説明

塗膜形成方法及びプラスチック成形体

【課題】
熱伝導を遮断するもののその表面温度の上昇がみられるプラスチック成形品に好適に適用され、表面色が濃色系であるプラスチック成形体に対しても良好な遮熱性を付与するための塗膜形成方法及び上記方法によって得られたプラスチック成形体を提供する。
【解決手段】
プラスチック成形体の表面に遮熱性カラー塗料による塗装を施すことによって遮熱性塗膜を形成する工程からなる塗膜形成方法であって、プラスチック成形体の塗装後の遮熱性塗膜の日射反射率は、780〜2100nmの波長域において20%以上であり、上記プラスチック成形体は、表面色が濃色系であることを特徴とする塗膜形成方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗膜形成方法及びプラスチック成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチック成形品は、金属材料に比べて熱伝導性が悪いため熱放射性が悪く、直射日光を受けた場合には、温度上昇を生じ易い。このため、夏場に直射日光にさらされ、表面温度が上昇したプラスチック成形品に触れると、火傷を生じるおそれがある。このため、自動車用内装材や建築用素材のように、直射日光にさらされる用途においてプラスチック成形品を使用する場合には、このようなプラスチック成形品の表面温度の上昇を抑制することが好ましい。
【0003】
特に、濃色系の塗装を施した場合に、このような問題は顕著なものとなる。したがって、インストメンタルパネル、ハンドル等のように、自動車運転時の安全上の視界確保や意匠性の観点から濃色であることが好ましい用途においては、このような問題が特に顕著なものとなりやすく、成形品の温度上昇を防止することが要求されている。
【0004】
遮熱効果付与を目的として、遮熱性塗料を自動車ボディに塗装する方法(例えば、特許文献1)や、遮熱性塗料を屋根材等の建築用外装材に塗装する方法(例えば、特許文献2、3)等が知られている。しかしこのような方法は、自動車ボディや建築物のような空間を構成する素材において、外部からの熱を遮断することにより居住空間内の温度上昇を防ぐことを目的としたものである。これは、上述の方法における被処理物である鉄や鋼板等の素材自体が遮熱性であることから、素材表面の温度は上昇せず内部空間の温度が上昇することに起因するものであって、熱伝導を遮断するもののその表面温度の上昇がみられるプラスチック成形品の温度上昇を防止する方法ではなかった。
【0005】
また、プラスチック成形品に対して赤外線透過層を形成することにより、プラスチック成形品の温度上昇を抑制する方法(例えば、特許文献4及び5参照)が知られている。しかしながら、このような方法は、表面色が白であるプラスチック成形品を被処理物としたものである。すなわち、白のプラスチック成形品表面を赤外線反射層とし、赤外線による温度上昇を抑制したものである。このようなプラスチック成形品に、特に自動車内装材等に安全上の理由から濃色系の塗装を施した場合、赤外線を吸収して表面温度が上昇し、ひいては車内温度も上昇するという欠点があった。更に、傷、はがれ等により塗膜が欠損した場合に明度が高いプラスチック表面が外部に露出することによって外観が悪化しやすいという欠点があった。
【0006】
【特許文献1】特開平5−293434号公報
【特許文献2】特開2000−279881号公報
【特許文献3】特開2002−012825号公報
【特許文献4】特開平11−302549号公報
【特許文献5】特開2002−60698号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記に鑑み、熱伝導を遮断するもののその表面温度の上昇がみられるプラスチック成形品に好適に適用され、表面色が濃色系であるプラスチック成形体に対しても良好な遮熱性を付与するための塗膜形成方法及び上記方法によって得られたプラスチック成形体を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、プラスチック成形体の表面に遮熱性カラー塗料による塗装を施すことによって遮熱性塗膜を形成する工程からなる塗膜形成方法であって、プラスチック成形体の塗装後の遮熱性塗膜の日射反射率は、780〜2100nmの波長域において20%以上であり、上記プラスチック成形体は、表面色が濃色系であることを特徴とする塗膜形成方法である。
【0009】
上記プラスチック成形体は、表面色がL、a、b表色系で表される色空間で、L値が80以下であることが好ましい。
上記遮熱性カラー塗料は、黒色系顔料として780〜2100nmの波長域における日射反射率が30%以上である黒色系顔料を含有するものであることが好ましい。
上記遮熱性カラー塗料は、更に、780〜2100nmの波長域における日射反射率が70%以上である白色系顔料、780〜2100nmの波長域における日射反射率が30%以上である青色系顔料、780〜2100nmの波長域における日射反射率が40%以上である赤色系顔料、780〜2100nmの波長域における日射反射率が20%以上である緑色系顔料、及び、780〜2100nmの波長域における日射反射率が40%以上である黄色系顔料からなる群から選択される少なくとも一種の原色顔料を含有するものであることが好ましい。
【0010】
上記遮熱性塗膜は、単層であっても複層であってもよいが、プライマー塗膜及び上塗り塗膜からなる複層塗膜であり、少なくとも上記上塗り塗膜は、遮熱性カラー塗料によって形成されたものであることが好ましい。
上記遮熱性塗膜は、膜厚が10〜100μmであることが好ましい。
【0011】
上記プラスチック成形体は、自動車内装材であることが好ましい。
