説明

塩化銅エッチング廃液の精製方法及び精製塩化銅溶液

【課題】 銅材料をエッチングした後の塩化銅エッチング廃液について、有効な金属である銅以外の不純物金属を簡便な操作でかつ低コストで除去して精製すること。
【解決手段】 亜鉛、鉄、などの金属の陰イオン性錯体は、弱塩基性アニオン交換樹脂に接触させることで除去されることが知られている。一方塩化銅エッチング廃液中の有効金属である銅は陰イオン性錯体として存在するといわれているが、本発明者は、塩化銅エッチング廃液中の銅の陰イオン性錯体は、強または弱塩基性アニオン交換樹脂に接触させてもほぼ吸着されないことを見出した。従って塩化銅エッチング廃液をこれらアニオン交換樹脂に接触させることにより、鉄や亜鉛の陰イオン性錯体はこの樹脂に吸着されて除去されるが、銅はそのまま液中に残ることから、塩化銅エッチング廃液を精製することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銅材料をエッチングした後の塩化銅エッチング廃液を精製する方法及びこの精製方法により得られた塩化銅溶液に関する。
【背景技術】
【0002】
塩化第二銅エッチング液による銅プリント基板のエッチング法は、一般に民生用、産業機器用など幅広い分野で多く利用されている。このエッチング液を用いて被エッチング材である銅箔をエッチング処理する反応機構は下記の(1)式により示され、この反応により塩化第二銅(CuCl2)は塩化第一銅(CuCl)になる。
Cu+CuCl2 → 2CuCl ……(1)
このようにして生成される塩化第一銅はエッチング速度を低下させることから、例えば過酸化水素と塩酸とをエッチング液に添加し、次の再生反応により塩化第一銅を塩化第二銅に再生することが行われている。
2CuCl+H2O2+2HCl→2CuCl2 +2H2O ……(2)
エッチング液はこのような再生処理を行うことができるが、エッチング液が増加し余剰液となる。ところでこの余剰液つまり塩化銅エッチング廃液は銅濃度が高いことから、銅材料の原料として高い利用価値があり、例えば不溶性陽極を用いた電解銅メッキに使用される銅補給材としての炭酸銅や酸化銅の原料となり得る。炭酸銅は、前記塩化銅エッチング廃液と炭酸イオンを含む水溶液例えば炭酸ナトリウム水溶液とを加熱しながら混合することで生成され、また酸化銅は炭酸銅を熱分解することにより得られる。このように塩化銅エッチング廃液を利用して銅補給材を製造する方法は、廃液の有効利用を図ることができ、市販の塩基性炭酸銅原料とする場合と比較してコスト的にも有利である。更にまた炭酸銅あるいは酸化銅を得るために薬剤として炭酸ナトリウムを用いれば、発生する排水は塩化ナトリウム水溶液となり、廃水処理の点からも塩化銅エッチング廃液は扱いやすい原料といえる。
【0003】
ところで塩化銅エッチング廃液中には、エッチング時に被エッチング材例えば銅箔板が溶け出し、銅箔に含まれていた不純物金属がエッチング液中に取り込まれる。また塩化銅エッチング廃液は腐食性が強いことから、液の搬送中などに不純物金属が取り込まれることも考えられる。このためエッチング廃液を原料とすると、得られた銅補給材に上記の不純物金属が混入してしまう。この銅補給材をメッキ浴に供給した場合、不純物金属がメッキ浴中に蓄積してその濃度が高くなる。実際に塩化銅エッチング廃液を分析してみると、鉄(Fe)、亜鉛(Zn)、アルミニウム(Al)などが含まれており、特に鉄、亜鉛の濃度が高いことを把握している。鉄に関しては、プリント基板には、ほぼ含まれていないことから、混入ルートは明確ではないが、塩化銅エッチング廃液を貯槽に貯留しているときあるいはタンクローリにより搬送しているときなどにその内壁面から溶けだしたのではないかと推測している。しかしながらメッキ浴中の不純物金属、特に鉄、亜鉛の濃度が高くなると、銅メッキ膜が粗くなるということが知られている。
【0004】
また酸化銅は釉薬としても使用されているが、鉄が含まれていると焼成後の色調が不安定になる。こうした事情から塩化銅エッチング廃液を精製して不純物を除去することが必要になっており、特許文献1には、塩化銅エッチング廃液にアルカリ金属あるいはアルカリ土類金属の塩化物と金属銅材とを加えて塩化第一銅を生成させ、この溶液から不溶解残渣分を除去した後、母液に水を加えて塩化第一銅を析出させ、この塩化第一銅が浸漬された水中に塩素ガスを供給して塩化第二銅水溶液を得ることが記載されている。しかしながらこの手法は操作が煩雑であり、ランニングコストが高いという課題がある。
