説明

塗装方法及び塗装装置

【課題】 塗料粘度の調整において合理的な調整方式を採ることで、塗装品質を高める。
【解決手段】 塗料供給路9を通じ噴霧器4に塗料Tを供給して、その供給塗料Tを噴霧器4により被塗物3に噴霧することで被塗物3を塗装する塗装方法又は塗装装置において、噴霧器4による被塗物3への塗料噴霧に併行して塗料通過中の塗料供給路9に塗料粘度調整液Lを注入することで、被塗物3に対する噴霧塗料の粘度を調整する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗料供給路を通じ噴霧器に塗料を供給して、その供給塗料を前記噴霧器により被塗物に噴霧することで被塗物を塗装する塗装方法及び塗装装置に関する。
【背景技術】
【0002】
噴霧器による塗料噴霧で被塗物を塗装する場合、噴霧器に供給する塗料(すなわち、被塗物に対して噴霧する塗料)は、希釈用溶剤などの塗料粘度調整液の混合により塗装条件に見合った適合粘度に調整しておく必要があるが、この粘度調整について従来は、塗料供給元の塗料タンクに貯留する塗料を、塗装作業の休止下において手動ないし自動による塗料粘度調整液の混合処理により塗装条件に見合った適合粘度に予め調整しておき、この塗料を塗料タンクから塗料供給路を通じて噴霧器に供給することで、上記適合粘度の塗料を被塗物に噴霧するようにしていた(特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】特開平9−225365号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従来の塗装方法及び塗装装置では次の(イ)〜(ハ)の問題があった。
【0005】
(イ)被塗物の上向き面では塗着塗料が重力により周囲へ拡がる傾向を示し、一方、被塗物の横向き面(縦面)では塗着塗料が重力により流下する傾向を示すことから、被塗物の上向き面(ないし上向きに近い面)と横向き面(ないし横向きに近い面)とでは、各面に対する噴霧塗料の適合粘度も異なるが、被塗物に対する噴霧塗料の粘度を変更するのに塗装作業休止下での塗料タンク貯留塗料に対する粘度調整処理を要する従来の塗装方法及び塗装装置では、1つの被塗物における向きの異なる塗装対象面を連続的に塗装する場合や、塗装対象面の向きが異なる複数の被塗物を連続的に塗装する場合などにおいて、塗装対象面の向きの変化による適合粘度の変化に対して即応することができず、この為、上向き面については良好な塗装が行えるものの、横向き面の塗装において塗着塗料が垂れる塗装不良を生じ易い、また、この垂れによる塗装不良を防止するのに、横向き面の塗装において塗膜の厚さが上向き面よりも小さく制限され、そのことで横向き面の塗装品質(例えば、塗膜の平滑性、肉持感)が上向き面よりも低くなるといった問題があった。
【0006】
(ロ)横向き面の塗装において塗膜の厚さが上向き面よりも小さく制限されることで、横向き面の塗装品質が上向き面よりも低くなる上記の問題に対し、適当な乾燥時間を介在させながら噴霧器からの塗料噴霧による塗装を横向き面に対して複数回繰り返すこと(いわゆる重ね塗り)で、垂れを防止しながら横向き面の塗装において塗膜厚さを大きく確保することもできるが、この場合、適当な乾燥時間を介在させながらの重ね塗りの為に、塗装に要する時間が長くなって生産性が低下する、また、被塗物を搬送しながら段階的に塗装する塗装ラインでは必要ライン長が大きくなって設備コスト、運転コストが増大する問題があった。
【0007】
(ハ)塗料の粘度は温度によって、また、経時的にも変化するが、被塗物に対する噴霧塗料の粘度を調整するのに塗装作業休止下での塗料タンク貯留塗料に対する粘度調整処理を要する従来の塗装方法及び塗装装置では、塗料タンク貯留過程での温度変化や経時変化による塗料粘度の変化で噴霧塗料の粘度が変化することに対し柔軟に対応することができず、この為、被塗物に対する噴霧塗料の粘度が塗装条件に見合った適合粘度から外れる事態を招いて、そのことで塗装品質の低下を招く問題もあった。