上記プラスチック成形体は、ポリプロピレン又はABS樹脂からなるものであり、遮熱性塗膜は、オレフィン系樹脂組成物からなる遮熱性カラー塗料によって形成されたものであることが好ましい。
【0012】
本発明は、上述した塗膜形成方法によって形成された塗膜を有することを特徴とするプラスチック成形体でもある。
本発明は、表面色が濃色系のプラスチック成形体の上に、遮熱性被膜を有するプラスチック成形体であって、上記遮熱性被膜を有するプラスチック成形体の日射反射率は、780〜2100nmの波長域において20%以上であることを特徴とするプラスチック成形体でもある。
上記遮熱性被膜は、プライマー被膜及び上塗り被膜からなる複層被膜であり、少なくとも上記上塗り被膜は、遮熱性カラー塗料によって形成されたものであることが好ましい。
以下、本発明を詳細に説明する。
【0013】
本発明の塗膜形成方法は、プラスチック成形体の表面に遮熱性カラー塗料による塗装を施すことによって、遮熱性塗膜を形成する工程からなるものであり、塗装後のプラスチック成形体は、780〜2100nmの波長域における日射反射率が20%以上である。すなわち、使用する遮熱性カラー塗料やその塗装方法を調整し、表面が上記日射反射率を有するものとすることによって、プラスチック成形体の温度上昇が顕著に抑制され、上述したような問題が解決されることによって、直射日光を受ける用途にも好適に使用することができるものである。
【0014】
塗装物品の温度上昇は、塗膜自体の物性のみによって決定されるものではなく、被塗物の物性も関与するため、塗膜自体の物性や被塗物の物性等の各物性だけではなく、これらの組み合わせも関与する場合がある。特に、熱遮蔽効果の少ない被塗物に対して塗装を行う場合と、熱遮蔽効果を有する被塗物に対して塗装を行う場合とでは、塗装物品の熱遮蔽効果を単純に比較することはできない。本発明者らは、種々の実験を行うことによって、熱遮蔽効果の少ない濃色系のプラスチック成形体を被塗物とした場合に、無塗装時と比較して表面温度上昇抑制に優れた塗膜を形成しうる塗料組成を検討し、本発明を完成したものである。
【0015】
本発明において、塗装を施すプラスチック成形体は、表面色が濃色系である。濃色系としては特に限定されず、黒、グレー、ブラウン等を挙げることができる。特に温度上昇抑制の点からは、黒色系がより著しく効果を発揮する。本発明における濃色系とは、表面色がL、a、b表色系で表される色空間で、L値が80以下であることが好ましく、70以下であることがより好ましく、60以下であることが更に好ましく、50以下であることが最も好ましい。
本発明の塗膜形成方法は、上記表面色が濃色系であるプラスチック成形体に対しても良好な遮熱性を付与し、温度上昇を抑制することができるものであることから、経時的に外観の悪化という問題を生じることもない。
【0016】
なお、「日射反射率」の用語の意義は、JIS A 5759に記載されており、そこでは350〜2100mmの波長域であるが、本明細書における「日射反射率」は、太陽光の780〜2100nmの波長域における波長ごとの強度によりウエイト付けした反射率を意味するものとする。
【0017】
上記塗装後のプラスチック成形体の表面の日射反射率を上記範囲のものとするためには、遮熱性カラー塗料を使用することが必要である。上記遮熱性カラー塗料は、太陽熱反射特性を有する着色系顔料を組み合わせることによって得られるカラー塗料である。
【0018】
上記遮熱性カラー塗料は、780〜2100nmの波長域における日射反射率が30%以上である黒色系顔料を含有するものであることが好ましい。本発明において、被処理物であるプラスチック成形体が濃色系であることから、黒色系顔料を遮熱性カラー塗料に配合することが好ましい。この場合に、黒色系顔料として日射反射率が30%以上のものを使用することによって、効率よく本発明の目的を達成することができるため、好ましい。上記780〜2100nmの波長域における日射反射率が30%以上である黒色系顔料は、塗膜中に0.1〜30質量%の割合で含まれることが好ましい。
【0019】
上記遮熱性塗膜としては特に限定されず、例えば、黒、グレー、ブラウン、青、黄、グリーン等を挙げることができる。
【0020】
更に、遮熱性カラー塗料は、780〜2100nmの波長域における日射反射率が70%以上である白色系顔料、780〜2100nmの波長域における日射反射率が30%以上である青色系顔料、780〜2100nmの波長域における日射反射率が40%以上である赤色系顔料、780〜2100nmの波長域における日射反射率が20%以上である緑色系顔料、及び、780〜2100nmの波長域における日射反射率が40%以上である黄色系顔料からなる群から選択される少なくとも一種の原色顔料を含有することにより着色したものであることが好ましい。上記原色顔料を組み合わせて使用した遮熱性カラー塗料による塗装を行うことによって、塗装後のプラスチック成形体の780〜2100nmの波長域における表面の日射反射率を20%以上とすることができる。上記遮熱性カラー塗料は、温度上昇を生じるおそれがあることから、上述した以外の原色顔料を含有しないか、使用しても温度上昇に影響を与えない範囲の使用にとどめることが好ましい。上記原色顔料は、塗膜中に3〜50質量%の割合で含まれることが好ましい。
【0021】
