説明

塗装された容器体

【課題】 容器の側周壁周面を、マスク部材を使用しないで、吹き付け塗装のみで、容器の上下面、或いは天面とは異なる色彩、多色模様でもって加飾したコンパクト容器の蓋体その他の塗装容器体と、その塗装方法を提供すること。
【解決手段】 表面壁と、表面壁の周縁から壁面に交差する方向に延設された側周壁とからなる容器体であって、側周壁の周面に、表面壁の色彩とは異なる色彩が、吹き付け塗装によって塗布されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗装された容器、とくに上下、または上面に表面壁を有し、表面壁に交差する方向に延設された側周壁を有する箱体、蓋体などの容器体の側周壁周面の加飾模様に関するものである。
【背景技術】
【0002】
コンパクト容器の蓋体等の加飾において、蓋体の表面にハーフミラー加飾を施すために、ハーフミラー層を有する転写シートを用いて、インモールド転写すること(例えば、特許文献1参照)。
或いは、透明硬質板の裏側面にアルミ等を蒸着し、表面に透模様を印刷した光輝性板の上側に、透明硬質板を重ね合わせた飾体を、コンパクトの蓋体、その他の化粧容器に装着すること(例えば、特許文献2参照)。
或いは、透明な蓋体の裏側面に凹部を設け、異なる着色合成樹脂を充填して多色模様を形成させたり、ホットスタンプにより凹部に着色すること(例えば、特許文献3参照)等は従来より知られている。
【0003】
また、透視部を設けた陶器様の化粧品容器において、ガラス容器の一部に、マスキングシートを貼着し、容器表面にアルミニュームの金属膜を蒸着し、該金属膜上に、着色された樹脂塗料をスプレーで均一に塗装した後、マスキングシートを剥離し、剥離部分を透視部とし、金属層、および着色樹脂層が設けられた化粧品容器も、従来より知られている(例えば、特許文献4参照)。
【0004】
また、容器体の塗装品として、容器体を回転させながら、複数のスプレーガンで異なる塗料を噴霧し、容器体表面に異なる色彩を塗装するとともに、異なる色の重なり合う部分では、ほぼ中間色のぼかし模様とした塗装容器体も、従来より知られている(例えば、特許文献5参照)。
【特許文献1】特開2003−310343号公報
【特許文献2】実開昭51−147790号公報
【特許文献3】実公昭62−38576号公報
【特許文献4】特開昭59−186507号公報
【特許文献5】特開2001−314788号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1〜4記載の加飾は、いずれも意匠効果の優れたものであるが、生産工程が多く、生産コストが高くつくという問題があった。
上記特許文献5記載の塗装容器体は、箱状体であって、六面全体を複数のスプレーガンを用いて塗装しており、一面のみを塗装して、他の面と異なる色彩、多色模様をもって加飾するものではなかった。
【0006】
また、コンパクト容器をスプレーガンにより塗装することも、従来から実施されているが、多色模様を形成させるためには、マスキングが必要となるので、マスク部材と、マスキング作業にコストがかかるという問題があった。
【0007】
本発明は、上記問題を解決することを課題とし、容器の側周壁周面を、マスク部材を使用しないで、吹き付け塗装のみで、容器の上下面、或いは天面とは異なる色彩、多色模様でもって加飾したコンパクト容器の蓋体その他の塗装容器体と、その塗装方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記の課題を解決するため、塗装された容器体として、表面壁と、該表面壁の周縁から壁面に交差する方向に延設された側周壁とからなる容器体であって、側周壁の周面に、表面壁の色彩とは異なる色彩が、吹き付け塗装によって塗布されていることを特徴とする構成を採用する。
【0009】
容器体の実施例として、表面壁と、吹き付け塗装によって、表面壁とは異なる色彩によって着色された側周壁とからなる容器体であって、表面壁と側周壁との間の接続部が、エッジ端縁部によって接続され、表面壁と側周壁との色彩が、接続部において明確に色分けされていることを特徴とする構成を採用する。
【0010】
