説明

塗布器

【課題】エア排出時間を短縮するために内部流路に接続するエア排出経路の個数を増加させても、エアを塗布器外部へ排出する排出口の個数は最小限に保つ手段を実現することで、排出口に接続されるエア排出用付帯部品の個数も最小限にして、低コスト化を図るだけでなく、塗布以外の作業時間を短縮して塗布生産時間を増やし、生産性と塗布品質に優れる塗布器を提供する。
【解決手段】
塗布液が供給される供給口、供給される塗布液を長手方向に拡幅するマニホールド、塗布液を吐出する吐出口、マニホールドと吐出口を連通するスリット、マニホールドに存在する塗布液/エアをマニホールドから流出させる複数のベント口とそれに連なるベント経路、ベント口から流出する塗布液/エアを塗布器の外部に排出する排出口を備えるとともに、排出口の個数がベント口の個数よりも少ない塗布器。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばカラー液晶ディスプレイ用カラーフィルター並びにアレイ基板、プラズマディスプレイ用パネル、光学フィルタなどの製造分野に使用されるものであり、詳しくはガラス基板などの被塗布部材表面に塗布液を塗布する塗布器の、内部に溜まったエアを効率的に外部に排出することを可能とする改良に関する。
【背景技術】
【0002】
カラー液晶ディスプレイ用カラーフィルター並びにアレイ基板、プラズマディスプレイ用パネル、光学フィルタなどの製造工程では、ガラス基板などの枚葉状の被塗布部材表面に液体材料である塗布液を塗布して乾燥させ、塗布液の塗布膜を形成する工程が多く含まれる。近年、この塗布膜を形成するための塗布装置には、スリット状の吐出口から塗布液を吐出する塗布器(スロットダイ)を具備したダイコータが主に使用されている。
【0003】
このダイコータにより枚葉状の被塗布部材表面に塗布液を塗布する場合、塗布液の発泡などによって塗布器の内部流路にエアが溜まってエア溜まりが形成されることがある。このエア溜まりがある程度以上の大きさに成長すると、塗布液を塗布器に供給して塗布を開始する時に、供給した塗布液がエア溜まりの圧縮に消費されて、塗布器から実際に吐出される塗布液量が減じるため、塗布開始部の膜厚が所定の膜厚よりも薄くなる問題が生じる。また塗布中に、塗布器の内部流路に溜まったエアが塗布器の吐出口から吐出されてしまうと、塗布膜の表面にピンホールや縦スジといった塗布欠陥が発生し、塗布膜の品質が著しく損なわれるといった問題も生じる。
【0004】
これらの問題を解決するために、塗布器内部流路に溜まるエアを定期的に排出することが行われるが、このエア排出を簡便に行えるように、エア排出流路を塗布器の内部流路に付加して設けることがなされている。一方、近年のガラス基板の大型化に応じて長尺化された塗布器では、エア排出に要する時間が内部流路の容量増大に伴って増加しており、塗布装置の稼働率を高めるためにエア排出時間の一層の短縮が求められている。さらには、上記のエア起因の塗布欠陥が全くない高品質の塗布膜をえるために、排出しにくい微小なエアまで、短時間で排出することが要求されるようになってきた。
【0005】
以上の複合的な要求を満たすために、複数のエア排出経路を塗布器の内部流路に付加することで、同時に複数箇所からのエア排出をエアのサイズに関係なく可能にし、時間短縮を図る提案がなされている(例えば特許文献1、2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−142648号公報
【特許文献2】特開2009−178649号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1、2に示される従来の塗布器は、塗布器の内部流路に接続されるエア排出経路と、エア排出経路の一端にあって塗布液およびエアを塗布器の外部へ排出する排出口とが一対となっており、両者の個数が同一である構成となっている。さらに上記排出口のそれぞれには、塗布液およびエアを流出させる配管と、配管での塗布液およびエアの流出/遮断を開閉動作で個々に制御する切換バルブとからなるエア排出用付帯部品が接続され、これによってエア排出/塗布の切換が行われる。すなわち、エア排出時には切換バルブを開として、塗布液およびエアを外部に流出させ、塗布時には切換バルブを閉として、塗布液を塗布器の吐出口からのみ吐出するようにする。このようにエア排出用付帯部品は必須の構成要素になっており、それゆえ、エア排出時間を短縮するために単純にエア排出経路/排出口の個数を増やすと、それに伴って、排出口に接続されるエア排出用付帯部品の個数も増加してしまう。このようにエア排出用付帯部品の個数が増加してしまうと、設置コストが増加する上に装置構成が非常に複雑になるほか、エア排出用付帯部品の塗布器への脱着作業にも多大な労力と時間を要してしまう。このような脱着作業の時間増分は、エア排出経路の増加によるエア排出時間の短縮分を相殺してしまうか、はなはだしい場合にはエア排出時間の短縮分よりもはるかに大きくなってしまい、塗布以外の時間を短縮して塗布生産時間を長くするという本来の目的が全く達成できないという問題があった。
