説明

塗工膜の粘性評価方法およびその装置

【課題】塗工物の粘性をインラインで評価可能として、塗工膜の製造歩留まりの低減を防止する塗工膜の粘性評価方法および装置を提供することを目的とする。
【解決手段】シート電極2の集電体シート20に塗工された活物質ペースト21の粘性を評価するシート電極2の粘性評価方法であって、シート電極2の少なくとも一端部を含む所定範囲に向けて照射光を照射し、照射光の形状を撮像する撮像工程(S100)と、撮像工程により撮像された撮像データに基づいて、活物質ペースト21の縁部22から集電体シート20との接触部23までの距離を検出し、検出した活物質ペースト21の縁部22から集電体シート20との接触部23までの距離に基づいて活物質ペースト21の粘性を評価する評価工程(S130)とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗工膜の粘性評価方法およびその装置の技術に関し、より詳細には、塗工膜の基材に塗工された塗工物の粘性を評価する塗工膜の粘性評価方法およびその装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、リチウムイオン二次電池等の二次電池には、シート電極(塗工膜)が用いられており、例えば、リチウムイオン二次電池では、正極シート電極と負極シート電極とがセパレータを介して捲回され、電解液が充填される電池ケース内に配設されている。この内、正極シート電極は、アルミニウム箔やステンレス箔などの金属箔からなる集電体シート(基材)の表面に、リチウム−コバルト複合酸化物やリチウム−マンガン複合酸化物などを含む正極活物質(塗工物)が層状に圧着されている。一方、負極シート電極は、銅箔やステンレス箔などの金属箔からなる集電体シートの表面に、黒鉛やコークスなどを含む負極活物質が層状に圧着されている。
【0003】
ここで、シート電極の製造過程について詳述すると、まず、基材としての尺状の集電体シートの表面に塗工物である活物質ペーストが塗工される。その際、集電体シートの両縁部には、活物質ペーストが塗工されない活物質未塗工部と、活物質ペーストが塗工された活物質塗工部とが形成される。次いで、活物質ペーストが塗工された集電体シートが加圧ロールを通過されて、集電体シートの表面に活物質ペーストが圧着される。そして、形成された長尺状のシート電極が所定形状となるように裁断されて、塗工膜としてのシート電極が形成される。
【0004】
シート電極の製造過程の中でも、集電体シートに活物質ペーストを塗工する工程では、搬送経路に沿って搬送される集電体シートの表面に対して一定のクリアランスを保つようにして塗工ダイのノズルが固定され、かかるノズルから所定粘度となるように混練された活物質ペーストが吐出される。この活物質ペーストは、通常、高分子樹脂からなるバインダと混練されており、活物質ペーストに所定の粘性が付与されて集電体シートへの密着強度が向上されている。
【0005】
ところで、塗工時の活物質ペーストの粘性は、集電体シートに塗工された後の活物質ペーストの形状に大きく影響を与えるため、これまでにも活物質ペーストの粘性を評価するための手法が幾つか提案されている。
例えば、特許文献1には、固定部材と回転部材との間の空間に活物質ペーストを介在させ、回転部材を回転させて活物質ペーストにせん断力を加え、一定時間内における粘性抵抗トルクの変化率を求めることで、活物質ペーストの機械的強度(せん断に強いかどうか)を評価する塗工物の粘性評価方法が開示されている。
【特許文献1】特許第3800062号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、実際のシート電極の製造過程においては、集電体シートに活物質ペーストが塗工される間、混練された活物質ペーストの粘性状態などの「塗工条件」を常時一定に保つことが困難である。そのため、例えば、活物質ペーストの粘性状態などの塗工条件が、外乱により塗工中に変化してしまう場合があった。
【0007】
確かに、上述した特許文献1に開示された塗工物の粘性評価方法では、予め、模擬塗工機などによって活物質ペーストの塗工性、すなわちせん断に対する強さを評価することができるため、実際のシート電極の製造過程で使用される活物質ペーストの粘性を予め評価しておくことで、製造時に使用した際に不具合が露呈することを防止することができ、活物質ペーストの使用量を低減すること等のメリットがある。
【0008】