容器体の別実施例として、表面壁と、吹き付け塗装によって、表面壁とは異なる色彩によって着色された側周壁とからなる容器体であって、表面壁と側周壁との間の接続部が、円弧状に連続する曲面状接続部によって接続され、接続部に表面壁の色彩と側周壁の色彩とが徐々に混合され、グラデーションが発現されていることを特徴とする構成を採用する。
【0011】
さらに、容器体の別実施例として、表面壁と、吹き付け塗装によって、表面壁とは異なる色彩によって着色された側周壁とからなる容器体であって、表面壁と側周壁との接続部が、エッジ端縁部と曲面状接続部とからなり、エッジ端縁部では、表面壁と側周壁との間で、色彩が明確に色分けされ、曲面状接続部では、表面壁と側周壁との色彩が混合され、グラデーションが発現されていることを特徴とする構成を採用する。
【0012】
容器体の実施例として、側周壁が、下端部の傾斜面と、その上方の湾曲面を具備し、湾曲面の上方にいくにしたがって、徐々に色彩が淡くなっていることを特徴とする構成を採用する。
【0013】
容器体の実施例として、容器体が、コンパクト容器の蓋体であることを特徴とする構成を採用する。
【0014】
容器体の塗装方法として、スプレーガンの噴射口を、噴射方向を側周壁の下端縁にほぼ並行する方向になるよう配置し、側周壁のみに塗料を塗布するようにしたことを特徴とする構成を採用する。
【発明の効果】
【0015】
本発明は、容器体の側周壁の塗装にあたって、スプレーガンを、その噴射方向が容器体の天面に直接塗布されないように配設したので、マスキングを必要としないで、側周壁の周面と天面とを塗り分け、天面と側周壁周面とを異なる色彩とすることができた。
【0016】
また、天面と側周壁の周面との接続部を、交差面としたエッジ端縁部の場合には、きれいな境界線を形成した着色模様とすることができ、曲面状接続部とする場合には、基材色と塗料との二つの色彩が交じり合った着色模様を得ることができ、エッジ端縁部と曲面状接続部を設けた場合には、境界線が明確な部分と、二つの色彩が交じり合った部分を有する着色模様が得られるようになった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
次に、本発明の実施形態について説明する。
本発明の塗装された容器体は、上下、または上面に表壁面を有し、該壁面の周縁から壁面に交差する方向に延設された蓋体や、容器の箱体などに係るものであり、その一つの実施例として、コンパクトの蓋体について、図面を参照して説明する。
【実施例1】
【0018】
図1は、コンパクト容器の蓋体Aを示しており、蓋体Aは、頂壁1と頂壁1の端縁から頂壁1に交差するように延びる側周壁2とから構成され、蓋体Aの上面、容器本体(図示しない)の横断面の形状は、図1に示すように、ほぼ円形状となっている。
頂壁1上面は、平面状の天面1aとなっている。
図1、3に示すように、側周壁2の周面には、下端部に形成された傾斜面2aと、該傾斜面2aにつづく湾曲面2bとを具えており、湾曲面2bの横断面の曲率半径も変化させ、ゆるやかに湾曲させた部分も形成されている。
【0019】
湾曲面2bと天面1aとの接続部3は、双方が交差してエッジを形成するエッジ端縁部3a、双方が断面円弧状に連続する曲面状接続部3bを含んでいる。
とくに、緩やかな湾曲面の場合に、緩やかな曲面状接続部3cとなっている。
【0020】
図1に示すように、側周壁2の端縁から蝶番用の連結片4が垂設されており、連結片4の反対側には、係止片5が突設されている。
側周壁2は、下端の傾斜面2aと、それにつづく中間部の湾曲面2bとからなり、湾曲面2bの上端では、湾曲面2bと天面1aとの境界が形成され、境界は、エッジ端縁部3a、或いは、曲面状接続部3b、3cとなっている。
【0021】
天面1aの色彩6と、側周壁2周面の着色模様7は異なっており、エッジ端縁部3aでは、色彩6と着色模様7は明確に区別されているが、曲面状接続部3b、3cでは、側周壁2周面の着色模様7は、上方にいくにしたがって、色合いが徐々に薄くなって、天面1aに達した点からは、ほぼ天面1aの色彩6となっている。
【0022】
次に、蓋体Aの塗装方法と作用効果について説明する。
蓋体Aは、所望する色彩に着色された合成樹脂、或いは透明な合成樹脂によって射出成形され、表面は、一様な色彩を有している。
次いで、蓋体Aを塗装装置に装着して、吹き付け塗装する。
【0023】