【0008】
本発明は、上記問題点を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、エア排出時間を短縮するために内部流路に接続するエア排出経路の個数を増加させても、エア排出経路を流出するエアを塗布器外部へ排出する排出口の個数は少なく最小限に保つ手段を実現することで、排出口に接続されるエア排出用付帯部品の個数も最小限にして、低コスト化を図るだけでなく、塗布以外の作業時間を短縮して塗布生産時間を増やし、生産性と塗布品質に優れる塗布器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記本発明の目的は、以下に述べる手段によって達成される。
本発明に係る塗布器は、塗布液が供給される供給口、供給口から供給された塗布液を長手方向に拡幅するためのマニホールド、塗布液を吐出するために長手方向に延在する吐出口、マニホールドと吐出口を連通するスリット、を備える塗布器であって、さらに前記マニホールドに存在する塗布液およびエアをマニホールドから流出させるための複数のベント口とそれに連なるベント経路、該ベント口から流出する塗布液およびエアを塗布器の外部に排出するための排出口を備えるとともに、該排出口が前記ベント口の個数よりも少ない個数で設けられていることを特徴とする。
【0010】
また、本発明の好ましい形態によれば、塗布器はさらに、複数の前記ベント経路が合流する合流部と、合流部と前記排出口を接続する排出経路と、を含む。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る塗布器によれば、塗布器の内部流路から塗布液およびエアを流出させるベント口とそれに連なるエア排出経路であるベント経路の個数に対して、ベント経路を流出する塗布液およびエアを塗布器の外部へ排出する排出口の個数を少なく最小限にすることが可能な構成にしたので、排出口に接続されて塗布器の定期的なエア排出を行うエア排出用付帯部品の個数も少なく、最小限にすることができる。これにより、エア排出用付帯部品の設置で低コスト化が実現できる上に、簡素な装置構成となってエア排出用付帯部品の接続時間も短縮される。また塗布液およびエアを塗布器の外部へ排出する排出口の個数を少なく最小限に保ったまま、ベント口とそれに連なるベント経路の数を自由に増やすことができるので、いかに塗布器が長尺化し、エアが微細化しても、排出時間を大幅に短縮してエア排出を行うことが可能となる。その結果、本発明の塗布器を塗布生産に適用すれば、エア排出及びそれに関連する作業に要する時間を大幅に短縮して、とりわけ超大型基板使用時の塗布生産時間を大幅に増加させるので、非常に生産性が高く、高品質の塗布膜がえられる塗布生産を実行することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明に係る塗布器であるスロットダイ101を各構成部材に分解して示す概略斜視図である。
【図2】リアリップ103の概略斜視図である。
【図3】リアリップ103に設けられた流路での塗布時の塗布液流れを示す概略斜視図である。
【図4】リアリップ103に設けられた流路でのエア排出時の塗布液流れを示す概略斜視図である。
【図5】リアリップ103に設けられた流路でのエア排出状況を示す概略斜視図である。
【図6】本発明に係る別の塗布器であるスロットダイ201の内部に設けられた流路を示すリアリップ203の概略斜視図である。
【図7】本発明に係るさらに別の塗布器であるスロットダイ301を各構成部材に分解して示す概略斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の好ましい実施形態の一例を、図面に基づいて説明する。図1は本発明に係る塗布器であるスロットダイ101を各構成部材に分解して示す概略斜視図、図2はリアリップ103の概略斜視図、図3はリアリップ103に設けられた流路での塗布時の塗布液流れを示す概略斜視図、図4はリアリップ103に設けられた流路でのエア排出時の塗布液流れを示す概略斜視図、図5はリアリップ103に設けられた流路でのエア排出状況を示す概略斜視図、である。
【0014】
