説明

塗布装置

【課題】待機中のノズル先端部での溶媒蒸発を抑えられる塗布装置を提供する。
【解決手段】塗布ノズルの先端のスリットが待機中に乾燥しないように、待機位置に配置された乾燥防止用のキャップでキャッピングすることができる塗布装置で、塗布ノズル1と乾燥防止用キャップ45で形成される空間の容積:Vを、スリット44の吐出口表面積Sに対してV≦3.5×S(3/2)に設定したことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は基板の表面に塗布液を均一に塗布するために用いられる塗布装置の中でも、水平方向に延びる帯状のスリットを有する塗布装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
高品位テレビジョン画像を大画面で表示するとともに低消費電力化を実現できるディスプレイ装置として、プラズマディスプレイパネル(以下、「PDP」と称す)を用いたディスプレイ装置への期待は高まっている。
【0003】
PDPは、前面板と背面板とを対向配置して周辺部を封着部材によって封着した構造であり、前面板と背面板との間に形成された放電空間にはネオンおよびキセノンなどの放電ガスが封入されている。前面板は、ガラス基板の一方の面に形成された走査電極と維持電極とから成る表示電極対と、これらの電極を覆う誘電体層および保護層とを備えている。背面板は、ガラス基板に上記表示電極対と直交する方向にストライプ状に形成された複数のアドレス電極と、これらのアドレス電極を覆う下地誘電体層と、放電空間をアドレス電極毎に区画する隔壁と、隔壁の側面および下地誘電体層上に形成された赤色・緑色・青色の蛍光体層とを備えている。
【0004】
表示電極対とアドレス電極とは直交していて、その交差部が放電セルになっている。これらの放電セルはマトリクス状に配列されており、表示電極対の方向に並ぶ赤色・緑色・青色の蛍光体層を有する3個の放電セルがカラー表示のための画素になる。このようなPDPでは、順次、走査電極とアドレス電極間、および走査電極と維持電極間に所定の電圧が印加されてガス放電を発生させている。そして、かかるガス放電によって生じる紫外線で蛍光体層を励起して可視光を発光させ、カラー画像を表示している。
【0005】
近年では、PDPの高精細化に伴って放電セルの微細化が進んでいる。放電セルのサイズが小さくなると、発光輝度が低下し、消費電力が増大するという問題が発生する。これは開口率の減少、画素数の増加に伴う1画素当りの発光時間の減少、発光効率の低下などに起因する。発光輝度を高める方法として、背面板の隔壁の幅を細くすることにより開口率の増加を図る方法があるが、それだけでは発光輝度が依然不足しており、更なる改善が必要である。
【0006】
発光輝度を高める他の方法として、前面板における誘電体の誘電率を下げて放電時の無効電力を低減し、発光効率を高める方法がある。現行のPDP製造方法では、前面板側の誘電体層の形成に際して、ガラス粉末と有機バインダと溶媒とを含むガラス材料を公知の方法を用いてガラス板上に塗布し、乾燥、脱バインダ、焼成の各工程を経て、平坦で透過度の高い誘電体層を形成している。しかしながら、現行の誘電体材料はガラス粉末を低温(500〜600℃)で溶融させるため、ガラスの融点を低下させる材料(一般的にはBiなど)を添加している。このような低融点ガラス材料は純度が低く、比誘電率が10以上と高い。また、他の物質(一般的にアルカリ金属など)を添加することで比誘電率を低下させることも可能であるものの、PDPの電極には銀などの高導電性金属が主成分として用いられているので、イオンマイグレーションによる銀の拡散およびコロイド化が促進され、誘電体に黄変現象が発生する。これはPDPの光学特性に対して悪影響を大きく及ぼす。
【0007】
