説明

塗料除去装置及び塗料除去システム

【課題】塗装用冶具等の被処理体に付着している塗料を、効率的かつ安全に除去できるようにする。
【解決手段】被処理体2の処理が行われる処理室Sと、処理室S内の被処理体2に対して洗浄液を供給する洗浄液供給機構18とを備えた。洗浄液は、植物性洗剤、又は、植物性洗剤を希釈させた溶液とした。洗浄液供給機構18には、洗浄液を貯留するタンク51と、タンク51内の洗浄液を加熱するヒータ55と、洗浄液を処理室Sにおいてシャワー状に吐出するノズル53と、タンク51内の洗浄液をノズル53に送液するポンプ62とを備えた。また、処理室S内の洗浄液を排液する排液口23を設け、排液口23を通じて排液された洗浄液をタンク51に戻して貯留する構成とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被処理体に付着している塗料を除去する塗料除去装置及び塗料除去システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、生産工場等で各種被塗装品(製品)に塗装を行う工程においては、被塗装品を固定する固定用冶具、マスキングを行うためのマスキング冶具等が用いられている。このような塗装用冶具(固定用冶具、マスキング冶具等)は、塗装の際に付着した塗料を除去するため、定期的に洗浄する必要がある。かかる塗料除去処理(洗浄処理)に使用する洗浄液としては、シンナー等の溶剤が一般的に用いられている。また、このような塗料除去処理は、作業者が塗装用冶具を持って洗浄液中で揺動させる、あるいは、洗浄液を含浸させたスポンジや布などによって塗料を拭き取るなど、通常、手作業によって行われている。なお、シンナー等の溶剤以外のもの、例えば水溶性の化合物からなる洗浄液も開発されている(特許文献1参照)。さらに、塗装用冶具を被塗装品の塗装に用いる前に、塗装用冶具の表面に付着層(被膜)を形成し、塗料を剥離させやすくする方法が提案されている(特許文献2参照)。
【0003】
【特許文献1】特開平9−67597号公報
【特許文献2】特開2006−206791号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の塗料除去処理は、作業者の手作業によって行っているため、作業者の作業負担が大きく、作業効率が悪い問題があった。また、洗浄液は取り扱いに注意を要するものが多かった。例えば洗浄液としてシンナーを用いる場合は、人体や環境に対する毒性が懸念され、シンナーの引火点が低温であるため火災等の事故を招く危険性もあり、法令によって様々な義務(作業者に対する特別健康診断、換気設備の点検、PRTR法による事業者の届出等)が課せられる。また、ISO14000シリーズの規格においては、環境改善の要求項目に従い、シンナーの使用量を的確に管理する必要がある。このように、シンナーの使用は、作業者にとっても事業者にとっても負担が多いものである。しかしながら、これまではシンナーに代わる洗浄液、即ち、シンナーと同程度以上の洗浄力(塗料除去性能)を有しながらも、高い安全性を有するような洗浄液が、殆ど市場に供給されていなかったため、やむを得ずシンナーが広く使用され続けてきた。
【0005】
なお、シンナー等の溶剤以外を用いた、安全性の高い洗浄液の使用も試みられているが、さらに高い洗浄力や安全性を有する洗浄液の使用、即ち、人体や環境に対する影響の低減、生分解性の向上、洗浄力の向上等が求められていた。また、特許文献2に示されているような、被塗装品の塗装前に塗装用冶具の表面に付着層を形成する方法を用いる場合は、付着層の形成工程が必要であり、作業者の作業負担が多くなる難点があった。
【0006】
本発明は、上記の点に鑑みてなされたものであり、被処理体に付着している塗料を効率的かつ安全に除去できる塗料除去装置及び塗料除去システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明によれば、被処理体に付着している塗料を洗浄液によって除去する装置であって、被処理体の処理が行われる処理室と、前記処理室内の被処理体に対して洗浄液を供給する洗浄液供給機構とを備え、前記洗浄液は、植物性洗剤、又は、前記植物性洗剤を希釈させた溶液であることを特徴とする、塗料除去装置が提供される。
【0008】
