説明

塩害検出装置

【課題】実際に使用されている監視対象の屋外配電線の設備における放電を事前に精度良く検出することのできる塩害検出装置を提供する。
【解決手段】鋭角な尖状部4aを有する一対の放電電極4Aを実際に使用されている碍子1に設けている。このことにより放電部位となる尖状部4a間の適切なギャップを現地の環境に応じて容易に設定でき、碍子1表面の汚損状況に応じた部分放電特性の調整が可能になる。そのため、実際に使用されている碍子1を塩害予測・監視用のセンサとして用いることができ、模擬碍子等によらないで実際に使用されている実機の碍子1が塩害による放電を生じうる状況を事前に精度良く検出することが可能になる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、屋外配電線を支持する支持碍子等の配電用機材に対し、塩害により発生する部分放電の発生を事前に検出する塩害検出装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、高圧配電線の電気的絶縁部材として碍子が広く使用されている。海岸に近い地域では、海上からの風によって海塩成分が運ばれ、碍子表面に塩分が付着し、降雨、結露等により塩分に水分が供給されると、碍子の表面抵抗値が急激に低下して碍子表面の耐フラッシュオーバー電圧が大幅に低下することにより表面漏洩電流が流れ、放電が発生し、最終的には表面閃絡が生じて停電に至ることがある。この局部放電は、強烈な発光事象(放電発光)を伴うとともに配電用機材の劣化、ひいては発火等の被害を及ぼし、公衆災害に至る場合がある。
【0003】
このような塩害に起因する放電発光及び公衆災害の発生を事前に予防するため、従来から定期的に碍子の清掃を行う等の対策が取られてきた。また、碍子の汚損状態を常時監視するものとして、碍子に流れる漏れ電流を検出することにより汚損状況を監視するものがある(例えば、特許文献1参照。)。
【0004】
また、監視対象の碍子と同一環境に監視対象の碍子より汚損されやすい模擬碍子を設置し、この模擬碍子の汚損状況を監視するものがある(例えば、特許文献2参照。)。
【特許文献1】特開平6−153374号公報
【特許文献2】特開平10−312723号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、従来の塩害予測・監視によると、地域や地形により塩害の発生状況が異なり、さらに同一地域でも気象変動等によって塩害の発生状況が異なることから、漏れ電流だけでは汚損を精度良く監視することができない。また、模擬碍子等を用いた汚損監視では、実際に使用されている碍子等の配電用機材の汚損状況と必ずしも一致しないため、塩害発生を精度良く検出することができないという問題がある。特に、強塩害地区では塩害による放電を十分に防止できない場合があり、顧客からの放電発光に起因する夜間通報に苦慮してきた。
【0006】
従って、本発明の目的は、実際に使用されている監視対象の屋外配電線の設備における放電を事前に精度良く検出することのできる塩害検出装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は上記目的を達成するため、塩害に基づく放電の事前予測を行う屋外配電線の設備と同一環境に設けられ、電気絶縁性に優れた素材で形成された碍子と、前記碍子の外周面に設けられ、前記塩害による汚損に基づいて前記碍子が有する放電電圧より小なる電圧で放電を生じる電極形状で形成された放電電極を有することを特徴とする塩害検出装置を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、実際に使用されている監視対象の屋外配電線の設備における放電を事前に精度良く検出することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
(第1の実施の形態)
図1は、本発明の第1の実施の形態に係る塩害検出装置を示し、(a)は塩害検出装置の概略構成図、(b)は放電電極の一部を示す平面図である。
【0010】