【0005】
また特許文献2には、亜鉛や鉄の陰イオン性錯体を含む溶液をpHが3以上7以下の条件で弱塩基性アニオン交換樹脂に接触させることでこれら陰イオン性錯体を除去できることが記載されているが、塩化銅エッチング廃液の精製については示唆されていない。
更に特許文献3には、エッチング処理後の塩化第二銅エッチング液を陰イオン(アニオン)交換樹脂に通液させて液中の銅の陰イオン性錯イオンを樹脂に吸着させ、次いでこの樹脂から銅イオンを脱離させて銅を回収することが記載されている。また塩銅液を樹脂容積の2倍弱通液させることで樹脂が破過することが記載されている。しかしながら一般的に、通液初期に排出される液には、イオン交換樹脂の水和目的で共存させた水分が多く含まれている点を考慮すれば、この技術は、陰イオン交換樹脂が破過に至ると認識されるまでの通液量があまりにも短すぎることから、その水分又は、その水分で希釈された処理液の分析結果で評価し、考察をしている事となる。従って陰イオン交換樹脂の破過についての認識が誤っていると共に陰イオン交換樹脂についての銅の吸着に関する正確な実験は行われておらず、本発明の課題を解決する知見は示唆されていない。
【0006】
更にまた特許文献4には、粗銅粉末1kgを塩酸50リットル、過酸化水素水15リットルの混合液に加え、銅を溶解させ、残りの固形分を磁気吸着で除去し、銅の溶解液を陰イオン交換樹脂に通流させて銅のイオンを当該樹脂に吸着させた後、次いで9Mの塩酸を陰イオン交換樹脂に通流させてニッケル、クロムを溶出させ、その後、4.8Mの塩酸を通流させて銅を溶出させることが記載されている。しかしながらこの技術は、銅を陰イオン交換樹脂に吸着させ、次いで不純物金属及び銅の2段脱離を行っているため、操作が煩雑である。また、脱離に塩酸を使用するため、その分のランニングコストがかかる。またこの特許文献4には、銅濃度が1.5重量%未満の液を対象とし、銅濃度が例えば6重量%以上もの高い塩化銅エッチング廃液について、鉄、亜鉛を除去し、銅を分離することに関しては記載されていない。
【0007】
【特許文献1】特開2004−299974号公報
【特許文献2】特開2003−265902号公報:段落0007、0012、0013
【特許文献3】特開平5−179465号公報:段落0001、0011、0012及び0018
【特許文献4】特開平8−81719号公報:請求項1、段落0031、0032
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明はこのような事情に基づいてなされたものであり、その目的は、塩化銅エッチング廃液を簡便な操作でかつ低コストで精製することのできる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、銅材料をエッチングした後の塩化銅エッチング廃液を精製して塩化銅溶液を得る方法において、
前記エッチング廃液を、銅の水酸化物である固形成分が生成されないpH領域にて、弱塩基性アニオン交換樹脂または強塩基性アニオン交換樹脂に接触させることにより、不純物金属を前記樹脂に吸着させて除去し精製塩化銅溶液を得ることを特徴とする。本発明者は塩化銅エッチング廃液のpHを2以上にすると水酸化銅の沈殿が見られ、またpHを1.5にするとその沈殿が見られないことを確認していることから、銅の水酸化物である固形成分が生成されないpH領域については、2未満でかつ1.5以上のある値が上限であることは確実であるが、実際のプロセスにおいては、温度や攪拌する手法などにより水酸化銅の沈殿が形成されるpHの臨界ポイントは多少変動することから、本発明者は1.5以下であれば本発明方法を実施でき、また処理の安定性を考慮するならば、1以下であることが望ましいと捉えている。また不純物金属としては例えば鉄及び亜鉛である。
塩化銅エッチング廃液のpHを1以下にするためには、例えば塩酸が用いられる。しかし塩化銅エッチング廃液は、一般には塩酸を含んでいるため、この塩酸によりpHが1以下に維持されている場合にはpH調整は不要である。
