説明

塗膜及び樹脂組成物

【課題】広角度で一定の色を維持しうる塗膜及び樹脂組成物を提供する。
【解決手段】本発明の塗膜(又は樹脂組成物)は、樹脂を主成分として構成された基質と、基質に分散及び保持された顔料粒子と、を備えている。顔料粒子は、金属酸化物で構成された母材、及び母材に内包又は分散された着色成分を含み、略球状の形状を有する。金属酸化物の金属は、シリコン、チタン、アルミニウム及びジルコニウムからなる群より選ばれる少なくとも1種でありうる。典型的には、金属酸化物はシリカである。着色成分は、例えば酸化チタンである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗膜及び樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話、ノートパソコン等の電子機器の筐体の塗装は、例えば、エポキシ系塗料を用いたスクリーン印刷法によって実施されている。エポキシ系塗料は、アルミニウム板、亜鉛板、ステンレス板等の金属板の塗装に適している。一般に、塗料の色は、それに含まれた顔料に依存する。例えば、酸化チタンを混ぜれば、塗料は白色を呈する(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−125164号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従来の塗料には問題が存在する。具体的には、見る角度によって商品の色が変化して見えることがある。酸化チタンを含む塗料を例に挙げると、見る角度によって商品が黄変して見えたりする。このような現象は、商品の美観を損ない、顧客の購買意欲の減退を招くので好ましくない。同じ問題は、建築物等に塗料を塗布する場合にも起こりうる。
【0005】
本発明は、このような従来の問題に着目してなされたものであり、広角度で一定の色を維持しうる塗膜及び樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち、本発明は、
樹脂を主成分として構成された基質と、
前記基質に分散及び保持された顔料粒子と、を備え、
前記顔料粒子が、金属酸化物で構成された母材、及び前記母材に内包又は分散された着色成分を含み、略球状の形状を有する、塗膜を提供する。
【0007】
他の側面において、本発明は、
樹脂を主成分として構成された基質と、
前記基質に分散及び保持された顔料粒子と、を備え、
前記顔料粒子が、金属酸化物で構成された母材、及び前記母材に内包又は分散された着色成分を含み、略球状の形状を有する、樹脂組成物を提供する。
【発明の効果】
【0008】
見る角度によって色が変化するのは、反射光が指向性を持っているからである。本発明によれば、顔料粒子が略球状の形状を有している。顔料粒子において、着色成分は、金属酸化物で構成された母材に内包又は分散されている。そのため、顔料粒子は、ランダムな構造を持った複合材料でありうる。この場合、顔料粒子の内部における屈折率の変化によって、可視光の反射特性に指向性が発生しにくい。つまり、可視光の散乱効果が高い。このような顔料粒子が塗膜等に含まれていると、見る角度による変色が抑制されうる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】L値の測定方法を示す概略図
【図2】実施例及び比較例のL値の角度依存性を示すグラフ
【図3】実施例及び比較例の波長と反射率との関係を示すグラフ
【図4】顔料粒子中の酸化チタン濃度と反射率との関係を示すグラフ
【図5】参考例に係る評価サンプルを模式的に示す断面図
【図6】参考例の隠蔽性を評価する装置を模式的に示す斜視図
【図7】参考例の隠避性の評価結果を示す写真
【図8】参考例のL値の角度依存性を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の塗膜又は樹脂組成物は、樹脂を含む基質と、基質に分散及び保持された顔料粒子と、を備えている。基質は、樹脂を主成分として構成されていてもよい。「主成分」とは、重量比で最も多く含まれた成分を意味する。塗膜又は樹脂組成物において、基質は、樹脂及びその他の添加剤等で構成されうる。樹脂組成物が液状の場合、基質は、樹脂、溶媒及びその他の添加剤等で構成されうる。塗膜及び樹脂組成物は、補強材としてのフィラーを含んでいてもよい。
