工液とが混合状態で塗工ロール2表面に存在し、塗工液供給位置Sから出てくる塗工ロール2表面には均一厚さでかつ平滑な塗膜が形成されることになる。
【0019】
この平滑な塗膜は、残留塗工液の影響のない、新規な塗工液のみが供給されたと略同じ塗工液供給状態となり、塗工ロール2が紙Aに転写する塗工量を常に均一にすることになり、塗工ロール2の軸方向全長に均一な水分が供給されることによって、水分プロファイルが安定する。
また、塗工前の紙Aの水分バラツキや紙粉等に関係なく、塗工ロール2による塗工ムラが減少し、供給ロッド12の細溝による筋状の塗工ムラの発生が改善され、印刷適性、サイズ性の安定性に優れた紙・板紙が得られ、かつ操業性の向上が図れる。
【0020】
【表1】

【0021】
表1において、前記塗工装置1としてロッドメタリング装置を使用して、前記加湿手段3を装着して塗工作業を行った実施例及び比較例を示した。
塗工液は、酸化澱粉(日本食品化工社製、品番MS#3800)を用い、濃度8%、供給温度52℃で使用し、供給量(固形分換算対パルプ)を片面5/m2とした。
塗工面の状態の評価は、噴霧を行わない従来例を基準にして3ランクのランク付けを行い、従来例と同じ又は悪化を×、若干良いを△、良好を○とし、操業性は従来例を100として、紙の塗工面の塗工ムラを生じるまでの操業時間を指標で示した。
【0022】
表1の実施例3より、加湿液が塗工液と同温度の場合、噴霧量が200cc/m2で塗工面の状態が従来例より良好になり、操業性が最高になることが明らかになっている。
実施例1、2より、加湿液が塗工液より10℃低い場合、噴霧量が90cc/m2でも300cc/m2でも塗工面の状態及び操業性が従来例より良好になり、噴霧量を300cc/m2より多くしても操業性を向上し難いことが明らかになっている。
実施例4、5より、加湿液が塗工液より5℃高い場合、噴霧量が100cc/m2でも295cc/m2でも塗工面の状態及び操業性が従来例より良好になり、噴霧量を295cc/m2より多くしても操業性を向上し難いことが明らかになっている。
【0023】
実施例2、5及び比較例1より、噴霧量が300cc/m2程度で略同じ場合、加湿液が塗工液より高い方が操業性が良好になり、加湿液が塗工液より12℃低い場合、塗工面の状態が悪化することが明らかになっている。
実施例1、4及び比較例2より、噴霧量が90cc/m2程度で略同じ場合、加湿液が塗工液より5℃高い方が操業性が良好になり、8℃高いと塗工面の状態及び操業性が向上し難く、10℃低い塗工面の状態は最良とはいえないが、十分な操業性が達成できる、といことが明らかになっている。
【0024】
従って、加湿液の温度及び噴霧量はコストパーフォーマンスを考慮するならば、マイナス10℃の温水を90cc/m2で供給するのが最も安価であり、塗工液と同温の温水を200cc/m2で供給するのが最も操業性がよい。
図2に示す第2実施形態の加湿手段3は、各塗工ロール2の下半分の表面、即ち、塗工液転写位置Pから塗工液供給位置Sまでの間の塗工ロール2表面を加湿室6で覆っており、この塗工ロール2を通過可能に覆う加湿室6は、その内部で加湿液の雰囲気を作り出す加湿器7が接続されている。
【0025】
前記加湿器7から加湿室6内に供給される加湿液の霧は、加湿室6に充満されて塗工液転写後の塗工ロール2表面を高湿雰囲気に曝すことになり、塗工ロール2表面の乾燥しそうになる残留塗工液を加湿・保湿する。
前記加湿室6は長距離間(最大塗工液転写位置Pから塗工液供給位置Sまでの距離)塗工ロール2表面を高湿雰囲気に曝すことができるので、残留塗工液の乾燥を確実に防止でき、これにより、塗工ロール2表面に付着する水滴量が少なくとも、加湿・保湿効果を高くすることができる。
【0026】
残留塗工液は乾燥を防止して瑞々しい状態であると、塗工液供給位置Sで塗工液供給手段11によって新たな塗工液が供給されたとき、両液が容易に馴染んで混合状態になり、塗工液供給位置Sから出てくる塗工ロール2表面には軸方向全長にわたって均一かつ平滑な塗膜が形成されることになる。
なお、本発明は前記実施形態における各部材の形状及びそれぞれの前後・左右・上下の位置関係は、図1、2に示すように構成することが最良である。しかし、前記実施形態に限定されるものではなく、部材、構成を種々変形したり、組み合わせを変更したりすることもできる。
【0027】
例えば、加湿手段3をロッドメタリングサイズプレス以外の、ゲートロールコーター、ブレードメタリングサイズプレス等の転写式サイズプレスに適用してもよく、第1実施形態の噴射器4は、長時間操業後に紙の塗工面に塗工ムラを生じるようになったときに、塗工ロール2の表面に高圧水を噴射して、塗工液を洗い落とすクリーニング作用をさせるのに使用してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の第1の実施の形態を示す説明図である。
【図2】第2の実施の形態を示す説明図である。
【符号の説明】
【0029】
1 塗工装置
2 塗工ロール
3 加湿手段
4 噴霧器
5 液受け部材
6 加湿室
7 加湿器
11 塗工液供給手段
A 紙
P 塗工液転写位置
S 塗工液供給位置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
紙(A)に塗工液を転写してから塗工液の供給を受けるまでの間で、塗工ロール(2)の表面の残留塗工液を加湿することを特徴とする塗工方法。
【請求項2】
塗工ロール(2)の下方から塗工液転写位置P通過後の塗工ロール(2)表面へ、塗工液温度に対してプラス5℃〜マイナス10℃の温水を、供給量90〜300cc/m2で噴霧することを特徴とする請求項1に記載の塗工方法。
【請求項3】
塗工液転写位置(P)から塗工液供給位置(S)までの間の塗工ロール(2)の表面に加湿液を供給して残留塗工液を加湿する加湿手段(3)を設けていることを特徴とする塗工装置。
【請求項4】
前記加湿手段(3)は、塗工ロール(2)の下方から塗工液転写位置(P)通過後の塗工ロール(2)表面へ加湿液を噴霧する噴霧器(4)であることを特徴とする請求項3に記載の塗工装置。
【請求項5】
前記加湿手段(3)は、噴霧器(4)の下方に加湿液を受ける液受け部材(5)を有することを特徴とする請求項4に記載の塗工装置。
【請求項6】
前記加湿手段(3)は、塗工液転写位置(P)から塗工液供給位置(S)までの間の塗工ロール(2)の表面を通過可能に覆う加湿室(6)と、この加湿室(6)内で加湿液の雰囲気を作り出す加湿器(7)とを有することを特徴とする請求項3に記載の塗工装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−43590(P2006−43590A)
【公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−228454(P2004−228454)
【出願日】平成16年8月4日(2004.8.4)
【出願人】(390029148)大王製紙株式会社 (2,041)
【Fターム(参考)】