また本発明に係る塩化銅溶液は銅材料をエッチングした後の塩化銅エッチング廃液を上述の方法により精製して得られたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
以下に本発明の効果を、本発明者の知見を踏まえて説明する。亜鉛、鉄、パラジウム、カドミウム、銀、鉛、水銀などの金属の陰イオン性錯体は、特許文献2に記載されているように、pHが3以上7以下の条件で弱塩基性アニオン交換樹脂に接触させることで除去されることが知られている。一方、塩化銅エッチング廃液中の有効金属である銅は陰イオン性錯体として存在するといわれているが、本発明者は、塩化銅エッチング廃液中の銅の陰イオン性錯体は、弱塩基性アニオン交換樹脂に接触させても吸着されにくいことを見出した。従って塩化銅エッチング廃液を弱塩基性アニオン交換樹脂に接触させることにより、鉄や亜鉛の陰イオン性錯体はこの樹脂に優先的に吸着されて除去されるが、銅の陰イオン性錯体は相対的に吸着されにくいことから、塩化銅エッチング廃液を精製することができる。従来までの知見では、溶液のpHを3以上とすることが前提であったが、銅イオンはpHがこのように大きいと水酸化銅になって沈殿することから、銅イオンと弱塩基性アニオン交換樹脂との関係には着目されていなかったと思われる。また特許文献4の知見では、銅イオンが陰イオン交換樹脂に吸着するということであるが、塩化銅エッチング廃液については、陰イオン交換樹脂からの流出液中に廃液中の銅のほとんどが含まれていることから、銅の濃度、塩酸の濃度、過酸化水素水の有無、不純物金属(ニッケル、クロムと鉄、亜鉛)等の差異により銅が陰イオン交換樹脂に殆ど吸着されないものと推測される。
【0011】
ここで塩化銅エッチング廃液は例えば約10重量%の銅と約8重量%の遊離塩酸とを含み、この銅のイオンであるCuイオンのほとんどはCuではなくCu2+と考えられる。このため銅イオンよりも塩素イオンの方が多く、銅の陰イオン性錯体を形成していると考えられる。また銅イオンは鉄イオンや亜鉛イオンに比べて格段に多いことから、本発明者は、銅の陰イオン性錯体が優先的に弱塩基性アニオン交換樹脂に吸着され、鉄及び亜鉛陰イオン性錯体の吸着を阻害すると考えていた。なお塩化第二銅溶液に塩酸を加えると銅の陰イオン性錯体が形成されることは文献(新版 無機化学(上巻):産業図書株式会社発行)にも記載されている。
【0012】
しかしながら理由は明確でないが、後述の実験例から明白なように銅イオンは弱塩基性アニオン交換樹脂に吸着されにくいことが分かった。またこのことは実験から把握しているように、弱塩基性アニオン交換樹脂に限らず強塩基性アニオン交換樹脂を用いても同じ結果である。従って塩化銅エッチング廃液を、pHを例えば1.5以下に調整して水酸化銅の沈殿を生成しない状態にしておいてこれら交換樹脂に接触させることにより有効な銅イオンは液中に残存させながら、不純物金属を除去することができ、このため簡便でかつ低いランニングコストで塩化銅エッチング廃液を精製することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明における精製の対象である塩化銅エッチング廃液は、塩化第二銅溶液に塩酸が添加されたエッチング液を用いて銅プリント基板などの被エッチング材をエッチングし、例えば既述のように再生することにより発生した余剰液である。エッチング反応は先の(1)式に示した通りであり、従って塩化銅エッチング廃液の組成は、例えば塩化第二銅が約21重量%、遊離塩酸が約8重量%であり、その他不純物として鉄及び亜鉛などが微量に含まれている。本発明者の分析では、鉄は数ppm〜数百ppmとばらつきがあったが、亜鉛は30〜50ppmの範囲であった。
【0014】
この廃液を接触させる例えば弱塩基性アニオン交換樹脂としては、例えばスチレン系のものが用いられ、具体的にはロームアンドハース社製の商品名アンバーライト(登録商標)IRA96SBや三菱化学社製のDIAION(登録商標)WA30などを挙げることができる。またアニオン交換樹脂としては、強塩基性アニオン交換樹脂であってもよく、この場合例えばスチレン系のものが用いられ、具体的には三菱化学社製のDIAION(登録商標)PA316などを挙げることができる。
【0015】