【0011】
顔料粒子は、金属酸化物で構成された母材と、母材に内包又は分散された着色成分とで構成されている。母材に着色成分が内包又は分散されていると、着色成分が母材から脱離しにくい。また、顔料粒子の凝集及び付着も抑制される。従って、本実施形態の顔料粒子は、樹脂、他粉体又は液体中への分散性に優れ、着色成分が少量でも優れた発色又は隠蔽性能を発揮しうる。さらに、着色成分が粒子の表面に固定される場合に比べ、退色及び変色も起こりにくく、耐候性、耐酸性等にも優れる。
【0012】
顔料粒子が上述の構成である塗膜又は樹脂組成物は、樹脂を含む基質に着色成分を直接分散及び保持させた塗膜又は樹脂組成物と比較して、可視光の反射率を向上させることができる。これは、上述の顔料粒子と樹脂を含む基質との屈折率差が、着色成分と樹脂を含む基質との屈折率差に比べて大きいためである。
【0013】
顔料粒子は、略球状の形状を有しているので、鱗片状の顔料よりも高い強度を有する。従って、着色成分の脱離が起こりにくい。「略球状」とは、例えば、走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した際に、顔料粒子が全体的に丸みを帯びていることを意味する。具体的には、顔料粒子の最大直径をR1、最大直径の方向に直交する方向に関する顔料粒子の直径をR2と定義したとき、(R2/R1)で表される値の平均値(平均均斉度)が0.6以上である場合に「略球状」と判断できる。この平均値は、例えば、任意に選ばれた所定個数(例えば50個)の顔料粒子について算出する。(R2/R1)値の好ましい値は、0.8以上である。顔料粒子は、最も好ましくは球状である。
【0014】
顔料粒子の具体的な形態の一例としては、着色成分の粒子の周りを微小な金属酸化物の一次粒子が囲いつつ互いに結合し、二次粒子が全体として略球状をしている。また、金属酸化物の粒子と着色成分の粒子とがランダムに結合することによって、全体として球状の二次粒子(顔料粒子)が形成されていてもよい。
【0015】
顔料粒子は、例えば、1〜10μmの範囲に平均粒径を有する。顔料粒子が適切な平均粒径を有していると、塗膜又は樹脂組成物に顔料粒子を均一に分散させやすい。顔料粒子は、好ましくは、1〜6μmの範囲に平均粒径を有する。「平均粒径」は、レーザー回折式粒度計によって測定され、粒度分布の体積累積50%に相当する粒径(D50)を意味する。
【0016】
顔料粒子は、例えば、ゾルゲル法によって作製することができる。金属酸化物は、顔料粒子の母材を構成しうる。金属酸化物における金属は、特に限定されず、シリコン、チタン、アルミニウム及びジルコニウムからなる群より選ばれる少なくとも1種でありうる。これらの金属を含む材料は、工業的に容易に入手できる。一般的には、これら金属のアルコキシド、塩化物又は硝酸塩がゾルゲル法に用いられる。
【0017】
特に好ましい金属はシリコンである。使用できる材料としては、シリコンアルコキシドが代表的である。シリコンアルコキシドは、入手しやすく、安価である。シリコンアルコキシドとしては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン等が挙げられる。また、シリコンアルコキシドが部分的に縮合した2量体以上の重合体として、エチルシリケート40、エチルシリケート45、メチルシリケート51(いずれも、コルコート社の商品名)等が市販されており、このようなシリコンアルコキシドを使
用することも可能である。
【0018】
また、チタンアルコキシド、アルミニウムアルコキシド又はジルコニウムアルコキシドを使用することも可能である。目的に応じて、複数種類のアルコキシドを使用してもよい。さらに、上記金属酸化物の微粒子が顔料粒子に含まれていてもよい。例えば、コロイダルシリカ及びコロイダルアルミナは、それぞれ、シリカゾル及びアルミナゾルと呼ばれ、市販されている。
【0019】
さらに、酸化セリウム、酸化鉄、酸化亜鉛、酸化錫、酸化インジウム等の金属酸化物が顔料粒子に含まれていてもよい。これらの金属酸化物を含ませることにより、屈折率、反射率、硬度、導電性、紫外線遮蔽性能、磁気的性能等を制御することができる。
【0020】