なお、ここで各顔料の日射反射率は、顔料、樹脂及び溶剤の混合物を分散機で分散して得られた分散体(原色)を白色の下地に膜厚100μmとなるように塗装し、分光光度計(日立製作所社製、Uー3500スペクトロフォトメーター)を用いて測定した780〜2100nmの波長域における反射率をもとに、JIS A 5759に記載の方法に従って算出した値である。ここで上記分散体における顔料の濃度としては、下地の白を完全に隠蔽できる量であれば特に限定されない。例えば、固形分換算で、白色系顔料の濃度は65〜85質量部、黒色系顔料の濃度は10〜20質量部、青色系顔料の濃度は35〜45質量部、赤色系顔料の濃度は50〜60質量部、黄色系顔料の濃度は60〜70質量部が好ましい
【0022】
上記白色系顔料の日射反射率は、70%以上であれば本発明の効果を奏することができるが、好ましくは75%以上であり、より好ましくは80%以上であり、更に好ましくは85%以上である。上記青色系顔料の日射反射率は、30%以上であれば本発明の効果を奏することができるが、好ましくは35%以上である。上記赤色系顔料の日射反射率は、40%以上であれば本発明の効果を奏することができるが、好ましくは45%以上であり、より好ましくは50%以上であり、更に好ましくは55%以上である。
【0023】
上記緑色系顔料の日射反射率は、20%以上であれば本発明の効果を奏することができるが、好ましくは25%以上であり、より好ましくは30%以上であり、更に好ましくは35%以上である。上記黄色系顔料の日射反射率は、40%以上であれば本発明の効果を奏することができるが、好ましくは45%以上であり、より好ましくは50%以上であり、更に好ましくは55%以上である。上記黒色系顔料の日射反射率は、30%以上であれば本発明の効果を奏することができるが、好ましくは35%以上であり、より好ましくは40%以上であり、更に好ましくは45%以上である。
【0024】
上記原色顔料としては、下記の顔料等を挙げることができる。白色系顔料としては、酸化チタンであるチタンCR97(石原産業(株)製)等を挙げることができる。黒色顔料としては、焼成顔料であるダイピロキサイドカラー ブラック 9590、ダイピロキサイドカラー ブラウン 9290、ダイピロキサイド カラー ブラウン 9211(いずれも大日精化工業社製)、Black 411(The Shepherd Color Company社製)、有機顔料であるクロモファインブラックAー1103(大日精化工業社製)、Fastogen Super Black MX(大日本インキ化学工業社製)、パリオゲン ブラック S0084、パリオトール ブラック L0080(いずれもBASF社製)、ホスターパームブラウン HFR−01(クラリアントジャパン社製)等を挙げることができ、更に、Symuler Fast Yellow 4192(大日本インキ化学工業社製)と、Fastogen Red 7100Y(大日本インキ化学工業社製)と、リオノールブルー FG7980(東洋インキ製造社製)とを混合したもの等を挙げることができる。
【0025】
青色系顔料としては、ダイピロキサイドカラー ブルー 9453(大日精化工業社製)、FastogenBlue 9453、Fastogen Blue RS、Fastogen Blue 5380、Fastogen Super Blue 6070S(いずれも大日本インキ化学工業社製)、シアニンブルー5240KB、シアニンブルー5050(いずれも大日精化工業社製)、HELIOGEN BLUE L7460(BASF社製)等を挙げることができる。
【0026】
赤色系顔料としては、トダカラー 120ED(戸田工業社製)、Fastogen Super Magenta RH、Fastogen Red 7100Y、Fastogen Super Red 500RG、Fastogen Super Red ATY、Fastogen Super Blue Violet RVS、ルビクロンレッド 400RG(いずれも大日本インキ化学工業社製)等を挙げることができる。
【0027】
黄色系顔料としては、Symuler Fast Yellow 4192(大日本インキ化学工業社製)、シコパールイエロー L−1110、シコパール イエロー L−1100(いずれもBASF社製)等を挙げることができる。緑色系顔料としては、ダイピロキサイド カラー グリーン 9310(大日精化工業社製)、Fastogen Green 2YK、Fastogen Green MY(いずれも大日本インキ化学工業社製)、リオノールグルーン6YKP−N(東洋インキ製造社製)等を挙げることができる。
【0028】
上記遮熱性カラー塗料は、上記原色顔料の他に樹脂等の通常塗料において添加される成分を含有するものであることが好ましい。上記樹脂としては、通常、塗料のバインダー樹脂として用いられるものを使用することができ、例えば、アクリル樹脂、アルキド樹脂、ポリエステル樹脂、シリコーン変性ポリエステル樹脂、シリコーン変性アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリカーボネート樹脂、シリケート樹脂、フッ素樹脂、塩素系樹脂、ポリオレフィン樹脂等を挙げることができ、更に、必要に応じて、メラミン樹脂、ブロックイソシアネート等を含むものであってもよく、塗布されるプラスチック成形体の樹脂の種類や用途によって、適宜使いわけることができる。
【0029】
上記遮熱性カラー塗料は、上記着色系顔料以外に必要に応じて、光輝剤、微粒子状の充填剤、添加剤、溶剤等を含んでいてもよい。上記光輝材としては、例えば、マイカ、アルミニウム箔、スズ箔、金箔、銀箔、チタン金箔、ステンレススチール箔、ニッケル・銅等の金属箔等を挙げることができる。上記微粒子状の充填剤としては特に限定されず、例えば、SiO 2、TiO 2、Al 23、Cr 23、ZrO 2、Al 23・SiO 2、3Al 23・2SiO 2、ケイ酸ジルコニア、セラミックビーズ等からなる微粒子、繊維状又は粒状の微細ガラス、ガラスビーズ等を挙げることができる。上記微粒子状とは、粒子状、球状、中空球状の何れでもよい。