塩化銅エッチング廃液を上記の樹脂と接触させて精製させるためには、廃液のpHが1以下であることが必要である。本発明者の実験によれば、pHが2であると銅の水酸化物即ち水酸化第二銅(Cu(OH)2)の沈殿が見られ、pHが1.5であれば銅の水酸化物の沈殿は見られない。銅が固体の銅水酸化物となって沈殿すると、樹脂塔のつまりや樹脂の劣化を生じるおそれがあり、また精製収率も低下するおそれがある。このため本発明の精製方法を実施する場合には、pHを、水酸化物の沈殿が生じない領域にすることが必要であり、例えば1.5以下にすることが必要である。なお塩化銅エッチング廃液は一般にはpHが1よりも低いことから、そのまま処理することができる。しかし、エッチングメーカーにて廃液にアルカリが混入しpHが1.5以上となった場合は、塩酸などを加えてpHを例えば1.5以下に調整する。
【0016】
また処理温度について本発明者は20℃〜60℃の範囲で実験を行い、精製結果に差異のないことを把握しているが、温度範囲は特に限定されるものではない。
【0017】
しかし高温にしていくと塩化銅エッチング廃液から塩酸ミストが発生し、作業環境を悪化させる問題が起こる。そのため、60℃以下での処理が好ましい。また、アニオン交換樹脂の交換基がOH形である場合、HClもイオン交換する可能性がある。廃液中のHClが微量である場合、このイオン交換によりpHが上昇し、銅水酸物が発生する。そのためOH形の樹脂を使用する場合は、前処理として、樹脂を希塩酸に浸漬させておき、HClとイオン交換しないCl形としておく。
【0018】
次に本発明方法を実施するための精製装置の一例を図1に示しておく。1は塩化銅エッチング廃液貯槽であり、ここに貯留された廃液は、ポンプP1により廃液供給路である廃液供給管11を介して精製部である精製塔2に送られる。精製塔2内には、強あるいは弱塩基性アニオン交換樹脂からなる吸着層21が設けられている。この吸着層21の具体的構成については、例えば直径0.5mm程度の球形状の交換樹脂を精製塔2内に水などと共に流入させ、精製塔2内に設けられた樹脂ネットの上に積層させている。このネットの目開きが交換樹脂の直径よりも小さい事から交換樹脂が下流側に流出しないようになっている。
【0019】
前記ポンプP1を制御することにより、設定された空間速度(空塔速度)で廃液が精製塔2内を流下する。廃液は樹脂層内を透過することで樹脂に接触して既述のように精製され、その精製液である塩化銅溶液(塩化第二銅溶液)は排出路である排出管22を介して精製液貯槽3内に送られる。この精製液はその後ポンプP2により処理区域例えば炭酸銅の製造装置に送られる。
【0020】
そして予め吸着層21が吸着能力を十分発揮できる廃液の処理量を調べておき、その処理量に達したことを例えば時間管理により把握し、ポンプP1が停止する。次いで純水貯槽4内の純水がポンプP3により純水供給路である供給管41を介して精製塔2に洗浄液として送られ、吸着層21に吸着されている金属を洗浄して除去し、アニオン交換樹脂の吸着能力を回復させる。精製塔2から排出された洗浄液は排水貯槽5に送られ、この洗浄廃水はポンプP4により廃水処理設備に送られる。V1〜V9はバルブであり、精製塔2への廃液の供給と純水の供給との切り替えはバルブV2、V4により行われ、精製塔2からの精製液の送液と洗浄液の送液との切替はバルブV6、V7の切り替えにより行われる。
【0021】
このようにして得られた精製液である塩化銅溶液は、例えば銅メッキ材料(銅補給材)の原料として用いられる。銅メッキ材料としては例えば炭酸銅や酸化銅が挙げられ、炭酸銅を製造する場合には、塩化銅溶液と、炭酸イオンを含む水溶液例えば炭酸ナトリウム水溶液と、を混合して加熱し、その反応生成物を濾過分離しかつ洗浄することにより塩基性炭酸銅の粉体を得ることができる。また酸化銅を製造する場合には、塩基性炭酸銅の粉体を加熱して熱分解することにより得られる。
【0022】
上述の実施の形態によれば、塩化銅エッチング廃液中の鉄や亜鉛などの不純物金属が前記アニオン交換樹脂に吸着され、銅のほとんどは廃液中に残るので、塩化銅エッチング廃液の精製を良好に行うことができる。このため例えば銅メッキ材料の原料として有効に利用することができる。銅メッキ材料中に亜鉛や鉄が含まれていると、銅メッキ浴中にこれら不純物金属が蓄積されて銅メッキ処理に悪影響を及ぼすことから、本発明の手法は極めて有利である。