しかしながら、上述した特許文献1に開示されるように従来の粘性評価方法は、集電体シートに活物質ペーストを塗工することなく活物質ペーストの塗工性を評価するものであったため、シート電極の製造過程中に塗工条件が変更された場合などには、活物質ペーストの粘性を評価することができなかった。すなわち、従来の粘性評価方法では、集電体シートに塗工された活物質ペーストの粘性をインラインで評価するものではなかったため、シート電極の製造過程中に塗工条件が変更されると、電体シートに塗工された活物質ペーストにおいて高さ方向及び幅方向の形状が不均一となって、シート電極の製造歩留まりの低下を防止することができなかったのである。
【0009】
そこで、本発明では、塗工膜の粘性評価方法およびその装置に関し、前記従来の課題を解決するもので、塗工物の粘性をインラインで評価可能として、塗工膜の製造歩留まりの低減を防止する塗工膜の粘性評価方法およびその装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0011】
すなわち、請求項1においては、塗工膜の基材に塗工された塗工物の粘性を評価する塗工膜の粘性評価方法であって、前記塗工膜の少なくとも一端部を含む所定範囲に向けて照射光を照射し、照射光の形状を撮像する撮像工程と、前記撮像工程により撮像された撮像データに基づいて塗工物の縁部から基材との接触部までの距離を検出し、検出した塗工物の縁部から基材との接触部までの距離に基づいて塗工物の粘性を評価する評価工程とを有するものである。
【0012】
請求項2においては、前記評価工程は、予め、基材に塗工される塗工物ごとに塗工物の縁部から接触部までの距離と塗工物の粘度との関係を基準値として求め、前記基準値と検出された距離の実測値とを対比するものである。
【0013】
請求項3においては、前記評価工程は、前記撮像工程により撮像された撮像データから塗工物の縁部及び接触部の光切断像を抽出し、抽出した塗工物の縁部及び接触部の光切断像から、塗工物の縁部及び接触部の二次元座標を算出するものである。
【0014】
請求項4においては、前記塗工膜は、金属箔集電体シートの少なくとも一方の表面に活物質ペーストが塗工されたシート電極である。
【0015】
請求項5においては、塗工膜の基材に塗工された塗工物の粘性を評価する塗工膜の粘性評価装置であって、前記塗工膜の少なくとも一端部を含む所定範囲に向けて照射光を照射し、照射光の形状を撮像する撮像部と、前記撮像部により撮像された撮像データに基づいて塗工物の縁部から基材との接触部までの距離を検出し、検出した塗工物の縁部から基材との接触部までの距離に基づいて塗工物の粘性を評価する評価部とを有するものである。
【0016】
請求項6においては、前記評価部は、予め、基材に塗工される塗工物ごとに塗工物の縁部から接触部までの距離と塗工物の粘度との関係を基準値として求め、前記基準値と検出された距離の実測値とを対比するものである。
【0017】
請求項7においては、前記評価部は、前記撮像部により撮像された撮像データから塗工物の縁部及び接触部の光切断像を抽出し、抽出した塗工物の縁部及び接触部の光切断像から、塗工物の縁部及び接触部の二次元座標を算出するものである。
【0018】
請求項8においては、前記塗工膜は、金属箔集電体シートの少なくとも一方の表面に活物質ペーストが塗工されたシート電極である。
【発明の効果】
【0019】
本発明の効果として、以下に示すような効果を奏する。
【0020】
請求項1に示す構成としたので、塗工物の粘性をインラインで評価可能として、塗工膜の製造歩留まりの低減を防止することができる。
【0021】
請求項2に示す構成としたので、より簡易に塗工物の粘性を評価することができる。
【0022】
請求項3に示す構成としたので、塗工物の形状変化をより精度よく検出することができ、粘性の評価能を向上できる。
【0023】
請求項4に示す構成としたので、シート電極の製造工程においてインラインで粘性を評価することができるため、直ちに活物質ペーストの粘度を修正等して塗工条件を修正することで、シート電極の製造効率をより向上させることができる。
【0024】
請求項5に示す構成としたので、塗工物の粘性をインラインで評価可能として、塗工膜の製造歩留まりの低減を防止することができる。
【0025】
請求項6に示す構成としたので、より簡易に塗工物の粘性を評価することができる。
【0026】
請求項7に示す構成としたので、塗工物の形状変化をより精度よく検出することができ、粘性の評価能を向上できる。
【0027】
