説明

塗装鋼板のせん断加工方法

【課題】塗装鋼板にせん断加工を施す際、被加工板が比較的厚い塗膜を有する塗装鋼板であってもエナメルヘアの発生を抑制したせん断加工方法を提供する。
【解決手段】ダイ上に載置した塗装鋼板にパンチを押込んでせん断加工を行う際に、先端にコーナーRが付された予備パンチを押付けてせん断部位の塗膜厚を薄くした後にせん断用パンチを押込む。
材料の内側をせん断加工する場合には、前記予備パンチ及びせん断用パンチとして先端の平面部に凹部が形成されるものを用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エナメルヘアの発生を抑制した塗装鋼板のせん断加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、家電製品や自動車部品等として、塗装鋼板を成形した製品が多用されるようになっている。特に、ステンレス鋼板を原板とし、その表面にクリア塗装を施した塗装ステンレス鋼板が、高意匠化を目的とした家電製品に多用されるようになっている。
しかも、工程省略、コスト低減の観点から、予め塗装された鋼板が所望の製品形状にプレス成形されて使用されるようになっている。
塗装鋼板を家電製品や自動車部品等へ加工する工程では、プレス機械によるせん断加工が施される場合が多くなっている。そして、せん断加工の際、せん断端面にエナメルヘア(端面の塗膜剥離)が発生しやすい。
【0003】
せん断端面にエナメルヘアが発生すると、外観が損なわれて製品の品質を低下させるばかりでなく、家電製品や自動車部品等を加工する工程の途中で発生すると打痕の原因となり歩留の低下にも繋がる。
そこで、塗装鋼板にせん断加工する際に、せん断部の塗膜を予め切断したり、ダレを小さくするためにせん断クリアランスを極端に小さくしたりして、エナメルヘアの発生を防止していた。塗装鋼板の原板が表面処理鋼板である場合、ダレが大きいと原板と塗膜の間にあるめっき層の伸びが小さいためにその部分で破壊が生じてエナメルヘアが発生しやすくなるからである。
【0004】
具体的に、せん断部の塗膜に予め膜厚分の切り込みを入れた後、ポンチとダイのクリアランスを板厚の5%以上、10%以下で打ち抜くことが特許文献1で提案されている。
また、原板がステンレス鋼板である場合、塗膜と原板の間にめっき層のような伸びの小さい層が存在せず、直接原板上に被覆されている。したがって、原板と塗膜の密着性の大小がエナメルヘアの発生に直接関係するため、エナメルヘアの発生を防止するには、塗膜と原板の密着性を高めるか、塗膜の厚さを極力薄くすることが必要となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9−300295号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1で提案された方法では、せん断部の塗膜に予め膜厚分の切り込みを入れている。このため、せん断加工そのものが煩雑となって生産性を低下させている。
また、ステンレス鋼板にクリア塗膜を形成したような塗装ステンレス鋼板にあっては、所望の高意匠を発現させようとするときに膜厚の厚い塗膜が必要になるが、塗膜の膜厚が厚くなるほどエナメルヘアが発生しやすくなる。そして、エナメルヘアが発生した場合には、加工後に除去する作業が必要になる等、非常に作業性が悪くなる
【0007】
本発明は、このような問題を解消すべく案出されたものであり、塗装鋼板にせん断加工を施す際、被加工板が比較的厚い塗膜を有する塗装鋼板であってもエナメルヘアの発生を抑制したせん断加工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の塗装鋼板のせん断加工方法は、その目的を達成するため、ダイ上に載置した塗装鋼板にパンチを押込んでせん断加工を行う際に、先端にコーナーRが付された予備パンチを押付けてせん断部位の塗膜厚を薄くした後にせん断用パンチを押込むことを特徴とする。
材料の内側を抜くせん断加工の場合は、先端の平面部に凹部が付与されるとともにその縁端部にコーナーRが付された予備パンチを押付けてせん断部位の塗膜厚を薄くした後にせん断用パンチを押込む。この際、せん断用パンチの先端平面部にも凹部が付与されているものを用いることが好ましい。
何れの場合であっても、ダイ上に載置した塗装鋼板を板押さえで押さえた状態で加工することが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明の塗装鋼板のせん断加工方法では、先端にコーナーRが付された予備パンチを押付けてせん断部の塗膜厚を薄くした後にせん断加工を行うことにより、エナメルヘアの発生が抑制される。このため、塗膜厚の厚い塗装鋼板を加工する際にあっても、エナメルヘアを発生させることなくせん断加工することができる。