そしてこの実施の形態の精製手法は、アニオン交換樹脂に塩化銅エッチング廃液を接触させる処理であり、またアニオン交換樹脂の吸着能力が低下すると、例えば純水により洗浄してその吸着能力を回復することができるので、廃液の精製処理を簡易にかつ低いランニングコストにより行うことができる。
【実施例】
【0023】
以下に本発明の効果を確認するために行った実施例を記載する。各実施例の試験方法は、カラム内にアニオン(陰イオン)交換樹脂を既述のように充填して実験用の精製塔を構成し、容器内に満たされている塩化銅エッチング廃液をポンプを使ってカラム内に供給し続け、供給し始めてからの各経過時間、即ち通液時間(サンプリング時間)毎に、カラムから排出された液をサンプリングして分析することにより実施した。
(実施例1)
アニオン交換樹脂として、三菱化学社製の強塩基性アニオン交換樹脂である「DIAION(登録商標)PA316」を100mL分をカラムに充填し、塩化銅エッチング廃液をSV=1.5hr-1で通液させた。SVとは空間速度(Space Velocity)の略である。塩化銅エッチング廃液の組成としては、Cu濃度10.2%、遊離HCl濃度7.6%、Fe濃度320ppm、Zn濃度40ppmであり、pHは−1.3であった。また液の温度は60±2℃で管理した。カラムから排出された液を分析した結果を図2に示す。
(実施例2)
塩化銅エッチング廃液の組成が、Cu濃度8.6%、遊離HCl濃度1.5%、NaCl濃度9.3%、Fe濃度5ppm、Zn濃度43ppmであり、その液のpHは−0.5であり、温度を20±2℃で管理した他は、実施例1と同じようにして試験を行った。。カラムから排出された液を分析した結果を図3に示す。
(実施例3)
アニオン交換樹脂として実施例1と同じ樹脂を用い、50mL分をカラムに充填し、塩化銅エッチング廃液をSV=1hr-1で通液させた。塩化銅エッチング廃液の組成は、Cu濃度8.1%、遊離HCl濃度1%以下、NaCl濃度9.2%、Fe濃度48ppm、Zn濃度25ppmであり、液のpHは+1.0であった。液の温度は40±2℃で管理した。カラムから排出された液を分析した結果を図4に示す。
(実施例4)
アニオン交換樹脂として、ロームアンドハース社製の弱塩基性アニオン交換樹脂である「アンバーライト(登録商標)IRA96SB」を用い、その50mL分をカラムに充填し、塩化銅エッチング廃液をSV=1.0hr-1で通液させた。塩化銅液の組成は、Cu濃度11.2%、遊離HCl濃度8.2%、Fe濃度70ppm、Zn濃度40ppmであり、し、液のpHは−1.3であった。液の温度は20、40、50±2℃で管理した。カラムから排出された液を分析した結果を図5に示す。
(実施例5)
塩化銅エッチング廃液の組成が、Cu濃度8.1%、遊離HCl濃度1%以下、NaCl濃度9.2%、Fe濃度48ppm、Zn濃度25ppmであり、液のpHは+1.0であり、液の温度は40±2℃で管理した他は実施例4と同様にして試験を行った。カラムから排出された液を分析した結果を図6に示す。
(比較例)
カラムに充填する樹脂としてアニオン交換樹脂の代わりに強酸性カチオン(陽イオン)交換樹脂(三菱化学社製「DIAION(登録商標)SK1B」を用いた。この樹脂を200mL分をカラムに充填し、塩化銅エッチング廃液をSV=1.0hr-1で通液させた。塩化銅エッチング廃液の組成としては、Cu濃度10.1%、遊離HCl濃度7.6%、Fe濃度12ppm、Zn濃度46ppmであり、pHは−1.3であった。また液の温度は20±2℃で管理した。
【0024】
(試験結果及び考察)
実施例1に係る強塩基性アニオン交換樹脂を用いた結果である図2を見ると、サンプリング時間に拘わらずCu濃度は元の塩化銅エッチング廃液中の濃度と変わらず一定であるが、サンプリング時間が4時間まではつまり通液の経過時間が4時間まではFe及びZnの濃度は1ppm以下である。従って強塩基性アニオン交換樹脂を用いることで、Cuは樹脂にほとんど吸着されずに液中に残るが、Fe及びZnは樹脂に吸着されて除去されることが分かる。なおサンプリング時間が8時間以上のデータではZn濃度が高くなっており、この実験では樹脂が破過してZnの吸着能力が落ちていることが理解される。従ってこの場合には、4時間以内に樹脂を洗浄するようにして吸着能力を復帰させることで、精製工程を再開することができる。