一方、高純度の酸化物誘電体層を形成することで低誘電率化を実現できることが知られている。上記高純度の酸化物誘電体層を形成する方法としては、固体酸化物を真空下でスパッタリングして基板に堆積させる方法(スパッタリング蒸着法)や、原料をプラズマにより分解し、堆積させる方法(化学蒸着法)などがあるが、いずれも高価な真空設備を必要とし、成膜レートが毎分数百μm程度と小さい。必要とする膜厚は絶縁耐圧などの関係上、一般的には10μm以上は必要であり、生産性を高めながら誘電体層を形成するには設備台数が増えてしまうといった問題がある。
【0008】
これに対して、構造内にケイ素に結合された酸素原子または架橋が可能な有機単量体で架橋された網目構造を有する有機ケイ素化合物を含む物質を水とアルコール等の混合溶媒に分散もしくは溶解させ、加水分解、重縮合を経て誘電体層を形成するゾルゲル法がある。例えば、特許文献2を参照。この方法では液体状態から製造されるため、スピンコーティング法、ディップコーティング法、バーコーティング法といった比較的安易な塗布工程によって塗布液を塗布しその後の乾燥工程等を経て膜を形成することができる。PDPなどの大面積の基板に均一に、かつ、生産性を考慮して塗布するためには、塗布幅方向に延びる塗布ノズル口を有するダイコーティング法が有利である。
【0009】
しかしながら、上記ゾルゲル法は、蒸発等による溶媒量の減少等によって縮重合が進行することによる粘度等の塗布液の特性変化やゲル化が起こりやすく、塗布膜厚の均一性に影響を及ぼし、表示のムラなど商品、デバイスの品質を悪化させる可能性がある。そのために、上記塗布工程において溶媒蒸発防止の手段が必要となる。
【0010】
これに対処するために特許文献3には、図11に示すように乾燥防止用キャップ1を回動軸2の回りに自在に回動し、塗布液槽3を有したノズル4のノズル先端5を閉塞可能に配置し、ノズル先端5を乾燥防止用キャップ1で閉塞することにより乾燥を防止する技術が記載されている。
【0011】
また、ノズル先端に塗布液を付着させない方法として特許文献4には、図12に示すように塗布ヘッド15をキャッピングする乾燥防止用キャップ11の内側に溶剤溜まり部12を備えており、溶剤タンク13からポンプ14でこの溶剤溜まり部12に溶剤を送り込み、乾燥防止用キャップ11で塗布ヘッド15をキャッピングした状態の乾燥防止用キャップ11内の蒸気圧を上げて乾燥を防止する技術が記載されている。
【0012】
特許文献5のインクジェット記録装置には、図13に示すように休止状態中のインクジェット記録ヘッド21のノズルプレート22をキャッピングするために、インクジェット記録ヘッド21の側の弾性部材23に乾燥防止用キャップ24を押し付けて気密性を向上させる技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2002−053342号公報
【特許文献2】特開2005−108691号公報
【特許文献3】特開2000−140735号公報
【特許文献4】特開2000−042468号公報
【特許文献5】特開2003−001839号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかし、特許文献3では、ノズル先端5に塗布液が付着する可能性が高く、乾燥防止用キャップ1をノズル先端5から取り外した後、塗布開始までにノズル先端5を洗浄する工程を増やすことになる。
【0015】
特許文献4では、溶剤雰囲気または溶剤の供給機構と乾燥防止用キャップ11内の溶剤残量の管理手順が余分に必要となる。
特許文献5では、PDPのようなサイズの大きい基板に塗布するための塗布幅方向に長いノズルに対しては、密着性を高めるためにはノズルとキャップの相対的な位置や傾きのばらつきを考慮した対応が必要である。
【0016】