前記洗浄液における水の含有率は、20重量%以上であっても良い。また、前記洗浄液における前記植物性洗剤の含有率は、70重量%以上であっても良い。前記洗浄液の引火点は、79℃以上であっても良い。
【0009】
前記洗浄液供給機構は、前記洗浄液を35℃〜40℃に温調した状態で前記被処理体に対して供給するとしても良い。また、前記洗浄液供給機構は、前記洗浄液を0.02MPa〜0.2MPaの供給圧力で前記被処理体に対して供給しても良い。
【0010】
さらに、前記洗浄液供給機構は、前記洗浄液を貯留するタンクと、前記タンク内の洗浄液を加熱するヒータと、前記洗浄液を前記処理室においてシャワー状に吐出するノズルと、前記タンク内の洗浄液を前記ノズルに送液するポンプとを備えても良い。また、前記処理室内の洗浄液を排液する排液口を設け、前記排液口を通じて排液された洗浄液を前記タンクに貯留する構成としても良い。
【0011】
また、本発明によれば、上記のいずれかに記載の塗料除去装置と、前記洗浄液を蒸留再生する蒸留再生装置とを備えることを特徴とする、塗料除去システムが提供される。前記蒸留再生装置の蒸留温度は、250℃〜290℃であっても良い。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、被処理体の塗料除去処理を効率的に行うことができ、作業者の作業負担を軽減することができる。植物性洗剤を用いることで、塗料除去処理を安全に行うことができ、人体や環境に対する影響の低減を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明にかかる実施形態を説明する。図1に示すように、本実施形態にかかる塗料除去システム1は、被処理体2に付着している塗料を洗浄液(塗料剥離液)によって除去する塗料除去処理(洗浄処理)を行う塗料除去装置3(洗浄装置)と、塗料除去装置3における塗料除去処理に用いられた洗浄液を蒸留再生する蒸留再生装置5とを備えている。
【0014】
本実施形態における被処理体2は、例えば自動車部品等の被塗装品(製品)の塗装を行う際に用いられる塗装用冶具(被塗装品を固定する固定用冶具、マスキングを行うマスキング冶具等)である。被処理体2の材質は、例えば鋼材等の金属であっても良い。
【0015】
塗料除去装置3は、被処理体2を収納する(被処理体2の処理が行われる)処理室Sを有する処理槽10と、各種機器類や配管等が配設されている収納室12と、塗料除去装置3の制御を行う制御部(制御コンピュータ)や操作パネル13a等が設けられた制御ボックス13とを備えている。図示の例では、収納室12は処理槽10の下方に設けられており、制御ボックス13は、処理槽10と収納室12の側方に設けられている。さらに、塗料除去装置3は、被処理体2を保持しながら処理室S内で回転させる被処理体保持回転機構17、処理室S内の被処理体2に対して洗浄液を循環供給する洗浄液供給機構18を備えている。
【0016】
図2に示すように、処理槽10は、上面が開口となっている槽本体21と、下面が開口となっている蓋体22とを備えている。蓋体22は、槽本体21の上方に設けられ、槽本体21の上面開口を上方から開閉するようになっている。即ち、被処理体2は槽本体21の上面開口を通じて処理槽10に搬入又は処理槽10から搬出されるようになっている。また、蓋体22によって槽本体21の上面開口を上方から閉塞することにより、処理槽10の内部に処理室Sが形成されるようになっている。
【0017】
図2及び図3に示すように、槽本体21の底板21aには、槽本体21の内部(処理室Sの底部)から洗浄液を排液させるための排液口23が開口されている。排液口23の下方には、後述するタンク51が設置されている。
【0018】
被処理体保持回転機構17は、被処理体2を保持する保持体31(ターンテーブル)、保持体31を支持する回転軸32、保持体31及び回転軸32を回転させる動力を発生させるモータ33(電動機)、モータ33の動力を回転軸32に伝達させる動力伝達部35を備えている。保持体31は槽本体21の内部(処理室Sの下部)に設けられている。一方、モータ33と動力伝達部35は、収納室12に設けられており、回転軸32は、槽本体21の底板21aを上下に貫通するように設けられている。
【0019】