請求項8に示す構成としたので、シート電極の製造工程においてインラインで粘性を評価することができるため、直ちに活物質ペーストの粘度を修正等して塗工条件を修正することで、シート電極の製造効率をより向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
発明を実施するための最良の形態の実施の形態を説明する。
図1は本発明の一実施例に係る粘性評価装置を備えたシート電極製造装置の全体的な構成を示した側面図、図2はシート電極の構成を示した図、図3は本実施例のシート電極の粘性評価装置の側面図、図4は同じく図3の粘性評価装置の平面図、図5は活物質ペーストの縁部及び接触部の光切断像を示した図、図6は光切断像における活物質ペーストの縁部の座標位置を示した図、図7は本実施例のシート電極の粘性評価方法を示したフローチャートである。
なお、以下の実施例においては、図4におけるシート電極2の搬送方向と直交する方向(矢印方向)をシート電極2の幅方向とする。また、以下の本実施例では、塗工膜としてシート電極2を用いた場合について説明し、シート電極2は、基材としての集電体シート20に塗工物として活物質ペースト21が塗工されて構成されているものとする。
【0029】
まず、本実施例の粘性評価装置4を備えたシート電極製造装置1の全体構成について、以下に概説する。
図1に示すように、本実施例のシート電極製造装置1は、尺状の集電体シート20に活物質ペースト21を塗工してシート電極2を製造する装置であって、具体的には、尺状の集電体シート20の両表面に活物質ペースト21を塗工する塗工工程10と、活物質ペースト21が塗工された集電体シート20を加圧ロール11a(図3参照)に通過させて集電体シート20の表面に活物質ペースト21を圧着させる圧着工程11と、形成された長尺状のシート電極2を所定形状となるように裁断する裁断工程12等の各工程が搬送経路3に沿って配設されている。
【0030】
シート電極製造装置1の各工程は、公知の構成を採用することができ、その詳細な説明は省略する。ただし、本実施例では、塗工工程10は、搬送経路3の中途部に配設された塗工ローラ10aと、塗工ローラ10aに対して集電体シート20を介して対峙される塗工ダイ10b等とで構成されている(図3参照)。塗工工程10では、搬送経路3に沿って搬送される集電体シート20の表面に向けて、塗工ダイ10bのノズルより活物質ペースト21が吐出され、集電体シート20の両表面に活物質ペースト21が塗工される。
【0031】
シート電極2は、塗工膜としてリチウムイオン二次電池で用いられる正極シート電極又は負極シート電極として構成されている。シート電極製造装置1で製造されるシート電極2は、正極であれば集電体シート20としてアルミ箔が一般に用いられ、負極であれば集電体シート20として銅箔が一般に用いられる。
【0032】
活物質ペースト21としては、正極シートの製造であれば、正極活物質(例えば、コバルト酸リチウム・マンガン酸リチウム・ニッケル酸リチウム等のリチウム複合酸化物など)と、それに導電性を付与する導電材(カーボングラファイトなど)と、及びこれらを結着させる結着剤(有機バインダなど)等とが有機溶剤などに混合溶解(混練)されたものが用いられる。また、負極シートの製造であれば、負極活物質(グラファイトなど)が所定の溶剤に混練されたものなどが用いられる。
【0033】
図2に示すように、シート電極2は、集電体シート20の幅方向の両端部に活物質ペースト21が塗布されない活物質未塗工部20aと、集電体シート20の長手方向略中央部に活物質ペースト21が塗布された活物質塗工部20bとが形成されている。なお、シート電極2は、上述した塗工工程10にて集電体シート20に活物質ペースト21が形成された状態においては、活物質ペースト21が形成された活物質塗工部20bの厚みが活物質未塗工部20aの厚みよりも厚い状態である。
【0034】
特に、シート電極2において、集電体シート20の長手方向に沿って塗工された活物質ペースト21は、上述した塗工ダイ10bからの吐出量や吐出速度によって多少の形状の違いがあるが、通常は、横断面略台形となるように塗工される。この活物質ペースト21の断面形状を詳述すると、平面視略水平の上面部21aの縁部22から、斜め下方に拡幅方向に向けて側面部21bが延出され、前記側面部21b下端の接触部23にて集電体シート20と当接されている。
【0035】
次に、本実施例の粘性評価装置4の全体構成について、以下に説明する。