【0008】
以上の実情に鑑み、本発明の主たる課題は、塗料粘度の調整において合理的な調整方式を採ることにより、上記の如き問題を効果的に解消する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
〔1〕本発明の第1特徴構成は塗装方法に係り、その特徴は、
塗料供給路を通じ噴霧器に塗料を供給して、その供給塗料を前記噴霧器により被塗物に噴霧することで被塗物を塗装する塗装方法において、
前記噴霧器による被塗物への塗料噴霧に併行して塗料通過中の前記塗料供給路に塗料粘度調整液を注入することで、被塗物に対する噴霧塗料の粘度を調整する点にある。
【0010】
この第1特徴構成では、噴霧器による被塗物への塗料噴霧に併行して塗料通過中の塗料供給路に塗料粘度調整液を注入することで、塗料供給路を通過中の塗料(すなわち、噴霧器への送給過程にある塗料)に対し塗料粘度調整液の混合による粘度調整処理を逐次に施すようにして、被塗物に対する噴霧塗料の粘度を調整する。したがって、この第1特徴構成によれば、塗装作業中においても、噴霧塗料の粘度を変更する必要が生じたときには、塗料通過中の塗料供給路に注入する塗料粘度調整液の注入量や注入種を変更することで、即時に噴霧塗料の粘度を変更することができ、これにより、先述した従来の塗装方法における種々の問題を効果的に解消することができる。
【0011】
すなわち、1つの被塗物における向きの異なる塗装対象面を連続的に塗装する場合や、塗装対象面の向きが異なる複数の被塗物を連続的に塗装する場合などにおいて、塗装対象面の向き変化により適合粘度が変化したときには、それまでの塗装対象面の塗装に適した先の適合粘度から新たな塗装対象面の塗装に適した新たな適合粘度へ噴霧塗料の粘度を即時に変更することができ、これにより、先述(イ)の問題を効果的に解消することができて、被塗物全体としての塗装品質の向上を効果的に達成することができる。
【0012】
また、このように塗装対象面の向き変化による適合粘度の変化に対し即応し得ることにより、被塗物の横向き面を塗装する際、垂れを防止しながら十分な塗膜厚さを確保するために適当な乾燥期間を介在させながら塗料噴霧による塗装を横向き面に対し複数回にわたって繰り返すといったことも不要にする、ないしは、繰り返し回数を少なくすることができ、これにより、先述(ロ)の問題も効果的に解消することができて、塗装品の生産性を向上し得るとともに、塗装ラインの必要ライン長を短尺化することができて設備コスト、運転コストも効果的に低減することができる。
【0013】
また、塗料タンク貯留過程での温度変化や経時変化による塗料粘度の変化で被塗物に対する噴霧塗料の粘度が変化することに対しても、その粘度変化に応じて塗料粘度調整液の注入量や注入種を変更することで、きめ細かく柔軟に対応することができて、塗料タンク貯留過程での温度変化や経時変化による塗料粘度の変化にかかわらず、被塗物に対する噴霧塗料の粘度を塗装条件に見合った適合粘度に安定的に維持することができ、これにより、先述(ハ)の問題も効果的に解消することができて、塗装品質の向上を一層効果的に達成することができる。
【0014】
〔2〕本発明の第2特徴構成は塗装装置に係り、その特徴は、
塗料供給路を通じ噴霧器に塗料を供給して、その供給塗料を前記噴霧器により被塗物に噴霧することで被塗物を塗装する塗装装置において、
前記噴霧器による被塗物への塗料噴霧に併行して塗料通過中の前記塗料供給路に塗料粘度調整液を注入する注入手段を設け、
この注入手段を、前記塗料供給路に注入する塗料粘度調整液の注入量又は注入種の変更操作が可能な構成にしてある点にある。
【0015】