この塩害検出装置10は、図1(a)に示すように上部に高圧配電線を保持する電線保持部1Aを有し、磁器等の絶縁性材料で円筒状に形成される碍子1と、金属材料で形成されて支柱等への支持固定に用いる鍔部2Aを有するボルト部2と、ボルト部2に装着されるナット3およびワッシャー3Aと、円筒状の碍子1の外周面に環状に取り付けられる放電電極4と、放電電極4と導線5を介して接続される高圧電源6と、放電電極4における放電に基づく電流を導線5から検出する電流検出部7と、電流検出部7で検出された電流に基づいて部分放電の判定を行う判定部8とを有する。この塩害検出装置10では電流検出部7として変流器を用いている。
【0011】
放電電極4は、耐腐食性に優れるステンレス等の金属板をプレス加工等によって成形することにより形成されており、碍子1の外周面に巻き付け可能な長手方向のサイズを有している。第1の実施の形態では、塩害予測・監視を行う現地に既設で実際に使用されている碍子1に対し、全体がジグザグ形状をなすとともに鋭角な突部としての尖状部4aを有する一対の放電電極4Aを用意し、この一対の放電電極4Aの尖状部4aが所定のギャップ(間隔)をおいて対向するように碍子1の外周面上に一対の放電電極4Aを位置決めし、図1(b)に示す端部4bを溶接することによって一対の放電電極4Aを環状に巻きつけて固定している。尖状部4aの先端は隣接する尖状部4aと一定の距離wを有して設けられている。本実施の形態では、放電電極4を構成する金属板の厚さを1〜2mmとしており、尖状部4a間のギャップは現地の環境等によって異なるが、2〜10mmの間隔を有するように設けることが望ましい。
【0012】
この塩害検出装置10は、6.6kVの配電系統における塩害監視を行うにあたって高圧電源6から導線5を介して一対の放電電極4Aに単相400Vを印加する。碍子1に汚損を生じていない状態では碍子1に取り付けられた一対の放電電極4A間に電流は流れないが、碍子1に塩分が付着して汚損され、降雨、結露等により塩分に水分が供給されると、碍子の表面抵抗値が急激に低下して一対の放電電極4A間に放電が生じ易い状況が形成され、汚損が進行すると一対の放電電極4Aの尖状部4a間で部分放電が生じる。
【0013】
部分放電に基づく電流は電流検出部7で検出されて判定部8に出力される。判定部8は、予め設定されている電流値以上の値が検出されたときに塩害発生と判定する。
【0014】
(第1の実施の形態の効果)
上記した第1の実施の形態によると、鋭角な尖状部4aを有する一対の放電電極4Aを実機として実際に使用されている碍子1に設けているので、放電部位となる尖状部4a間の適切なギャップを現地の環境に応じて容易に設定でき、碍子1表面の汚損状況に応じた部分放電特性の調整が可能になる。そのため、実際に使用されている碍子1を塩害予測・監視用のセンサとして用いることができ、模擬碍子等によらないで実際に使用されている配電用機材(実機)の碍子1が塩害による放電を生じうる状況を事前に精度良く検出することが可能になる。
【0015】
そのため、例えば、実際に使用されている複数の碍子1に対し、一対の放電電極4Aに設けられる尖状部4a間のギャップを異なる値で段階的に設定したグループを構成し、各グループについて部分放電に基づく電流を監視することによって、塩害による放電の事前予測だけでなく、汚損の進行状況を把握するシステムに適用することもできる。
【0016】
放電電極4の構造として、第1の実施の形態では金属板をジグザグ状にプレス加工した放電電極4を説明したが、汚損が運ばれる風向に合わせて放電部位を設けることができるものであれば他の構成であっても良く、例えば、くし型状あるいは鋸刃状の鋭利な突部を有する一対の放電電極4Aを用意し、突起同士が所定のギャップを有するように配置されるものであってもよい。これによって、碍子1の表面の湿潤状態を制御するといった特殊な機能を保持させることなく、放電電極4で容易に放電を発生させることが可能となる。
【0017】
なお、第1の実施の形態では、一対の放電電極4Aからなる放電電極4を碍子1の表面に設けた構成を説明したが、放電電極4Aは少なくとも2つ設ければ尖状部4a間に放電を発生させることが可能であるので、2つ以上の放電電極4Aからなる放電電極4を構成しても良い。この場合には放電部位が増加するので、塩害に基づく部分放電の検出感度が向上する。
【0018】