図3乃至図6に示すように、本実施例の粘性評価装置4は、上述したように、塗工膜としてのシート電極2を製造するシート電極製造装置1の搬送経路3中に設けられており、搬送経路3に沿って搬送されるシート電極2の活物質ペースト21の粘性をインラインで評価可能に構成されている。本実施例の粘性評価装置4は、シート電極製造装置1において塗工工程10(の塗工ローラ10a)と圧着工程11(の加圧ローラ11a)との間に配設されており、粘性評価装置4によって、塗工工程10にて集電体シート20の表面に活物質ペースト21が塗工された後であって圧着工程11にて圧着される前の活物質ペースト21の粘性がインラインで評価される。
【0036】
本実施例の粘性評価装置4は、シート電極2に塗工された活物質ペースト21の幅方向(図4において矢印方向)であって少なくとも一端部を含む所定範囲に向けて照射光を照射し、照射光の形状を撮像する撮像手段としての撮像装置40と、撮像装置40により撮像された撮像データに基づいて、活物質ペースト21の縁部22から集電体シート20との接触部23までの距離を検出し、検出された距離に基づいて活物質ペースト21の粘性を評価する評価装置41等とで構成されている。
【0037】
図3及び図4に示すように、撮像装置40は、シート電極2の一端部に向けて照射光を照射する光源部43と、光源部43により照射された照射光の内、シート電極2にて反射された反射光を受光して照射光の二次元形状を撮像するカメラ部44等とで構成されている。撮像装置40は、シート電極2の少なくとも一端部を含む所定範囲に向けて照射光を照射可能に構成されればよい。
【0038】
本実施例の撮像装置40は、搬送経路3に対して搬送方向上流側から下流側を見た場合のシート電極2の左側縁部に配設され、一対の光源部43及びカメラ部44で構成されており、シート電極2の左側縁部に向けてのみ照射可能とされている。本実施例の構成では、このようにシート電極2の一方の縁部の照射光の形状が撮像可能であればよいため、より簡易に構成することができる。
【0039】
光源部43は、直線状のスリット光としてレーザ光を照射可能に構成されており、シート電極2の表面に対して斜め上方に向けて、搬送方向に対して直行する方向にレーザ光が照射される。特に、本実施例では、光源部43からのレーザ光は、少なくともシート電極2に塗工された活物質ペースト21の一方の縁部22及び接触部23を横切るようにして照射される。なお、光源部43から照射されるレーザ光は、特定の波長域を有する有色のレーザ光であって、本実施例では赤色のレーザ光(赤外線レーザ光)が用いられる。
【0040】
カメラ部44は、赤・緑・青の色成分ごとに撮像可能な分光感度特性を有するCCDカメラが用いられており、光源部43により照射された照射光の内、シート電極2の表面にて反射された反射光が受光され、かかる反射光の二次元形状が撮像される。本実施例では、カメラ部44によって、光源部43からのレーザ光が受光されて、光切断法によりシート電極2の一端部の二次元形状、すなわち活物質ペースト21の縁部22及び接触部23の二次元形状が撮像される。
【0041】
また、撮像装置40は、評価装置41に接続されており、カメラ部44にて撮像された照射光の二次元形状が画像データとして評価装置41(の画像処理部41a)に送信される(図3参照)。
【0042】
このように、本実施例の撮像装置40では、光源部43によってシート電極2の一端部に向けてレーザ光が照射され、シート電極2の表面にて反射された後に、反射光がカメラ部44にて受光されることで、光切断法により活物質ペースト21の縁部22及び接触部23の二次元形状が撮像される。このようにして撮像された活物質ペースト21の縁部22及び接触部23の二次元形状は、後述するように評価装置41(の画像処理部41a)にて画像処理された後、活物質ペースト21の縁部22から接触部23までの距離が検出される。
【0043】
図3に示したように、評価装置41は、各種処理が実行される図示せぬCPUや各種処理プログラム等が格納される記憶部としての図示せぬメモリ等で構成されており、撮像装置40により撮像された撮像データから活物質ペースト21の縁部22及び接触部23の光切断像を抽出する画像処理部41aと、抽出された活物質ペースト21の縁部22及び接触部23の光切断像から、活物質ペースト21の縁部22から接触部23までの距離を検出する検出部41bと、検出された距離に基づいて塗工物の粘性を評価する評価部41c等とで構成されている。
【0044】