【0030】
上記微粒子状の充填剤としては、樹脂ビーズを使用することもできる。
上記樹脂ビーズとしては、球形のものが好ましく、例えば、アクリル樹脂ビーズ、ウレタン樹脂ビーズ、ポリエステル樹脂ビーズ、ポリアミド樹脂ビーズ、ポリスチレン樹脂ビーズ、ポリエチレン樹脂ビーズ、メラミン樹脂ビーズ、尿素樹脂ビーズ、フッ素樹脂ビーズ、ポリアクリロニトリル樹脂ビーズ等を挙げることができる。
【0031】
上記樹脂ビーズは、遮熱性カラー塗料の固形分100質量部中に、4〜35質量部含まれることが好ましい。含有量が4質量部未満であると傷つき防止性が低下するおそれがあり、35質量部を超えると、得られる塗膜の光沢が減少する場合がある。
【0032】
上記樹脂ビーズとしては、非着色樹脂ビーズ、着色樹脂ビーズのいずれを使用してもよい。上記着色樹脂ビーズとしては、温度上昇を生じるおそれがあることから、上述した以外の原色顔料を含有しないか、使用しても温度上昇に影響を与えない範囲の使用にとどめることが好ましい。上記着色ビーズとしては、黒色系顔料として780〜2100nmの波長域における日射反射率が30%以上である黒色系顔料を含有するものであることが特に好ましい。
【0033】
上記添加剤としては特に限定されず、例えば、シリカ、アルミナ等の艶消し剤、消泡剤、レベリング剤、たれ防止剤、表面調整剤、粘性調整剤、分散剤、紫外線吸収剤、ワックス等の慣用の添加剤等を挙げることができる。上記溶剤としては一般に塗料用として用いられるものであれば特に限定されず、例えば、トルエン、キシレン、ソルベッソ100、ソルベッソ150等の芳香族炭化水素類;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、イソホロン等のケトン類、及び、水等を挙げることができる。これらは、溶解性、蒸発速度、安全性等を考慮して用いる用途に応じて適宜選択することができ、単独で、又は、2種以上を併用して用いることができる。
【0034】
上記遮熱性カラー塗料は、例えば、以下のようにして製造することができる。ロールミル、ペイントシェーカー、ポットミル、ディスパー、サンドグラインドミル等の一般に顔料分散に使用されている機械を用いて、顔料分散用樹脂に上記着色系顔料を混合して顔料分散ペーストを調製し、これに上記バインダー樹脂、メラミン樹脂及び/又はブロックイソシアネート、添加剤、溶剤等を加える。
【0035】
上記遮熱性カラー塗料は、溶剤系塗料、水溶性塗料、水分散性塗料、粉体塗料等の任意の形態のものを使用することができる。上記遮熱性塗膜の形成方法としては特に限定されず、例えば、スプレーガンを用いて上記遮熱性カラー塗料を塗布する方法等を挙げることができる。
【0036】
上記遮熱性塗膜は、単層塗膜であっても、プライマー塗膜及び上塗り塗膜からなる複層塗膜であってもよい。遮熱性塗膜が上記複層塗膜である場合は、プライマー塗膜及び上塗り塗膜のうち一方だけを遮熱性カラー塗料によって形成するものであっても、両方の塗膜を遮熱性カラー塗料によって形成するものであってもよい。より優れた温度上昇防止効果を得るためには、通常のプライマー塗膜の上に遮熱性の上塗り塗膜を形成することが好ましく、プライマー塗膜及び上塗り塗膜の両方を遮熱性カラー塗料によって形成することが更に好ましい。
【0037】
上記遮熱性塗膜が複層塗膜である場合は、ポリオレフィン系樹脂を使用したバインダー樹脂からなるプライマーによってプライマー塗膜を形成することが好ましい。上記ポリオレフィン系樹脂を使用したバインダー樹脂は、プラスチック成形体との密着性に優れる点で好ましい。
【0038】
上記ポリオレフィン系樹脂を使用したバインダー樹脂は、特にプラスチック成形体との密着性に優れることから、特開平7−150107号公報に記載された無水マレイン酸グラフト化塩素化プロピレン樹脂及びブタジエン系エポキシ樹脂とを混合してなるポリオレフィン系樹脂を使用したものであることが好ましい。
【0039】
上記ポリオレフィン系樹脂を使用したバインダー樹脂は、無水マレイン酸を0.5〜3.0%グラフト化した塩素化度15〜30質量%の塩素化ポリプロピレン樹脂50〜70質量部と、エポキシ当量300〜500のブタジエン系エポキシ樹脂50〜30質量部を主成分として含有してなることが好ましい。
【0040】
上記プライマー塗膜の形成方法としては特に限定されず、例えば、スプレーガンを用いる方法等を挙げることができる。得られたプライマー塗膜は、50〜100℃で20〜30分程度加熱することが好ましい。
【0041】
上記遮熱性塗膜が単層塗膜である場合は、上記無水マレイン酸グラフト化塩素化プロピレン樹脂及びブタジエン系エポキシ樹脂とを混合してなるポリオレフィン系樹脂をバインダー樹脂として使用することが好ましい。上記ポリオレフィン系樹脂を使用することによって、プラスチック成形体との良好な密着性が得られるため、好ましい。
【0042】
上記遮熱性塗膜が複層塗膜である場合は、上塗り塗膜は、アクリルラッカー、又は、水酸基含有アクリル樹脂/ポリイソシアネート化合物系ラッカーによって形成されることが好ましい。上記アクリルラッカー、又は、水酸基含有アクリル樹脂/ポリイソシアネート化合物系ラッカーによって形成された上塗り塗膜は、外観、耐久性、塗膜強度等の物性に優れた効果を有するものである。
【0043】