着色成分の含有率は、顔料粒子の重量に対して、例えば0.1〜95重量%の範囲にあり、好ましくは20〜80重量%、より好ましくは50〜78重量%、さらに好ましくは60〜78重量%の範囲にある。着色成分の含有量が少なすぎると発色が不十分となる可能性がある。着色成分の含有量が多すぎると母材中に着色成分を保持することが困難となる可能性がある。
【0021】
着色成分は、無機物であってもよいし、有機物であってもよい。両者を組み合わせて使用することもできる。
【0022】
無機の着色成分としては、酸化チタン、酸化亜鉛等の白色系顔料;酸化鉄(ベンガラ)、チタン酸鉄等の赤色系顔料;γ酸化鉄等の褐色系顔料;黄酸化鉄、黄土等の黄色系顔料;黒酸化鉄、カーボンブラック等の黒色系顔料;マンガンバイオレット、コバルトバイオレット等の紫色系顔料;酸化クロム、水酸化クロム、チタン酸コバルト等の緑色系顔料;群青、紺青等の青色系顔料;アルミニウム粉末、銅粉末等の金属粉末顔料が挙げられる。
【0023】
有機の着色成分としては、赤色201号、赤色202号、赤色204号、赤色205号、赤色220号、赤色226号、赤色228号、赤色405号、橙色203号、橙色204号、黄色205号、黄色401号、青色404号等の有機顔料;赤色3号、赤色104号、赤色106号、赤色227号、赤色230号、赤色401号、赤色505号、橙色205号、黄色4号、黄色5号、黄色202号、黄色203号、緑色3号、青色1号等のジルコニウム、バリウム又はアルミニウムレーキの有機顔料;コチニール色素、ラック色素、ベニコウジ色素、ベニコウジ黄色素、クチニシ赤色素、クチニシ黄色素、ベニバナ赤色素、ベニバナ黄色素、ビートレッド、ウコン色素、アカキャベツ色素、クロロフィル、β−カロチン、スピルリナ色素、カカオ色素等の天然色素;微結晶性セルロース;キナクリドン系、ジオキサジン系、ペリレン系、ペリノン系、インジゴ系、スレン系、イソインドリノン系、ジケトピロロピロール系、アントラキノン系、フタロシアニン系の有機顔料が挙げられる。これらは、単独又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0024】
顔料粒子は、蛍光増白剤をさらに含んでいてもよい。特に、顔料粒子の着色成分が酸化チタンのとき、蛍光増白剤による効果を十分に得ることができる。
【0025】
顔料粒子は、ワックスをさらに含んでいてもよい。この場合、鮮やかな発色が得られる。また、着色成分の脱離がさらに抑制され、着色成分の耐水性及び耐候性が向上する。ワックスが着色成分を覆い、ワックスで覆われた着色成分を母材が内包していると好ましい。しかし、金属酸化物で構成された母材の隙間又は金属酸化物で構成された一次粒子の隙間をワックスが埋める形態となっていても充分効果がある。
【0026】
ワックスとしては、日本工業規格(JIS)K2235に基づいて測定される融点が50〜100℃の範囲にあるものを使用できる。具体的には、パラフィンワックス、マイク
ロクリスタリンワックス等の石油ワックスが挙げられる。固体状態のワックスの他、エマルジョン又はサスペンジョンが使用される。ワックスの含有量は、例えば、100重量部の着色成分に対して20〜300重量部の範囲にあり、100重量部の母材に対し5〜150重量部の範囲にあり、好ましくは、100重量部の着色成分に対し30〜200重量部の範囲かつ100重量部の母材に対し8〜100重量部の範囲にある。
【0027】
顔料粒子は、紫外線吸収剤をさらに含んでいてもよい。この場合、着色成分の耐光性がさらに向上する。紫外線吸収剤としては、4−t−ブチル−4’−メトキシジベンゾイルメタン、p−ジメチルアミノ安息香酸2−エチルヘキシル、2,2’−ジヒドロキシ−4,4’−ジメトキシベンゾフェノン−5,5’−ジスルホン酸二ナトリウム、p−メトキシけい皮酸2−エチルヘキシル、4−ヒドロキシ−3−メトキシけい皮酸、2−フェニルベンズイミダゾール−5−スルホン酸、ジメトキシベンジリデンジオキソイミダゾリジンプロピオン酸エチルヘキシル等が挙げられる。紫外線吸収剤の含有率は、顔料粒子の重量に対して、例えば0.1〜10重量%の範囲にある。紫外線吸収剤が少なすぎると紫外線吸収による着色成分の耐光性向上効果を期待できず、多すぎると着色成分の耐光性がもはや向上しない。
【0028】
その他、本発明の効果を阻害しない範囲内で、分散剤、界面活性剤、有機高分子、増粘剤等の添加剤が顔料粒子に含まれていてもよい。
【0029】