保持体31は、被処理体2が載せられる複数(例えば4本)のアーム31aを備えている。各アーム31aは、保持体31の中心部(回転軸32の上端部)から半径方向(略水平方向)に沿って、また、互いに異なる方向に向かって放射状に延びるように設けられている。図示の例では、4本のアーム31aが平面視において略十字形を形成するように配置されている。各アーム31aの基端部(保持体31の下面中央部)は、回転軸32の上端部に固定されている。即ち、保持体31は、回転軸32と一体的に、回転軸32の中心軸を回転中心軸として回転するようになっている。また、各アーム31aの先端部上面には、被処理体2を周囲から保持するためのピン31bがそれぞれ設けられている。
【0020】
回転軸32は、長さ方向(軸方向)を略鉛直方向に向けた状態で備えられている。また、底板21aの中央部に設けられている軸受け部32aによって保持されており、回転軸32の中心軸を中心として、底板21aに対して回転可能に取り付けられている。回転軸32の上端部には、上述した保持体31が取り付けられている。回転軸32の下端部には、後述する従動プーリ35bが取り付けられている。
【0021】
モータ33の本体(モータ本体33a)は、収納室12の天井(底板21aの下面)に固定されている。動力伝達部35は、モータ33の出力軸33bに取り付けられている駆動プーリ35a、回転軸32の下端部に取り付けられている従動プーリ35b、駆動プーリ35aと従動プーリ35bとの間に架け渡されている無端状の駆動ベルト35cを備えている。即ち、モータ33の駆動により駆動プーリ35aを回転させると、駆動プーリ35aの回転に従って駆動ベルト35cが周動させられ、駆動ベルト35cの周動に伴って従動プーリ35bが回転させられ、これにより、回転軸32及び保持体31が従動プーリ35bと一体的に、回転軸32の中心軸を中心として回転させられる構成になっている。このような構成により保持体31を回転させ、被処理体2を回転させながら洗浄液を供給することで、被処理体2に対して洗浄液を効率的に供給することができる。
【0022】
洗浄液供給機構18は、洗浄液を貯留するタンク51と、タンク51内の洗浄液を送出する送液路52と、送液路52によってタンク51から送出された洗浄液を処理室Sにおいてシャワー状に吐出するノズル53(シャワーノズル)とを備えている。タンク51は収納室12に備えられており、ノズル53は、処理槽10の内部において、ノズル支持体54によって支持されている。
【0023】
タンク51の上面は開口されており、この上面開口は、前述した排液口23の真下に配置されている。即ち、槽本体21の内部とタンク51の内部は、排液口23を通じて上下に連通しており、排液口23に落下した排液(洗浄液)がタンク51によって受け止められ、回収されるように構成されている。
【0024】
また、タンク51には、タンク51内の洗浄液を加熱するヒータ55が備えられている。ヒータ55は、図1に示す例ではプラグヒータであり、発熱体(図示せず)が内蔵されている伝熱管55aを有し、かかる伝熱管55aがタンク51の内側下部に挿入された状態で取り付けられている。即ち、ヒータ55は、伝熱管55a内の発熱体(図示せず)によって発生させた熱を、伝熱管55aを介して間接的に、タンク51内の洗浄液に伝達させ、これにより、洗浄液の間接加熱を行う構成になっている。
【0025】
さらに、タンク51には、周囲温度(洗浄液の温度)に応じてオン状態とオフ状態の切り換えが行われるサーモスタット56(温度検知部)が備えられている。サーモスタット56は、伝熱管55aの上方に、上下に並べて2つ設けられている。各サーモスタット56は、周囲温度が所定の動作温度よりも低くなるとオン状態になり、周囲温度が所定の動作温度よりも高くなるとオフ状態となるように構成されている。そして、この2つのサーモスタット56のうちいずれか一方又は両方がオフ状態になると、ヒータ55のスイッチがオフ状態となり、発熱が停止され、両方がオン状態になると、ヒータ55のスイッチがオン状態となり、発熱が行われるように構成されている。このようなサーモスタット56を2つ設け、液温の温度検知を二重に行うことにより、デュアルセーフシステムを実現している。即ち、洗浄液の液温が上昇したときに、いずれか一方のサーモスタット56に不具合が生じて、液温の上昇が検知できなくなっても(オン状態からオフ状態への切り替えが行われなくなっても)、他方のサーモスタット56によって、液温の上昇を確実に検知し、ひいては、ヒータ55のスイッチを確実にオフ状態に切り替えることができるように構成されている。従って、洗浄液が過剰に加熱されることを防止できる。