本発明は、ノズル先端部での塗布液中の溶媒蒸発を確実に抑えて塗布液の粘度変化を軽減し、溶剤雰囲気または溶剤の供給をする必要のない簡便な乾燥防止機構を備えた塗布装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明の請求項1記載の塗布装置は、塗布ノズルの先端のスリットが待機中に乾燥しないように、待機位置に配置された乾燥防止用キャップの上に前記塗布ノズルの先端を乗せてキャッピングするよう構成された塗付装置であって、前記塗布ノズルと前記乾燥防止用キャップで形成される空間の容積:Vを、前記スリットの吐出口表面積Sに対してV ≦ 3.5×S(3/2)に設定したことを特徴とする。
【0018】
本発明の請求項2記載の塗布装置は、請求項1において、前記乾燥防止用キャップの前記塗布ノズルの先端の外側面と接触する接触部を弾性体で形成したことを特徴とする。
本発明の請求項3記載の塗布装置は、請求項2において、前記乾燥防止用キャップは、前記塗布ノズルの幅方向に複数に分割され前記塗布ノズルの先端を覆う複数の剛体キャップと、隣接する前記剛体キャップの間を接続する弾性体とを有していることを特徴とする。
【0019】
本発明の請求項4記載の塗布装置は、請求項2において、前記塗布ノズルの先端の外側面が先端に向かって細く形成され、前記乾燥防止用キャップの開口を内側に向かって狭くなる傾斜面に形成して、ステージに設けられた前記乾燥防止用キャップに前記塗布ノズルの先端を押し付けることによって前記乾燥防止用キャップが前記塗布ノズルの先端に追従して前記ステージの面に沿って移動するように構成したことを特徴とする。
【0020】
本発明の請求項5記載の塗布装置は、請求項4において、前記ステージに対して前記乾燥防止用キャップを保持するハウジングを設け、前記乾燥防止用キャップと前記ハウジングの間に、小球とこの小球を押し出すバネを介装したことを特徴とする。
【0021】
本発明の請求項6記載の塗布装置は、請求項4において、前記ステージと前記乾燥防止用キャップの裏面の間に、摩擦抵抗が小さくなるようにボールベアリングを介装したことを特徴とする。
【0022】
本発明の請求項7記載の塗布装置は、請求項5において、前記ステージと前記乾燥防止用キャップの裏面の間に、摩擦抵抗が小さくなるように表面の摩擦係数が比較的小さい低摩擦部材を介装したことを特徴とする。
【0023】
本発明の請求項8記載の塗布装置は、請求項5において、前記ステージと前記乾燥防止用キャップの裏面の間に、摩擦抵抗が小さくなるように潤滑剤を介装したことを特徴とする。
【0024】
本発明の請求項9記載の塗布装置は、請求項5において、前記ステージから前記乾燥防止用キャップの裏面に向けて、摩擦抵抗が小さくなるように気体を送り込むよう構成したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0025】
この構成によれば、溶剤雰囲気または溶剤を供給する等の複雑な機構を用いることなく乾燥防止用キャップによるキャッピングのみで、塗布待機時における塗布液の粘度変化を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の実施の形態1における塗布装置の外観正面図と外観側面図とA−AA断面図およびB−BB断面図
【図2】同実施の形態における塗布装置の乾燥防止用キャップの構成断面図
【図3】PDPの誘電体膜厚の面内ばらつきに対する点灯電圧のばらつきを表した特性図
【図4】塗布液の粘度変化と密閉容器容積比の相関を求める実験の構成図と塗布液の粘度変化と密閉容器容積比の相関を表した特性図
【図5】本発明の実施の形態1における塗布時の塗布ノズル位置と、掻き取り時の塗布ノズル位置、および待機時の塗布ノズル位置を示す説明図
【図6】本発明の実施の形態1における乾燥防止用キャップの位置ずれ補正の説明図
【図7】本発明の実施の形態2における塗布装置の乾燥防止用キャップの断面図
