説明

塗布装置

【課題】ヘッドの吐出口においてインクのメニスカスの形状を安定させることができる塗布装置を提供する。
【解決手段】ヘッド7と共にサブタンク8を塗布方向に移動させる第一駆動機構3aと、ヘッド7及びサブタンク8を塗布方向に直交する直交方向に移動させる第二駆動機構3cと、これら駆動機構3a,3cの動作を制御する制御装置5とを備えている。制御装置5の記憶部19は、サブタンク8が直交方向に移動する際に生じるサブタンク本体部26内の塗布液の圧力変化を抑えるように、サブタンク8を挙動させて直交方向に移動させる動作プログラムを記憶している。制御装置5の動作制御部20は、動作プログラムに従ってサブタンク8を直交方向に移動させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばカラー液晶ディスプレイ用のカラーフィルタを製造するために用いられる塗布装置に関する。
【背景技術】
【0002】
カラー液晶ディスプレイには、色形成の中核を成す部材としてカラーフィルタが用いられている。このカラーフィルタは、ガラス基板上に微細なR(赤色)、G(緑色)、B(青色)の3色が多数並べられて形成されている。
近年、このカラーフィルタを効率よく製造する装置として、ガラス基板上に形成された多数の画素部に、R、G、Bの各インク(塗布液)をインクジェットヘッドから供給して、R、G、Bの色画素を形成する塗布装置(インクジェット装置)が提案されている。
【0003】
この塗布装置は、(図1を参考に説明すると)機台1、ガラス基板Wを吸着する吸着テーブル2、インクジェットヘッド7を有している塗布液供給部、及び、インクジェットヘッド7を移動させる塗布ガントリ3等を備えている。
例えば特許文献1に示している前記塗布液供給部は、インクを収容しているメインタンクと、インクをガラス基板に対して吐出する前記インクジェットヘッド(以下、ヘッドという)と、メインタンクから供給されたインクをヘッドに供給するためのサブタンクとを有している。
【0004】
前記サブタンクは、1枚乃至数枚のガラス基板にインクを塗布するだけの容量を有していて、特許文献1に記載のサブタンクは、インクを溜めている本体部分として、チューブ状の弾性体を有している。そして、(図1を参考に説明すると)サブタンク8は、ヘッド7よりも高い位置として塗布ガントリ3に搭載されている。そして、サブタンク8内のインクは、自重によってヘッド7側へ流れるのを防止するため、サブタンク8内のインクが大気圧よりも低圧に維持されている。
また、ヘッド7は、当該ヘッド7の内外を貫通させた微細な孔からなる多数の吐出口(ノズル)を有していて、各吐出口には、対のピエゾ素子が相互離れて配置されている。この塗布装置(インクジェット装置)は、電圧を加えて各吐出口のピエゾ素子を接近させるように変形させることで、ヘッド内のインクを外へと押し出すようにして吐出させるピエゾ式となっている。
【0005】
そして、吸着テーブル2上のガラス基板Wにインクを塗布する作業は、サブタンク8から供給されたインクをヘッド7から吐出させながら、塗布ガントリ3をX方向に移動させて行う。なお、塗布ガントリ3には複数のヘッド7が搭載されているが、これらヘッド7の位置は(複数の)基板Wの全面に対応していない。このため、塗布ガントリ3を一度X方向に移動させて塗布作業を終えた後、ヘッド7及びサブタンク8をY方向に変位させ、再び塗布ガントリ3をX方向に移動させて塗布作業を行う必要がある。
そして、X方向の移動の際、インクを吐出させるヘッド7の吐出口の選択、及び、吐出口からインクを吐出させるタイミングは、吐出口毎に設けられた前記ピエゾ素子に電圧を加えるか否かによって制御される。なお、Y方向の変位の際、吐出口からインクを吐出させていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−229534号公報(特許請求の範囲、図1参照)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