塗膜又は樹脂組成物における樹脂の種類は特に限定されない。樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレンコポリマー、ポリメチルペンテン、ポリスチレン(PS)、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン(ABS)樹脂、アクリロニトリル−スチレン(AS)樹脂、AES樹脂、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、ポリアミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリイミド、ポリアリレート、ポリアセタール、ポリカーボネート(PC)、ポリフェニレンエーテル、ポリスチレン、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルサルホン、ポリブタジエン等が挙げられる。これらの樹脂の共重合体、混合物又は変性物も本発明に使用できる。
【0030】
塗膜における顔料粒子の含有率は、例えば11〜90重量%の範囲にあり、好ましくは17〜88重量%、より好ましくは53〜79重量%の範囲にある。顔料粒子が多すぎると塗膜の強度が不足する可能性があり、少なすぎると発色及び隠蔽性能が不足する可能性がある。
【0031】
樹脂組成物における顔料粒子の含有率は、樹脂組成物の固形分に対して、例えば11〜90重量%の範囲にあり、好ましくは17〜88重量%、より好ましくは53〜79重量%の範囲にある。顔料粒子が多すぎると塗膜の強度が不足する可能性があり、少なすぎると発色及び隠蔽性能が不足する可能性がある。
【0032】
着色成分として、酸化チタンの使用が推奨される。これにより、白色の塗膜又は樹脂組成物が得られる。塗膜又は樹脂組成物における酸化チタンの含有率は、例えば10〜85重量%の範囲にあり、好ましくは14〜75重量%、より好ましくは37〜68重量%の範囲にある。着色成分の酸化チタンの平均粒径が小さすぎると、塗膜又は樹脂組成物の光透過率が上昇し、塗膜又は樹脂組成物の光の反射率が低下してしまう。また、着色成分の酸化チタンの平均粒径が大きすぎると、塗膜又は樹脂組成物の散乱効率が低下し、広角度で白色性を維持するのが難しくなる。これらの観点から、着色成分としての酸化チタンの平均粒径は、100〜500nmが好ましく、150〜450nmがより好ましく、200〜350nmがさらに好ましい。
【0033】
ところで、樹脂を含む基質に酸化チタン粒子を直接分散させた白色の塗膜又は樹脂組成物は、可視光に対する反射率について改善の余地があった。着色成分として酸化チタンが内包又は分散された顔料粒子は、塗膜又は樹脂組成物の可視光に対する反射率を向上させることができる。すなわち、樹脂を含む基質に酸化チタンが内包又分散された顔料粒子を分散及び保持させて得られる塗膜又は樹脂組成物は、樹脂を含む基質に酸化チタンを直接分散及び保持させて得られる塗膜又は樹脂組成物よりも反射率を向上させることができる。これは、酸化チタンを内包又は分散された顔料樹脂と樹脂を含む基質との屈折率差が、酸化チタンと樹脂を含む基質との屈折率差よりも大きいためである。
【0034】
塗膜又は樹脂組成物の可視光に対する反射率向上の観点からは、顔料粒子中の酸化チタンの含有率の範囲は30〜90重量%が好ましく、40〜80重量%がより好ましく、54〜74重量%の範囲がさらに好ましい。
【0035】
顔料粒子は、(i)着色成分と、金属化合物を加水分解させることによって得られるゾ
ル溶液とを含む混合ゾル溶液を調製する工程と、(ii)その混合ゾル溶液から顔料粒子を形成する工程と、を経て製造することができる。
【0036】
例えば、着色成分及びシリカゾルを含む混合ゾル溶液は、シリカコロイドの溶液に着色成分を混合して調製することができる。また、シリコンテトラメトキシド、シリコンテト
ラエトキシド等のシリコンアルコキシドの加水分解脱水縮合液に着色成分を混合して調製してもよい。さらに、シリカ源として水ガラス(珪酸ナトリウム)を混合ゾル溶液に加えてもよい。
【0037】
混合ゾル溶液中の着色成分の含有率は、全固形分に対して、例えば0.1〜95重量%の範囲にあり、好ましくは20〜80重量%の範囲にあり、さらに好ましくは50〜78重量%の範囲にある。
【0038】