【図8】本発明の実施の形態3における塗布装置の乾燥防止用キャップの断面図
【図9】本発明の実施の形態4における塗布装置の乾燥防止用キャップの断面図
【図10】本発明の実施の形態5における塗布装置の乾燥防止用キャップの斜視図と断面図
【図11】特許文献3に記載された塗布装置の構成図
【図12】特許文献4に記載された塗布装置の構成図
【図13】特許文献5に記載された塗布装置の構成図
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の塗布装置を各実施の形態に基づいて説明する。
(実施の形態1)
図1〜図6は本発明の実施の形態1を示す。
【0028】
図5は塗布装置を示している。
塗布装置は、塗布ノズル41と、塗布対象のガラス基板52を吸着保持するステージ48を有している。ステージ48の上には、塗布位置Aと待機位置Bおよび塗布位置Aと待機位置Bの間に洗浄位置Cが形成されている。
【0029】
塗布位置Aに吸着保持されたガラス基板52は、塗布ノズル41によって塗布液の塗布を受ける。待機しようとする塗布ノズル41の先端は、矢印ACで示すように塗布位置Aから先ず洗浄位置Cに移動して、洗浄位置Cにおいて掻き取りベラ53によって洗浄される。その後に、矢印CBで示すように塗布ノズル41が洗浄位置Cから待機位置Bに移動して、待機位置Bにおいて塗布ノズル41の先端を乾燥防止用キャップ45の上に乗せてキャッピングする。
【0030】
掻き取りベラ53は駆動装置(図示せず)によって紙面直角方向に移動できる機構になっている。塗布ノズル41と乾燥防止用キャップ45は図1,図2,図6に示すように構成されている。
【0031】
図1は待機位置Bにおける塗布ノズル41と乾燥防止用キャップ45を示している。
塗布ノズル41は、供給口42から図示しない塗布液タンク、供給ポンプ等で構成される供給システムに接続されている。塗布ノズル41の内部にはマニホールド43、スリット44が形成されている。乾燥防止用キャップ45は、塗布ノズル41の幅方向の長さよりも長く、塗布ノズル41と接触する部分(ノズル全周)に弾性体46が設置されている。
【0032】
図2は図1(c)の乾燥防止用キャップ45の詳細拡大図である。
乾燥防止用キャップ45はボールベアリング47を介してステージ48の上に設けられており、水平方向に移動可能に構成されている。また、乾燥防止用キャップ45は両側からハウジング49に囲われており、ハウジング49内にはバネ50に接続された小球51が乾燥防止用キャップ45の水平になっている上面に設置されて乾燥防止用キャップ45を左右位置で鉛直方向に押し付けている。
【0033】
図5に示す塗布ノズル41の動きとともに、乾燥防止用キャップ45の構造を図6に基づいて詳細に説明する。
塗布位置Aでは、紙面右側に塗布ノズル41が移動しながら供給口42に塗布液が供給され、マニホールド43内で幅方向に均圧化されてスリット44から紙面下方向に吐出されガラス基板52に塗布される。
【0034】
塗布が終了後または塗布終了と同時に障害物を避け安全に移動させるため、矢印ACに示すように塗布ノズル41を上昇させ、洗浄位置Cまで移動させ適切な位置にまで降下させることによって、掻き取りベラ53が塗布ノズル41の先端を洗浄する。このときロール洗浄機など他の手段を用いた洗浄機構でも構わない。
【0035】
掻き取り完了後、塗布が完了したガラス基板の搬出と新たなガラス基板の設置など次の塗布までの時間、矢印CBに示すように塗布ノズル41は一旦上昇して待機位置Bに移動し、図2に示すように乾燥防止用キャップ45に密着するまで降下する。次の塗布準備が完了すると塗布ノズル41は待機位置Bから上昇し塗布位置Aの塗布開始位置まで移動する。
【0036】