サブタンク8は、チューブ状の弾性体とこのチューブ状の弾性体を収容する収容室を有しており、収容室内を大気圧よりも低圧にすることにより、チューブ状の弾性体内のインクを低圧に維持している。具体的には、収容室はポンプと連通されており、ポンプを駆動させることにより収容室内の空気が吸引されて低圧に維持される。これにより、サブタンク内(チューブ状の弾性体内)、及び、サブタンクと配管を介して繋がっているヘッド内のインクの圧力を下げ、吐出口においてインクにメニスカスを形成した状態(例えば図3(a)参照)を維持してインクの漏れを防いでいる。
【0008】
前記のとおり、基板Wにインクを塗布する作業には、ヘッド7及びサブタンク8をX方向に移動させる塗布動作の他に、Y方向に変位させる動作が含まれている。この動作は、基板Wに対してインクを塗布する実質的な作業ではなく、基板Wの全面にインクを塗布するためにヘッド7及びサブタンク8をY方向に変位させるための準備動作である。したがって、塗布作業を効率化させるためには、この準備動作を迅速に行うのが好ましい。
しかし、ヘッド7及びサブタンク8をY方向に速い速度で移動させると、サブタンク8内のインクは、チューブ状の弾性体と共にY方向に揺れ動き、これによりサブタンク8内に動圧が発生し、当該サブタンク8から延びる配管を介して、当該動圧がヘッド7内のインクの圧力(内圧)に影響を及ぼすことがある。
この結果、吐出口におけるインクのメニスカスの形状に影響を与えるおそれがある。つまり、ヘッド内のインクの圧力が大気圧に近づくように変動するとインク漏れが生じ(図3(b))、ヘッド内のインクの圧力が負圧側に大きくなるように変動すると空気を吸い込んでしまう(図3(c))ことも考えられる。
【0009】
そこで本発明は、準備動作のためにタンク(サブタンク)を移動させても、ヘッドの吐出口において塗布液(インク)のメニスカスの形状を安定させることができる塗布装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の塗布装置は、塗布液を吐出する吐出口を有するヘッドと、塗布液を溜めることができると共に当該塗布液を前記ヘッドに供給するタンクと、前記塗布液を前記吐出口から吐出している状態で前記ヘッドと共に前記タンクを所定の塗布方向に移動させる第一駆動機構と、前記ヘッド及び前記タンクを前記塗布方向に直交する直交方向に移動させる第二駆動機構と、前記第一駆動機構及び前記第二駆動機構の動作を制御する制御装置とを備え、前記タンクは、柔軟性を備えた隔壁膜をタンク壁の少なくとも一部として有しかつ前記塗布液を充満させた状態で収容するタンク本体部を有し、前記制御装置は、前記タンクが前記直交方向に移動する際に生じる前記タンク本体部内の塗布液の圧力変化を抑えるように前記タンクを挙動させて当該直交方向に移動させる動作プログラムを記憶している記憶部と、前記動作プログラムに従って前記タンクを前記直交方向に移動させる動作制御部とを有していることを特徴とする。
【0011】
本発明によれば、ヘッド及びタンクが直交方向に移動することでタンク本体部内の塗布液に動圧が作用し圧力変化が生じようとしても、記憶部に記憶させた前記動作プログラムに従って動作制御部がタンクを直交方向に移動させることで、前記圧力変化を抑えることができるので、このタンクの直交方向への移動が、ヘッドにおける塗布液のメニスカスの形成に影響を与えにくく、当該メニスカスの形状を安定させることが可能となる。
【0012】
また、前記動作プログラムを、前記圧力変化と逆位相の圧力変化が前記タンク本体部内の塗布液に生じるように、前記タンクを挙動させるべく設定することで、タンクが直交方向に移動する際に生じるタンク本体部内の塗布液の圧力変化を抑えることができる。
【0013】
また、前記隔壁膜は、一方向に長く当該一方向に直交する他方向に短い偏平形状に形成され、前記隔壁膜の前記一方向と前記塗布方向とが平行となるように、前記タンクは配置されているのが好ましい。
【0014】
この場合、隔壁膜は、一方向に長く他方向に短い偏平形状に形成されているので、この隔壁膜を有するタンク本体部に塗布液を充満させた状態で、前記隔壁膜は、一方向の方が他方向よりも変形し難くなる。このため、塗布方向と隔壁膜の一方向とが平行となるようにタンクが配置されていることから、タンクを塗布方向に移動させても、隔壁膜及びその内部に満たされている塗布液は、他方向に比べると、一方向に変形及び移動し難い。これにより、タンク内の塗布液には一方向の動圧が作用し難くなる。したがって、タンクを塗布方向に移動させて塗布作業を行っても、この移動による動圧が、ヘッド内の塗布液に影響を与えにくく、ヘッドの吐出口において、塗布液のメニスカスの形状を安定させることができる。