【0026】
送液路52は、収納室12、及び、ノズル支持体54の内部に配設されている。送液路52の上流側端部は、収納室12内においてタンク51の下部に接続されている。送液路52の下流側は、ノズル支持体54の内部に沿って配設され、ノズル支持体54の上部において2本に分岐させられ、後述する2本のノズル53に対してそれぞれ接続されている。
【0027】
また、送液路52には、タンク51内(送液路52内)の洗浄液をタンク51側からノズル53側に向かって送液する動力を与えるポンプ62が介設されている。ポンプ62は収納室12に設置されている。なお、ポンプ62は、洗浄液に対する耐性(耐薬液性)を有する特殊な樹脂を用いて構成しても良い。そうすれば、ポンプ62の腐食や故障を好適に防止できる。また、ポンプ62の性能は、送液路52による洗浄液の供給圧力(即ち、ノズル53のシャワー圧力)を例えば約0.02MPa〜0.2MPa程度に設定できるものであれば良い。このような比較的低圧の供給圧力であっても、本実施形態によれば、塗料を確実に除去できる。また、可燃性の塗料に対して高圧を与えることは、安全性の観点からは望ましくないため、洗浄液を低圧で供給し、処理室Sの内圧もなるべく低圧に維持すると良い。
【0028】
ノズル53とノズル支持体54は、処理槽10の内部に設置されている。また、図3に示す例では、ノズル53は保持体31よりも上方(保持体31によって保持された被処理体2よりも上方になる位置)に、2本並べて設けられている。2本のノズル53は、それぞれ長さ方向を略水平方向に向けた状態で、また、互いに略平行に配設されており、ノズル支持体54の上端部に取り付けられ、ノズル支持体54を介して、槽本体21に対して固定されている。
【0029】
各ノズル53の下面には、ノズル53内から洗浄液を吐出する複数の吐出口53aがそれぞれ設けられている。吐出口53aは、各ノズル53の長さ方向に沿って、一列に並べて設けられている。即ち、各ノズル53は、複数の吐出口53aを通じて洗浄液を吐出することにより、洗浄液を下方に向かって(即ち、保持体31によって保持された被処理体2に対して上方から)シャワー状(カーテン状)に吐出する構成になっている。
【0030】
上記洗浄液としては、被処理体に付着している塗料を溶解させることが可能な性質を有する液体が使用される。また、洗浄液は、植物を原料とした植物由来成分(例えば植物性の界面活性剤、植物性の脂肪酸等)を主成分とした洗剤、即ち植物性洗剤であることが望ましく、さらに好ましくは、植物性洗剤は、全成分が植物由来のものである洗剤、即ち純植物性洗剤であることが望ましい。また、洗浄液は、植物性洗剤を例えば水等の溶媒によって希釈させた溶液であっても良く、さらに好ましくは、純植物性洗剤を、例えば水等の溶媒によって希釈させた溶液であっても良い。
【0031】
植物性洗剤は、発火性が低く、また、人体や環境に対する様々な有害物(例えば環境ホルモン物質、石油蒸留物質等)を含有しておらず、毒性が無視できる程度に低い等の特長がある。人体に対する毒性がないため、保護具(呼吸用保護具、保護手袋、保護衣等)を装備する必要もなく、取り扱いが簡単である。
【0032】
また、植物性洗剤は、生分解性(微生物分解性)が高く、例えばpH値等の条件を調整すると、微生物により迅速に分解され、植物性の成分は、水(HO)、二酸化炭素(CO)、不活性のミネラル等の元素及びその元素から構成される不活性の化合物に、ほぼ完全に分解される。従って、洗浄液を廃棄処分する際には、洗剤の成分を速やかに微生物分解でき、無害化して自然に還元できるので、環境負荷が少なく、安全である。従って、従来のシンナー等の石油系の溶剤類を用いた洗浄液と比較して、廃棄処分に要するコストを大幅に削減できる。
【0033】
なお、植物性洗剤としては、例えばインフィニティ株式会社製の洗剤(純植物性洗剤)である「PAINTSOLV−R(商品名)」を使用しても良い。PAINTSOLV−Rは、水溶性の液体であり、植物性の界面活性剤、植物性の脂肪酸、及び、その他の植物性の成分(植物から得られる成分)から組成される混合物である。また、リン酸塩類、珪酸塩類、硫酸塩類、スルフォン酸塩類、苛性ソーダ等の苛性剤類、石油系界面活性剤・石油系溶剤類、石油系蒸留物類、グリコール・エーテル等のグリコール類、d−リモネン等のテルペン類、漂白剤等の塩素系類、試薬類、増粘剤類、防腐剤類、着色料類、香料類等を含有しない液体である。