図2に示すように、塗装装置は、蓋体Aを保持する回転支持台15と、スプレーガン16とを一体として具えており、並列された複数の塗装装置によって塗装するようにしている。
【0024】
上記実施例では、塗装はスプレーガンによって塗料を塗布するようにしているが、静電塗装法を適用するようにしてもよい。
【0025】
蓋体Aは、その裏面中心が回転支持台15の上端に吸着保持され、回転される。
スプレーガン16は、一つ或いは複数のスプレーガンを具えており、スプレーガン16aは、噴霧孔が、回転支持台15に保持された蓋体Aの側周壁2の上下間のほぼ中心に位置し、ほぼ水平方向に噴霧するように配設されている。
また、蓋体Aの上方には、蓋体表面に塗布されない塗料をそのまま吸引する装置が配設されている。
【0026】
塗装にあたっては、蓋体Aの回転に応じて、エッジ端縁部3aでは、側周壁2の周面に着色模様7が塗布され、天面1aとの間に、色彩の相違が明確に区切られるが、図3(a)に示すように、側周壁2の下端部の傾斜面2aでは、着色模様7は、濃い色彩となり、湾曲面2bでは、上部にいくほど淡くなっている。
【0027】
曲面状接続部3bとなると、図3(b)に示すように、天面1aの接続部にも塗料が塗布され、側周壁2の下端部の傾斜面2aでは、濃い色彩が、湾曲面2bでは、上部にいくほど淡くなり、曲面状接続部3bでは、天面1aの色彩と混合され、グラデーションが発現される。
とくに、緩やかな曲面状接続部3cでは、図3(c)に示すように、曲面状接続部3cの広い範囲にわたって混合された色彩のグラデーションが発現される。
【0028】
また、とくに透明な蓋体Aを使用する場合には、蓋体Aの裏面は、スプレーガン16bによって全面的に塗布してもよい。
【0029】
塗装された蓋体Aは、天面1aの大部分では合成樹脂の着色がそのまま色彩6として現れ、側周壁2では、湾曲面2bと天面1aとの接続部3の形状に応じて下端部を濃くした色彩の濃淡、天面1aの色彩との間の明確な色彩、天面1aの色彩と混合されたグラデーションなどを得ることができる。
【0030】
上記実施例では、天面1aと側周壁2との間の接続部3に、エッジ端縁部3aと、曲面状接続部3bとを形成するようにしたが、全ての接続部3をエッジ端縁部3a、または曲面状接続部3bのみとしてもよい。
また、エッジ端縁部3aと曲面状接続部3bとを順次入れ替え、接続部3の模様を変化させるようにしてもよい。
【0031】
上記実施例では、スプレーガン16aの位置と噴射方向を、側周壁2の上下中心部に置き、水平方向に噴射するようにしたが、エッジ端縁部3aで噴霧範囲が天面1aに噴霧されないようにすれば、位置、噴射方向を適宜に変更することができる。
また、上記実施例では、蓋体と容器本体の形状を特定の形状としたが、円形、楕円形、または角形であってもよい。
【実施例2】
【0032】
次にコンパクト容器に係る第2実施例について説明する。
図5に示すように、コンパクト容器の蓋体Aa、容器本体(図示しない)の横断面形状は角形であり、蓋体Aaは、頂壁20と側周壁21とを具えている。
頂壁20の天面と、側周壁21の接続部22は、エッジ端縁部22aとなっており、側周壁21の周面は、下端部の傾斜面21aと上部の傾斜面21bとを有している。
第1実施例と同じく、所望の色彩に着色された合成樹脂によって射出成形されており、側周壁21の周面には、スプレーガンによる塗装が施されている。
【0033】
図5に示すように、塗装装置は、支持台25と側周壁21を塗装するスプレーガン26aとを具えている。
支持台25は、蓋体Aaを側周壁21の側縁に並行する方向に移動させ、順次各側周壁21を塗装する。
また、支持台25を回転させてもよい。
【0034】
塗装にあたっては、スプレーガン26aは、第1実施例と同様に配置されており、側周壁21には、下端部の傾斜面21aと上部の傾斜面21bに、色の濃淡が異なる色彩の塗料が塗布され、頂壁20の天面には、塗料が直接塗布されないので、合成樹脂の着色が発現されており、第1実施例と同様に、頂壁20の天面20aと側周壁21との間は、エッジ端縁部22aによって明確に色彩が区別されている。
【0035】
また、側周壁21の周面を湾曲面とすることによって、上下の間に色彩の濃淡をつけること、接続部22を曲面状接続部とすることによって、天面の色彩との間に、グラデーションを設けること等も適宜に選択することができる。
【0036】