まず図1を参照すると、塗布器であるスロットダイ101は、両矢印で示される長手方向に伸びるフロントリップ102、シム104およびリアリップ103を重ね合わせ、複数の連結ボルト105により一体的に結合することで構成されている。スロットダイ101の内部には、塗布液を長手方向すなわち塗布幅方向に拡幅するためのマニホールド106が、スロットダイ101の内部流路の一つとして、リアリップ103のフロントリップ102と相対する面である内面に形成されており、フロントリップ102およびリアリップ103と同様に長手方向に延在している。このマニホールド106に塗布液を外部から供給する供給口116とそれに連なってマニホールド106に連通する供給経路119も、リアリップ103に設けられている。リアリップ103のフロントリップ102と相対する面の逆側にある外面には、エア排出用付帯部品130が接続されている。またマニホールド106の下方のフロントリップ102とリアリップ103の間には、シム104の厚さに等しい隙間であるスリット107が、マニホールド106に連通して形成されている。このスリット107も長手方向に延在している。そして、スリット107の下端は開口していて、この開口が塗布液を吐出するためのスリット状の吐出口108となる。なお塗布時に塗布液が流動する流路となる供給経路119、マニホールド106、スリット107が、内部流路と定義される。
【0015】
次に、図2を参照してリアリップ103に形成される、すなわち設けられている流路を詳しく見てみる。図2では長手方向は両矢印で示されている。まずマニホールド106に溜まるエアを排出するために、マニホールド106の長手方向中央上部には、ベント口109とそれに連なって接続するベント経路113が設けられている。一方マニホールド106の長手方向両端上部には、ベント口110、ベント口111とそれに各々連なって接続するベント経路114、115が設けられている。塗布液およびエアが流出するスロットダイ101のエア排出経路であるベント経路113、114、115は、マニホールド106の長手方向中央で上方に設けた合流部112で合流して1つの経路に集約される。さらに合流部112はリアリップ103の外方(リアリップ103のフロントリップ102と相対する面とは逆側の方向)に向かって延びる排出経路118に接続される。排出経路118のリアリップ103の外方に延びる一端は、リアリップ103の外面で開口して、排出口117を形成している。この排出口117から、上記のスロットダイ101の内部に設けられた流路を流出してきた塗布液およびエアを、スロットダイ101の外部へ排出する。さらに排出口117には、排液配管131と、この排液配管131での塗布液およびエアの流出/遮断を制御する切換バルブであるエアオペバルブ132が、図示しないフランジを介して接続されている。エアオペバルブ132には、開閉動作に必要なパイロット圧力を付与するための圧縮空気を供給する圧空配管133も接続されている。以上の排液配管131、エアオペバルブ132、圧空配管133、図示しないフランジによって、エア排出用付帯部品130が構成されている。
【0016】
次に図3を参照して、塗布時のスロットダイ101の内部に設けられた流路での塗布液122の流れを説明する。塗布時には、リアリップ103の外面側にある排液配管131に接続されたエアオペバルブ132は閉として、塗布液の流出が遮断されている。本実施態様例ではエアオペバルブ132はいわゆる「ノーマルクローズ」のものを使用しており、パイロット圧力が付与されると「閉」から「開」に切り替わるので、エアオペバルブ132を閉とするために、圧空配管133には圧縮空気は供給されていない。
【0017】
さて、リップ103に設けられた流路(スロットダイ101の内部に設けられた流路)に塗布液が充満した状態で、図示しない塗布液供給装置から塗布液122を供給口116から供給経路119を経てスロットダイ101内部に供給すると、塗布液122はマニホールド106に一旦流入後、マニホールド106内で中央から両端に向かって長手方向両側に拡幅される塗布液122Aと、ベント口109からベント経路113へ流入する塗布液122Bに分岐する。マニホールド106内で長手方向両側に拡幅される塗布液122Aは、そのままスリット107を通って吐出口108から吐出される。一方、ベント経路113へ流入する塗布液122Bは、合流部112を経由して、ベント経路114、115にそれぞれ分岐し、ベント口110、111を通過して再びマニホールド106に再流入する塗布液122Cとなる。マニホールド106に再流入する塗布液122Cは、その後長手方向の両端部でスリット107を通って吐出口108から吐出される。吐出口108から吐出される全ての塗布液は、吐出口108の下に設置された被塗布部材上に塗布され、塗布膜が形成される。以上の塗布液122の流れでは、マニホールド106内で長手方向両側に拡幅される塗布液122Aと、ベント経路113、114、115を介してマニホールド106に再流入する塗布液122Cとが、マニホールド106の長手方向両端部で合流することになる。この時、長手方向両端部でベント口110、111からマニホールド106に再流入する塗布液122Cは、マニホールド106内で長手方向両側に拡幅される塗布液122Aによってさらに両端部へ押し流されて、吐出口108の両端から1mm程度の範囲でしか吐出されない。したがって塗布液122の合流によって塗布膜に縦スジと呼ばれる塗布欠陥が発生する場合でも、製品とならない端部でしか発生せず、製品となる塗布膜の品質には何ら影響を与えない。