この第2特徴構成では、噴霧器による被塗物への塗料噴霧に併行して注入手段により塗料通過中の塗料供給路に塗料粘度調整液を注入することで、塗料供給路を通過中の塗料(すなわち、噴霧器への送給過程にある塗料)に対し塗料粘度調整液の混合による粘度調整処理を逐次に施すようにして、被塗物に対する噴霧塗料の粘度を調整する。そして、必要時には注入手段を操作することで、塗料供給路に注入する塗料粘度調整液の注入量又は注入種を変更する。
【0016】
したがって、この第2特徴構成によれば、塗装作業中においても、噴霧塗料の粘度を変更する必要が生じたときには、塗料通過中の塗料供給路に注入する塗料粘度調整液の注入量又は注入種を注入手段に対する操作をもって変更することで、即時に噴霧塗料の粘度を変更することができ、これにより、第1特徴構成の塗装方法で得られる前述の効果を得ることができる。
【0017】
なお、第1又は第2特徴構成の実施において、塗料粘度調整液の注入量や注入種を変更して噴霧塗料の粘度を変更するのは、塗装対象面の向き変化により適合粘度が変化したときや、温度変化ないし経時変化による塗料粘度の変化で噴霧塗料の粘度が適合粘度から外れる状態になったときのいずれか一方のみであってもよく、また、それに限らず、塗料種(例えば塗料色)の変更時において塗料種変更後の噴霧塗料の粘度を塗装条件に見合った適合粘度に調整するときや、被塗物の種別の変更時において噴霧塗料の粘度を種別変更後の被塗物に適した適合粘度に調整するときなどであってもよい。
【0018】
第1又は第2特徴構成の実施においては、塗料供給元の塗料タンクに貯留する塗料の粘度を基本調整として予めある程度まで調整しておき、その上で、塗料タンクから噴霧器に送る塗料の粘度(すなわち、被塗物に対する噴霧塗料の粘度)を塗料通過中の塗料供給路に対する塗料粘度調整液の注入により各塗装時点の適合粘度に調整する方式、あるいは、塗料通過中の塗料供給路に対する塗料粘度調整液の注入のみにより、被塗物に対する噴霧塗料の粘度を各塗装時点の適合粘度に調整する方式のいずれを採用してもよい。
【0019】
第1又は第2特徴構成の実施において、塗料粘度調整液の注入種の変更(すなわち、塗料供給路に注入する塗料粘度調整液の種類の変更)を行う場合、その注入種の変更とは、単純に噴霧塗料の粘度変更を目的とする注入種の変更に限られるものではなく、塗料種の変更時において、塗料供給路に注入する塗料粘度調整液の種類を塗料種変更後の塗料の粘度調整に適したものに変更する注入種変更などであってもよい。
【0020】
第1又は第2特徴構成の実施において、塗料供給路に対する塗料粘度調整液の注入箇所は、塗料流れ方向において噴霧器に極力近い箇所が望ましい。
【0021】
〔3〕本発明の第3特徴構成は、第2特徴構成の実施に好適な実施形態を特定するものであり、その特徴は、
前記噴霧器を用いて被塗物を自動塗装する自動塗装手段を設け、
この自動塗装手段との連係下において前記注入手段を操作することで、被塗物の各時点における塗料噴霧部位に応じて、又は、順次塗装する被塗物夫々の種別に応じて、又は、順次塗装する被塗物ごとの噴霧塗料種に応じて、前記塗料供給路に注入する塗料粘度調整液の注入量又は注入種を自動的に変更する粘度制御手段を設けてある点にある。
【0022】
この第3特徴構成によれば、自動塗装手段による自動塗装の進行に伴い被塗物の塗料噴霧部位や、被塗物の種別、あるいは、噴霧塗料種が変化することにかかわらず、その自動塗装との連係下において粘度制御手段が実行する上記の如き注入量又は注入種の自動変更により、被塗物に対する噴霧塗料の粘度を各塗装時点における被塗物の塗料噴霧部位又は被塗物の種別又は噴霧塗料種に適した適合粘度に自動的かつ的確に調整することができ、これにより、前述の第1又は第2特徴構成による効果を自動塗装手段による自動塗装の各工程で確実に得ることができて、自動塗装における塗装品質の向上を極めて効果的に達成することができる。