上記各実施例では、コンパクト容器の蓋体について説明したが、頂壁とその周辺から垂直方向に垂設された高さの低い側周壁を具えた容器の蓋体、或いは箱型、或いは円筒形に形成された容器本体にも、好適に実施できる。
また、表面壁は、その表面を平坦面、凹凸面、湾曲面等としてもよく、さらに側周壁周面の断面形状を湾曲線、波形等にすることができ、容器体の形状は適宜選択できる。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明のコンパクト容器の蓋体の加飾は、天面と側周壁とが異なる着色模様、または交じり合った色彩が塗布されており、従来にない意匠効果を得ることができた。
本発明は、コンパクト容器を始め、表面壁と該壁から延設された側周壁を備えた容器体の加飾として、広く利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明第1実施例のコンパクト容器の蓋体の説明図で、(a)は上面図、(b)は断面立面図である。
【図2】塗装装置の説明図である。
【図3】側周壁塗装時の説明図で、図1において、蓋体をスプレーガンの方向に45°ずつ回転したときの断面を表し、(a)はOA線における断面図、(b)はOB線における断面図、(c)はOC線における断面図である。
【図4】第2実施例のコンパクト容器の蓋体の説明図で、(a)は上面図、(b)は断面立面図である。
【図5】塗装装置の説明図で、(a)は断面立面図、(b)は蓋体の移動方向の説明図である。
【符号の説明】
【0039】
A、Aa 蓋体
1、20 頂壁
1a、20a 天面
2、21 側周壁
2a、21a、21b 傾斜面
2b 湾曲面
3、22 接続部
3a、22a エッジ端縁部
3b 曲面状接続部
4 連結片
5 係止片
6 色彩
7 着色模様
15 回転支持台
16、16a、16b、26a スプレーガン
25 支持台

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面壁と、表面壁の周縁から壁面に交差する方向に延設された側周壁とからなる容器体であって、
側周壁の周面に、表面壁の色彩とは異なる色彩が、吹き付け塗装によって塗布されていることを特徴とする容器体。
【請求項2】
表面壁と、吹き付け塗装によって、表面壁とは異なる色彩によって着色された側周壁とからなる容器体であって、
表面壁と側周壁との間の接続部が、エッジ端縁部によって接続され、
表面壁と側周壁との色彩が、接続部において明確に色分けされていることを特徴とする容器体。
【請求項3】
表面壁と、吹き付け塗装によって、表面壁とは異なる色彩によって着色された側周壁とからなる容器体であって、
表面壁と側周壁との間の接続部が、円弧状に連続する曲面状接続部によって接続され、接続部に表面壁の色彩と側周壁の色彩とが徐々に混合され、グラデーションが発現されていることを特徴とする容器体。
【請求項4】
表面壁と、吹き付け塗装によって、表面壁とは異なる色彩によって着色された側周壁とからなる容器体であって、
表面壁と側周壁との接続部が、エッジ端縁部と曲面状接続部とからなり、
エッジ端縁部では、表面壁と側周壁との間で、色彩が明確に色分けされ、
曲面状接続部では、表面壁と側周壁との色彩が混合され、グラデーションが発現されていることを特徴とする容器体。
【請求項5】
側周壁が、下端部の傾斜面と、その上方の湾曲面を具備し、
湾曲面の上方にいくにしたがって、徐々に色彩が淡くなっていることを特徴とする請求項1〜4記載の容器体。
【請求項6】
容器体が、コンパクト容器の蓋体であることを特徴とする請求項1〜5記載の容器体。
【請求項7】
スプレーガンの噴射口を、噴射方向を側周壁の下端縁にほぼ並行する方向になるよう配置し、側周壁に塗料を直接塗布するようにしたことを特徴とする容器体の側周壁の塗装方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−182390(P2006−182390A)
【公開日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−376990(P2004−376990)
【出願日】平成16年12月27日(2004.12.27)
【出願人】(000006909)株式会社吉野工業所 (2,913)
【Fターム(参考)】