【0018】
次に図4を参照して、スロットダイ101の内部から外部にエアを排出する時に、塗布液122がスロットダイ101の内部に設けられた流路を流れる状況を説明する。エア排出時には、圧空配管133に圧縮空気を供給してパイロット圧力を付与してエアオペバルブ132を開にし、塗布液が排液配管131を通じて外部に流出するようにする。このようにエアオペバルブ132が設定され、リップ103に設けられた流路に塗布液が充満した状態で、図示しない塗布液供給装置から塗布液122を、供給口116から供給経路119を経てマニホールド106に供給する。供給された塗布液122は、塗布時と同様にマニホールド106内で長手方向両側に拡幅される塗布液122Aと、ベント口109からベント経路113へ流入する塗布液122Bとに分岐する。マニホールド106内で長手方向両側に拡幅される塗布液122Aは、さらにスリット107を通って吐出口108から吐出される塗布液122Eと、ベント口110、111からベント経路114、115へ流入する塗布液122Dに分岐する。さらにベント経路113に流入する塗布液122Bと、ベント経路114、115に流入する塗布液122Dは、合流部112において合流して、排出経路118を経て排出口117から排液配管131を流出して、スロットダイ101の外部へ排出される。以上のベント経路113に流入する塗布液122Bと、ベント経路114、115に流入する塗布液122Dにエアが含まれていれば、塗布液の流れと共にエアをスロットダイ101の外部に排出できることになる。またベント経路113、114、115の断面一杯に広がる大きなエアもベント経路113、114、115を流出する塗布液に押される形で、スロットダイ101の外部に排出される。なおスロットダイ101の外部に排出された塗布液は、排液配管131に接続される図示されない排液タンク等に回収される。
【実施例】
【0019】
次に図5を参照して、スロットダイ101の内部に蓄積された溜まりエア123をスロットダイ101の外部に排出する作用について詳細に説明する。
【0020】
スロットダイ101に塗布液122を充填して塗布を長時間行うと、マニホールド106の長手方向中央部にエアが徐々に蓄積されて溜まりエア123を形成する(図5(a)の状態)。この状態で一旦塗布を中断し、まず圧空配管133に圧縮空気を供給してパイロット圧を付与してエアオペバルブ132を開とし、塗布液およびエアが排液配管131を通じて外部に流出できる状態にする。
【0021】
つづいて図示しない塗布液供給装置を作動させて、塗布液122を供給口116から供給経路119を経てマニホールド106に流入させると、塗布液122はマニホールド106内で長手方向両側に拡幅される塗布液122Aと、ベント口109からベント経路113へ流入する塗布液122Bとに分岐する。この塗布液122の分岐にあわせて溜まりエア123も分離する。すなわち、溜まりエア123の一部は、マニホールド106内で長手方向両側に拡幅される塗布液122Aによって、長手方向に中央部から両端部に向かって押し流されて、ベント口110、111からベント経路114、115に流入するエア125、126になる。エア125、126が分離した後の溜まりエア123の残りの部分は、ベント経路113へ流入する塗布液122Bによって、ベント口109からベント経路113へ流入するエア124となる(図5(b)の状態)。
【0022】
さらに続けて塗布液122を供給口116から供給すると、マニホールド106内で長手方向両側に拡幅される塗布液122Aによって、エア125、126はベント経路114、115を合流部112に向かって移動する。これと並行して、ベント経路113へ流入する塗布液122Bによって、エア124はベント経路113を合流部112に向かって移動し、合流部112にてエア125、126と合流する(図5(c)の状態)。
【0023】