なお、評価装置41には、その他に、画像出力可能なモニター等の出力装置(図略)や、キーボート・テンキー・タッチパネル等の入力装置(図略)などが接続されている。特に、出力装置には、評価装置41の画像処理部41aにて抽出された活物質ペースト21の縁部22及び接触部23の光切断像だけでなく、例えば、活物質ペースト21の縁部22及び接触部23の座標位置や、検出された距離などが出力表示される。
【0045】
図5及び図6に示すように、画像処理部41aでは、撮像された撮像データから活物質ペースト21の縁部22及び接触部23の光切断像が抽出される。具体的には、撮像された画像データが所定の閾値により二値化され、細線化処理などの画像処理が施されることで、活物質ペースト21の縁部22及び接触部23の二次元形状パターンが所定の二次元座標上に抽出される(図5参照)。抽出された活物質ペースト21の縁部22及び接触部23の光切断像は、二次元座標上において、X軸にシート電極2の幅方向が、同じくY軸に活物質ペースト21の高さ方向がそれぞれ設定される。なお、この活物質ペースト21の縁部22及び接触部23の光切断像は、測定単位(ドット)の連続線として抽出される(図6参照)。
【0046】
検出部41bでは、まず、抽出された活物質ペースト21の縁部22及び接触部23の光切断像から、活物質ペースト21の縁部22(図5における点P)及び接触部23(図5における点Q)の二次元座標が算出される。そして、算出された活物質ペースト21の縁部22及び接触部23の二次元座標から、縁部22から接触部23までの距離が検出される。
【0047】
活物質ペースト21の縁部22及び接触部23の二次元座標は、それぞれ所定の二次元座標上における幅方向と高さ方向の座標位置として算出される。活物質ペースト21の縁部22及び接触部23の二次元座標の算出方法は特に限定されないが、本実施例では、活物質ペースト21の縁部22及び接触部23の二次元座標は、活物質ペースト21の縁部22及び接触部23の光切断像において、活物質ペースト21の上面部21a及び集電体シート20の水平面の高さ方向(Y方向)の座標位置を基準として算出される。
【0048】
すなわち、活物質ペースト21の縁部22及び接触部23の二次元座標が算出される際には、まず、一定領域内の測定単位の高さ方向の座標位置の平均値及び標準偏差が演算され、かかる平均値を基準として上下方向に標準偏差分だけ閾値が演算される(図6参照)。なお、この「一定領域」には、光切断像における活物質ペースト21の上面部21a及び集電体シート20の水平面に相当する領域が含まれる。そして、かかる一定領域での平均値及び閾値からずれた測定単位が、活物質ペースト21の縁部22及び接触部23の高さ方向の座標位置として特定され、次いで、かかる高さ方向の座標位置に対応する幅方向の座標位置が特定されることで、活物質ペースト21の縁部22及び接触部23の二次元座標が算出される。
【0049】
例えば、活物質ペースト21の縁部22の二次元座標(点P)が算出される際には、まず、活物質ペースト21の上面部21aに相当する領域内の高さ方向の座標位置の平均値が演算され、かかる平均値に対する標準偏差を含めた閾値が演算される(図6参照)。ここで、縁部22の二次元座標が算出される場合には、平均値及び閾値からのずれは所定の測定単位のずれとして換算される。これは、活物質ペースト21の縁部22は、通常、上面部21aからなだらかに傾斜して側面部21bに連続されるためである。具体的には、本実施例の場合には、所定の測定単位として、平均値及び標準偏差(閾値)から5点連続して外れた位置の測定単位が、活物質ペースト21の縁部22として座標位置が特定される。そして、かかる高さ方向の座標位置に対応する幅方向の座標位置が特定されることで、活物質ペースト21の縁部22の二次元座標(点P)が算出される。
【0050】
一方、活物質ペースト21の接触部23の二次元座標(点Q)が算出される際には、まず、集電体シート20の水平面に相当する領域内の高さ方向の座標位置の平均値が演算され、かかる平均値に対する標準偏差を含めた閾値が演算される。次いで、平均値及び標準偏差(閾値)から外れた位置の測定単位が、活物質ペースト21の接触部23のとして座標位置が特定される。そして、かかる高さ方向の座標位置に対応する幅方向の座標位置が特定されることで、活物質ペースト21の接触部23の二次元座標(点Q)が算出される。
【0051】
そして、検出部41bでは、このようにして算出された活物質ペースト21の縁部22及び接触部23の二次元座標が、それぞれX軸方向及びY軸方向の座標位置で表されることから、例えば、縁部22及び接触部23の偏差から三平方の定理を用いる等により縁部22から接触部23までの距離が検出される。