【0034】
また、PAINTSOLV−R(原液)の引火点(セタ密閉式試験による測定値)は約79℃であるが、水で希釈した場合の引火点は、水の含有量が多いほど高くなる。即ち、PAINTSOLV−Rを水によって希釈させた溶液(洗浄液)の引火点は、79℃以上になる。このように、高い引火点を有する(発火性が低い)洗浄液を用いることにより、火災等の事故を防止できる。
【0035】
洗浄液における洗剤の濃度は、高くするほど塗料を効率的に溶解させることができる。例えば上記のPAINTSOLV−R等を洗剤として用いる場合は、洗浄液における洗剤の含有率を70重量%以上(70重量%〜100重量%)とし、その他の成分を水としても良い(洗浄液における水の含有率を30重量%以下としても良い)。
【0036】
また、例えばPAINTSOLV−R等を洗剤として用いる場合、洗浄液における水の含有率は、20重量%以上としても良い。この場合、洗浄液の引火点を消失させることができ、消防法非該当となる。即ち、洗浄液の安全性をさらに向上させることができる。例えば、洗浄液における洗剤の含有率を80重量%以下とし、その他の成分を水としても良い(洗浄液における水の含有率を20重量%以上としても良い)。
【0037】
さらに、洗浄液は常温よりも高い温度(引火点よりも低い温度)に加温した状態で供給しても良い。そうすれば、洗浄液を常温のままで被処理体2に供給する場合よりも、さらに洗浄力を高めることができ、塗料除去処理の処理効率を向上させることができる。例えばPAINTSOLV−R等を洗剤として用いる場合は、洗浄液を約35℃〜40℃程度に温調した状態で、被処理体2に対して供給しても良い。即ち、タンク51内の洗浄液の温度を、ヒータ55によって35℃〜40℃程度に保温しても良い。これにより、洗浄液の洗浄力を十分に高めることができる。
【0038】
蒸留再生装置5は、市販の製品であっても良い。好ましくは、250℃〜290℃の蒸留温度が使用できるものであると良い。このような蒸留温度によれば、蒸留再生液(塗料除去処理において使用済みの洗浄液)を新液(未使用の洗浄液)とほぼ同じ成分に戻すことができる。
【0039】
次に、以上のように構成された塗料除去システム1における塗料除去処理について説明する。先ず、処理槽10の蓋体22を槽本体21から持ち上げて、槽本体21の上面開口を開く。そして、塗料が付着している被処理体2を、上面開口を通じて槽本体21内に搬入し、保持体31上に載せて保持させる。その後、蓋体22を降ろし、槽本体21の上面開口を閉塞する。これにより、処理槽10の内部には処理室Sが形成される。
【0040】
こうして、被処理体2を処理室Sに収納したら、操作パネル13aを操作し、所定の洗浄処理を開始させる。かかる処理においては、被処理体2は被処理体保持回転機構17によって回転させられ、また、回転する被処理体2に対して、ノズル53から洗浄液が供給される。即ち、被処理体保持回転機構17においては、モータ33の駆動及び動力伝達部35の動力伝達により、回転軸32及び保持体31が回転させられ、保持体31によって保持された被処理体2は、保持対31と一体的に、回転軸32を中心として回転させられる。一方、タンク51内においては、ヒータ55の加熱によって例えば約35℃〜40℃程度に温調された洗浄液が、ポンプ62の駆動により、送液路52を通じて各ノズル53にそれぞれ供給される。洗浄液は、例えば約0.02MPa〜0.2MPa程度の供給圧力で、複数の吐出口53aから吐出され、被処理体2に対して上方からシャワー状に吐出される。こうして、被処理体2に洗浄液が供給されると、被処理体2に付着していた塗料が、洗浄液の作用によって溶解し、洗い流される。
【0041】
このように、被処理体2を回転させながら、洗浄液をシャワー状に供給することで、洗浄液を被処理体2の表面全体に、満遍なく効率的に供給することができる。即ち、洗浄むらが発生すること(塗料が残留すること)を防止でき、塗料を確実に除去できる。さらに、溶解した塗料を、遠心力によって被処理体2から効率的に振り落とし、確実に除去することができる。また、洗浄液を35℃〜40℃程度に温調した状態で、被処理体2(塗料)に供給することで、洗浄液を常温で供給する場合よりも、洗浄液の洗浄力を高めることができる。従って、洗浄をより効率的に行うことができる。さらに、洗浄液を0.02MPa〜0.2MPa程度の低圧で供給することで、処理室Sが高圧になること、即ち、可燃性の塗料が高圧に晒されることを防止できる。即ち、塗料が発火するおそれがなく、洗浄を安全に行うことができる。