エア124、125、126は合流後に、供給口116から続けて供給される塗布液122によってさらに下流側に押し流され、排出経路118を経て排出口117から排液配管131を流出してスロットダイ101の外部へ排出される。すなわち、スロットダイ101の内部に蓄積された溜まりエア123が、スロットダイ101の外部に排出されたことになる。
【0024】
ここで、溜まりエア123がスロットダイ101の内部からスロットダイ101外部に排出するまでの排出時間を最短とするために、各ベント口にあるエアがほぼ同時に合流部で合流できるようにすることが好ましい。そのために、ベント経路でのベント口から合流部までの塗布液の流動時間が、どのベント経路を経由しても略同一となるようにベント経路ごとに塗布液の流速を定め、その流速が得られるようにベント経路の形状を定めるのが好ましい。具体的には、n個あるベント経路1、2、...、nのベント口から合流部までの長さをL1、L2、...、Ln、各ベント経路1、2、...、nでの塗布液の流速をV1、V2、...、Vnとすると、ベント経路でのベント口から合流点までの塗布液の流動時間をどのベント経路を経由しても同じ時間t0にすることから、t0=L1/V1=L2/V2=...=Ln/Vn、となる。各ベント経路1、2、...、nを粘度ηの塗布液が速度V1、V2、...、Vnで流動する時の圧力損失ΔP1、ΔP2、...、ΔPnは、ΔP1=η×V1×f1、ΔP2=η×V2×f2、...、ΔPn=η×Vn×fn、である。ここでf1、f2、...、fnは各ベント経路1、2、...、nの形状から定められる形状係数である。各ベント経路1、2、...、nは、ベント口から合流点までの区間で並列流路を形成しているので、各ベント経路1、2、...、nでの圧力損失ΔP1、ΔP2、...、ΔPnは等しくなることから、V1×f1=V2×f2=...=Vn×fnとなる。この等式を満たす形状係数f1、f2、...、fnが得られるように、各ベント経路1、2、...、nの形状、すなわち断面形状と長さを定めれば、各ベント口にあるエアがほぼ同時に合流部で合流することが可能となる。
【0025】
実用的には、ベント口とベント経路の個数が3であるスロットダイ101を例に挙げると、長手方向両端にあるベント経路114、115が対称形状であり、ベント口110、111から合流点112までの長さがより長いベント経路114、115の断面積を、ベント口109から合流点112までの長さがより短いベント経路113の断面積より30倍以上大きくすると、図5(c)に示すように、ベント口109、110、111から流出してきたエア124、125、126を、ほぼ同時に合流部112へ到達させることができるので、そのような形状にすることが好ましい。なおベント経路やベント口の断面形状は、上記の条件を満たす形状係数を有するものなら、三角形、四角形等の多角形、円形、半円形、等いかなる形状のものであってもよい。
【0026】
なお図5(a)の状態で、溜まりエア123が大きくてその一部がすでにベント口109からベント経路113に入り込んでいる場合は、塗布液122が供給口116から供給されると溜まりエア123が押され、ベント口109によって溜まりエア123の一部が切断されて小さな気泡となり、ベント経路113へ流入する塗布液122Bがなくても、浮力によりベント経路113内を上昇する。その上昇速度も、ベント経路の断面形状に依存するので、塗布液の流動によってエアが移動するのと同じようにして、ベント経路の断面形状、長さ等の形状を定めるのが好ましい。
【0027】
上記実施態様では、供給口116、排出口117、合流部112がスロットダイ101の長手方向中央に設けられ、ベント経路114とベント経路115が対称形に形成されているが、本発明はこれに限定されるものではない。すなわち、供給口116、排出口117、合流部112をスロットダイ101の長手方向中央以外に設けて、ベント経路114とベント経路115を非対称形に形成してもよい。
【0028】
また、ベント口109、110、111の位置も限定されないが、マニホールド106に溜まるエアを流出しやすくするために、塗布液がマニホールド106を拡幅する流れによってエアが集合しやすいマニホールド106の長手方向両端部や、エアの浮力によってエアが集合しやすいマニホールド106の重力方向最上部など、エアが溜まりやすい位置に設けることが好ましい。
【0029】
次に本発明に係る別の塗布器であるスロットダイ201を、図6を用いて説明する。図6は、スロットダイ201の内部に設けられた流路を示すリアリップ203の概略斜視図である。
【0030】