ここで、塗布ノズル41の先端の外側の形状が先端に近づくに伴って細くなる傾斜面41Cで形成されているため、乾燥防止用キャップ45の入口は、塗布ノズル41の傾斜面41Cに対応する辺の一部が、内側に向かって開口幅が狭くなる傾斜面45Cに形成されている。このように乾燥防止用キャップ45の入口に傾斜面45Cが形成されているため、塗布ノズル41を乾燥防止用キャップ45に向かって降下させて行ったときに、図6(a)に示すように塗布ノズル41の中心x1と乾燥防止用キャップ45の中心x2がずれていた場合でも、塗布ノズル41が乾燥防止用キャップ45に接することで乾燥防止用キャップ45に水平方向の力が働き、乾燥防止用キャップ裏面のボールベアリング47によって乾燥防止用キャップ45がズレを補正する方向(図6の場合は紙面に対して右方向)に移動する。
【0037】
そして図6(b)のように乾燥防止用キャップ45の中心x2が塗布ノズル41の中心x1と一致して、塗布ノズル外側傾斜面と乾燥防止用キャップの内側傾斜面が合致し、弾性体46によって密着する。
【0038】
さらに図6(c)に示すように、塗布ノズル41が上昇しても、ハウジング49に備えられた小球51がバネ50で乾燥防止用キャップ45に押し付けられ、その摩擦抵抗により乾燥防止用キャップ45は動かずその位置を保つことができる。
【0039】
この具体的な構成によると、塗布ノズル41の塗布、掻き取り、待機の位置制御はその繰り返しの中で誤差は極わずか(0.1mm以下)であり、再度塗布動作を完了し塗布ノズル41が待機位置に戻ってきた際、乾燥防止用キャップ45との位置ズレを起こすことなくキャッピングの密閉度を上げることが可能となる。また、塗布ノズルの幅方向においても同様の効果が得られる。
【0040】
また、この具体的な構成によると、塗布ノズル41の水平面内の回転誤差が生じた場合でもそれに応じて乾燥防止用キャップ45が回転し同様に密着させることができる。すなわち、本実施の形態では、塗布ノズル41と乾燥防止用キャップ45のいかなる位置誤差も自動補正しキャッピングの機密性を上げることができる。
【0041】
図6(b)のように塗布ノズル41の先端が乾燥防止用キャップ45によってキャッピングされた状態では、塗布ノズル41の先端と乾燥防止用キャップ45の底部45aとのクリアランスLと、塗布ノズル1と乾燥防止用キャップ45で形成される空間の容積Vは、次のように設定されている。
【0042】
塗布ノズル1と乾燥防止用キャップ45で形成される空間の容積Vは、塗布ノズル1のスリット44の先端の開口表面積Sに対して
V ≦ 3.5 × S(3/2) ・・・・・・(1)
の関係が成り立っている。
【0043】
式(1)はノズル先端部での塗布液の粘度変化が、デバイス特性から求まる誘電体膜厚ばらつきの許容範囲を満足するように導出されている。ここで式(1)を導出した経緯について図3、図4を用いて説明する。
【0044】
図3はPDPの誘電体膜厚の面内ばらつきに対する点灯電圧のばらつきを示したグラフであり、横軸は誘電体の面内平均膜厚と観察点における誘電体膜厚の膜厚比を、縦軸は観察点における点灯電圧と全面点灯電圧の差を示している。図3において、破線Aよりも膜厚比が小さい領域(グラフの左側)と破線Bよりも膜厚比の大きい領域(グラフの右側)では膜厚比に対する点灯電圧差が大きく、膜厚ばらつきによって点灯電圧が大きく異なり表示画像のムラにつながる。逆に破線Aと破線Bの間では傾きが緩やかでありほとんど点灯電圧差がなく画像品質が保たれる。すなわち破線Aと破線Bの間の膜厚比±4%が許容される膜厚ばらつきである。スリットの流路抵抗は粘度に比例するため幅方向に粘度差がある場合、粘度に反比例して流量が変化し膜厚のばらつきが生じる。すなわち、許容される膜厚比が±4%ならば、許容される粘度比も±4%である。
【0045】