そして、タンクを直交方向に移動させる場合では、前記のとおり、記憶部に記憶させた前記動作プログラムに従って動作制御部がタンクを移動させることで、塗布液のメニスカスの形状を安定させることが可能となる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、ヘッドの吐出口において、塗布液のメニスカスの形状を安定させることができるので、ヘッド及びタンクを速く移動させることが可能となり、塗布作業を効率化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】塗布装置の斜視図である。
【図2】塗布装置の概略構成を示しているブロック図である。
【図3】ヘッドの吐出口を説明する断面図である。
【図4】本発明の塗布装置が備えている塗布液供給部の概略を示している構成図である。
【図5】塗布ガントリの要部の概略を説明する平面図である。
【図6】サブタンクの断面図であり、(a)は図1のY方向に見た図であり、(b)はX方向に見た図である。
【図7】動作プログラムを説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1は本発明の塗布装置の実施の一形態を示す斜視図である。図2は塗布装置の概略構成を示しているブロック図である。
この塗布装置は、例えばカラー液晶ディスプレイに用いられるカラーフィルタを製造するための装置であり、機台1、当該機台1上に設けられた吸着テーブル2及び塗布ガントリ3等を備えている。
【0018】
吸着テーブル2は、平板状の基板(ガラス基板)Wを吸着保持することができ、さらに、基板Wを位置決めするために、図示しない駆動機構及びガイド機構によって、Z方向の軸周りに回転駆動される。
なお、前記Z方向は鉛直方向であり、図1におけるX方向及びY方向は、水平面上の方向であり、X方向、Y方向及びZ方向は相互に直交する。そして、吸着テーブル2により吸着保持された基板Wの上面は、X方向及びY方向を含む平面と平行となる。
【0019】
塗布ガントリ3は、複数個のインクジェットヘッド7(以下、ヘッド7という)を整列させて有しているインクジェットヘッドバー4を搭載している。また、この塗布ガントリ3には後述するサブタンク8も搭載されている。塗布ガントリ3は、吸着テーブル2上の基板Wを跨ぐ形状であり、当該基板Wの上方にヘッド7は位置することができる。
そして、ヘッド7から吐出させたインク(塗布液)を基板Wに塗布するために、塗布ガントリ3は、第一駆動機構3a及び第一ガイド機構3bによって、X方向に移動することができる。つまり、インクを吐出口11から吐出している状態で、第一駆動機構3aは、ヘッド7と共にサブタンク8をX方向に移動させ、塗布作業が行われる。前記X方向を「塗布方向」と呼び、この塗布方向に直交する水平面上の方向である前記Y方向を「直交方向」と呼ぶ。
【0020】
基板Wの全面にインクを塗布するためには、ヘッド7及びサブタンク8を塗布方向へ移動開始させる位置を直交方向に間欠的に変更しつつ、塗布ガントリ3を塗布方向に複数回移動させて行う必要がある。そこで、基板Wに対して、ヘッド7及びサブタンク8を直交方向に変位させるために、第二駆動機構3c及び第二ガイド機構3dが設けられていて、塗布ガントリ3が塗布方向に移動し終わった毎に、第二駆動機構3cは、ヘッド7及びサブタンク8を直交方向に所定ピッチΔeずつ移動させる。なお、ヘッド7及びサブタンク8を直交方向に変位させる際、インクの吐出を停止している。また、前記所定ピッチΔeは一定の値である。
【0021】
第一駆動機構3a及び第二駆動機構3cの動作制御は、塗布装置が備えている制御装置5が実行する。また、第二の駆動機構3cは、ヘッド7をZ方向に移動させることもできる。