スロットダイ201は、リアリップ203以外はスロットダイ101と全く同じ構成である。図6を参照すると、リアリップ203には、重力方向の上部に連山状の稜線を持つ形状のマニホールド206が設けられている。マニホールド206の連山状の稜線には5個の頂部があり、それぞれの頂部にベント口209、210、211、212、213が設けられている。ベント口209、210、211には、それぞれベント経路216、217、218が連なって接続されている。ベント経路216、217、218は、それぞれの一端が合流部214で合流して一つの経路に集約され、合流部214でさらに排出口223に連なる排出経路225に接続されている。一方ベント口212、213にも、同様にベント経路219、220が連なって接続され、それらの一端が合流部215で合流して一つの経路に集約され、合流部215でさらに排出口224に連なる排出経路226に接続されている。排出口223、224にはそれぞれ個別に図示されていないエア排出用付帯部品が、スロットダイ101の時と同様に接続される。また塗布液227は供給口222から供給経路233を経て、マニホールド206に供給され、塗布時にはスリット207を経て吐出口208から吐出される。スロットダイ201のリアリップ203に形成される流路では、以上の構成により、マニホールド206に流入、または発生するエアは、浮力によってマニホールド206の連山状の稜線の各頂部に向かって上昇する。したがってマニホールド206の連山状の稜線の各頂部にはエアが蓄積され、エア228、229、230、231、232となる。この状態で塗布液を排出口223、224から流出できるようにエア排出用付帯部品を設定し、供給口222から塗布液227を供給すると、エア228、229、230はベント口209、210、211から排出口223に至る流路を流出してスロットダイ201外部に排出される。これと並行して、エア231、232もベント口212、213から排出口224に至る流路を流出してスロットダイ201の外部に排出される。以上のスロットダイ201内部に溜まったエアを、スロットダイ201の内部に設けられた2系統の流路で外部へ排出することは、供給口222から供給される塗布液227が分岐して、エア228、229、230、231、232を外部に向かって押し流すことで行われる。スロットダイ201は、合流部214、215を有する構成にすることで、5箇所のベント経路217、218、219、220、221から、2箇所の排出口223、224に少なくすることができる。これによって排出口223、224に接続するエア排出用付帯部品の数も2にすることができ、ベント口と同数の排出口を有する従来の装置構成と比べて、装置構成を大幅に簡素化でき、さらにエア排出用付帯部品の取付時間も大幅に短縮することができる。このように本発明に係る塗布器では、ベント口ないしはベント経路の個数よりも少ない個数の排出口を設けることによって、上記の格段の効果を発揮するものであり、この個数の条件を満たすなら設ける排出口の個数はいかなる値であってもよいが、より好ましくは設ける排出口の個数を1とする。
【0031】
ここで、スロットダイ201についてもスロットダイ101と同様に、ベント口209、210、211にあるエア228、229、230がほぼ同時に合流部214で合流できるようにするとともに、ベント口212、213にあるエア231、232がほぼ同時に合流部215で合流することが好ましい。
そのために、ベント経路でのベント口から合流点までの塗布液の流動時間が、どのベント経路を経由しても略同一となるようにベント経路ごとに塗布液の流速を定め、その流速が得られるようにベント経路の形状を定めるのが好ましい。
【0032】
なおベント経路219、220については、ベント口212、213から合流部215までの長さを同じにすると、ベント経路を同一の断面形状とすることでベント口231、232に溜まるエア212、213を同時に合流部215で合流させることができる。
【0033】
次に本発明に係るさらに別の塗布器であるスロットダイ301を、図7を用いて説明する。図7は、スロットダイ301を各構成部材に分解して示す概略斜視図である。スロットダイ301は、リアリップ303の外面(フロントリップ302と相対する面の逆側の面)に合流部材321を重ね合わせて連結ボルト305で締結し、この合流部材321とリアリップ303にまたがってベント経路313、314、315を設けるとともに、ベント経路313、314、315が合流する合流部312と、排出口317と、合流部312と排出口317を接続する排出経路318とを合流部材321に設け、合流部材321の出口となる排出口317にエア排出用付帯部品130を接続した他は、スロットダイ101と全く同じである。したがって、リアリップ303に設けた供給口316に塗布液を供給すれば、スロットダイ101の時と全く同じ作用にて、スロットダイ301の内部流路であるマニホールド306に溜まったエアを、ベント口309、310、311から排出口317に至る流路を流出させて、スロットダイ301の外部に排出することができる。