【0042】
被処理体2に供給された洗浄液及び溶解した塗料は、被処理体2から振り落とされて、排液口23を通じて処理室Sから排出され、タンク51に受け止められる。なお、タンク51内に回収された使用済みの洗浄液は、再び塗料除去処理に利用される。即ち、タンク51内において再び加熱され、送液路52、ノズル53を通じて、再び被処理体2に供給される。このように、洗浄液は繰り返し循環させて再利用することができる。
【0043】
こうして被処理体2に洗浄液が供給され、被処理体2から塗料が洗い落とされたら、ポンプ62の作動、即ち、洗浄液の供給を停止させる。そして、被処理体2を回転させ、被処理体2に残留している洗浄液を振り落とした後、モータ33の駆動、即ち、被処理体2の回転を停止させる。そして、蓋体22を持ち上げ、槽本体21の上面開口を開き、洗浄済みの被処理体2を上面開口を通じて槽本体21内から搬出する。以上のようにして、塗料除去装置3における塗料除去処理が終了する。
【0044】
なお、タンク51内の使用済み洗浄液(洗浄液と溶解した塗料の混合溶液)は、塗料除去装置3から適宜(例えば定期的に)取り出し、蒸留再生装置5に入れて再生することができる。即ち、蒸留再生を行うことによって、洗浄液から溶解した塗料を分離し、新液の洗浄液とほぼ同じ組成の液体に再生し、洗浄能力を回復させることができる。従って、洗浄液を廃棄することなく、何度も塗料除去処理に再利用できるので、洗浄液の消費量を抑えることができ、経済的である。なお、洗浄液の量は、被処理体2への付着等により減少することがあるが、そのように減少した分の洗浄液を適宜補充すればよく、洗浄液の交換は殆ど不要である。
【0045】
以上説明したように、かかる塗料除去システム1によれば、被処理体2の塗料除去処理を効率的、自動的に行うことができる。従って、作業者の作業負担を軽減することができる。また、洗浄液に植物性洗剤(植物から得られる成分からなる洗剤)を用いることで、塗料除去処理を安全に行うことができ、人体や環境に対する影響の低減を図ることができる。かかる洗浄液は人体や環境に対する毒性がなく、発火の危険も無く、法令等で取り扱いが規制されることもない。即ち、作業者にとっても事業者にとっても負担が少なく、かつ、シンナーに代わる安全な洗浄液として使用することができる。また、以上の塗料除去方法によれば、被塗装品の塗装前に被処理体2に付着層を形成するといった前処理を行う必要も無く、塗料を簡単に除去することができる。
【0046】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到しうることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0047】
例えば、被処理体2とは、自動車部品の塗装を行う際に用いられる塗装用冶具には限定されず、その他の工業製品等、例えば一般機械、電気機械、精密機械等に用いられる部品類の塗装を行う際に用いられる塗装用冶具であっても良い。また、被処理体2に付着する塗料(洗浄液によって除去する塗料)は、自動車部品の塗装に用いられる塗料には限定されず、その他の工業製品等の塗装に使用される種々の塗料であっても良い。即ち、以上の実施形態は、自動車部品の塗装を行う際に用いられる塗装用冶具の洗浄には限定されず、様々な塗料の除去処理に適用できる。
【0048】
また、保持体31の形状、ノズル53の本数や配置、吐出口53aの配置なども、以上の実施形態には限定されない。
【実施例】
【0049】
半乾燥状態(未だ完全に乾燥していない状態)の塗料が付着している被処理体2を、実施の形態で説明した塗料除去装置3と実質的に同一の構成を有する装置によって処理した。被処理体2に付着している塗料の膜厚は0.5mm程度とした。塗料除去処理開始前にタンク51に貯留した洗浄液の量(洗浄液供給機構18において循環させる洗浄液の量)は50リットルとした。洗浄液としては、PAINTSOLV−Rを水によって希釈した溶液を使用した。その結果、被処理体2の塗料除去処理は10分以内で完了した。
【0050】