第一駆動機構3aは、塗布ガントリ3を塗布方向(X方向)に直線移動させるアクチュエータからなり、第二駆動機構3cは、塗布ガントリ3上においてヘッド7及びサブタンク8を直交方向(Y方向)に直線移動させるアクチュエータからなり、第一駆動機構3a及び第二駆動機構3cは、例えばリニアモータを有する構成とすることができる。
制御装置5は、記憶部19を有するコンピュータ等からなり、この記憶部19には各機能を実行するためのプログラムが記憶されていて、当該プログラムによって実行される機能部として、動作制御部20を有している。この動作制御部20の機能については、後に説明する。
【0022】
図3は、ヘッド7の吐出口を説明する断面図である。各ヘッド7は、複数個の微細な吐出口11(インクジェットノズル)を整列させて有している。各吐出口11は、ヘッド7の下壁を内外貫通する孔からなる。各吐出口7には、相互が離れて配置され電圧を加えることで相互が接近するように変形するピエゾ素子(図示せず)が設けられ、当該ピエゾ素子を相互接近させるように変形させることで、ヘッド7内のインク10を吐出口11から押し出すようにして外へと吐出させる。なお、ピエゾ素子の動作制御は、前記制御装置5が行う。
【0023】
図4は、塗布装置が備えている塗布液供給部6の概略を示している構成図である。塗布液供給部6は、インクを吐出する前記ヘッド7の他に、R(赤色)、G(緑色)、B(青色)各色のインクが分かれて充填されているメインタンク9と、メインタンク9からインクが供給されると共に供給されたインクをヘッド7に供給するために、一旦インクを溜めているサブタンク8とを備えている。
メインタンク9とサブタンク8とは、配管21によって接続されていて、この配管21には開閉バルブ21aが設けられている。サブタンク8とヘッド7とは、配管22によって接続されている。配管22は分岐部23a〜23eを有していて、一つのサブタンク8に対して複数のヘッド7が接続されている。
サブタンク8は、1枚乃至数枚の基板10にインクを塗布するだけの容量を有していて、サブタンク8内のインクが所定量を下回ると、バルブ21aが開き、メインタンク9からインク10がサブタンク8へと補充される。
【0024】
図5は塗布ガントリ3の要部の概略を説明するための平面図である。サブタンク8は、RGB用でそれぞれ設けられていて、これらサブタンク8は塗布ガントリ3上で直交方向に一体として移動可能に設けられている。したがって、前記第一駆動機構3aによって塗布ガントリ3が塗布方向へ移動すると、サブタンク8もヘッド7と共に同方向へ移動する。また、前記第二駆動機構3cによってヘッド7と共にサブタンク8が、直交方向へ移動する。
【0025】
サブタンク8を塗布ガントリ3に搭載することにより、サブタンク8を塗布ガントリ3と並行して移動させるための別の駆動装置が不要となり、また、サブタンク8からヘッド7までの配管22は短くて済む。なお、図1において、メインタンク9は、機台1と別体として設置されていて、配管21は可撓性を有し塗布ガントリ3の移動に追従することができる。
また、図4に示しているように、サブタンク8の出口部18は、ヘッド7の吐出口11よりも高い位置(高さの差ΔH)に配置されている。このため、吐出口11の前記ピエゾ素子によってインクの吐出の可否が制御されてはいるが、サブタンク8内のインクは自重によってヘッド7側へと流れることができる。
【0026】
図6はサブタンク8の断面図であり、(a)は図1のY方向に見た図であり、(b)はX方向に見た図である。サブタンク8は、インク10を充満させた状態(密閉した状態)で収容する上部のサブタンク本体部26と、下部のケーシング27とを有している。ケーシング27は金属製等の剛性を有している材質及び構成からなる。サブタンク本体部26は、柔軟性を備えた隔壁膜28を有していて、この隔壁膜28はサブタンク本体部26のタンク壁(底壁)の一部となる。隔壁膜28は、自由に変形が可能な薄膜からなり、例えばPET、テフロン(登録商標)、ポリエチレン等の樹脂製とすることができる。
【0027】