次に、粘度変化が得られた許容値以下になる密閉空間について示す。図4(a)に実験装置を示す。図4(a)において、ゾルゲル法を用いて誘電体膜を形成する塗布液31を受け皿32に入れ容器33で蓋をし、その時の塗布液31の表面の粘度の変化を測定する。図4(b)は本測定で得られた塗布液の粘度変化と密閉容器の容積との関係のグラフである。横軸は図4(a)において塗布液31の表面積Sと容器33の容積VとしたときV/(S(3/2))で表される容積比であり、縦軸は図4(a)における塗布液31の表面付近の設置前の粘度を1としたときの24時間後の粘度変化比を表したものである。図4(b)において上記粘度変化の許容値は太線Cになり、粘度変化比が太線C以下になれば所定の画像品質が保たれることになる。
【0046】
従って、太線Cと粘度変化曲線が交わる破線Dで示される容積比が粘度変化の許容値を満足する容積の限界となり、その値は“3.5”である。例えば、塗布装置のスリットクリアランスが0.3mm、塗布幅が500mmとした場合、塗布液の表面積は150mmとなり、塗布液表面を塞ぐ空間容積の許容値は6430mmとなる。これは断面積にして12.8mmであり、例えば幅3mm、深さ4.3mmの形状となり非常に小さいものとなる。
【0047】
さらに、塗布ノズル41と乾燥防止用キャップ45で形成される空間を式(1)が満足する容積にしているため前記課題に示した理由からノズル先端の塗布液の粘度変化を±4%以下にすることができ、膜厚ばらつきを許容範囲内に抑えることが可能となる。
【0048】
さらに、塗布ノズルリップ面41aと乾燥防止用キャップ底面45aのクリアランスLが次のように設定されている。
塗布ノズル41のリップ面41aからはみ出す塗布液の形状は、自重や内部圧力と表面張力のバランスを鑑みると半円状よりも大きくはみ出ることはない。すなわち、スリット44の幅寸法を“d”とした場合、塗布ノズルリップ面41aからの塗布液のはみ出しは半円状(d/2)が最大となる。そのため、クリアランスLを(d/2)より大きく設定した。このようにクリアランスLを設定することによって、掻き取り動作後、スリット44の開口端から塗布液の自重や塗布ノズル内の残圧等により塗布ノズルリップ面41aからはみ出た塗布液が乾燥防止用キャップの底面45aに付着することがない。そのため、塗布ノズルリップ面41aの塗布液面が汚れることがないので塗布時に良好な膜形状を得ることができる。
【0049】
(実施の形態2)
図7は本発明の実施の形態2を示す。
図7において、図2に示す実施の形態1のボールベアリング47の代わりに乾燥防止用キャップ45の裏面および乾燥防止用キャップ45が接するステージ48の表面に低摩擦部材54が貼り付けられている点だけが、実施の形態1とは異なっている。その他は実施の形態1と同じである。
【0050】
この構成によると、塗布待機時に塗布ノズル41が乾燥防止用キャップ45に押し付けられて乾燥防止用キャップ45に水平方向の力が働いたときに、低摩擦部材54の作用によって抵抗を実施の形態1の場合よりも小さくすることができ、乾燥防止用キャップ45が実施の形態1の場合よりも小さい力で移動するので、塗布ノズル41との位置合わせが迅速に、より正確に行える。
【0051】
なお、低摩擦部材54は乾燥防止用キャップ側、ステージ側いずれかに貼り付けられた場合でも効果を発揮するが、両方に貼り付ける方が望ましい。
また、実施の形態1と同様に乾燥防止用キャップにより密閉空間が形成されているためリップ先端の塗布液の粘度変化が小さく、かつ、汚れが発生しないため、膜厚が均一で良好な膜形状が得られる。
【0052】
(実施の形態3)
図8は本発明の実施の形態3を示す。
図2に示す実施の形態1では、ステージ48の表面と乾燥防止用キャップ45の間にボールベアリング47を設けて乾燥防止用キャップ45が移動しやすいように構成していたが、この図8では、ボールベアリング47の代わりに乾燥防止用キャップ45とステージ48の表面の間に潤滑剤55を設けている点だけが、実施の形態1とは異なっている。その他は実施の形態1と同じである。