また、汚損の著しい地区においては、一対の放電電極4A間に汚損が蓄積される場合があるため、一対の放電電極4Aと碍子1とが直接接触することなく一定の隙間を有して配置される構造を適用することにより汚損の蓄積等による検出精度の低下を回避することができる。
【0019】
第1の実施の形態では、電流検出部7として変流器を用いているが、変流器に限定されず、部分放電を直接的または間接的に検出可能な他の構成であってもよい。
【0020】
また、第1の実施の形態では、塩害予測・監視を行う現地で実際に使用されている実機としての碍子1に放電電極4を設ける構成を説明したが、監視対象の碍子や電線等の機器の近傍に上記した放電電極4を有するパイロット碍子を設けて塩害検出を行うことも可能である。この場合、パイロット碍子は監視対象の碍子と同一の材料構造を有するものを用いることがより好ましい。
【0021】
(第2の実施の形態)
図2は、本発明の第2の実施の形態に係る塩害検出装置を示す概略構成図である。以下の説明において、第1の実施の形態と同一の構成および機能を有する部分については同一の符号を付している。
【0022】
この塩害検出装置10は、第1の実施の形態で説明した放電電極4Aに代えて、耐腐食性に優れるステンレス等の金属板からなり、先端部分に尖状部4aを有する電極片40と、一定の間隔を有して平行に配置される電極片40を連結する連結部41とを有する一対の放電電極4Bによって放電電極4を構成している点で相違しており、放電電極4が碍子1の外周面に環状に固定されている構成において共通している。
【0023】
図3は、第2の実施の形態に係る放電電極を示し、(a)は放電電極全体を示す図、(b)は(a)のA方向から見た放電電極の一部を示す図、(c)は(a)のB方向から見た放電電極の一部を示す図である。
【0024】
電極片40は、図3(a)に示すように隣接する電極片40と一定の距離wを有して隔てられた状態で連結部41に溶接によって固定されており、長辺方向の一端を尖状に加工した尖状部4aを有している。そのため、尖状部4aの先端も一定の距離wを有して設けられる。
【0025】
この放電電極4Bは、碍子1の外周面に固定されたとき、図3(b)に示すように電極片40が碍子1の外周面に密接し、連結部41と碍子1との間に隙間dを生じることから、電極片40の間に汚損を生じにくく、かつ汚損を生じても降雨等による洗浄性が良好となるような構成を有している。なお、図3(b)においては説明の便宜上、碍子1の部分を平面状に図示している。
【0026】
電極片40は、図3(c)に示すように尖状部4aの先端に向かうにつれて厚みが小になる楔状に形成されている。
【0027】
(第2の実施の形態の効果)
上記した第2の実施の形態によると、第1の実施の形態の好ましい効果に加えて、電極片40が一定の距離wを有して隔てられた状態で連結部41に固定された放電電極4を用いることにより、耐汚損性に優れ、かつ汚損物質の洗浄性に優れた構成とすることができる。
【0028】
(第3の実施の形態)
図4は、本発明の第3の実施の形態に係る塩害検出装置を示す概略構成図である。
【0029】
この塩害検出装置10は、第2の実施の形態で説明した放電電極4Bに代えて、先端部分に尖状部4aを有する電極片40を連結部41の外側に固定し、連結部41と碍子1との間に電極支持部42を設けた一対の放電電極4Cによって放電電極4を構成している点で相違しており、放電電極4が碍子1の外周面に環状に取り付けられる構成において共通している。
【0030】
図5は、第3の実施の形態に係る放電電極を示し、(a)は放電電極全体を示す図、(b)は(a)のA方向から見た放電電極の一部を示す図、(c)は(a)のB方向から見た放電電極の一部を示す図である。
【0031】
電極片40は、図5(a)に示すように隣接する電極片40と一定の距離wを有して隔てられた状態で連結部41の碍子側とは反対側の外側に溶接によって固定されており、長辺方向の一端を尖状に加工した尖状部4aを有している。そのため、尖状部4aの先端も一定の距離wを有して設けられる。
【0032】
この放電電極4Cは、碍子1の外周面に固定されたとき、図5(b)に示すように電極支持部42によって連結部41と碍子1との間に隙間dを有するように配置される。電極支持部42は連結部41に溶接によって固定されており、連結部41、電極片40とともに一体化された構成を有する。電極片40は図5(c)に示すように折り曲げ部40Bで碍子1側に折り曲げられており、そのことによって尖状部4aが碍子1の外周面に接触した構成を有するので、電極片40の間に汚損を生じにくく、かつ汚損を生じても洗浄性が良好となるような構成を有している。なお、図5(b)においても説明の便宜上、碍子1の部分を平面状に図示している。