【0023】
〔4〕本発明の第4特徴構成は、第3特徴構成の実施に好適な実施形態を特定するものであり、その特徴は、
前記自動塗装手段において前記噴霧器を支持する噴霧器移動用の可動アームに、前記注入手段の前記塗料供給路に対する調整液注入部を設けてある点にある。
【0024】
つまり、塗料供給路のうち注入手段の調整液注入部(すなわち、塗料供給路に対する塗料粘度調整液の注入箇所)と噴霧器との間の部分は、塗料粘度調整液の注入量又は注入種を変更して噴霧塗料の粘度を変更する際の時間遅れの発生要因(すなわち、塗料粘度調整液の注入量又は注入種を変更した後、噴霧塗料の粘度が所要の粘度に変化するまでの時間遅れの発生要因)となり、調整液注入部を塗料流れ方向において上記可動アームよりも上流側に配設した場合には、塗料供給路の形成管材に弛みを持たせて可動アームの動作を許すための弛み路部分を調整液注入部と噴霧器との間に位置させる形態になり、そのことで塗料供給路における調整液注入部と噴霧器との間の部分の路長が大きくなって、上記時間遅れが大きくなる。
【0025】
これに対し、注入手段の塗料供給路に対する調整液注入部を上記可動アームに設ける第4特徴構成によれば、塗料供給路において上記弛み路部分よりも下流側に調整液注入部を位置させる形態になって、塗料供給路における調整液注入部と噴霧器との間の部分の路長を効果的に短くすることができ、これにより、上記時間遅れを効果的に小さくすることができて、そのことで塗装品質の向上を一層効果的に達成することができる。
【0026】
〔5〕本発明の第5特徴構成は、第2〜第4特徴構成に実施に好適な実施形態を特定するものであり、その特徴は、
前記噴霧器からの塗料噴霧により被塗物を塗装する塗装作業域の温度、又は、前記塗料供給路を通じて前記噴霧器に供給する塗料の温度を検出する温度検出手段を設け、
この温度検出手段による検出温度に基づき前記注入手段を操作することで、前記温度検出手段による検出温度に応じて、前記塗料供給路に注入する塗料粘度調整液の注入量又は注入種を自動的に変更する温度補償用の粘度制御手段を設けてある点にある。
【0027】
この第5特徴構成によれば、温度変化による粘度変化で被塗物に対する噴霧塗料の粘度が塗装条件に見合った適合粘度から外れる状態になることを、温度補償用の粘度制御手段が実行する上記の如き温度検出に基づく注入量又は注入種の自動変更により防止することができて、温度変化による粘度変化にかかわらず噴霧塗料の粘度を塗装条件に見合った適合粘度に安定的に維持することができ、これにより、塗装品質の向上を一層効果的に達成することができる。
【0028】
〔6〕本発明の第6特徴構成は、第2〜第5特徴構成の実施に好適な実施形態を特定するものであり、その特徴は、
塗料タンクから前記塗料供給路へ送出する塗料の粘度を検出する粘度検出手段を設け、
この粘度検出手段による検出粘度に基づき前記注入手段を操作することで、前記粘度検出手段による検出粘度に応じて、前記塗料供給路に注入する塗料粘度調整液の注入量又は注入種を自動的に変更する経時変化補償用の粘度制御手段を設けてある点にある。
【0029】
この第6特徴構成によれば、塗料タンク貯留塗料の経時変化による粘度変化で被塗物に対する噴霧塗料の粘度が塗装条件に見合った適合粘度から外れる状態になることを、経時変化補償用の粘度制御手段が実行する上記の如き粘度検出に基づく注入量又は注入種の自動変更により防止することができて、塗料タンク貯留塗料の経時変化による粘度変化にかかわらず噴霧塗料の粘度を塗装条件に見合った適合粘度に安定的に維持することができ、これにより、塗装品質の向上を一層効果的に達成することができる。
【0030】
〔7〕本発明の第7特徴構成は、第2〜第6特徴構成の実施において好適な実施形態を特定するものであり、その特徴は、