【0052】
図3に戻って、評価部41cでは、予め、集電体シート20に塗工される活物質ペースト21ごとに、活物質ペースト21の縁部22から接触部23までの距離と、活物質ペースト21の粘度との関係が演算テーブル(図略)として図示せぬメモリ等に記憶され、検出された距離の実測値と演算テーブルとが対比されることで、活物質ペースト21の粘性が評価される。
【0053】
本実施例の演算テーブルは、活物質ペースト21の粘度が高くなると、活物質ペースト21の流動性が低減するため、集電体シート20表面上での接触面積が小さくなるとともに縁部22から接触部23までの距離は短くなるという相関性が成り立っている。一方、活物質ペースト21の粘度が低くなると、活物質ペースト21の流動性が増加するため、集電体シート20表面上での接触面積が大きくなって縁部22から接触部23までの距離が長くなるという相関性が成り立っている。
【0054】
本実施例では、所定の温度条件下で活物質ペースト21の種類に応じて縁部22から接触部23までの距離と、活物質ペースト21の基準粘度との関係が測定されて、それぞれの値が基準値として演算テーブルに格納されている。活物質ペースト21の基準粘度は、活物質ペースト21に含有される活物質やバインダ等の組成比に応じて変更され、組成物の分散性や、集電体シート20の表面に塗工させる際の流動性や、塗工された後の柔軟性などの諸条件を考慮して設定される。
【0055】
そして、評価部41cでは、検出部41bにて検出された実測値としての縁部22から接触部23までの距離が演算テーブルと対比されて、実測値としての活物質ペースト21の粘度が測定され、測定された粘度が所定の基準値(閾値)の範囲内にあるか否かが判定される。その結果、測定された粘度が所定の基準値(閾値)の範囲外にあると判定された場合には、活物質ペースト21の粘性に異常があると評価される。
【0056】
次に、本実施例の粘性評価装置4を用いたシート電極2の粘性評価方法について、以下に詳述する。
図7に示すように、本実施例は、以上のように構成された粘性評価装置4を用いてシート電極2の集電体シート20に塗工された活物質ペースト21の粘性を評価する方法であって、シート電極2の一端部に向けて照射光を照射し、照射光の形状を撮像する撮像工程(S100)と、撮像工程により撮像された撮像データから活物質ペースト21の縁部22及び接触部23の光切断像を抽出する画像処理工程(S110)と、活物質ペースト21の縁部22から集電体シート20との接触部23までの距離を検出する検出工程(S120)と、検出された距離に基づいて活物質ペースト21の粘性を評価する評価工程(S130)等とを有するものである。
【0057】
具体的には、まず、撮像工程(S100)では、撮像装置40を構成する光源部43からシート電極2の一端部に向けて照射光が照射され、カメラ部44にてシート電極2の表面で反射された反射光が受光されることで、光切断法によりシート電極2の一端部の二次元形状、すなわち活物質ペースト21の縁部22及び接触部23の二次元形状が撮像される。
【0058】
画像処理工程(S110)では、撮像された撮像データから活物質ペースト21の縁部22及び接触部23の光切断像が抽出される。本実施例の画像処理工程では、撮像された画像データが所定の閾値により二値化され、細線化処理などの画像処理が施されることで、活物質ペースト21の縁部22及び接触部23の二次元形状パターンが所定の二次元座標上に抽出される(図5参照)。
【0059】
検出工程(S120)では、画像処理工程にて抽出された活物質ペースト21の縁部22及び接触部23の光切断像から、まず、活物質ペースト21の縁部22及び接触部23の二次元座標が算出され、算出された活物質ペースト21の縁部22及び接触部23の二次元座標から、縁部22から接触部23までの距離が検出される。
【0060】
評価工程(S130)では、検出工程にて検出された距離の実測値と、予め、活物質ペースト21の縁部22から接触部23までの距離と活物質ペースト21の粘度との関係が記憶された演算テーブルとが対比されて、実測値としての活物質ペースト21の粘度が測定され、測定された粘度が所定の基準値(閾値)の範囲内にあるか否かが判定される。その結果、測定された粘度が所定の基準値(閾値)の範囲外にあると判定された場合には、活物質ペースト21の粘性に異常があると評価される。
【0061】