混合ゾル溶液は、着色成分の分散性を向上させるために、分散剤を含んでいてもよい。分散剤としては、モノステアリン酸ソルビタン、モノオレイン酸ソルビタン、トリオレイン酸ソルビタン、モノラウリン酸ポリオキシエチレンソルビタン、モノオレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン、モノステアリン酸ポリオキシエチレンソルビタン、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム、モノステアリン酸グリセリン、モノステアリン酸プロピレングリコール、イソステアリルグリセリルエーテル、モノステアリン酸ポリエチレングリコール、ジステアリン酸ポリエチレングリコール、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油等が挙げられる。
【0039】
次に、混合ゾル溶液から顔料粒子を形成する。例えば、混合ゾル溶液を噴霧乾燥することによって、顔料粒子を得ることができる。噴霧乾燥は、高温雰囲気下に液体を微粒化して散布することによって直接乾燥して粒子を得る技術である。噴霧乾燥は、例えば、スプレードライヤーを用いて、混合ゾル溶液の溶媒(水、アルコール等)が蒸発するのに十分な温度の雰囲気下に、混合ゾル溶液を噴霧することによって行うことができる。噴霧乾燥することによって、着色成分が金属酸化物のコロイド粒子に囲まれて金属酸化物の母材中に強固に内包及び/又は分散された略球状の顔料粒子が形成される。噴霧乾燥では、金属酸化物と着色成分とを全て噴霧乾燥で粒子化することができるため、歩留まりが高くなる。また、噴霧乾燥するだけで十分に乾燥した顔料粒子が得られるため、製造方法を簡素化することができる。その結果、顔料粒子の生産コストも低減する。
【0040】
噴霧乾燥工程の後に、得られた顔料粒子を熱処理する工程をさらに行ってもよい。当該熱処理によって、顔料粒子をさらに乾燥することができる。また、シリコンアルコキシド等の加水分解脱水縮合液を用いた場合には、脱水縮合をさらに進行させることもできる。さらに、着色成分の分解が起こらない温度範囲で熱処理温度を高くすることによって、顔料粒子を焼結してもよい。熱処理の温度及び時間については、目的に応じて適宜決定すればよい。この他、例えば酸化チタンを着色成分として用いた場合には、酸素を除去した不活性な気体雰囲気中、母材(例えばシリカ)の粘性流動が起こる温度、例えば800〜1000℃で2〜5時間熱処理することで、酸化チタンを残したままシリカを緻密化して白色シリカ微粒子を得ることも可能である。
【0041】
このようにして、多量の着色成分が母材中に内包及び/又は分散した略球状の顔料粒子を得ることができる。具体的には、着色成分がコロイド粒子(一次粒子)に囲まれ、二次粒子が全体として略球状をしている顔料粒子を得ることができる。
【0042】
得られた顔料粒子を塗料及び樹脂組成物に混ぜて使用することができる。
【0043】
塗料を基板に塗布することによって塗膜が形成される。以下の方法により角度Aを変えて塗膜のL値(L***表色系(CIE(国際照明委員会) 1976)における明度指数L*)を測定したとき、L値の最大値と最小値との差が、0〜5の範囲を示す。L値の最大値と最小値との差がこの範囲にあると、L値の角度依存性が小さくなり広角度で明度を維持することができる。すなわち、可視光の反射特性に指向性が発生しにくく、見る角度による変色が抑制されうる。L値の最大値と最小値との差は、0〜3の範囲がより望ましく、0〜2の範囲がさらに望ましい。
【0044】
L値の測定方法について、図1を参照しながら説明する。図1に示すように、光源81を用い、塗膜80の表面に対して45°の角度をなす方向から光を入射させる。入射した光が塗膜80の表面で正反射される方向(すなわち、膜面から45°)から光源81に向かって角度A(15°)をなす方向で反射光を受光してL値の測定を行う。同様にして、角度Aを、25°、45°、75°及び110°に設定してL値の測定を行う。光源81として、JIS Z 8720(2000)に規定されたD65光源を用いる。なお、この測定には例えばマルチアングル分光測色計(カラーテクノシステム社製X−Rite MA68II)を用いることができる。
【0045】
顔料粒子を含む塗料又は樹脂組成物は、様々な分野で利用しうる。例えば、ディスプレイを有する電子機器の筐体を塗装するために、顔料粒子を含む塗料を用いることができる。塗膜の隠蔽性が十分でない場合、筐体内のディスプレイのバックライト光がこの塗膜を透過してしまうおそれがある。