前記注入手段の前記塗料供給路に対する調整液注入部よりも塗料流れ方向における下流側において前記塗料供給路を通過中の塗料を攪拌する攪拌手段を設けてある点にある。
【0031】
この第7特徴構成によれば、塗料通過中の塗料供給路に注入した塗料粘度調整液を上記攪拌手段による攪拌により塗料供給路の通過中塗料(すなわち、噴霧器への給送過程にある塗料)に対し一層均一に混合することができて、この均一混合により、塗料粘度調整液の注入による塗料粘度調整において被塗物に対する噴霧塗料の粘度を一層均一に調整することができ、これにより、塗装品質の向上を一層効果的に達成することができる。
【0032】
また、この攪拌手段による混合により、塗料供給路における注入手段の調整液注入部と噴霧器との間の部分の路長を塗料粘度調整液の混合促進のために大きく確保するといったことも不要にすることができて、調整液注入部と噴霧器との間の部分の路長を短くすることができ、これにより、塗料粘度調整液の注入量又は注入種を変更して噴霧塗料の粘度を変更する際の時間遅れを小さくし得ることからも、塗装品質の向上を一層効果的に達成することができる。
【0033】
なお、第7特徴構成の実施において、攪拌手段には、攪拌翼の駆動回転などにより塗料を攪拌する駆動式の攪拌手段、あるいは、固定の案内翼により通過塗料を旋回させるなどして塗料を攪拌する非駆動式の攪拌手段のいずれを採用してもよいが、塗料粘度調整液の注入が塗料通過中の塗料供給路に対する注入であって、その注入だけでも塗料粘度調整液は塗料に対してかなり効率的に混合されることから、非駆動式の攪拌手段を採用しても一般的には十分な効果を得ることができ、また、非駆動式の攪拌手段の方が、前述した自動塗装手段の噴霧器移動用可動アームへの装備も容易になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
図1は塗装設備を示し、1は塗装ブース、2は塗装ブース1の内部(すなわち、塗装作業域)に設置した塗装ロボットであり、この塗装ロボット2における可動アーム2aの先端には、被塗物3(本実施形態では自動車ボディ)に対して塗料Tを噴霧する噴霧器としての塗装ガン4を取り付けてある。また、5は被塗物3を連続的に搬送又は一定間隔でタクト搬送する搬送装置であり、この塗装設備では、搬送される被塗物3ごとに塗装ロボット2を設定動作パターンで動作させて塗装ガン4を被塗物3周りで位置変更させつつ塗装ガン4から塗料噴霧することで搬送被塗物3を順次に塗装する。
【0035】
6は塗装ブース1から離れた箇所において互いに色の異なる塗料Tを貯留する複数の塗料タンクであり、塗装ロボット2の可動アーム2aには、各塗料タンク6からの塗料送路7をわたらせてある。また、図2に示す如く、塗装ロボット2の可動アーム2aには、これら塗料送路7を通じて塗料ポンプ8により各塗料タンク6から送給する塗料Tのうち、いずれの塗料Tを可動アーム2aに装備の塗料供給路9を通じて塗装ガン4に供給するかを選択する塗料切換弁装置10を設けてある。
【0036】
なお、この塗料切換弁装置10には、塗料噴霧用及び洗浄用圧縮空気Aの供給路11、及び、塗料Tの切換時に塗料供給路9を洗浄する洗浄液S(例えば、洗浄用シンナー)の供給路12を接続するとともに、それら圧縮空気A及び洗浄液S夫々の供給を断続する空気弁11a及び洗浄弁12aを装備してある。
【0037】
また、本実施形態では、各塗料タンク6からの塗料送路7の夫々に塗料ポンプ8を介装する例を示すが、これに代え、各塗料タンク6に対する共通の塗料ポンプを塗料供給路9に介装する構成を採用してもよい。
【0038】