上記アクリルラッカー用樹脂としては、特に限定されないが、アクリル系ラジカル重合性単量体と所望によりその他の単量体とを共重合させることにより得ることが出来る。上記アクリル系ラジカル重合性単量体としては特に限定されず、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸n−オクチル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸トリデシルなどの(メタ)アクリル酸のアルキルエステル類;(メタ)アクリル酸、クロトン酸、プロピルアクリル酸、イソプロピルアクリル酸、イタコン酸、無水マレイン酸、フマル酸などのカルボン酸含有アクリル系重合性単量体;アクリルアミド等の窒素含有アクリル系重合性単量体等を挙げることができる。上記所望により用いられるその他の単量体としては特に限定されず、例えば、スチレン、αーメチルスチレン等のスチレン系化合物;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のニトリル系化合物等を挙げることができる。
【0044】
上記水酸基含有アクリル樹脂としては特に限定されず、例えば、水酸基含有重合性単量体と上記アクリル系ラジカル重合性単量体との共重合によって得られるものを挙げることができる。上記水酸基含有重合性単量体としては特に限定されず、例えば、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチルとεーカプロラクトンとの付加物等の水酸基含有(メタ)アクリル酸アルキルエステルを挙げることができる。
【0045】
上記アクリルラッカー用樹脂は、上記アクリル系ラジカル重合性単量体及びその他の単量体のそれぞれ2種以上を使用して得ることができる。上記水酸基含有アクリル樹脂については、上記水酸基含有重合性単量体と、アクリルラッカー用樹脂に用いることのできるアクリル系ラジカル重合性単量体の1種又は2種以上を使用することができる。上記アクリルラッカー用樹脂及び水酸基含有アクリル樹脂のそれぞれを共重合する方法としては特に限定されず、公知の重合方法に従って行うことができる。
【0046】
上記ポリイソシアネート化合物としては特に限定されず、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、n−ペンタン−1,4−ジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイシシアネート等の脂肪族ジイソシアネート;イソホロンジイソシアネート、4,4′−メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)、メチルシクロヘキシルジイソシアネート等の脂環族ポリイソシアネート;4,4′−ジフェニルメタンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネート;これらの三量体、アダクト体やビュウレット体、これらの重合体で2個以上のイソシアネート基を有するもの、更に各種アルコールで一部のイソシアネート基を反応させて変性したもの等を挙げることができる。
【0047】
上記水酸基含有アクリル樹脂は、水酸基価が140〜160KOHmg/gであることが好ましく、上記ポリイソシアネート化合物のイソシアネート当量と上記水酸基含有アクリル樹脂の水酸基当量との比は、〔イソシアネート当量〕/〔水酸基当量〕=0.8/1〜1.2/1であることが好ましい。
【0048】
上記上塗り塗膜の形成方法としては特に限定されず、例えば、上記プライマーと同様にスプレーガンを用いる方法等を挙げることができる。得られた上塗り塗膜は、室温で5分以上セッティングした後、50〜100℃で20〜30分程度加熱し、硬化することが好ましい。
【0049】
上記遮熱性塗膜の膜厚は、下限10μm、上限100μmの範囲内であることが好ましい。上記遮熱性塗膜の膜厚を上記範囲内とすることで、より効果的に熱線反射作用を得ることができるものである。上記膜厚が10μm未満であると、780〜2100nmの波長域における塗装後のプラスチック成形体表面の日射反射率を20%以上とすることが困難である。一方、上記膜厚は、それ以上の効果の向上は望めないことから、100μm以下であることが好ましい。上記膜厚は、20μm以上であることがより好ましく、80μm以下であることがより好ましい。
上記遮熱性塗膜が複層塗膜である場合、プライマー塗膜と上塗り塗膜との合計膜厚が上記範囲内であることが好ましい。
【0050】
本発明において、塗装後のプラスチック成形体の780〜2100nmの波長域における表面の日射反射率は20%以上であるが、25%以上であることが好ましく、30%以上であることがより好ましい。
【0051】
本発明の塗膜形成方法を適用することができるプラスチック成形体のプラスチック基材としては特に限定されず、例えば、アクリル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ABS樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリプロピレン、ポリオレフィン樹脂等の成形用に汎用されている樹脂を挙げることができる。なかでも、加工性とリサイクルの観点から、ポリプロピレン又はABS樹脂をプラスチック基材として使用することが好ましい。上記ポリプロピレンからなるプラスチック成形体を使用する場合、上記遮熱性塗膜は、オレフィン系樹脂組成物からなる遮熱性カラー塗料によって形成されたものであることが好ましい。上記オレフィン系樹脂としては、上述のものを挙げることができる。
【0052】
上記プラスチック成形体の用途としては特に限定されないが、遮熱性、表面温度上昇抑制効果に優れることから、ダッシュボード、インストメンタルパネル、ハンドル等の自動車内装材や、建築用素材に好適に用いることができる。本発明の塗膜形成方法によって形成された塗膜を有するプラスチック成形体も本発明の一つである。