【0046】
そこで、塗装の隠蔽性を向上させるために第1の層と第1の層の一方の主面に形成された第1の層よりも明度の低い第2の層とを含む塗膜を用いることが考えられる。第1の層は、顔料粒子が分散及び保持された白色の塗膜である。第2の層としては、第1の層よりも明度の低い塗膜である。例えば、灰色を呈する塗膜を第2の層として用いることができる。例えば、電子機器の筐体等の基板の上に第2の層を形成し、さらに、第2の層の上に第1の層を形成する。このようにすれば、基板の色、基板に記載された文字等を確実に隠蔽できる。なお、ここで「白色」とは、黒色に着色するための顔料を含まない(顔料として白色に着色するもののみを含む)ことを意味し、「灰色」とは、黒色に着色するための顔料及び白色に着色するための顔料を含むことを意味する。
【実施例】
【0047】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明は、これら実施例に限定されるものではない。
【0048】
(実施例1〜4)
酸化チタン(石原産業社製:CR−50)の水分散液(酸化チタン:25重量%+ポリカルボン酸型高分子界面活性剤:1.7%)をジルコニアビーズミルにより調製した。この水分散液にテトラメトキシシラン及びコロイダルシリカ(日本化学工業社製:シリカドール(登録商標)30)を混合し、混合ゾルを得た。さらに、酸化チタン、シリカ、分散剤等の固形分が18.4%になるように純水を使って混合ゾルを希釈した。混合ゾルの無機固形分中の酸化チタンの含有率は、50〜78重量%の範囲であった。
【0049】
次に、スプレードライヤー(藤崎電機社製MDL−050)を用いて混合ゾルを乾燥させ、酸化チタン内包シリカ粒子を作製した。平均粒径が1〜10μmの範囲に収まるように噴霧条件を設定した(推奨条件:ゾル送量=30g/分)。その後、酸化チタン内包シリカ粒子を600℃で7時間焼成した。
【0050】
次に、酸化チタン内包シリカ粒子をエポキシ系クリアー樹脂(セイコーアドバンス社製:1300シリーズ−800メジューム、固形分53%)に混ぜ、溶剤(セイコーアドバンス社製:T−1000)で固形分濃度が60〜73重量%の範囲に収まるように希釈し、ペイントシェーカーにて1000rpmで5分間攪拌し、インクを調製した。詳細には、乾燥後の塗膜における酸化チタンの含有率が37〜68重量%の範囲に収まるように、インクを調製した。
【0051】
100mm×100mmのソーダライムガラス基板上に手動のスクリーン印刷機(♯255メッシュ)を用いて、印刷を行った。乾燥後の塗膜の厚さが15〜22μmの範囲に収まるように1〜6回の重ね塗りを実施した。なお、重ね塗りの間に100℃、5分間の乾燥工程を実施した。最後の仕上げ乾燥は150℃、30分間の条件で行った。
【0052】
このようにして、実施例1〜4の塗膜をガラス基板上に形成した。
【0053】
(比較例1〜3)
比較用のインクとして、3種類の白色インク(セイコーアドバンス社製、白1300:顔料濃度37重量%、白1300コンク:顔料濃度44重量%、白1300超コンク:顔料濃度62重量%)を使用した。これらのインクは、顔料粒子として、酸化チタン粒子を含む。固形分濃度が70〜73重量%の範囲に収まるように溶剤(T−1000)で各インクを希釈した。その後、実施例と同じ方法でガラス基板上に塗膜を形成した。
【0054】
上述の酸化チタン内包シリカ粒子を含む塗膜の反射率を測定するために、以下の方法で実施例5及び比較例4の塗膜を作製した。
【0055】
(実施例5)
実施例3と同様にして得た酸化チタン内包シリカ粒子を、アクリル樹脂(日本ペイント社製:オートクリアー)に混ぜ、ペイントシェーカーにて1000rpmで5分間攪拌し、インクを調製した。詳細には、乾燥後の塗膜における酸化チタン内包シリカ粒子が10重量%となるように、インクを調製した。この調製したインクをPETフィルムにドクターブレード法によって塗布して塗膜を得た。
【0056】
(比較例4)
実施例5の酸化チタン内包シリカ粒子に替えて酸化チタン(石原産業社製:CR−50)を用い、実施例5と同様にしてインクを調製した。乾燥後の塗膜における酸化チタンの含有率は10重量%であった。この調製したインクをPETフィルムにドクターブレード法によって塗布して塗膜を得た。
【0057】
(評価1)