【0053】
この構成によると、塗布待機時に塗布ノズル41が乾燥防止用キャップ45に押し付けられ乾燥防止用キャップ45に水平方向の力が働いたとき、潤滑剤55の作用によって実施の形態1の場合よりも抵抗を小さくすることができ、乾燥防止用キャップ45が実施の形態1の場合よりも小さい力で移動して、塗布ノズル41との位置合わせが迅速に、より正確に行える。
【0054】
また、実施の形態1と同様に乾燥防止用キャップにより密閉空間が形成されているためリップ先端の塗布液の粘度変化が小さく、かつ、汚れが発生しないため、膜厚が均一で良好な膜形状が得られる。
【0055】
(実施の形態4)
図9は本発明の実施の形態4を示す。
図2に示す実施の形態1では、ステージ48の表面と乾燥防止用キャップ45の間にボールベアリング47を設けて乾燥防止用キャップ45が移動しやすいように構成していたが、この図9では、図2に示す実施の形態1のボールベアリング47の代わりに送風孔56、圧縮ポンプ57、配管58を形成して乾燥防止用キャップ45を浮上させる機構以外は実施の形態1と同様の構造である。
【0056】
ステージ4の表面で開口した送風孔56は、乾燥防止用キャップ45とステージ48の隙間に塗布ノズルの厚み方向(紙面の左右方向)と塗布ノズルの幅方向(紙面の直角方法)それぞれに複数個が開通し、圧縮ポンプ57に接続された配管58に繋がっている。圧縮ポンプ57によって送り出された気体としての空気は配管58を通って送風孔56に送られ、送風孔56から乾燥防止用キャップ45とステージ48の隙間に送られて乾燥防止用キャップ45を浮上させ、乾燥防止用キャップ45を水平方向に移動可能としている。
【0057】
このように構成したため、実施の形態1と同様に塗布待機時に塗布ノズル41が乾燥防止用キャップ45に押し付けられ乾燥防止用キャップ45に水平方向の力が働いたとき、送風孔56から出される空気によって乾燥防止用キャップ45が移動し、塗布ノズル41との位置合わせが自動的になされる。また、乾燥防止用キャップ45が実施の形態1の場合よりも小さい力で移動して、塗布ノズル41との位置合わせが迅速に、より正確に行える。
【0058】
また、実施の形態1と同様に乾燥防止用キャップにより密閉空間が形成されているためリップ先端の塗布液の粘度変化が小さく、かつ、汚れが発生しないため、膜厚が均一で良好な膜形状が得られる。
【0059】
(実施の形態5)
図10は本発明の実施の形態5を示す。
図10(a)は乾燥防止用キャップの斜視図、図10(b)は図10(a)に示す面Aにおける断面図である。
【0060】
図10(a)において、乾燥防止用キャップ45は、塗布ノズル41の幅方向に複数に分割された複数の剛体キャップ45bに沿うように内側に傾斜面45cが形成されている。隣接する剛体キャップ45bの間は、複数の剛体キャップ45bで共通の弾性体46によって連結されている。弾性体46は剛体キャップ45bの傾斜面45cに沿って設けられるとともに、図10(b)に示すように弾性体46は分割された剛体キャップ45bの内側面を覆っている。
【0061】
本実施の形態では、塗布ノズル41と乾燥防止用キャップ45で形成される空間の構成、塗布工程および塗布ノズルの動作については上記の各実施の形態と同様である。
このよう構成したため、塗布ノズル41が例えば幅方向に僅かだけ弓形に曲がりが発生していても、塗布ノズル41が塗布待機時に乾燥防止用キャップ45に降下してきたとき、剛体キャップ45bが幅方向に分割されているので各々の剛体がノズル側面に沿って密着し、弾性体46aによって密閉度を上げることができる。
【0062】