【0053】
更に、本発明は、表面色が濃色系のプラスチック成形体の上に、遮熱性被膜を有するプラスチック成形体であって、上記遮熱性被膜を有するプラスチック成形体の日射反射率は、780〜2100nmの波長域において20%以上であることを特徴とするプラスチック成形体でもある。ここでいう遮熱性被膜を有するプラスチック成形体は、上述の塗膜形成方法に基づき得られたものに限定されず、遮熱性被膜を有する状態で日射反射率が上記範囲内となるものであればよい。このようなプラスチック成形体としては、例えば、カレンダー法、押出成形、インフレーション成型等の方法で製造したフィルムを成形体表面に接着する方法により得られるもの等を挙げることができる。
上記遮熱性被膜は、プライマー被膜及び上塗り被膜からなる複層被膜であり、少なくとも上記上塗り被膜は、遮熱性カラー塗料によって形成されたものであることが好ましい。
【発明の効果】
【0054】
本発明の塗膜形成方法によって、熱伝導を遮断するもののその表面温度の上昇がみられるプラスチック成形品に好適に適用され、表面色が濃色系であるプラスチック成形体に対しても良好な遮熱性を有する遮熱性塗膜を形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0055】
以下、本発明について実施例を掲げて更に詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。また、実施例中、「部」は特に断りのない限り「質量部」を意味し、「%」は特に断りのない限り「質量%」を意味する。
【0056】
製造例1
分散用及び後添加用アクリル樹脂(アクリル樹脂ワニスA)の製造
攪拌機、温度計、還流管、滴下ロート、窒素導入管、およびサーモスタット付き加熱装置を備えた反応容器に、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGME)2質量部、酢酸ブチル8.57質量部、トルエン8.57部及び芳香族炭化水素系溶剤(「ソルベッソ100」エクソン社製)5質量部を仕込み、攪拌しながら内温を110℃まで昇温した。ついで、メチルメタクリレート37.35質量部、メタクリル酸2.07質量部及びn−ブチルメタクリレート60.58部の混合溶液と、PGME1質量部、酢酸ブチル4質量部、トルエン4質量部、「ソルベッソ100」1質量部及びパーオキサイド系重合開始剤(「カヤエステル0」日本化薬社製)2.2質量部からなる重合開始剤溶液とを、それぞれ2つの滴下ロートに別々にいれ、3時間かけて滴下し、重合を開始した。この間、内温を110℃に維持するようにし、滴下終了後、続いて、PGME1質量部、酢酸ブチル1.5質量部、「ソルベッソ100」1質量部、トルエン1.5質量部および「カヤエステルO」0.3質量部からなる溶液を、内温を110℃に維持しながら2時間かけて滴下して重合を完了し、内温度を80℃に冷却してからトルエン40.76質量部と酢酸ブチル17質量部を順に仕込み、アクリル樹脂ワニスAを得た。アクリル樹脂ワニスの固形分は、50質量%であった。
固形分測定方法は、アクリル樹脂ワニスサンプル(Xg)を不揮発分測定用ブリキ缶に採取し、110℃で3時間乾燥した後、残存固形分量(Yg)を測定し、下記式により算出した。樹脂固形分(質量%)=[(Y)/(X)]×100
【0057】
製造例2
変性塩素化ポリオレフィン樹脂ワニス(ポリオレフィン樹脂ワニスB)の製造
攪拌機、温度計、還流管、滴下ロート、窒素導入管、およびサーモスタット付き加熱装置を備えた反応容器に、トルエン56質量部、酢酸ブチル24質量部および酸無水物変性塩素化ポリプロピレン樹脂(「ハードレンM128P」東洋化成工業社製:塩素含有率21質量%、重量平均分子量40,000)20質量部を仕込み攪拌しながら110℃に昇温し、1時間加熱し、ポリオレフィン樹脂ワニスBを得た。固形分は20質量%であった。
【0058】
製造例3
塩素化ポリプロピレン変性アクリル樹脂(ポリオレフィン樹脂ワニスC)の製造
攪拌機、温度計、還流管、滴下ロート、窒素導入管、およびサーモスタット付き加熱装置を備えた反応容器に、プロピレングリコールモノメチルエーテル9質量部、トルエン63質量部、酢酸ブチル27質量部及び酸無水物変性塩素化ポリプロピレン樹脂(「ハードレンM128P」東洋化成工業社製)20質量部を仕込み、攪拌しながら内部温度を110℃に昇温した。ついで、メチルメタクリレート30質量部、メタクリル酸3質量部、n−ブチルメタクリレート47質量部からなる単量体混合液と、プロピレングリコールモノメチルエーテル4質量部、トルエン12質量部、酢酸ブチル5質量部及びパーオキサイド系重合性開始剤(「カヤエステルO」日本化薬社製)2.2質量部からなる重合開始剤溶液とを、それぞれ別の滴下ロートに仕込み、反応容器内を110℃に維持し攪拌しながら、3時間かけて滴下した。さらにプロピレングリコールモノメチルエーテル1質量部、トルエン2質量部、酢酸ブチル1質量部、「カヤエステルO」0.3質量部からなる後重合開始剤溶液を、内温を110℃に保持・攪拌しながら2時間かけて滴下し、反応を完了した。この樹脂の固形分は、45質量%であった。
【0059】
製造例4 上塗りホワイト原色の製造
攪拌機のついたステンレス容器に、酸化チタン(「チタンCR−97」石原産業社製)42質量部、アクリル樹脂ワニスA43質量部、トルエン12質量部、酢酸ブチル3質量部を仕込み、均一に混合した後、該混合物を分散機(「DYNO−MILL」Willy A.Bachofen Ag Maschinenfabrik社製)により分散し、上塗ホワイト原色を得た。
【0060】
製造例5 上塗り標準ブラック原色の製造