また、このPAINTSOLV−Rを水によって希釈した溶液からなる洗浄液の寿命(洗浄液の蒸留再生を行うことなく、洗浄液を連続して繰り返し使用できる期間)を試算したところ、塗料除去処理開始前にタンク51に貯留する洗浄液の量を50リットルとし、毎日2.5リットル程度の塗料が洗浄液に溶解すると仮定した場合、洗浄液の寿命は、10日〜20日程度であることが確認された。即ち、10日〜20日程度の長期間、洗浄液の交換や洗浄液の蒸留再生等の作業を行うことなく、塗料除去処理を連続的、効率的に行うことができ、洗浄液の蒸留再生に要する手間、作業員の作業負担なども少ないといえる。
【0051】
また、PAINTSOLV−Rを水によって希釈した溶液からなる洗浄液を塗料除去処理に用いた後、この使用済みの洗浄液を、蒸留再生装置5と実質的に同一の構成を有する装置によって蒸留再生し、その蒸留再生液の成分分析を行った。その結果、290℃で再生した蒸留再生液の成分は、98%以上が新液(未使用の洗浄液)の成分と同じであった。従って、この洗浄液は確実に蒸留再生でき、新液と実質的に同一の液体に戻すことが可能であることが確認された。
【0052】
(蒸留再生試験)
上記のPAINTSOLV−Rを水によって希釈した溶液からなる洗浄液を塗料除去処理に用いた後、この使用済みの洗浄液を蒸留再生する試験を行った。蒸留再生を行う前の洗浄液の重量(洗浄液を入れた容器(18L缶)の重量も含めた量)は、約17kgであった。蒸留再生の初期設定温度(蒸留温度、蒸留再生装置のヒータ設定温度)は250℃とした。かかる条件で蒸留再生装置の運転を開始した。運転開始直後は、順調に洗浄液の回収が行われたが、時間が経過するに従い洗浄液の回収速度が遅くなってきたため、蒸留再生装置の運転開始から約4時間50分後に、設定温度を250℃から280℃に上昇させた。さらに、運転開始から約6時間15分後に、設定温度を280℃から290℃に上昇させた。運転開始から約8時間後、回収量が微少になったため、蒸留再生装置の運転を終了させた。運転終了後の洗浄液(蒸留再生液)の重量(洗浄液を入れた容器(18L缶)の重量も含めた量)は、約15kgであった。以上の蒸留再生は約8時間を要したが、初期設定温度を250℃よりも高い温度、例えば290℃程度にすれば、蒸留再生に要する時間をさらに短縮できると考えられる。また、蒸留再生液の成分と新液(未使用の洗浄液)の成分をそれぞれガスクロマトグラフによって分析した結果、蒸留再生液の成分と新液の成分はほぼ一致しており、蒸留再生液を十分に再生できたことがわかった。
【0053】
(作業環境測定)
実施の形態で説明した塗料除去装置3と実質的に同一の装置等を設置した作業所(自動車部品の塗装を行う塗装室)において、作業環境測定を行った。図4に示すように、作業所の縦横の寸法は6m×4mとし、作業所には、被塗装品(自動車部品)の塗装を行う塗装装置、塗装装置において塗装された被塗装品を乾燥させる乾燥炉、塗装装置において使用された塗装用冶具(固定用冶具、即ち、被処理体2)の塗料除去処理を行う塗料除去装置(塗料除去装置3と実質的に同一の構成を有する装置)、塗料除去装置において塗料除去処理された塗装用冶具を乾燥させる冶具乾燥装置を設置した。塗料除去装置において使用する洗浄液は、PAINTSOLV−Rを水によって希釈した溶液とした。測定対象物質は、n−ヘキサン、酢酸エチル、IPA、トルエン、キシレン、酢酸ブチルとした。また、図4に示す(1)〜(5)の5箇所の測定点をA測定点とし、(B)をB測定点とした。
【0054】
かかる作業環境測定の結果、管理区分は第一管理区分と評価された。即ち、n−ヘキサン、酢酸エチル、IPA、トルエン、キシレン、酢酸ブチルといった有害物の濃度が十分に低減されており、作業環境管理が適切であると判断された。
【0055】
(比較例)
従来の作業所(塗装用冶具の塗料除去を手作業によって行い、洗浄液としてシンナーを使用する洗浄槽を設置した塗装室)において、作業環境測定を行った。その結果、管理区分は第二管理区分と評価された。即ち、有害物の濃度が十分に低減されておらず、作業環境管理を改善する余地があると判断された。
【0056】