以上のようにして、本実施例のシート電極2の粘性評価方法によれば、シート電極2の集電体シート20に塗工された活物質ペースト21の粘性を評価するシート電極2の粘性評価方法であって、シート電極2の少なくとも一端部を含む所定範囲に向けて照射光を照射し、照射光の形状を撮像する撮像工程と、撮像工程により撮像された撮像データに基づいて、活物質ペースト21の縁部22から集電体シート20との接触部23までの距離を検出し、検出した活物質ペースト21の縁部22から集電体シート20との接触部23までの距離に基づいて活物質ペースト21の粘性を評価する評価工程とを有するため、シート電極2の粘性をインラインで評価可能として、シート電極2の製造歩留まりの低減を防止することができる。
【0062】
すなわち、本実施例の粘性評価方法は、シート電極2の集電体シート20に塗工された活物質ペースト21の端部である縁部22及び接触部23の二次元形状の変化から、活物質ペースト21の粘性を評価するものである。まず、撮像装置40によってシート電極2の一端部にレーザ光を照射して照射光の形状を撮像することで、搬送経路3に搬送されるシート電極2に対してインラインで照射光の形状を撮像することができる。そして、例えば、塗工工程10において活物質ペースト21の粘性状態(粘度変化)などの塗工条件が外乱により変化し、かかる外乱により塗工条件が変化したことにより、集電体シート20に塗工された活物質ペースト21の高さ方向及び幅方向の形状が不均一となった場合であっても、縁部22から接触部23までの距離を検出するだけで、容易に活物質ペースト21の粘度を評価することができ、ひいてはシート電極2の製造歩留まりの低減を防止することができる。
【0063】
特に、本実施例の粘性評価方法では、評価工程において、予め、集電体シート20に塗工される活物質ペースト21ごとに活物質ペースト21の縁部22から接触部23までの距離と活物質ペースト21の粘度との関係を基準値として求め、基準値と検出された距離の実測値とを対比することで、集電体シート20に塗工された活物質ペースト21の端部の形状と活物質ペースト21の粘度との相関性より、より簡易に活物質ペースト21の粘性を評価することができる。
【0064】
また、本実施例の粘性評価方法では、評価工程において、撮像工程により撮像された撮像データから活物質ペースト21の縁部22及び接触部23の光切断像を抽出し、抽出した活物質ペースト21の縁部22及び接触部23の光切断像から、活物質ペースト21の縁部22及び接触部23の二次元座標を算出するため、活物質ペースト21の形状変化をより精度よく検出することができ粘性の評価能を向上できる。
【0065】
さらに、本実施例の粘性評価方法は、金属箔集電体シート20の少なくとも一方の表面に活物質ペースト21が塗工されたシート電極2に対して用いられるため、シート電極2の製造工程においてインラインで粘性を評価することができるため、直ちに活物質ペースト21の粘度を修正等して塗工条件を修正することで、シート電極2の製造効率をより向上させることができる。
【0066】
なお、シート電極2の粘性評価方法及び粘性評価装置4の構成としては、上述した実施例に限定されず、本発明の目的を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。
【0067】
すなわち、上述した実施例の撮像装置40は、搬送経路3に対して搬送方向上流側から下流側を見た場合のシート電極2の左側縁部にのみ配設されるが、これに限定されず、撮像装置40によって、シート電極2の少なくとも一端部を含む所定範囲に向けて照射光が照射可能であればよい。そのため、例えば、撮像装置40は、シート電極2の両端部を照射範囲とする一の光源部や、シート電極2の左右両側の縁部にそれぞれ一対の光源部とカメラ部とが配設されて、活物質ペースト21の両端部の縁部22及び接触部23とが撮像されるように構成されてもよい。
【0068】
また、例えば、上述した実施例の評価装置41は、評価装置41の評価結果に基づいて塗工工程10の塗工ダイ10bからの活物質ペースト21の吐出量や吐出速度などを制御する制御装置(図略)に接続されて、活物質ペースト21の粘度に基づいて活物質ペースト21の吐出条件が自動制御可能に構成されてもよい。なお、かかる場合には、制御装置には、評価装置41(の評価部41c)の評価及び実測値としての活物質ペースト21の粘度などが送信される。
【0069】
また、上述した実施例において演算テーブルが作成される際には、好ましくは測定条件に応じた温度条件で、活物質ペースト21の縁部22から接触部23までの距離と、活物質ペースト21の粘度との関係が求められる。
【0070】