したがって、本発明により、従前のように加工後にエナメルヘアの除去作業を行う必要がなく、作業性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】せん断加工時におけるエナメルヘアの発生機構を説明する図
【図2】エナメルヘアの発生におよぼす塗膜厚みの影響を説明する図
【図3】エナメルヘア防止加工方法を説明する図(せん断加工の場合)
【図4】エナメルヘア防止加工方法を説明する図(材料の内側をせん断加工する場合)
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明者等は、塗装鋼板、特にクリア塗装を施したような塗装ステンレス鋼板にせん断加工を施す際に発生するエナメルヘアの発生原因とその対策について鋭意検討を重ねてきた。
まず、エナメルヘアの発生原因について見ると、せん断端面でのエナメルヘアの発生は、塗膜が原板との界面で剥離する現象と推測される。
その現象を、図をもって説明する。
【0012】
図1に示すように、ダイ1上に載置した塗装鋼板3にパンチ2を用いたせん断加工を施す(a)とき、まずパンチ2の刃先が塗膜5に食込んで塗膜がせん断される(b)。その後にパンチ2の刃先が材料である原板4に食込んで原板がせん断され(c)、抜きカスと抜きさんとに分離される(d)。抜きカスが分離されてせん断が終わり、パンチが上方に引上げられて刃先が材料から離脱する際に(e)、塗膜端面と刃先側面が高面圧で摺動することとなって塗膜5が原板4から剥離する方向に力が働く。そして、刃先が材料から離れたときに剥離された塗膜端が本体部分から離脱されてエナメルヘアとなる、と推測される。
【0013】
原板と塗膜の界面に大きなせん断力が働いた場合、界面の密着力が塗膜の破断力(=断面積×塗膜の破断応力)より小さいと塗膜が界面から剥離してエナメルヘアとなり、逆に密着力が強い場合は塗膜にクラックが生じる。図2に示す通りである。
そこで、本発明では、せん断加工時に塗膜端が本体部分から剥離・離脱されないように工夫した。
以下に、その詳細を説明する。
【0014】
図2に示した塗膜厚の影響からも分かるように、膜厚が厚くなると塗膜の破断力(=断面積×塗膜の破断応力)が界面の密着力よりも大きくなって、せん断加工時に塗膜端が本体部分から剥離しやすくなり、逆に膜厚が薄いと界面の密着力よりも塗膜の破断力の方が小さいため、塗膜が割れることで塗膜端が本体部分から剥離し難くなる。
そこで、せん断加工を施すに当たって、せん断部分の塗膜厚を予め薄くしておけば、剥離し難くなってエナメルヘアの発生を抑制できると推測し、本発明に到達した。
【0015】
まず、単に材料を分断するせん断加工する際のエナメルヘア防止加工方法について説明する。
図3に示すように、(1)ダイ上に載置した塗装鋼板の所望せん断部位に、先端にコーナーRが付された予備パンチを押付けてせん断部位の塗膜を潰す。(2)それにより、所望せん断部位の塗膜厚を薄くする。その後(3)通常のせん断用のパンチを押込んで通常通りのせん断加工を行う。
塗膜厚の厚い塗装鋼板を加工する際にあっても、せん断部位の塗膜厚が薄くなっているので、図2に示した塗膜が薄い場合のように、エナメルヘアの発生を抑制することができる。
【0016】
次に、材料の内側をせん断加工する際のエナメルヘア防止加工方法について説明する。
図4に示すように、(1)ダイ上に載置した塗装鋼板の所望打ち抜き部位に、その縁端部にコーナーRが付された予備パンチを押付けてせん断部位の塗膜を潰す。(2)それにより、所望せん断部位の塗膜厚を薄くする。その際、塗膜の逃げを容易にするため、先端の平坦部に凹部を設けたパンチを用いる。その後(3)通常のせん断用のパンチを押込んで通常通りのせん断加工を行う。なお、せん断用のパンチには、予備パンチと同様に、先端の平坦部に塗膜を逃がすための凹部を設けていることが好ましい。
塗膜厚の厚い塗装鋼板を加工する際にあっても、打ち抜き部位の塗膜厚が薄くなっているので、図2に示した塗膜が薄い場合のように、エナメルヘアの発生を抑制することができる。
上記、せん断加工を行う際には、ダイ上に載置した塗装鋼板を板押さえで押さえた状態で加工すると、塗装鋼板を変形させることなく加工精度良く加工することができる。
【実施例】
【0017】
次に、クリア塗装を施した塗装ステンレス鋼板にせん断加工を施した事例を紹介する。素材には、表1に示す機械的特性を有する板厚0.4mmのSUS430冷延焼鈍板を原板とし、その表面にクロムフリーの塗装前処理を施した後に3,6,8,11及び17μmの厚みで高分子アクリル系のクリア塗装を施したものを用いた。
なお、前記クロムフリーの塗装前処理は、ポリビニルフェノールを添加した、可溶性のハロゲン化物や酸素酸塩を含む化成処理液を用いて行ったものである。
せん断加工条件として、表2に示す条件を採用した。加工油や保護フィルムは用いなかった。
【0018】