マルチアングル分光測色計(カラーテクノシステム社製X−Rite MA68II)を用い、上述の角度Aを15°、25°、45°、75°及び110°に設定して、上述の方法で、各塗膜のL値(明度)を測定した。結果を表1及び図2に示す。表1に示すように、L値の最大値と最小値との差(max−min)を計算した。
【0058】
【表1】

【0059】
当業者に知られているように、白色度の変化はL値で表すことができる。白色度が低下し黄変すると、くすんで暗く見えるため、明度が低下する。図2に示すように、実施例1〜4は、L値の角度依存性が小さかった。例えば、実施例1〜4の(max−min)値は、0.87〜1.55であったに対し、比較例1〜3の(max−min)値は5.3〜6.14であった。つまり、実施例1〜4の塗膜は、比較例1〜3と比べて広角度で白色性を維持していた。
【0060】
(評価2)
積分球及び分光光度計(島津製作所社製UV‐3600)を用いて、実施例5及び比較例4について反射率を測定した。結果を図3に示す。可視光領域(400nm〜800nm)の全体にわたり、実施例5の反射率は比較例4の反射率よりも高かった。
【0061】
次に、酸化チタン内包シリカ粒子(顔料粒子)に含まれた酸化チタンの量と可視光反射率との関係を調べた。
【0062】
まず、酸化チタンの含有率が30重量%又は50重量%である酸化チタン内包シリカ粒子を用いたことを除き、実施例5と同じ条件で塗膜を作製した。これらの塗膜と、実施例5の塗膜と、比較例4の塗膜の可視光反射率を測定した。可視光として波長465nmの光を使用した。結果を図4に示す。反射率は顔料粒子中の酸化チタン濃度に対して極大値を持っていた。近似曲線から66重量%付近で反射率が最大となる。顔料粒子中の酸化チタン濃度が30重量%〜90重量%の範囲で、高い反射率を示した。
【0063】
次に、着色成分として酸化チタンを含む上述の顔料粒子が分散及び保持された白色の塗膜の隠蔽性を評価する目的で参考例を作製した。
【0064】
(参考例1)
図5は、参考例1の評価サンプル6の模式的な断面図を示す。サンプル6はガラス基板60、透明層61、第1の層62及び第2の層63がこの順に積層されて形成されている。第1の層61は実施例1〜4と同様にして形成された白色インクの層である。また第2の層63は、第2の層よりも明度が低く灰色を呈する灰色インクの層である。第1の層62及び第2の層63によって塗膜65が形成されている。透明層61は、第1の層62及び第2の層63からなる塗膜がガラス基板から剥がれにくくするために設けられており、樹脂(セイコーアドバンス社製:1300シリーズ クリアー)からなる。ここで、透明層61は、波長465nmの光を85%以上透過させる層である。
【0065】
第2の層63の灰色インクは、白色インク(セイコーアドバンス社製、白1300:顔料濃度37重量%、溶剤比率3.7重量%、固形分濃度703重量%)と黒色インク(セイコーアドバンス社製、黒1300:顔料濃度14重量%、溶剤比率25重量%、固形分濃度40.1重量%)とを重量比で4:1となるように混合することによって調製した。
【0066】
100mm×100mmのソーダライムガラス基板60上に樹脂(セイコーアドバンス社製:1300シリーズ クリアー)をスクリーン印刷によって塗布し乾燥させて透明層61を形成した。透明層61の上にスクリーン印刷により白色インクを塗布し乾燥させて第1の層62を形成した。さらに、第1の層62の上にスクリーン印刷により灰色インクを塗布し乾燥させて第2の層63を形成した。このようにして参考例1の評価サンプルを作製した。
【0067】
(参考例2)
第2の層63を形成しなかったこと以外は、参考例1と同様にして参考例2の評価サンプルを作製した。
【0068】
(評価)
図6は、参考例1及び参考例2の評価サンプルの隠蔽性評価に用いる装置4を模式的に示す斜視図である。装置4は、ランプボックス41、拡散板42及びテストチャート43がこの順で積層された構造を有する。参考例1の評価サンプルの第2の層又は参考例2の評価サンプルを第1の層がテストチャート43に向かい合うように、参考例1の評価サンプル又は参考例2の評価サンプルをテストチャート43の上に載置した。ランプボックス41内のランプを点灯させ評価サンプルに向かって光を照射した。光を照射したときのテストチャート43の文字の透過具合を目視により確認した。図7に評価結果を示す。