また、本実施例の粘性評価装置4で測定される塗工膜としては、シート電極2の他に、例えば、箔(フォイル)、織物、フィルム、紙等、薄い形状の物品が含まれる。また、塗工膜を構成する材料は、特に限定されず、金属材料、樹脂材料その他の材料あるいはこれらを組み合わせたものでもよい。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】本発明の一実施例に係る粘性評価装置を備えたシート電極製造装置の全体的な構成を示した側面図。
【図2】シート電極の構成を示した図。
【図3】本実施例のシート電極の粘性評価装置の側面図。
【図4】同じく図3の粘性評価装置の平面図。
【図5】活物質ペーストの縁部及び接触部の光切断像を示した図。
【図6】光切断像における活物質ペーストの縁部の座標位置を示した図。
【図7】本実施例のシート電極の粘性評価方法を示したフローチャート。
【符号の説明】
【0072】
1 シート電極製造装置
2 シート電極(塗工膜)
4 粘性評価装置
20 集電体シート(基材)
21 活物質ペースト(塗工物)
22 縁部
23 接触部
40 撮像装置(撮像部)
41 評価装置(評価部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塗工膜の基材に塗工された塗工物の粘性を評価する塗工膜の粘性評価方法であって、
前記塗工膜の少なくとも一端部を含む所定範囲に向けて照射光を照射し、照射光の形状を撮像する撮像工程と、
前記撮像工程により撮像された撮像データに基づいて塗工物の縁部から基材との接触部までの距離を検出し、検出した塗工物の縁部から基材との接触部までの距離に基づいて塗工物の粘性を評価する評価工程とを有することを特徴とする塗工膜の粘性評価方法。
【請求項2】
前記評価工程は、基材に塗工される塗工物ごとに塗工物の縁部から接触部までの距離と塗工物の粘度との関係を基準値として予め求めておき、前記基準値と検出された距離の実測値とを対比することを特徴とする請求項1に記載の塗工膜の粘性評価方法。
【請求項3】
前記評価工程は、前記撮像工程により撮像された撮像データから塗工物の縁部及び接触部の光切断像を抽出し、抽出した塗工物の縁部及び接触部の光切断像から、塗工物の縁部及び接触部の二次元座標を算出することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の塗工膜の粘性評価方法。
【請求項4】
前記塗工膜は、金属箔集電体シートの少なくとも一方の表面に活物質ペーストが塗工されたシート電極であることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の塗工膜の粘性評価方法。
【請求項5】
塗工膜の基材に塗工された塗工物の粘性を評価する塗工膜の粘性評価装置であって、
前記塗工膜の少なくとも一端部を含む所定範囲に向けて照射光を照射し、照射光の形状を撮像する撮像部と、
前記撮像部により撮像された撮像データに基づいて塗工物の縁部から基材との接触部までの距離を検出し、検出した塗工物の縁部から基材との接触部までの距離に基づいて塗工物の粘性を評価する評価部とを有することを特徴とする塗工膜の粘性評価装置。
【請求項6】
前記評価部は、基材に塗工される塗工物ごとに塗工物の縁部から接触部までの距離と塗工物の粘度との関係を基準値として予め求めておき、前記基準値と検出された距離の実測値とを対比することを特徴とする請求項5に記載の塗工膜の粘性評価装置。
【請求項7】
前記評価部は、前記撮像部により撮像された撮像データから塗工物の縁部及び接触部の光切断像を抽出し、抽出した塗工物の縁部及び接触部の光切断像から、塗工物の縁部及び接触部の二次元座標を算出することを特徴とする請求項5又は請求項6に記載の塗工膜の粘性評価装置。
【請求項8】
前記塗工膜は、金属箔集電体シートの少なくとも一方の表面に活物質ペーストが塗工されたシート電極であることを特徴とする請求項5乃至請求項7のいずれか一項に記載の塗工膜の粘性評価装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−133765(P2009−133765A)
【公開日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−311058(P2007−311058)
【出願日】平成19年11月30日(2007.11.30)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】