図6の実施形態では、サブタンク本体部26は、ケーシング27と同様に剛性を有している基板29を有していて、この基板29の一面(下面)側(の一部)を覆うようにして隔壁膜28が当該基板29に取り付けられている。そして、基板29の一面と隔壁膜28との間に形成される領域(溜め部)S1に、インク10が充満した状態となって、タンク本体26はインク10を収容している。この領域S1のX方向の一端部(図6(a)の右側端)がサブタンク8の上流側端であり、メインタンク9から供給されたインク10が流入する入口部19となる。また、領域S1のX方向の他端部(図6(a)の左側端)がサブタンク8の下流端であり、サブタンク8からヘッド7へとインク10が流出する出口部18となる。
そして、隔壁膜28とケーシング27の内面との間に密閉空間(減圧室)S2が形成されていて、この密閉空間S2に、吸引用の配管24の一方側端部が接続されている。
【0028】
図4に示しているように、前記吸引用の配管24の他方側には、密閉空間S2の圧力を調整する調整機構12が接続されている。この調整機構12の構成及び機能は、後に説明する。
前記のとおり、ヘッド7からインクを吐出させる吐出口11の選択は、ピエゾ素子(図示せず)を用いて制御されているが、サブタンク8内のインクは自重によってヘッド7側へと流れることができるため、インクを吐出させない吐出口11ではインクが勝手に漏れ出ないように、ヘッド7内のインクは大気圧に対して負圧に保たれている。このために、前記密閉空間S2の空気を配管24から吸引する(負圧とする)ことにより、密閉空間S2が狭くなる方向に前記隔壁膜28を引き、サブタンク8(領域S1)内のインクの圧力を低下させる。これにより、配管22を通じて、ヘッド7内のインクの圧力を大気圧に対して負圧としている。
【0029】
具体例を説明すると、図3(a)において、例えば、ヘッド7内のインク10の圧力Pを、大気圧に対して−2〜−3Kpa程度とする(0Kpa(大気圧)>P>−2〜−3Kpa)。これにより、吐出口11の直上流側でインク10に凹形状のメニスカスが形成され、吐出口11からインクが勝手に漏れ出ることを防止することができる。なお、ヘッド7内のインク10の圧力Pが正であると(P>0)、図3(b)に示しているように、インク10の漏れが発生し、また、圧力Pが所定の値よりも小さくなると(−2〜−3Kpaよりも小さくなると)、図3(c)に示しているように、空気がヘッド7内に引き込まれ、インク10に気泡aが混入してしまう。
したがって、ヘッド7内のインク10の圧力Pを所定の負の値に設定することで、図3(a)に示しているように、吐出口11に適切なメニスカスが形成される。
【0030】
このように、吐出口11にメニスカスを形成するために、前記調整機構12を機能させる。この調整機構12の構成及び機能を図4により説明する。
調整機構12は、サブタンク8内(領域S1)のインクを減圧させるために、密閉空間S2の空気を配管24を通じて吸引する吸引ポンプ13と、調整弁14とを備えている。また、配管24には、圧力計15が設けられていて、密閉空間S2(密閉空間S2に繋がる配管24)内の圧力を検出している。調整弁14は、この圧力計15の検出結果に応じて、密閉空間S2内の圧力を制御する機能を有している。なお、調整弁14を電空レギュレータとするのが好ましく、この場合、電空レギュレータが前記圧力計15の機能を有していてもよい。この調整機構12により、密閉空間S2の圧力を所定の値(一定値)に維持する制御を行う。
この調整機構12により密閉空間S2の圧力を制御することで、隔壁膜28を介してサブタンク8内のインクの圧力を調整(減圧)し、サブタンク8と配管22を介して繋がっているヘッド7内においてインクの圧力Pを所定の値(負圧)とし、メニスカスを維持している。
【0031】
しかし、このように、ヘッド7内においてインクのメニスカスを維持しようとしているが、適切な形状で維持されない場合が生じる。
すなわち、図5において、塗布ガントリ3において、ヘッド7及びサブタンク8を前記第二駆動機構3cによって直交方向に変位させた際、当該サブタンク8内のインクが移動して動圧が作用し、この動圧が、配管22を通じて、ヘッド7内のインクの内圧に影響を与え、メニスカスの形状を変化させるおそれがある。
【0032】
そこで本発明の塗布装置が備えている前記制御装置5では、記憶部19に、前記のとおりサブタンク8を直交方向に変位させる際に当該サブタンク8に所定の動作をさせる動作プログラムが記憶されている。そして、動作制御部20が、この動作プログラムに従ってサブタンク8を第二駆動機構3cによって直交方向に移動させる。