13は制御盤であり、この制御盤13には、搬送する被塗物3ごとの種別(本実施形態では車種)及び予定塗色を書き込んだ設定塗装スケジュールに従って、搬送装置5との連係下で、塗装ロボット2を操作して各被塗物3の種別に応じた設定動作パターンで塗装ロボット2を動作させるとともに、塗料切換弁装置10、塗料ポンプ8、空気弁11a、塗装ガン4を操作して各被塗物3の予定塗色に一致する塗料Tを各被塗物3の種別に応じた噴霧発停パターンで塗装ガン4から噴霧させ、また、塗料Tの切り換え時に空気弁11a及び洗浄弁12aを操作して塗料供給路9の洗浄を実行する塗装制御器14を装備してある。
【0039】
15は塗装ブース1から離れた箇所において互いに異なる種類の塗料粘度調整液L(例えば、互い異なる種類の希釈用シンナー)を貯留する複数の調整液タンクであり、塗装ロボット2の可動アーム2aには、各塗料タンク6からの塗料送路7とともに各調整液タンク15からの調整液送路16をわたらせてある。
【0040】
また、塗装ロボット2の可動アーム2aには、塗装ガン4からの塗料噴霧に併行して塗料通過中の塗料供給路9に塗料粘度調整液Lを注入する調整液注入路17、及び、調整液送路16を通じて調整液ポンプ18により各調整液タンク15から送給する塗料粘度調整液Lのうち、いずれの塗料粘度調整液Lを調整液注入路17を通じて塗料供給路9に注入するかを選択する調整液切換弁装置19を設け、調整液注入路17には、それを通じて塗料供給路9に注入する塗料粘度調整液Lの注入量qを調整する注入量調整装置20、及び、その注入量q(すなわち、調整液注入路17における調整液流量)を検出する流量センサ21を装備してある。
【0041】
そして、制御盤13には、塗装制御器14による上記自動塗装との連係下において、調整液切換弁装置19、調整液ポンプ18を操作するとともに、流量センサ21の検出情報に基づきフィードバック方式で注入量調整装置20を操作することで、調整液注入路17から塗料供給路9に注入する塗料粘度調整液Lの注入量q及び注入種を、被塗物3の各時点における塗料噴霧部位、順次塗装する被塗物3夫々の種別、及び、順次塗装する被塗物3ごとの噴霧塗料種(塗料色)などに応じ、所定の変更基準データDに従って自動的に変更する粘度制御器22を設けてある。
【0042】
つまり、この塗装設備では、塗料供給路9を通じ塗装ガン4に塗料Tを供給して、その供給塗料Tを塗装ガン4により被塗物3に噴霧することで被塗物3を塗装するにあたり、塗装ガン4による被塗物3への塗料噴霧に併行して塗料通過中の塗料供給路9に塗料粘度調整液Lを注入することで、塗料供給路9を通過中の塗料Tに対し塗料粘度調整液Lの混合による粘度調整処理を逐次に施すようにして、被塗物3に対する噴霧塗料の粘度を調整する。
【0043】
そして、塗装制御器14による自動塗装との連係下において粘度制御器22が設定変更基準データDに基づき実行する上記の如き注入量q又は注入種の自動変更により、被塗物3に対する噴霧塗料の粘度を各塗装時点における被塗物3の塗料噴霧部位、被塗物3の種別、噴霧塗料種などに適した適合粘度に自動的に調整するようにしてある。
【0044】
また、塗料供給路9及び調整液注入路17を塗装ロボット2の可動アーム2aに設けて、塗料供給路9に対する調整液注入部(すなわち、塗料供給路9に対する調整液注入路17の接続部)を塗装ロボット2の可動アーム2aに設けることで、塗料供給路9のうち調整液注入部と塗装ガン4との間の部分の路長を短くし、これにより、塗料粘度調整液Lの注入量q又は注入種を変更した後、噴霧塗料の粘度が所要の粘度に変化するまでの時間遅れを小さくするようにしてある。
【0045】
23は塗装ガン4のケース4aに内装する状態で塗料供給路9に介装した攪拌手段としてのスタティックミキサーであり、このスタティックミキサー23は、塗料粘度調整液Lの注入後における塗料供給路9の通過塗料Tを固定の案内翼により剪断する形態で攪拌し、この攪拌により通過塗料Tに対する塗料粘度調整液Lの均一混合性を高める。
【0046】