さらに、この構成においては乾燥防止用キャップ45を、塗布ノズル41の幅方向に複数の剛体キャップ45bに分割しているので、塗布ノズル41の幅方向に一体の乾燥防止用キャップの場合に比べて個々の剛体キャップ45bが移動しやすく、実施の形態1〜4のように乾燥防止用キャップの裏面の摩擦抵抗を大きく低減する工夫がなくとも移動が可能である。もちろん、実施の形態1〜4のようなボールベアリングや低摩擦部材、潤滑剤、気体の送風の機構などを設置してもよい。
【0063】
この作用から実施の形態1と同様に乾燥防止用キャップによる密閉空間の気密性が向上し、リップ先端の塗布液の粘度変化が小さく、かつ、汚れが発生しないため、膜厚が均一で良好な膜形状が得られる。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明は、乾燥防止用キャップの密着性を確実に向上させ塗布液の密度等の特性変化を最小限に抑えることができ、大版基板を使用するPDP等のような各種のディスプレイの量産化に寄与できる。
【符号の説明】
【0065】
41 塗布ノズル
41a リップ面
44 スリット
45 乾燥防止用キャップ
45b 剛体キャップ
46 弾性体
47 ボールベアリング
50 バネ
51 小球
54 低摩擦部材
55 潤滑剤
56 送風孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塗布ノズルの先端のスリットが待機中に乾燥しないように、待機位置に配置された乾燥防止用キャップの上に前記塗布ノズルの先端を乗せてキャッピングするよう構成された塗付装置であって、
前記塗布ノズルと前記乾燥防止用キャップで形成される空間の容積:Vを、前記スリットの吐出口表面積Sに対して
V ≦ 3.5×S(3/2)
に設定した塗布装置。
【請求項2】
前記乾燥防止用キャップの前記塗布ノズルの先端の外側面と接触する接触部を弾性体で形成した
請求項1記載の塗布装置。
【請求項3】
前記乾燥防止用キャップは、
前記塗布ノズルの幅方向に複数に分割され前記塗布ノズルの先端を覆う複数の剛体キャップと、
隣接する前記剛体キャップの間を接続する弾性体と
を有している
請求項2記載の塗布装置。
【請求項4】
前記塗布ノズルの先端の外側面が先端に向かって細く形成され、
前記乾燥防止用キャップの開口を内側に向かって狭くなる傾斜面に形成して、
ステージに設けられた前記乾燥防止用キャップに前記塗布ノズルの先端を押し付けることによって前記乾燥防止用キャップが前記塗布ノズルの先端に追従して前記ステージの面に沿って移動するように構成した
請求項2記載の塗布装置。
【請求項5】
前記ステージに対して前記乾燥防止用キャップを保持するハウジングを設け、
前記乾燥防止用キャップと前記ハウジングの間に、小球とこの小球を押し出すバネを介装した
請求項4記載の塗布装置。
【請求項6】
前記ステージと前記乾燥防止用キャップの裏面の間に、摩擦抵抗が小さくなるようにボールベアリングを介装した
請求項4記載の塗布装置。
【請求項7】
前記ステージと前記乾燥防止用キャップの裏面の間に、摩擦抵抗が小さくなるように表面の摩擦係数が比較的小さい低摩擦部材を介装した
請求項5記載の塗布装置。
【請求項8】
前記ステージと前記乾燥防止用キャップの裏面の間に、摩擦抵抗が小さくなるように潤滑剤を介装した
請求項5記載の塗布装置。
【請求項9】
前記ステージから前記乾燥防止用キャップの裏面に向けて、摩擦抵抗が小さくなるように気体を送り込むよう構成した
請求項5記載の塗布装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2010−269201(P2010−269201A)
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−120433(P2009−120433)
【出願日】平成21年5月19日(2009.5.19)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】