【0019】

【0020】
まず、刃先先端にコーナーRを付していないパンチを用いて、前記5種類の塗装鋼板に打抜き加工を施した。
その結果を表3に示すが、エナメルヘアは塗膜厚8μm以上で発生していた。塗膜厚が6μm以下では口開き割れが発生しているのみであった。この状況は、クリアランスに関係なく、すべて同様の結果であった。
【0021】

【0022】
次に、エナメルヘアが発生した塗膜厚8μm以上の3種類の塗装鋼板について、本発明を適用したせん断加工を施した。
予備パンチとして、表4に示す径が28.0mmで、その縁端部に1.0mmのコーナーRを付すとともに、先端の平坦部に直径16.0mmで深さ0.1mmの凹部を設けたパンチを用いた。
また、せん断用パンチおよびダイとして、表5に示す径が22.00mmで、先端の平坦部に直径16.0mmで深さ0.1mmの凹部を設けたパンチと径が22.06mmのダイを用いた。
【0023】
この予備パンチとせん断用パンチを用いて前記3種類の塗装鋼板に、図4に準じたせん断加工を施した。
なお、予備パンチでせん断部位の塗膜厚が表6に示す膜厚になるように予備押圧した後、せん断用パンチとダイで打ち抜いた。
その結果、表6に示すように予備パンチによる予備押圧で塗膜厚を6μm以下にした後にせん断加工したものは何れもエナメルヘアを発生することなく加工することができた。
【0024】

【0025】

【0026】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ダイ上に載置した塗装鋼板にパンチを押込んでせん断加工を行う際に、先端にコーナーRが付された予備パンチを押付けてせん断部位の塗膜厚を薄くした後にせん断用パンチを押込むことを特徴とする塗装鋼板のせん断加工方法。
【請求項2】
ダイ上に載置した塗装鋼板にパンチを押込んでせん断加工を行う際に、先端の平面部に凹部が付与されるとともにその縁端部にコーナーRが付された予備パンチを押付けてせん断部位の塗膜厚を薄くした後にせん断用パンチを押込むことを特徴とする塗装鋼板のせん断加工方法。
【請求項3】
先端平面部に凹部が付与されているせん断用パンチを用いる請求項2に記載の塗装鋼板のせん断加工方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−194549(P2011−194549A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−67149(P2010−67149)
【出願日】平成22年3月24日(2010.3.24)
【出願人】(000004581)日新製鋼株式会社 (1,178)
【Fターム(参考)】