なお、このスタティックミキサー23を塗料粘度調整液Lの注入箇所よりも下流側において塗料供給路9に介装するのに、上記の如くスタティックミキサー23を塗装ガン4のケース4aに内装する形態に代え、スタティックミキサー23を塗装ガン4のケース4aの外部において塗料供給路9に介装する形態を採ってもよい。
【0047】
塗料供給路9及び調整液注入路17には、塗料T及び塗料粘度調整液L夫々の流れについて、塗装ガン4へ向かう流れのみを許容する逆止弁24,25を介装し、また、調整液切換弁装置19には、調整液注入路17を洗浄する洗浄液S′(例えば、洗浄用シンナー)の供給路26及び洗浄用圧縮空気A′の供給路27を接続するとともに、それら洗浄液S′及び圧縮空気A′夫々の供給を断続する洗浄弁26a及び空気弁27aを装備してあり、粘度制御器22は、塗料粘度調整液Lの注入種を変更する際に、これら洗浄弁26a及び空気弁27aを操作して調整液注入路17の洗浄を実行する。
【0048】
以上要するに、本実施形態において、調整液タンク15、調整液送路16、調整液注入路17、調整液ポンプ18、調整液切換弁装置19、注入量調整装置20は、噴霧器としての塗装ガン4による被塗物3への塗料噴霧に併行して塗料通過中の塗料供給路9に塗料粘度調整液Lを注入する注入手段を構成し、この注入手段は、塗料供給路9に注入する塗料粘度調整液Lの注入量q又は注入種の変更操作が可能な構成にしてある。
【0049】
また、塗装ロボット2及び塗装制御器14は、塗装ガン4を用いて被塗物3を自動塗装する自動塗装手段を構成し、粘度制御器22は、この自動塗装手段との連係下において注入手段を操作することで、被塗物3の各時点における塗料噴霧部位に応じて、又は、順次塗装する被塗物3夫々の種別に応じて、又は、順次塗装する被塗物3ごとの噴霧塗料種に応じて、塗料供給路9に注入する塗料粘度調整液Lの注入量q又は注入種を自動的に変更する粘度制御手段を構成する。
【0050】
〔別実施形態〕
次に本発明の別実施形態を列記する。
前述の実施形態では、自動塗装手段2,14との連係下において注入手段15〜20を操作することで、被塗物3の各時点における塗料噴霧部位に応じて、又は、順次塗装する被塗物3夫々の種別に応じて、又は、順次塗装する被塗物3ごとの噴霧塗料種に応じて、塗料供給路9に注入する塗料粘度調整液Lの注入量q又は注入種を自動的に変更する粘度制御手段を設ける構成を示したが、この粘度制御手段とともに、あるいは、単独に下記の如き温度補償用の粘度制御手段や経時変化補償用の粘度制御手段を設けるようにしてもよい。
【0051】
噴霧器4からの塗料噴霧により被塗物3を塗装する塗装作業域の温度、又は、塗料供給路9を通じて噴霧器4に供給する塗料Tの温度を検出する温度検出手段の検出温度に基づき注入手段15〜20を操作することで、温度検出手段による検出温度に応じて、塗料供給路9に注入する塗料粘度調整液Lの注入量q又は注入種を自動的に変更する温度補償用の粘度制御手段。
【0052】
塗料タンク6から塗料供給路9へ送出する塗料Tの粘度を検出する粘度検出手段の検出粘度に基づき注入手段15〜20を操作することで、粘度検出手段による検出粘度に応じて、塗料供給路9に注入する塗料粘度調整液Lの注入量q又は注入種を自動的に変更する経時変化補償用の粘度制御手段。
【0053】
前述の実施形態では、塗装ロボット2により塗装ガン4を移動操作して被塗物3を自動塗装する例を示したが、塗装ガン4を反復的に揺動操作や昇降操作する自動塗装機により被塗物を自動塗装する場合において本発明を適用してもよい。
【0054】
塗料供給路9からの供給塗料Tを被塗物3に対して噴霧する噴霧器は、前述の実施形態で示した塗装ガン4の如きものに限らず、種々の形式・構造のものを適用することができ、また、本発明の実施において被塗物は自動車ボディに限られるものではない。
【0055】