酸化チタンをブラック顔料(「ラーベン1255」コロンビアカーボン日本社製)に変更したこと以外は製造例4と同様にして、表1に示した組成を有する上塗り標準ブラック原色を調製した。
【0061】
製造例6 上塗りブルー原色の製造
酸化チタンをシアニンブルー顔料(「Fastogen Blue 5485」大日本インキ化学工業社製)に変更したこと以外は製造例4と同様にして、表1に示した組成を有する上塗りブルー原色を調製した。
【0062】
製造例7 上塗りレッド原色の製造
酸化チタンをキナクリドン系顔料(「Fastogen Super Red 500RG」大日本インキ化学工業社製)に変更したこと以外は製造例4と同様にして、表1に示した組成を有する上塗りレッド原色を調製した。
【0063】
製造例8 上塗りイエロー原色
酸化チタンを酸化鉄系顔料(「シコパールイエローL−1110」BASF社製)に変更したこと以外は製造例4と同様にして、表1に示した組成を有する上塗りイエロー原色を調製した。
【0064】
製造例9 上塗り遮熱ブラック原色の製造
酸化チタンをシャネツブラック顔料(「クロモファインブラックA−1103」大日精化工業社製)に変更したこと以外は製造例4と同様にして、表1に示した組成を有する上塗り遮熱ブラック原色を調製した。
【0065】
製造例10〜12
表1に示した組成を有するプライマーホワイト原色、プライマー標準ブラック原色、及び、プライマー遮熱ブラック原色を製造例4と同様にして調製した。製造例4〜12により調整された各原色塗料を各々、ABS樹脂製試験板[白色(L値:91)]上に50〜100μmの乾燥塗膜となるように塗装し、80℃で30分間焼付、乾燥させた。乾燥後の試験板上の各原色塗膜の日射反射率を、分光光度計(日立製作所社製、Uー3500スペクトロフォトメーター)を用いて測定し、780〜2100nmの波長域における反射率をもとに、JIS A 5759に記載の方法に従って算出し、結果を表1に示した。
【0066】
【表1】

【0067】
製造例13
樹脂ビーズの製造
メチルメタクリレート40質量部、スチレン20質量部、n−ブチルメタクリレート10質量部、ジビニルベンゼン10質量部、エチレングリコールメタクリレート20質量部を均一に混合し、これにパーオキサイド系重合開始剤(「カヤエステルO」日本化薬社製)2質量部を混合溶解して重合性単量体組成物を得た。ついで、メチルセルロース1.5%およびポリビニルアルコール1.5%を含んでなる水溶液800質量部に、上記重合性単量体組成物を仕込み、よく攪拌後、ホモジナイザーで重合性単量体組成物の液滴が約3〜20μmの微粒状態に懸濁させ、懸濁液を得た。得られた重合性単量体懸濁液を、温度計、攪拌機、還流冷却機及びサーモスタット付きマントルヒーターを備えた2リットルのセパラブルフラスコに移し、窒素気流下で攪拌しながら、85℃に昇温加熱し、この温度で6時間反応を行い、さらに90℃で昇温して3時間保持し、重合反応を完結させた。その後、重合反応液を冷却し、高分子重合体粒子を金網でろ過し、該粒子を十分に水洗浄し、乾燥させて約3〜20μmの非着色樹脂粒子(以下樹脂ビーズ)95質量部を得た。
【0068】
製造例14 遮熱ブラックビーズの製造
製造例13の重合性単量体組成を90質量部準備し、これに黒色系顔料(「クロモファインブラックAー1103」大日精化工業社製)を10質量部添加し、サンドグラインダーミルを用いて黒色系顔料成分を均一に分散させて、着色重合性単量体組成物を得た。ついで上記と同じ装置、手順を用いて、懸濁重合反応を完結し、十分水洗・乾燥して黒色系顔料含有樹脂粒子(以下遮熱ブラックビーズ)95質量部を得た。
【0069】
製造例15 標準ブラックビーズの製造
「クロモファインブラックA−1103」の代わりに、「ラーベン1255」コロンビアカーボン日本社製を用いたこと以外は、製造例14と同様にして黒色系顔料含有樹脂粒子(以下標準ブラックビーズ)95質量部を得た。
【0070】
製造例16
各配合成分を順次攪拌混合して、表2及び表3に示した組成を有するプライマー及び上塗り塗料を調製した。プライマー塗料としては、標準ブラックプライマー、遮熱性カラー塗料1、2及び3の4種類を、上塗り塗料としては、標準ブラック上塗、遮熱性カラー塗料4、5、6及び7の5種類を調製した。表中の数値は、質量部を表す。
【0071】
【表2】

【0072】
【表3】

【0073】
(プラスチック成形体)
板状(150mm×70mm×3mm)に成形したプラスチック成形体の表面をイソプロピルアルコールでワイプ洗浄して使用した。使用した成形体の樹脂種は、表4〜6に示した通りである。なお、ポリプロピレン系素材としては、その表面のL値が25であるものを使用し、ABS樹脂としては、ABS白、黒及びグレーのものを使用し、この各々のL値は、91、25及び68であった。L値は、色彩色差計CR−200(MINOLTA社製)を使用して測定した。
【0074】
実施例1〜4、比較例1〜4、参考例1〜4(単層系)
表4に示した素材上に表4に示した乾燥膜厚となるように上塗り塗料を塗装し、80℃で30分間焼付、硬化させた。なお、塗装後のプラスチック成形体の日射反射率は、分光光度計(日立製作所社製、U−3500スペクトロフォトメーター)を用いて測定し、780〜2100nmの波長域における反射率をもとに、JIS A 5759に記載の方法に従って算出した。
【0075】
実施例5〜12、比較例5〜8(複層系)
表5に示した素材上に表5に示した乾燥膜厚になるようにプライマーを塗装し、80℃で30分乾燥させた。次に、表5に示した上塗り塗料を実施例1と同様に塗装して、塗装表面の日射反射率を測定した。
【0076】
(評価方法)
<表面温度測定条件1>