【0033】
第3の実施の形態においても、電極片40は、図5(c)に示すように尖状部4aの先端に向かうにつれて厚みが小になる楔状に形成されている。
【0034】
(第3の実施の形態の効果)
上記した第3の実施の形態によると、第2の実施の形態の好ましい効果に加えて、耐汚損性、汚損物質の洗浄性のより向上した構成とすることができる。
【0035】
なお、本発明は上記した各実施の形態に限定されず、本発明の技術思想を逸脱あるいは変更しない範囲内で種々な変形が可能である。
【0036】
例えば、上記した塩害検出装置は実際に使用されている碍子1を監視対象とするものであるが、碍子に限定されず電線等の屋外配電線の設備に適用することができる。
【0037】
また、放電電極4についても碍子1の外周面に一対の放電電極4A〜4Cを環状に装着するものに限定されず、風向によって死角を生じることがないように外周面に分散して複数箇所に設けられるものであっても良い。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】図1は、本発明の第1の実施の形態に係る塩害検出装置を示し、(a)は塩害検出装置の概略構成図、(b)は放電電極の一部を示す平面図である。
【図2】図2は、本発明の第2の実施の形態に係る塩害検出装置を示す概略構成図である。
【図3】図3は、第2の実施の形態に係る放電電極を示し、(a)は放電電極全体を示す図、(b)は(a)のA方向から見た放電電極の一部を示す図、(c)は(a)のB方向から見た放電電極の一部を示す図である。
【図4】図4は、本発明の第3の実施の形態に係る塩害検出装置を示す概略構成図である。
【図5】図5は、第3の実施の形態に係る放電電極を示し、(a)は放電電極全体を示す図、(b)は(a)のA方向から見た放電電極の一部を示す図、(c)は(a)のB方向から見た放電電極の一部を示す図である。
【符号の説明】
【0039】
1…碍子、1A…電線保持部、2…ボルト部、2A…鍔部、3…ナット、3A…ワッシャー、4…放電電極、4A〜4C…放電電極、4a…尖状部、4b…端部、5…導線、6…高圧電源、7…電流検出部、8…判定部、10…塩害検出装置、40…電極片、40B…折り曲げ部、41…連結部、42…電極支持部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩害に基づく放電の事前予測を行う屋外配電線の設備と同一環境に設けられ、電気絶縁性に優れた素材で形成された碍子と、
前記碍子の外周面に設けられ、前記塩害による汚損に基づいて前記碍子が有する放電電圧より小なる電圧で放電を生じる電極形状で形成された放電電極を有することを特徴とする塩害検出装置。
【請求項2】
前記放電電極は、前記碍子の外周面に環状に巻き付け可能な長手方向のサイズを有し、前記長手方向に所定の距離をおいて複数の鋭利な突部が配置されていることを特徴とする請求項1記載の塩害検出装置。
【請求項3】
前記放電電極は、前記碍子の外周面との間に一定の隙間を有して環状に固定されることを特徴とする請求項1記載の塩害検出装置。
【請求項4】
前記放電電極は、前記碍子の外周面に環状に装着される一対の放電電極からなり、前記一対の放電電極は複数の鋭利な突部を有して前記複数の突部が一定の間隔をおいて対向配置されるように前記碍子の外周面に固定されていることを特徴とする請求項1記載の塩害検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−175699(P2008−175699A)
【公開日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−9646(P2007−9646)
【出願日】平成19年1月18日(2007.1.18)
【出願人】(000003687)東京電力株式会社 (2,580)
【出願人】(501304803)株式会社ジェイ・パワーシステムズ (89)
【Fターム(参考)】