前記動作プログラムは、後に詳しく説明するが、第二駆動機構3cによってサブタンク8を直交方向に前記所定ピッチΔeずつ移動させる際に生じるサブタンク本体部26内のインク10の圧力変化(圧力変化の波形)を予め測定しておき、実際に第二駆動機構3cによってサブタンク8を直交方向に前記所定ピッチΔeずつ移動させる際に、測定した前記圧力変化(圧力変化の波形)を抑える(打ち消す)ように、サブタンク8を挙動させて直交方向に移動させるように設定されている。
【0033】
以上のように構成された塗布装置によって基板Wにインクを塗布する塗布作業について説明する。まず、塗布作業の全体について説明する。
ヘッド7の吐出口11からインクを吐出している状態で、第一駆動機構3aによって塗布ガントリ3を塗布方向に移動させることにより、第一の初期位置にあるヘッド7を、サブタンク8と共に塗布方向(X方向)に一度前進させる(この動作を塗布動作という)。そして、第一駆動機構3aによって塗布ガントリ3を塗布方向の反対方向に後退させ、ヘッド7を第一の初期位置へ戻す(この動作を戻り動作という)。
この後、第二駆動機構3cによって、ヘッド7及びサブタンク8を直交方向に所定ピッチΔe前進させる(この動作を準備動作という)。これにより、ヘッド7は、第一の初期位置から直交方向に前記所定ピッチΔeだけ変位させた第二の初期位置に、位置させた状態となる。
【0034】
そして、吐出口11からインクを吐出している状態で、第一駆動機構3aによって塗布ガントリ3を塗布方向に移動させることにより、第二の初期位置にある前記ヘッド7を、サブタンク8と共に塗布方向に移動させ(2回目の塗布動作)、ヘッド7を第二の初期位置へ戻す(2回目の戻り動作)。
この後、第二駆動機構3cによって、再び、ヘッド7及びサブタンク8を直交方向に所定ピッチΔe前進させる(2回目の準備動作)。
以後、吸着テーブル2上の基板Wにインクの塗布を全て終えるまで、塗布動作、戻り動作及び準備動作が繰り返して行われる。
【0035】
そして、本発明では、実際の塗布作業を開始する前に、前記準備動作のための動作プログラムを生成し、当該動作プログラムを記憶部19に記憶させる。
このために、図示しないが、第二駆動機構3cによってヘッド7及びサブタンク8を直交方向に前記所定ピッチΔe前進させ、この時のサブタンク本体部26内のインクの圧力変化を測定する。この圧力変化の測定は、サブタンク本体部26に圧力センサ(図示せず)を取り付けることで行うことができる。なお、前記圧力変化は、サブタンク本体部26内のインクに直交方向の動圧が生じることで、発生する。
【0036】
具体例を説明すると、図7(a)に示しているように、サブタンク8が所定の加速度aで加速して直交方向に前進開始すると、その後、サブタンク8が等速で移動しても、サブタンク本体部26内のインクには、図7(b)に示しているように、減衰振動を伴う圧力変化ΔPaが発生する。また、図7(a)に示しているように、サブタンク8が所定ピッチΔe前進し終える際、負の加速度−aが生じ、サブタンク本体部26内のインクには、図7(b)に示しているように、減衰振動を伴う圧力変化ΔPbが発生する。なお、負の加速度とは、サブタンク8が変位していく方向と反対の方向の成分を有する加速度である。
このような、圧力変化ΔPa,ΔPbを、サブタンク本体部26に取り付けた圧力センサ(図示せず)によって測定する。これにより、圧力変化ΔPa,ΔPbの周期、振幅及びこれらの時間変化を求めることができる。
【0037】
そして、求められた圧力変化ΔPa,ΔPb(周期、振幅及びこれらの時間変化)と逆位相の圧力変化がタンク本体部26内のインクに生じるように、サブタンク8を挙動させる動作プログラムを生成する。そして、この動作プログラムを記憶部19に記憶させる。なお、図7(c)は、サブタンク8内に前記逆位相の圧力変化を生じさせるために、サブタンク8に与える加速度を示す説明図である。
【0038】