【0069】
さらに、参考例1及び参考例2の評価サンプルの塗膜の第1の層について、実施例1〜4及び比較例1〜3に対して行った方法と同様の方法で、L値の角度依存性を測定した。具体的には、図5のガラス基板60側から第1の層62に光源81を用いて光を入射させてL値の角度依存性を測定した。図8に測定結果を示す。
【0070】
図7(a)は参考例1に係る評価サンプルの隠蔽性の評価結果を示し、図7(b)は参考例2に係る評価サンプルの隠蔽性の評価結果を示す。参考例1では、テストチャートの文字「NSG」が視認できず、参考例2に比べて隠蔽性が向上していた。
【0071】
図8に示す通り、参考例1に係る評価サンプルは、参考例2に係る評価サンプルとL値の角度依存性について大きな差はなかった。すなわち、灰色インクの第2の層を用いても広角度で白色性を維持できていた。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明の塗膜及び樹脂組成物は、電子機器、絵具、文具、化粧品、建築物、標識、輸送機器等の様々な分野での応用が期待できる。
【符号の説明】
【0073】
80 塗膜
81 光源
82 ディテクター

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂を主成分として構成された基質と、
前記基質に分散及び保持された顔料粒子と、を備え、
前記顔料粒子が、金属酸化物で構成された母材、及び前記母材に内包又は分散された着色成分を含み、略球状の形状を有する、塗膜。
【請求項2】
前記金属酸化物の金属が、シリコン、チタン、アルミニウム及びジルコニウムからなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項1に記載の塗膜。
【請求項3】
前記金属酸化物の金属がシリコンである、請求項1に記載の塗膜。
【請求項4】
前記着色成分が酸化チタンである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の塗膜。
【請求項5】
前記顔料粒子における前記酸化チタンの含有率が30〜90重量%の範囲にある、請求項4に記載の塗膜。
【請求項6】
前記顔料粒子における前記酸化チタンの含有率が50〜78重量%の範囲にある、請求項4又は5に記載の塗膜。
【請求項7】
前記塗膜における前記酸化チタンの含有率が37〜68重量%の範囲にある、請求項4〜6のいずれか1項に記載の塗膜。
【請求項8】
前記顔料粒子が1〜10μmの範囲に平均粒径を有する、請求項1〜7のいずれか1項に記載の塗膜。
【請求項9】
前記顔料粒子の最大直径をR1、前記最大直径の方向に直交する方向に関する前記顔料粒子の直径をR2と定義したとき、
(R2/R1)で表される値の平均値が0.6以上である、請求項1〜8のいずれか1項に記載の塗膜。
【請求項10】
前記顔料粒子が蛍光増白剤をさらに含む、請求項1〜9のいずれか1項に記載の塗膜。
【請求項11】
JIS Z 8720(2000)に規定されたD65光源を用い、前記塗膜の表面に対して45°の角度をなす方向から光を入射させ、入射した光が前記塗膜の表面で正反射される方向から前記光源に向かって角度Aをなす方向で反射光を受光してL値を測定する場合において、
前記角度Aを15°、25°、45°、75°、110°に設定して測定した前記L値のうち、最大値と最小値の差が0〜5の範囲である、請求項1〜10のいずれか1項に記載の塗膜。
【請求項12】
樹脂を主成分として構成された基質と、
前記基質に分散及び保持された顔料粒子と、を備え、
前記顔料粒子が、金属酸化物で構成された母材、及び前記母材に内包又は分散された着色成分を含み、略球状の形状を有する、樹脂組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図8】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−214740(P2012−214740A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−69443(P2012−69443)
【出願日】平成24年3月26日(2012.3.26)
【出願人】(000004008)日本板硝子株式会社 (853)
【Fターム(参考)】