前述の実施形態では、塗料T及び塗料粘度調整液Lの夫々をタンク6,15から給送する例を示したが、本発明の実施において、塗料T及び塗料粘度調整液L夫々の給送は必ずしもタンクからの給送に限られるものではなく、タンクを装備しない形態での延設配管を通じての給送であってもよい。
【0056】
本発明の第1又は第2特徴構成の実施においては、塗料通過中の塗料供給路9に注入する塗料粘度調整液Lの注入量q又は注入種を人為操作により変更するようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】塗装設備の構成図
【図2】塗装ガン周りの回路図
【符号の説明】
【0058】
9 塗料供給路
4 噴霧器
T 塗料
3 被塗物
L 塗料粘度調整液
15〜20 注入手段
q 注入量
2,14 自動塗装手段
22 粘度制御手段
2a 可動アーム
23 攪拌手段


【特許請求の範囲】
【請求項1】
塗料供給路を通じ噴霧器に塗料を供給して、その供給塗料を前記噴霧器により被塗物に噴霧することで被塗物を塗装する塗装方法であって、
前記噴霧器による被塗物への塗料噴霧に併行して塗料通過中の前記塗料供給路に塗料粘度調整液を注入することで、被塗物に対する噴霧塗料の粘度を調整する塗装方法。
【請求項2】
塗料供給路を通じ噴霧器に塗料を供給して、その供給塗料を前記噴霧器により被塗物に噴霧することで被塗物を塗装する塗装装置であって、
前記噴霧器による被塗物への塗料噴霧に併行して塗料通過中の前記塗料供給路に塗料粘度調整液を注入する注入手段を設け、
この注入手段を、前記塗料供給路に注入する塗料粘度調整液の注入量又は注入種の変更操作が可能な構成にしてある塗装装置。
【請求項3】
前記噴霧器を用いて被塗物を自動塗装する自動塗装手段を設け、
この自動塗装手段との連係下において前記注入手段を操作することで、被塗物の各時点における塗料噴霧部位に応じて、又は、順次塗装する被塗物夫々の種別に応じて、又は、順次塗装する被塗物ごとの噴霧塗料種に応じて、前記塗料供給路に注入する塗料粘度調整液の注入量又は注入種を自動的に変更する粘度制御手段を設けてある請求項2記載の塗装装置。
【請求項4】
前記自動塗装手段において前記噴霧器を支持する噴霧器移動用の可動アームに、前記注入手段の前記塗料供給路に対する調整液注入部を設けてある請求項3記載の塗装装置。
【請求項5】
前記噴霧器からの塗料噴霧により被塗物を塗装する塗装作業域の温度、又は、前記塗料供給路を通じて前記噴霧器に供給する塗料の温度を検出する温度検出手段を設け、
この温度検出手段による検出温度に基づき前記注入手段を操作することで、前記温度検出手段による検出温度に応じて、前記塗料供給路に注入する塗料粘度調整液の注入量又は注入種を自動的に変更する温度補償用の粘度制御手段を設けてある請求項2〜4のいずれか1項に記載の塗装装置。
【請求項6】
塗料タンクから前記塗料供給路へ送出する塗料の粘度を検出する粘度検出手段を設け、
この粘度検出手段による検出粘度に基づき前記注入手段を操作することで、前記粘度検出手段による検出粘度に応じて、前記塗料供給路に注入する塗料粘度調整液の注入量又は注入種を自動的に変更する経時変化補償用の粘度制御手段を設けてある請求項2〜5のいずれか1項に記載の塗装装置。
【請求項7】
前記注入手段の前記塗料供給路に対する調整液注入部よりも塗料流れ方向における下流側において前記塗料供給路を通過中の塗料を攪拌する攪拌手段を設けてある請求項2〜6のいずれか1項に記載の塗装装置。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−35112(P2006−35112A)
【公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−219649(P2004−219649)
【出願日】平成16年7月28日(2004.7.28)
【出願人】(000149790)株式会社大気社 (136)
【Fターム(参考)】