生成された動作プログラムによって、前記圧力変化ΔPa,ΔPbを抑えるようにサブタンク8を挙動させて直交方向に変位させる動作の具体例としては、図7(b)(c)に示しているように、求められた圧力変化ΔPaの内の、当該圧力変化ΔPaの開始t0からピークが二回目に発生する半波長部分V1に対応して、所定の大きさの加速度Rをサブタンク8(インク)に与える動作である。すなわち、圧力変化ΔPaの内の、ピークが二回目に発生する半波長の波形(V1)が生じるタイミング、つまり、圧力変化ΔPaの開始から1/2周期の時点t1で、当該半波長の波形(V1)を打ち消す大きさを有する加速度Rをサブタンク8(インク)に与える。
このように、サブタンク8を直交方向に変位させる際に、所定の大きさの加速度Rを所定のタイミングt1で一度のみ与えることで、前記半波長の波形(V1)と逆位相の波形が得られるので、図7(d)に示しているように、サブタンク8内のインクの圧力を迅速に安定させることができる。
【0039】
この動作プログラムによる作用を更に説明すると、圧力変化ΔPaの開始から1/2周期の時点t1で、所定の大きさの加速度Rをサブタンク8(インク)に与えることで、加速度aにより形成される波形と逆位相の波形が生じさせることができるので、これら波が打ち消し合い、図7(d)に示しているように、サブタンク8の圧力を迅速に安定させることができる。
このような前記加速度Rを生じさせる動作プログラムに従って、サブタンク8を直交方向に所定ピッチΔe移動させる。
【0040】
また、これと同様に、サブタンク8を直交方向に変位させることで、図7(b)に示しているように、減衰振動を伴う圧力変化ΔPbが発生する場合においても、当該圧力変化ΔPbの開始t2から1/2周期の時点t3で、所定の大きさの加速度−Rをサブタンク8(インク)に与えることで、加速度−aにより形成される波形と逆位相の波形が生じさせることができるので、これら波が打ち消し合い、図7(d)に示しているように、サブタンク8の圧力を迅速に安定させることができる。
【0041】
また、他の形態の動作プログラムとしては、例えば、サブタンク8の移動開始後に負の加速度が当該サブタンク8(インク)に生じるような挙動を含めて、サブタンク8を直交方向に移動開始させる動作、また、移動完了前に正の加速度が当該サブタンク8(インク)に生じるような挙動を含めて、サブタンク8を直交方向に移動完了させる動作とすることもできる。又は、サブタンク8の移動開始後に負の加速度と正の加速度とが交互に当該サブタンク8(インク)に生じるような挙動を含めて、サブタンク8を直交方向に移動開始させる動作があり、また、移動完了前に正の加速度と負の加速度が交互に当該サブタンク8(インク)に生じるような挙動を含めて、サブタンク8を直交方向に移動完了させる動作とすることもできる。
このような挙動を含んだ動作プログラムに従って、サブタンク8を直交方向に所定ピッチΔe移動させる。
【0042】
そして、前記塗布作業のうちの、前記準備動作の際に、記憶部19に記憶させた動作プログラムに従って動作制御部20が、第二駆動機構3cによって、ヘッド7及びサブタンク8を直交方向に移動させる。これにより、図7(d)に示しているように、サブタンク本体部26内のインクに生じる実際に圧力変化ΔP1は、解消され、大幅に低減される(図7(d)参照)。
【0043】
以上のように、この実施形態によれば、ヘッド7及びサブタンク8が直交方向に変位することでタンク本体部26内のインク10に動圧が作用することで、圧力変化ΔPa,ΔPbが生じようとしても、記憶部19に記憶させた前記動作プログラムに従って動作制御部20がサブタンク8を直交方向に変位させることで、前記圧力変化ΔPa,ΔPbの発生を抑えることができる。このため、サブタンク8が直交方向に変位しても、その影響を、当該サブタンク8と配管22を通じて繋がっているヘッド7におけるインクのメニスカスの形成に、与えにくく、メニスカスの形状を安定させた状態に維持することが可能となる。
【0044】
また、前記実施形態によれば、図6に示しているように、サブタンク8のサブタンク本体部26は、インク10を充満させた状態で収容していて、このサブタンク本体部26が有している柔軟性のある前記隔壁膜28は、塗布方向(X方向)に長く、この塗布方向に直交する直交方向(Y方向)に短い偏平形状に形成されている。
【0045】