さらに3個のベント経路に対して排出口を1個にできるので、ベント口と同数の排出口を有する従来の装置構成と比べて、装置構成を大幅に簡素化でき、さらにエア排出用付帯部品の取付時間も大幅に短縮することができる。このように、塗布液を供給する供給口のある部材とは別の部材に、エアを排出するためのベント経路や合流部以降の流路を設けるようにしても、その部材が塗布器を構成しかつ塗布器に含まれる部材であるなら、本発明の作用や効果は同じように発揮される。すなわちスロットダイ301のような構成をとっても、塗布器の内部にエアを排出する経路とその合流部を設けるという本発明の本質要素には変わりはない。
【0034】
以上の本発明の塗布器に適用できる塗布液としては、粘度が1〜1000mPaS、より望ましくは1〜100mPaSであり、ニュートニアンであることが塗布性から好ましいが、チキソ性を有する塗布液であってもよい。とりわけ溶剤に揮発性の高いものや溶存しているエアが発泡しやすいもの、たとえばPGMEA、酢酸ブチル、乳酸エチル等を使用している塗布液を塗布するときに有効である。具体的に適用できる塗布液の例としては、カラーフィルター用のブラックマトリックス、RGB色画素形成用塗布液の他、レジスト液、オーバーコート材、柱形成材料、TFTアレイ基板用のポジレジスト等がある。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明は、例えばカラー液晶ディスプレイ用カラーフィルター並びにアレイ基板、プラズマディスプレイ用パネル、光学フィルタなどの製造分野に利用可能である。
【符号の説明】
【0036】
101 スロットダイ(塗布器)
102 フロントリップ
103 リアリップ
104 シム
105 連結ボルト
106 マニホールド
107 スリット
108 吐出口
109、110、111 ベント口
112 合流部
113、114、115 ベント経路
116 供給口
117 排出口
118 排出経路
119 供給経路
122 塗布液
122A マニホールド106内で長手方向両側に拡幅される塗布液
122B ベント経路113へ流入する塗布液
122C マニホールド106に再流入する塗布液
122D ベント経路114、115へ流入する塗布液
122E 吐出口108から吐出される塗布液
123 溜まりエア
124、125、126 エア
130 エア排出用付帯部品
131 排液配管
132 エアオペバルブ
133 圧空配管
201 スロットダイ(別の塗布器)
203 リアリップ
206 マニホールド
207 スリット
208 吐出口
209、210、211、212、213 ベント口
214、215 合流部
216、217、218、219、220 ベント経路
222 供給口
223、224 排出口
225、226 排出経路
227 塗布液
228、229、230、231、232 エア
233 供給経路
301 塗布器(さらに別の塗布器)
302 フロントリップ
303 リアリップ
305 連結ボルト
306 マニホールド
309、310、311 ベント口
312 合流部
313、314、315 ベント経路
316 供給口
317 排出口
318 排出経路
321 合流部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塗布液が供給される供給口、供給口から供給された塗布液を長手方向に拡幅するためのマニホールド、塗布液を吐出するために長手方向に延在する吐出口、マニホールドと吐出口を連通するスリット、を備える塗布器であって、さらに前記マニホールドに存在する塗布液およびエアをマニホールドから流出させるための複数のベント口とそれに連なるベント経路、該ベント口から流出する塗布液およびエアを塗布器の外部に排出するための排出口を備えるとともに、該排出口が前記ベント口の個数よりも少ない個数で設けられていることを特徴とする塗布器。
【請求項2】
さらに、複数の前記ベント経路が合流する合流部と、合流部と前記排出口を接続する排出経路と、を含むことを特徴とする請求項1に記載の塗布器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−183463(P2012−183463A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−47403(P2011−47403)
【出願日】平成23年3月4日(2011.3.4)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】