【0025】
また実施例2に対応する試験結果である図3を参照すると、実施例1と同様にCu濃度は変化がないが、Fe濃度は実質ゼロである。なおZnについては、この実験だけからみれば若干残存していることになるが、他の実験結果を考慮すると、また8時間後のZn濃度に比べて16時間後のZn濃度が低くなっていることなどから、このデータは分析系の誤差であると考えている。
【0026】
そして実施例3に対応する試験結果である図4を参照すると、やはり実施例1と同様の結果であり、また弱塩基性アニオン交換樹脂を用いた実施例4、5の試験結果である図5及び図6を参照しても、実施例1と同様の結果である。従って弱塩基性アニオン交換樹脂あるいは強塩基性アニオン交換樹脂を用いれば塩化銅エッチング廃液を精製できることが裏付けられている。
本発明者は、実際に工業的レベルで精製プロセスを実施する場合には、処理の安定性を図る上でpHを1.0以下にすることが好ましいと考えており、この観点から、廃液のpHを+1に調整して試験を行っている。
また実施例3及び実施例5にて用いた塩化銅エッチング廃液について水酸化ナトリウムを添加し、pHを1.5に調整したところ沈殿物は見られなかったが、2.0にしたところ、沈殿物が見られた。この沈殿物は既述のように水酸化銅であり、従って本発明を実施する上で、廃液のpHは2未満のある値、例えば1.5にすれば実施でき、1以下にすることが好ましい。
【0027】
なお樹脂としてアニオン交換樹脂の代わりに強酸性カチオン交換樹脂を用いて同様の試験を行った場合(比較例)には、Fe及びZnの濃度は元の塩化銅エッチング廃液中の濃度と変わらず一定であった。従って強酸性カチオン交換樹脂を用いた場合には、Fe及びZnのいずれも樹脂に吸着されずに液中に残るため、塩化銅エッチング廃液の精製を行うことはできない。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明に係る塩化銅エッチング廃液の精製方法を実施するための装置の一例を示す構成図である。
【図2】本発明の効果を確認するために行った実験の結果を示す説明図である。
【図3】本発明の効果を確認するために行った実験の結果を示す説明図である。
【図4】本発明の効果を確認するために行った実験の結果を示す説明図である。
【図5】本発明の効果を確認するために行った実験の結果を示す説明図である。
【図6】本発明の効果を確認するために行った実験の結果を示す説明図である。
【符号の説明】
【0029】
1 塩化銅エッチング廃液貯槽
2 精製塔
21 弱塩基性アニオン交換樹脂からなる吸着層
3 精製液貯槽
4 純水貯槽
5 廃水貯槽

【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅材料をエッチングした後の塩化銅エッチング廃液を精製して塩化銅溶液を得る方法において、
前記エッチング廃液を、銅の水酸化物である固形成分が生成されないpH領域にて、弱塩基性アニオン交換樹脂または強塩基性アニオン交換樹脂に接触させることにより、不純物金属を前記樹脂に吸着させて除去し精製塩化銅溶液を得ることを特徴とする塩化銅エッチング廃液の精製方法。
【請求項2】
前記pH領域は1.5以下であることを特徴とする請求項1記載の塩化銅エッチング廃液の精製方法。
【請求項3】
不純物金属は鉄及び亜鉛であることを特徴とする請求項1または2記載の塩化銅エッチング廃液の精製方法。
【請求項4】
銅材料をエッチングした後の塩化銅エッチング廃液を請求項1ないし3のいずれか一つに記載の方法により精製して得られたことを特徴とする精製塩化銅溶液。












【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−283102(P2006−283102A)
【公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−103814(P2005−103814)
【出願日】平成17年3月31日(2005.3.31)
【出願人】(000215615)鶴見曹達株式会社 (49)
【Fターム(参考)】