なお、従来の作業所において、被塗装品の処理量や塗装用冶具の塗料除去処理量(即ち、シンナーの使用量)を減少させた状態で作業を行った場合、管理区分は第一管理区分と評価された。即ち、管理区分を第一管理区分に維持しようとすると、塗料除去処理におけるシンナーの使用量を低減する必要があるため、塗料除去処理量を増加させること、ひいては被塗装品の処理量(塗装工程の生産性)を向上させることが困難になることがわかった。換言すれば、塗料除去処理において使用する洗浄液を、シンナーから植物性洗剤の希釈溶液に替えることで、安全性の向上と生産性の向上を同時に実現できることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明は、例えば被塗装品の固定用冶具、マスキング冶具等の塗装用冶具に付着している塗料を除去する塗料除去装置、及び、塗料除去システムに適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本実施形態にかかる塗料除去システムの正面図である。
【図2】図1におけるI−I線による断面図(塗料除去装置の縦断面図)である。
【図3】図1におけるII−II線による断面図(塗料除去装置の横断面図)である。
【図4】実施例にかかる作業環境測定を行った作業場の概略平面図である。
【符号の説明】
【0059】
1 塗料除去システム
2 被処理体
3 塗料除去装置
5 蒸留再生装置
10 処理槽
17 被処理体保持回転機構
18 洗浄液供給機構
21 槽本体
22 蓋体
31 保持体
32 回転軸
33 モータ
51 タンク
52 送液路
53 ノズル
55 ヒータ
62 ポンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理体に付着している塗料を洗浄液によって除去する装置であって、
被処理体の処理が行われる処理室と、
前記処理室内の被処理体に対して洗浄液を供給する洗浄液供給機構とを備え、
前記洗浄液は、植物性洗剤、又は、前記植物性洗剤を希釈させた溶液であることを特徴とする、塗料除去装置。
【請求項2】
前記洗浄液における水の含有率は20重量%以上であることを特徴とする、請求項1に記載の塗料除去装置。
【請求項3】
前記洗浄液における前記植物性洗剤の含有率は70重量%以上であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の塗料除去装置。
【請求項4】
前記洗浄液の引火点は79℃以上であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の塗料除去装置。
【請求項5】
前記洗浄液供給機構は、前記洗浄液を35℃〜40℃に温調した状態で前記被処理体に対して供給することを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の塗料除去装置。
【請求項6】
前記洗浄液供給機構は、前記洗浄液を0.02MPa〜0.2MPaの供給圧力で前記被処理体に対して供給することを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載の塗料除去装置。
【請求項7】
前記洗浄液供給機構は、前記洗浄液を貯留するタンクと、前記タンク内の洗浄液を加熱するヒータと、前記洗浄液を前記処理室においてシャワー状に吐出するノズルと、前記タンク内の洗浄液を前記ノズルに送液するポンプとを備えることを特徴とする、請求項1〜6のいずれかに記載の塗料除去装置。
【請求項8】
前記処理室内の洗浄液を排液する排液口を設け、
前記排液口を通じて排液された洗浄液を前記タンクに貯留する構成としたことを特徴とする、請求項7に記載の塗料除去装置。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載の塗料除去装置と、
前記洗浄液を蒸留再生する蒸留再生装置とを備えることを特徴とする、塗料除去システム。
【請求項10】
前記蒸留再生装置の蒸留温度は、250℃〜290℃であることを特徴とする、請求項9に記載の塗料除去システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−302319(P2008−302319A)
【公開日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−152926(P2007−152926)
【出願日】平成19年6月8日(2007.6.8)
【出願人】(500505441)インフィニティ株式会社 (3)
【出願人】(000142056)株式会社共和製作所 (3)
【Fターム(参考)】