つまり、サブタンク本体部26の前記領域S1は、塗布方向に長く、直交方向に短い偏平形状となっていて、この領域S1の直交方向の寸法は、塗布方向の寸法よりも小さい。具体的に説明すると、領域S1は、平面視において塗布方向に長い長円形状を有していて(図5参照)、さらに、上下方向に薄い領域となっている(図6参照)。
このような偏平形状とすることで、サブタンク本体部26にインクを充満させた状態で、隔壁膜28は塗布方向の方が、その直交方向よりも変形し難くなる。
【0046】
そして、図1及び図5に示しているように、隔壁膜28(領域S1)の長手方向(塗布方向)と、前記塗布方向とが平行となるように、サブタンク8は配置されている。このため、塗布作業の際に、塗布ガントリ3が塗布方向に移動することで、サブタンク8が同方向に移動しても、前記のとおり、隔壁膜28及びその内部に満たされているインクは塗布方向(長手方向)に変形及び移動し難い。このため、サブタンク8内のインクには塗布方向の動圧が作用し難くなる。したがって、塗布ガントリ3の移動によって、サブタンク8を塗布方向に移動させて塗布作業を行っても、この塗布方向への移動によるインクの動圧が、配管22を通じて、ヘッド7内のインクに影響を与えにくく、ヘッド7の吐出口11において、メニスカスの形状を安定させることができる。
【0047】
そして、サブタンク8を直交方向に移動させる場合では、前記のとおり、記憶部19に記憶させた前記動作プログラムに従って動作制御部20が第二駆動機構3cによってサブタンク8を変位させることで、ヘッド7におけるインクのメニスカスの形状を安定させることが可能となる。
以上より、ヘッド7及びサブタンク8を、塗布方向及び直交方向に、速く移動させることが可能となり、塗布作業を効率化することができる。
【0048】
また、本発明の塗布装置は、図示する形態に限らず本発明の範囲内において他の形態のものであっても良い。例えばサブタンク8の構成は図示した形態に限らず変更可能である。
【符号の説明】
【0049】
3a 第一駆動機構
3c 第二駆動機構
5 制御装置
7 ヘッド(インクジェットヘッド)
8 サブタンク(タンク)
10 インク(塗布液)
11 吐出口
19 記憶部
20 動作制御部
26 サブタンク本体部(タンク本体部)
28 隔壁膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塗布液を吐出する吐出口を有するヘッドと、
塗布液を溜めることができると共に当該塗布液を前記ヘッドに供給するタンクと、
前記塗布液を前記吐出口から吐出している状態で前記ヘッドと共に前記タンクを所定の塗布方向に移動させる第一駆動機構と、
前記ヘッド及び前記タンクを前記塗布方向に直交する直交方向に移動させる第二駆動機構と、
前記第一駆動機構及び前記第二駆動機構の動作を制御する制御装置と、
を備え、
前記タンクは、柔軟性を備えた隔壁膜をタンク壁の少なくとも一部として有しかつ前記塗布液を充満させた状態で収容するタンク本体部を有し、
前記制御装置は、前記タンクが前記直交方向に移動する際に生じる前記タンク本体部内の塗布液の圧力変化を抑えるように前記タンクを挙動させて当該直交方向に移動させる動作プログラムを記憶している記憶部と、前記動作プログラムに従って前記タンクを前記直交方向に移動させる動作制御部と、を有していることを特徴とする塗布装置。
【請求項2】
前記動作プログラムは、前記圧力変化と逆位相の圧力変化が前記タンク本体部内の塗布液に生じるように、前記タンクを挙動させるべく設定されている請求項1に記載の塗布装置。
【請求項3】
前記隔壁膜は、一方向に長く当該一方向に直交する他方向に短い偏平形状に形成され、
前記隔壁膜の前記一方向と前記塗布方向とが平行となるように、前記タンクは配置されている請求項1又は2に記載の塗布装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−179226(P2010−179226A)
【公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−24019(P2009−24019)
【出願日】平成21年2月4日(2009.2.4)
【出願人】(000219314)東レエンジニアリング株式会社 (505)
【Fターム(参考)】