得られたプラスチック成形体の表面温度を、図1の装置を用いて測定した。光源は、100Wレフランプ(TOKI社製、屋内用)を用いて、15cmの高さから照射した。光源照射後、経時で表面温度を測定した。なお、プラスチック成形体のおもて面温度を示した。表4及び5に示した遮熱効果は、それぞれの素材の無塗装時と比較した場合の温度変化を示したものである。例えば、実施例1の数値は、同一の素材を使用して塗装を行わなかった場合の温度を0とした場合の温度変化を示したものである。また、マイナスは無塗装時よりも温度が低下したことを示し、プラスは温度が上昇したことを示す。それぞれの素材の無塗装時の表面温度実測値は、表6に示した。
【0077】
【表4】

【0078】
【表5】

【0079】
【表6】

【0080】
上記表4及び5の結果から明らかなように、白色のプラスチック成形体と比較して、グレー特に黒色のプラスチック成形体に本発明の塗膜形成方法に基づき塗装を施した場合、その表面温度上昇抑制効果が顕著であった。また、プライマー塗膜及び上塗り塗膜ともに遮熱性塗膜とした場合に顕著な効果が得られた。また、遮熱ブラックビーズを用いることによって、表面温度上昇抑制効果が向上する事がわかった。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明の塗膜形成方法は、ダッシュボード、インストメンタルパネル、ハンドル等の自動車用内装材や、建築用素材等、直射日光による温度上昇が問題となる濃色系のプラスチック成形品の塗装に好適に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】試験板の表面温度を測定するために使用する装置を表わす図。
【図2】黒素材上での遮熱効果を示したグラフ(単層)。
【図3】グレー素材上での遮熱効果を示したグラフ(単層)。
【図4】白素材上での遮熱効果を示したグラフ(単層)。
【図5】黒素材上での遮熱効果を示したグラフ(複層)。
【図6】グレー素材上での遮熱効果を示したグラフ(複層)。
【図7】黒素材上での遮熱効果を示したグラフ(複層)。
【図8】黒素材上での遮熱効果を示したグラフ(複層)。
【符号の説明】
【0083】
1 ガラス板(3mm厚)
2 発泡スチロール容器(20mm厚)
3 プラスチック成形体
4 温度測定器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラスチック成形体の表面に遮熱性カラー塗料による塗装を施すことによって遮熱性塗膜を形成する工程からなる塗膜形成方法であって、
プラスチック成形体の塗装後の遮熱性塗膜の日射反射率は、780〜2100nmの波長域において20%以上であり、
前記プラスチック成形体は、表面色が濃色系である
ことを特徴とする塗膜形成方法。
【請求項2】
プラスチック成形体は、表面色がL、a、b表色系で表される色空間で、L値が80以下である請求項1記載の塗膜形成方法。
【請求項3】
遮熱性カラー塗料は、黒色系顔料として780〜2100nmの波長域における日射反射率が30%以上である黒色系顔料を含有するものである請求項1又は2記載の塗膜形成方法。
【請求項4】
遮熱性カラー塗料は、更に、780〜2100nmの波長域における日射反射率が70%以上である白色系顔料、780〜2100nmの波長域における日射反射率が30%以上である青色系顔料、780〜2100nmの波長域における日射反射率が40%以上である赤色系顔料、780〜2100nmの波長域における日射反射率が20%以上である緑色系顔料、及び、780〜2100nmの波長域における日射反射率が40%以上である黄色系顔料からなる群から選択される少なくとも一種の原色系顔料を含有するものである請求項3記載の塗膜形成方法。
【請求項5】
遮熱性塗膜は、プライマー塗膜及び上塗り塗膜からなる複層塗膜であり、少なくとも前記上塗り塗膜は、遮熱性カラー塗料によって形成されたものである請求項1、2、3又は4記載の塗膜形成方法。
【請求項6】
遮熱性塗膜は、膜厚が10〜100μmである請求項1、2、3、4又は5記載の塗膜形成方法。
【請求項7】
プラスチック成形体は、自動車内装材である請求項1、2、3、4、5又は6記載の塗膜形成方法。
【請求項8】
プラスチック成形体は、ポリプロピレン又はABS樹脂からなるものであり、遮熱性塗膜は、オレフィン系樹脂組成物からなる遮熱性カラー塗料によって形成されたものである請求項1、2、3、4、5、6又は7記載の塗膜形成方法。
【請求項9】
請求項1、2、3、4、5、6、7又は8記載の塗膜形成方法によって形成された塗膜を有することを特徴とするプラスチック成形体。
【請求項10】
表面色が濃色系のプラスチック成形体の上に、遮熱性被膜を有するプラスチック成形体であって、
前記遮熱性被膜を有するプラスチック成形体の日射反射率は、780〜2100nmの波長域において20%以上である
ことを特徴とするプラスチック成形体。
【請求項11】
遮熱性被膜は、プライマー被膜及び上塗り被膜からなる複層被膜であり、少なくとも前記上塗り被膜は、遮熱性カラー塗料を用いて得られたものである請求項10記載のプラスチック成形体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−8930(P2006−8930A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−191249(P2004−191249)
【出願日】平成16年6月29日(2004.6.29)
【出願人】(000230054)日本ペイント株式会社 (626)
【出願人】(593135125)日本ビー・ケミカル株式会社 (52)
【Fターム(参考)】